林 住 記

寝言 うわごと のようなもの

民宿雪国

2014-01-08 | 重箱の隅

小説「民宿雪国」。
作者である樋口毅宏は、いま、新潮新書「タモリ論」で評判らしい。
大雑把な粗筋は以下のとおりで、詳しくは書ききれないほど盛りだくさん。

   寂びれた民宿雪国の主・丹生雄武郎は、晩年、国民的人気画家にのし上がった。
   しかしその生涯には謎が多く、実は殺人鬼だった。

話の展開が急で、次から次への大きななウソにすっかり乗せられ、あれよあれよと一気に読み終えた。

大変面白かった。しかし、どうもヘンだ。無理矢理に戦中戦後史を詰め込み、辻褄を合わせた感じがする。
読後感は大変書きにくい。
それで、もう一度読み返してみた。

ははぁん、樋口先生、思いつくままに書き上げたようだ。活字にする前に、読み返してないんじゃないのかなぁ。
小説のウソは大歓迎だが、ウソにもいわゆるリアリティっていうものがなくちゃぁね。
編集者は原稿段階で、先生にもっと注文を付けるべきだった。

たとえば大法螺のほんの一例。
民宿雪国に一ヶ月無銭宿泊した放浪画家(山下清!)が書き散らした絵を下敷きにした作品が評判を呼び、

   ルーブル美術館が5点連作の肖像画を110億円で買い上げた。

   新宿御苑で執り行なわれた丹生雄武郎の国葬には20万人が参列した。

なんてところは噴飯ものですな。
もう一つ。民宿に仲居がいるなんておかしいよ。

小説の後半で、丹生雄武郎の経歴詐称を、手術で男になった(?!)記者に暴かせている。

だが、ウソはこのままに、もっと丁寧に構成すれば、雄武郎は殺人鬼・レクター博士に近付くことができたはずだ。
この小説を全面的に書き直し、更に「実は死んだのは替え玉だった」、として続編を出して欲しいですね。

文庫本の末尾に、在日の作家・梁石日との褒め合い対談や、町山智弘との映画オタク対談が載っている。
余計なおまけだったと思うよ。

 

「民宿雪国」は最高傑作ではないけれど面白かった。今日のように寒い日の暇潰しには、うってつけです。
それにしても、クラリスを連れて南米に逃亡した優雅なレクター博士はどうしてるのかなぁ。

なお、面白い読後感を発見しました。
宮崎悟さまのブログ「紙の空」です。併せてご覧下さいね。

140108



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