非国民通信

ノーモア・コイズミ

自立支援という名の保護打ち切り計画でしょうか

2010-01-27 22:49:42 | ニュース

生活保護3~5年で打ち切り検討 大阪市長、国に提案へ(朝日新聞)

 全国市町村最多の生活保護受給者がいる大阪市の平松邦夫市長は25日、「働ける人が大阪市で生活保護を受ける場合は市の仕事をやってもらう」などと述べ、働ける受給者に仕事を提供する一方、一定期間内に市の仕事も就職活動もしない場合は保護を打ち切る「有期保護」の導入を検討していることを報道陣に明らかにした。

 一定期間は3~5年程度を検討しているが、打ち切るには生活保護法の改正が必要なため、専門家と協議して年内に市案を国に提出する。自立を促すための有期保護制度は2006年、全国知事会と全国市長会が提案しているが、生活保護は「最後のセーフティーネット」だけに、今後論議を呼びそうだ。

 市によると、働けない事情がなく、仕事が見つからない20~50代の受給者に放置自転車撤去などの仕事を提供する。現行法では、賃金の額に応じて受給者の保護費が減額されるが、賃金の一部は本人の実収入になる。

 また、業者が保護費の大半を家賃などとして吸い上げる「貧困ビジネス」に対抗するため、保護費として家賃分の住宅扶助を出す代わりに市営住宅の空室を提供することも検討しているという。

 大阪市では一昨年末ごろから生活保護の申請が急増。昨年11月現在の受給者は13万5507人で、市民の20人に1人の計算。保護費は10年度当初予算で過去最高の2888億円(うち市負担分722億円)となり、一般会計の歳出の17%を占める見通しだ。

 平松市長は「(働けるのに)たばこを吸いながら『この仕事は僕に合わないから』みたいな人は、大阪市から出て行ってくれ」と語った上で、「雇用創出は市の負担になる難しさがあるが、手をこまねいている時ではない。提案を次々突きつけないと、国が本当に生活保護行政を変える気にならない」と述べた。

 ちょっと大阪市側の意図を測りかねるところもある記事ですね。自治体による直接雇用や住居の提供はむしろ評価できる対応なのですが、それが「たばこを吸いながら『この仕事は僕に合わないから』みたいな人は、大阪市から出て行ってくれ」という動機に基づいているらしいのですから不思議です。まぁ、どういう意図であれ結果的に正しい政策が行われれば問題ないのですけれど、たぶんどこかに落とし穴があるのでしょう。仕事が見つからないから自転車撤去でもやらせてくれと応募者が殺到しても、実は仕事の枠が少なく、そこにあぶれた人は「働けるのに働いていない」として生活保護打ち切りの対象にされてしまうとか……

 以前にも述べたことですが、この「働ける」という定義が実は問題というか、実態に即していないところもあるはずです。担当区の窓口で「働ける」と判断されたからといって、企業の採用窓口で「働ける」と判断されるとは限りませんから。いかに自治体が「働ける」と判断したところで、それで収入が得られるわけでもない以上は意味のないことです。民間企業側が「(この人は)働けない」と判断しているにも関わらず自治体が「働ける」と言い張るのであれば、じゃぁ自治体で直接雇用しろよ、と。だから市が仕事を提供するのは理に適っていますし、しかも生活保護水準以下の仕事を押しつけるのではなく、生活保護手当+αとして給与を支給しようというのですから珍しくも真っ当なセーフティネットの拡充と言えます。市が用意するという仕事の枠が必要な数だけあれば、ですが(まさか市が「働ける」と太鼓判を押しておきながら、求職者に不採用を言い渡したりはしませんよね?)。

 まぁ「有期保護」の導入が主たる目的なのでしょう。規制緩和と同じで、ちょっと抜け道を造れば後はそこから雪崩を打つように新たな規制緩和が続いて雇用が崩壊したように、ここで「有期保護」が認められてしまうと、その次は保護打ち切りの要件緩和が待っているのかも知れません。現行法上では勝手な打ち切りが出来ないようですが、地方自治の拡大の流れの中で「有期保護」が認められれば、今後は自治体が独自の判断で生活保護を打ち切ることが出来るようになる、その辺が狙いなら「たばこを吸いながら~」発言にも納得がいきます。生活保護受給者を追い出したい自治体が、それを可能に出来るようにするための第一歩なのでしょう。

 ちなみに「保護費は10年度当初予算で過去最高の2888億円(うち市負担分722億円)となり、一般会計の歳出の17%を占める見通し」だそうです。う~ん、大阪市の10年度の一般会計の歳出っていくらなんでしょうか。市の発表によると平成21年度の一般会計歳出は1兆6,277億となっています。平成22年度もそう極端な違いはないでしょう。で、保護費2888億円ですから約17%ですね……って、何かおかしくないですか? 保護費2888億円とは総額であって、市が負担するのは722億円です。残りは国などの負担であって、市の財政とは無関係です。では市負担分722億円が市の一般会計歳出の何%を占めるかというと……4%です。う~ん、4%というのは無視できる値ではないかも知れませんが、17%と比べれば随分と軽いものでしょう。不適正な算定を用いてまで「一般会計の歳出の17%を占める」などと書くのは、生活保護受給者が市の財政の重みになっているかのように印象づけたいから、そういう意図を感じます。

 

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8 コメント

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働きたくても、仕事がないじゃない! (介護員)
2010-01-27 23:44:19
生活保護を受けなきゃ
面接も行けない人は居るはず。
その与えられる仕事が、まともな仕事ですか?

仕事があればいいとは行かないな

合う合わないも、出来な出来ない?も

贅沢だがやりたくない仕事なら
お断りですから
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Unknown (シトラス)
2010-01-28 08:00:51
派遣村もそうですが、「清く正しい貧困層」だけ支援したいという事でしょうか。
金がないもんはないままで結構。実直な精神でいてほしい。
とか誰かが言い出しそうです。
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Unknown (伊東勉)
2010-01-28 15:57:09
 こんにちは。
 最近、購読はしていても読む気になれなかった政治活動誌を見ていますが、一年前の雑誌で「生活保護を有期法にしよう」という動きがある事を指摘していた記事がありました。
 その記事によると『20から60歳の間で生活保護を受けられる期間は通算5年』というものにしようという強力な圧力がかかっている、というものです。(他にも生活保護基準の引き下げも)

 「困った時に頼れない“最後のセフティーネット”じゃ意味がないし、こういう事態に陥る人を増やしてきた政治には何もお咎めなしですか」としか感想の言葉ありません。

 自分自身も34歳ですが、精神状態が安定せず、他人とのコミニュケーションが上手く取れない(こうして一人で文書くには大丈夫ですが)のでは仕事は不可能、という事で就職活動すら出来ません。

 自治体が仕事を提供する事はいい事かと思いますが、その行動の様子は要観察で行こうと思います。
 その内関連記事できたら(最近は野球か小説しか書いていません)トラバ送ります。お体ばかりお気をつけてお過ごしください。
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Unknown (非国民通信管理人)
2010-01-28 18:50:32
>介護員さん

 職業選択の自由などどこへやら、ですね。押しつけられた仕事を断ればバッシングされ、保護も打ち切られるというのですから。だいたい、真面目に働くつもりがあるなら仕事は選ぶだろうにと……

>シトラスさん

 諸々の弱者に対して道徳的な正しさを要求するケースが多いですよね。そして道徳的に完璧でなければ弱者ではないとしてバッシングの対象にされる。貧困問題がいつの間にか道徳問題にすり替えられているフシもありそうです。

>伊東勉さん

 通算で5年ですか! 実際、生活保護を受けている人は何らかの病気を抱えている人が多いわけで、それが癒えずとも5年で打ち切りでは、「棄民」と言われてもおかしくないレベルですね。これではセーフティネットではなく、国や自治体の「アリバイ作り」でしかなくなってしまいますから。
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Unknown (HY)
2010-01-28 21:54:52
 とりあえず「働けない」人の事はな~にも考えてないのが、すごい想像力の無さですよね……。
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Unknown (非国民通信管理人)
2010-01-28 23:16:45
>HYさん

 まぁ、その手の人にとって社会保障受給者とは「働けるのに働かない人」であり、「働けない」人の存在など思いもよらないのでしょう。そういうイメージを広めて、社会保障の削減機運をもり立てるのも彼らの仕事なんでしょうかね。
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憲法違反 (ヒイロ)
2010-01-29 23:04:29
25条と98条違反ということは間違いがありません。

最低限度の生活保障もできない、ひいては憲法を尊重して政策を進めることを放棄していると言えます。

ただでさえ、レイシズムを放置していることを言われ続けているのに、国民の生存権を脅かしているのは、対外的に非難されるべきことですから。
返信する
Unknown (非国民通信管理人)
2010-01-29 23:09:47
>ヒイロさん

 まぁ憲法なんかよりも「地方主権」みたいなのが持て囃される時代ですからねぇ。首長は司法に縛られない、中央政府でも与党幹部の疑惑が追及されれば追求した側が悪者扱いされる始末ですから、ましてや憲法なんて誰も守る気がないのでしょう。
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