非国民通信

ノーモア・コイズミ

ダメ上司

2008-09-10 23:05:08 | ニュース

橋下知事の重なる過激発言、与党からも「行きすぎだ」(朝日新聞)

 このところ、大阪府の橋下徹知事の発言が過激さを増している。「このざま」「予算はつけない」「クソ」……。舌鋒は主に教育委員会に向けられる。あまりの激しさに府議会の与党会派からも「行きすぎだ」との声が出始めた。

 知事の教委批判は、全国学力調査の結果が発表された8月29日の「このざまは何だ」発言から、急速にボルテージがあがった。調査対象の小6と中3の国語と算数・数学の結果が、大阪府はいずれも30、40位台だった。

 私はこれを聞いて、典型的なダメ上司を思い出しましたね。営業部門で働いた経験があれば、多少は経験のある方も少なくないのではないでしょうか。いますよね、成績の上がらない社員を人前で罵倒する上司って? 部署全員に聞こえるように人前で罵倒する一方で、部門責任者として何らかの対策を採ることなど考えない無策な上司、ダメになる会社には付きものです。

 例えば朝礼中であったり、メディアの前であったり、要するに他人が見ている場面を選んで相手を罵倒する意図はどこにあるのでしょうか? 個人なり特定の部署に対して反省や奮起を促すのであれば、個別に面談して対象者だけを相手に要望なり意見なりを伝えれば済むわけです。しかし、敢えてそうしない、わざわざ他人の目に付く場面を選ぶのは、対象者を晒し者にしたい、対象者を悪者にすることで、責任者である自分に向けられるかも知れない非難の矛先を逸らしたい、そういう意図があるからです。

 「甘え」とも呼ぶべきなのかも知れませんね。何か自分の気に入らない事態が発生したとき、他人を怒鳴りつけておけば、その他人が何とかしてくれると、そう期待しているわけです。自分も含めて物事を協力して解決していこうとか(著しく低い日本の教育予算を先進国並みに引き上げるとか)、そういう発想がない。泣いていれば母親が助けてくれる、そう考えている子供と一緒です。ダメ上司にはよくいるタイプですが。

 府議会からも批判が出だした。知事を擁立した自民府議は「タレントで生き残ってきたため、常に注目を浴び続けなあかんという強迫観念がある。泳ぎ続けないと死んでしまうマグロみたい」と分析。今回は「行きすぎ」としたうえで、「傍若無人の独裁者を続けて、周囲の協力を得られなくなって一番困るのは自分やのに」と心配する。

 いしいひさいちの漫画に登場したアーレント先生が、「全体主義とは何か」と問われてこう語っています。

 あえて一言で言えば『ムーブメント』ね。
 聞いた話では戦後のある時期日本では『小さな親切運動』というムーブメントが全国的に巻き起こったそうです。
 運動とは達成すべき目標があるわけではなく永久革命のように全体主義という統治形態の継続が目的なのです。大衆は家郷から切り離されバラバラの個となって運動の中で孤立します。
 日本の『小さな親切運動』でも人々はムーブメントという虚構を現実ととりちがえ親切をしない者は排除され強制親切収容所で教育的指導を受けたそうです。あくまで聞いた話ですが。

 編集者による注釈はこちら(引用は全て『現代思想の遭難者たち』講談社)。

 共同世界から切り離された諸個人が、独自の人格や個性のない大衆として、「運動」に総動員されるのが、全体主義の特徴である。運動の目標は、可能なかぎり多くの人々を引き入れ、組織し、高揚させることであり、1人ひとりを絶えずあらゆる面で支配することである。国家内に潜む敵を「創造」し、それによって運動を維持させる。そのような仕掛けとしては、秘密警察と強制収容所がある。

 橋下改革も同じです。真の目的は何かを達成することではなく、運動を継続すること、この運動を通じた支配を続けることです。そのためには絶えず、戦うべき「敵」を創造し続けねばなりません。泳ぎ続けないと死んでしまう、「敵」がいなくなって「運動」が終わると、昔年の革命運動がそうであったように支持を失い、支配体制を維持するためには暴力による強制しか残されない、そうなってしまうわけです。

 なにはともあれ、骨の髄まで民尊官卑、公務員と言うだけで蔑視の対象となるこの国では、橋下の続けてきたバッシングが運動の盛り上げのために有効であったのも事実です。とはいえ、ちょっと消費のペースが速すぎるような気もしますね。自民党府議が心配するように、このままでは遠からず「敵」が枯渇してしまう、バッシングする相手のネタが尽きてしまう気がします。そうなると、かの安倍元首相みたいな末路になるでしょう。小泉は実に巧いタイミングで「敵」を作ってきましたが、橋下はちょっと拙速な印象です。

 

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11 コメント

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少しずれますが (ノエルザブレイヴ)
2008-09-11 00:06:36
私が持っている競馬の本(暴露本っぽいんだがなぁ…)に「厩舎の休憩スペースに隠しカメラとマイクを仕掛けた調教師」の話が紹介されており、最後がこう結ばれていました。

「最近のX厩舎の成績は最悪だ。調教師がスタッフを信じられなくなれば、スタッフだって調教師を信じない。こんな当たり前のことが分からない調教師ははっきり言って勝てなくなる。」

競馬の本の作者でも気付くことですが、一方大阪府知事は…(以下略)。
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予想通り (Bill McCreary)
2008-09-11 00:21:54
橋下だったら、このような行動をとること自体はとくに意外でも何でもないように思います。正直、あいつなら無理もないと思うだけです。

>小泉は実に巧いタイミングで「敵」を作ってきましたが、橋下はちょっと拙速な印象です。

天才政治家・小泉と橋下では役者が違いますよね。
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職分に足らぬのがクソなら (案の運)
2008-09-11 13:22:40
営業を例に挙げていますが、
この営業と教育というのはちょっと似ています。

基本的なノウハウや情報の共有が出来ていない。
ときに、同じ職場の同僚すら商売敵であり、営業情報を共有していないというのは多く、
本来ならそれを共有すれば、社としての営業利益も上がるのに、
中途半端に競争させるから、会社の中での相対的な成績に目がいってしまう。

製造部門だったら考えられません。失敗の情報を共有し、作業標準を徹底する。
ちょっと名の通ったメーカーなら、そういったことを専門に行う部門を持っているし
そこでは20年来生産技術畑という人も珍しくありません。

本来なら、行政がそういったことを行わなくてはならないのですが、出来ていません。
せめて「いついつまでに、評価基準と項目、方法の原案をつくれ」とか、
「全員が全部の仕事を自己流でやるより、ノウハウを統合し部署毎に分担する方法を考えろ」とか、
そういう投げかけをしているなら、まだしも教委も耳を傾けざるを得ないのですが…。
ちょうど、彼の考え方は、立地や営業環境を見ないで、営業所毎の競争をさせるようなものですね。

各営業所には、管理職は2~4年ぐらいしかおらず、教委も含めてそこを短期間に回り持ち。
実質的な人事権も無い中で泥を被るより、問題を先送りにする方を選びがち。
そんな状態で、営業成績(生徒の学力)を上げろといっても、誰もついていく道理がない。

まず、その辺をどうするかを考えないと、ただの文句言いでしかないでしょう。
成績を問題視して、小手先の対応をするのは、現場の仕事。
彼の仕事は、なぜそうなるのか、そうさせるものはなにか、
その原因はどこにあるのか…、と組織のあり方を考える(考えさせる)のが橋下氏の仕事。
その原因を、やってもやらなくても給料が同じだから手を抜くと考え、
もう少し身分を不安定にすればいい、と結論づけるだけなら、
飲み屋でクダをまいているだけなのと同じレベルですな。

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まだまだ油断はできません。 (GX)
2008-09-11 18:40:34
 橋下知事はタレント弁護士時代から「悪いやつらを批判するヒーロー」ですからね。(もちろん、知事がヒーローでないということは、周知の事実ですが。)今回苦言をした与党の方が叩かれる可能性のほうが高いでしょう。「クソ」発言もニワンゴニュースによるとBADと回答しているのが9人に対しGOODと回答している人が86人もいらっしゃいますし。(これの投稿時現在)
 非国民さんや私のような人々はそのような上司や教育関係者はだめなやつらとしか思えませんが、なぜか世間的には「立派な人」や「愛情深い人」みたいな評価を受けますよね。こういった風潮もありますから、知事の人気はまだ続くでしょう。私はこんな人間になるくらいなら「立派な人」にも「愛情深い人」にもなりたくないですけど。

 ちなみに教育の件ですが、「学力テストの結果が悪いから何とかする。」という前提が間違っていますよね。結果がどうだろうが勉強が子どもたちにわかるようにすることが大切であり、学力など二の次なのに。知事も教育委員会も両者それぞれの支持者、批判者もその点を理解しているのか気になります。
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「民間」が好きだけど (水中メガネ)
2008-09-11 20:49:45
 橋下知事は常に「民間」って言葉を使うけれど、いかに効率よく労働者から収奪をしようと考えている優秀な民間の経営者は、こんなアホな言辞は口が裂けても吐かないと思います。

 橋下株もそろそろ売りになってきたようですね。

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夜間中学 (焚火派GALゲー戦線)
2008-09-11 21:40:59
 大阪府が切り捨てようとしている夜間中学に対する就学援助存続のための集会の報道です。
 参加した自民党・民主党府議が「府の役割放棄批判」発言が掲載されています。(他に公明・社民の府議も参加との報道)
http://mainichi.jp/area/osaka/news/20080909ddlk27100394000c.html
 橋本を支援した自・公(の府議)でさえ、「生活者」たる自分の支持者に「橋本のパフォーマンスは素晴らしい」などとは言えないのです。
 記事のとおり、府議会での議論の行方が注目されますが、これで「橋本は支援団体とのしがらみすらも気にしない素晴らしい人物だ。」という世論が湧き上がってくるようなら、もはやおしまいなのですが、どうもおしまいになりそうな気も・・・。
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星新一の (おさふね)
2008-09-11 21:57:36
ショートショートを思い出しました。
毒舌なだけの売れないドサ周りコメンテーターが、敏腕プロデューサーに拾われてめきめき頭角を現し、プロデューサーからの独立を宣言するのですが…

題名は忘れてしまいましたが。

あと、民間ならボス自らが仕事サボってジムで遊ぶのは許される事ではないし、監視カメラも「何かあったときの防犯システム」という括りで表向きは謳ってますし、公の場でボス自身が自分のグループに属する人間をおおっぴらにこき下ろすような言動をすればたちまち白眼視されます。更に市内で暴動が起こっている最中に優雅にパーティーを開いて一席ぶっているのも民間では危機管理マネージメントの点で許される事ではありませんね。
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恐怖政治 (さら)
2008-09-11 22:10:10
相変わらず敵作りに忙しいようで。「くそ」はオカンに怒られて封印(どんな理由なんだ)だそうですが、今度は「やつら」扱いで頑張ってるみたいですね。

例によって敵想定は教育委員会の事務局長でして教員の代弁者だそうです。「そんなやつらに権限を渡していいのか!!」と吼えたそうで、民主的コントロール(それは自分のことだ言いたいんでしょう)に渡せと。口が裂けても非公開の通知を出した文部大臣のくそやろうとは言わないんですけど。

民間の皮をかぶっためちゃくちゃな盗撮で、具体的基準もはっきりさせない状態で職員の無能性をぶち上げるという知事は、およそ民主的感覚から程遠いことは明白だとは思うのですが、まあこれも敵が公務員で叩き続ける限りOKなんでしょう。

でも仮に府民オンブズマンが府知事の勤務状況を隠し撮りして公表した場合(フィットネスで公務に励む知事とか)法的手段にでるとか一般職員とは違う特別な存在だからOKとかの論理(詭弁=ディベート技術の悪用)が飛び出てくるんでしょうけど。

ヒトラーユーゲント(PTや私設秘書)による監視が行われていた時代の社会の息苦しさというのはこんな感じで、物を言えば唇が寒い職場になっていることは間違いないでしょうね。いっそ文学館の館長は私設秘書個人を相手に迷惑防止条例かなんかで告発してやったら良いのにとか思うんですけどね。共同正犯か教唆で知事も含めて。

ところで教育委員会や文学館に比べて伊丹廃止やWTCではもう一つぱっとしませんね。やはり敵が作りにくいからでしょうか。「国土交通大臣のくそ野郎がうんと言わないんですよ」とか「井戸兵庫県知事や神戸市長のやつらが伊丹廃止に協力しないから」とは言わないんですよね。

部下が定義のない道州制を前提に話をされても困ると朝会で正論を言うと、部長になってから意見を言えと勇ましく言ったそうですが、国からすると国政への意見は国会議員になってから言ってくださいねとスルーされてどうにもならないのと同じですね。

それに予算を使った恫喝は国の得意技ですから、同じ事をやろうとしている知事に批判はできないのは当然でしょう。そういえば岩国市長選挙のとき国政に物申す候補者をえらく批判してましたし。

まあ府民にとってそんな政治姿勢に関する「些細」な矛盾や倫理観の欠如、政策結果の良し悪しなどはどっちでもいいんでしょう。とりあえず「くそ公務員」が「ざまあみろ」な結果になればええ、みたいなもんでしょうね。これって衆愚政治のいい見本になりそうですよね。

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Unknown (非国民通信管理人)
2008-09-11 23:48:27
>ノエルザブレイヴさん

 部下を恫喝するだけの上司、信頼関係のない職場、これが上手くいかないのも「民間では当たり前」なのですが、まぁ円滑な自治体運営ではなく、運動の継続が目標ですから……

>Bill McCrearyさん

 橋下も勢いはありましたが、小物感が漂っていますからね。いずれネタ切れで失速する、とはいえそこまでが暗黒時代ですけれど。

>案の運さん

 営業部署でも頭の良い管理職なら、具体策を練って組織としての機能を考えていくのでしょうけれど、それができないのが橋下ですね。ただ怒鳴り散らすだけで、後はお前らが何とかしろ、と。マネジメントが欠如した、個人の頑張りでしか打開できない組織がどうにかなるはずもないでしょうに。

>GXさん

 現状では、橋下が正しいかどうかではなく、橋下の言ったことが正しい、そんな判断が目立ちますね。橋下が言ったからには正しい、と。学力にしても子供のためではないですね。あくまで自分の名誉のために気にかけている……

>水中メガネさん

 本当に狡猾な民間企業の経営者なら、もうちょっと表向きを取り繕って実利を得るものですが、ふむ、橋下は勘定より感情なのでしょう。

>焚火派GALゲー戦線さん

 自民・公明の議員にしても支持者との互恵関係はあるでしょうから、叩くだけじゃ済まないはずなのですよね。そうした互恵関係を嫌う人が「叩くだけ・壊すだけ」の橋下を支持するのでしょうけれど、当面は絶望的かな……

>おさふねさん

 本来なら、民間基準でダメなのはまず橋下のはずなんですよね。そうならないところに、支持するがわの病理を感じないでもありません。勘違いした橋下がこけるのを待つしかないのでしょうかね。

>さらさん

 上にはへつらい、叩きやすい相手をこれ見よがしに叩いてみせるのが橋下流ですからねぇ。ついでに言えば国民(府民)が自分に迎合してくれそうなところでしか強く出られないところもあるでしょうか。仰るように、これぞ衆愚政治というべきものなのでしょうけれど、これを批判すれば国民(府民)の選択なのだからと逆ギレされる、物言えば唇寒しですね。
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今度の敵は朝日新聞 (あぐりこら)
2008-10-20 13:22:53
曰く「口ばっかりで、人の悪口ばっかり言っているような朝日新聞のような大人が増えれば、日本はだめになる」そうですよ。……「朝日新聞」を「橋下徹」に置き換えれば全面的に賛成できるんですがね。

さっそく熱湯浴が大喜びしておりますが、連中は朝日新聞を叩ければどんな電波でもかまわないと思っている節がありますねぇ。まさしく「溶けゆく日本人」。
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