非国民通信

ノーモア・コイズミ

先軍主義者が恐れること

2009-04-02 22:57:49 | ニュース

 ふと、扶桑社の雑誌の中吊り広告が目に止まりました。注目したのはこんなところ――

ポンコツ兵器[テポドン]は怖くない!

射程8000Kmの大陸間弾道ミサイル!って威勢はいいが、
その張り子の虎ぶりは大爆笑

【担当者からのコメント】
4月初めにもミサイルを発射すると予告している北朝鮮。
新聞やテレビでは射程距離8000㎞の大陸間弾道ミサイルだと騒ぎたて、米軍や政府までもが、万が一、日本に墜落した場合に備えて、イージス艦やパトリオットまで配備している物々しさだ。
しかし、06年の実験ではたった40秒で墜落しており、今回もまともに飛ぶかすらわからない。本当にそんな高性能なのか? そこで軍事評論家たちに話を聞くと、テポドンのポンコツぶりが次々と明らかになった。

 例によって、中味は読んでません。でも、この手の週刊誌のキモはあくまで中吊り広告ですから、これで十分ですよね? ……で、テポドンをポンコツだと、張り子の虎だと言い切っています。私もそう思います。そのことに意外性は感じませんが、扶桑社の雑誌がこういうことを掲載したことには意外性を感じます。扶桑社だったらテポドンのポンコツぶりを笑うよりも、その脅威を煽りたいはず、そうした方が読者からも歓迎されそうなものですが、これも週刊誌らしいまとまりのなさでしょうか。

 考えようによっては、北朝鮮(あるいは、中国など)を最も高く評価しているのは右派、排外主義者、先軍主義者と言えます。反対に左翼は北朝鮮のことを全く評価していません。テポドンをポンコツと笑う扶桑社の雑誌と似たような評価を、常日頃から北朝鮮に対して下しているのが左翼です。北朝鮮など寒風吹き荒ぶあばら屋に引き籠もる駄々っ子のようなもの、それが花火を振り回して息巻いている姿に、ほとほと呆れている――そんなものです。しかし、右派の北朝鮮増は違います、右派の思い描く北朝鮮は、もっと立派な、もっと大きな存在ではないでしょうか?

 他国の脅威を必要とする人々は、必然的に仮想敵国を「大きく」描き出さざるを得ません。仮想敵国を「小さく」描いてしまっては、誰もその脅威を信じないですから。仮想敵国を現実よりも遥かに大きく印象づけることで、初めてその脅威を真に迫ったものと感じさせることが出来るわけです。ゆえに、「防衛」と称して軍拡を訴える人は、仮想敵国である北朝鮮や中国を、実力以上に高く評価しなければならないジレンマに遭遇します。北朝鮮は嫌いだけれど、その北朝鮮を矮小化してしまうと、北朝鮮に対する「備え」の必然性が薄れてしまう、北朝鮮に対する軍事的な「備え」を必要に見せるためには、北朝鮮を現実よりも立派なものとして扱わなければならなくなるのです。

参考、日本は対等以下ってことかな?

 2007年に台湾の李登輝氏は来日に際して「(日本は)中国と対等に張り合う力を持つよう努力すべきだ」と語りました。この発言が成り立つには、日本が中国よりも下に位置する、今の時点では中国に与する力が日本にはない、そういう認識を前提とします。「親日」とされる人の発言なら、こんなものでしょうね。ここにも右翼、排外主義者、先軍主義者のジレンマが現れています。中国を小さく描いてしまうと、それに対する備えの必要性が薄れてしまう、軍拡を訴えるためには、中国を日本より「上」に置かないといけないわけですから。

 日頃、北朝鮮を(その政府と国民を同一視した上で)侮蔑して止まない人ほど、反対にテポドンの性能は高く評価したがるのではないでしょうか。テポドンの脅威が大きければ大きいほど、「敵」として北朝鮮が強く意識される、軍備増強や軍隊の超法規的措置を訴えるにも好都合です。それが扶桑社の雑誌のように「テポドンはポンコツ、怖くないよ」と言われてしまったら全ては台無しですね。怖くないなら、莫大な予算を投じ、住民の生活圏に踏み込んでまで「防衛」に励む必然性も失われてしまいますから。それこそ、右寄りの人々の最も恐れる事態でしょう。

 本物の軍事評論家と、軍事評論家を称した単なる先軍主義者の違いは、こういう場面でこそ鮮明になります。本物の軍事評論家は、仮想敵国がいかに弱く、技術的に立ち後れていたとしても、その事実を隠さず、ありのままを語ります。「脅威ではない」と認めることも辞さないものです。一方で先軍主義者が仮想敵国の「弱さ」「小ささ」を受け容れることはありません。それを認めてしまえば、彼らが「平和のため」「防衛のため」と称して訴える軍隊優先主義の論拠が消滅してしまいますから。ゆえに先軍主義者は仮想敵国(北朝鮮でも中国でもロシアでもいいですが)の戦力を過大に語り続けざるを得ないわけです。そういう制約のゆえに、しばしば彼らは事実をねじ曲げねばならない、情報源が海外メディアだったりすれば、誤訳と断言したり「超訳」や恣意的な抜粋を駆使して何とか彼らの世界観を保とうともするようですが、ふむ、今回の扶桑社の雑誌の特集は、どう評価されているのでしょうね。その手の人からすれば、絶対に受け容れられないことのような気がしますが。

 

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27 コメント

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Unknown (おおいけ)
2009-04-02 23:53:16
いたずらに脅威をあおり、感情的な意見を引き出す報道には辟易しますね。

万が一の日本国内への落下の危険を考えると、破壊も含めたさまざまな対策そのものは否定できないと思います。
しかし、今にも戦争になるかような、不安と敵意をあおる宣伝、報道はまずいと思います。

私は、今回の騒動は北朝鮮が、日本と中韓など他国との間に温度差を作り出し、周辺国の足並みを乱させて
外交を有利にすすめようとする離間策のようなものではないかと思っています。
ここまであおっておいて、ミサイルを撃たない、あるいは本当に「人工衛星」を打ち上げたならば、日本の面目をつぶすだけでなく、
日本国内の対外強硬論を浮き立たせ、それによって日本の脅威を中国や韓国の世論に訴えて、北朝鮮寄りにもっていく、
これまで六カ国協議を崩したがり、日本外しを試みてきた北朝鮮の外交姿勢からは十分にありえると思います。

あくまで仮説とはいえ、対外強硬論が「敵国」を利することもある、ということぐらいは、政治家ならばわかるはずだと思います。

右派の政治家から、こうした疑念の声が出れば、たいしたものなのですが・・・
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常識は通じない (DADADEDEDA)
2009-04-03 03:07:22
国士様(笑)たちは単に、彼らの嫌いな者たちを“否定的な地位”に位置付けたいだけです。
例えば、相手の欠点をあげつらうことで相手を“劣等な奴ら”という地位に位置付ける、という具合にです。
他に、相手の凶悪さと強大さを言いたてることで相手を“巨悪”という地位に位置付ける、というのもあります。
国士様たちはその日その日の気分によって、彼らの嫌いな者を、ある時は“劣等な奴ら”と位置付け、またある時は“巨悪”と位置付けたりします(その他にも色々な“否定的な地位”があるでしょう)。
“劣等な奴ら”と“巨悪”は往々にして矛盾しますが(後者は倫理的にはともかく、能力的にはむしろ優等だというニュアンスを含むので)、違大なる国士様はそんな細かいことは気にしないw 嫌いな奴を“否定的な地位”に位置付けられればそれでいい。どの“否定的な地位”を選ぶかは気分次第ってワケです。
国士様(笑)たちにとっちゃ、発言の“一貫性”や“整合性”なんてどうでもいいことなのです。

一般に、左翼は何かを発言する際、内容の一貫性や整合性を重視します。
しかし国士様(笑)たちにその常識は通用しません。(言論人としての最低限の常識だと思うのですがねぇw)
国士様たちの一連の発言を見た時、我々はしばしば、

・・・・・??????


という気分になります。何故か? それは、我々が無意識のうちに間違った前提に立ってしまっているからです。その前提とは即ち、『我々と同じく彼らもまた、発言内容の一貫性や整合性を重視しているはずだ』という前提です。

これ、間違いですから! 連中への過大評価もいいとこです!!ww
本当のところ、彼らに一貫した思想なんて無いのです。あるのは“好き嫌い”だけ・・・・・・。
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Unknown (カックエイ)
2009-04-03 04:42:48
昨年お世話になりましたが
今年初めて書き込みさせて
いただきます。

北のロケット騒ぎをみてると以前
日本のH-2ロケットは
ミサイルだと騒いでた隣国を
思い出します。また
それをバカにしていた
日本のことも思い出します。

今度は日本側が北のロケットの
脅威を煽る。

どこ国も同じですね。

北のロケットの技術が
どの程度のものかまた
日本に落ちてくることがあるのか
ないのか本当のところを知りたいと
思ってロケット技術にくわしい
方のサイトに寄ってみたりしたん
ですが何も解説もなく・・。
まったくこういう肝心な時には
役にたたないサイトだな。笑
と他人のサイトの悪口は
いけませんね。

日本は北のロケットを
打ち落とすといきまいてるけど
一方でロケットを打ち落とすと
有毒な燃料が降ってきて
危ないと主張するマニアもい
たりして
>迎撃して打ち落としても
>落ちてくるのは猛毒の雨
>になる可能性もあります。
>危険極まりないことです。
http://lemonhart.exblog.jp/
4054574/
http://lemonhart.exblog.jp/
11209489/

そもそももし日本に
ロケットが落ちてくる場合に
迎撃なんてものが可能なものかも
疑問でそのあたりも知りたい
のですがよくわからないんですね。

個人的には何も心配して
ないし迎撃に無駄な金を使って
ほしくないとと思うけど
税金の無駄使いにうるさい人も
数千億だかの役にたつのか
たたないのかわからない
迎撃ミサイルの装備には慣用
なんでしょうね。
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北朝鮮 (Bill McCreary)
2009-04-03 07:34:27
なんて、戦闘機はポンコツだし、いうまでもなく自衛隊、米軍、韓国軍とまともに対応できる軍事力ではありません。が、最近でこそひところよりは落ち着いたものの、一部の頭のいかれた連中は北の軍事力その他を大げさに騒いでいました。それも今となってはなんともむなしい気がします。

それにしても北朝鮮て、騒げば騒ぐほど右翼は得をするのですから、彼らの北への過大評価は収まらないでしょうね。巣食う会とかは金正日政権崩壊を望んでいるのでしょうが、それも一つのジレンマではあります。
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Unknown (大木銀太郎)
2009-04-03 10:27:54
 合理。まさしく合理ですが。
連中らは、関係ないんですよね、自分らがいかに不合理であろうと。

 すべて感情ですから。相手は取るに足らない矮小。だけど脅威という感覚は全然平気。

 WBCフィーバーもただの感情の爆発でした。参加国中本気なのは日韓だけ。戦力から見れば韓国だって日本にはるかに及ばない。勝って当たり前の中、そして世界が全然注目していない中、「難攻不落の強大な敵を満身創痍で倒した」ごとくの馬鹿騒ぎっぷり。で、「世界に知らしめた日本の力」ととどめを刺す。

 ネットで情報が開いているこの日本でなんという「主体的情報閉鎖」ぶりでしょう。

 WBCの矛盾は少しでも野球に興味があれば、普通に飛び込んでくる情報です。各国の戦力、モチベーションの問題もしかりです。

 しかし、マスコミ以下国民全員、皆「しらんぷり」です。

 この国では、国民全員が自ら情報を閉じてくれる。権力者には真に有難い国民です。

 すべて「国民=感情の統一」というマジックのなせる技でした。この統制ぶりは、北も真っ青じゃないですか。

 WBCでもできることは勿論テポドンでもできるでしょう。

 敵の矮小化と巨大化は日本では矛盾しないんです。ごく普通の感情なんですね。

 両者ともに最後に「日本人は世界一優秀だ」という文句を引き出すためのツールでしかありませんから。
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個性派w (観潮楼)
2009-04-03 12:51:33
かみうら氏(軍事ジャーナリスト)
「PAC3なんて当たりっこないから税金の無駄ですよ。
当たったなんて言う人もいますが、アレは攻撃目標を決めて撃ったからヤラセ。
こんなんで喜ぶのは防衛汚職でパクられるような人達なの」
おがわ・もりもと氏(軍事マニア)
「何を言うか貴様!万が一でもアメリカ製に欠陥があると思っているのか!
昔から『戦争ごっこはアメリカ製に限る』って言うだろ。
そのためには針小棒大は朝飯前。そうでなきゃ戦争ごっこは続けられないって、
自衛隊で聞かなかったのか」
返信する
新型テポドン (河豚公国(かわぶたこうこく))
2009-04-03 18:34:29
イランのミサイル開発は、100%北朝鮮の技術指導で開発されているんだよね。

それで、実際にイスラエルを射程内に納められるミサイルの開発に成功してるんだよね。

もちろん、核兵器も開発中。

北朝鮮のミサイルとその技術は、少なくとも人を殺す力がある。核兵器の搭載も可能。テポドンは玩具ではないよ。
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飛翔体騒動 (kuroneko)
2009-04-03 23:03:21
TBありがとうございます。

この「飛翔体」についてはいくつかエントリーを書きました。
パキスタンやイランを脅して、北朝鮮と武器取引すると援助しないぞ、というとかアイデアをだしているんだけど。ウヨさんたちって、そういう具体案言わないんですよね。

http://ameblo.jp/kandanoumare/entry-10233971101.html
返信する
何しとんの? (buhi)
2009-04-03 23:19:45
当地では、民放ニュースで「A県は、B県に比べて『ミサイル』対策が立ち遅れている」いうて非難していましたな。ご苦労様です。
夕方のNHKニュースでは、A県の訓練風景を取り上げてましたが、ドランクドラゴンの塚地氏似の県庁職員が、パソコン(!?)にらんで、「某国がミサイル発射しました!」と口頭で伝える伝言ゲーム。
A県警OB主宰の劇団が「振り込め詐欺、騙されないぞ!」というのをやってたのに比べ、1億倍くらい真剣味が無い(笑)。
そんなことやるために県庁市役所入ったわけでないこと、同情しますが(笑)。
隕石が落ちてくるとか、原発が暴発するとかの方が、数万倍可能性高そうですが。
でわ。
返信する
Unknown (非国民通信管理人)
2009-04-03 23:32:15
>おおいけさん

 落下の可能性は0じゃないのかも知れませんが、たぶん車にはねられる確率よりずっと低いでしょう。この程度の「危機」で非常事態体制が敷けるなら安いもの、右派の政治家はほくそ笑んでいるんじゃないですかね。前回のミサイル実験で「金正日に感謝しないといけないな」と言った人が今や首相を務めているくらいですし。

>DADADEDEDAさん

 それは言える話ですね。相手も自分と同じ地平に立っているはずだと、そう信じるのは一見すると他人を尊重する態度に見えますが、実はとんでもない誤りで自分の流儀を他人にも当て嵌める文化的侵略でもあるでしょう。非論理的な連中は、あくまで非論理的な生き物であると、ありのままに評価してやりませんとね……

>カックエイさん

 軍事評論家はロケットだろうとミサイルだろうと予告なしに飛んでくるものを打ち落とすのは無理と言いますね。一方、政府随一のロマンチシストである石破氏は迎撃の可能性について「信じようよ」と語ったそうです。軍隊大好きな人の考えることはこんなものなのでしょう。

>Bill McCrearyさん

 安倍晋三もそうでしたが、巣食う会なんてのも「向かい風」があって初めて浮上できる凧のような存在なのだと思います。北朝鮮が問題を起こせば起こすほど、彼らは世論を味方に付けられる、そういう面では北朝鮮との奇妙な共闘関係が出来ているような気すらしますね。

>大木銀太郎さん

 世界と日本の温度差は著しいようですね、WBCは韓国も付き合ってくれたようですが、今度の打ち上げ騒動では日本ばかりが大騒ぎしているようなフシも。それでも「挙国一致」で騒ぎ立てる機会は逃さないと言いますか、まぁ付き合っていられませんね。

>観潮楼さん

 軍事ジャーナリストと単なるマニアの違いですね。マニアとなるとどうしても軍事への「愛」が前面に出てします。それが針小棒大であるという自覚がある人であれば、まだマシな部類なのでしょうけれど……

>河豚公国さん

 本物の軍事評論家はポンコツをポンコツと認めるけれど、「自分は軍事をわかっている」と思いこんでいるだけの軍隊好きは、それを認めるわけにはいかないんですよね。そこがプロとネット上の妄言屋とで意見の分かれるところ、まぁ本文中で既に書いたことはこれ以上繰り返しませんが。せいぜい頭の中の戦争を楽しんでなさい。

>kuronekoさん

 1個上の河豚公国なる輩が自らサンプルとなって示しているように、その手の人は現実を語りませんから。北朝鮮をどうにかすることではなく、北朝鮮を口実にして軍隊の闊歩できる世界を夢見ることの方が、彼らにとっては大事なのでしょう。

>buhiさん

 テロで死ぬ確率よりも、車に轢かれて死ぬ確率や風邪をこじらせて死ぬ確率の方が何千倍も高いと、マイケル・ムーアが書いていました。「脅威」としての度合いは日常的な諸々の事故や労災に比べれば桁違いに小さいのでしょうけれど、それでも非常事態宣言を出すには格好のネタになっているようです。
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