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雇用保険の適用拡大は課題が山積

2024-03-03 07:59:41 | 労務情報

 厚生労働省の労働政策審議会職業安定分科会(雇用保険部会)では、令和5年6月に閣議決定された『骨太方針』を受けて、雇用保険の適用拡大について議論が重ねられている。
【参考】内閣府 >経済財政運営と改革の基本方針2023

 具体的には、現行制度では所定労働時間が週20時間以上の労働者を雇用保険の被保険者としているところ、それを週20時間未満に拡大する方向で検討されているものだ。
 ところが、所定労働時間が週20時間未満で雇用保険の被保険者となるのであれば、当然、複数の事業に雇用されるケースを想定しなければならない。
 そうなると、「失業」の概念から定義しなおさなければならなくなり、それは、雇用保険制度を根幹から変えることにもつながりかねず、単なる「適用拡大」の議論を超えてしまう様相すら見せている。

 現行法においても、満65歳以上の労働者を対象とする「マルチ高年齢被保険者」という制度が、令和4年1月から試行的に実施されている。
 これは、雇用される2事業所(どちらも所定労働時間が週5時間以上のものに限る)の所定労働時間が合計して週20時間以上となる場合に、本人からの申告に基づいて被保険者となることができるというものだ。
 一部委員からはマルチ高年齢被保険者制度の試行状況を検証すべしとの意見も出ているが、満65歳以上の離職者に対する求職者給付は「高年齢求職者給付金」という一時金であって、失業期間中の生活を保障する「基本手当」(満65歳未満の離職者に対する求職者給付)とは性格を異にする。 加えて、これは強制適用でないこともあって、制度発足時から令和5年9月までの間にマルチ高年齢被保険者となった者は全国でわずか219人(下記資料参照)しかいないので、議論の参考になるデータとしては不充分と言わざるを得まい。
【参考】 厚生労働省「雇用保険の適用拡大関係資料」P.14「マルチ高年齢被保険者の状況」

 さらに、雇用保険の適用拡大は、求職者給付だけではなく、育児休業給付や教育訓練給付にも影響する。 それは、保険料負担の増大や運用次第ではモラルハザードすら招きかねないことでもある。

 働く人のセーフティーネットが拡大すること自体は望ましいには違いないが、制度上あるいは実務上、解決が難しい課題も多く、議論の集約にはまだまだ時間が掛かりそうだ。
 とは言え、方向性としては雇用保険の適用拡大は既定路線であるので、そのつもりでこの議論を注視していく必要があるだろう。


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