高知県メタンハイドレート開発研究会

土佐湾沖の海底にあるメタンハイドレートを掘り出す国家プロジェクトを、高知県に誘致する開発研究会を立ち上げました

第6回講演会・・・その1 開会と資源エネルギー庁の上條課長補佐の講演

2013-08-07 | 講演などの資料

第6回高知県メタンハイドレート開発研究会の講演会を、2013年 7月25日(木)、高知会館で開催しました。

とき: 2013年 7月25日(木)、午後2時~4時30分 

ところ: 高知会館 二階「白鳳の間」

7月25日高知会館で、 資源エネルギー庁の課長補佐をお迎えして講演会を開催します

その1 開会と資源エネルギー庁の上條課長補佐の講演

司会進行をお願いしている 桑名龍吾(高知県新エネルギー議員連盟事務局長・県議会議員)さんより、 開会のご挨拶を兼ねてスタートしていただきました。

高知県新エネルギー議員連盟事務局長という立場から、2年前の第1回設立記念講演会でも司会を務めていただいており、また先日は尾崎知事との面談当日の橋渡しをしてくれるなど、何かとお世話になっており、高知県メタンハイドレート開発研究会の取り組みを熟知した、余裕の司会を展開していただきました。

昨日7月11日、土佐湾沖のメタンハイドレートで 尾崎知事と面談しました

 

 

 

講演1 「メタンハイドレート開発の状況と今後の見通し」 

講師 上條 剛 (経済産業省・資源エネルギー庁・燃料部石油・天然ガス課課長補佐) 

上條課長補佐は、3月にメタンの試験試掘に成功した熊野灘沖の取り組みを、画像を使いながら分かりやすく説明されました。

参加者からのアンケート、感想文の中でも 皆さんが知りたかったことに答える講演内容で、良かった・・・との声が多数ありました。

後の質問コーナーでも、上條課長補佐の講演内容での質問が多くあり、関心の高さを示しておりました。

4月に閣議決定された「海洋基本計画」では、平成30年(今後5年間)までにメタンハイドレートを掘り出す技術整備を整えて、平成30年代後半(35年~39年)には商業化に向けた民間企業を含むプロジェクトを展望しております。

成長戦略の重要な柱の1つに掲げられた次世代エネルギーとしての、メタンハイドレートなど・・・課題は山積しておりますが、自国のエネルギー資源として、期待は膨らみます。

講演会後に開催した、当会の役員や高知市の幹部の皆さんとの交流会の場でも、資源エネルギー庁の担当部署としてのプレッシャーを感じながらも、やらなくては…という心意気も強く感じたことでした。

お忙しい中を高知まで足を運んでいただき、素晴らしい講演をしていただいたことに、講演を聞きに来てくださった皆様と共に、感謝申し上げたいと思いました。

 

 

 

 

 

第6回講演会・・・その1 開会と資源エネルギー庁の上條課長補佐の講演

第6回講演会・・・その2 中嶋高知市副市長の講演と鈴木朝夫理事長の講演

活力は土佐沖の海底より出づ・・・高知と海底資源~メタンハイドレートを中心に~ 

第6回講演会・・・その3 私の主張  山本忠さん、前田祐司さん  

第6回講演会・・・その4 質問コーナー、そして閉会

 

メタンハイドレート の取り組み 記事 目次 

ブログ高知県メタンハイドレート開発研究会


6月11日、鈴木朝夫理事長の土佐技術交流プラザ通常総会特別講演(第1部)

2013-06-18 | 講演などの資料

6月11日、鈴木朝夫理事長の土佐技術交流プラザ通常総会特別講演(第1部)

(平成25年度、土佐技術交流プラザ通常総会特別講演、(2013/6/11)、於:高知サンライズホテル)

メタンハイドレートの可能性とは

                                     鈴木 朝夫(高知工科大学・東京工業大学名誉教授)

4月26日(金)に資源エネルギー庁から出された「海洋基本計画」が閣議決定された。これによると「平成30年代後半(2023~28年)に民間が主導する商業化プロジェクトが開始されるよう、国際情勢をにらみつつ技術開発を進める。」となっている。
   5月18日(土)のNHK週間ニュース深読み「注目の海洋エネルギー」を見た人も多いと思う。  地球深部探査船「ちきゅう」が愛知・三重沖での試験掘削に大成功した後、佐渡沖に移動して  いると報じていた。浮体式洋上風力発電の可能性にも触れていた。
    第1部では、メタンハイドレートを中心に各種エネルギーの世界的な事情を述べ、宝の海の話  を進める。第2部では省エネや新エネでは済まされない地球の未来の姿を思い描きながら、子  供・孫達のためには何を成すべきか、過疎化が進む高知だからの可能性を探ることにしたい。

第1部 メタンハイドレート、地熱エネルギー、再生可能エネルギー
1-1)エネルギー資源の種類は

{エネルギー資源は大きく2種類}
 1) 蓄積エネルギー・枯渇性エネルギー(貯蓄・資産として相続した資金):石炭、石油、天然ガ   ス、メタンハイドレート、シェールオイル(ガス)などの化石燃料、(核エネルギー)、(地熱    エネルギー)・・・・・・・・・遊んで食えば山も尽きる、いつまでもあると思うな親と金。
 2) 再生可能エネルギー・自然エネルギー(給与や売上で獲得した所得):バイオマス、水力(小      水力)、風力、波力、潮汐力、海流、温度差、太陽光、太陽熱・・・稼ぎに追いつく貧乏なし。 3)  その他として エネルギー貯蔵(当座預金・運転資金)・・・・・・・備えあれば憂いなし。

{蓄積エネルギー資源の掘削法} 固体の石炭:固体を掘り出す。液体の石油:液体が湧き出る、液体を汲み出す。気体の天然ガス:気体が噴き出す、気体を吸い出す。固体のメタンハイドレート:固体を気体(メタン)と液体(水分子)に分離し、気体として地上に取り出す。石炭、石油、天然ガスの従来のエネルギー資源との大きな違いがここにある。

{ハイドレートの結晶構造は石鹸の泡}  包接化合物(クラスレート)の一種である。メタンハイドレートでは、水分子が水素結合で作る立体網目のカゴ毎に、メタン分子が収まっている。立体網目は、水分子が作る正五角形の面から成る正12面体(Sカゴ)が2個、正五角形12面と正六角形2面の計14面から成る14面体(Mカゴ)が6個の割合で形成されている。カゴの各面は両側の2つのカゴとの共有であり、従ってMカゴの正六角形は、接続している隣のMカゴの正六角形と共通になる。Mカゴは一線に連続していることになる。また各辺は3つのカゴの共有であり、頂点は4つのカゴの共有である。この立体構造は石鹸水の泡と良く似ている。①

{ハイドレートの結晶構造は立方体}  立方体単位胞の8つの頂点には正12面体のSカゴが位置するので、単位胞あたり1個に相当する。向きを変えた中心の1個と合わせてSカゴは2個である。14面体のMカゴは一直線に並ぶが、横に(X)、縦(Y)に、奥(Z)にと3方向に向いている。立方体の面には2個づつ配置されて計12個になるが、隣の面と共有するので、単位胞の所属は6個になる。これらのカゴの全てにメタン分子が入ればその数は合計で8個である。メタン分子1個は5.75個の水分子で囲まれている勘定になる。なお、MカゴにNbを、SカゴをSnにと置き換えれば、それは超伝導金属間化合物のNb3Snの結晶構造のA15構造になる。①

{メタンハイドレートの相安定性}  安定領域の温度・圧力の境界は、+10℃で76気圧、+4℃で50気圧、0℃で26気圧、-30℃で10気圧、-80℃で1気圧などである。言い換えれば、温度が低下すれば圧力は小さくても安定であり、圧力を高くすれば温度が高くても安定である。②

{自己保存効果}  ハイドレートが安定に存在できない常温・常圧であっても、メタンを放出して残された水は氷結して表面を覆う。これは、メタンと水に分離する反応が吸熱であることによる。この氷が保護被膜の作用をして反応を遅らせ、常温でも比較的安定である。しかし、このことがメタン採掘に際して抗井を氷結閉塞させる可能性を孕んでいる。
                            
{固体・液体・気体}  一般に、物質に圧力を加えれば、体積は小さくなる。そして、気体は固体
に変化(相転移)し、体積を減少させていく。物質の温度を下げれば、体積は縮小する。気体は液体に、液体は固体に相転移し、その時は発熱を伴なって温度を一定に保とうとするかのように振舞う。自然界では、外界からの変動を、自分自身を変化させて緩和しようとしている。

{エネルギー利得率、EPR}   EPR=(出力エネルギー)/(入力エネルギー)である。採掘・精製・保管・輸送などの生産に必要な入力エネルギーと利用出来る出力エネルギーの比がEPRである。ある文献では、石油火力は7.9、石炭火力が6.5、液化天然ガス火力2,4、風力3.9、地熱6.8、原子力は17.4などとなっているが、計算の根拠が不明である。計算基準を決められないのでは。

{メタンハイドレートからのメタン回収法}   「加熱法(温水圧入)」、「加熱法(抗井加熱)」、「減圧法」、「分解促進剤注入法」、「ゲスト分子置換法」などが考えられてきた。温度を上げれば、体積の増える方向の水とメタンの分離に向かう。圧力を解放すれば、同じく体積の増える方向に向かう。加熱法は、メタンの分離が吸熱反応だから、際限なく加熱し続ける必要が出てくる。

{減圧法によるメタン回収} 日本のMH21開発計画では減圧法が採用されている。ハイドレート堆積層に水平抗を堀り、発生する水を汲み上げて圧力を低下させ、これにより発生するメタンを吸い上げる。この分解は吸熱反応であり、周囲の温度を低下させる方向に動く。しかし堆積層の周囲の地熱により溶解が進み、圧力低下を持続させる。問題は減圧効果の範囲と持続時間にある。生産性障害になるのは、氷の生成であり、自己保存性が裏目になる。温水圧入や抗井加熱などの加熱法との併用の試みもある。出砂も問題であり、海底や地上に堆積粒子汚泥を取り出すことになる。

{活力は土佐沖の海底より出づ}(No.280、1(2011))      加熱法の一形態の「その場局所加熱法」と名付けられる県内企業が提案した面白いアイデアをメタンハイドレートのユニークな掘削法である。豊臣秀吉が戦略とした現地調達法そのままと言っても良い。③

 

1-2)日本は昔からの資源大国(黄金の国ジパング)

{金銀鉱石の産出}   江戸時代には金は佐渡金山、銀は石見銀山が有名だった。現在、鹿児島県の菱刈鉱山の金の推定埋蔵量は250t、金鉱石は250g/tと高品位である。普通は数g/tである。

{平成24年の漢字は「金」}(No.305、2(2013))  「黄金の国ジパング」を取り上げている。日本の金に関連した話、高知の金の話を知っていますか。④

{塩の道は丹生(韮生)の道では?}(No.279、12(2010))    水銀を産出した土佐を取り上げている。塩は帰り荷だったのでは。行き荷は水銀、樟脳。絵金は赤岡での「岩絵の具」に惚れたのか。⑤
{生命と文明の源、水と鉄に例外の性質}(No.242,11,(2007)) 液体(水)よりも固体(氷)の方が軽いのは異例である。低温相のbcc鉄よりも高温相のfcc鉄の方が密度が高いのも異例である。⑥

{海底鉱物資源}  200カイリ経済水域内で採れる鉱物資源は多い。リチウムを含む泥火山を始めとして、熱水鉱床、マンガン団塊、コバルトリッチ・クラストなど鉱物資源は様々である。

{リチウム電池}  リチウム(Li)は最も軽い金属である。日本は有数のリチウム産出国になる可能性を秘めている。エネルギー蓄積の役割を演じる金属リチウムを資源として持てることは国際能性を秘めている。エネルギー蓄積の役割を演じる金属リチウムを資源として持てることは国際戦略上で極めて有利である。二次電池に必要なコバルト資源も直ぐそこの海底に眠っている。

{地熱発電}  日本列島は火山の島、温泉の国、地熱は固有の熱資源であり、自然エネルギーである。地熱発電は天候に左右されないので、稼働率は極めて高く、何れの再生可能エネルギーとも比較にならない。しかし、地熱資源の多くは国立公園内にあり、導入促進には法的措置や規制緩和が不可欠である。また、地域や温泉事業者との調整が重要である。高温岩体発電、バイナリー発電など方式は様々である。

{エネルギー貯蔵(ストレージ)} 多数の発電電源間の系統安定性の確保。ダム貯水(揚水発電)、燃料電池(水素エネルギー)、二次電池(水素電池、リチウム電池)、超電導、フライホイールなど。

{電気自動車}  夜間電力での蓄熱は現在多くの家庭で実用化されている。同じように、自家用自動車が動ける蓄電装置として夜間に使われる。再生可能エネルギー発電とともに、スマートハウスの重要な構成要素となる。

{地球温暖化への影響}   CO2の20倍もの温室効果があり、5500万年前の生物の大量絶滅の原因とも言われているメタンである。これは46億年にわたる地球のダイナミックな営みの中での物語である。議論になるのは、掘り出して燃焼させることと、自然放出との比較になる。メタンはCO2の排出量の差から、代替エネルギー源として期待できる。

 

1-3)スマートグリッドとビッグデータ

{スマートグリッドとは}  他種類のエネルギーの供給側とニーズの多様性を示す需要側の相互連携を高度に知能化した情報通信技術で制御する送配電網である。従来の大型発電所からだけの電力供給を行う発送電網ではない。家庭やオフィスや事業所などの小口電力を消費する需要側にも、多様な発電機能を備え、地域で必要な電力を消費地で生産するような、地産地消の仕組みを備えていることも特徴である。

{インターネット・プロトコール、IPv4とIPv6}  アドレスは幾つあればよいか。現在のIPv4は 2の32乗(=約42億)個である。地球上の人口よりも少ない。IPv6では 2の128乗(= 約340澗)個である。340澗個とは340兆の1兆倍の1兆倍のアドレスになる。IPv4を石油缶の体積とすれば、IPv6は太陽を越える大きさになる。

{ビッグデータ} FacebookやGoogleに代表されるような巨大な情報を取り扱える時代に入っている。初音ミクやコンプリートガチャの巨大さを想像して欲しい。複雑な巨大システムの制御が可能な時代である。欠陥を皆無にすることはできない。低確率巨大事故の候補の1つである。

{ベキ分布と巨大事故}   ベキ分布の具体例を示せば、乾燥したビスケットを床に落としたとき、壊れた破片の大きさの分布である。小さな破片(粉)は無数、非常に大きな欠片(かけら)も混ざっています。巨大地震や巨大事故は確率は低くても必ず発生することを示している。「アクシデント、事故と文明」はポール・ヴォリオの著書で、ここで彼は「文明は事故を発明する」と述べている。

 

1-4)日本の、土佐の、メタンハイドレート開発に向けての現状


{メタンハイドレートの開発研究}  日本のメタンハイドレートの調査研究は2001年に始まっている。資源エネルギー庁から業務委託を受けて、(独)石油天然ガス・金属鉱物資源機構、(独)産業技術総合研究所、(財)エンジニアリング振興協会の3者が「メタンハイドレート資源開発研究コンソーシアム(MH21研究コンソーシアム)を組織し、「フェーズ1」の活動に入った。

{MH21フェーズ1}    日本周辺海域の賦存状況や賦存量調査を目的として、東海沖から熊野灘に掛けての東部南海トラフ海域で物理探査や試錐を行った。また、カナダの凍土で陸上産出試験を行った。ここでは基本的に減圧法を採用している。2001~2008年。

{MH21フェーズ2}   研究開発の第2段階に相当する2010年からは海洋産出試験の実施に向けた事前調査や設備検討などの準備段階に入る。2012年後半から東部南海トラフ上の渥美半島沖で1000mの海底から300m掘削し、メタン採取を行う予定である。また、東部南海トラフ以外の海域の調査、長期生産性や生産障害の解決、経済的・効率的な産出技術の確立が目標となっている(2009~2015)。商業的産出が目的の「フェーズ3」に移行する予定である。(2016~2018)。

{地の利、高知}   滑走路2500mの高知龍馬空港・拡張の余地を残す高知新港(FAZ)・これらを結ぶ高速高知道、そして香南市・香美市・南国市・高知市・いの町が位置する香長平野は広い。これらは生産設備・試験設備・備蓄基地などの各種施設の立地条件を充分に満足するものである。今は、海洋研究開発機構所属の地球深部探査船「ちきゅう」の寄港が出来ることが素晴らしいことである。正に「活力は土佐沖の海底より出づ」である。

{海の利、土佐}   土佐湾沖の南海トラフのメタンハイドレートとそれに伴うリチウムの回収だけではなく、200海里の排他的経済水域内には各種の有望な海底鉱物資源の存在する可能性が高い。Ni、Co、Ptなどを含むコバルトリッチ・クラスト、Ni、Cu、Mnなどを含むマンガン団塊、そしてAu、Ag、Zn、Pb、Cuなどを含む熱水性鉱床である。

{人の利、龍馬}  高知には知の利がある。海洋研究開発機構(高知コア研究所)、高知大学、高知工科大学、県立高知大学、高知県産業技術委員会他がある。県内企業からの掘削に関する特許が認可された。付随した関連特許が山のように出てくるであろう。様々な関連するベンチャー企業も生まれてくるだろう。第二の龍馬たちに、第二の弥太郎たちに期待したい。

{NPO21世紀構想委員会とは}   真の科学技術創造立国を確立するため、研究テーマを掲げて討論する場として1997年にスタートした。会員はベンチャー企業、行政官庁、大学、マスコミの4極から参加している。会員数は約100人である。理事長は馬場錬成氏(東京理科大学大学院 知財財産戦略専攻 教授、元読売新聞論説委員)である。


{メタンハイドレート実用化研究委員会}  NPO21世紀構想委員会に所属する会員の特許出願の支援を行ってきた渡邉望捻氏(イオン特許事務所弁理士)らの要請により、すなわち国家プロジェクトとして取り上げるべきとの観点から、表記の委員会を設置した。2010年7月27日に馬場錬成氏を先頭に、平朝彦氏((独)海洋研究開発機構 理事、現理事長、元高知大学教授)に委員長就任をお願いした。
 2010年12月6日には、第2回のメタンハイドレート実用化研究委員会が開かれた。この委員会をべースにして、「メタンハイドレート国際戦略部会(仮称)」、「メタンハイドレート技術専門委員会(仮称)」を、そして高知県ベースで「高知県メタンハイドレート開発研究会」を設置することが決まった。仕事の手始めは内閣府へ「国際戦略総合特区」の申請書、「メタンハイドレート実用化研究から資源大国へ」を提出することであった。この申請は内閣府の制度に馴染まなかったが、考え方は引き継がれ、推進していくことが了承された。
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{高知県メタンハイドレート開発研究会}  2011/7/18(海の日)に、平朝彦氏、臼井朗氏(高知大学教授)、木川栄一氏をお招きして記念講演会を開催し、高知県での研究会を発足させる運びになった。
 2012/2/16には、木川栄一氏(海洋研究開発機構・高知コア研究所所長から海底資源研究プロジェクトのリーダーに栄転)に海洋資源の講演を頂いた。
 2012/7/7には、設立一周年を記念して、木下正高氏(海洋研究開発機構・高知コア研究所所長)から活動の現況を、また門馬義雄氏(高知工科大学名誉教授)より「環境とエネルギーから見た50年後の地球」と題する講演を頂いた。
 昨年(2012/10/31)にグランキューブ大阪で開催された「計測展2012 OSAKA、計測と制御で創る未来の地球」で鈴木が招待講演を行った。タイトルは「新エネルギー資源の使い方~メタンハイドレート、地熱発電、そしてストレージ」である。
 昨年の末には、洲本商工会議所から十数名の視察を受け入れた。海洋開発機構・高知コア研究所の視察を中心にして、高知県の海洋開発に関連する意気込みの説明を行った。
 2013/3/9にはミニ講演会とし、「海底資源をめぐる最新情報(JAMSTECの海底資源研究)」題する木川栄一氏のお話を頂いた。    
  5月26日(日)のKUTVの「夢の扉+NEXT DOOR」で、{世界初成功!次世代エネルギー「メタンハイドレート」海洋産出!、 ~日本をエネルギー自給国に!、海面下1300m、男たちの12年の闘い~}の放映があった。ご覧の方も多いと思う。

{講演会のご案内(高知県メタンハイドレート開発研究会主催)}
  来る7月25日(木)、高知会館において、午後2:00~4:00に、講演会を開く予定である。
 講演1は(仮題)「メタンハイドレート開発の状況と今後の見通し」と題し、経済産業省・資源エネルギー庁・燃料部石油・天然ガス課課長補佐 上条剛氏に、
 講演2は(仮題)「高知市新エネルギービジョン」と土佐湾沖のメタンハイドレート」と題し、高知市副市長 中嶋重光氏にお願いしている。
 今回の画期的な講演会を契機に、県下のできるだけ多くの市町村の行政や議会事務局に、講演会などの情報提供をできるよう連絡網の確保を検討している。

{投資詐欺}     各種の新エネルギー・新資源に関する美味しそうな話が増えてくる。要注意!!

 

6月11日、鈴木朝夫理事長の土佐技術交流プラザ通常総会特別講演(第2部)

ブログ 高知県メタンハイドレート開発研究会

メタンハイドレート の取り組み 記事 目次

鈴木朝夫のメタンハイドレートのこと、もっと知りたいコーナー 


6月11日、鈴木朝夫理事長の土佐技術交流プラザ通常総会特別講演(第2部)

2013-06-18 | 講演などの資料

6月11日、鈴木朝夫理事長の土佐技術交流プラザ通常総会特別講演(第2部)

(平成25年度、土佐技術交流プラザ通常総会特別講演、(2013/6/11)、於:高知サンライズホテル)

メタンハイドレートの可能性とは

                                    鈴木 朝夫(高知工科大学・東京工業大学名誉教授)

4月26日(金)に資源エネルギー庁から出された「海洋基本計画」が閣議決定された。これによると「平成30年代後半(2023~28年)に民間が主導する商業化プロジェクトが開始されるよう、国際情勢をにらみつつ技術開発を進める。」となっている。
   5月18日(土)のNHK週間ニュース深読み「注目の海洋エネルギー」を見た人も多いと思う。  地球深部探査船「ちきゅう」が愛知・三重沖での試験掘削に大成功した後、佐渡沖に移動して  いると報じていた。浮体式洋上風力発電の可能性にも触れていた。
    第1部では、メタンハイドレートを中心に各種エネルギーの世界的な事情を述べ、宝の海の話  を進める。第2部では省エネや新エネでは済まされない地球の未来の姿を思い描きながら、子  供・孫達のためには何を成すべきか、過疎化が進む高知だからの可能性を探ることにしたい。

第2部 右肩下がりの下山の先は?
2-1)成長戦略は喜ばしいことだろうか


{「下山の思想」などの考え方}  石油ピークは既に過ぎており、使い勝手の良いエネルギー資源の観点からは、生産活動自体が下り坂になることは必然であり、経済指標は何れも前年度比マイナスの退却戦に入っている。これからは専門家と称する人への『お任せ』ではなく、各自が考え、意見を持つ『自立』の時が来たことを自覚しなければならない。下り行く先の未曾有の時代の姿を思い描き、どのように生きていくかを皆で考えるべきである。
1)「下山の思想」:五木寛之著(幻冬社新書、2011/12)、2)「『右肩下がりの時代』をどう生きるか」:鷲田精一著(「潮」、2012/1)、3)「石油文明が終わる~3・11後、日本はどう備える」:石井吉徳他著、(”NPOもったいない学会”、2011/11)。

{固定観念、既成概念、既得権の放棄}   今の高齢者達の世代は、最高峰を目指した同志であった。戦後の日本の経済成長を、高品質・高効率・大量生産で担う戦士達であり、希望に満ちて大量消費を競ってきた。下山に際しては、固定観念を、既成概念、その価値観を捨て去る必要がある。経済成長率プラスの期待は止めなければならない。新陳代謝はゆっくりとゆったりと。「持続可能な発展」や「ゼロエミッション」のスローガンは無意味であることを悟ろう。

{最高峰に立ったとき} 我々山仲間は「山を征服した」との表現を使ったことは一度もない。頂上では「ありがとう」と山々に感謝し、「お陰さま」と仲間と握手をした。帰りも安全に降ろして下さいのお願いが込められている。日本人が皆で最高峰に立ったとき、我々は「お陰さま」と感謝しただろうか。今からでも遅くない。振り返り、感謝を捧げようではないか。

{リーダーの資質}   山を下るときの鉄則はグループをまとめ、落伍者を出さないことである。力量や経験の異なる混成部隊である。適度な休息を取り、食糧を分け合い、体を温め合うことが必要である。寒さが募る中では、眠らないことが必須である。サブリーダーの「しんがり」としての気配りは極めて重要である。そして、天候、地形などの環境変化を細心の注意と直感によって判断できる能力を持つリーダーの責任は更に重要である。財政再建には経済成長を期待する政治家が、実業家が多い。人材の枯渇では?  安倍内閣は、黒田日銀は大丈夫だろうか。日本経済に、世界経済にブレーキは付いているのだろうか。経済にフェイルセーフ機能は付いていないことは歴史が示している。

2-2)行く先は何処、どんなところ

{右肩下がりの下山の先は?}(No.298,7,2012)  「となりのトトロ」で宮崎駿の描いたサツキとメイの家のような暮らしか。それとも、もう少し昔の宮沢賢治が理想郷とした里山の「イーハトーブ」だろうか。もっと昔に戻り、武士も町民も風流を愛でた江戸時代の心の豊かさの中なのだろうか。何れにしても、凄まじい速さで大量のエネルギーを消費することは、エントロピー増大を加速するだけである。地球温暖化はその一つの現れである。皆で幸せとは何かを考えよう。⑦
 
{人口密度、50人/km2}(No.238,7,2007)  膨張は何時までも続かないことを示すイースター島の歴史。太平洋の孤島、モアイ像倒し戦争の島。最盛期の人口は1万人超えと想像されている。⑧ 

{切り詰めて生きる}(No.201,6,2004)   植物(樹木)の寿命は1000年程、動物の寿命は100年程と一桁も異なるのは何故。「動けない」ではなく、「動かない」戦略。無駄を省く生き方。⑨
{八重咲き}(No.251,8,2008)     メンデル以前に劣性遺伝の法則を熟知していた江戸時代の人々。町民も商人も武士も身分・階級を問わず盆栽の小宇宙を愛でた。⑩

{この暑さは地球温暖化の影響?}(No.241,10,2007)     「人類が最も優れた生き物、万物の霊長である。」と同じように、「昔の生活は悲惨であり、現代の生活がより豊かである。」は間違った認識である。と宮沢賢治は断言しているように思える。イーハトーブは岩手のことである。⑪

{『エントロピー』では読んで貰えないか?}(No.248,5,2008)    「いろはにほへと ちりぬるを」のように元には戻れない世界に住んでいることを理解しなければならない。⑫

{サツキとメイの家} (No.215,8,2005)   蚊帳の中から「今、庭をトトロが通ったよ」と言うメイ、そんなもの居るわけないよとは云わないサツキとお父さん。戦後の子供時代を思い出す生活空間が広がっている。東京郊外、所沢市付近と想定されるが、今でもトトロは暮らしているだろうか。⑬

{キューバを見たい}(No.211,4,2005)   「グローバリゼーションは持続可能だろうか。」のカストロの演説。将来の人類社会の在り方、地球を愛しむ生き方を示唆しているように思える。⑭

{人間社会もメタボでなければ}(No.302,11,212)     「メタボリズム」とは同化作用と異化作用のバランスが保たれている代謝作用のことである。生命だけではなく、社会も都市も地域も、あらゆるシステムはみな同じである。⑮

{産業振興計画}    橋本県政の始まった20年前から、県勢浮揚策を進めてきたが、低下傾向を最小に留める効果は認められる。そして、尾崎県政になり、「本県経済に重くのしかかる『積年の課題』」お解決に向けて、平成20年度に策定された産業振興計画の基本は県外市場に打って出る「地産外商」である。さらに今年度に追加されたのは「移住促進により、活力を高める」である。

2-3) 生き甲斐とは、幸せとは

{生き甲斐と幸せ}
  成長戦略を基本に置くことはナンセンスであることは既に述べた。地域も、企業も、国家も、人類社会も。過疎化・少子化・高齢化社会に対して、少子化時代の若者・子供達を元気に。情報化時代を皆が楽しめる仕組みに。ふれ合う機会の創出。好奇心を失わず、感性を豊かにする教育に。人の、地域の、人類の、地球の役に立つ工夫と努力が稔る社会に。このようなことを皆で考えよう。専門家に任せるのは止めよう。
  日本近海に高い可能性を持つメタンハイドレートは次の登山を計画するためのものではない。含み資産の地熱エネルギーの使い道も同じである。有用な海底資源も同じである。儲けたと思い込んで一気に使うべきものではない。軟着陸のために与えられた資源として感謝しながら、ゆっくりと使うべきである。切り札は無闇に使うものではない。                    

{安全保障} 国産のエネルギー資源、鉱物資源があることは極めて有利である。安全保障上だけではなく、外交交渉の切り札として有効である。
  国の行う壮大なプロジェクトに対して、高知県の民・産・官を挙げての受け皿は整った。この動きを隣接する沿岸地域だけではなく、県内全域にも伝え、あらゆる分野の県内企業の協力も得て、広く連携を図って行くことになる。

{風が吹けば桶屋が儲かる}    発想の転換が必要である。他の都道府県が絶対に行わない取って置き方法でユニークな高知にする思い切った一つの提案をしてみる。(No.310,7,2013投稿予定)


                       ---------


 高知に関わって20年、「日本にない大学」を創ることから「高知を元気にする」ことまでが頭に住み着いている。大学院の「起業家養成コース」を理解して貰うのは大変であった。「工科系の大学に何故文系のコースが必要か」の問いに答える必要があった。専門領域で就職する従来型に加えて、ベンチャー気風の醸成が必要である。経営感覚のある技術者、技術を熟知した経営者の必要性を力説した。学長に代わり、門真市を何度も訪れた。副社長の水野博之さんに起業家コースの学科長就任をお願いするためである。
 情報系学科に3Dのスタジオを所属させたが、演劇や造形の学科に発展させる思いが込められていた。大量生産ではない、デザイン性の高い商品は、成熟した漫画文化を持つ高知に相応しいと感じていた。京都精華大学のマンガ学科の牧野圭一さんに相談していた。
 高知県の県別統計は極端で面白い。日銀の元高知支店長衛藤公洋氏によれば、高知県の農業の生産性が全国一、地場の中小企業の中核を成す個人企業収益の占める割合が全国一と指摘している。換言すれば、農業も企業も高知県では零細であり、ささやかに商いをしている様子が分かる。ユニークな技術を持つ建設業が多いことも特筆に値する。災害復旧時には上流側からも修復できる強みを発揮できる。仕事を皆で分け合う工夫が必要である。
 ここで「風が吹けば桶屋が儲かる」に倣って、高知に関わる因果関係を無理矢理に作り出して見る。そして、「困ったことだ」ではなく、その対応を考えて見よう。
 「能ある男は県外に出て戻らない 残った男は能が悪く 鰹のたたきを肴に酒ばかり議論ばかり 有能な女は県外に出る機会が少なく地元に残る 結婚しても出産しても退職しない  女の収入は高くなる  朝食は喫茶店で 身嗜みが大切で美容院へ ストレス解消でパチンコ屋通いも 共働きが多ければ家族団欒も減少する 教育環境が悪くなり学力・体力が低下し非行も多い 子宝に恵まれれば 呑兵衛の旦那とは離婚する  豊かな自然は企業誘致の切り札とはならず 地場産業も立ち上がらない 県内の求人数も増えない 高知工科大は県外流出を4年間猶予しただけ 今では女も県外に出る 同時進行で少子化・高齢化・晩婚化で急速な人口減 過疎化は市内の商店街をも限界集落に導いている」
  これらの統計結果を連鎖と見なして、一ヶ所を断ち切ることを考えて見る。公費を直接に投入する従来型の各種の活性化支援とは全く異なる発想である。「夫に妻と同等の産休・育休を義務づけ、出産にも立ち会うことを必然とする。」の条件である。利点とともに派生する不具合とそれらの対応策を考え、システムを造る思考実験を皆で進めるのである。
 日常的に複数の担当者によるタイム・シェアリングが行われていなければならない。これで「係が休暇中ですので」の言い訳もなくなる。家庭団欒の機会が増えることは、老若男女を問わず、人生観を大きく変えることになる。イケメンがイクメン(育メン)に変身し、ダンチュウ(男厨)がジョチュウに近づいてくるだろう。ハチキン度はそのままに変わらず、イゴッソウ度は低下すると思われる。「男女共同参画」を冠した部署の役割は変化するだろう。県民性の様がわりを予想することも面白い。県の産業振興計画に掲げられている「移住」に大きく寄与する可能性も高い。まずは、ワークショップや討論会を行うことである。不具合・不都合を予測しながら、個々に潰していく作業が意識改革を促すことになる。
 
{めだか}(No.177,6(1002)  落語の中に見る昔の高知。⑯

 

6月11日、鈴木朝夫理事長の土佐技術交流プラザ通常総会特別講演(第1部)

ブログ 高知県メタンハイドレート開発研究会

メタンハイドレート の取り組み 記事 目次

鈴木朝夫のメタンハイドレートのこと、もっと知りたいコーナー 


鈴木朝夫の講演・出版の記録・・・その8 新エネルギー資源の使い方 1) メタンハイドレートとは

2012-11-09 | 講演などの資料

(日本電気計測器工業会主催 計測展2012 OSAKA、計測と制御で創る未来の地球、2012,10,31、於;グランキューブ大阪 講演)

新エネルギー資源の使い方
      メタンハイドレート、地熱発電、そしてストレージ

      鈴木 朝夫 (東京工業大学名誉教授・高知工科大学名誉教授、高知県メタンハイドレート開発研究会理事長)


もくじ)
はじめに) 資源大国日本  ----------1
1) メタンハイドレートとは        ----------1
2) メタンハイドレートの掘削は       ----------3
3) 国家プロジェクトと高知の動き        ----------4
   4) エネルギー資源の分類      ----------5
  5) 日本は昔からの資源大国(黄金の国、ジパング) ----------6
  6) ビッグデータとスマート・グリッド  ----------7
  7) 事故は必ず起きる(低確率巨大事故)      ----------8
  8) 右肩下がりの下山の先は         ----------9
おわりに) 生き甲斐とは、幸せとは  ----------10



はじめに) 資源大国日本

 日本は今、海底資源・地下資源によりエネルギー・資源大国になろうとしている。それらは、慎重に、ゆっくりと、賢く使うべきもである。経済成長のためではない。右肩下がりの時代を生きる減速に必要なエネルギー源と考えるべきである。心豊かな生活のために。

1) メタンハイドレートとは


{ハイドレートの結晶構造は石鹸の泡}  包接化合物(クラスレート)の一種である。メタンハイドレートでは、水分子が水素結合で作る立体網目のカゴ毎に、メタン分子が収まっている。立体網目は、水分子が作る正五角形の面から成る正12面体(Sカゴ)が2個、正五角形12面と正六角形2面の計14面から成る14面体(Mカゴ)が6個の割合で形成されている。カゴの各面は両側の2つのカゴとの共有であり、従ってMカゴの正六角形は、接続している隣のMカゴの正六角形と共通になる。Mカゴは一線に連続していることになる。また各辺は3つのカゴの共有であり、頂点は4つのカゴの共有である。この立体構造は石鹸水の泡と良く似ている。

 

{ハイドレートの結晶構造は立方体}  立方体単位胞の8つの頂点には正12面体のSカゴが位置するので、単位胞あたり1個に相当する。向きを変えた中心の1個と合わせてSカゴは2個である。14面体のMカゴは一直線に並ぶが、横に(X)、縦(Y)に、奥(Z)にと3方向に向いている。立方体の面には2個づつ配置されて計12個になるが、隣の面と共有するので、単位胞の所属は6個になる。これらのカゴの全てにメタン分子が入ればその数は合計で8個である。メタン分子1個は5.75個の水分子で囲まれている勘定になる。なお、MカゴにNbを、SカゴをSnにと置き換えれば、それは超伝導金属間化合物のNb3Snの結晶構造のA15構造になる。


--------------
注:この講演原稿では、字引のように項目を挙げて説明を加えている。知りたいときに、知りたいことを、探せるようにしたつもりである。講演の中で全ての説明はできない。何度も読み返して頂ければ幸いである。また、図・表はできるだけ使わないことにしている。検索すれば直ちに調べることができるからである。好奇心を発揮して貰いたい。
{ハイドレートから取り出せるメタンは} メタンハイドレートに含まれるメタンを気体として取り出せば、その体積は最大で170倍になる。しかし、メタン分子の充填率が100%にはなっていない。他の原子・分子が占有したり、空隙である可能性もある。

{メタンハイドレートの相安定性}  安定領域の温度・圧力の境界は、+10℃で76気圧、+4℃で50気圧、0℃で26気圧、-30℃で10気圧、-80℃で1気圧などである。言い換えれば、温度が低下すれば圧力は小さくても安定であり、圧力を高くすれば温度が高くても安定である。

 

{海水の圧力}  水深10mの水圧は、水の圧力1気圧+水面を押す大気圧1気圧=2気圧である。約600mの海底は約60気圧であり、プラスの海水温でもメタンハイドレートが安定な領域になる。このような海底から湧出してくるメタンが、高圧下の海水に触れて直ぐにメタンハイドレートの小さな白い粉末状の固体に変わる現象が観察されている。

{燃える氷、メタンハイドレート}    海底地層中から掘り出したメタンハイドレートは見たところは、白く固くて氷に似ており、触れば冷たく感じる。火を付けると炎を出して燃えるが、常温・常圧で比較的安定である。正に「燃える氷」である。なお、水とメタンガスを配合して、所定の高圧・低温に保てばハイドレートを実験室で作ることができる。
 注)メタンハイドレートの状態を「メタンハイドレートとは、『燃える氷』とも言われ、天然ガスの主成分であるメタンが、高圧・低温の海底下や凍土下でシャーベット状に固まったもの。」とする説明が見受けられる。間違った表現であろう。「固く白い燃える氷」ではないのか。

{自己保存効果} ハイドレートが安定に存在できない常温・常圧であっても、メタンを放出して残された水は氷結して表面を覆う。これは、メタンと水に分離する反応が吸熱であることによる。この氷が保護被膜の作用をして反応を遅らせ、常温でも比較的安定である。しかし、このことがメタン採掘に際して抗井を氷結閉塞させる可能性を孕んでいる。

{固体・液体・気体}  一般に、物質に圧力を加えれば、体積は小さくなる。そして、気体は固体に変化(相転移)し、体積を減少させていく。物質の温度を下げれば、体積は縮小する。気体は液体に、液体は固体に相転移し、その時は発熱を伴なって温度を一定に保とうとするかのように振舞う。自然界では、外界からの変動を、自分自身を変化させて緩和しようとしている。

{水素結合} 1個の電子を持つ水素原子は1価であり、共有結合の結合手は1つで、水分子はH-O-Hと表される。しかし、電子を引き寄せる酸素が少しマイナス(δ-)に偏り、電子が引っ張られた水素は少しプラス(δ+)になっている。イオン結合ではないが、静電的な結合状態が水分子のδ-と他の水分子のδ+が引き合って水素結合ができる。これが水の様々な面白い性質の原因となっている。ハイドレートを形成するのもその一例である。

{地球上に生命を育む水} 常温付近に氷・水・水蒸気の安定域が接近している(高い融点と沸点)、暖まり難く、冷め難い(大きな比熱)、水滴ができる(大きな表面張力)、水に浮く氷(氷の比重が大きい)、物質を溶かし込む(大きな溶解性)などである。全て水素結合のなせる業である。この特異な性質が水になければ、地球上にこれだけの様々な生命は生まれ出なかった。

{メタンハイドレートの起源} 微生物分解起源と熱分解起源のメタンハイドレートがある。地層中に堆積した動物や植物の生物起源の有機物をバクテリア(古細菌)が分解し、メタンを生成する。一方、更に地中深く沈み込んだ有機物は地熱により熱分解し、メタンを発生させる。いずれも隙間の多い砂泥互層(ダービダイト)に集積する。海水温は深くなると低下し、圧力は高くなる。海底下の地層は深くなるとさらに圧力も高まるが、温度も地熱により高くなる。その中間にメタンハイドレートの安定な温度域・圧力域が存在する。

{メタンハイドレートの分布域は} 静岡から四国・九州の100~300km沖合、南海トラフ一帯に分布する。その他に茨城県沖、新潟県沖、北海道南岸沖などが有望視されている。水深700~2000mの海底下、100~500mの地層がメタンハイドレート形成の条件を満たしている。海底疑似反射面(BSR)で当たりを付け、試錐を行って詳細を知ることができる。

 

{海底疑似反射面(BSR)とは} 船で曳航するエアガンから大きな音波を出し、多数の受信機で地層からの反射音を記録する。地層構造からの反射とは別に、層状に横たわるメタンハイドレートの下層境界部分からの強い反射が帰ってくる。このBSRは海底地形に平行になっている。これから下は水とガスを含む柔らかい地層であり、上に行くほど地熱の影響が弱まり、メタンハイドレートの安定な温度・圧力になる。BSRはその境界面であり、その分布調査からハイドレート層の存在域が推定できる。

{メタンハイドレートの賦存量は} 日本周辺に賦存するメタンハイドレートは、我が国の天然ガス年間消費量の約100年分と推定される。天然ガス消費量は年間937億m3である。

{泥火山とは} 南海トラフの地中深部の未固結堆積層に高圧がかかり、流動化してその上位にある浸透率の低い粘土層を破砕して、表面に噴出してきたものが泥(どろ)火山である。メタンハイドレート層に貫入・上昇した泥ダイアビルは泥の他に、メタンと水を伴って噴出する。

{リチウム}  メタンが噴き出している泥火山で、メタンと共に噴出する水に大量のリチウム(海水の1000倍)が含まれている。しかし、その理由は解明されていない。NaClはメタンハイドレートの安定領域を低温・高圧側にシフトさせ、インヒビターとして使えると報告されている。他の塩とは逆に、海水中に含まれるLiClがメタンハイドレート形成を助けるのかも知れない。あるいは、濃縮されるとすればその仕組みを考える必要がある。メタン回収に際して得られるであろう「リチウムに富んだ水」から、効率の良いリチウム回収が期待できそうである。リチウムイオン二次電池の正極材料、電解質、負極材料の何れにも必要である。今後のエネルギー問題にとって不可欠の物質である。

{メタンの発生源} 湿地帯・湖沼、熱帯雨林、天然ガス、海底から湧出、泥火山、家畜の糞尿や牛のゲップ。一方で、森林の土壌がメタンを吸収すると言われている。

{天然ガス} 主成分はメタン。輸送・貯蔵は、気体の1/600の体積を持つ液体状態(LNG)で行うが、温度を-162℃以下に保たなければならない。

{大気の役割} フロンのような人工的な化学物質以外では、水蒸気(H2O)、炭酸ガス(CO2)、メタン(CH4)の保温効果が大きい。大気は地球環境を暖かく包む毛布の役割である。太陽から受け取った熱エネルギーを宇宙に放散するのを遅らせ、冬夏、夜昼の温度差を緩和する役が大気である。この作用が過度であれば温暖化になる。

 

 

「計測と制御で創る未来の地球」計測展2012 OSAKA 
           日時:10月31日(水)~11月2日(金)
           場所:グランキューブ大阪(大阪国際会議場)10階
主催:((社)日本電気計測器工業会
〒530-005大阪市北区中之5-3-51、電話06-4803-5555

特別講演 (鈴木朝夫氏)
日時:10月31日(水)、13:30~15:00
場所:グランキューブ大阪(大阪国際会議場)10階、1009会議室
演題:
新エネルギー資源の使い方~メタンハイドレート、地熱発電、そしてストレージ
The best use of Japanese new energy resources
講演要旨:
 日本は今、海底資源・地下資源によりエネルギー・資源大国になろうとしている。それらは、慎重に、ゆっくりと、賢く使うべきものである。経済成長のためではない。右肩下がりの時代を生きる減速に必要なエネルギー源と考えるべきである。心豊かな生活のために。
 Thanks to submarine and underground resources, Japan is becoming rich in energy and natural resources. Those resources should be used cautiously, slowly and wisely; not for another growth but for realizing economic maturity.

講師 鈴木朝夫(すずき ともお)
高知県メタンハイドレート開発研究会、理事長
Promotion of Methanhydrate Utility & Synergy in Kochi、Chief Director
     (略称:PROMETHEUS in KOCHI---
 Pro(motion)of Met(han)H(ydrat)E U(tility)& S(ynergy)in KOCHI )
-----------
講師略歴:
氏名:     鈴木 朝夫(すずき ともお)
所属、役職: 東京工業大学名誉教授・高知工科大学名誉教授、
     高知県メタンハイドレート開発研究会理事長 
略歴: 1932/10/10生まれ(千葉県)
       1955  東京工業大学 金属工学科卒業
東京工業大学 精密工学研究所 助手、助教授、教授、(工学部評議員)
1993 北海道大学工学部 材料工学科 教授(学科長)
1996  (社)日本金属学会 会長 
1997  高知工科大学 物質環境システム工学科 教授、(副学長・工学研究科長)       2001  高知県産業振興センター 理事(プロジェクト・マネージャー)
        高知県公安委員会 委員、委員長
2006~   高知県宇宙利用推進研究会(てんくろうの会)会長
              NPO牧野の森(くるくる五台山)代表
              高知ファンクラブ代表
高知県メタンハイドレート開発研究会理事長 等
2011   瑞宝中綬章(教育研究功労)の叙勲

 

〒718-0054 高知県香美市土佐山田町植718

鈴木朝夫 s-tomoo@diary.ocn.ne.jp

0887-52-5154、携帯 090-3461-6571

 

1) メタンハイドレートとは     2) メタンハイドレートの掘削は  3) 国家プロジェクトと高知の動き 

4) エネルギー資源の分類  5) 日本は昔からの資源大国(黄金の国、ジパング)  6) ビッグデータとスマート・グリッド

7) 事故は必ず起きる(低確率巨大事故)  8) 右肩下がりの下山の先は  

 

 

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鈴木朝夫の講演・出版の記録・・・その8 新エネルギー資源の使い方 2) メタンハイドレートの掘削は

2012-11-09 | 講演などの資料

(日本電気計測器工業会主催 計測展2012 OSAKA、計測と制御で創る未来の地球、2012,10,31、於;グランキューブ大阪 講演)

 

新エネルギー資源の使い方
      メタンハイドレート、地熱発電、そしてストレージ

 

      鈴木 朝夫 (東京工業大学名誉教授・高知工科大学名誉教授、高知県メタンハイドレート開発研究会理事長)

 


もくじ)
はじめに) 資源大国日本  ----------1
1) メタンハイドレートとは        ----------1
2) メタンハイドレートの掘削は       ----------3
3) 国家プロジェクトと高知の動き        ----------4
   4) エネルギー資源の分類      ----------5
  5) 日本は昔からの資源大国(黄金の国、ジパング) ----------6
  6) ビッグデータとスマート・グリッド  ----------7
  7) 事故は必ず起きる(低確率巨大事故)      ----------8
  8) 右肩下がりの下山の先は         ----------9
おわりに) 生き甲斐とは、幸せとは  ----------10

 

2) メタンハイドレートの掘削は

{従来のエネルギー資源の掘削法} 固体の石炭:固体を掘り出す。液体の石油:液体が湧き出る、液体を汲み出す。気体の天然ガス:気体が噴き出す、気体を吸い出す。固体のメタンハイドレート:固体を気体(メタン)と液体(水分子)に分離し、気体として地上に取り出す。石炭、石油、天然ガスの従来のエネルギー資源との大きな違いがここにある。

{メタンハイドレートからのメタン回収法} 「加熱法(温水圧入)」、「加熱法(抗井加熱)」、「減圧法」、「分解促進剤注入法」、「ゲスト分子置換法」などが考えられてきた。温度を上げれば、体積の増える方向の水とメタンの分離に向かう。圧力を解放すれば、同じく体積の増える方向に向かう。加熱法は、メタンの分離が吸熱反応だから、際限なく加熱し続ける必要が出てくる。

{減圧法によるメタン回収} 日本のMH21開発計画では減圧法が採用されている。ハイドレート堆積層に水平抗を堀り、発生する水を汲み上げて圧力を低下させ、これにより発生するメタンを吸い上げる。この分解は吸熱反応であり、周囲の温度を低下させる方向に動く。しかし堆積層の周囲の地熱により溶解が進み、圧力低下を持続させる。問題は減圧効果の範囲と持続時間にある。生産性障害になるのは、氷の生成であり、自己保存性が裏目になる。温水圧入や抗井加熱などの加熱法との併用が試みられている。出砂も問題であり、海底や地上に大量の堆積粒子汚泥を取り出すことになる。

{分解促進剤注入による回収法} メタンハイドレートの形成を阻害する分解促進剤(インヒビター)、例えばメタノールや塩を注入すれば、メタンの分離は可能である。だが、促進剤注入のコストが問題になる。

{加熱法(その場局所加熱)の新掘削法} 高知県企業からのこの特許のメタンハイドレート分解・回収装置の基本は「加熱法」である。掘削先端・その場局所燃焼加熱・超臨界水循環・減圧・押上圧送方式と呼べる。地上からは、空気(酸素)、可燃ガス(スタート時)、水、そして制御信号を送り込み、地上へは、回収メタンガス、燃焼排気ガスを取り出すことになる。掘削先端近くに置いたガスタービン発電装置で、その場で発生のメタンを地上からの酸素で燃焼し、それで電力を供給し、各種の熱エネルギー発生装置の電源とする。ヒーター熱による蒸気発生、高周波加熱による過蒸気生成、メタン押し上げのための超臨界水の発生、衝撃波発生によるMH層の破砕、マイクロ波発生などの各種の刺激の電源になる。

 

図2 メタンハイドレート分解・回収装置
  地上から、空気(酸素)、可燃ガス(スタート時)、水、そして制御信号、 
地上へは、回収メタンガス、燃焼排気ガス。
掘削先端のメタンハイドレート分解装置は
  (ガスタービン発電装置)で電力をその場供給、
(熱エネルギー発生装置)はヒーター熱による蒸気発生、
高周波加熱による過蒸気生成・超臨界水発生
その他、衝撃波発生によるMH破砕などの電源に。

 

出典:豊かな土佐を取り戻すには ~メタンハイドレートの可能性~(その2)

 

〒718-0054 高知県香美市土佐山田町植718

鈴木朝夫 s-tomoo@diary.ocn.ne.jp

0887-52-5154、携帯 090-3461-6571

 

1) メタンハイドレートとは  2) メタンハイドレートの掘削は  3) 国家プロジェクトと高知の動き

4) エネルギー資源の分類  5) 日本は昔からの資源大国(黄金の国、ジパング)  6) ビッグデータとスマート・グリッド

7) 事故は必ず起きる(低確率巨大事故)  8) 右肩下がりの下山の先は  

 

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鈴木朝夫の講演・出版の記録・・・その8 新エネルギー資源の使い方 3) 国家プロジェクトと高知の動き

2012-11-09 | 講演などの資料

(日本電気計測器工業会主催 計測展2012 OSAKA、計測と制御で創る未来の地球、2012,10,31、於;グランキューブ大阪 講演)

 

新エネルギー資源の使い方
      メタンハイドレート、地熱発電、そしてストレージ

 

      鈴木 朝夫 (東京工業大学名誉教授・高知工科大学名誉教授、高知県メタンハイドレート開発研究会理事長)

 


もくじ)
はじめに) 資源大国日本  ----------1
1) メタンハイドレートとは        ----------1
2) メタンハイドレートの掘削は       ----------3
3) 国家プロジェクトと高知の動き        ----------4
   4) エネルギー資源の分類      ----------5
  5) 日本は昔からの資源大国(黄金の国、ジパング) ----------6
  6) ビッグデータとスマート・グリッド  ----------7
  7) 事故は必ず起きる(低確率巨大事故)      ----------8
  8) 右肩下がりの下山の先は         ----------9
おわりに) 生き甲斐とは、幸せとは  ----------10

 

3) 国家プロジェクトと高知の動き


{メタンハイドレートの開発研究}  日本のメタンハイドレートの調査研究は2001年に始まっている。資源エネルギー庁から業務委託を受けて、(独)石油天然ガス・金属鉱物資源機構、(独)産業技術総合研究所、(財)エンジニアリング振興協会の3者が「メタンハイドレート資源開発研究コンソーシアム(MH21研究コンソーシアム)を組織し、「フェーズ1」の活動に入った。

{MH21フェーズ1}  日本周辺海域の賦存状況や賦存量調査を目的として、東海沖から熊野灘に掛けての東部南海トラフ海域で物理探査や試錐を行った。また、カナダの凍土で陸上産出試験を行った。ここでは基本的に減圧法を採用している。2001~2008年。

{MH21フェーズ2}  研究開発の第2段階に相当する2010年からは海洋産出試験の実施に向けた事前調査や設備検討などの準備段階に入る。2012年後半から東部南海トラフ上の渥美半島沖で1000mの海底から300m掘削し、メタン採取を行う予定である。また、東部南海トラフ以外の海域の調査、長期生産性や生産障害の解決、経済的・効率的な産出技術の確立が目標となっている(2009~2015)。商業的産出が目的の「フェーズ3」に移行する予定である。(2016~2018)。

{地の利、高知}  滑走路2500mの高知龍馬空港・拡張の余地を残す高知新港(FAZ)・これらを結ぶ高速高知道、そして香南市・香美市・南国市・高知市・いの町が位置する香長平野は広い。これらは生産設備・試験設備・備蓄基地などの各種施設の立地条件を充分に満足するものである。今は、海洋研究開発機構所属の地球深部探査船「ちきゅう」の寄港が出来ることが素晴らしいことである。正に「活力は土佐沖の海底より出ず」である。

{海の利、土佐}  土佐湾沖の南海トラフのメタンハイドレートとそれに伴うリチウムの回収だけではなく、200海里の排他的経済水域内には各種の有望な海底鉱物資源の存在する可能性が高い。Ni、Co、Ptなどを含むコバルトリッチ・クラスト、Ni、Cu、Mnなどを含むマンガン団塊、そしてAu、Ag、Zn、Pb、Cuなどを含む熱水性鉱床である。

{人の利、龍馬}  高知には知の利がある。海洋研究開発機構(高知コア研究所)、高知大学、高知工科大学、県立高知大学、高知県産業技術委員会他がある。県内企業からの掘削に関する特許が認可された。付随した関連特許が山のように出てくるであろう。様々な関連するベンチャー企業も生まれてくるだろう。第二の龍馬たちに、第二の弥太郎たちに期待したい。

{NPO21世紀構想委員会とは}  真の科学技術創造立国を確立するため、研究テーマを掲げて討論する場として1997年にスタートした。会員はベンチャー企業、行政官庁、大学、マスコミの4極から参加している。会員数は約100人である。理事長は馬場錬成氏(東京理科大学大学院 知財財産戦略専攻 教授、元読売新聞論説委員)である。

{メタンハイドレート実用化研究委員会}  NPO21世紀構想委員会に所属する会員の特許出願の支援を行ってきた渡邉望捻氏(イオン特許事務所弁理士)らの要請により、すなわち国家プロジェクトとして取り上げるべきとの観点から、表記の委員会を設置した。2010年7月27日に馬場錬成氏を先頭に、平朝彦氏((独)海洋研究開発機構 理事、現理事長、元高知大学教授)に委員長就任をお願いした。
 2010年12月6日には、第2回のメタンハイドレート実用化研究委員会が開かれた。この委員会をべースにして、「メタンハイドレート国際戦略部会(仮称)」、「メタンハイドレート技術専門委員会(仮称)」を、そして高知県ベースで「高知県メタンハイドレート開発研究会」を設置することが決まった。仕事の手始めは内閣府へ「国際戦略総合特区」の申請書、「メタンハイドレート実用化研究から資源大国へ」を提出することであった。この申請は内閣府の制度に馴染まなかったが、考え方は引き継がれ、推進していくことが了承された。
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{高知県メタンハイドレート開発研究会}  2011/7/18(海の日)に、平朝彦氏、臼井朗氏(高知大学教授)、木川栄一氏をお招きして記念講演会を開催し高知県での研究会を発足させる運びになった。2012/2/16には、木川栄一氏(海洋開発機構・高知コア研究所所長から海底資源研究プロジェクトのリーダーに栄転)に海洋資源の講演を頂いた。2012/7/7には設立一周年を記念して、木下正高氏(高知コア研究所所長)から、また門馬義雄氏(高知工科大学名誉教授)より「環境とエネルギーから見た50年後の地球」と題する講演を頂いた。
 国の行う壮大なプロジェクトに対して、高知県の民・産・官を挙げての受け皿は整った。この動きを隣接する沿岸地域だけではなく、県内全域にも伝え、あらゆる分野の県内企業の協力も得て、広く連携を図って行くことになる。

 

〒718-0054 高知県香美市土佐山田町植718

鈴木朝夫 s-tomoo@diary.ocn.ne.jp

0887-52-5154、携帯 090-3461-6571

 

1) メタンハイドレートとは  2) メタンハイドレートの掘削は  3) 国家プロジェクトと高知の動き

4) エネルギー資源の分類  5) 日本は昔からの資源大国(黄金の国、ジパング)  6) ビッグデータとスマート・グリッド

7) 事故は必ず起きる(低確率巨大事故)  8) 右肩下がりの下山の先は  

 

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鈴木朝夫の講演・出版の記録・・・その8 新エネルギー資源の使い方 4) エネルギー資源の分類

2012-11-09 | 講演などの資料

(日本電気計測器工業会主催 計測展2012 OSAKA、計測と制御で創る未来の地球、2012,10,31、於;グランキューブ大阪 講演)

 

新エネルギー資源の使い方
      メタンハイドレート、地熱発電、そしてストレージ

 

      鈴木 朝夫 (東京工業大学名誉教授・高知工科大学名誉教授、高知県メタンハイドレート開発研究会理事長)

 


もくじ)
はじめに) 資源大国日本  ----------1
1) メタンハイドレートとは        ----------1
2) メタンハイドレートの掘削は       ----------3
3) 国家プロジェクトと高知の動き        ----------4
   4) エネルギー資源の分類      ----------5
  5) 日本は昔からの資源大国(黄金の国、ジパング) ----------6
  6) ビッグデータとスマート・グリッド  ----------7
  7) 事故は必ず起きる(低確率巨大事故)      ----------8
  8) 右肩下がりの下山の先は         ----------9
おわりに) 生き甲斐とは、幸せとは  ----------10

 

4) エネルギー資源の分類


{エネルギー資源は大きく2種類}
 1) 蓄積エネルギー・枯渇性エネルギー(貯蓄・資産として相続した資金):石炭、石油、天然ガス、メタンハイドレート、シェールオイル(ガス)などの化石燃料、核エネルギー、(地熱エネルギー)・・・・遊んで食えば山も尽きる、いつまでもあると思うな親と金。
 2) 再生可能エネルギー・自然エネルギー(給与や売上で獲得した所得):バイオマス、水力(小水力)、風力、波力、潮汐力、海流、温度差、太陽光、太陽熱・・・稼ぎに追いつく貧乏なし。 3) その他として エネルギー貯蔵(当座預金・運転資金)・・・・備えあれば憂いなし。

{石油ピーク}  石油の産出量がピークを過ぎると、緩やかな減少に転じて石油減耗の時代となる。米国の石油生産量は1971年にピークを迎えたことが知られている。既に、全世界の石油生産量はピークを過ぎ、石油減耗の時代に入ったとも考えられる。

{エネルギー利得率、EPR}   EPR=(出力エネルギー)/(入力エネルギー)である。採掘・精製・保管・輸送などの生産に必要な入力エネルギーと利用出来る出力エネルギーの比がEPRである。ある文献では、石油火力は7.9、石炭火力が6.5、液化天然ガス火力2,4、風力3.9、地熱6.8、原子力は17.4などとなっているが、計算の根拠が不明である。計算基準を決められないのでは。

{原子力エネルギー}  津波による福島第一原発の事故で、信頼は一気に低下した。また、地球温暖化は原子炉の排水による海水温の上昇であると考える人も多い。都市のヒートアイランド現象に匹敵するとの試算もある。また建設段階から、高レベル廃棄物処理、そして廃炉までの入力エネルギーの見積もりは難しいし、CO2排出も大きいと思われる。

{原発比率(2030)} 政府は2030年時点の原発比率として、3つの選択肢(0%、15%、20~25%)を示した。エネルギー基本計画がどのような結論になるか見守りたい。揺れ動いている。

{活断層・活火山} 約200万年以降に繰り返し動いた断層が活断層で、今後も動くと想定している。原発再稼働に向けた議論で問題になるのは断層の活動の可能性である。日本列島では可能性が少ない場所はないと云っても過言ではない。フィンランドでは高レベル放射性廃棄物の地下への埋蔵で、何億年来動いたことのない岩盤であることを確かめている。何億年後の知能の高い生物に知らせるような表示が必要か否かの議論をしてる。なお、活火山の定義は、噴火記録のある山から1万年前の証拠があるものへと広がっている。休火山、死火山の表現はしなくなった。

{メタンのエネルギー利得率}  燃料としては天然ガスの代替として使える。ガスタービン発電は一般的である。また水素燃料電池としての可能性も高い。C1化学の原材料として、複雑な有機化合物の合成も、また使いやすい化合物に変化させた燃料も可能である。

{ハイドレートからのメタンは副産物} リチウムがメタンハイドレートの分解水に含まれているとすれば、どちらが副産物か分からなくなる。局所加熱によるエネルギー節約型の掘削法でもあり、総合的なエネルギー利得率はかなり大きなものになると期待できる。

{大地震の誘発は} 今の人類の知識の範囲では因果関係を考える根拠を持たない。予知できる学問の進展への期待と、コスト・ミニマムの安全・安心の対策を考える必要がある。

{地球温暖化への影響}   CO2の20倍もの温室効果があり、5500万年前の生物の大量絶滅の原因とも言われているメタンである。これは46億年にわたる地球のダイナミックな営みの中での物語である。議論になるのは、掘り出して燃焼させることと、自然放出との比較になる。メタンはCO2の排出量の差から、代替エネルギー源として期待できる。

 

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1) メタンハイドレートとは  2) メタンハイドレートの掘削は  3) 国家プロジェクトと高知の動き

4) エネルギー資源の分類  5) 日本は昔からの資源大国(黄金の国、ジパング)  6) ビッグデータとスマート・グリッド

7) 事故は必ず起きる(低確率巨大事故)  8) 右肩下がりの下山の先は  

 

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鈴木朝夫の講演・出版の記録・・・その8 新エネルギー資源の使い方 5)日本は昔からの資源大国

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(日本電気計測器工業会主催 計測展2012 OSAKA、計測と制御で創る未来の地球、2012,10,31、於;グランキューブ大阪 講演)

 

新エネルギー資源の使い方
      メタンハイドレート、地熱発電、そしてストレージ

 

      鈴木 朝夫 (東京工業大学名誉教授・高知工科大学名誉教授、高知県メタンハイドレート開発研究会理事長)

 


もくじ)
はじめに) 資源大国日本  ----------1
1) メタンハイドレートとは        ----------1
2) メタンハイドレートの掘削は       ----------3
3) 国家プロジェクトと高知の動き        ----------4
   4) エネルギー資源の分類      ----------5
  5) 日本は昔からの資源大国(黄金の国、ジパング) ----------6
  6) ビッグデータとスマート・グリッド  ----------7
  7) 事故は必ず起きる(低確率巨大事故)      ----------8
  8) 右肩下がりの下山の先は         ----------9
おわりに) 生き甲斐とは、幸せとは  ----------10

 

5)日本は昔からの資源大国(黄金の国、ジパング)


{金銀鉱石の産出}   江戸時代には金は佐渡金山、銀は石見銀山が有名だった。現在、鹿児島県の菱刈鉱山の金の推定埋蔵量は250t、金鉱石は250g/tと高品位である。普通は数g/tである。

{海底鉱物資源} 200カイリ経済水域内で採れる鉱物資源は多い。リチウムを含む泥火山を始めとして、熱水鉱床、マンガン団塊、コバルトリッチ・クラストなど鉱物資源は様々である。

{地熱発電} 日本列島は火山の島、温泉の国、地熱は固有の熱資源であり、自然エネルギーである。地熱発電は天候に左右されないので、稼働率は極めて高く、何れの再生可能エネルギーとも比較にならない。しかし、地熱資源の多くは国立公園内にあり、導入促進には法的措置や規制緩和が不可欠である。また、地域や温泉事業者との調整が重要である。高温岩体発電、バイナリー発電など方式は様々である。

{リチウム電池} リチウム(Li)は最も軽い金属である。日本は有数のリチウム産出国になる可能性を秘めている。エネルギー蓄積の役割を演じる金属リチウムを資源として持てることは国際戦略上で極めて有利である。二次電池に必要なコバルト資源も直ぐそこの海底に眠っている。

{電気自動車}  夜間電力での蓄熱は現在多くの家庭で実用化されている。同じように、自家用自動車が動ける蓄電装置として夜間に使われる。再生可能エネルギー発電とともに、スマートハウスの重要な構成要素となる。

{安全保障} 国産のエネルギー資源、鉱物資源があることは極めて有利である。安全保障上だけではなく、外交交渉の切り札として有効である。

 

 

1) メタンハイドレートとは  2) メタンハイドレートの掘削は  3) 国家プロジェクトと高知の動き

4) エネルギー資源の分類  5) 日本は昔からの資源大国(黄金の国、ジパング)  6) ビッグデータとスマート・グリッド

7) 事故は必ず起きる(低確率巨大事故)  8) 右肩下がりの下山の先は  

 

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鈴木朝夫の講演・出版の記録・・・その8 新エネルギー資源の使い方 6) ビッグデータとスマートグリッド

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(日本電気計測器工業会主催 計測展2012 OSAKA、計測と制御で創る未来の地球、2012,10,31、於;グランキューブ大阪 講演)

新エネルギー資源の使い方
      メタンハイドレート、地熱発電、そしてストレージ

      鈴木 朝夫 (東京工業大学名誉教授・高知工科大学名誉教授、高知県メタンハイドレート開発研究会理事長)


もくじ)
はじめに) 資源大国日本  ----------1
1) メタンハイドレートとは        ----------1
2) メタンハイドレートの掘削は       ----------3
3) 国家プロジェクトと高知の動き        ----------4
   4) エネルギー資源の分類      ----------5
  5) 日本は昔からの資源大国(黄金の国、ジパング) ----------6
  6) ビッグデータとスマート・グリッド  ----------7
  7) 事故は必ず起きる(低確率巨大事故)      ----------8
  8) 右肩下がりの下山の先は         ----------9
おわりに) 生き甲斐とは、幸せとは  ----------10

 

6) ビッグデータとスマートグリッド


{ベストミックス} 「直ちに再生可能エネルギーで原子力エネルギー分をカバーすることは、極めて難しい」と強調した上で、(1)節電、省エネ、(2)原発の稼働維持、(3)LNG・火力発電の効率化、(4)再生可能エネルギーの普及促進、これらを総合してベストミックスと名付けている。

{エネルギー総需要削減} ピーク時カット、ネルギー価格とピーク時価格の調整。そして節約、省エネ、リサイクルでことは済むのだろうか。人類の生活態度の変換が必要である。
10月から環境税
{スマートグリッドとは} 他種類のエネルギーの供給側とニーズの多様性を示す需要側の相互連携を高度に知能化した情報通信技術で制御する送配電網である。従来の大型発電所からだけの電力供給を行う発送電網ではない。家庭やオフィスや事業所などの小口電力を消費する需要側にも、多様な発電機能を備え、地域で必要な電力を消費地で生産するような、地産地消の仕組みを備えていることも特徴である。

{スーパー・スマートグリッド} 時々刻々の料金変動制によるエネルギー・シフトの提案。金融市場のイメージ。強大なソフトが必要となる。大きな蓄電能力が必須の条件になる。

{環境アセスメント}   国では道路・港湾・埋立などの公共事業の環境影響評価を行うことを定めているが、開発行為が環境に与える影響の範囲や程度を様々な角度から検討する必要がある。実施主体の構成や経過の透明性が保たなければならない。

{(再生可能)熱エネルギー} 太陽熱、地中熱、温泉熱、バイオマス熱、雪氷熱などそのまま捨て去られている比較的低い温度の熱エネルギー利用することが再生可能熱エネルギーである。例えば、庭に水を撒く効果は蒸散熱・蒸発熱の有効利用である。風流の世界でもある。

{インターネット・プロトコール、IPv4とIPv6} アドレスは幾つあればよいか。現在のIPv4は 2の32乗(=約42億)個である。地球上の人口よりも少ない。IPv6では 2の128乗(= 約340澗)個である。340澗個とは340兆の1兆倍の1兆倍のアドレスになる。IPv4を石油缶の体積とすれば、IPv6は太陽を越える大きさになる。

{ビッグデータ} FacebookやGoogleに代表されるような巨大な情報を取り扱える時代に入っている。初音ミクやコンプリートガチャの巨大さを想像して欲しい。複雑な巨大システムの制御が可能な時代である。欠陥を皆無にすることはできない。低確率巨大事故の候補の1つである。

{リスク、コスト、環境} 原子力以外は安全との考えは当たらない。多様な再生可能エネルギーの大規模化で様々な問題が発生する。3つの要素の相互作用を常に念頭に置くべきである。

{風力発電と太陽光発電} 太陽光は最も発電コストが高い。風力がより低コストであるが、太陽光の3倍の面積が必要であり、騒音被害、特に低周波騒音被害が問題になっている。

{メガソーラー} 出力が1MW(メガワット) (1000kW)以上の大規模太陽光発電施設をメガソーラーと呼んでいる。休耕田や耕作放棄地を利用する計画をソフトバンクが発表した。

{洋上風力発電} 大規模風力発電には着床や浮体がある。ツバを付けた「風レンズ風車」は従来型の3倍の能力を持っている。太陽光発電などを組み合わせ、さらに養殖場、海洋牧場を設置した洋上式多目的複合エネルギーファームの構想がある。台風と津波への対応が重要である。

{エネルギー貯蔵(ストレージ)} 多数の発電電源間の系統安定性の確保。ダム貯水(揚水発電)、燃料電池(水素エネルギー)、二次電池(水素電池、リチウム電池)、超電導、フライホイールなど。

 

1) メタンハイドレートとは  2) メタンハイドレートの掘削は  3) 国家プロジェクトと高知の動き

4) エネルギー資源の分類  5) 日本は昔からの資源大国(黄金の国、ジパング)  6) ビッグデータとスマート・グリッド

7) 事故は必ず起きる(低確率巨大事故)  8) 右肩下がりの下山の先は  

 

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鈴木朝夫の講演・出版の記録・・・その8 新エネルギー資源の使い方 7)事故は必ず起きる

2012-11-09 | 講演などの資料

(日本電気計測器工業会主催 計測展2012 OSAKA、計測と制御で創る未来の地球、2012,10,31、於;グランキューブ大阪 講演)

新エネルギー資源の使い方
      メタンハイドレート、地熱発電、そしてストレージ

      鈴木 朝夫 (東京工業大学名誉教授・高知工科大学名誉教授、高知県メタンハイドレート開発研究会理事長)


もくじ)
はじめに) 資源大国日本  ----------1
1) メタンハイドレートとは        ----------1
2) メタンハイドレートの掘削は       ----------3
3) 国家プロジェクトと高知の動き        ----------4
   4) エネルギー資源の分類      ----------5
  5) 日本は昔からの資源大国(黄金の国、ジパング) ----------6
  6) ビッグデータとスマート・グリッド  ----------7
  7) 事故は必ず起きる(低確率巨大事故)      ----------8
  8) 右肩下がりの下山の先は         ----------9
おわりに) 生き甲斐とは、幸せとは  ----------10

 

7)事故は必ず起きる(低確率巨大事故)


{安全と安心} 安全は、「安全率」、「安全装置」の表現が、安心は、「安心感」の表現ができる。安全は証明ができる客観的事実、安心とは自ら理解・納得する主観的事実である。

{安全か、危険かの両極端} 情報の欠如、不正確な情報。口コミ、うわさ。マスコミによる増幅、悲惨な映像、過大評価と身近な事例。リスク対応が別なリスクを背負うこと。リスク確率の評価を誤る。

{フェールセーフとフールプルーフ} 仕組みが故障すれば安全側に動いていくのをフェールセーフと呼び、操作を間違えても「止まる」といった安全側に動く仕組みがフールプルーフである。

{フォールトトレランス} システムに障害が発生したときに、正常な動作を保ち続ける能力である。障害発生時の被害を最小限度に抑える能力であり、訳は「耐障害性」「故障許容力」などとなる。故障が起こっても、どれだけ耐えられるかといった概念である。

{フォールトツリー}  故障の木という樹形図。起って欲しくない事象(特定の故障・事故)について、その発生要因を上位のレベルから順次下位に展開して、より低位の問題事象の発生の頻度から想定した特定故障・事故の発生確率を算出する。また、これにより、故障・事故の因果関係を明らかにできる。プラント設計や事故予防解析に多く使われている。しかし、低確率巨大事故のような同時多発故障では使えない。ベキ分布の低確率巨大事故は想定外となる。

{正規分布とベキ(冪)分布} 航空機事故、原子力災害、地震発生、ビッグデータ・システムなどでは、過酷な事故は必ず起きることが知られてきた。「文明は事故を発明する」の有名な言葉がある。そして、確率分布が正規分布ではなくベキ分布となることが知られてきた。
 正規分布は、平均値を境として前後に同じ程度にばらついている状態であり、分布図では平均値を対称軸とした釣鐘型の曲線である。つまり、平均値の周辺に多くの値が集まり、値が大小の左右の裾野に向かいデータは急激に減る。
 ベキ分布では、平均値を超えて大きな値の方向に曲線はなだらかに裾野を引き、平均からずれた極端に大きなデータの減衰が遅い。平均値以下では、より小さな値をとるデータの数が極端に増えていく。ビスケットを一撃で粉々にしたときのカケラの分布を想像して欲しい。小さな粉ほどその数は極端に多くなっている。数は少ないが、大きなカケラも残って居る。カケラのサイズの分布はベキ分布と言って良い。

{ブラックマンデー、リーマン・ショック}  株式市場の崩壊はレバレッジ(自己資本より大な力で市場を動かす梃子の仕組み)の作用に似ている。クレジット払い、担保借入、信用取引などでは、時にブラックマンデーやリーマン・ショックのようなことが発生する。その確率分布はベキ分布になる。確率分布の形からこれをロングテール(長いしっぽ)と呼んでいる。

{過酷事故発生後の対応}  適正な是正措置。事故後の緩和作戦が重要である。時には超法規的な判断も必要であることの認識。巨大な火事では意図的に先回りの放火や破壊を行うこともある。江戸時代の火消しの仕事は破壊消防から始まっていた。

 

1) メタンハイドレートとは  2) メタンハイドレートの掘削は  3) 国家プロジェクトと高知の動き

4) エネルギー資源の分類  5) 日本は昔からの資源大国(黄金の国、ジパング)  6) ビッグデータとスマート・グリッド

7) 事故は必ず起きる(低確率巨大事故)  8) 右肩下がりの下山の先は  

 

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鈴木朝夫の講演・出版の記録・・・その8 新エネルギー資源の使い方 8)右肩下がりの下山の先は

2012-11-09 | 講演などの資料

(日本電気計測器工業会主催 計測展2012 OSAKA、計測と制御で創る未来の地球、2012,10,31、於;グランキューブ大阪 講演)

新エネルギー資源の使い方
      メタンハイドレート、地熱発電、そしてストレージ

      鈴木 朝夫 (東京工業大学名誉教授・高知工科大学名誉教授、高知県メタンハイドレート開発研究会理事長)


もくじ)
はじめに) 資源大国日本  ----------1
1) メタンハイドレートとは        ----------1
2) メタンハイドレートの掘削は       ----------3
3) 国家プロジェクトと高知の動き        ----------4
   4) エネルギー資源の分類      ----------5
  5) 日本は昔からの資源大国(黄金の国、ジパング) ----------6
  6) ビッグデータとスマート・グリッド  ----------7
  7) 事故は必ず起きる(低確率巨大事故)      ----------8
  8) 右肩下がりの下山の先は         ----------9
おわりに) 生き甲斐とは、幸せとは  ----------10

 

8)右肩下がりの下山の先は


{「下山の思想」などの考え方}  石油ピークは既に過ぎており、使い勝手の良いエネルギー資源の観点からは、生産活動自体が下り坂になることは必然であり、経済指標は何れも前年度比マイナスの退却戦に入っている。これからは専門家と称する人への『お任せ』ではなく、各自が考え、意見を持つ『自立』の時が来たことを自覚しなければならない。下り行く先の未曾有の時代の姿を思い描き、どのように生きていくかを皆で考えるべきである。
1)「下山の思想」:五木寛之著(幻冬社新書、2011/12)、2)「『右肩下がりの時代』をどう生きるか」:鷲田精一著(「潮」、2012/1)、3)「石油文明が終わる~3・11後、日本はどう備える」:石井吉徳他著、(”NPOもったいない学会”、2011/11)。

[固定観念、既成概念、既得権の放棄}  今の高齢者達の世代は、最高峰を目指した同志であった。戦後の日本の経済成長を、高品質・高効率・大量生産で担う戦士達であり、希望に満ちて大量消費を競ってきた。下山に際しては、固定観念を、既成概念、その価値観を捨て去る必要がある。経済成長率プラスの期待は止めなければならない。新陳代謝はゆっくりとゆったりと。「持続可能な発展」や「ゼロエミッション」のスローガンは無意味であることを悟ろう。

{最高峰に立ったとき} 我々山仲間は「山を征服した」との表現を使ったことは一度もない。頂上では「ありがとう」と山々に感謝し、「お陰さま」と仲間と握手をした。帰りも安全に降ろして下さいのお願いが込められている。日本人が皆で最高峰に立ったとき、我々は「お陰さま」と感謝しただろうか。今からでも遅くない。振り返り、感謝を捧げようではないか。

{リーダーの資質}  山を下るときの鉄則はグループをまとめ、落伍者を出さないことである。力量や経験の異なる混成部隊である。適度な休息を取り、食糧を分け合い、体を温め合うことが必要である。寒さが募る中では、眠らないことが必須である。サブリーダーの「しんがり」としての気配りは極めて重要である。そして、天候、地形などの環境変化を細心の注意と直感によって判断できる能力を持つリーダーの責任は更に重要である。財政再建には経済成長を期待する政治家が、実業家が多い。人材の枯渇では?

{右肩下がりの道を下り行くその先は?} 「となりのトトロ」で宮崎駿の描いたサツキとメイの家のような暮らしか。それとも、もう少し昔の宮沢賢治が理想郷とした里山の「イーハトーブ」だろうか。もっと昔に戻り、武士も町民も風流を愛でた江戸時代の心の豊かさの中なのだろうか。何れにしても、凄まじい速さで大量のエネルギーを消費することは、エントロピー増大を加速するだけである。地球温暖化はその一つの現れである。皆で幸せとは何かを考えよう。

 
おわりに) 生き甲斐とは、幸せとは

成長戦略を基本に置くことはナンセンスであることは既に述べた。地域も、企業も、国家も、人類社会も。過疎化・少子化・高齢化社会に対して、少子化時代の若者・子供達を元気に。情報化時代を皆が楽しめる仕組みに。ふれ合う機会の創出。好奇心を失わず、感性を豊かにする教育に。人の、地域の、人類の、地球の役に立つ工夫と努力が稔る社会に。このようなことを皆で考えよう。専門家に任せるのは止めよう。
日本近海に高い可能性を持つメタンハイドレートは次の登山を計画するためのものではない。含み資産の地熱エネルギーの使い道も同じである。有用な海底資源も同じである。儲けたと思い込んで一気に使うべきものではない。軟着陸のために与えられた資源として感謝しながら、ゆっくりと使うべきである。切り札は無闇に使うものではない。
       計測展2012 OSAKA、計測と制御で創る未来の地球、2012,10,31、於;グランキューブ大阪


「計測と制御で創る未来の地球」計測展2012 OSAKA 
           日時:10月31日(水)~11月2日(金)
           場所:グランキューブ大阪(大阪国際会議場)10階
主催:((社)日本電気計測器工業会
〒530-005大阪市北区中之5-3-51、電話06-4803-5555

特別講演 (鈴木朝夫氏)
日時:10月31日(水)、13:30~15:00
場所:グランキューブ大阪(大阪国際会議場)10階、1009会議室
演題:
新エネルギー資源の使い方~メタンハイドレート、地熱発電、そしてストレージ
The best use of Japanese new energy resources
講演要旨:
 日本は今、海底資源・地下資源によりエネルギー・資源大国になろうとしている。それらは、慎重に、ゆっくりと、賢く使うべきものである。経済成長のためではない。右肩下がりの時代を生きる減速に必要なエネルギー源と考えるべきである。心豊かな生活のために。
 Thanks to submarine and underground resources, Japan is becoming rich in energy and natural resources. Those resources should be used cautiously, slowly and wisely; not for another growth but for realizing economic maturity.

講師 鈴木朝夫(すずき ともお)
高知県メタンハイドレート開発研究会、理事長
Promotion of Methanhydrate Utility & Synergy in Kochi、Chief Director
     (略称:PROMETHEUS in KOCHI---
 Pro(motion)of Met(han)H(ydrat)E U(tility)& S(ynergy)in KOCHI )
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講師略歴:
氏名:     鈴木 朝夫(すずき ともお)
所属、役職: 東京工業大学名誉教授・高知工科大学名誉教授、
     高知県メタンハイドレート開発研究会理事長 
略歴: 1932/10/10生まれ(千葉県)
       1955  東京工業大学 金属工学科卒業
東京工業大学 精密工学研究所 助手、助教授、教授、(工学部評議員)
1993 北海道大学工学部 材料工学科 教授(学科長)
1996  (社)日本金属学会 会長 
1997  高知工科大学 物質環境システム工学科 教授、(副学長・工学研究科長)       2001  高知県産業振興センター 理事(プロジェクト・マネージャー)
        高知県公安委員会 委員、委員長
2006~   高知県宇宙利用推進研究会(てんくろうの会)会長
              NPO牧野の森(くるくる五台山)代表
              高知ファンクラブ代表
高知県メタンハイドレート開発研究会理事長 等
2011   瑞宝中綬章(教育研究功労)の叙勲

 

 

718-0054 高知県香美市土佐山田町植718

鈴木朝夫 s-tomoo@diary.ocn.ne.jp

0887-52-5154、携帯 090-3461-6571

 

1) メタンハイドレートとは  2) メタンハイドレートの掘削は  3) 国家プロジェクトと高知の動き

4) エネルギー資源の分類  5) 日本は昔からの資源大国(黄金の国、ジパング)  6) ビッグデータとスマート・グリッド

7) 事故は必ず起きる(低確率巨大事故)  8) 右肩下がりの下山の先は  

 

鈴木朝夫の講演・出版の記録 目次

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豊かな土佐を取り戻すには ~メタンハイドレートの可能性~(その1)

2011-03-03 | 講演などの資料

  平成22年度講演・祝賀・懇親会((財)高知県技術者協会)、H22,12,14、於;高知商工会館


豊かな土佐を取り戻すには                          

           ~メタンハイドレートの可能性~   

                                                                           鈴木 朝夫 (高知工科大・東工大名誉教授)


1) はじめに   

                                                   
  昔の土佐は豊かだった。須崎上分の大日如来に代表される仏像の発注や大豊の豊楽寺のような寺院造営ができた土佐、各地に残る地方仏を守り続けた地域の人々が暮らす土佐である。その土佐の豊かさは、絵金の芝居絵の鮮烈な赤(朱)の岩絵の具、辰砂にも示されている。物部川上流に水銀鉱山があったのである。塩の道から地産地消・地産外商の実態を知ることができる。
 豊かさの源は地勢・地層にある。空海に倣ってみよう。三波川帯、御荷鉾構造線、秩父帯は関東の地名。黒瀬川帯は愛媛の地名。三宝山帯、仏像構造線、四万十帯は高知の地名。地質学の名称に四国の地名が多い。製鉄に欠かせない石灰岩や蛇紋岩の産地の土佐は資源大国なのである。そしてこれからの資源大国の源泉、メタンハイドレートは南海トラフにある。メタンハイドレートが湧き出す泥火山からはリチウムの濃縮した水が出る。副産物が主産物になる可能性もある。その他にも土佐沖には、コバルト・リッチ・クラスト、熱水鉱床が眠っている。今も日本は資源大国である。その中心地が土佐なのである。


                
2) 久しぶり、仏像との出逢い  

                                     
 近所の香美市立美術館で9月下旬から11月上旬まで開催されていた「古仏との対話-井上芳明と土佐の仏像」を繰返し見に行った。高知県内の仏像25体と井上芳明さん撮影の仏像写真の展覧会である。「土佐魅惑の仏像たち」と題し、青木淳さんの心温まる解説が高知新聞夕刊に連載されていた。大豊町定福寺六地蔵さん達(木彫)がニコニコ顔で横一列の立ち姿で並んでいる。その隣に、湛慶またはその工房作と推定される須崎市上分大日堂大日如来さん(木造・漆箔)が座っている。どの仏さまも私を歓迎してくれているように思えた。若い頃、仏たちに会うためにオートバイで奈良に出かけたことを思い出していた。
  東工大のある大岡山から、九品仏駅(9体の阿弥陀如来坐像)、等々力駅(等々力不動尊)、目黒駅や不動前駅(目黒不動尊)は至近距離。これらの仏さまに関心を持ち、久野健著「日本の彫刻」(吉川弘文館(1959))を買ってきた。仏の名称の由来も、姿や形や振りの持つ意味も知りたくなる。鎌倉を始めとする近郊のお寺回り、仏さま巡りが始まった。また、専門の材料工学の面から仏像の材質と製作法に興味が湧く。結果として、古都奈良への憧れは募るばかり。寺尾勇著の写真集「飛鳥彫刻細見」(奈良美術研究所(1950))を手に入れる。大和の国で、横の姿の美しい法隆寺百済観音立像(木彫)、微笑みの中宮寺菩薩半跏思惟坐像(木彫)、運慶・快慶の代表作の東大寺南大門仁王立像(木彫)、漆黒の肌の薬師寺薬師如来坐像と日光・月光菩薩立像の三尊像(青銅)に会いたいと思った。
  同志は現れず、一人旅のスタートは大晦日。当時は、戸塚に有料高速道(通称、ワンマン道路)はあるが、東海道(国道1号線)には未舗装部分が残っていた。東大寺、興福寺、唐招提寺、薬師寺へ。法隆寺から中宮寺、法輪寺と歩いて回る。戻ると私の単車をライダー達が囲んでいる。府県名なしの数字5桁だけの東京ナンバーが珍しかったのである。
 法起寺から西大寺へ。秋篠寺では、今にも歌い出しそうな技芸天立像(乾漆と木造)に会うことが出来た。光明皇后ゆかりの尼寺、法華寺では、端正なお顔の十一面観音菩薩立像(木彫)に出会えた。庫裏で声を掛けて程なく出てきたのは清楚な感じの尼さんである。拝観の後、掘り炬燵のある部屋に通され、「お正月のお寺参りとは、お若いのにご信心深いことです」と褒められ、お茶お菓子をご馳走になった。真っ黒の煤けた顔、白い埃だらけの服のままである。「拝観料は」「お志で結構です」と言われ戸惑ったことを思い出す。
  先の「日本の彫刻」には、高知の6寺19点が記載され、今回はその中の3点を見ることが出来る。運慶の長子湛慶作の雪渓寺毘沙門天立像(木彫、写真展示)と茶目っ気たっぷりな善賦師童子立像(木彫)の2点と安田町北寺薬師如来座像(木彫)である。
 そして「土佐の秘仏をめぐる見学会」にも参加できた。青木淳先生を始めとする調査に努力された多くの方々と、そして高知市安楽寺阿弥陀如来坐像(木彫)、高知市円行寺日吉神社薬師堂薬師如来坐像、芸西村瓜生谷観音堂十一面観音立像(木彫)、安芸市妙山寺聖観音立像(木彫)など多くの仏たちに会うことが出来た。また、鎌倉時代の土佐に、寺院を造営し、これだけの仏像を発注し得る政治力と経済力が存在していたことに驚かされた。幾多の試練の中で地域の人々が仏さまを守り続けた歴史の重みを感じた。ここに地方の時代を生きるヒントが隠れているように思える。また、貴重な文化遺産を県民みんなで守り、後世に伝える必要がある。そのために「地方仏研究会友の会」が発足したことは喜ばしい。
                (情報プラットフォーム、No.255、12(2008)に掲載)


         
3)塩の道は丹生(韮生)の道では?  

                                  
  文代峠から赤岡までの塩の道の下半分を「塩を運んだ後、帰り荷がない筈がない。何だろうか。」と思いながら歩いた。大栃の塩峰公士方(しおがみねくじかた)神社から文代峠までの上半分も別な機会に歩いているので、塩の道を全部歩いたことになる。塩の道は急流の物部川に沿って下るのではなく、それと平行する支流の谷(庄谷相)に入り、文代峠を経て、香宋川や山北川沿いを選びながら、野市町・香我美町を通り、赤岡へと下る道である。全長の合計は30kmになる。朝、赤岡を出発し、午後には大栃に到着することになる。馬の背に乗せての運搬であり、随所に馬頭観音が祭られている。
 統計によれば、現在の物流のトラック輸送の積載率は50%前後である。帰り荷がないのと同じである。エネルギーと時間の無駄使いである。帰り荷は「木炭ですよ」、「雁皮ではないですか」、「樟脳でしょう」などとアドバイスを頂くが、どれも納得がいかない。
  そんな時に、赤岡の絵金蔵で出会ったあの芝居絵の鮮烈な赤の色(朱・丹)を思い出していた。あの色が出せる赤色顔料は鉄の酸化物(ベンガラ)や鉛の酸化物(鉛丹)ではない。水銀の硫化物、辰砂ではないだろうかと思った。「昔、物部川流域に水銀鉱山があったのでは?」と会う人ごとに聞いた。遂に有力な情報が寄せられた。白髪山を源流とし、西南に流れ下る物部川の上流では、北寄りの上韮生川、南寄りの槇山川が大栃でY字で合流する。鉱山があった場所は上韮生川の右岸に北から合流する安野尾川の上流とのことである。「鉱山跡をご案内しましょう。」と言って下さるが、強行軍ではと少し不安である。
 徳島に向かう国道195号線は、物部川中流から槇山川沿いにほぼ直線であり、南側の四万十帯と北側の秩父帯を分ける仏像構造線と一致している。秩父帯と北の三波川帯を分けるのは御荷鉾構造線、三波川帯の北は吉野川や紀ノ川に一致する中央構造線である。水銀鉱山の分布を見ると、丹生鉱山(三重県多気町)、大和鉱山(奈良県宇陀市)、由岐・水井鉱山(徳島県阿南市)、韮生鉱山(高知県香美市物部)、穴内鉱山(高知県香美市)、日吉鉱山(愛媛県鬼北町)と中央構造線に平行であり、秩父帯に乗っていることが分かる。さらに、これに併せて「丹生」、「丹生川」、「丹生神社」のような名称が分布している。なお、「丹生川」の代表は、空海にゆかりの高野山の北を流れる紀ノ川の支流である。
  水銀の硫化物(HgS)、辰砂は朱色であり、絵金の色である。辰朱、丹砂とも呼ばれている。これを空気中で400~500℃に加熱すると、硫黄と酸素が結合し、水銀が蒸気となって分離する。水銀は他の金属を溶かしてアマルガム(液体の合金)を作るが、加熱すれば水銀だけが蒸発して、金属が固体として残る。この性質を利用して金や銀を精製することが出来るし、これを塗布して金メッキを施すことも出来る。奈良の大仏の鋳造に使われた銅は500tonであり、メッキとして必要な金は440kg、水銀は2.5tonと記されている。  
  空海は、錫杖で湧き水を呼び込み、独鈷で岩を砕いていた様に思える。旅の目的の一つは地勢・地質の調査にあり、弘法大師は山師だったと言っても良い程の地質学の知識を持っていたと思われる。この物部の道は、塩の道と言うよりも、黄金を越える価値を運ぶ「辰砂の道」であり、むしろ「塩」・「塩魚」・「干物」が帰り荷だった可能性が高いことになる。そして、「韮生(にろう)」は「丹生(にゅう)」の転訛だったのかも知れない。積出し港と思われる「赤岡」の地名もそれらしく感じられるから不思議である。
                (情報プラットフォーム、No.279、12(2010)に掲載)

 

4)なぜ四国に関東の三波川があるのか   

                
 山田から、国道195号線と土讃線を陸橋で越える農免道路を南へ、なはり線の高架が近づくと道路左側に、中国四国農政局 高知三波川帯農地保全事業所の立て札がある。登山で秩父山地を何度も訪れたことがあり、御荷鉾(みかぼ)山、三波川などの地名は記憶に残っている。だから「四国には別な三波川があるのだろうか」と不思議に思えたのである。
  三波川は、秩父の利根川支流の名称であり、また集落の名前でもあること、同じ地質が四国にも続いていること、崩壊を起こしやすい地層であること、そのための農地保全の対策が必要なことが分かってきた。折しも、「室戸ジオパーク」の活動が報道され、「仁淀川・四国カルストジオパーク」に特別の関心を持ち、活動に関わるようになってきた。
 地質学を取り付き難くしているのは専門用語である。地域の地名の付いた地層を示す術語、地質時代を示す術語、岩石の名称の術語、そして生成過程を表す術語は馴染が薄くなっている。四国を事例とすれば、地層が東西に帯状であること、身近な地名が多いことなど近付きやすいと考えた。図1を参照して欲しい。

図1  東西に平行な四国の地層(変成帯と構造線)

     ------------瀬戸内海-------------
           ------ 領家変成帯 ------                  
-(砥部)-(西條市)--中央構造線--(三好市太刀野)-(松坂市月出)-(長野県大鹿村)
          ------三波川変成帯------
-(八幡浜)---(池川)--御荷鉾構造線(御荷鉾緑色岩類)--(大杉)--(剣山)-
秩          -------秩父北帯-------
父 --(西予市城川)-(横倉山)--黒瀬川帯--(高知市円行寺)-(阿南市加茂谷)--
帯           -------三宝山帯-------
---(宇和島)--(土佐市仏像)--仏像構造線---(物部川南岸)--(橘湾)---
四         ------四万十帯 北帯-----
万 (宿毛市)-中筋構造線-(四万十市)-|  |-(魚梁瀬)-安芸構造線-(牟岐)
十     ---四万十帯 南帯---|        |---四万十帯 南帯---
帯        ------------太平洋(土佐湾)--------------
             -----南海付加体-----
        ---------南海トラフ---------

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 領家は静岡県天竜川の支流水窪(みさくぼ)川沿いの奥領家による。黒瀬川は愛媛県西予市城川町(旧黒瀬川村)を流れている。三宝山は龍河洞スカイラインの南端にある。仏像構造線は土佐市仏像に由来する。四万十帯は四万十川であり、中筋は宿毛市、安芸は安芸市である。北部には関東地方の地名、南には四国の地名が使われているのは興味深い。
  御荷鉾構造線は「線」と言うよりは緑色岩類(帯)としてレンズ状に幅を持つ部分がある。一方で、黒瀬川帯は「帯」としては幅が狭く、秩父北帯と三宝山帯を分ける境界線的性格がある。両者とも地質図上では断続的である。フィリピン海プレートが沈み込む南海トラフでは、プレート上の堆積物が皺寄せのように重なり南海付加体を作っている。この付加体には、メタンハイドレート、泥火山、熱水鉱床、コバルト・リッチ・クラストなど鉱物資源が大量に眠っている。しかも土佐湾沖なのである。眠りから覚めるときは何時?
               (情報プラットフォーム、No.283、4(2011)に掲載予定)

 

豊かな土佐を取り戻すには ~メタンハイドレートの可能性~(その2)

 

 


豊かな土佐を取り戻すには ~メタンハイドレートの可能性~(その2)

2011-03-03 | 講演などの資料

豊かな土佐を取り戻すには ~メタンハイドレートの可能性~(その1)

平成22年度講演・祝賀・懇親会((財)高知県技術者協会)、H22,12,14、於;高知商工会館


豊かな土佐を取り戻すには                          

           ~メタンハイドレートの可能性~   

                                                                           鈴木 朝夫 (高知工科大・東工大名誉教授)

5)活力は土佐沖の海底より出づ  

                                  
  楽しい夢を見た。高知から元気と活気を送り出すのである。鉱物資源に恵まれた「黄金の国、ジパング」復活の夢である。深海海底下400mに眠っている膨大な資源、メタンハイドレートの掘削技術の発明が夢の始まりである。
 ある日、県内企業のZさんから「この特許出願書を見てくれんろうか。」と相談を受けた。メタンハイドレートからメタンを取り出すことの難しさを多少は知っていたが、従来の「加熱法(温水圧入)」、「加熱法(抗井加熱)」、「減圧法」、「分解促進剤注入法」のどれとも異なっていた。命名すれば「加熱法(掘削先端加熱)」である。「優れた特許だからといって、それが直ちに事業に結び付くとは限りませんよ。」と説明した。
 気体包接水和化合物と言われるように、5.75個の水分子が作るカゴ構造の中に、1個のメタン分子が収まっており、これが立体的に連続して、規則正しい結晶構造を作っている。高圧・低温の安定領域は、例えば{1気圧,-80℃}、{10気圧,-30℃}、{50気圧, 6℃}である。常温・常圧下でも表面が薄い氷で保護されるために比較的安定で、急に燃え出さず、天然ガスのように自噴することもない。この性質が困難を作り出している。何れの掘削法も、メタンを分離した途端に水分が凍結し、排出管を閉塞させるのである。
  「わしの掘削先端加熱法は、酸素だけを供給して、メタンを局所燃焼させる『その場加熱法』ながじゃ。メタンを効率よく取り出いて、分離してくる水も、堆積汚泥もその場に残しちょく。地上や海底に汚泥を出さんようにし、環境汚染がないがよ。」とZさんは説明する。「加熱範囲が際限なく広がらない局所的な加熱法で、メタンを取出すに必要な最小限のエネルギーで済むのですね。」、「そうじゃ!!」と会話が弾んだ。
  「工事が目的の事業と批判された高知新港(FAZ)やが、今となっては先見の明のある先行投資ちゅうことや。」、「2006年1月に、地球深部探査船「ちきゅう」がFAZに寄港し、一般公開があったときは興奮しました。海洋コア総合研究センターを高知大学に誘致できたのもFAZがあるからこそですね。」、「高知龍馬空港も2500mになっちゅう。高速道から伸びる高規格道が、FAZを、空港を結んでくれるし。」と夢を膨らませた。
 南国市・高知市を中心とする香長平野は、平坦な広い土地を確保し易く、上記のように交通の要に位置しており、研究支援設備などの立地に最適である。試験掘削、実証試験は勿論、実用操業でもFAZは様々な役割を担うことが出来る。
  メタンハイドレートは高知県沖の南海トラフなどに大量に存在し、その賦存量は日本の天然ガス消費量の約100年分に相当すると言われている。温室効果ガスとしての危険性が指摘されているが、海底の泥火山からは常にメタンが放出されており、心配は無用と分かっている。メタンはCO2の発生量が少なく、環境の視点からも理想的である。
  「東京のY特許事務所のXさんから、今がチャンスやきと、国が公募している政策提言の申請用書式を送って呉れちゅう。どういても、東京での打ち合わせに同行してくれんかよ。」、「高知の立地条件を拠り所に、発明が高知から出ていることを強調して、高知に拠点を置くような構想ですね。」、「統括責任者を誰に頼もうか?」、「高知に縁があり、海底探査の実績を持つWさんしか居ませんよ。」、「最適任やか。」と二人の意見が一致した。年頭に当たり、一富士(無事)、二鷹(高)、三茄子(成す)の初夢を披露させて頂いた。
                (情報プラットフォーム、No.280、1(2011)に掲載)


                                                                
6)国際戦略特区への申請書概要


 特許が認可される日が迫ってくるにつれて、どのように活用するかが直近の課題になる。個人レベルではなく、国家戦略に関わる問題だからである。出願人が所属する21世紀構想研究会でも大きな関心を示していた。そのような折に、総合特区制度が創設されたことを知り、早速、申請書作成へと始動を開始したのである。テーマを「メタンハイドレート実用化研究から資源大国へ」とした。以下に申請書の記載事項を要約する。
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* 関連する分野: 近未来エネルギー、
* 目指す地域の方向性:高知県沖の南海トラフの鉱物資源
* 日本経済への寄与:資源大国の復活
* 当該地域で実施する必然性:資源は高知県沖、インフラの充実(高知新港FAZ、2500m 滑走路の高知空港、高速道・高規格道など)、優れた掘削システムの特許の出願者、
 高知海洋コアセンターの存在
* 実施主体:21世紀構想研究会(理事長は馬場錬成)を「統括責任」の機関とし、メタ ンハイドレート実用化研究委員会(委員長は平朝彦)とする。
 必要な取組と事業のために、MH国際戦略部会」、「MH技術専門部会」、および「高  知県MH実用化委員会」を置く
* 特許の掘削法:キーワード表現をすれば、「加熱法(掘削先端加熱)
* 総合的な要望事項と提案
 申請書の中で、
 「本提案は『総合特区制度』の提案募集の政策や意図に馴染まない面があるかも知れない。しかし、制度の基本的趣旨から見れば、日本の基本的なエネルギー政策に大きく係わるものであることは間違いない。この意味でこの制度の中で『国際戦略総合特区』のカテゴリーで提案をすることにした。従って、個々の『取組に必要な特例措置・支援措置』の欄には、記述をキーワードに留め、具体的な特例措置は述べていない。下記の要望を、大所高所から視点でのご判断をお願いする次第である。」とし、
 ①規制上、②税制上、③財政上、④金融上の支援措置に具体の記入はしていない。この制度上での運用と言うよりは、国としての本格的な戦略に取り組むべきと促している内容でもある。
 その事例として、
 「イギリスは北海油田の発見でエネルギーに余裕が出来、1994年に20年の運転経験のある高速増殖炉を廃止した。またこの石油が対外貿易に大きく貢献してきた。現在のイギリスのエネルギー政策の基礎となっているのは、2003年に出されたエネルギー白書である。白書には『低炭素経済の創造』をテーマにしており、地球温暖化の原因とされる二酸化炭素の削減に主眼を置いている。1970~1980年代の英国におけるポンド急落時のサッチャー政権を支えたのは北海油田の採掘開始である。」と申請書には記してある。


           
7) 計画の熟度向上には


  どのような形でこのプロジェクトが進むか、現時点では分からないが高知県域を巻き込む動きが必然であることは間違いない。逆に巻き込まなければならない。今高知県の取り組むべきことは以下のようである。、
・国際的戦略を基礎に置き、開発計画を練るための国民的コンセンサスを得るための協力。
・高い視点、大きな視野での提案と発想、総力戦の体制作り、心配りと面子に拘らない。
・国・県・市町村(行政、議会、県民、企業)の連携強化、技術・研究部門の協調。
・国家戦略、地球環境、金融・経済、教育・啓蒙の観点で。広報活動、情報公開。
・地域の活性化を含め、国民的意識を高める。

 

8)メタンハイドレート回収の技術的解決策について 

      
 この特許は、掘削先端・その場局所燃焼加熱・超臨界水循環・減圧・押上圧送方式と呼べる。その構造は、図2に示すようである。

図2 メタンハイドレート分解・回収装置
  地上から、空気(酸素)、可燃ガス(スタート時)、水、そして制御信号、 
    地上へは、回収メタンガス、燃焼排気ガス。
  掘削先端のメタンハイドレート分解装置は
  (ガスタービン発電装置)で電力をその場供給、
    (熱エネルギー発生装置)はヒーター熱による蒸気発生、
                              高周波加熱による過蒸気生成・超臨界水発生
                              その他、衝撃波発生によるMH破砕などの電源に。

            

超臨界水状態で高速循環させることで減圧部分と高圧部分が発生する。メタンハイドレートを効率よく汲み上げ、分離した堆積粒子汚泥も水も現場に残留させて、取り出さない方式であり、地上へはもちろんのこと、海底にも堆積粒子汚泥を持ち出さないことで、環境汚染を引き起こさないことが大きな利点である。このことは必然的に、取り出すに必要なエネルギーが小さく、生産される正味のネットエネルギーが大きいことにつながってくる。4)項の「活力は土佐沖の海底より出づ」で既に述べている。(記:杉本昭寿、特許出願人)

 

9)おわりに


 宇宙材料実験の提案・実施(ふわっと'92、1992)、高知工科大学の創設(1996)、高知県産業振興センターでの地域振興・地域貢献(2000~2007)の仕事をしてきた筆者が、いまメタンハイドレートに関わろうとしている。宙・空(宇宙開発研究)から、地(地域活性化)へ、そして海・海底(メタンハイドレート掘削)へと向かっている。不思議な因縁を感じる。不安定な政治情勢であるが挙党態勢が必要、いごっそうな高知県人であるが故に一致協力が不可欠、官民一体の協力態勢が条件である。一元化で進みたい。そして、心の豊かさを取り戻し、後世に残せるような文化遺産を創り出して行きたいものである。
 参考)引用した「情報プラットフォーム」のコラム、内閣府へ提出の総合特区申請書全文などは「高知ファンクラブ」から閲覧できる。

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補遺)


* 総合特区制度とは
 「新成長戦略~『元気な日本』復活のシナリオ~」(H22.6.18閣議決定)に基づき、地域の責任ある戦略、民間の知恵と資金、国の施策の「選択と集中」の観点を最大限に活かし、規制の特例措置や税制・財政・金融上の支援措置等をパッケージ化して実施する「総合特区制度」が創設された。これは「地域活性化総合特区」と「国際戦略総合特区」に分けられる。

* 特定非営利法人21世紀構想研究会とは
 知的基盤の強固な研究現場と産業振興の技術革新を実現し、真の科学技術創造立国を確立するため、適宜、研究テーマを掲げて討論する場として、21世紀構想研究会はスタートし、研究会で得られた成果を社会に訴えて啓発をはかりながら、国の政策にも結びつくように活動することを目的としている。「生命科学」「産業技術・知的財産」「教育」の各委員会がある。研究会の会員は、主としてベンチャー企業、行政官庁、大学、マスコミの4極から参加し、毎月、活発な議論を展開している。

* 馬場錬成氏
  読売新聞社で科学部記者などを務め、2000年まで論説委員。退社後 科学ジャーナリスト。2005年より東京理科大学 専門職大学院 総合科学技術経営研究科教授(ベンチャー知財戦略・科学技術政策論)。

* 平朝彦氏
 東北大学 理学部卒業。テキサス大学大学院 博士課程修了。高知大学理学部助教授、東京大学 海洋研究所教授を経て、独立行政法人 海洋研究開発機構 地球深部探査センター初代センター長。


会誌投稿時点での追記)


 今回の講演に際して、このテーマを選んだ時点では、植木枝盛の言葉を援用した「活力は土佐沖の海底より出づ」の初夢の話で終わる筈だった。申請書を内閣府に提出したのが9月20日である。この講演の後半に申請書の骨子を追加した。12月4日に第2回メタンハイドレート実用化研究委員会を開き、平朝彦委員長の講演に続いて、増田昌敬准教授の「減圧法」による採掘の状況を伺った。なお、増田先生は、東京大学大学院 工学研究科 エネルギー・資源フロンティアセンター准教授であり、メタンハイドレート資源開発研究コンソーシアムのリーダーを務めている。

 その後、次々と新しい局面の展開があり情勢が変化しつつある。簡単に経過報告をしておく。12月23日には高知の城西館に於いて勉強会を開いた。翌日、尾崎知事を訪問して概要の説明をした。年が明けて、特許の出願人が経済産業局長宛の高知県沖の数カ所の試掘権の設定願が1月31日付けで受理された。これは大きな意味を持つと云える。2月18日に馬場理事長、平委員長らが内閣官房地域活性化統合事務局を訪問し、次いで資源エネルギー庁に担当課長を訪問し、国の方針の相談を受けた。国家プロジェクトとして受け取る態勢が進むことに決まったと思われる。「メタンハイドレート資源開発研究コンソーシアム」がカナダでの試掘を終えて、フェーズ2に移ろうとしている。この国家プロジェクトとの一体化に進む可能性が高いと想像される。

 高知県としては、日本を資源大国にすると共に、国家プロジェクトの拠点を高知県にの思いで「NPO高知県メタンハイドレート開発研究会」の立ち上げを官民挙げて準備中である。5月中旬には発足するべく努力中である。会誌が印刷発行される時点では新たな進展があるだろう。"初夢が現実に"を期待したい。 

 

 

豊かな土佐を取り戻すには ~メタンハイドレートの可能性~(その1)