非国民通信

ノーモア・コイズミ

給与は派遣社員以下

2009-01-11 20:54:40 | ニュース

農林業:「雇用の受け皿」の動き 森林組合、研修生20人を募集へ /鳥取(毎日新聞)

 派遣社員など非正規労働者の「雇い止め」が相次ぐ中、農林業を雇用の受け皿にする動きが出始めている。県内の森林組合などは計20人程度の研修生の募集を3月にも始める。研修終了後は正職員として雇用する意向。また、農林水産省が公表した緊急求人情報によると、県内の農業法人1社が13人の求人情報を掲載した。

 県森林組合連合会によると、研修生の受け入れは林野庁の補助を受けて全国森林組合連合会が実施する「緑の雇用担い手対策事業」を利用。間伐材の伐採といった森林整備などの技術を習得しながら、林業従事者の定着を図る。最長で3年間の研修期間中、研修生には国から助成される月9万円と雇用者の組合などが支払う月数万円とが支給される。

 「やり甲斐」の強調される仕事ほど給料は少ない気がしませんか? 中でも一次産業系統は、概ねそういう傾向があると思います。もっとも、その「やり甲斐」を強調しているのは当の一次産業従事者ではなく、一次産業従事者が増えて欲しいと思っているだけの部外者だったりすることも多いですが。

 学生達に仕事を手伝わせて、片方のグループには普通のバイトより高めの報酬を与えて、もう片方のグループには何も与えないとします。この場合、仕事の内容は同じでも後者のグループの方が、仕事そのものへの満足度は高い、仕事に意義を感じたと回答する人が多くなるそうです。誰しも「ただ働きをした」「扱き使われた」そうは思いたくないものです。そこで金をもらえたなら、「対価はもらったのでOK」となりますが、逆に金をもらえない場合はどうでしょうか? 「カネのために働いた訳じゃない」「自分は意義のある仕事をやったんだ」と、そう自分に言い聞かせる傾向が見られるそうです。給料の低い仕事ほど、「やり甲斐」を強調する方向に傾きがちなのは、こうした理由もあるのかも知れません。

 さて、今日のニュースですが、何でも林業の求人が出ているとか。しかるに支給されるのは月9万円+αだそうです。組合が支払うとされる「月数万円」というのが不確定ですが、たぶん多くはないでしょう。薄給ですね。主として派遣社員などの元非正規労働者を対象とした求人のようですが、派遣社員時代の給与と比べてどうなのでしょうか? 派遣社員時代よりも給料が下がるなら、再就職できても転落に変わりはなさそうです。

 林業だけでなく、農業でも雇用危機を就農増加につなげようという動きが出ている。鳥取農政事務所は昨年12月24日に雇用相談窓口を設置。これまでに2人から相談を受け、そのうち30代男性は、派遣契約が切れて求職中だったという。

 また、鳥取市佐治町で緑地樹木などを生産販売する「竹本園」は、農水省が全国的に取りまとめた緊急求人情報に求人情報を掲載。樹木の苗の生産や販売などに従事する正社員3人とパート10人を今月から募集している。同社は「2~3年従事しないと一人前になることができない。仕事に興味をもって長く続ける人を雇いたい」としている。

 こちらの求人ですが、具体的な給与は報じられていません。とりあえず募集しているのは「正社員3人とパート10人」だそうです。非正規雇用の比率が高いですね。曰く「2~3年従事しないと一人前になることができない。仕事に興味をもって長く続ける人を雇いたい」そうですが、長期雇用が前提ならなおさら正規雇用が望まれる気がします。長く続けて欲しいと言いつつ正規雇用はしない、人件費が安く済む方を選んでしまうのは経営者の性でしょうか。

 例えば収穫期で一時的に人手が足りないから、ちょうど失業している人に当座の仕事を提供する、フルタイムで拘束するのではなく、就職活動が出来るよう時間的に配慮した上で一時的に雇用するというのなら、たぶん善意でしょう。次の仕事が見つかるまでの「つなぎ」を提供してくれるなら、働く人にとっても価値があります。ただ反対に「本気で」農林業に打ち込むとなると、それとは別に就職先を探すのは難しくなる、派遣社員時代よりも給料の少ない仕事に専念せざるを得なくなるわけで、これは求職者にとって好ましいものなのかどうか?

 選ぶ余地がある内は給料の高い方を選んでいたけれど、突然の契約打ち切りで選ぶ余地がない、差し出された仕事を選ぶしかない、こういう状況を「就農増加につなげよう」とするのは、あまり褒められたことではないでしょう。ましてや「選ばなければ仕事はいくらでもある」「どんな仕事でも無職よりはマシだろう」的な風潮も強い中で、派遣社員以下の給与しか用意されていない求人が「雇用の受け皿」として差し出されると、なおさら失業者が追い詰められることにもなりそうです。本当に仕事がないなら失業も「致し方のないこと」と同情されるかも知れませんが、逆に月給9万円の仕事があるのに就業しない状況だと「選り好みしている」とばかりにバッシングに回る人も増えるでしょうし。派遣社員時代より高い給与を出せないのなら、それは貧困ビジネスと変わらなくなってしまいます。

 

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24 コメント

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だーかーらー (観潮楼)
2009-01-11 22:26:32
となれば農業ビジネスの出番と思う向きも出るでしょうが、
『天候に左右』『各作物の絶望的な単価の低さ』がネックで、
参入即成功といかないのが痛いところ。
やはりある程度の所得補償とセットにしないと就農策は成功しないのでは。
とにかく貧乏暇なしのまま就農者を増やすマネだけは避けなければなりません。
そうでなくても『選り好み批判』が強まれば、
再三言いますが、行き着く先は『徴農論』でしょう。
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かくして愚かな歴史は繰り返される (ふみたけ)
2009-01-11 22:28:14
林業自体が農林政策の失政でおおよそ儲からない構造と化してますしね。
状況は把握してましたので、今更驚かないですが、やりがいや義務だけで満足しろというのは幾等なんでも無理でしょう。
これを機会にというのも虫が良過ぎますが、農林事業を儲かる構造へシフトさせつつ雇用を創出ならわかるのですが、一番怖いのは、仕事があるだけマシといった戦前見られた耐乏精神で克服しろ的な無茶苦茶な事態が起こり得る点でしょうか。
ご紹介した話以外に、刑期を終えた刑務者の就業先としても模索が始まっているようですが、何やらお隣でその昔行われた『下放』然と化している点に、そろそろ誰か突っ込めよと思う今日この頃です。
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貧困ビジネス (介護員)
2009-01-11 22:49:58
貧困ビジネスな労働&労働賃金に反対します
厚生年金健康保険失業保険払ったら残り少ないよ手取り
最低20万からにして頂きたい
最低でも
貧困ビジネスにするな労働を仕事を叫んでも聞いてくれませんかね
人様のblogで叫んでごめんなさい。
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職業選択の自由 (おお)
2009-01-11 23:07:19
ってなんだろう?って思います。

潰れるような会社を選んだのも、労基法無視の労働環境も、製造業派遣になったのもぜーんぶ「職業選択」の結果、だれかの強制でなったわけじゃないでしょ。だから自己責任。
じゃあ次はもっといい選択をしよう、としたら「えり好みするな」?

まあ、すべての人が自分の希望する職業につけるわけもなく、体は一つしかないから二つの仕事を同時には出来ない。
ベーシックインカムでもあるならともかく、大半の人間は働いて給料もらわないと餓死してしまう。
選択の自由というけれど、『自分の手元の選択肢』から「一つを選ぶ」権利がある(これも怪しいかも)だけで
「どれも選ばない」という選択肢はないんですよね。たとえ自分の選択肢が『毒入りパン』と『腐ったパン』しかなくても。
それでも非難する人は「腐ったパンなら死なないかもしれないのに」とか言うんだろうな。
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Unknown (非国民通信管理人)
2009-01-11 23:10:39
>観潮楼さん

 「農業人口を増やしたい」という欲望は体制側にも少なからずありますからね。しかるに、就業先として人気がないから今がある、ならば強制的に就農させる、就農しか選択肢がない状況に追い込む、そういう未来もありそうです。

>ふみたけさん

 林業を「やり甲斐」以外の面でも魅力のある仕事にして、自然と人が集まるようにするなら肯定されるべき政策なのですが、その辺の前段階のないまま人手不足の業界に失業者を押し込んでしまえと、そんな手口ですから手に負えません。それでも無職よりはマシだから耐えろと、そういうノリになっちゃんでしょうね、結局。

>介護員さん

 日本で「健康で文化的な」生活を送るためには、最低でも20万円は必要ですからね。人を雇う値段にはそれくらい保証されてしかるべきですが、儲からない仕事は働く人の取り分もそれ相応、どんな仕事をしていたって、生活に必要な額は変わらないのですけれどね。

>おおさん

 職業選択の自由は保障されねばならないのに、選ぶことが許されないのですから、堪ったものではありませんね。餓えている人に、食べ物なら何でもありがたいだろうと腐ったパンを食わせようとするような、そんな残酷さが有ります。
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>職業選択の自由 (おおいけ)
2009-01-11 23:11:27
自分の名前がちゃんと入っていなかったようです。
すみません。
「おお」は「おおいけ」です。
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正直 (Bill McCreary)
2009-01-11 23:22:47
馬鹿な県知事や代議士が「徴農制」なんてことを唱えるくらいで、どうも農業というものに前向きな希望が見いだしがたいですよね。それでこの給料じゃ、かなり悪い言い方をすれば、足元を見ているという気がします。

自信を持って断言しますけど、東国原も稲田も、自分の子供に農業はさせたくないですよね。
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Unknown (GX)
2009-01-11 23:30:25
 また、誰もやりたがらない仕事にもかかわらず、雇用条件を改善せずに、やりがいを強調することで仕事を押し付けて、雇用条件の解決を図ろうという事例ですね。酷いとしか言いようがないですが、(以前も書きましたが)労働を賛美し、個の幸せよりも、公の安定を美徳する社会では、「どのようなブラックな職でも、就けてさえいれば健全」となるのでしょう。今後も労働力を安く買い叩く職は出てくるでしょう。
 しかし、労働者の立場は悪くなる一方ですね。何か抗議をしようにも、労働者からも反対の声が上がるくらいですし。ここまで来たら、いっそのこと落ちるとこまで落ちて、崩壊してから修復を図った方がいいのではないかとすら思ってしまいます。JRの脱線事故のように。もちろん、その前に何とかするべきなんですがね。
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9万円?生きていけますか? (雲のパン屋)
2009-01-12 00:05:40
ひと言で言って希望がない、

結婚できない、
子供がもてない、
家がもてない、
薬品漬けの食料を食べるしかない、
健康に対して常に不安がつきまとい、
働けなくなった老後は自殺するしか無く
憲法で定められている最低限の生活という物ができない。
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Unknown (非国民通信管理人)
2009-01-12 00:53:47
>Bill McCrearyさん

 その辺はもう、アメリカの兵員募集と同じなんですね、自分の子供を軍隊に送ろうなどとは考えない一方で、仕事を選んでいる余地のない人を押し込もうとしている、決して求職者のため思ってのことではないんですよね。

>GXさん

 自分が失職して初めて、問題の深刻さに気付く人もいますからね。これだけ大規模な派遣切りがあって漸く、非正規雇用の問題を与党が取り上げる、「落ちるとこまで落ち」ないと、社会は動いてくれないところもあるようですし。火傷をする前に火の熱さに気付けるようであって欲しいところですが。

>雲のパン屋さん

 そう言えば本エントリで取り上げた例ですと、あくまで研修扱いですから、社会保障とかはどうなっているのでしょう? 最低賃金以下の給料に(「研修」なので合法?)加えて社会保障もなしなら、働けなくなった後は闇に消えるのみ……
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