非国民通信

ノーモア・コイズミ

脱・競争で成功する会社もある

2010-03-27 22:59:50 | ニュース

競争させないから社員が成長する(日経BP)
横塚裕志・東京海上日動システムズ社長が説く「育成型人事」

 当社では、社員同士を競争させない人事評価制度を採用しています。

 その中身は、レベルの高いSE(システムエンジニア)に共通して見られる32項目ほどのコンピテンシー(行動特性)を規定し、それらを社員が実行できているかどうかを絶対評価で判定するものです。相対評価で社員を比較して、優劣をつけることはしません

(中略)

 こうした制度を導入して間違っていなかったと確信した時があります。昨年のことです。経済協力開発機構(OECD)の国際的な学習到達度調査(PISA)でトップの成績を収めたフィンランドについて話を聞く機会がありました。

 トップになった要因の1つとして、フィンランドでは子供たちを競争させないことが挙げられていました。17歳になるまで一切、テストを行わないそうです。

 テストをすると、点数が低かった子は勉強する意欲をなくします。一方で、点数の高かった子も、「もうこれでいいや」と満足して勉強しなくなる。どちらにしてもいいことがありません。

 それよりは子供がそれぞれ好きで興味のあることを追究させ、知識を習得したり考えたりすることの楽しさを自覚してもらう。それが学力世界一の土台になったという内容でした。

 この話を聞いて、社員を競争させずに、SEの面白さを実感してもらいながら仕事に取り組んでもらうことが大事だと改めて思いました。やはり会社に来て仕事をするのが楽しくないと、社員は成長しない。会社がお仕着せで行う能力開発ではうまくいかないと確信しましたね。

 優劣をつけることはしません――脱・競争で成功したと自負する社長さんのお話です。脱・競争が成功の主因かどうかは確実でないかもしれませんが、ともあれ東京海上日動システムズ社では離職率1%とのことですから社員満足度も国内企業の平均からすれば高い方、大まかに見れば成功していると見てよいでしょう。ちなみに引用ばかり長くなってしまうので省略した「中略」の部分では、コンサルティング会社から成果主義/競争原理の導入を勧められたエピソードが語られています。コンサルタントは業界の「お約束」として給与に差をつけるべきと主張したものの、そこまでする必要があるのかと、この社長さんは断ったそうです。結局、競争原理など煽らずとも社長が成功を自負できるだけの結果は出ているわけで、まぁコンサルタントなど所詮はそんなものとも言えます。

 「中略」以降の部分では、競争原理とは異なる方法論の裏づけとして、フィンランドの教育が例示されています。曰く「テストをすると、点数が低かった子は勉強する意欲をなくします。一方で、点数の高かった子も、「もうこれでいいや」と満足して勉強しなくなる。どちらにしてもいいことがありません」とのこと。まぁ、ごもっともですね。ただし、逆の言い方も成り立つわけです。テストがないと、勉強ができない子は勉強ができないことに気づかず、勉強しなくなる、勉強のできる子は評価される機会を得られず意欲をなくす、こういう風に考えたとしても、別に間違いではありません。どちらの言い方も成り立つわけです。

 昨今の日本は猫も杓子も競争原理万歳ですから、ここで取り上げた社長やフィンランドの教育の考え方は新鮮であり、バランス感覚を取り戻させるものであるように見えます。ただ、別にどちらか一方が絶対的に正しく、どちらか一方が間違っているわけではありません。上述したように、どちらも成り立つわけです。そしてこういうケースは珍しいことではありません。しかし、競争原理がそうであるように「どちらも成り立つ」にもかかわらず、片方の立場だけが一面的に是とされているケースもまた多々あるように思われます。

 たとえば、高所得者への課税を考えて見ましょう。高所得者に効率の累進課税を課すと、金持ちがやる気を失ってしまう、経済に悪影響があると真顔で説く人がいるわけです。しかし、累進課税が抑えられると高所得者はすぐに財産を築いてしまう、「もうこれでいいや」と簡単に満足してしまって、そこから働かなくなってしまう、そうも考えられないでしょうか。高所得者には課税を増やし、巨万の富はそう簡単に積み上げられない、ちょっとやそっとの収入では金持ちであり続けられないようにした方が、むしろ稼ぐ意欲は湧いてくるとも言えます。物は言い様、どちらも成り立つわけです。

 日本の少子化世代は虐げられた世代みたいに言われる一方で、中国の少子化世代(一人っ子世代)は甘やかされた世代みたいに言われることも多いと思います。少子化が進めば、必然的に子世代が支える親世代の数は増えますから、ともすると高齢者を支える負担の重くなる、割を食った世代に見えるかもしれません。しかし、子供世代より親世代の方が多いと、その分だけ養育に費やされるリソースは集約されるわけです。子供が10人もいれば、全員が自分の子供部屋をあてがわれたり、全員が大学に進学したりすることは、よほどの裕福な家庭でないと難しい、しかし子供が一人だけであれば、自分だけの子供部屋は確保できるでしょうし、一人分くらいの進学費用なら、よほどの貧困家庭でもなければ工面してもらえるでしょう。団塊世代なら同世代に競争相手がたくさんいますけれど、少子化相手ならば椅子を争うライバルは少ないですしね。要するに、良くも悪くもどっちにも言えるのです。

 他にも雇用が流動化すれば転職しやすくなる、嫌ならやめて別の会社を探せるようになる、そんな議論もあります。でも、転職者が増えれば企業側としても即戦力を補充しやすくなる、手元の社員を入れ替えやすくもなるわけです。逆に雇用が安定化すると転職先も限られてくるかもしれませんが、企業側から見れば転職者が減って即戦力の補充が難しくなる、今いる社員を大切に確保するしかなくなる、だから待遇改善を考えざるを得なくなるとも言えます。例によって、どうとでも言えるのです。

 結局、この手の「どうとでも言える」「どちらでも成り立つ」議論は、あくまで見解の一つであって不変の真理ではありません。そんな「見解の一つ」をこういう考え方もあるよ、と参考にする程度なら有益なのですが、「見解の一つ」に過ぎないものを不変の真理のごとく押し売りするとなるとどうでしょうか。競争原理を巡る主張はしばしば、そうなりがちです。競争すれば伸びるとも言えますが、競争しないことで伸びるとも言える、それなのに唯一絶対の方法であるかのごとく「競争原理を導入せよ」と迫るとしたら、それはいわゆる「ためにする議論」とでも呼ばれるべきものですよね。特に経済系の主張では、この類が多いと思います。

 

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10 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (秋原葉月)
2010-03-28 00:36:06
お久しぶりです
フィンランドの教育については私も「受けてみたフィンランドの教育」という本で読みました。
テストはあってもそれは教師の教育の仕方の評価のためにおこなわれるのだそうです。
実際にフィンランドに留学した体験日記ですので、興味深く読むことが出来ました。

テストや競争については、障害児教育の専門家であるグレン・ドーマン博士も「テストは子供の学習意欲を減退させる有効な方法だ」と言っていました。

人間の意欲がわく構造は、子供も大人も基本同じです。
楽しんでやれる方が伸びるのは私対も経験則でわかってることですが、それを実行するには長年の「神話」を打ち破らねばならないので勇気がいりますね。
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お得なシステム (northeast)
2010-03-28 01:52:24
かつて日本的経営の評価が高かった頃は、「短期的な業績評価を重視しない」という人事システムは、多くの労働者に「まだ自分にも出世の可能性がある」と誤解させて、高額なボーナスもなしに、延々と労働者を競争に駆り立てる、経営者にとって「お得なシステム」と理解されていたんですけどね。コンサルタント会社以外誰も得してないような気がします。
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Unknown (伊東勉)
2010-03-28 02:00:45
 今晩は。チト不眠状態になっているのでそれ利用して?おじゃまします。

 橋下知事あたりはずいぶん「競争」ばかりけしかけていますが、他人と比べてどうこう、よりは自分自身がどういう風になっているかを見るのが大事ではないか、と思ってはいますが、いざ自分はどうか、というと、やはり他人の目を気にしすぎて自滅状態に。

 この「競争論」もそうですが、違うモノの見方もあり得るのを「都合がいいものを押し通す」やり方が横行している様子に「なんだかなぁ」という思いでいます。

 記事とは関係ないですが、3、4時間の仕事でさえ就職できず、ただいま6連敗…その仕事でも倍率5倍はざらです。
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Unknown (非国民通信管理人)
2010-03-28 14:23:06
>秋原葉月さん

 競争の自己目的化と言いますか、これまでは競争を煽るために、競争が意欲を高めるという神話が作られてきたフシもあるような気がしますからね。それだけにとどまらない、別の可能性にも目が向かうようになってくれればいいのですが。

>northeastさん

 かつては、世界が日本を見習おうとする時代もあったんですよね。日本型経営だって万能ではないかも知れませんが、実績もあり評価の高かったわけですし。そうなると尚更、昨今の改革志向は踊らされているだけではないかという気がしてきます。

>伊東勉さん

 私の方も、なかなか仕事にありつけません。いやはや、今度の失業は長引きそうです。

 それはさておき、別の見方もできるのに、片方の見解だけがごり押しされる、そういうやり方の政治家が喝采を浴びてしまうわけで、二元論的と言いますか、異なる見解の相手を認めようとしない、そんな社会全体の狭量さを感じますね。
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競争原理 (コンポコ)
2010-03-28 18:33:43
私は働きはじめてから競争意識が薄れてしまったクチです。
なにがなんでも、そこまでしてまで、という気持ちが何故かなくなりました。
日本の会社社会や社蓄な生き方に馴染めなかっただけかもですが。

ここ数年は勝ち負け、強い弱いが強調される、小泉的価値観が幅を利かせ、私のような人間には非常に疲れる雰囲気が漂ってます。
ただでさえ違法しまくりで非難を浴びてる日本の労働環境に小泉的価値観が導入されれば、どうなるかは言うまでもありません。


ところで、
管理人様と伊東勉様

求人状況は本当に悪いですよね。
時給700円台、1日4時間に満たない求人もかなりの倍率となっており、大変な状況ですよね。
そういう私は何とか週5日フルタイム勤務ですが、期間限定です。この求人ですらやっと内定得られた状況です。
yahooや2ちゃんねるといった荒れてるとこでは、正社員じゃなきゃ就職じゃないとほざいている権力には従順で肩書きに拘る輩が多くいますが、こいつらの言い分を閲覧してると、管理人様や伊東勉様のように苦労してる方々の神経を逆なでしてるようで気分が悪いです。
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Unknown (非国民通信管理人)
2010-03-28 22:55:36
>コンポコさん

 いやはや失業には慣れているのですが、求人状況は今までにない惨状ですね。年齢制限に引っかかりだしたところもあるとは言え、数年前なら派遣社員であれば簡単に仕事が見つかったのですが、今は派遣でもやたらと条件が厳しいです。パートですら書類選考で落とされると聞きますし、どれだけ買い手市場なんだよと……
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Unknown (GX)
2010-03-29 14:16:25
 競争自体は否定しません。仕事で高みを目指すこともすばらしいことでしょうが、やりたくもない人にまで仕事のことで競争させられるのは問題ですね。
 そして現在の一番の問題は、この「競争」が「生きる前提」になってしまっていることです。これが社会のあらゆる場面で「敗者」を切り捨てる口実に利用されてりるようでなりません。非国民さんも以前「成果主義」がロクに働いていない(と会社側の一方的な判断で決められてしまった)人の待遇を引き下げに利用されているとおっしゃいましたが、まさにこのような事例が蔓延しているように思えます。競争自体は問題ないのですが、それを「生きる前提」にしてしまってはいけないと考えました。
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Unknown (非国民通信管理人)
2010-03-29 23:17:41
>GXさん

 競争したい人もいれば競争したくない人もいますし、競争しない方が上手く行く場合もあるわけですが、何かと競争が自己目的化するんですよね。それ以外のやり方も当然あり得るのに、「競争原理を導入するしかない!」みたいな論調ばかりですから。
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競争相手は誰なのか (おおいけ)
2010-03-31 01:12:53
大阪の某知事などは
「今は国同士の激しい競争の時代。日本の子どもたちにも何が何でも競争させなければ生き残れない」
などどのたまったそうですが、
「国同士の激しい競争」(この前提も疑問ですが)ならば、日本の子どもたち同士には
なおさら「協力」や「団結」「信頼」を教えるべきでは?
なんで日本の子どもたち同士を分断しなきゃいけないのか
隣の人は協力ではなく競争の相手であり、相手の失敗が自分の得になるなんてことをなぜ教え込むのか。
「脱競争」が正しいかどうかはともかく、集団の中で競争があることは、集団対集団の競争においては
メリットばかりではないはずなんですが。
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Unknown (非国民通信管理人)
2010-03-31 18:56:28
>おおいけさん

 実際、「厳しい国際競争にさらされている」はずの輸出企業が業績を伸ばす一方で国内産業が低迷を続けてきたのがこの10数年ですからね。自動車業界のように国内では寡占状態で競争の少ないところが伸びた一方で、小売など国内市場向けの業界が国内の過当競争で疲弊しきっているのなら、むしろ必要なのは団結であり協力のはず、それでも競争が好きな人は、何が何でも競争させなければ気が済まないのでしょう。
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