老いの途中で・・・

人生という“旅”は自分でゴールを設定できない旅。
“老い”を身近に感じつつ、近況や色々な思いを記します。

認知バイアス  その⑥  ~行動経済学に関連する事項~

2019年06月30日 20時44分49秒 | 法則/心理効果・現象など
(今日で6月も終わり、早くも今年の半分が過ぎたことになりますが、暫く続いた認知バイアス関係の書き込みも一応これで一区切りとなります)

 従来の経済学では、“人間は自己の利益を最大化させようと合理的に行動する”と言う事が前提になっていました。
 しかし、最近の心理学を踏まえた研究では、そうではなくて、人の行動は合理的ではない心理的な作用に大きく影響を受けるということが判ってきています。

 この原因としては認知バイアスが考えられており、この傾向などを研究しているのが行動経済学とよばれていて、従来の経済学と心理学が合体した分野です。

この一例を挙げて見ましょう。

(A) 現在志向バイアス(現在バイアス)
 先に見たように、将来の長期的な利益と現在の短期的な利益をはかりにかけると、将来の利益を軽く、現在の利益を重く感じる心の働きをいいます。
即ち、お金をもらえるとして、「今10万円をもらうか、来年15万円をもらうかを選択できる」ような場合に、多くの人は現在の10万円を選択する傾向にあります。

(B)アンカリング効果(Anchoring effect)
 本当の価値とは関連の薄い情報を、(ちょうど船の「錨」のように)固定的な判断基準にしてしまうことです。
最初に印象に残った数字や物が後の判断に影響を与える傾向。

 主にマーケティングで利用されているバイアスであり、通販番組で「限定〇〇個」や「通常価格〇〇円⇒特別価格〇〇円」といった表記がされている時は、大抵このアンカリングによる購買意欲の刺激を狙ったものです。

 これに加えて、“さらに!!”とか“今だけ!!”というような煽るような言葉が付けば、相乗効果は倍増されるでしょう。


(C)フレーミング効果(Framing effect)
 同じものでも見せ方によって印象が大きく変わるという心理効果のことです
代表例は松竹梅の法則というものがあります。

 これは、値段が異なる3種類の商品が並んでおり、それぞれの商品について性能の違いが判断できない場合、人は中間の値段の商品を選ぶ傾向にあります。これを「極端の回避性(松竹梅の法則)」といいます。
人が極端な選択肢を回避しようとする特性によるものです。


(D)メンタル・アカウンティング(Mental Accounting)
 使い道や出所といった主観的な判断基準に従って、お金の取り扱い方を変えるようです。
即ち、人は心の中にいくつかの会計勘定(アカウンティング)を持っていて、「あぶく銭は散財してもかまわない」、「給料は大切に使う」というように、お金の入手方法に応じて、お金を仕分けする心理傾向があるようです


(E)プロスペクト理論(Prospect theory)
 「目の前に提示されたものの損失の度合いにより、人の意思決定は変化する」というもので、人間は目の前に利益があると、利益が手に入らないというリスクの回避を優先し、損失を目の前にすると、損失そのものを回避しようとする傾向(損失回避性)があるということである。


(F)保有効果(Endowment effect)
 自分が所有するものに高い価値を感じ、手放したくないと感じる心理現象のことをいいます。


 以上、色々な認知バイアスを取り上げましたが、物事に対して本当に冷静な判断をすることが本当に難しいものなのが改めて判りました。

 こうなれば、開き直ってバイアス効果を認識しながら、自分の価値基準で判断して行くしか仕方ないのでしょうか。(まさ)

認知バイアス  その⑤  ~現在バイアス(現在志向バイアス)~

2019年06月29日 20時39分14秒 | 法則/心理効果・現象など
 いよいよ問題の現在バイアス(Present Bias)(或いは現在志向バイアス)です。

 上記の その② ~自分が可愛い/楽したい~ の代表的な例であると共に、後述の行動経済学で最も取り上げられるバイアスです。

 2002年にノーベル経済学賞を受賞した米国のダニエル・カーネマン博士が主張したバイアスで、将来の長期的な利益と現在の短期的な利益をはかりにかけると、将来の利益を軽く、現在の利益を重く感じる心の働きを言います。
 即ち、我々は未来の大きな利益の可能性よりも、目の前にある小さな利益の現実を重視する傾向があり、“近視眼性”と呼ばれることもあります


 私が、このバイアスをわざわざ別枠で取り上げるのは、このバイアスが個人レベルや経済活動のレベルに大きな影響を与えているだけでなく、最近では政治的目的の為に組織的にも利用されているからです。

 例をあげると、
<日本の場合>
大幅な財政赤字の継続にも拘わらず、政治家は有権者に不評を買う財政改善策には極端に消極的で、逆に財政健全策に逆行する様々なバラマキ施策で有権者に対して、“あなたの今の利益を尊重します”と目先の利益を約束して、選挙での勝利だけを最大目標とする政治が長期にわたって行われています。

<海外でも>
・英国の欧州連合(EU)離脱決定や、米国のトランプ大統領の政策などは、そのお手本でしょう。
・特に、トランプの「アメリカ・ファースト」や、欧米各国で台頭する反移民政策などは、このバイアスの代表でしょう。


 要するに、選挙に勝利することが最大の目的であり、
・色々な政策を掲げる際にはそのマイナス要因を隠ぺいしたままで(或いはオープンにしない)
・先人達が努力して積み重ねてきた合意過程や実績は無視し、
・更に将来の子供たちの世代の事をまったく考慮せず、
あくまで現在の有権者の現在バイアスに訴える政策を掲げる事が横行しています。

 正に、現在バイアスを利用して、現在の有権者の利益(?)を守るような政策を前面に打ち出すことで、自分達の選挙での勝利を最大目的とし、人間としての英知を集めた蓄積である過去と、子どもたちの将来である未来を分断してしまうような恥かしい政治がまかり通る事態になっています。

 将来に置いて、このような政治が非難されるような事態が起こっても、“その政策を有権者が同意したから推進した”との言い訳で責任を逃れることは想像できます。正に民主主義制度の悪しき利用なのです。

 このように、現在バイアスに訴えれば、大衆の共感や支持も集めやすくなりますし、更にこれと先に<その②>で述べた内集団バイアスを組み合わせると、国民の多数が選んだ民主主義の成果という美名の下に、大衆迎合主義(ポピュリズム)の流れが容易に出来るでしょう。(まさ)

認知バイアス  その④  ~結果から判断~ 

2019年06月27日 19時25分28秒 | 法則/心理効果・現象など
 これも結構陥り易い思考でしょう。
誰しもが周囲にこのタイプの嫌な人が居ることを思い浮かべることと思います。

(A)後知恵バイアス(Hindsight bias)
 後知恵バイアスとは、結果が予測可能なものだったと後から思い込む効果のことです。 何かの結果を見た時に、「やっぱりこうなると思った」とよく思う、

 特に考えて決めたわけでもない決断の後から起こった結果を自分の予想通りだと思い込む性質が後知恵バイアスです。 自分の考えや予想は当たるのだと自信過剰になっている人は、この心理効果がはたらいているかもしれないので注意が必要です。

(B)信念バイアス
 信念バイアスとは、結果が正しければ過程もすべて正しい、と思い込む効果、またはその逆の効果のことです
 人は過程よりも結果を非常に重視するため、その結果に引っ張られて過程も評価されるようです。
(まさ)

認知バイアス  その③  ~変化や異常を嫌う、リスクは取りたくない~

2019年06月26日 20時07分58秒 | 法則/心理効果・現象など
 これも良くある心理で、頷かれる方も多いかと思います。

(A)正常性バイアス(Normalcy bias)
 正常性バイアスとは、自分の周りに異常事態が発生した時に、それを日常生活の延長だと思いこみ「大丈夫」「問題ない」と考えてしまうバイアスのことです

 人は周りの異常に対して日常の延長に過ぎないと思い込み、心のストレスを回避する心理特性を持っています。 先ほども説明したように、身の回りの変化に全て反応しているとエネルギーを消費してしまうためです。 実は地震や津波などの災害が発生した時に多くの人が逃げ遅れてしまうのは、この正常性バイアスが原因とも言われています。


(B)現状維持バイアス(Status quo bias)
 人が現状を維持し、変化を嫌う心理のことを指します。
人は変化することで損をしてしまうリスクを回避しようとして、現状維持するのです。
人間は普通、自分が知らない物よりも、知っている物の方を好みます

 この(A)と(B)が合わさると、所謂「茹でガエル現象」になるのかも知れませんね。


(C)バンドワゴン効果(Bandwagon effect)
 「勝ち馬効果」とも呼ばれますが、人は多数派が支持しているものを正しいと思いやすい心理効果のことを指します。
 選挙でよく見られるバイアスで、マスメディアの選挙予測情報などで特定の候補者が有力であると報道されると、その候補者対して更に票が集まりやすい傾向がありますが、これは自分の投票を死票にしたくないという気持の表れでもあるでしょう。

 要するに、自分が十分な情報を持っていない事柄に対して、評価や判断基準を多数意見に委ねようとする心理が働いています。


(D)自制バイアス(Restraint bias)
 自分が持っている誘惑に打ち勝つ力を過信してしまいがちです


(E)ギャンブラーの誤謬(ごびゅう)(Gambler's fallacy)
 人は過去の結果がその後の結果に影響を与えると強く思い込んでしまう心理のことを指します。
最も有名な例がコイントスです。 コインを投げて、表と裏を当てるゲームをやっていたとします。 もしここまで4回投げて全部裏が出ていたら、次は何が出ると思いますか? 「ずっと裏が出ていて、表とうらは2分の1だから、次は面が出そう」などと思ってしまいませんか? 実際は、1回のコイントスで表と裏が出る確率は常に2分の1です。 しかし人はそれまでの結果を気にして、あたかも次は表が出やすいかのように感じてしまうのです

 私なんかも、このバイアスのお陰で、“もうソロソロ”と思い続けて、当りもしない宝くじを買い続けています。
即ち、確率よりも「馬券と宝くじは買わないと当たらない」という格言(?)を信じているのでしょう。


 このように個人が損失を覚悟するのなら「仕方ない!」或いは「アホやなあ!」で済むのですが、認知バイアスにはもっと大きな危険が潜んでいます。

 即ち、2017年12月に博多発の「のぞみ」で、乗務員が異常音と異常臭に気付きながらも運転を続け、名古屋で運転打ち切り後のチェックで大事故に繋がる恐れがある台車枠の亀裂が見つかる事態がありました。

 異常を認識しながらの、継続運転が大きな問題となった問題で、今年3月末に運輸安全委員会が調査報告書を公表しましたが、この報告書の中で、上記の“正常バイアス”と、<その②>で触れた“確証バイアス”が大きな要因という言葉が使われていました。(まさ)

認知バイアス  その②  ~自分が可愛い/楽したい~ 

2019年06月25日 20時48分08秒 | 法則/心理効果・現象など
 先ずは、人誰しもが程度の差こそあれ良く抱く感情で、私にも思い当たる所が多々あります。
「自分は間違っていない(他の人の方がおかしい)」「自分はこれだけ頑張っているのに」とか思うだけでなく、状況判断に関しては自分の思い込んでいる物差しを使いたいものなのです。

(A)確証バイアス(Confirmation bias)
 人は自分が正しいと思うことを肯定する情報のみを目に留め、集めてしまう現象のことです。
この行動に働く心理としてよく言われているのは、“自分の考えや意思決定を正しいと思って安心したい”というものですが、その根底には自分の意思を覆さずに楽に意思決定しようという脳のはたらきがあるようです。

(B)内集団バイアス(Ingroup bias)
 集団の外にいる人よりも集団内にいる人を贔屓し、優遇し、高く評価してしまう心理のことを指します。
集団への帰属意識が強ければ強いほど顕著に現れます。 そしてこの心理効果は差別行動の原因の一つとされています

(C)対応バイアス(Correspondence bias)(根本的な帰属の誤りFundamental attribution errorとも呼ばれます)
 人間は人の行動を根拠なくその人の「種類」によって決定されていると見る傾向があり、社会的かつ状況的な影響を軽視する傾向がある。また、自身の行動については逆の見方をする傾向があります。
 例えば、自分自身に起こった悪いことは状況のせいにする一方で、他人のみに起こった悪いことはその人本人のせいであると思い込みやすい心理効果のことを指します

(D)自己奉仕バイアス(Self-serving bias)
 物事が成功した時は自分の功績だと感じやすく、失敗した時は他人や自分以外のせいだと思いやすい心理性質のことです
 人は自尊心を保つために、自分の失敗をなるべく無くしたいという根源的な欲求があります

(E)感情バイアス(Emotional bias)
 感情バイアスとは、自分が抱いている感情に引っ張られることで、情報の解釈や判断を誤ってしまうことです。自分の都合のように解釈してしまいがちです。
 即ち、人間は一般に以下のようにする傾向があると言われています。
・たとえ相反する証拠があっても、心地よい感覚をもたらす肯定的な感情効果のあることを信じたがる。
・好ましくない、或いは精神的苦痛を与えるような厳しい事実を受け入れたがらない

(F)可用性ヒューリスティック(Availability heuristic)
 人は手に入れやすい情報や、想起しやすい情報を優先して判断材料に用いてしまうという心理効果のことです。

※「現在バイアス(現在志向バイアス)」はこの分類の代表例ですが、非常に大きなテーマですので、別項で取り上げたいと思います。

(まさ)