最高裁判所裁判官の暴走を許さない

最高裁判所裁判官の国民審査は、衆議院選挙の時の「ついでに」ならないようにしましょう。辞めさせるのは国民の権利です。

共有名義の土地の買い取り、その土地の固定資産税計算方法

2020-03-31 14:27:02 | 日記
平成31(行ヒ)99  不動産取得税賦課決定処分取消請求事件
令和2年3月19日  最高裁判所第一小法廷  判決  破棄自判  大阪高等裁判所
 固定資産評価基準により隣接する2筆以上の宅地を一画地として画地計算法を適用する場合,各筆の宅地の評点数は,その適用により算出された当該画地の単位地積当たりの評点数に,各筆の宅地の地積を乗ずることによって算出される

報道がなかったので、判決文から事実認定を見ていきます。
1 Aさんは、土地を持っていました。その土地は共同所有で、自分以外が持っていた分を買い取りました。その土地に税務署が課税額を計算して納税せよと通知を寄越しましたが、Aさんは税金を払う前に死んでしまいました。
地方税法73条の7
第七十三条の七 道府県は、次に掲げる不動産の取得に対しては、不動産取得税を課することができない。
二の三 共有物の分割による不動産の取得(当該不動産の取得者の分割前の当該共有物に係る持分の割合を超える部分の取得を除く。)
この法律を元に税金は払わなくてよいはずだと訴えました。

地裁では
(2)ア A及び被上告人は,平成25年3月に死亡したBからの遺贈により,分筆前の堺市▲区▲町▲番▲の土地(以下「分筆前土地」という。)の持分各2分の1を取得し,その旨の所有権移転登記がされた。
イ A及び被上告人は,分筆前土地の共有物分割を行うこととし,平成26年11月11日,分筆前土地を第1審判決別紙物件目録記載1及び2の各土地に分筆する登記をした上,同月30日,本件土地1についてはAが被上告人の持分全部を取得し,本件土地2については被上告人がAの持分全部を取得して,同年12月1日,その旨の各持分全部移転登記をした。
ウ 本件各土地の形状及び位置関係は,第1審判決別紙図面のとおりである。本件各土地は,上記の分筆の前から,構造物等により物理的に区分されておらず,連続して舗装され,隣地との間の塀及びフェンスや駐車区画の一部が両土地にまたがって設けられるなどして,全体が駐車場として一体的に利用されている。


土地を2筆に分けてありましたが、実態としてきちんと分けておらず目印になるようなものもなかったようです。区分されたものなのか共有されているものなのかよく分からんということのようです。

(3) 大阪府知事から権限の委任を受けた大阪府泉北府税事務所長は,本件土地1が本件取得時において固定資産課税台帳に価格が登録されていない不動産であったことから、計算して本件取得には持分超過部分の取得が含まれるとして,平成27年11月5日付けで,Aに対し,当該持分超過部分に係る課税標準額を決定しました。


最高裁はこれはに異を唱えました。
(1)ア 評価基準は,市街地宅地評価法により付設する各筆の宅地の評点数は一画地の宅地ごとに画地計算法を適用して求めるものとし,この場合において,一画地は,原則として,土地課税台帳又は土地補充課税台帳に登録された1筆の宅地によるものとする。その例外として,1筆の宅地又は隣接する2筆以上の宅地について,その形状,利用状況等からみて,これを一体を成していると認められる部分に区分し,又はこれらを合わせる必要がある場合においては,その一体を成している部分の宅地ごとに一画地とするものとしている。

2筆ある土地が明確に区分されていない状態で使われているので、一体化しているとみなしたようです。

イ 隣接する2筆以上の宅地を一画地として認定して画地計算法を適用する場合に,各筆の宅地の評点数をどのように算出するかについて,評価基準は明示的な定めを置いていない。

意外ですね。こういう事はしょっちゅうありそうなものです。田舎であれば、納屋と母屋と車庫があって大きな庭がって、かつ3筆ぐらいになっていても杭も打ってなければ塀もない、辛うじて立木があるかどうかなんて言うのは農村部なら当たり前のようにあります。中には測量してみたら他人の家が自分の土地にかかっていたことすらあるくらいです。

評価基準に定める画地計算法とは,街路に沿接する標準的な画地の単位地積当たりの価格を示す路線価を基礎として,当該街路に沿接する各画地について,それぞれの画地の奥行,接道の状況,形状等が宅地の価格に及ぼす影響を,標準的な画地のこれらの状況との比較において計量しようとするものであり,具体的には,一画地の宅地につき,路線価に当該画地の状況に応じた所定の補正率を乗じて単位地積当たりの評点数を求め,これに当該画地の地積を乗じて当該画地の評点数を求めるものとされている。・・・隣接する2筆以上の宅地を一画地として認定し,当該画地について画地計算法を適用する場合において,算出された当該画地の単位地積当たりの評点数は,当該画地全体に等しく当てはまるものと解するのが相当である。

結論
評価基準により隣接する2筆以上の宅地を一画地として認定して画地計算法を適用する場合において,各筆の宅地の評点数は,画地計算法の適用により算出された当該画地の単位地積当たりの評点数に,各筆の宅地の地積を乗ずることによって算出されるものというべきである。

上記の本件土地1の価格について,評価基準の定める評価方法に従って決定される価格を上回る違法があるとはいえないし,その客観的な交換価値としての適正な時価を上回る違法があるというべき事情もうかがわれないから,これを基礎としてされた本件処分に違法はない。


第一小法廷判決
裁判長裁判官 山口 厚
裁判官 池上政幸
裁判官 小池 裕
裁判官 木澤克之
裁判官 深山卓也

何かよくわかりませんね。
弁護士費用入れたら、さっさと全部払ってしまった方が安かったかも。

一度結婚したら性別変更はできない

2020-03-29 08:15:08 | 日記
令和1(ク)791  性別の取扱いの変更申立て却下審判に対する抗告棄却決定に対する特別抗告事件
令和2年3月11日  最高裁判所第二小法廷  決定  棄却  大阪高等裁判所
 性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律3条1項2号は,憲法13条,14条1項,24条に違反しない。

東京新聞の報道です。
性別を変更する際、結婚していないことを要件の一つとした性同一性障害特例法の規定が、幸福追求権などを定めた憲法に反するかどうかが争われた裁判の決定で、最高裁第2小法廷(岡村和美裁判長)は、違反しないとの初判断を示した。
 「規定は『既婚者の性別変更を認めた場合、異性同士にだけ婚姻が認められている現在の婚姻秩序に混乱を生じさせかねない』といった配慮に基づくもので合理性がある」とした。決定は11日付。
 その上で、結婚後に女性への性別適合手術を受け、戸籍上の性別を男性から女性に変えるよう審判を申し立てた京都市の経営者の特別抗告を棄却した。


一度結婚したら、どっちかが男か女か変更は認められませんという基準がおかしいと訴えです。

一枚で終わりの判決文です。
性同一性障害者につき性別の取扱いの変更の審判が認められるための要件として「現に婚姻をしていないこと」を求める性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律3条1項2号の規定は,現に婚姻をしている者について性別の取扱いの変更を認めた場合,異性間においてのみ婚姻が認められている現在の婚姻秩序に混乱を生じさせかねない等の配慮に基づくものとして,合理性を欠くものとはいえないから,国会の裁量権の範囲を逸脱するものということはできず,憲法13条,14条1項,24条に違反するものとはいえない。このことは,当裁判所の判例(最高裁昭和28年(オ)第389号同30年7月20日大法廷判決・民集9巻9号1122頁,最高裁昭和37年(オ)第1472号同39年5月27日大法廷判決・民集18巻4号676頁,最高裁平成26年(オ)第1023号同27年12月16日大法廷判決・民集69巻8号2586頁)の趣旨に徴して明らかである。論旨は理由がない。

LGBTは奥が深いですよ。
バイセクシャルの場合は、本当に両方性の対象として意識するらしいです。だから、最初の結婚は男として女性を愛したものの、違和感がありすぎて離婚するケースは多々あるようです。結婚後に気づくこともあるそうです。なので、こういった曖昧な状況においてはこういうことはあり得るようです。
とは言え、結婚ではなくても養子縁組の形で婚姻関係に準ずる法的な関係を結ぶことができるのであって、敢えて結婚するために性別の扱いの変更を認めろというのはどうかと思います。場合によっては、子供が生まれた場合は母同士で子供を産んだことになりますし、近親相姦を防止するためにも染色体レベルで登録するのが妥当だと思います。
どうしてもというのであれば法改正でやるべき話でしょうが、私自身としては優先順位は最下位レベルだと思います。

第二小法廷
裁判長裁判官 岡村和美
裁判官 菅野博之
裁判官 三浦 守
裁判官 草野耕一

全員一致でした。

児童ポルノ禁止法の改正は遡及法ではない

2020-03-28 08:49:14 | 日記
平成30(あ)1757  児童買春,児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律違反,強制わいせつ,徳島県青少年健全育成条例違反,東京都青少年の健全な育成に関する条例違反被告事件
令和2年3月10日  最高裁判所第三小法廷  判決  棄却  広島高等裁判所

 児童買春,児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律違反,強制わいせつ,徳島県青少年健全育成条例違反,東京都青少年の健全な育成に関する条例違反被告事件

相変わらず何のことか分からない判決文なので、過去の経緯から説明していきます。
被告は未成年と性交したのでしょう。刑法が改正されて、恋愛関係であろうと18歳未満との性交は強制性交となりました。
法律が改正されるときは、一般に移行期間があります。にもかかわらず、性交したことで強制性交として起訴されました。

最高裁は
親告罪は,一定の犯罪について,犯人の訴追・処罰に関する被害者意思の尊重の観点から,告訴を公訴提起の要件としたものであり,親告罪であった犯罪を非親告罪とする本法は,行為時点における当該行為の違法性の評価や責任の重さを遡って変更するものではない。

移行期間内の事件なので、新し法律で裁くのはおかしいでしょうと言っています。罪刑法定主義から言ったら当然ですよね。

刑法を改正して強制わいせつ罪等を非親告罪とした本法の経過措置として,本法により非親告罪とされた罪であって本法の施行前に犯したものについて,本法の施行の際既に法律上告訴がされることがなくなっているものを除き,本法の施行後は,告訴がなくても公訴を提起することができるとした本法附則2条2項は,憲法39条に違反せず,その趣旨に反するとも認められない。

つまり前の法律に従うべきであって、被害があったと被害者からの訴えがないのに、裁判にかけるのはおかしいでしょう。だから、これは新しい法律は遡及法じゃないですよと言っています。
全員一致の判断でした。

第二小法廷
裁判長裁判官 宮崎裕子
裁判官 戸倉三郎
裁判官 林 景一
裁判官 宇賀克也
裁判官 林 道晴

やったことの是非はともかく、全員当然の判断でしょう。むしろこの移行期間が問題になるという方が不思議で、これが判例のデータベースに乗るのはもっと不思議です。もっと社会的に影響のあった判例も載せるべきなんじゃないですかね。

トンデモ判決京都地裁:放学処分隠し免職、京都府の処分取り消し

2020-03-26 07:04:29 | 日記
京都新聞の報道です。

「京大在学中に学生運動で放学処分」隠し免職、京都府の処分取り消し 京都地裁
 京都大在学中に学生運動に関わり放学処分を受けていたことを隠していたとして、京都府から分限免職処分を受けた元府職員の男性(29)が、府の処分の取り消しを求めた訴訟で、京都地裁(藤田昌宏裁判長)は24日、「裁量権の行使を誤った違法がある」として処分取り消しを命じた。
 判決によると、男性は京大在学中の2015年10月、キャンパス内の建物をバリケードで封鎖し授業を妨害する学生運動に関わったとして、16年に大学から無期停学処分を受けた。男性は17年4月、京大を「卒業見込」とする身上書を提出し、府職員に採用された。京大は、同年7月に男性を放学処分とした。府は、男性が大学の処分を報告せず、秘匿していたとして、同年9月に分限免職とした。
 判決理由で藤田裁判長は、男性の学生運動の関与は「府職員として採用される1年半以上も前で、府とは無関係」と指摘。その上で、大学の処分を秘匿していたことは「公務員としての適性を殊更に否定する事情とまではならない」とし、分限の理由に当たらないと結論付けた。
 府人事課は「当方の主張が認められず遺憾。弁護士と相談して控訴するか検討したい」とコメントした。


思想内容はどうであれ、学内の授業を妨害して放校処分になっています。
これは履歴書の偽造、私文書偽造(刑法159条)ですよね。2年後にばれたわけですが、これは十分の公務員としての資質に問題があります。
私文書偽造罪の時効は5年で、これは行為の終了時点から進行します。しかも、たった1年半ですよ。これを随分前の事じゃないかというには問題がありすぎます。
これは「明らかに法令の適用に著しい瑕疵がある」と上級審で言われる案件でしょう。これが認められるようであれば、履歴書の意味は全くなくなります。

注目裁判:嘱託社員の雇用継続命令

2020-03-18 08:36:10 | 日記
共同通信を引用したロイターの報道です。
 広告大手博報堂の嘱託社員だった女性が、無期雇用への転換を防ぐため雇い止めされたとして、同社に雇用継続と賃金支払いを求めた訴訟の判決で、福岡地裁(鈴木博裁判長)は17日、雇用継続と賃金支払いを命じた。
 訴状によると、女性は1988年から博報堂の九州支社で経理などに従事。2017年12月、契約は18年3月までで更新しないと会社側に告げられ、拒否したが雇い止めされたとしている。
 13年4月施行の改正労働契約法で、同じ企業に通算5年を超えて働く有期契約の労働者は、18年4月から無期契約への変更申請が可能になった。企業側は断ることはできない。


実に馬鹿な法律を作ったもんですよ。この判決に従えば、市役所の非常勤職員も強制的に公務員として採用せざるを得なくなります。法務省はどうするのでしょうね。嘱託職員をどのように扱っているのか、法務省の人事部長に公式見解を聞いてみたいものです。絶対クビにしてないよね?

多分最高裁まで行くのではないかと期待しています。ここははっきりして欲しいものです。

司法書士の手続きにミスでも訴えたのは依頼人ではないので賠償責任なし

2020-03-16 17:35:33 | 日記
平成31(受)6  損害賠償請求事件
令和2年3月6日  最高裁判所第二小法廷  判決  破棄差戻  東京高等裁判所
不動産の所有権移転登記の申請の委任を受けた司法書士に当該申請の委任者以外の者との関係において注意義務違反があるとした原審の判断に違法があるとされた事例

裁判所の事実認定から見ていきます。
その所有名義人であるAを売主,合同会社オンライフを買主とする売買契約・・・第一契約
オンライフを売主,被上告人を買主とする売買契約・・・第二契約
株式会社アルデプロを買主とする売買契約・・・第三契約
オンライフから中間省略登記の方法によるアルデプロへの所有権移転登記の申請が同時にされたが,前件申請について申請の権限を有しない者による申請であることが判明した後,後件申請は取り下げられた。


転売がすぐになされたので、登記に無駄なコストがかかるから中間を飛ばして最終の買主に名義を移しましょうとしたところ、オンライフが申請の権限を持っていなかったので申請を引っ込めたようです。その原因は司法書士がちゃんと調べていれば問題は起きなかったはずだとして、アルデプロが司法書士を訴えたようです。

イ Bは,弁護士であるCが設けた法律事務所の事務員である。
ウ 本件不動産の登記簿上の所有名義人は,平成27年8月当時,外国籍のAであり,Dは,Aの代理人を装っていた者である。

嫌な臭いがしますね。弁護士事務所に何年も勤務していると、実務的な知識を身に着けるのはいいのですが、実質的に書類を作ったり交渉をやってしまう事務所が少なからずあります。

(2)ア Aからオンライフに対し売り渡した上で(第1売買契約),オンライフから被上告人に対し代金6億5000万円で売り渡し(第2売買契約),更に被上告人からアルデプロに対し代金6億8100万円で売り渡すものとし(第3売買契約),これらに係る契約書の調印及び代金決済を同年9月10日に行うことを合意した。不動産仲介業を営む株式会社アーガスは,被上告人から依頼を受け,報酬等を3100万円として第2売買契約の仲介をすることとなった。
イ オンライフ,被上告人及びアルデプロは,第2売買契約及び第3売買契約に係る所有権の移転については中間省略登記の方法によりオンライフからアルデプロに対する所有権移転登記(後件登記)を行う旨を合意した。なお,前件申請については,C弁護士がその委任を受けるものとされており,
ウ 上告人は,その後,オンライフ及びアルデプロから報酬を約13万円として後件申請の委任を受けた。上告人は,上記委任を受けた際には,前件申請がその申請人となるべき者による申請であるか否かについての調査等をする具体的指示を受けなかった。
(3)ア アルデプロの担当者,上告人,被上告人の代表者,アーガスの代表者,B,Aと称する者及びDは,平成27年9月7日午後2時,本件法律事務所において,前件申請及び後件申請に用いるべき書面の確認等が予定されている会合(以下「本件会合」という。)に出席した。上告人は,アルデプロから依頼を受けて本件会合に出席したものであり,C弁護士は本件会合に出席していなかった。
イ 本件法律事務所において別件印鑑証明書及び本件印鑑証明書のコピーを取ったところ,そのいずれにおいても「複製」の文字を確認することができなかった。そのため,Dが上記代金決済の日までに新たな印鑑証明書を持参するなどと述べ,他の出席者らはこれに対し異議を述べなかった。
ウ A名義のC弁護士に対する前件申請の委任状であってAが公証人の面前でこれに署名押印し公証人において旅券及び印鑑証明
書の提出により人違いでないことを証明させた旨の公証人の認証が付されたもの,C弁護士において本件法律事務所の会議室でAと面談したこと及びAが前件申請の権限を有する登記名義人であると認めた理由等を明らかにした旨の書面等を示され,これらの書面相互の整合性を形式的に点検するなどの確認をしたが,特段の指摘をしなかった。
エ Bは,平成27年9月8日,東京法務局渋谷出張所において,本件不動産について不正登記防止申出がないことを確認した。
(4) 契約書の調印等を行い,前件申請及び後件申請に用いるべき書面を確認した。上記書面の中には本件印鑑証明書が含まれていたが,同日,被上告人及びアルデプロは,この点を改めて指摘することなく,第2売買契約及び第3売買契約について代金決済をした。
(5) 上告人は,その後,上記出張所から,本件印鑑証明書が偽造であることが判明したこと等の説明を受け,平成27年10月16日,後件申請を取り下げた。前件申請は,同年11月17日付けで,申請の権限を有しない者による申請であるとして却下された。


地面師?にやられちゃった?弁護士は会話の中では見抜けなかったようです。

3 原審は,上記事実関係等の下において,次のとおり判断して,被上告人の請求を,上告人に対し3億2400万円及びこれに対する遅延損害金の支払を求める限度で認容した。
司法書士はそういった手続ききちんと注意してみるプロとしての義務があるんだから、印鑑証明偽造を見抜きなさいよという判断だったようです。

最高裁はこれに待ったをかけました。
(1) 司法書士法は,登記等に関する手続の適正かつ円滑な実施に資することにより国民の権利の保護に寄与することを目的として(1条),登記等に関する手続の代理を業とする者として司法書士に登記等に関する業務を原則として独占させるとともに(3条1項,73条1項),司法書士に対し,当該業務に関する法令及び実務に精通して,公正かつ誠実に業務を行わなければならないものとし(2条),登記等に関する手続の専門家として公益的な責務を負わせている。・・・当該登記申請がその申請人となるべき者以外の者による申請であること等を疑うべき相当な事由が存在する場合には,上記事由についての注意喚起を始めとする適切な措置をとるべき義務を負うことがあるものと解される。
ちゃんと調べて、これはおかしいですよと指摘するか辞任して取引を止める義務があると言っています。その上で、

委任者の不動産取引に関する知識や経験の程度,当該登記申請に係る取引への他の資格者代理人や不動産仲介業者等の関与の有無及び態様,上記事由に係る疑いの程度,これらの者の上記事由に関する認識の程度や言動等の諸般の事情を総合考慮して判断するのが相当である。
これまでの会合でのやりとりやら書類にコピーの跡が見られなかったことから、司法書士が判断するのは難しいのでは?と疑問を投げかけています。

(2) これを本件についてみると,前記事実関係等によれば,被上告人は,上告人と委任契約は締結しておらず,
この点は決定的ですね。

不動産仲介業者であるアーガスの代表者やアルデプロの担当者と共に本件会合に出席し,これらの者と共に印鑑証明書の問題点等を確認していたものであるし,印鑑証明書の食違いは上告人が自ら指摘したこともうかがわれる。
下級審の事実認定がおかしくないですか?と言ってます。

全員一致でしたが、裁判官草野耕一から補足意見がでました。
「職業的専門家」とは長年の研さんによって習得した専門的知見を有償で提供することによって生計を営んでいる者のことであり,「依頼者」とは職業的専門家と契約を締結して同人から専門的知見を提供する旨の約束を取り付けた者のことである。
言わんとすることは分からないでもないですが、「職業的専門家」とは長年の研さんによって習得したは不味いです。長年やっても駄目な人はいます。職業人として有料で仕事をする以上、最低限の基準はあるもので経験の有無の問題ではないと思います。これでは何年未満の業務経験は許されることになります。

職業的専門家が同人からの知見の提供を求めている者に遭遇した場合において,たとえその者が依頼者でなくとも当該職業的専門家は知見の提供をしなければならないという義務が肯定されるとすれば,知見を求める人々の側においてはわざわざ報酬を支払って依頼者となろうとする必要性が消失し,その結果として,職業的専門家の側においては安定した生活基盤の形成が困難となってしまうからである。
これは大いに納得です。タダで教えていたら商売あがったりです。

職業的専門家が依頼者以外の者に対して知見の提供を怠ったことを理由として法的責任を負うことは否定されてしかるべきである。
その通りです。契約の当事者でなければ賠償請求はないですよね。この場合は、仲介した会社を訴えるのであれば筋が通ります。
それでも以下の三点は例外として考えるべきだと言っています。
① 法的には依頼者でないにもかかわらず職業的専門家から知見の提供を受け得ると真摯に期待している者がいること。
② その者がそのような期待を抱くことに正当事由が認められること。
③ その者に対して職業的専門家が知見を提供することに対して真の依頼者(もしいれば)が明示的又は黙示的に同意を与えていること。


原判決の認定したところによれば本件会合に先立ってBは被上告人の代表者に対して自称Aの本人性を確認するために買主及び買主側司法書士に対して自称Aと面談する事前の機会を設ける旨発言している。これらの事実と本件会合に出席した司法書士は上告人だけであったことを併せて考えると,被上告人は,本件会合に出席した上告人が登記実務の専門家としての知見を用いて自称Aの本人性に関する助言を真の依頼者であるアルデプロはもとより被上告人に対しても行ってくれるものと真摯に期待し,そのことに対しては真の依頼者であるアルデプロも明示又は黙示の同意を与えていた可能性を否定し得ない。
おかしいと思うのであれば、教えてやってもいいんじゃない?でも、賠償義務につなげるようなものじゃないけどね、といったところでしょうか。でも、司法書士は見抜けなかったのですよね。だったら判決文に書くような話ではなく、説諭でいいんじゃないのと思いますけど。

裁判長裁判官 三浦 守 当然
裁判官 菅野博之 当然
裁判官 草野耕一 当然
裁判官 岡村和美 当然

訴えるなら中間の業者を訴えるべきでしたね。監査役の中に弁護士もいるようですが、何も言わなかったのでしょうか。

運送会社の従業員が職務中の運転で死亡事故、会社も賠償しなさい

2020-03-14 09:38:14 | 日記
平成30(受)1429  債務確認請求本訴,求償金請求反訴事件
令和2年2月28日  最高裁判所第二小法廷  判決  破棄差戻  大阪高等裁判所
 被用者が使用者の事業の執行について第三者に加えた損害を賠償した場合,被用者は相当と認められる額を使用者に求償することができる

Logistic Todayによると
死亡事故を起こした従業員が被害者遺族に対し、個人負担で1500万円の損害賠償を支払い、賠償後に福山通運に対して同額の支払いを求めたことが妥当か否か、というもの。運送会社が損害賠償を支払った後に従業員に負担を求める「求償権」に対し、従業員が賠償を支払った後に会社に負担を求める「逆求償権」が認められるかどうかを争った。
一般的に、運送会社は損害賠償保険に加入せず、賠償金を支払う必要がある場合にそのつど自己資金によって支払う「自家保険政策」を採用している会社が多いが、今回の事案を担当した菅野博之裁判官と草野耕一裁判官は、「通常の業務で生じた事故による損害については、従業員個人が負担すべき部分がわずかとなることが多く、これがゼロとすべき部分もあり得ると考える」と意見。重視すべきは従業員(個人)と会社(組織)の属性と双方の関係性にあるとした。
その理由について、「損害賠償を従業員の負担とした場合、著しい不利益をもたらす」のに対し、多数の運転手を雇用している会社側が負担する場合は「偶発的財務事象として合理的に扱うことができる」と説明。同じ賠償額でも従業員と会社では負担の感じ方が異なることを指摘した。これを踏まえ、福山通運が自家保険政策を採ったために、従業員は同社が損害賠償保険に加入していれば得られるはずの訴訟支援など受けられなかったとし、「福山通運が自家保険政策を採ってきたことは、本件における使用者(会社)と被用者(従業員)の関係性を検討する上で、使用者(会社)側の負担を軽減させる理由となる余地はなく、むしろ被用者側(従業員)の負担の額を小さくする方向に働く要素である」とした。


日経新聞の報道です。
民法715条は、被用者(従業員など)が仕事で第三者に損害を与えた場合、使用者(会社など)も賠償責任を負う「使用者責任」を定めている。従業員の活動で利益を得ている以上、そこから生じた損害についても責任を負うべきだとの考え方に基づくものだ。
第2小法廷は判決で「715条の趣旨からすれば、使用者は第三者に対する賠償義務だけでなく、被用者との関係でも損害を負担する場合がある」と判断。どちらが先に被害者に賠償したかによって、会社の負担の大きさが異なるのは相当でないと結論づけた。
17年9月の一審・大阪地裁判決は「雇用主も相応の責任を負うべきだ」として逆求償の権利を認め、福山通運に約840万円の支払いを命じた。しかし18年4月の二審・大阪高裁判決は「本来は従業員が全額の賠償責任を負うべきだ」との考え方から逆求償を認めず、原告側の逆転敗訴とした。今回の判決で第2小法廷は大阪高裁判決を破棄、負担額算定のため審理を同高裁に差し戻した。
草野裁判官(弁護士出身)と菅野博之裁判官(裁判官出身)は補足意見で、福山通運が保険に加入せずに自己資金で賠償する制度を採用していたことは経営判断と認めつつ、結果として女性が保険による支援を受けられなかったと指摘。こうした制度があることで会社の負担が軽くなるわけではないと述べた。


プロの運送会社で、運手個人に保険を払わせていたと?運転に自信があるなら軽い保険でも選んどけ!というものでしょうか。

では、裁判所の事実認定を見ていきます。
1 (1)資本金300億円以上の株式会社であり,全国に多数の営業所を有している。被上告人は,その事業に使用する車両全てについて自動車保険契約等を締結していなかった。
  (2)トラック運転手として荷物の運送業務に従事していた。
  (3)原告は通運のトラック運転手として業務中に死亡事故を起こした。賠償金は1500万円かかった。
  (4)相続人は被上告人に対して本件事故による損害の賠償を求める訴訟を提起し、和解が成立した。
2 被用者が第三者に損害を加えた場合は,それが使用者の事業の執行についてされたものであっても,不法行為者である被用者が上記損害の全額について賠償し,負担すべきものである。民法715条1項の規定は,損害を被った第三者が被用者から損害賠償金を回収できないという事態に備え,使用者にも損害賠償義務を負わせることとしたものにすぎず,被用者の使用者に対する求償を認める根拠とはならない。
・・・被用者は,第三者の被った損害を賠償したとしても,共同不法行為者間の求償として認められる場合等を除き,使用者に対して求償することはできない。


確かに共同不法行為ではないですね。確か、前橋でヤクザがの親分が子分に敵対する組の幹部の殺害を命じたときに、薪沿いを食って殺された人に対して命じた親分の民事賠償が確定した前橋スナック銃乱射事件がありましたが、あれはあくまでも共同不法行為でした。

これについて最高裁は異を唱えました。
民法715条1項が規定する使用者責任は,使用者が被用者の活動によって利益を上げる関係にあることや,自己の事業範囲を拡張して第三者に損害を生じさせる危険を増大させていることに着目し,損害の公平な分担という見地から,その事業の執行について被用者が第三者に加えた損害を使用者に負担させることとしたものである(最高裁昭和30年(オ)第199号同32年4月30日第三小法廷判決・民集11巻4号646頁,最高裁昭和60年(オ)第1145号同63年7月1日第二小法廷判決・民集42巻6号451頁参照)。このような使用者責任の趣旨からすれば,使用者は,その事業の執行により損害を被った第三者に対する関係において損害賠償義務を負うのみならず,被用者との関係においても,損害の全部又は一部について負担すべき場合があると解すべきである。
・・・被用者に対して求償することができると解すべきところ(最高裁昭和49年(オ)第1073号同51年7月8日第一小法廷判決・民集30巻7号689頁),上記の場合と被用者が第三者の被った損害を賠償した場合とで,使用者の損害の負担について異なる結果となることは相当でない。


もろ自動車事故の判例です。
つまり論旨は、保険を掛けたかどうかが問題じゃなくて、まずは事故を起こした運転手が賠償しなさい、その上で使用者責任もありますからそれは払いなさいよという趣旨のようです。
判例主義からすれば当然の判決ですし、高裁が重要な判例の見誤りであると言ってもいいレベルかもしれません。

これについて、裁判官菅野博之,同草野耕一の補足意見
本件事故当時,トラック運転手として被上告人の業務に継続的かつ専属的に従事していた自然人であるという点である。使用者と被用者がこのような属性と関係性を有している場合においては,通常の業務において生じた事故による損害について被用者が負担すべき部分は,僅少なものとなることが多く,これを零
とすべき場合もあり得ると考える。なぜなら,通常の業務において生じた事故による損害について,上記のような立場にある被用者の負担とするものとした場合は,被用者に著しい不利益をもたらすのに対し,多数の運転手を雇って運送事業を営んでいる使用者がこれを負担するものとした場合は,使用者は変動係数の小さい確率分布に従う偶発的財務事象としてこれに合理的に対応することが可能であり,しかも,使用者が上場会社であるときには,その終局的な利益帰属主体である使用者の株主は使用者の株式に対する投資を他の金融資産に対する投資と組み合わせることによって自らの負担に帰するリスクの大きさを自らの選好に応じて調整することが可能だからである。


ダラダラ書いていますが、「一部上場の貨物輸送会社は大量の従業員を雇っており、大抵の場合は事故を起こしても会社が丸抱えで修理費などを出してますよ。そういう時のために保険があるじゃないですか。」と言いたいようです。その上で、

被上告人が自家保険政策を採用したのは,その企業規模の大きさ等に照らした上で,そうすることが事業目的の遂行上利益となると判断したことの結果であると考えられる。
余りにも従業員が車を雑に扱うのは困るから、自分たちで責任とれよという経営上の判断でやったのわかるけどさ。

しかしながら,本件に関しては,上告人は,本件事故を起こしたことについて自動車運転過失致死罪として執行猶予付きながら有罪の判決を受けていること,本件事故当時の固定給が毎月6万円(歩合給や残業代を含めると22万円ないし25万円)であったのに対し,本件事故に際して「罰則金」なる名目で被上告人から40万円を徴収されていること,上告人の被上告人における勤務態度は真面目で本件事故が起きるまで別段の問題を起こしたこともなかったが,本件事故後に被上告人を退職することになったこと,本件事故に関して被害者の遺族の一人から損害賠償請求訴訟を提起され,前述のとおり被上告人が自家保険政策を採ってきたことの結果として保険会社からの支援を得られないまま,長年にわたり当該訴訟への対応を余儀なくされたことが認められる
でもさ、基本給が激安だしこの事故で会社から罰金を取られているんだから、会社は少しは面倒見てやれよ。しらばっくれるのはさすがに酷いんじゃないの?と言っています。

裁判官三浦守の補足意見は
貨物自動車運送事業法は,この事業の運営を適正かつ合理的なものとすること等を目的として(1条),一般貨物自動車運送事業を国土交通大臣による許可制とし(3条),その許可基準の一つとして,「その事業を自ら適確に,かつ,継続して遂行するに足る経済的基盤及びその他の能力を有するものであること」を定めている・・・したがって,事業者がその許可を受けるに当たっては,計画する事業用自動車の全てについて,自動車損害賠償責任保険等に加入することはもとより,一般自動車損害保険(任意保険)を締結するなど,十分な損害賠償能力を有することが求められる(「一般貨物自動車運送事業及び特定貨物自動車運送事業の許可及び事業計画変更認可申請等の処理について」
ン?どうなんですか?確かに法律ではそうなっていますが、大抵の場合は各都道府県のトラック協会でまとまって動いていますよね。ここで一般化するのは根拠が弱くないですか?

特に,使用者が事業用自動車について任意保険を締結した場合,被用者は,通常その限度で損害賠償義務の負担を免れるものと考えられ,使用者が,経営上の判断等により,任意保険を締結することなく,自らの資金によって損害賠償を行うこととしながら,かえって,被用者にその負担をさせるということは,一般に,上記の許可基準や使用者責任の趣旨,損害の公平な分担という見地からみて相当でないというべきである。
自賠責保険があるんだからちゃんと対応しなさいよ、といったところでしょうか。だったら先の段落の部分は無駄ですよね。ダラダラ書きすぎです。

第二小法廷判決
裁判長裁判官 草野耕一  当然
裁判官 菅野博之  当然
裁判官 三浦 守 若干不思議ちゃん
裁判官 岡村和美  当然

全体としてまともな判断だったと思います。個人的には、個人の不始末で起こした事故は会社の名誉にかかわる話にもなるので、会社に賠償しろよと言いたいところですが、法体系が会社が面倒見ろとなっているのであれば、この判断は当然の結果です。
しかし、大企業、しかも運送会社が自社で保険に入らないってあるんですね。

盗難車で事故、管理側の責任認めず

2020-03-11 11:45:26 | 日記
これは重要な裁判で、最高裁判決のデータベースに載せるような事件なのになぜか最高裁のHPには上がっていません。これまでの判例では確か確実に盗まれた人も賠償義務があったと思います。
ということで、報道ベースで見ていきます。まずは日経新聞の報道です。

施錠せず鍵を車内に置いたまま盗まれた車で起きた交通事故を巡り、車を管理していた会社の責任の有無が争われた訴訟の上告審判決で、最高裁第3小法廷(林景一裁判長)は21日、責任を認めず、賠償請求を退けた。二審・東京高裁は「盗難の危険がある管理状況だった」として同社に賠償を命じたが、最高裁は管理上の過失は認められないと判断した。
一、二審判決によると2017年1月18日未明、川崎市内にある築炉会社の独身寮にあったワゴン車が盗まれた。車を盗んだ男は約5時間後に居眠り運転で多重事故を起こし、巻き込まれた車を所有する会社2社と損害保険会社が築炉会社に対し修理代などを求めて提訴した。
車の鍵は当時、従業員が車内の日よけに挟んだままだったが、会社側は寮内の食堂で保管する内規を定めていた。同小法廷は判決理由で「(築炉会社は)車の盗難防止措置を講じており、保管上の過失があるとは言えない」と結論づけた。


産経新聞の報道です
会社に管理上の過失があるか、過失がある場合は事故との因果関係が認められるかが争点だった。林景一裁判長は「会社は車の鍵を保管する場所を内規で定めるなど、盗難防止の措置を講じていた」と指摘。従業員が内規に従っていなかったことも把握しておらず、「過失は認められない」と述べた。
 過失があった場合の事故との因果関係については判断を示さなかった。
 判決によると、川崎市内にある築炉会社の独身寮に止めていたワゴン車が平成29年1月18日未明に盗まれ、約5時間後、盗んだ男が横浜市内で居眠り運転し、停車中の大型トラックに追突。ほかに2台のトラックを巻き込んだ。巻き込まれた車を所有する会社2社と損害保険会社が、築炉会社に修理代などを求めて提訴した。


弁護士ドットコムの報道です。
この事件は、会社の寮の敷地内にドアをロックせず停めてあった車が深夜に盗まれ、その約5時間後、盗んだ男の居眠り運転により交通事故が発生。事故に巻き込まれた車の所有者などが、車の持ち主に修理費用などの支払いを求めていた。・・・最高裁は「(車の持ち主は)自動車が盗まれることを防止するための措置を講じており、管理上の過失は認められない」とした。

東京新聞の報道の報道です。
施錠せず、鍵を置いたまま止めていた車が盗まれて交通事故を起こした場合、車の 持ち主は賠償責任を負うのか―。

まとめてみますと、
1 ある会社のワゴン車が盗まれた。
2 そのワゴン車は会社の寮の駐車場に置かれていたが、ドアに鍵をかけておらずサンバイザーに鍵が挟んであった。
3 盗んだ犯人は、その車を運転して居眠り運転で事故を起こし、第三者に被害を与えた。
4 訴えの内容は、会社の管理が悪く盗まれたのだから、会社も事故の賠償金の一部を払えというもののようです。

どの判例かは知りませんが、私が免許を取るときに教習所で盗まれて事故を起こされても車の所有者に賠償請求が来るということを習った記憶があります。
そのとき、そもそも盗んだことが原因なのだからその判例はおかしいだろうと思っていました。
今回の判断では、事故の原因は居眠り運転であり車の所有者の責任ではないだろうとしているのでかなり画期的判断だと思います。従来の判断であれば、敷地内とは言えドアは空いたまま鍵もその場に置いたままであれば管理していないのと同じであるから、犯罪を助長したと判断されかねなかったのです。
非常にまともな判断だったと思います。

第三小法廷
林景一裁判長
戸倉 三郎
宮崎 裕子
宇賀 克也
林 道晴

全員一致であって欲しいです

本人の意思に反して弁護士が勝手に上告しても3日以内に異議申し立てしなさい

2020-03-08 17:39:17 | 日記
令和1(し)807  控訴取下げの効力に関する決定に対する特別抗告事件
令和2年2月25日  最高裁判所第三小法廷  決定  棄却  大阪高等裁判所
高等裁判所がした控訴取下げを無効と認め訴訟手続を再開・続行する旨の決定に対する不服申立ての可否

ちょうど1枚の判決文です。
おそらく、寝屋川市中1男女殺害事件関連だと思われます。この事件に関しては、2019年12月20日のブログでも取り上げました。最高裁で判断すべきだとしましたが、最高裁での判断が出ました。

地方裁判所で死刑判決が出たところ、弁護士が依頼人の意志に反して、被告は精神疾患であり無罪である旨上告してしまいました。そこで、被告本人が弁護人がやったことは無効であるとして訴えた事件です。

これについて最高裁は、
高等裁判所が,上記のような控訴取下げを無効と認め控訴審の訴訟手続を再開・続行する旨の決定をした場合には,同決定に対しては,その決定の性質に照らして,これに不服のある者は,3日以内にその高等裁判所に異議の申立てをすることができるものと解するのが相当である(刑訴法428条2項,3項,422条参照)。
第428条
2項
即時抗告をすることができる旨の規定がある決定並びに第419条及び第420条の規定により抗告をすることができる決定で高等裁判所がしたものに対しては、その高等裁判所に異議の申立をすることができる。
第422条
即時抗告の提起期間は、3日とする。


本来弁護士は、依頼人に忠実であるべき義務を負うはずなんですが、そのあたりは論点として揚げなかったのでしょうか?
上がらなかったのであれば、こういう規定があるなら、高裁での裁判が決定ですね。
逆に弁護士そのものへ慰謝料請求の裁判を起こしてみてはどうでしょうかとも思ったのですが、獄中ではではこの案は届きませんね。

裁判長裁判官 宮崎裕子
裁判官 戸倉三郎
裁判官 宇賀克也
裁判官 林 道晴

被爆者の健康診断と経過観察は原子爆弾被爆者に対する援護に関する法の対象外

2020-03-02 19:13:57 | 日記
平成30(行ヒ)215  原爆症認定申請却下処分取消等請求事件
令和2年2月25日  最高裁判所第三小法廷  判決  破棄自判  名古屋高等裁判所
1 経過観察を受けている被爆者が原子爆弾被爆者に対する援護に関する法律10条1項所定の「現に医療を要する状態にある」と認められる場合
2 慢性甲状腺炎について経過観察を受けている被爆者が原子爆弾被爆者に対する援護に関する法律10条1項所定の「現に医療を要する状態にある」と認められるとはいえないとされた事例


以下は、朝日新聞の報道です。
原爆の影響で病気になり、経過観察のために通院する被爆者も原爆症と認定すべきかが争われた3件の訴訟の上告審判決で、最高裁第三小法廷(宇賀克也裁判長)は25日、認定申請を却下した国の処分を支持し、原告の被爆者3人の訴えをいずれも退けた。被爆者側の敗訴が確定した。
 原告は広島や長崎で被爆し、白内障や慢性甲状腺炎になった広島、佐賀、愛知各県在住の女性3人。手術などの治療を受けていないものの経過観察のために続けていた通院が、原爆症の認定要件の一つである「治療が必要な状態(要医療性)」があるかが訴訟の争点だった。下級審の判断が分かれていたが、最高裁は3人が受けていた経過観察に要医療性はないと判断した。


どこの新聞社も同様の報道でした。以下、裁判所の事実認定から見ていきます。
1 本件は,長崎市に投下された原子爆弾の被爆者である被上告人が,原子爆弾被爆者に対する援護に関する法律の申請をしたところ,厚生労働大臣からこれを却下された。

法に基づく医療特別手当等に関する制度の概要
(1) 
ア 放射線起因性が認められる疾病に罹患している被爆者に対する手当として,健康管理手当(27条),医療特別手当(24条)及び特別手当(25条)を規定している。上記被爆者のうちまだ要医療性が認められないものに対しては健康管理手当が支給される・・・現に医療を要する状態にあることによって余儀なくされている入通院費雑費や栄養補給等の特別の出費を補うこと等により生活の面の配慮をするとともに,精神を慰安し,医療効果の向上を図ることにより,生活の安定に資することを目的とするものである。


特に原爆の後遺症が原因であることに限定されます。

イ 要医療性が認められる被爆者に対しては,必要な医療の給付を行う旨を定めており,当該被爆者の自己負担はないものとされている。・・・り指定する医療機関から法10条2項各号に掲げる医療を受け,又は緊急その他やむを得ない理由により上記医療機関以外の者からこれらの医療を受けたときに,当該医療に要した費用の額(ただし,所定の法令の規定により医療に関する給付を受け,又は受けることができたとき等においては,当該給付の額を控除した額である自己負担金に相当する額を上限とする。)を限度として,一般疾病医療費の支給を受けることができるものとされている(法18条1項参照)。

どこの医療機関でもいいわけではなく、指定病院でないと特別の事情がない限りは駄目ですと規定しています。

ア 被上告人は,昭和11年2月生まれの女性であり,被爆者である。
イ 被上告人は,昭和34年頃から徐々に体のだるさを感じ始め,原子爆弾に被爆したことを夫に隠していたため,医師の診察を受けることはなかった。


当時は差別が多かったようなので、病院にはかかりにくい状況だったようです。

昭和62年に夫と死別した被上告人は,平成6年1月に名古屋市所在の総合病院で慢性甲状腺炎(橋本病)と診断された。・・・被上告人の主治医は,平成15年11月の診療録に,慢性甲状腺炎についての今後の方針として,「被曝あるため甲状腺は被爆者健診でチェックのみとする。」とした。・・・。もっとも,以上の経過観察を通じて,被上告人の慢性甲状腺炎に対して,投薬治療が行われることはなかった
ウ 被上告人は,平成22年3月23日,慢性甲状腺炎を申請疾病とする原爆症認定の申請をしたが,厚生労働大臣は,同23年5月27日付けで,これを却下する旨の本件処分をした。
エ 被上告人は,上記申請後も,前記病院で慢性甲状腺炎に対する経過観察を受けていたが,平成21年7月以降,遠方にある同病院への通院が困難となったために最寄りのクリニックも受診していた


昭和11年(1936)生まれなので平成22年(2010)時点では74歳です。

一般的に医学的見地からすれば、
ウ 慢性甲状腺炎については,根本的かつ永続的に治療する確実な手段はまだないとされており,一般的には,甲状腺機能が正常であれば,1年に1回程度の定期検査で経過観察を行い,明らかな甲状腺機能低下症例では甲状腺ホルモンの補充療法を行うとされている。

経過観察だけで済んでいるわけですね。

これについて最高裁は次のように考えました。
法は,放射線起因性が認められる疾病に罹患している被爆者に対し,要医療性が認められない段階では,健康管理手当を支給し(27条1項),当該疾病につき要医療性が認められるに至った場合には,原爆症認定をするとともに,医療特別手当を支給し(24条1項),その後に要医療性が認められなくなった場合には,特別手当を支給する(25条1項,24条4項)という,要医療性の有無に対応した段階的な救済の制度枠組みを採っているということができる。

経過観察だけなんだから敢えて認める必要はないでしょうと言っているようです。

医療特別手当については,健康管理手当や特別手当とは異なり,現に医療を要する状態にあることによって余儀なくされている入通院費雑費や栄養補給等の特別の出費を補うこと等により生活の面の配慮をするという,特別の生活上あるいは健康上の状態に対して手当を支給する目的が含まれている点にあるものと解すべきである。/span>

医療費で生活困窮者を救うという立法趣旨だと言っています。

経過観察を受けている被爆者が法10条1項所定の「現に医療を要する状態にある」と認められるためには,当該経過観察自体が治療行為を目的とする現実的な必要性に基づいて行われているといえること,すなわち,経過観察の対象とされている疾病が,類型的に悪化又は再発のおそれが高く,その悪化又は再発の状況に応じて的確に治療行為をする必要があることから当該経過観察が行われているなど,経過観察自体が,当該疾病を治療するために必要不可欠な行為であり,かつ,積極的治療行為(治療適応時期を見極めるための行為や疾病に対する一般的な予防行為を超える治療行為をいう。以下同じ。)の一環と評価できる特別の事情があることを要するものと解するのが相当である。

被上告人の慢性甲状腺炎に対する経過観察は,当該疾病の悪化によって重大な結果が生ずる医学的蓋然性が高い状況であるために行われていたものとはいい難く,慢性甲状腺炎に対する積極的治療行為の一環というよりも,積極的治療行為を要する甲状腺機能低下症その他の合併症や続発症が発症していないかを確認するにとどまる行為であったとみるのが自然であるから,前記特別の事情があると認めることはできない。

まあそういうことになりますよね。しかし、年齢による病気の可能性が全く論じられていなかったのですが、医学的見地からはどうなんでしょうか。

裁判官宇賀克也の補足意見
・ 健康診断(法7条に規定するものをいう。以下同じ。)で行われる一般検査は,法10条2項1号の診察に当たり得るため,単に同項が定める医療の給付に相当する行為がされていれば要医療性の要件を充足すると解してしまうと,健康診断を受けるだけで要医療性が認定され得ることになりかねない

そうですよね。

実質論から,被上告人が慢性甲状腺炎につき経過観察を受けている状態が法10条1項の「現に医療を要する状態」に当たるか否かを判断したものであるが,健康診断についていえば,たとえ,健康診断に際して既往症を告知して指導(法9条に規定するものをいう。以下同じ。)を受けることがあったとしても,それのみでは「現に医療を要する状態」に当たるとはいえず,健康診断の結果を踏まえた指導を受けて経過観察が行われた場合に,当該経過観察を受けている状態が「現に医療を要する状態」に当たるか否かを,法廷意見が示した基準に照らして判断することになると考えられる。


至極まっとうな意見です。

第三小法廷判決
裁判長裁判官 宇賀克也
裁判官 戸倉三郎
裁判官 林 景一
裁判官 宮崎裕子
裁判官 林 道晴

被上告人は、なぜこの年齢になって原子爆弾被爆者に対する援護に関する法の保護を受けようと思ったのでしょうか。後期高齢者になれば1割の自己負担、低所得者であれば8000円の上限です。今まで我慢していたことの反動?勝ち取ったところで、あまり本人には利点はないような気もしますが。