前原氏の「タカ派外交」批判=反日派配慮の見方も―中国(時事通信)
中国共産党機関紙・人民日報系の環球時報は1日、「前原誠司は外相か国防相か」と題し、前原外相の「タカ派外交」を批判する社説を掲載した。ベトナムでの日中首脳会談見送りについて、「前原外相が駄目にした」としている。
社説は、前原氏を「外相という職務が政治的な極端主義を持ち込むことが許されない職務であることを全く理解していない人物」などと評し、菅直人首相の「人選ミス」を指摘。さらに、尖閣諸島沖で起きた漁船衝突事件への日本の対応に関し、「前原氏の個人的な右傾主義の主張が対中強硬の旗印となり、日本外交が本来持つはずの柔軟性をゼロにしてしまった」と述べている。
また人民日報系の中国誌・環球人物は、前原氏の写真を表紙に掲載し、政府見解と異なる歴史認識を示して更迭された田母神俊雄前航空幕僚長やジャーナリストの桜井よしこさんとともに「日本の3大タカ派」と紹介した。
一方、中国側は今回、首脳会談見送りの理由として前原外相の発言などを前面に出しているが、「中国の対日強硬派の意見が融和派に勝り、胡錦濤指導部として配慮せねば、政権安定に響くと判断した」(日中関係筋)との見方もある。
中国側にも少なからず問題はあると思いますが、前原外相もまた外交関係を泥沼化させる上で一役買っているところはあるでしょうね。何でも「日本の3大タカ派」として田母神や桜井よしことも並び称されたそうで。いかに奇行で世間を騒がせたとは言え既に自衛隊から外れた田母神や民間人に過ぎない桜井と、現職の閣僚である前原を並べるのはちょっと釣り合いがとれない気がしないでもありませんが、中国で知名度の高い「タカ派」となると真っ先に田母神や桜井が出てくるのでしょうか。もうちょっと大物がいるような気がしますけれど、中国側の報道が敢えてスルーしたところもありそうです。
中国メディア「前原外相はトラブルメーカー」集中攻撃 対日批判、一斉報道(産経新聞)
中国メディアが展開する一連の対日批判は、菅直人首相や民主党には触れず、前原外相の個人に集中しているのが特徴だ。
この背景には、前原外相の対中強硬姿勢がネットなどを通じて中国国内に広がれば、反日デモに再び火がつき、社会に対する不満層も吸収する形で反政府デモに発展することを警戒する中国指導部の懸念がある。
中国側には、前原外相を交代させるか、またはその対中強硬発言を封印させるかを求める、日本政府へのメッセージとしたい思惑があるようだ。
せいぜいが菅の「人選ミス」に触れるくらいで、中国メディアからの批判は軒並み前原個人に向けられているとの指摘もあります。中国筋としても国内向けに「強い姿勢」を見せたいところがある一方で問題を拗れさせたくもない思いもある、その辺の妥協の結果として首相や日本政府を敢えてスルーし外相である前原個人を狙い撃ちにしているフシもあるのでしょう(とりわけ冒頭で紹介されている人民日報はその辺が顕著で「前原氏の『個人的な』右傾主義」と批判対象を限定しています)。「反日デモ」として報道されているデモの多くは豊かな沿岸部ではなく貧しい内陸部でこそ発生しており、しばしば日本ではなく中国政府への抗議に発展していることが伝えられています。外交、内政の両面からして中国政府は沈静化を図りたいところでしょう。しかし、その障害となっているのは……
中国政府が事態の沈静化を計る上で障害となる存在は少なくありません。その一つが、中国国民の怒りを煽るような強硬発言を繰り返す隣国の政治家だったりするわけです。ほとぼりも冷めてくれば中国国内でも「融和派」が優位に立てるのでしょうけれど、隣国のタカ派政治家が挑発的な言動を取れば、それに反発する形で世論は「強硬派」に傾いてしまう、胡錦濤指導部としても強硬派の声を無視できなくなってしまうのでしょう。「前原氏の個人的な右傾主義の主張が対日強硬の旗印となり、中国外交が本来持つはずの柔軟性をゼロにしてしまった」とも言うことができるように思います。
日本側が強硬な姿勢を示せば中国側の強硬派が勢いづき、中国側が強硬な態度に出れば日本側の強硬派もまた勢いづく、どこかの国が強硬な姿勢を取れば取るほど、隣国の強硬派が支持を広げてきたのが常でした。例えば北朝鮮のミサイル実験を思い出してください。ミサイル実験の結果、隣国では何が起こったでしょうか。日本では安倍内閣の支持率が急上昇し、当時の外相であった麻生太郎が思わず「金正日に感謝しないといけないな」と漏らしたほどです。一方、太陽政策を採っていた韓国では盧武鉉が大いに批判を浴びることになったわけです。北朝鮮の強硬姿勢によって日韓双方の強硬派は格好の大義名分と融和派への攻撃材料を手に入れた、隣国の強硬姿勢によって強硬派は顕著な利益を得たと言えるのではないでしょうか。
左派あるいはハト派もしくは融和派が国際協調路線を取るのは当然として、考えようによっては右派/タカ派/強硬派もまた隣国と歩調を合わせている、ある意味で協調しているのかも知れません。つまり前原など日本のタカ派が隣国の強硬派に格好の燃料を提供している一方で、中国なりロシアなり北朝鮮なりの強硬派が何かやらかせば、それは日本の右派にとって絶好の機会ともなってきたはずです。大局的に見れば各国の強硬派は互いに塩を送り合い、大義名分を与え合う戦略的互恵関係を築いていると言えます。ともすると排外的に見えがちな連中ではありますが、ある国のタカ派が勢力を伸ばせば、隣国のタカ派は隣国の脅威を説いて自説を正当化しやすくなったり、その実は利害関係を共有する間柄であったりするのです。
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管理人さんの右派がある意味国際協調しているとの考えはとても面白いですね。
EUでもアメリカでも残念ながら排他的勢力が議席を伸ばしているのも全世界的に右派が協調した結果だと考えると非常に興味深いですね。
自民党が極右化したせいもあり、とりわけネット上では曲解されていますけれど、少なくとも保守本流の自民党議員よりは民主党の現行閣僚の方がずっと「右」にいると思うんですよね。そうした右よりのタカ派政治家がお互いに煽り合うことで、国境を越えて正当性を与え合う関係ができつつあるように思えるだけに、これをいかに阻んでいくかが問われるところです。
そういう意味で言うと、いまはともかく首相在任時はかなり中国に遠慮した安倍晋三のポジションは、いろいろ微妙でしたね。
首相在任中の安倍晋三は、良く言えば現実路線で悪く言えばヘタレでしたからね。首相を辞して責任を問われにくい立場に回ってから言いたい放題というのが何とも。政界に占めた地位からすれば「日本の3大タカ派」に居並んでも良さそうなものですが、中国メディアからスルーされたのは首相時とそうでないときの違いもあるがゆえでしょうか。
人為的に作られたものよりも、自然発生的にできあがったものの方が長持ちするところもあるでしょうか。意図して連帯しているのではなく、必然的にそうなってしまうものであるなら、その実は左派の連帯よりも格段に強固なのかも知れません。