非国民通信

ノーモア・コイズミ

民主主義の条件

2024-02-25 21:24:24 | 政治・国際

 さる1月11日、アメリカ人のジャーナリストであるゴンザーロ・リラ氏がウクライナの獄中で死亡しました。氏はウクライナ人と結婚して現地に移住、ゼレンスキー政権に批判的な立場で情報発信を続けていたところ、ウクライナ保安庁に身柄を拘束され、獄中にて死を迎えたわけです。ウクライナでは政府に批判的な野党の活動が禁じられ、ロシア寄りと見なされた政治家は捕虜交換の材料にされている有様ですが、ジャーナリストにとっても言論の自由が失われていることが分かります。

 そして先日はロシアの反体制派活動家として欧米で人気のあったアレクセイ・ナワリヌイが獄中で死亡しました。彼はゴルバチョフやエリツィンの系譜に連なる「西側」から支持を集めた(それとは裏腹にロシア国内で人気のない)タイプの人物であったと言えますが、ゴンザーロ・リラの死が欧米諸国の黙殺で迎えられたのとは裏腹に、ナワリヌイの死はロシアによる殺害と根拠なく断定され、アメリカの傘下にある国々の政府やメディアによって大きく取り上げられているところです。

 政府に批判的な立場を取る人間が急死する、というケースはロシアでもウクライナでも他の国でも多寡はあれ発生しています。ただロシアの場合とウクライナの場合では決定的な違いがあり、ロシアで反体制派が死亡しても、ロシア政府は一貫して関与を否定してきました。一方でウクライナの場合、反体制派が死亡した場合はウクライナ保安庁の「戦果」として堂々とアピールされることが多いです。政敵の殺害を「良くないこと」と扱うのがロシア、政敵の殺害を「勝利」として訴えるのがウクライナ、両政府の性質の違いがよく現れていると言えるでしょうか。そして我が国が「同志国」と位置づけているのは後者の方です。

 誤解されていることが多いのですが、ヒトラーも最初から危険視されていたわけではありません。どれほど東方に勢力を拡大しても「ユダヤ人」を迫害しても、欧米から見たナチスは「反共の同志」であり1940年にフランスへの侵攻が始まるまでヒトラーは西洋の味方でした。西側諸国にとって最大の敵は共産主義であり、ドイツが東方侵略とソヴィエト体制の殲滅に専念している限り英仏は宥和政策を続け、そこにアメリカが干渉することもなかったでしょう。しかしナチス政権はフランス方面にも兵を向け、ヒトラーは人類の敵となったわけです。

 これと似た末路を辿ったのはサダム・フセインで、彼が台頭したのは西側諸国がイスラム革命とその震源地であるイランを脅威と見なしていた時です。このイランに軍事侵攻をする欧米諸国の尖兵としてサダム・フセインはアメリカの後援を得、イラクでの権力を万全のものとしました。しかるにイランではなくクウェートへの軍事侵攻が行われると欧米からの評価は一転、自由と民主主義の敵としてアメリカとその衛星国による一方的な侵略を受けるに至り、専らこの当時のイメージで記憶されていると言えます。

 ゼレンスキーがヒトラーやフセインと同じ末路を辿る可能性を、私は否定しません。今はアメリカの敵であるロシアと対立している「敵の敵」であるが故に自由と民主主義の同志として祭り上げられている段階ですが、このウクライナを舞台とした戦争が終わった後はどうなるでしょうか。失脚して忘れ去られれば彼にとっては幸せな未来、しかしNATOの代理人として権力を維持する未来もまたあり得ます。そうなった時にヒトラーやフセインのように、欧米からの評価を180°覆してしまうような何かが起こる可能性は、誰にも否定できないことでしょう。

 そこでロシアで死亡したナワリヌイですが、彼がどのような人物であったかは知られていない、そもそも気にされてもないように思います。しかるにナイーブな人々にとってはアメリカの敵であるロシアの反体制派、即ち「敵の敵」であると言うだけで全ては用が足りてしまうのかも知れません。極右団体の創設者であり反移民、反ムスリムを掲げ、グルジアとの紛争やクリミア半島の編入時にはロシア政府よりも強硬論を唱えるなど「右から」プーチン政権を批判してきたのがナワリヌイなのですけれど、アメリカ陣営に属する国々からの賞賛は止むことがないわけです。

 ウクライナでの戦争やガザ地区でのジェノサイドを巡って欧米諸国は二重基準であるなどと言われることもあります。ただ私が思うに日米欧は二重基準である以前に「(アメリカの)敵か味方か」という観点でしか物事を判断できていないのではないでしょうか。アメリカの敵であれば全ては悪であり、アメリカの味方であれば全ては正しい、アメリカの「敵の敵」もまたそれに準じる扱いをしていることがナワリヌイの一件からも立証されたと断言できます。まぁ移民排斥や反ムスリムはヨーロッパのトレンドですので、ある意味でナワリヌイは価値観を同じくする同志に違いないのでしょうね。

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