死神(落語:柳家権太楼演)

2024-03-05 00:00:23 | 落語
古典落語の名作、『死神』。

稼ぎの悪い男が家に帰ると、妻から「稼げないなら出ていけ」と言われ、ついに首を吊ろうと松の木を探していると、貧相な老人に呼び止められる。老人は死神と自称し、「まだ寿命があるのだから医者でもやらないか」と持ち掛ける。

そして、ある呪文と、死を免れない病人とまだ死なない人間の差を教えられる。枕元に死神がいる場合は、もうダメ。足元にいる死神がいる場合は、呪文を唱えると死神がいなくなり助かる。ということで、死神が見えるようにしてくれた上、呪文を教えてもらう。

そして、帰宅してさっそく小さな看板に「いしゃ」と書くと、すぐに大店の番頭が来て、多くの名医から匙を投げられた主人を助けてほしいと哀願される。さっそく初仕事と、病人の元に行けば死神が足元に座っている。しめた、と思い、もったいをつけて呪文を唱えると、死神は退散し、病人は目を覚まし元気になる。

その後も成功が続き、男の手には大金が溜まりだす。ところがその大金を使って、妻を追い出し妾を囲い、関西方面に大名旅行をするようになり、たちまち金はなくなり、妾も去る。

困った男の所に、江戸随一という豪商の番頭が来る、主人が死にかけているが、どうしても家督相続の問題があるので1ヶ月でも延命してほしい、といって二千両を積まれる。渡りに船だ。

ところが、駆け付けてみると、男の枕元に死神が座っていて、病人は虫の息だ。本当に困ると人間の頭脳は煌めくわけで、男は番頭に4人の屈強な男を用意させ病人の周りに配置し、じっと頃合いを待つ。そして半日たち、さすがの死神も疲れてきて、ついウトウトとした瞬間に、合図を出すと4人が布団の四隅をもって瞬時に180度回転させてしまう、と同時に男が呪文を唱えたため目を覚ました死神が慌てて逃げだし、主人は生還し、男は二千両を手にする。

ハイライトはこれから。

二千両を手にした男が帰る道に、現れたのが死神。嫌がる男を洞窟に連れていくと、何本ものロウソクが燃えている。それぞれが人の寿命といい、まもなく燃え尽きるロウソクをみて、「これがあんたのロウソクだ。死に行くものを助けた分、あんたのロウソクが短くなった。まもなく消えるぞ」と言い渡す。泣きながら許しを求めた男に、死神は別のロウソクを渡し、こちらに火を移しなさいとラストチャンスを与える。しかし、消えそうなロウソクが燃え尽きる寸前になっても、手が震えて火が移らない。そして、ついに、「ああ、消える!」ということになり、落語家がバタンと倒れるというのが、正統な『死神』。


ところが、別のサゲもあって、

着火に成功して、単に助かる。
着火には成功しても、うっかり消してしまう。
着火に成功したが、死神が吹き消してしまう。
着火には失敗したが、今度は男が死神になる。

というパターンがあるようだ。

また、最初は「消えた」という予定でも観客の中に本当に消えそうな人がいる場合、生還パターンに変えたりする演者もいるそうだ。

私が聴いたのは互いに姿が見えないオーディオブックによるので、一切容赦なく、「ああ、消えた」という定番コースである。