非国民通信

ノーモア・コイズミ

虚偽記載の許される領分

2015-08-09 11:26:43 | 雇用・経済

労働条件:トラック運転手、求人票と違い提訴(毎日新聞)

 運送会社「スワロートラック」(東京都江戸川区)の運転手、佐々木和義さん(43)=東京都あきる野市=が、ハローワークの求人票に記された労働条件と実際の労働条件が違ったとして、同社に不払いの残業代など205万円の支払いを求め東京地裁に提訴した。求人票の労働条件と実際の労働条件の違いについては、厚生労働省も対策に取り組んでいるが、提訴は珍しい。

 訴状などによると、佐々木さんは2014年10月、「基本給28万〜35万円、時間外労働月30時間」などと書かれた同社の求人票をハローワークで見て応募、採用された。

 だが実際の契約では、基本給は地域の最低賃金を基にし、残業代は定額支払いとされた。佐々木さんは「詳しい説明がないままサインした。求人票での契約が成立している」と主張。実際の残業は月30時間を超え、求人票の労働条件で残業代などを計算すると、これまで働いた8カ月間で200万円を超える不払いがあったとして請求した。スワロートラックは「訴状の内容を承知しておらず、コメントできない」と話している。【東海林智】

 

 親告罪とか非親告罪云々とは著作権法周りで語られることが多いですが、日本における最も典型的な親告罪は、労働をめぐる代物ではないかという気がしてなりません。労働基準法や労働契約法に違反しても、それで警察が動き出して加害者を逮捕したりするようなことはないわけです。雇用/労働関係の法律はあくまで親告罪、被害者の訴えがあって初めて違反が取り沙汰されるのが実情ではないでしょうか。虚偽の求人広告で応募者を騙しても、残業代の不払いを重ねても、正当な事由なく解雇しても、それは被害者が法廷に訴え出ない限りは雇用主の思うがまま、それが日本ですから。

 結局のところ日本では、個人的に戦うしか自分の身を守るしかありません。社外の労組に加入したり、裁判を起こしたり等々、とにかくまぁ第三者による取り締まりに一切の期待が持てない以上は、「戦うしかない」のです。報道によれば「厚生労働省も対策に取り組んでいる」とのことですけれど、どこまで本当でしょうか? 本気で取り組むのなら、せめて消費者を守るのと同程度には労働者を守ろうとする姿勢の一つも見せて欲しいと思います。

 「不当景品類及び不当表示防止法」は、それまでの法律で対応できなかった類を規制するために作られたそうです。法律では、実際よりも優良あるいは有利であると誤認させる広告は禁止されています。ただし求人広告は例外とする――というのが法律の運用なのかも知れません。実際よりも好待遇、高賃金であると誤認させる不当な広告はハローワークに行けば無尽蔵に見ることができますが、こうした不正の温床に措置命令などが出たことは、そして命令違反の事業者を罰したことはあるのでしょうか。

 過去には特定商取引法違反(不実の告知)罪で有罪判決の出た会社の求人をハローワークが出していたなんてこともありました。ハローワークの紹介で就職した人までも有罪判決を受けるに至ったわけですが(参考、ハローワークの利用は避けることを奨めたい)、不法行為の仲介役であり共犯や幇助の罪に問われるべきハローワーク側に何の処分も下されていないのは、これまた厚生労働省側の姿勢を端的に示していると言えます。罪状が「不実の告知」であるならば、まず真っ先に罪に問われるべきはハローワークで紹介された職場で働いていた人よりも、もっと別の人間では?

 なにはともあれ、慣例として求人広告には虚偽の記載が許され、それがハローワークという公的機関によっても認められているわけです。景品表示法が求人広告に適用されないのなら、何か別の新たな法律による規制が必要でしょう。景品表示法は単に消費者を守るだけではなく「公正な競争を確保する」という意図もあるようですが、そうした精神は求人広告に場合にも認められて然るべきです。虚偽の広告が許されれば当然ながら公正な競争は阻害されます。競争大好きな日本なのですから、人材獲得競争において不正な広告で他社よりも優位に立とうとする、そうした不正を排除する取り組みの一つも必要なと言えます。

 

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