音楽の大福帳

Yoko Nakamura, 作曲家・中村洋子から、音楽を愛する皆さまへ

■■ グリーグの没後100年、「組曲 ホルベアの時代より」 ■■

2007-12-24 16:17:45 | ★旧・私のアナリーゼ講座
2007/3/30(金)

★1843年6月15日、ノルウェーのベルゲンに生まれたグリーグは、

1907年9月4日、ベルゲンで64歳の生涯を閉じます。

ことしは、ちょうど没後100年です。

ブラームスが、1833年生まれ1897年没ですから、ちょうど10年違いです。


★グリーグは、シューマンゆかりのライプチッヒ音楽院に入学しています。

ブラームスと1855年に、ライプチッヒで初めて会い、1888年と1896年にも再開しています。

この96年は、病気のブラームスへのお見舞いでもありました。


★グリーグのピアノ独奏曲としては「叙情組曲」が有名ですが、

皆様にお薦めしたいのは、「組曲 ホルベアの時代より」

Op40 Fra Holbergs Tid/Suite i gammel Stil.です。

楽譜は、ヘンレ版の Aus Holbergs Zeit Suite im Alten Stil がいいと思います。

この曲は、1884年に劇作家ホルベア(1684~1754)の生誕200年記念祭のためにつくられました。


★ホルベア男爵は、ベルゲン生まれ、主にコペンハーゲンで活躍し、

「デンマーク文学の父」あるいは「北のモリエール」として尊敬されました。

祝賀用のカンタータ(男性合唱曲)とピアノ組曲の2曲が依頼されました。

激しい雪が降るしきる中、広場でホルベアの銅像が除幕され、

グリーグの指揮で、カンタータが初演されました。

グリーグは、レインコートに傘まで差し、合唱団員の口には、雪や霰が舞い込んだそうです。

しかし、熱演の甲斐あり、大成功だったそうです。

その後、室内で「ホルベアの時代から」が、グリーグのピアノで初演されました。


★「ホルベアの時代」は、さらに弦楽合奏曲にも編曲されました。

いまでは、弦楽合奏が演奏される機会が多いのですが、

ピアノ独奏用も演奏しやすく、親しみやすい曲ですので、

コンサートや発表会、レッスンに是非、お薦めしたいと思います。


★しつこいようですが、発表会用に、甘ったるいムードミュージックや、

流行している通俗曲、映画音楽を、生徒さんに、何ヶ月も練習させるより、

大作曲家の書いた親しみやすい曲に取り組みことが、

生徒さんにとって、どれだけ栄養になることでしょうか。

もし、生徒さんが小さいお子さんでしたら、

その生徒さんの音楽人生を、一生左右することになるかもしれません。

名曲を聴き、弾くことは、なにもプロになるためではなく、

いい聴衆を育てる意味でもとても大切です。


★ホルベアが200年前の人であったため、この曲のスタイルもバロック組曲の様式をとっています。

ラベルが、組曲「クープランの墓」の各曲に、バロック時代の踊りの題名をつけたのと同じです。

この曲は、「前奏曲」「サラバンド」「ガヴォット」「エアー」「リゴードン」の全5曲です。

どれも素敵ですが、第4曲の「エアー」は、特に弦楽合奏では有名です。


★また、ピアノと弦楽合奏の編曲を、見比べる楽しみもあります。

特にこの「エアー」では、何ヶ所か違いがあり、ピアノを弾くうえで、とても参考のなります。

2小節目のメロディーの「レ ド シ ド」の刺繍音「シ」が、

ピアノ版では「シ」♭であるのに対し、弦楽版では、「シ」ナチュラルです。

ピアノで、ナチュラルにしますと、どこか鋭すぎ、

グリーグの意図した「アンダンテ レリジオーソ」、

さらに「カンタービレ」という曲想には、そぐわないかも知れません。

「レリジオーソ」即ち、宗教的な感じは、「シ」♭のほうがいいと思います。


★弦楽版は、最初の「レ」音にアクセントがつけてあり、

その後に、ディミヌエンドを付し、「シ」ナチュラルの鋭さを、ぼかしています。

ピアノと弦楽の特質を、よくわきまえた書法でしょう。

ピアノ版も、41小節目の上記メロディー再現のところでは、

「シ」ナチュラルとし、感情の高まりを、表現しています。

スコアを見ますと、この素晴らしい旋律を、チェロで朗々と歌わせています。

ピアノを弾くうえで、チェロの音色を思い浮かべるといいですね。


★さらに、21小節目から、ピアノ版では、メロディーが7小節間ずっと、右手上声で奏されますが、

弦楽版では、チェロのソロと第一ヴァイオリンが、交互に掛け合いをしています。

ここも、ピアノを弾く際、頭にこのイメージを描きますと、色彩豊かな演奏になる、と思います。

古風なフレアドレスの裾を、典雅に揺らして踊るような、どこかメランコリックな曲です。


★お薦めしたいCDは、NAXOS「グリーグピアノ曲全集 第4集」、

アイナル・ステーン=ノックレベルグのピアノ演奏です。

このCDは、以前たまたま、手に入れましたが、ノックレベルグの演奏が素晴らしかったので、

グリーグのこの全集を愛聴しています。

先ごろ、ノックレベルグが、グリーグの全ピアノ作品について書いた本が

日本でも翻訳されました。



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