非国民通信

ノーモア・コイズミ

2011年のまとめ

2011-12-31 22:51:35 | 編集雑記

 2011年を振り返ると、やはり大震災とその後の原発事故のことを強く意識せざるを得ませんが、とりわけ私にとって大いに考えさせられたのは原発事故後の言論の変化、中でも左派言論の顕著な右傾化です。つまり、それまでは左派と目されていた人の語ることが、右派の語るそれと劇的な近似を見せるようになった、このことは決定的な転換点として記憶されるべきものでしょう。率直に言って、2011年は少なからぬ左派が理性に背を向けた、まさしく背信の年であったと言えます。

 石原慎太郎が「この津波をうまく利用して我欲を1回洗い落とす必要がある。(津波は)やっぱり天罰だと思う」と発言して世間の反発を買っていたのと時を同じくして、「今回の大震災と大津波、それに伴う原発事故は、低エネルギー社会への転換を促す天からの啓示だったのかも」などと石原と似たようなことを公然と宣った犬畜生もいました。一応は個人ブロガーなので名前は晒しませんが、悔やまれるのはこのような暴言に全く悪びれる様子すらない人非人の本性を見抜くことができず、それまで推薦ブログとして私のブログのリンクに載せていたことです。

 その辺は自らの不明を恥じるばかりですが、ともあれ震災と言うより原発事故を好機と思ったのか自信の奉じる道徳論や文明論の押し売りに励み出す輩は後を絶ちませんでした。一方私は、隣国で軍事衝突が起こったりミサイル実験が繰り返されている最中に日米同盟強化やミサイル防衛計画の増強あるいは核武装論の類いを求める声が強まるようなことがあらば、まずは冷静になることを呼びかけるであろう論者を厳選して推薦ブログとしてリンクしていたつもりなのですが、しかるに原発事故後はどうだったでしょうか。原発事故は天からの啓示とばかりに、捏造やエセ科学、陰謀論やデマをも厭わずネット上で喚き立てる人たちが少なくなかったことには、深く失望させられたと同時に自分自身の人を見る目のなさを思い知らされるばかりです。

 原発事故後には数限りなく真偽の不確かな噂が飛び交うようになりました。事故前であれば脱原発論者の語ることを鵜呑みにしがちであった私ですが、流石にそのままではダメだろうと自分なりに巷説が妥当なものなのかどうか調べていった過程で目にしたのは、科学者や放射線の専門家と反原発を掲げる人々の対立だったわけです。単なる憶測や思い込みに基づいて原発事故を実態とは大きくかけ離れた形へと誇張してみせるジャーナリストや芸能人を信奉する人々が、科学的な知見に沿って放射線の影響や事故の状況について解説する人々を御用学者云々と呼んで悪罵する――外国人や周辺国の脅威を誇張する人を信奉して、融和を説く人を罵倒するような輩は元からいましたが、原発事故後は似たような連中が別のところからも湧いてきたようです。

 客観的なエビデンス抜きに、単に誰かが危険だと感じているからという理由で何かを排除することが許されてしまうのなら、当然のように外国人排除だって正当化されてしまいます。それが絶対に安全かどうかは証明されていない! 予防原則だ! 子供たちを守るためだ!――武田邦彦や早川由紀夫、小出裕章といった人々が善意の人であり正義と信念に沿って行動しているのだと言うのなら、在特会の桜井誠だって同様です。いずれも自分が危険だと思い込んでいるものから日本(に住む人々)を守るべく戦っているのですから。しかし、彼らのエビデンスなき危険視によって排除される人や物の存在を鑑みれば、むしろ彼らが撒き散らす「害」をこそ我々は危惧しなければならない、とりわけ左派こそその辺には敏感であるべきと思うわけです。しかるに原発事故後、偏見を広め排除を進めようとする類いの言論に左派は抗議の声を上げるばかりか、むしろ積極的に賛同していった人が少なくありませんでした。

 この結果として、福島の住民や福島の産品までもが「脅威」として県外から排除の対象とされるケースが相次いでいます。そして「外から」の排除だけではなく、被災地においては「自分自身から」の排除もまた促されているのではないでしょうか。つまり、原発/放射線の脅威を強調するべく、あることないこと「放射能の影響」を吹き込まれた福島居住者の中には、自分はもうダメなのだ、自分はもう子供が産めないのだと、そう信じてしまっている人もいるわけです。他にも「放射能を避けるため」と称して子供を部屋に閉じ込めたり、肉・魚・卵・乳製品を与えないとか、腐敗した米のとぎ汁を吹き付けるなどの児童虐待も一部で見られるようです。全く愚かな話であり迷惑な話でもありますが、原発に対するネガティヴなイメージを広めることこそ己の使命とばかりに、嘘偽りを混ぜ込むことすら躊躇わず福島の居住者に脅しをかけ続ける輩もまたいます。こういう輩こそ左派が戦うべき相手だと思うのですが、しかし当の脅しをかけている人こそが……

 俄に湧いた反原発/放射能ブームで一儲けしようとする業者もいました。高額なエコグッズを売りつけたり再生エネルギーを掲げて自治体から補助金を騙し取ったり、そして放射能の脅威を煽って対策商品を売りさばく等々。そうした悪徳業者が測定した、どう見ても誤った(不自然な)データを全く検証しようともせず紙面に載せては世間に誤解を広める東京新聞みたいな、もはやメディアとしての倫理が完全に欠落した報道機関さえ出てくる有様です。なんともはや、原発事故そのものの被害と言うより、原発事故を好機とばかりに騒ぎ出した連中がもたらした被害の方が深刻なのではないかと思えてきます。こういう連中がもたらした被害をも東京電力がまとめて被るとあらばまさにキリストのごとしですが、流石にそれは無理で税金が投入される、結局のところは我々の社会が未成熟であるが故に生まれた被害を税金という形で贖わされているのかも知れません。原発で事故が起こらないような対策もさることながら、事故に乗じて脅威を煽り、世間に偏見を植え付けては事故周辺域(今回は福島)に纏わる諸々を排除の対象としてしまうような、そうした言動をのさばらせないような対策も安全管理の一貫として今後は求められることでしょう。

 少なからず誇張されて報道された原発作業員の待遇に関しては、憤りの声を上げる人も目立ったものでした。もっとも多重請負によって現場で働く人の取り分が極端に少なくなるとか、事前の説明とは大きく異なる仕事をさせられるなんてのは震災前でも原発以外の職場でも日本では普通に見られることであって、それを今さら騒ぎ出す人を見ると、「いったい今まで、どれほど労働者の置かれた状況に無関心だったのだろう」と嘆息するばかりです。ともあれ原発作業員の待遇に関しては大仰に憤って見せた人が多かったにもかかわらず、一方では現業蔑視を微塵も隠すことなく現場で働く公務員の給与削減を大々的に掲げる政治家が大阪の選挙で圧倒的勝利を収めました。公務員の世界ではホワイトカラーと現場作業員の給与格差が民間に比べると小さいのですが、これを「改革」すると称した橋下が広範な支持を得たわけです。

 たぶん、大多数の有権者は「現場作業員がホワイトカラーと同等の給料をもらっているなんておかしい、現業の給料は低くあって当然だ」と確信しているのでしょう。だから橋下の主張にも自然と頷けたわけです。東京電力なり原発なりを非難するためであれば現場作業員の給与が低く抑えられていることに怒ってみせるけれど、原発「以外」となると話は別なのでしょう。要は東京電力/原発がダメなのであって、別に現場作業員を薄給で働かせることには問題ないと、我々の社会はそう判断したのです。総じて今年は労働者にとっても後退の1年だったと言えます。後先考えない原発停止ドミノの中、平常運転で被災地復興を支えるべき西日本までもが電力不足に陥ってはピーク抑制のために工場労働者は土日や深夜へのシフト勤務を余儀なくされたり、電力会社の一般社員までもが当たり前のように経営責任を負わされ不当なリストラや労働条件の不利益変更を迫られたり(電力会社側が良心的に抵抗してくれたのが唯一の救いです)、こういう中でも左派や労組の多くは沈黙するばかりか原発/電力会社への(ほとんどが事実無根の曲解にまみれた)ネガキャンに努めるばかりであった等々。

 反原発と並んで反TPPもまた、ネット上で左右を結びつけるものとなりました。どっちも虚妄の被害者意識を根底にしているのかな、と感じるところもありますが、こと軍事面では国際協調や「話し合いによる解決」を重んじる風を装いつつ、経済面やとりわけ「食」の問題に関しては純然たる排外主義者に変身する似非ハト派も少なくなかったわけです。元より「右」の人は諸外国を「敵」「日本にとっての脅威」と見なす発想に馴染んでおり、一方で「左」の人間はその反対の立場をとるかと思いきや、対立しているのは軍事面だけで経済や食(農業)分野では「右」と世界観を共有し得ることを2011年のネット世論は如実に示してきたように思います。率直に言ってTPP参加によって起こるとされていることの大半は「既に起こっていること」であり、TPPに参加せずとも「対処しなければならないこと」なので、北朝鮮問題よろしく交渉を断って対岸から相手を罵っては自己の正当性を誇っていたところで何の意味もないのですが。

 左派「政党」に関してもいかがなものでしょうか。昨今では某左派政党が駅前でしきりにTPPと絡めて外国企業の脅威を説いています。もういっそのこと、外国人の脅威もまとめて説いちゃえよ、と思わないでもありません。真面目に考えれば日本人労働者を苦しめているのは他ならぬ日本企業であって、ある企業がどこの国にルーツを持つかを問うては、それが外国であることを理由に危険視するなんてのは馬鹿げた話です。どのみち共産党にとっても今年はポピュリズムに傾倒し(原発やTPPを契機にネット世論との同調も増えました)、民主とも手を組んだ1年であり(結果として「既成政党連合」のイメージを強め橋下陣営を利することになりました)、その独自性も大きく揺らいでいます。2011年は左派にとっての敗北の年であり、左派政党にとっても埋没の年になったのではないでしょうかね。

 

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10 コメント

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今に始まったことに無く (Barguest)
2012-01-01 14:31:07
あけましておめでとうございます 今年もよろしくお願いします。

年を越してのコメントになりましたが、昨年は本当に多くのことがありました。それで多くの方の言論にその影響があったのは当然だと思います。

ただ、私としては左派としてあちこちで語られている言論の変質がおきたのは別段去年から急に起きたことだとは思っていません。

以前エロゲ規制論争でやりあった時に実感したのですが、多くのブロガーがまず自分の考えるあるべき世界観というか道徳観念ありきで語り、エピデンスどころか自分たちの思い込みを無条件に受け入れることを要求している状態でした。

どうも右か左かに関係なく道徳主義と言うか自分の考える ~であるべき論を第一としてそれ以外を悪として排除しようとする姿勢の人が良く目立ちます。

自由主義における至言ですが、“社会において1つの価値観を善として規定することはその他の価値観を悪として抑圧することになる。”と言うのがありますが、彼らは事実ですら自分たちの善から外れれば悪であると考えているのでしょうか。

左派が目指すものがなんであるのか彼ら自身が今一度問い直すべきなのでしょうね。
Unknown (非国民通信管理人)
2012-01-01 18:39:15
>Barguestさん

 こちらこそ、今年もよろしくお願いいたします。

 さて、エロゲ規制論争の時も確かに前兆のごときものはありましたね。素性の怪しい海外団体の言い分を、(日本のことなのに)実態に沿っているかどうか調べようともせず鵜呑みにしたまま規制すべきだなんて言い出す人もいました。案の定、そうした人たちは原発事故後も例によってデマの拡散に邁進しているわけですから、その時点で正体は明らかだったのかも知れません。いずれにせよ、反原発という錦の御旗の元、「事実かどうか」ではなく「(反原発という)目的にかなうか」というレベルで言動を選ぶようになってしまった人も多く、自身の奉じるイデオロギーのためなら不正をも辞さないことを示してくれたわけです。そうしたやり方で得られるものはいったい何なのか、自身の正義に酔いしれる人は考えもしないのかも知れませんが……
Unknown (リンデ)
2012-01-01 18:54:35
明けましておめでとうございます。

原発関連の陰謀論には「原発に反対するとマスコミから追放される」なんていうのもありました。
でも、よくよく考えてみると武田や小出などを一番推しているのはマスコミなんですよね。
陰謀論を盲信している人々はその辺りの矛盾に未だに気付いていないのか、それとも今更考えを改めるのは嫌なので見ないフリをしているのか気になるところではありますが。
Unknown (非国民通信管理人)
2012-01-01 21:34:47
>リンデさん

 明けましておめでとうございます。

 反原発論者の現実無視には、本当に呆れ果てるばかりですね。自説に都合の悪い「現実」からはかたくなに目を背けて、自分の頭の中でこしらえた妄想を現実と置き換える、レイシストがやってきたのと全く同じことを大多数の反原発論者は繰り返しているわけです。こういうことの積み重ねがカルトへとつながっていくのですが、本人は自覚できないものなのでしょう。
Unknown (くり金時)
2012-01-01 21:59:20
明けましておめでとうございます。今年がどういう年になるか、案じていてもしょうがないのですが。(まだ始まったばかりですし。)しかしながら、政治や経済の、先の見えなさを思うと、どうしても暗くなってしまうのですよ。「話し合い」どころか、「押し付け合い」(それはイデオロギーも、責任も同様に。)良い結果だけは、「奪い合う」。情けないですな。せめてこの年末には、「良い年だった」と言いたいのだけど。
Unknown (非国民通信管理人)
2012-01-01 23:15:22
>くり金時さん

 明けましておめでとうございます。

 まぁ政治にも経済にも、明るい兆しはなかなか見えませんね。誰か(官僚など)を悪者に仕立て上げて、それで人気(得票)が稼げてしまうような状況が変わらないと、と思うわけですが、それは有権者の問題でもあるだけに一筋縄ではいきませんし……
Unknown (amanojaku20)
2012-01-02 21:55:02
あけましておめでとうございます。

ポストセブンにあった直木賞受賞者の石田氏のインタビューの言葉に感心しました。
現代人はストレスを常に抱えていてそのはけ口として単純な悪を設定したがる、と石田氏は言っていますが、まぁその通りなんでしょうね。
ぱっと見恵まれている人達を悪に仕立てあげて締め上げても自分の生活が良くなる事は無いのですが・・・

ttp://www.news-postseven.com/archives/20120102_78599.html


Unknown (非国民通信管理人)
2012-01-02 23:20:55
>amanojaku20さん

 明けましておめでとうございます。

 石田衣良氏のインタビューは私も読みました。総じて人気商売の人ほど脱原発という錦の御旗を掲げたがる中でも、石田氏が良識は見せてくれたことは率直に良かったと思います。誰かを悪者にする、不満のはけ口とするやり方が、左派をも浸食するようになった2011年ではありますが、そういう人ばかりではないと思いたいですし。
いいね、させてもらいました。 (鳥居)
2012-01-03 07:11:34
あまりにまともなご意見なので、思わず、いいね、してしまいました。

全ての事象のつながりをまったく考えず、局所的にしか思考しない癖が美しいほどわかりやすく表出した一年だったということなんでしょうかね。
Unknown (非国民通信管理人)
2012-01-03 12:45:50
>鳥居さん

 コメントありがとうございます。この局所的な思考というのは何ともやっかいなもので、あたかも「放射能」だけが問題であるかのように考えてしまう人も多いようで、それ「以外」のリスクがむしろ蔑ろにされた、大いにバランスを欠いた年になってしまいましたね……

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