高知県メタンハイドレート開発研究会

土佐湾沖の海底にあるメタンハイドレートを掘り出す国家プロジェクトを、高知県に誘致する開発研究会を立ち上げました

豊かな土佐を取り戻すには ~メタンハイドレートの可能性~(その2)

2011-03-03 | 講演などの資料

豊かな土佐を取り戻すには ~メタンハイドレートの可能性~(その1)

平成22年度講演・祝賀・懇親会((財)高知県技術者協会)、H22,12,14、於;高知商工会館


豊かな土佐を取り戻すには                          

           ~メタンハイドレートの可能性~   

                                                                           鈴木 朝夫 (高知工科大・東工大名誉教授)

5)活力は土佐沖の海底より出づ  

                                  
  楽しい夢を見た。高知から元気と活気を送り出すのである。鉱物資源に恵まれた「黄金の国、ジパング」復活の夢である。深海海底下400mに眠っている膨大な資源、メタンハイドレートの掘削技術の発明が夢の始まりである。
 ある日、県内企業のZさんから「この特許出願書を見てくれんろうか。」と相談を受けた。メタンハイドレートからメタンを取り出すことの難しさを多少は知っていたが、従来の「加熱法(温水圧入)」、「加熱法(抗井加熱)」、「減圧法」、「分解促進剤注入法」のどれとも異なっていた。命名すれば「加熱法(掘削先端加熱)」である。「優れた特許だからといって、それが直ちに事業に結び付くとは限りませんよ。」と説明した。
 気体包接水和化合物と言われるように、5.75個の水分子が作るカゴ構造の中に、1個のメタン分子が収まっており、これが立体的に連続して、規則正しい結晶構造を作っている。高圧・低温の安定領域は、例えば{1気圧,-80℃}、{10気圧,-30℃}、{50気圧, 6℃}である。常温・常圧下でも表面が薄い氷で保護されるために比較的安定で、急に燃え出さず、天然ガスのように自噴することもない。この性質が困難を作り出している。何れの掘削法も、メタンを分離した途端に水分が凍結し、排出管を閉塞させるのである。
  「わしの掘削先端加熱法は、酸素だけを供給して、メタンを局所燃焼させる『その場加熱法』ながじゃ。メタンを効率よく取り出いて、分離してくる水も、堆積汚泥もその場に残しちょく。地上や海底に汚泥を出さんようにし、環境汚染がないがよ。」とZさんは説明する。「加熱範囲が際限なく広がらない局所的な加熱法で、メタンを取出すに必要な最小限のエネルギーで済むのですね。」、「そうじゃ!!」と会話が弾んだ。
  「工事が目的の事業と批判された高知新港(FAZ)やが、今となっては先見の明のある先行投資ちゅうことや。」、「2006年1月に、地球深部探査船「ちきゅう」がFAZに寄港し、一般公開があったときは興奮しました。海洋コア総合研究センターを高知大学に誘致できたのもFAZがあるからこそですね。」、「高知龍馬空港も2500mになっちゅう。高速道から伸びる高規格道が、FAZを、空港を結んでくれるし。」と夢を膨らませた。
 南国市・高知市を中心とする香長平野は、平坦な広い土地を確保し易く、上記のように交通の要に位置しており、研究支援設備などの立地に最適である。試験掘削、実証試験は勿論、実用操業でもFAZは様々な役割を担うことが出来る。
  メタンハイドレートは高知県沖の南海トラフなどに大量に存在し、その賦存量は日本の天然ガス消費量の約100年分に相当すると言われている。温室効果ガスとしての危険性が指摘されているが、海底の泥火山からは常にメタンが放出されており、心配は無用と分かっている。メタンはCO2の発生量が少なく、環境の視点からも理想的である。
  「東京のY特許事務所のXさんから、今がチャンスやきと、国が公募している政策提言の申請用書式を送って呉れちゅう。どういても、東京での打ち合わせに同行してくれんかよ。」、「高知の立地条件を拠り所に、発明が高知から出ていることを強調して、高知に拠点を置くような構想ですね。」、「統括責任者を誰に頼もうか?」、「高知に縁があり、海底探査の実績を持つWさんしか居ませんよ。」、「最適任やか。」と二人の意見が一致した。年頭に当たり、一富士(無事)、二鷹(高)、三茄子(成す)の初夢を披露させて頂いた。
                (情報プラットフォーム、No.280、1(2011)に掲載)


                                                                
6)国際戦略特区への申請書概要


 特許が認可される日が迫ってくるにつれて、どのように活用するかが直近の課題になる。個人レベルではなく、国家戦略に関わる問題だからである。出願人が所属する21世紀構想研究会でも大きな関心を示していた。そのような折に、総合特区制度が創設されたことを知り、早速、申請書作成へと始動を開始したのである。テーマを「メタンハイドレート実用化研究から資源大国へ」とした。以下に申請書の記載事項を要約する。
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* 関連する分野: 近未来エネルギー、
* 目指す地域の方向性:高知県沖の南海トラフの鉱物資源
* 日本経済への寄与:資源大国の復活
* 当該地域で実施する必然性:資源は高知県沖、インフラの充実(高知新港FAZ、2500m 滑走路の高知空港、高速道・高規格道など)、優れた掘削システムの特許の出願者、
 高知海洋コアセンターの存在
* 実施主体:21世紀構想研究会(理事長は馬場錬成)を「統括責任」の機関とし、メタ ンハイドレート実用化研究委員会(委員長は平朝彦)とする。
 必要な取組と事業のために、MH国際戦略部会」、「MH技術専門部会」、および「高  知県MH実用化委員会」を置く
* 特許の掘削法:キーワード表現をすれば、「加熱法(掘削先端加熱)
* 総合的な要望事項と提案
 申請書の中で、
 「本提案は『総合特区制度』の提案募集の政策や意図に馴染まない面があるかも知れない。しかし、制度の基本的趣旨から見れば、日本の基本的なエネルギー政策に大きく係わるものであることは間違いない。この意味でこの制度の中で『国際戦略総合特区』のカテゴリーで提案をすることにした。従って、個々の『取組に必要な特例措置・支援措置』の欄には、記述をキーワードに留め、具体的な特例措置は述べていない。下記の要望を、大所高所から視点でのご判断をお願いする次第である。」とし、
 ①規制上、②税制上、③財政上、④金融上の支援措置に具体の記入はしていない。この制度上での運用と言うよりは、国としての本格的な戦略に取り組むべきと促している内容でもある。
 その事例として、
 「イギリスは北海油田の発見でエネルギーに余裕が出来、1994年に20年の運転経験のある高速増殖炉を廃止した。またこの石油が対外貿易に大きく貢献してきた。現在のイギリスのエネルギー政策の基礎となっているのは、2003年に出されたエネルギー白書である。白書には『低炭素経済の創造』をテーマにしており、地球温暖化の原因とされる二酸化炭素の削減に主眼を置いている。1970~1980年代の英国におけるポンド急落時のサッチャー政権を支えたのは北海油田の採掘開始である。」と申請書には記してある。


           
7) 計画の熟度向上には


  どのような形でこのプロジェクトが進むか、現時点では分からないが高知県域を巻き込む動きが必然であることは間違いない。逆に巻き込まなければならない。今高知県の取り組むべきことは以下のようである。、
・国際的戦略を基礎に置き、開発計画を練るための国民的コンセンサスを得るための協力。
・高い視点、大きな視野での提案と発想、総力戦の体制作り、心配りと面子に拘らない。
・国・県・市町村(行政、議会、県民、企業)の連携強化、技術・研究部門の協調。
・国家戦略、地球環境、金融・経済、教育・啓蒙の観点で。広報活動、情報公開。
・地域の活性化を含め、国民的意識を高める。

 

8)メタンハイドレート回収の技術的解決策について 

      
 この特許は、掘削先端・その場局所燃焼加熱・超臨界水循環・減圧・押上圧送方式と呼べる。その構造は、図2に示すようである。

図2 メタンハイドレート分解・回収装置
  地上から、空気(酸素)、可燃ガス(スタート時)、水、そして制御信号、 
    地上へは、回収メタンガス、燃焼排気ガス。
  掘削先端のメタンハイドレート分解装置は
  (ガスタービン発電装置)で電力をその場供給、
    (熱エネルギー発生装置)はヒーター熱による蒸気発生、
                              高周波加熱による過蒸気生成・超臨界水発生
                              その他、衝撃波発生によるMH破砕などの電源に。

            

超臨界水状態で高速循環させることで減圧部分と高圧部分が発生する。メタンハイドレートを効率よく汲み上げ、分離した堆積粒子汚泥も水も現場に残留させて、取り出さない方式であり、地上へはもちろんのこと、海底にも堆積粒子汚泥を持ち出さないことで、環境汚染を引き起こさないことが大きな利点である。このことは必然的に、取り出すに必要なエネルギーが小さく、生産される正味のネットエネルギーが大きいことにつながってくる。4)項の「活力は土佐沖の海底より出づ」で既に述べている。(記:杉本昭寿、特許出願人)

 

9)おわりに


 宇宙材料実験の提案・実施(ふわっと'92、1992)、高知工科大学の創設(1996)、高知県産業振興センターでの地域振興・地域貢献(2000~2007)の仕事をしてきた筆者が、いまメタンハイドレートに関わろうとしている。宙・空(宇宙開発研究)から、地(地域活性化)へ、そして海・海底(メタンハイドレート掘削)へと向かっている。不思議な因縁を感じる。不安定な政治情勢であるが挙党態勢が必要、いごっそうな高知県人であるが故に一致協力が不可欠、官民一体の協力態勢が条件である。一元化で進みたい。そして、心の豊かさを取り戻し、後世に残せるような文化遺産を創り出して行きたいものである。
 参考)引用した「情報プラットフォーム」のコラム、内閣府へ提出の総合特区申請書全文などは「高知ファンクラブ」から閲覧できる。

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補遺)


* 総合特区制度とは
 「新成長戦略~『元気な日本』復活のシナリオ~」(H22.6.18閣議決定)に基づき、地域の責任ある戦略、民間の知恵と資金、国の施策の「選択と集中」の観点を最大限に活かし、規制の特例措置や税制・財政・金融上の支援措置等をパッケージ化して実施する「総合特区制度」が創設された。これは「地域活性化総合特区」と「国際戦略総合特区」に分けられる。

* 特定非営利法人21世紀構想研究会とは
 知的基盤の強固な研究現場と産業振興の技術革新を実現し、真の科学技術創造立国を確立するため、適宜、研究テーマを掲げて討論する場として、21世紀構想研究会はスタートし、研究会で得られた成果を社会に訴えて啓発をはかりながら、国の政策にも結びつくように活動することを目的としている。「生命科学」「産業技術・知的財産」「教育」の各委員会がある。研究会の会員は、主としてベンチャー企業、行政官庁、大学、マスコミの4極から参加し、毎月、活発な議論を展開している。

* 馬場錬成氏
  読売新聞社で科学部記者などを務め、2000年まで論説委員。退社後 科学ジャーナリスト。2005年より東京理科大学 専門職大学院 総合科学技術経営研究科教授(ベンチャー知財戦略・科学技術政策論)。

* 平朝彦氏
 東北大学 理学部卒業。テキサス大学大学院 博士課程修了。高知大学理学部助教授、東京大学 海洋研究所教授を経て、独立行政法人 海洋研究開発機構 地球深部探査センター初代センター長。


会誌投稿時点での追記)


 今回の講演に際して、このテーマを選んだ時点では、植木枝盛の言葉を援用した「活力は土佐沖の海底より出づ」の初夢の話で終わる筈だった。申請書を内閣府に提出したのが9月20日である。この講演の後半に申請書の骨子を追加した。12月4日に第2回メタンハイドレート実用化研究委員会を開き、平朝彦委員長の講演に続いて、増田昌敬准教授の「減圧法」による採掘の状況を伺った。なお、増田先生は、東京大学大学院 工学研究科 エネルギー・資源フロンティアセンター准教授であり、メタンハイドレート資源開発研究コンソーシアムのリーダーを務めている。

 その後、次々と新しい局面の展開があり情勢が変化しつつある。簡単に経過報告をしておく。12月23日には高知の城西館に於いて勉強会を開いた。翌日、尾崎知事を訪問して概要の説明をした。年が明けて、特許の出願人が経済産業局長宛の高知県沖の数カ所の試掘権の設定願が1月31日付けで受理された。これは大きな意味を持つと云える。2月18日に馬場理事長、平委員長らが内閣官房地域活性化統合事務局を訪問し、次いで資源エネルギー庁に担当課長を訪問し、国の方針の相談を受けた。国家プロジェクトとして受け取る態勢が進むことに決まったと思われる。「メタンハイドレート資源開発研究コンソーシアム」がカナダでの試掘を終えて、フェーズ2に移ろうとしている。この国家プロジェクトとの一体化に進む可能性が高いと想像される。

 高知県としては、日本を資源大国にすると共に、国家プロジェクトの拠点を高知県にの思いで「NPO高知県メタンハイドレート開発研究会」の立ち上げを官民挙げて準備中である。5月中旬には発足するべく努力中である。会誌が印刷発行される時点では新たな進展があるだろう。"初夢が現実に"を期待したい。 

 

 

豊かな土佐を取り戻すには ~メタンハイドレートの可能性~(その1)

 



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