非国民通信

ノーモア・コイズミ

単に不況のせいだけじゃない

2010-04-14 22:58:03 | ニュース

年収300万円なら十分“勝ち組”に? 給料の「無限デフレスパイラル」が始まった (DIAMOND online)

 しかし、昨今のサラリーマン世帯は、もはやそれどころではない窮地に陥っている。汗水垂らして働いても「年収300万円」さえままならないのが、現状なのだ。

 厚生労働省の「賃金構造基本統計調査」によれば、2009年度の勤労者の平均年収(時間外手当を含み、賞与は除く)は、年収換算ベースで約382万円と毎年連続で減少を続けている。同じく時間外手当を除いた純粋な賃金(09年6月の所定内給与)だと、全都道府県の3割に及ぶ自治体では、すでに平均200万円台に突入している。

 まさに「年収200万円時代」の到来が、現実のものになりつつある。

 では、これらを一切がっさい「不景気のせいだ」と切り捨てて良いのだろうか。景気の先行きを占う日銀発表の3月短観は、4期連続の改善基調にある。さらに内閣府が発表した2月の景気動向指数(※6日発表、速報値)では、前月比0.4ポイント上昇の100.7で、11カ月連続の上昇を示した。

 消費の回復にはまだ時間を要するだろうが、景況は着実に上向いている。逆に、「景気にかかわらず労働者の給与は下がっている」とも言える。

 普通の人の手元にはその恩恵が巡ってこないだけに気づきにくいことですが、極めて小幅な動きながらも景気は回復基調に入ったみたいですね。例によって世界経済の回復基調と比べると実に緩やかなものですけれど、とりあえずマイナス方向ではなくなっているようです。2000年代は、輸出企業の「お客様」であるアメリカや中国のおかげで「戦後最長の景気回復」があったわけですが、今回も似たようなものでしょうか。いくら景気回復が続いても労働者の給与が下がり続けるところも相変わらずです。

 「私の職場では、ここ数年、不況による経営再建という名目で、毎年のように給与改定が行なわれ、実質的に社員の懐は潤わない体制になっているのが現状です。同じ仕事量をこなし、同じくらいの実績をあげていても、月額の手取りが30万円台から20万円程度に下がったスタッフもいるほどです」

 そう語るのは、大手サービス業で働く20代の人事部員だ。全国に100軒以上の店舗を展開し、都内に運営本部を置く同社では、従来の「基本給+歩合給」のシステムが、昨年撤廃されたという。

 具体的には、歩合給制を廃止する代わりに固定給をアップし、全体の業績を賞与に反映させる方針に変更された。しかし、「全社的な業績は芳しくないので、個人でそれなりの売り上げを立てているスタッフにとって、満足のいく賞与が支払われることはありません」というから、現場から不満の声が頻出するのは必然だ。

 「これまでは、キャリアに関わらず実績に応じて報酬が得られることで現場の士気は高められていました。しかし経営側としては、人件費支出をある程度固定化したいという思惑があるようです。売り上げ向上に目を向けるよりも、支出を抑えることに躍起になっている印象を受けますね」

 総じて財界の論調、とりわけ週刊ダイヤモンドの論調としては、経済成長よりも構造改革/規制緩和を通じた雇用者優位の力関係の構築(人件費抑制)に重きが置かれているわけですが、例示されている「大手サービス業」も似たような状況と推測されます。固定給アップと言えば聞こえは良いですが、トータルで見れば手取りの減少につながる、人件費抑制につながっているみたいですね。人件費抑制のためなら、もはや成果主義すら古いのかも知れません。成果主義なら「成果」が上がれば給与も上げなければなりませんが、それすら会社にとっては抑え込みたいところのようです。

 お笑いダイヤモンドの論説委員である辻広雅文氏は、その虚妄の上に虚妄を重ねた作文の中で「人件費枠を拡大するわけにいかない」と力強く断言していました(参考)。それは今の時点では現実ではないのですが、経営側や財界誌の思惑として、是非とも実現させたいことなのでしょう。「経営側としては、人件費支出をある程度固定化したいという思惑がある」と現役の人事部員も指摘しているわけです。業績が伸びても、成果が上がっても人件費は低く抑え込む、そういう仕組みが目指されているのでしょう。

 つまり、それだけ台所事情が圧迫されていると推察できる。また、別の中小・建設事業者スタッフからは、次のような制度“改悪”の体験談も聞かれる。

 「月給の支給額自体は維持されているのですが、昨年の給与改定によって内訳が大きく変更されました。それまでは約15万円が基本給で、そこに各種手当てが上乗せされる形を採っていたのに、改定によって基本給が8万円に下がり、新たに職務給などの名目が新設されたんです。賞与はこの基本給ベースで“○ヵ月分”と算出されますから、同じ賞与2ヵ月分支給となっても、金額は半減ということになります」(30代男性)

 同社は、退職金を「基本給×勤続年数×支給率」で算出する規定になっているが、急遽基本給を半額に下げられたことで、社内には戸惑いの声が噴出しているという。転職さえ視野に入れるスタッフにとって、既得権が突然無実化されるのはあまりに痛い。

 前出の辻広氏や城繁幸、八代尚宏といった占い師が描き出す創作世界では、正社員の「既得権」は手厚く保護されていて経営側には手出しできないことになっています。しかるに現実の世界ではどうでしょうか。あの手この手で社員の給与は引き下げられ、退職金の算出基準すら容易く変更されてしまうわけです。今や年収300万円ですら厳しく、将来的な収入も下がる危険性に晒されている、辻広や城、八代の書くファンタジー世界では正社員の給与は下げられないものとも設定されていますが、そういう世界を実現させるためにはどうしたらいいのでしょうね。

年功序列など、もう望むべくもない 落としどころは「実績連動給」か?

 ……で、引用したコラムの最終項の見出しがこれです。この辺、所詮はダイヤモンドかという感じですね。まぁ、雇用者側からすれば毎年賃金を上げていかねばならない年功序列など、もう望むべくもないことなのでしょう(労働者側から見れば、「必要に応じて受け取る」に近い賃金体系だったのですが)。そして代案として挙げられたのが「実績連動給」とのこと、これはどうでしょうか。好況でも不況でも賃金が下がり続ける現行の賃金体系に比べれば、業績の良いときは賃金が上がる分だけマシにも見えます。ただし、好業績なら給与微増、不況なら給与激減、かつ定期昇給なしでトータルの給与はマイナスなんてことになりそうな気がしてなりません。そもそも不況だからと言って必要な生活費が減るわけではありませんから、何ともリスクの高い方式です。そのリスクを埋め合わせるのに十分なだけの高給であれば結構なことですが、それだけの高給を用意できる会社なら年功序列賃金を維持できるだけの経営体力があるでしょう。とりあえず、平凡な人間が普通に働いていれば給料が上がっていく、そういうプランは考えられていないようです。

 

 ←応援よろしくお願いします

 

参考1、じつは派遣より悲惨!? “ブラック化”する外食・小売チェーンの正社員たち(DIAMOND online)

 こちらも、現状をよく伝える記事です。例によって最後は個人に努力を求めるようなニュアンスも漂っているのですが、リンク先のコラムは掲載誌の中ではマトモな部類に入ります。特に注釈はいらないと思いますので、暇だったらリンク先を読んでください。

参考2、「デフレ・スパイラル論」は間違い! 給与が減るのは企業利益減少のためではない(DIAMOND online)

 こちらは色々と突っ込みどころや誇張も多い記事ですが、「給与が減るのは企業利益減少のためではない」ことに関しては適切に説明されています。結論として「企業利益は大きく変動するが、給与はそれとは関わりなく長期的に下落を続けている」ことを挙げ、給与減の理由を不況に求めることの誤りを説くわけです。やや極論に過ぎるところもあるように思いますが、不況やデフレを人件費削減の口実に使うのは「新興国と競合するビジネスモデルから脱却できない企業のエクスキューズであり、責任転嫁である」との指摘は意味があるでしょう。デフレも不況も一因ですけれど、それを言い訳にするケースが多すぎますから。


コメント (11)    この記事についてブログを書く
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« セーフティネットは穴だらけ | トップ | 子どもを檻に入れて監視したい »
最新の画像もっと見る

11 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
不況の神格化 (魚)
2010-04-15 00:47:57
不況という言葉がマジックワード化していますね。
不況だから賃下げしていい。
不況だからリストラしていい。
不況だから内定を取り消していい。

しかし雇用者側も、それを全く疑わずに乗っかるんですよね。
責任を回避したがる国民性のせいか、不況を理由にして自分の不遇を正当化しようとする。
実際には景気が上向いていたとしても。。

また、景気を天気と同じように考えていて、景気を自発的に「良くする」という考え方が国中で欠けていると思います。
結果起こるのは組織の構造的なリストラクチャリングではなく、ただの人件費の切り下げ。
こんなことをいつまで続ける気なんでしょうかね。
Unknown (ぽんぽん)
2010-04-15 10:33:17
「戦後最長の景気回復」というのは期間が長く持続しただけで、成長率は物凄く低かったんですよね。株価チャートを見ると一目瞭然ですが…。

バブル~現在の日経平均株価チャート
http://uk.finance.yahoo.com/q/bc?s=^N225&t=my&l=off&z=m&q=l&c=

そもそも2000年代初めのプチバブルは別名「リストラバブル」とも呼ばれ、不採算部門の切捨てや労働者の解雇・賃下げなどによるコスト削減によって利益が増えたことを囃したものでしたし…。
Unknown (非国民通信管理人)
2010-04-15 18:49:00
>魚さん

 不況だと買い手市場になりがちですが、それに加えて不況を言い訳にした賃下げ、リストラ、内定取り消しなど、雇用側のやりたい放題になりつつありますね。これはある意味、経営側にとっては居心地の良い世界であり、だからこそ景気回復への意欲も乏しいのかも知れません。

>ぽんぽんさん

 成長率の「緩やかさ」に関しては拙ブログでも何度となく取り上げてきたわけですけれど、ただそれだ不況の代替物のような使われ方をされているところに危うさがあると思います。不況を理由にした賃下げやリストラの正当化と同様のロジックで、景気回復の緩やかさを理由に賃下げやリストラが正当化され続けるのを黙ってみているとしたら、何とも救いようのないことです。
まあ、ちょっとくらいは企業にも同情もするのですが (くろ)
2010-04-15 19:05:45
会社を辞めて中小企業という名の我が家(自営業)に戻ってわかったのですが、それは銀行というものの凄まじさ。

うちは3チャン経営ですから減らしようもないのですけど、あそこから融資を受けているとまずまず人件費減らせ、合理化しろ以外の言葉を知らないのか、と思わざるを得ない時もあり。

銀行が全部悪い、ということにしちゃうと企業を庇いすぎることになっちゃうんでしょうけどね。

わたしが元いた会社は、昔々のいい時代の頃はお金が入れば社員に還元していたような、ある意味銀行から見れば「バカな経営」だったようで。
傾いて色々なハイエナ・・・もとい、商社やら銀行やらが入った頃には商社と銀行を養うために社員が働いているような感じでしたね。

んで、食品産業の実体というのは概ね記事の通りです。
そんな会社の中でも出世するような人は要領がいい人でハイエナ・・・ではなく上に取り入って出世するようで。
逆に出生しない人は一日16時間の勤務なんて、まだ可愛い方でしたよ。

一番忙しい時期なんて奥さんと、お隣に住む奥さんの知人にも手伝って貰っていた上司がいましたが、寝るのは営業者の中で早朝5時からの2~3時間、って感じでしたもの。

そういう仕事をしている人に支えられているのに、経営側には永遠にわからなかったようでした。

あまりにあまりの経営状態だったので商社も途中から手を引いてくれましたけどね。

あ、わたしも無能ながら色々な場所をやられました。運転中に突然ブラックアウトする状態が長く続いたので会社をやめましたけど、まあ、振り返ってみるといい経験だったかな、と。
主としてこんな偏屈な性格になれたという辺りには会社の恩恵を多分に受けています。相手にも結構迷惑を掛けたので、まあ、お互い様と恨んではいませんけど(相手の方がわたしを恨んでいる可能性もありますけど)
Unknown (ピンク映画好き)
2010-04-15 21:29:19
今後の日本は勤勉で優秀な人材が育たなくなって行くんでしょうね。
技術立国も終焉か・・・
マンガやアニメなどのソフトも規制で骨抜きにされるようだし、日本終了かな。
Unknown (非国民通信管理人)
2010-04-15 22:06:50
>くろさん

 雇用主と被雇用者の関係もさることながら、企業同士の関係もありますからね。派遣会社なんかも割と叩かれがちですが、その実は派遣会社も派遣先企業のわがままに振り回されて疲弊していたりしますし。結局、立場の強い側が立場の弱い相手に好き放題要求する世界なのでしょう。

>ピンク映画好きさん

 どこでも「コミュニケーション能力」ばかりが問われ、「とんがった」人材が芽を出す機会は減っているように感じますね。マンガやアニメも何かと自主規制が求められるだけに、、「お約束」に沿った大人しいものではないと世に出られなくなりそうですし。
このスレッドと (最下層公務員)
2010-04-15 22:16:18
海外での労働者を使いこなせないと言う面を合わせて考えると、経済界の連中は社畜しか雇えない無能な集団になっているんじゃないかと思えます。
あまりに経営者にとってぬるま湯につかり過ぎて、自らの体重を支えられなくなってる。労使はせめぎあってなんぼです。しかも、世襲と言う世にも麗しい慣習。未来がないのはなにも貧困層だけではないですね。
素人が経済を知るために (ヒイロ)
2010-04-15 22:36:57
「誰が何を言っているか」を考えて是々非々で捉える必要があるものの、それが出来ていないからエコノミスト様とかコンサルタント様に欺される原因と言えます。

内橋克人とか宇沢弘文などの著書に触れれば「こんな現実はダメだ」と思うのですが、小馬鹿にする連中がいるから世話がないです。
古典に拠れば、マックスヴェーバーにマルサス、ケインズやマルクスなどいるのですが。
Unknown (非国民通信管理人)
2010-04-15 23:41:41
>最下層公務員さん

 経営力の欠如も時に指摘されているわけですけれど、労働者の扱い方という点でも能力不足を露呈させていると言えそうですね。圧倒的に従順な日本の労働者に甘やかされてきただけに、社畜の供給が不足してしまうと現状を嘆くことしかできなくなってしまう、それが日本の経済界なのかも知れません。

>ヒイロさん

 大方のエコノミストやコンサルタントは、いわば男芸者みたいなものですからね。顧客と一緒になって「わかったフリ」をしてみせるのが仕事ですから、現実に即したことなど言えないのでしょう。
契約終了/本当の優しさ (とーみん)
2010-04-16 03:13:56
3年前派遣で働き始めた、社員:派遣=1:9の勤務先、
当時めちゃくちゃだった業務を、派遣みんなで力を合わせて劇的に改善した結果、
部署全体を別会社に格安で業務委託することに成功し、
私は、晴れて4月末で契約終了=無職(あと数ヶ月で計30名以上の派遣全員が契約終了)となりました。
後釜は時給約半分のアルバイト。
生き残ったのは数人の社員のみ。
・・・これが現代日本での、いわゆる労働力流動化の行き着く先なのでしょう。

今の日本で起こっていることは、まさに絵に描いたような「合成の誤謬」。「スパイラル」とは経営者視点の言い訳経済用語で、実際の原因/結果の力関係は明らかに「給与削減→不況」。若しくは「給与削減→(それ自体がインチキな)景気指標のみの回復」でしょう。
「企業にモラルを求めるのが筋違い」と言うのなら、いっそのこと企業を社会保障の主体的担い手から開放「してあげる」のも一つの手ではないか、とすら空想していました。
(例えば、同一労働同一賃金/年金一元化/「正社員」と「それ以外」の区分の禁止等、を実行した上で、年功給や各種手当ての部分を、法人税増税→各個人に応じた支給をするなどで再配分する等々...まあほぼ不可能でしょうが。)
そうしたら、本エントリーでは、企業側の論理だと(既に正社員の給料ですら)「年功序列など、もう望むべくもない」とのこと。
所詮、経営者はこの程度のレベルなのだから、「給料は、本当は実績連動ですらなく、需要と供給の関係のみ」くらい実も蓋も無い本音も認めてあげて(実際既にそうなっていますよね?)、そのかわりに「法人税増税→再配分→消費」で景気の底上げを図るぐらいの強引な事をしないと、最終的にプレイヤー(=企業)全体が倒れてしまう「逆ノンゼロサムゲーム」とでも言うべき状況になりかねない。
そういった手遅れの状況を、(法人税増税を含む)政策で回避して、企業に、ある意味今よりも純粋に競争をさせてあげるくらいの方が、政府の(人にだけじゃなくて)企業に対する、寧ろ本当の「優しさ」なんじゃないか、とすら思いますよ。
決して「法人税減税」なんかじゃあなく、ね。

(そう考えたら、某竹中氏周辺などは、この状況を「わざと」作り出したのかもしれないな、などとあらぬ?ことを勘ぐってしまいました。)


ところで、私は、このゲームの行き着く先を見届けられるのでしょうか?
・・・まあ、とりあえずは就職活動からですかね。とりあえず死なないようにがんばります。

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

ニュース」カテゴリの最新記事