非国民通信

ノーモア・コイズミ

救いようがない

2009-02-11 11:19:37 | ニュース

 一念発起して職に就こうと思っても、経験が必要だったり資格が必要だったり、あるいは誰もが持って生まれたはずもない能力を問われたりと、やる気さえあればどうにかなるというものでもないわけです。しかしまぁ、経済誌(財界誌?)のライターだったら誰にでも務まるような気がしないでもありませんね。どんなに無知であろうとも構わない、労働/雇用の現場で何が起っているのか全く把握できていなくとも構わないようですから。あ、知識や経験は必要なくとも、「経歴」が必要なんでしょうね、きっと。特別なスキルを得られなかったフリーター出身者でも能力的には務まる仕事なんですが……

 で、お笑いダイヤモンドに比べれば知名度は格段に低いもののそのクォリティはヒケを取らないのが宗教法人PHPから出版されている「Voice」です。今回は、そのVioceとgooニュースとの提携記事を見てみましょう。長いので一部だけ抜粋します。

派遣切り・ロスジェネを見捨てるツケ(上)(gooニュース)

この年越し、日比谷公園で派遣の契約打ち切りなどで居場所を失った人々に食住を提供する「年越し派遣村」には予想を上回る500人以上が集まった。働き盛りの30代から40代が半分を超えたのは、バブル後の就職氷河期に就職に失敗した世代が派遣労働に流れ込み、経済危機で切り捨てられたからだ。若者を切り捨てる国に未来はない。

 前半部分は無難な現状分析に見えますが、ツッコミどころは多々あります。「若者を切り捨てる~」と記事には書かれていますが、さすがに40代は若者ではないでしょう。若者が切り捨てられているのは間違いではありませんが、切り捨てられているのが若者だけであるかのように書くようですと誤った印象を与えますね。タイトルには「ロスジェネを見捨てる~」ともありますが、ロスジェネとは対極にあるはずのバブル期入社世代である40代もまた深刻な雇用危機に見舞われているわけです。それともこの論者の修正された時間軸の中では、40代も就職氷河期のロスジェネに含まれるのでしょうか。

多くの企業が、バブル崩壊後、団塊世代の雇用と賃金は守りつつ、成果主義の導入でバブル世代以降の賃金上昇を抑え、ロスジェネ以降の正規雇用を抑制することで総賃金の上昇を抑えた。それが数多くの若年フリーターを生んだ元凶だ。

 で、この辺りから本格的に現実との乖離が始まります。言うまでもなく団塊世代のリストラは相継ぎ(給与の高い中高年を「整理」して給与の安い若者に雇用を置き換えるのが事の起こりだったはずです)、バブル期以降に倍増した自殺者もこの団塊世代に集中しているわけですが、御用学者の間では「なかったこと」になっているようです。ついでに言えば、増加した役員報酬、もっと増加した株主配当、それ以上に増加した内部留保も「なかったこと」になっているのでしょうね。財界の代弁者たる御用学者の主張を、比率的には貧困層が多い極右層や歴史修正主義者が支持する傾向にあるのは、そのロジックが似ているからかも知れません。不都合なことは「なかったこと」にして、代わりに仮想敵からの「被害」を訴えるわけです。

小泉政権時代「痛みを伴う改革」が叫ばれた。しかし実際に痛みを背負わされたのは若者だけだった。改革と並行して整備されるはずのセーフティネットは、どこへいったのか。住居をもたないホームレスやネットカフェ難民には、生活保護さえ支給されない。

 その後、「内定取り消しは悪くない」と企業免責論をぶった後に、こう話を持ってきます。曰く「実際に痛みを背負わされたのは若者だけだった」そうです。嘘は良くない。現にこの論者が前半部で語ったように、派遣村に集った失業者には40代も多かったわけで、それを認めるなら「若者だけ」という言い方は出来ないはずです。増加するホームレスは若者だけなのでしょうか? ネットカフェ難民ならぬ、個室ビデオ店に寝泊まりする「難民」には若者よりも中高年が多かったようですけれど(参考)。

世代間で改革の痛みを分け合うべきではないか。

 で、結びの一文がこれです。世代間で改革の痛みを分け合うべき――ともすると助け合いを訴えているように見えるかも知れませんが、少なくとも2つの欺瞞があります。一つは、これが「世代間で」であって「労使間で」ではないことです。言うまでもなく、この「改革」を経て「得をした」世代は存在しません。世代によって多少の差異はあるにせよ、どの世代も「痛み」を被りました(そもそも、若者世代が等しく貧しいわけでもないですし)。一番わかりやすい例は給与所得の減少ですが、ではその減少分(それに加えて、戦後最長の景気回復で上積みされた分)はどこに「消えた」のでしょうか? 投資家への配当や内部留保は、その手の人の頭の中では「なかった」ことになっているのかも知れませんが、それはプロパガンダであって現実ではありません。そして働く人の取り分を減らして企業の取り分を増やした結果の「痛み」であるなら、その「痛み」は誰と分かちあうべきなのでしょうか? 雇用主/投資家と労働者の間で痛みを分かち合えと言うのなら当たり前のことですが、世代間で分かち合えと騙るのは、あくまで世代間の(被害妄想によって拡張された)格差だけが問題であるかのように見せかけるものであり、雇用主/投資家を免責しようとする偽りです。

 もう一つは、「痛み」への対処として「分け合う」ことが自明視されていることです。そもそも、この「痛み」自体が不要なもの、「痛み」を取り去ってしまえば、わざわざ「分け合う」必要はないはずです。この「痛み」は必然だったのでしょうか、それとも人為的に作られたのでしょうか? たしかに、以前から「痛み」の兆候はありましたが、それが急速に進行したのは、若者が熱烈に支持した小泉政権あってのことです。「痛み」の存在そのものは否定しない、積極的に「痛み」を増やしておきながら、それを「分け合うべき」と説くとしたら不誠実どころか詐欺みたいなものです。不必要な「痛み」を増やさないこと、ムダに生み出された「痛み」の元を取り除くことを主張するならわかるのですが、そうではなくあくまで「分け合う」ことで「痛み」に耐えよと説くのは、要するに「痛み」そのものには賛成だから、小泉改革は正しい、小泉改革に責任はないと、そう印象づけることで矛先を逸らしたいからでしょうね。まぁ要するに若者の境遇に同情するフリを装いつつ、その実は政財界を守ろうとする、ありふれた言説です。

 

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9 コメント

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たとえば (Bill McCreary)
2009-02-11 12:50:14
先日拙ブログの記事でも揶揄させていただいたのですが、「日本は先軍政治の国ではない」と題して、現実の経済問題や雇用問題に一切言及せず時代錯誤なイデオロギーを振り回すシンクタンクについて書きました。
http://blog.goo.ne.jp/mccreary/e/8ec07221ef9e4430adbc4571fc25e4e0

で、極右の歴史修正主義かつ差別雑誌「will」の最新号がまたひどい。たとえば

>三品純:世にも奇妙な「格差・貧困論者」たち
>三宮幸子:「派遣切り」と煽るメディアの無定見

といった記事があります。内容は未読ですので、読んで突っ込むところがありましたら拙ブログで記事にしたいと思っています。

以上、財界そのものの「Voice」が上のような記事を書くのはある意味当然でしょうが、ほかの極右の連中も考えはそっくりです。まあ、およそ現実感覚のないひとたちです。


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Unknown (非国民通信管理人)
2009-02-11 14:34:16
>Bill McCrearyさん

 結局、極右層は現実を語れば語るほど、自分の足下が崩れていくものですから、「夢」を語るほかないのでしょう。仮想の被害を語って、それへの「備え」を説くわけですが、なんともおめでたいと言いますか……
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何でも運命にされちゃ困る(苦笑) (ふみたけ)
2009-02-11 17:22:04
ロスジェネ論って、悪質な運命論のそれで恨まれる身になって考えると、それが如何に理不尽極まりないかもっと冷静に考えるべきだと危惧しています。
悪質な運命論や出来もしない自己責任論から離れると、今必要なのは「仕事を介して社会に参画する機会を奪われた被害」を如何に救済するか?に絞るべきでしょう。
大変な時だからこそ、何を優先し何をすべきかを冷静に考えないと、また「失われた10年論」を懲りずに続ける羽目に陥ると思います。
まず尊重すべきは「人間」であり、それを見落とした話を今はすべきでないはずなんですけど、どうも保身に走るあまり、助けを求める手を払いのけようとする邪な連中がいる事が情けない。
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ああ (介護員)
2009-02-11 19:00:29
若者 派遣 ロスジェネ 俺の嫌いな言葉
若者&非正規 貧困
自分自身がワーキングの癖に、なんでだろう
若者の派遣労働者と非正規労働者の問題点しか取り上げない運動関係者にも
だから俺は捻くれる
自分の性格‥はいはい自己責任 判ってまして
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Unknown (非国民通信管理人)
2009-02-11 23:37:27
>ふみたけさん

 中には「ロスジェネ」を悲劇の主人公に仕立てる感じの論調もありますね。逃れられない運命の結果としてそうなった~みたいな描写も。取るべき対策はちゃんとあるはずなんですが、その辺を考えるよりも対立を煽るような言説も後を絶たないようで。

>介護員さん

 私も「ロスジェネ」なんて言葉はあまり好きになれないですね。どうも特定の年代だけが損をしているのであり、他の年代は既得権益者だ!と見せかける、そうすることで雇用主を免責しようとする文脈で使われることが目立つからでしょうか。定義上は、私の年代でもあるのですが。
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本気か!? (観潮楼)
2009-02-12 00:15:23
PHPといえば、同根とも言えるのが松下政経塾。
山井和則という例外はあるにしろ、
そこの構成員を多く抱える民主党が果たして真に反貧困を訴える気があるのか、
疑いが拭えません。
労組にしろ、電機連合は派遣法改正に反対ですし、
この前の『サンプロ』派遣法改正リポでも反対していた労組の『蟻の一穴』になったのが、
電機連合の前身・電機労連だったと暴露されたくらいですし。
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世代論は問題のすり替え (七詩)
2009-02-12 06:36:41
そうですね。ロスジェネという言葉自体に今日の貧困格差問題を世代間の問題にしてしまうという危うさを感じています。実際には非正規雇用の比率はロスジェネ以降の世代も含めて高どまりをしていますし、ロスジェネ以前の世代もリストラなどで職を失った人が多勢います。
今の貧困問題は世代間の対立でもなければ、ましてや正規と非正規の対立、国民と公務員の対立でもありません。
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Unknown (はつこめ6花)
2009-02-12 11:32:54
TBありがとうございます。
せっかくの、TBですが、最近目が悪くなって、内容がシリアスであると、慣れない事もあって、長文の黒背景の文章は、本文、引用の理解も苦痛なのです。
そこで、誤解がないことを危惧しながら、お返事しています。

派遣切りされた人たちの手立てが成されないまま、月日が過ぎて、わずかな救済のお金が惜しまれています。
ここに登場する40代の若者と言う表現は、あるいは家庭を持ち得ない40代、中年と言うには、これから基盤を作ってゆく、「若者」という範疇が、本人にも苦痛がないということでしょうか。
体力をみても、政治的な免責の軽さを批判されていらっしょるお気持ちに賛同していますので、災害救済のチーム作りが一刻も早くなされるように、祈っています。

論文の(下)のほうに、対策への願望や、批判が集中していましたので、わたしは(下)のみとりあげました。いずれ、(私見)を追加できたらと考えています。
概ね、豊かな階層の、「頑張った自分意識」と対極においた貧窮民への思いやりのなさに驚いて、日本文化の毀損を感じています。
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Unknown (非国民通信管理人)
2009-02-12 22:37:35
>観潮楼さん

 善き経営者であったと伝えられる松下幸之助ですが、その遺したものはPHPと松下政経塾なのですよね。それはさておき、一口に労組と言ってもピンキリ、中には御用組合もあって、そうした存在は反動主義者が殊更に強調してきたところでもありますが、そうした組合や松下政経塾出身議員が、背後から刃を振り下ろす……なんて不安がないでもありません。

>七詩さん

 もとより、賃金の高い中高年、団塊世代の整理解雇(自主退職の強要)から始まっているわけですから、その辺の経緯を飛ばして、さも特定の世代だけが割を食ったかのように見せかける論調は問題を見誤らせるばかりですよね。問題の大元はもっと別のところにあるはずですが、どうにも「矛先を逸らす」ことを目論んでいる人が多いようです。

>はつこめ6花さん

 同じ記事を引用されているからには、問題意識は共有できるかとTBを送らせていただきました。記事本文をご理解いただければと思います。
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