星のひとかけ

文学、音楽、アート、、etc.
好きなもののこと すこしずつ…

本のなかの本を読む人

2020-09-30 | 文学にまつわるあれこれ(ほんの話)
9月もきょうで終わりますね…

前回 書きそびれていた《本のなかの本》の話。

小説を読んでいて、 登場人物が物語のなかで本を読んでいると その本のことが気になります。。 文学作品の話でいろんな本の名前が出てきたりするのは当たり前なんですが、 物語の中で自由に生きて行動している人物が
 なにか本を手に取って読んでいて、 その本の内容がすごく重要そうな時、 或は本の内容にはまったく触れずにタイトルとか作家名だけ明記されてる時、、 その本の事がけっこう気になってしまいます。

古くは、 夏目漱石先生の『三四郎』で、 三四郎が熊本から上京する汽車のなかで読んでいる《ベーコンの二十三ページ》。 しつこいくらいに《23頁》と明記されているので たいていの人は気になります、、 どのベーコンの著書の《23頁》なのか、という研究も古くから沢山されてきました。。 (が、その話は置いて…)

わたくし事では、 『イギリス人の患者』で気になりつつも未だに読んでいない、探検家アルマシーが肌身離さず持ち歩いている ヘロドトスの『歴史』。。 岩波文庫で上・中・下と三冊もあるのでいったいどこを読んだらアルマシーに近づけるのかしら… と手に出せないまま幾十年、、。 紀元前5世紀(万葉集より千年以上も昔!!)の著作が2500年のちの人に読まれている、、という目も眩むような奇跡。。 いつか読むことができるかしら……

もうひとつ ずっと気になりつつ未読なのは、 『存在の耐えられない軽さ』の中で テレーザが愛読しているトルストイの『アンナ・カレーニナ』。 これはもう トルストイ読んでなければお話にならないだろう…と自分でも思うのだけど、、 (テレーザとトマーシュが飼う犬の名前もカレーニンだし)
『アンナ・カレーニナ』も『戦争と平和』も大著ゆえ、 読書には時と場合によって定められた運命的出会いの時機というものがあるのだ、、と (単なる言い訳に過ぎないけれど)信じている私は未だ読めていません、、。 『アンナ・カレーニナ』はそろそろ読みたい。。 できたら近いうちに……

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未読の大著はいくつもあるのにミステリ小説読んでる場合じゃないだろ、、と思うには思いつつ 猛暑のあいだやはりミステリばかり読んでいました。 (以下、写真だけ…)










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『甦ったスパイ』 チャールズ・カミング著、 横山啓明・訳 早川文庫 2013年

銃撃戦もなく、 カーチェイスもなく、 列車の上での格闘もなく、 美女とのロマンスもない、、 とっても地味で堅実でリアルな英国諜報部員のスパイ小説。 でも、英国推理作家協会賞スティール・ダガー賞受賞作で 地味なんだけれどスパイのお仕事ってこんなかもしれないな、、ととても面白く読めた本。

(ちょっと脱線しますが  マイケル・オンダーチェ『戦下の淡き光』で 主人公の両親が携わっていた、 秘密の政府機関の仕事というのは、 『甦ったスパイ』のなかに出てきた老年の夫婦、バーバラたちのような感じだったのかな… マイケル・オンダーチェ『戦下の淡き光』過去ログ>>

この本に登場するスパイ達が それぞれ本を読んでいるのです。 スパイだから 仕事上の人物と平時の自分とを当然使い分けているわけで、 読む本にもそれなりに意味があるんだろうなぁ、、と思わせてくれます。 そういう《見せかけの人物像》を拵えるための本、というのが 特に階級社会の英国では 職業や階級によって読む本ってきっと異なるんだろう、、と。。

英国情報部SISの女性長官が(休暇中に)読んでいたのは、 イアン・マキューアンの『ソーラー』
 (イアン・マキューアンに関する過去ログ>>

ある使命で彼女を見張る元情報部員が(たぶん見せかけとしてコンサルティング会社の経営者として)読んでいるのが、 ノーベル文学賞をとった シェイマス・ヒーニーの詩集『水準器』
で、、 たぶん本人の好みで読んでいるのが トマス・パケナムの『アフリカを奪え』 、、この本を探したけど出て来なくて、 代わりに『地球のすばらしい樹木たち 巨樹・奇樹・神木』というのが出てきた、、 この著者らしい(Amazon>>)  

『アフリカを奪え』Scramble for Africa は19世紀末の英国の歴史家の著書らしいです。 、、アフリカ、というキーワードも このスパイ小説では重要っぽい。。

で、 対するフランスのスパイが読んでいたのは マイケル・ディブディン『ラット・キング』のフランス語版。。 これも知らなかったので検索してみたら、 いかにもこのスパイ小説のからくりを暗示しているような話で、 きっと知っている人は暗示というか、伏線に気づいたかのように、 ニヤっとしそうな本、でした。

さらには、 さっきちらっと書いた 引退したスパイの老夫婦のバーバラがとっても重要な《任務》で仕事をまかされるのですが、 このお婆ちゃんスパイが読書家だったそうで、 スパイ達がアジトとして使うお家に立派な書斎をみつけて嬉々としているシーンとか 可愛い。。 

こんな風に いろいろ意味深な本にまつわるシーンが出てきたので、 作家さんの経歴を見たら、 エジンバラ大学で英文学を学び最優等で卒業した、、と。 成程ね。。

、、、というわけで

お婆ちゃんスパイのバーバラが ジュリアン・バーンズの初版本を見つけて大喜びしていたというくだりを読んで、 にわかにミステリ小説から純文学小説に食指が動き始めた9月の終わり、、 でしたの。 ジュリアン・バーンズ 読もう。。


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  月の表面はでこぼこで、ごつごつで、ぼろぼろで、退屈ですらある。 それに比べ、なんと美しく繊細だったことか。 わたしたちは月を見るために二十四万マイルも旅してきたが、ほんとうに見る価値があったのは地球のほうだった。 

これは、 1968年のクリスマスイブに月の裏側を飛んで 《地球の出》を初めて撮影したアポロ8号のアンダース飛行士の言葉だそうです。 この引用が出てくる本のことはまたいずれ。。


10月朔日はことしの中秋だそうです。


お月さま 見えていますか…?



お月さま  地球はいまも美しいですか…





低気圧頭痛も治りました…♪

2020-09-25 | MUSICにまつわるあれこれ
きょうは「本のなかの本」の話を書こうかと思ったんですが やめます(笑

… 久しぶりにネットでいろいろ音楽を聴いていたら時間が無くなってしまったので。。

代わりに左サイドバーを少し替えておきました。

Jonathan Wilson - Reach Out I'll Be There
ジョナサンによる Four Topsのカヴァー。 速さが変わってて、モータウンサウンドから見事にフォーキーなサイケデリックに。。 フォートップスの「ハッ! I'll Be There~♪」てなるところも全然別の曲になってて… やっぱりジョナサンはアンニュイなサウンドが似合う、、

Paul Weller - Rockets (Official Video)
映像を見てるとなんだか泣けてきます。。 Bowieの雰囲気もいっぱいの曲。 

Cheap Trick - Rebel Rebel
おととい~昨日と、 台風接近のせいか頭痛にずっと苦しんでいてとってもつらかったのですが、 もうすっかり吹っ飛びました。 この曲のお陰で♡
これ、現在のロビンの声なんでしょう…? 素敵すぎる… こんな色っぽい艶っぽい声で歌えるのはやっぱりロビン、凄いヴォーカリストです。 「~tonight」とか「~girl ♪」とかの発音が ロビンにしか出来ないキュートさ。 チープトリックならではの演奏も最強。

Matt Bellamy - Bridge Over Troubled Water [Official Audio]
マシューがこの歌をカヴァーしたと聞いて、 (うん、マシューなら許せるかな)と思って早速聴いてみたのですけど、、 ピアノの演奏をギターに替えているところとか凄く素敵だし、 今、 この歌を歌う意味もとても強く感じるし、 素敵だと思うよ、、思うよ、、 
でもこの歌がいかに難しいかってことをあらためて、、 マシューだから仕方ないけれど、 この歌を上手く歌おうとか、 情感込めて歌おうとか、 色気を出しては決してならない歌なんだって今更ながら思いました。。 想いを込めれば込めるほど雑味が出るのは何故…?

Simon & Garfunkel - Bridge over Troubled Water (from The Concert in Central Park)

というわけで、、 本家も。。 
以前にも書きましたが、 つらい時、 まいっている時、 しんどい時、、 この歌が世にあることに感謝して慰められたこと、 幾たびあったことでしょう。。。 アーティーが歌っている数分間は、 すべてを忘れます。 天使の歌声、、
ニッキーのピアノ伴奏が聴けるロイヤルガーラでのこの歌を、 また聴きたくなってしまいました。

Grace Potter - Eachother (Official Music Video)
リモートでマーカス・キングさんやジョナサンが共演しているMV。 そしてジャクソン・ブラウンさんの声が聞こえてくると胸がきゅぅううん、となる。。 何故だか理由はわからない、、 声って不思議。。


声だけで こころを揺さぶられて、 堰を切ったように感情がとめどなく溢れてとまらなくなってしまうこともあるから、、 ときに今はシャットアウトしてしまうのも大事なのです。。


そんなときは しずかにクラシック音楽に身を沈めます…


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今朝、 ARTEコンサートで最近の演奏会らしい映像を見つけて、、

Cristian Măcelaru conducts Debussy, Rachmaninov and Saint-SaënsOrchestre National de France (https://www.arte.tv

指揮者さんも弦楽器の方々も黒いマスクをして演奏。。 指揮者さんは多少息苦しいのでは…? 


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涼しくなってきて ようやくちゃんとお料理をする元気が戻ってきました… 


牧神の笛を聴きながら、、 


週末はなにをつくりましょうか、、



真実を見出す者の謎と謎…(続編翻訳してください~!):『ローマで消えた女たち』ドナート・カッリージ著

2020-09-15 | 文学にまつわるあれこれ(鴉の破れ窓)

『ローマで消えた女たち』ドナート・カッリージ著 清水由貴子・訳 ハヤカワポケットミステリ 2014年

間違いなしの一気読み本。 とっても濃密で長くて複雑な物語なのですけど 夢中で読みました。

物語は冒頭から 衝撃的な展開で始まります… (これはほんの最初のエピソードなので、 少しだけネタばれで…)
 … 救急隊に要請が入り駆けつけた家で、 男が発作を起こして倒れている。 すぐに気管挿管をしようとする医師のモニカ。 そのとき彼女は男の家の中に「あるもの」を見つける。 それはモニカの双子で 連続少女殺害事件の犠牲になった妹が履いていた「靴」、、 目の前で倒れている男は殺人犯? 
 … 救急措置を遅らせれば男に報いを受けさせることができる、、、 それとも 医師として挿管して命を救うのか、、?

「復讐」か、、 「赦し」か、、 最初から究極のテーマが突きつけられます。。 でもこれはほんの序盤の一つのエピソード。 

主軸となる人物はこのモニカではなく、 二人いて、
 記憶を失った男マルクス。 事件現場の「物たち」の声を聴くかのように そこで起こった出来事を知る特殊な能力を持つ。

もうひとりは
 夫を亡くした女サンドラ。 犯罪現場の写真を撮り その「画像」から起こった事を推察する写真分析官。

でも、 物語はそれぞれまったく別に進んでいき、、 マルクスはある特殊な「任務」を受けて、失踪した女子大学生の捜索を始める。 一方、 サンドラは或る晩、 事故死とされていた夫ダヴィドの死に疑問を投げかける「インターポール」の捜査官を名乗る男の電話を受ける。 

こんな風に 複数の物語が同時進行して、 さらには 「一年前 パリ」 とか 「一年前 メキシコシティ」 とか、 過去の話が挿入されて でもそこにはマルクスもサンドラも出て来ずに謎の人物が謎の人間を追っている。。
マルクスがいったい何者かもわからない、、 サンドラの夫に何が起こったのかもわからない、、 そして「過去」の話がなんなのかもわからない、、 わからないからどんどん読み進めていくうちに、 マルクスとサンドラが結びついて、 インターポールの男シャルバーも出てきて、 さらには、 冒頭の連続殺人事件の被害者の遺族たち(モニカをはじめ)もが、 複雑に物語に絡み合ってくる。

すごく頭を使いましたし、 別々の事件に話がとんでは また戻るの繰り返しなので、 ひと晩たって読み始めると展開を忘れていてまた戻って思い出したり、、 だから物語についていけてるうちに一気に読むしかないのです、、 すごく面白かったですが…

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いろんな事を考えさせられました。 これも少々 ネタばれかもしれないけれど、、 

カトリックの神父さまは「告解」に対して守秘義務があります。 でももし、 具体的にこれからどこそこでテ〇を起こすとか、 誰それに危害を加えるという告白を受けたらどうするのだろう、、 或は 自分で命を絶つとか告白されたら…? そんな重い問いについても考えざるを得ませんでした。

それから、、 人の犯した「罪」はいずこに在るのか、、 罪を犯した肉体なのか 心なのか、、 心とはどこに或るのか、、 もし罪びとが病気や事故で記憶を全て失っていたら、 犯罪の記憶がない者にどうやって罪を償わせるのが正しいのか、、 とか。。

「復讐」とか 「償い」とか 「赦し」とか、、 とても難しいことを 考えながら読みました。。


心にずきっと響く「警句」のような文章も数多くあって、、 今回とても心に刻まれたひと言

 「死は過去を支配する。だが、猜疑心はさらにたちが悪い。 なぜなら未来を奪うからだ」

「死は過去を支配する」、、 死でなくても 「誰か」と訣別するとか 失うということは、 その喪失と思い出とが必ず結びつくことになって「過去」を支配してしまう、、

けれども、 「猜疑心は未来を奪う」、、 ほんとにそうなのだと思う。。 ひとたび猜疑心が頭をもたげたら、 その先ずっと心に影を落としたまま暮らさなくてはならない、、。 「信じること」、、 信じ切ることのたいせつさ、、 それ以上に強くて確かなものは無いのに。。 

 ***

物語はシリアスなばかりではなくて、 あくまでエンターテインメント小説として とてもとても面白く読めます。 
サンドラが思い返す 夫ダヴィドとの思い出の描写も、 すごく生き生きとして ユニークで、 そしてロマンティックで、、。 そのあたりは以前に読んだ 『海岸の女たち』(>>)の行方不明の夫パトリックの思い出のエピソードと似通った部分があって、 とてもせつなくなる素敵なラヴストーリーで、、。
(ダヴィドが留守番電話に残したメッセージがすごく素敵で、、 引用したいのだけど、、やめておきます。。 こんなメッセージを聞かされたら、 永遠に消せない……)


、、話は逸れますが、 『ローマで消えた女たち』も、 『海岸の女たち』も、、 もうちょっとタイトルがなんとかならないか、、 と思う 内容にそぐわない残念な感じがあるのですが、、 今作の原題を訳すと 「魂の裁判所」という意味だそうですが(訳者あとがきより) そちらのほうがちゃんと内容を表していると思うんだけど、、

話戻して、、

物語の最後は ええーーーっつ?! という感じもありの、 かなり荒唐無稽とも言えるような、 著者さんのサービス過剰と言うか、、 映画にしたらエンドロールの後で 「え??」ってなるような含みも持たせていて、、

すごく複雑に練られたストーリーだし、 マルクスもサンドラも、 夫ダヴィドもインターポールのシャルバーも、、 まだまだ「謎」を残した部分がいっぱいあるように思えたので 作者のイタリア版ウィキを見たら、 マルクスとサンドラを扱った小説があと二冊出ている模様。。 翻訳されないかしら、、 続きをぜひ読みたいです!


今回の読書は、 先に読んだお友だちのオススメでこの作家さんを知ったのですが、、 物語の複雑さ、 登場人物の謎の多さゆえに、 ぜひとも読後にあーだこーだと語り合うのがよろしいかと思います。。
(読んだ方だけに分る… シャルバーはなぜフレッドという言葉を知っていたの?) (シャルバーがあそこで姿を消して以降出てこないのは何故?) (シャルバーのあの場面はゆるされる行為なの??) とか、、 シャルバー、 謎多いです… カッコいいけど、、笑


それにしても ローマって素敵。。 たくさんの教会も宗教画も ヴァチカンも、、 「謎」の素材には事欠かないですものね。。


イタリアならではのミステリ、、 また読みたいです。


今回の小説に出てきた サンタ・マリア・ソプラ・ミネルヴァ教会>>Wiki 

Basilica di Santa Maria sopra Minerva >>


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東京都もGoToいろいろが始まるみたいで、 さまざまな制約も解除されてきて、 気候も良くなって 楽しみがこれから増えていきそうな秋の訪れですが、、 
医療関係者やエッセンシャルワーカーの方々など、、 一番たいへんなお仕事をされている方々が 一番我慢を強いられている。。 あらゆる楽しみを我慢して日々わたしたちの暮らしの為に耐えていらっしゃる。。 そのことを忘れてはなりません。。


日々 感謝と


自分なりの 努力を