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TVドラマも気になるが続きが読みたい!:フォルカー・クッチャー著 創元推理文庫

2019-05-14 | 文学にまつわるあれこれ(鴉の破れ窓)




前に BGMのことだけちょっと書きました ドイツの刑事小説シリーズ。(ろくでなし野郎のBGM >>

フォルカー・クッチャー(Volker Kutscher)著 『濡れた魚』 『死者の声なき声』 『ゴールドスティン』 創元推理文庫 酒寄進一 訳
詳細は創元推理社のほうへリンクしておきます>>


最初の『濡れた魚』は1929年のベルリンが舞台。 そこから1作ごとに1年ずつ物語が進んでいく警察大河小説なのですが(ドイツでは8冊出版されているようなので いま1936年かな?) けれども日本では3作目の『ゴールドスティン』以降 翻訳されていないので読めません…


世界史に疎い私には、 1929年のドイツがどのようなのかまったく知らず、 政治状況も警察組織の言葉も最初はわからずにちょっと読むのに苦労しましたが…

世界恐慌の年、だというくらいは知ってる。。 でも、ベルリンの街で社会民主党と共産党などのデモ隊が溢れ、 警察と衝突が起きて死者が出たり、 それから ほとんど街のチンピラと変わらないようなまだ子供がナチの突撃隊を名乗って徒党を組んで歩いたり、、 ナチズムや第二次世界大戦はまだ10年も先のこと(と思っているから) そのような政治状況や 街の不穏な空気が最初はうまくつかめず…

ちなみに デモ隊の衝突で死者が出たという 1929年の「血のメーデー」についてのWikiはこちら>>
↑ここにも出ている警察長官ツェルギーベルなども 実名で物語の中に出てきます
(そのほか実際の歴史上の人物や出来事も 多く物語に入ってきます)

けれども、 そのような社会や政治の動き、 不穏さは、 あくまで小説の背後というか底辺に流れているもので、 物語の主役はあくまで刑事が事件の謎を解くサスペンスですから、 私のようになんにも知らずに読み始めても大丈夫。。

主人公ゲレオン・ラート刑事(警部になる)は、 ケルンからベルリンに赴任してきたベルリンでは新参者。 でもラートの父親はケルンの警察でトップに上り詰めた人なので、 ラートもけっこうな野心家。。 過去にケルンで何事かを起こし(この件はあまり明かされないままで)、、 その過去を消すようにベルリンへ移って来て、 ここベルリンで名を成そうと抜け駆けのように同僚を出し抜いた行動もとるし、 いざとなれば闇社会さえも利用する、、 恋人にも言えないような秘密もひとつやふたつではなく…

著者フォルカー・クッチャーが巧いなぁ と思うのは、
*事件の犯人を追う謎解き
*主人公ラートと警察署内の人間模様
*ベルリンの闇社会を牛耳るギャング組織の勢力争い
*ラートと恋人との行く末
*台頭してくるナチズムの影

これらがすべてが 関連がなさそうでいて緻密に絡み合って物語が進み、 最初の本で謎のまま残った部分もぜんぶ伏線になって、 第2作、 第3作、、にも関係して出てくるので、 人間関係や背景がわかってくると 第3作の『ゴールドスティン』がいちばん面白く読めます。 (だからなおさら 続きが気になるんです、、 残された謎もあるし…)

最初に書いたBGMのところで、 ラートを「ろくでなし野郎」などと書きましたが、 ろくでなし ではあるが ぎりぎり ひとでなし、ではないかな。。 だけど、 こんなに秘密を抱えちゃってどーすんだよ、ラート? この先 墓穴を掘ることになりはしないか? 闇組織はどうするの… 恋人はどうするの… 、、と 心配にもなります。。 けど、 恋人に関してはけっこう純でもあって、 眠れない夜を過ごしたりもする可愛さも、、。


3作品読んで、 時代は1931年になり、、 経済は破綻して銀行も潰れたり、、 貧困層も増えて 不満を抱えた若者はそれぞれが支持する政党に入れ込んで対立したり、  ナチの突撃隊の子供らが正当な理由もわからないまま人種の異なるひとを襲ったり、、 ベルリンの街のきな臭さ、 不穏な影がひたひたと怖さを増していきます。。 
でも そんな時代でも(そんな時代だからか) 人々はダンスホールで浮かれ騒いだりもするし、 映画館や劇場でデートもするし、 自分の仕事のキャリアアップを夢見たりもする、、

ひとびとの普通の生活や 普通の夢、、 その背後で 確実に変化していく時代の空気、 ベルリンの街の怖さが、 読み終えてようやく  ようやくひしひしと、、 感じられるのでした。

このあと、 ナチズムが権力を掌握していくなかで、 ラートはどうやって警察官として生きていくのだろう、、 いまの8作目、 1936年にはどんなベルリンになっているのだろう、、と すごく気になります。。

 ***

この小説はドイツでTVドラマ化されて、 シーズン3まで出来ているようです。
そのドラマ「Babylon Berlin」のオフィシャルサウンドトラックのMVがありました。 ミュージックビデオなので 出演者らがミュージックホールで踊ったり、という演出はありますが、 挿入されているドラマのシーンを見ると こればあの場面かな、 この人はあの人かな、、とか 本の内容と重ねて見ることもできて興味深いです。

警部ラート、 かっこいいです。(もうちょっとやさぐれたイメージを持っていたけど、1930年代のかちっとした服装の警部であれば、 こんな感じなのかもしれません)
恋人も美しいです。。

なによりも 当時のベルリンの街の雰囲気が セットなのかCGなのか再現が見事で、、 興味があったらぜひみてみて
Severija - Zu Asche, Zu Staub (Psycho Nikoros) – (Official Babylon Berlin O.S.T.)




ドイツ語はさっぱりだけど、 ドラマも観てみたいなぁ…


でも、 やっぱり続編の翻訳がされて欲しいです。。 お願いします…
 

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