ご苦労さん労務やっぱり

労務管理に関する基礎知識や情報など。 3日・13日・23日に更新する予定です。(タイトルは事務所電話番号の語呂合わせ)

従業員でない者に対しても労働安全衛生法が適用される?

2023-10-23 15:01:13 | 労務情報

 労働安全衛生法は「職場における労働者の安全と健康の確保」と「快適な職場環境形成の促進」を主目的にしているが、その対象を自社の従業員のみならず、同じ場所で就業する個人事業主にも適用範囲を拡大する方向で検討されている。

 その発端は、国を相手取って起こされた「建設アスベスト訴訟」と呼ばれる一連の訴訟において、「国が規制権限を適切に行使しなかったことは違法」とする裁判例(最一判R3.5.17)が出されたことに始まる。 その争点の一つに「同法第22条(健康障害防止措置)の規定は一人親方等も対象とするのか」というものがあったが、これについて最高裁は「労働者と同じ場所で働く労働者以外の者も保護する趣旨」との判断を示した。
 これを受けて、厚生労働省は、この規定に係る11の省令について、請負人や同じ場所で作業を行う労働者以外の者に対しても労働者と同等の保護措置を講じることを事業者に義務付ける改正を行い、令和4年4月に公布している。
 一方、その議論の中で、第22条以外の規定に関しても労働者以外の者に対する保護措置などについて検討することとされ、それを「個人事業者等に対する安全衛生対策のあり方に関する検討会」で検討しているのだ。

 この検討会では、当初こそ、「“建設現場における一人親方”に対する安全対策」を重点に議論されていたが、回を重ねる中で、建設業に限らずすべての業種において、注文者等に安全配慮義務(または努力義務)を課す方向に流れつつある。
 例えば、第66条ないし第66条の10(健康診断・ストレスチェック等)を「自社の従業員以外にも受診を促す」、第57条(危険物の表示等)は自社の従業員以外にとっても必要な措置、といった形になりそうだ。
 また、自社の従業員以外の者が死亡・負傷した場合(疾病は業務上外の判断が困難であるため今のところ除外されている)には、労働安全衛生規則第97条(労働者死傷病報告)に準じた報告の提出義務を課すことも提案されている。

 もし、これが法令に明文化されたら、自社の従業員と同じ職場で働く(場合によっては職場に自社の従業員すらいなくても)発注先の個人事業主に対して、その安全や衛生に配慮しなければならないこととなる。 そして、それは、建設業だけでなく、すべての業種に影響する話だ。
 もっとも、政省令レベルでなく法律の改正を要する内容であるので今日明日に決まるものではなさそうだが、今のうちから対処を考えておくのも悪くないだろう。


※この記事はお役に立ちましたでしょうか。
 よろしかったら「人気ブログランキング」への投票をお願いいたします。
 (クリックしていただくと、当ブログにポイントが入り、ランキングページが開きます。)
  ↓

 

  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

労働組合法での「労働者」は労働基準法の定義とは異なる

2023-10-13 07:59:08 | 労務情報

 労働基準法は、「労働者」を「職業の種類を問わず、事業又は事務所(以下「事業」という。)に使用される者で、賃金を支払われる者」と定義している。
 この“労働者性”は、
  (1) 仕事の依頼や業務の指示等に対する諾否の自由の有無
  (2) 業務の内容及び遂行方法に対する指揮命令の有無
  (3) 勤務場所・時間についての指定・管理の有無
  (4) 労務提供の代替可能性の有無
  (5) 報酬の労働対償性
  (6) 事業者性の有無(機械や器具の所有や負担関係や報酬の額など)
  (7) 専属性の程度
  (8) 公租公課の負担(源泉徴収や社会保険料の控除の有無)
等を総合的に考慮して判断される。

 この定義および判断要素によれば、例えば「子会社の従業員」や「取引先である個人事業主」などは、労働基準法および労働基準法を基礎とした法律(労働安全衛生法、最低賃金法、労災保険法、労働者派遣法等)では「労働者」として扱われない。

 ところが、労働組合法は、これと異なり、「労働者」を「職業の種類を問わず、賃金、給料その他これに準ずる収入によって生活する者」と定義している。 これは、憲法第28条の「勤労者」と同じ範囲を示すものと解され、労働関係調整法も同じ定義を用いている。
 労働組合法や労働関係調整法は労使が対等な関係で労働条件を決めることを促すのが目的であるため、取り締まり法令である労働基準法よりも「労働者」を広くとらえているのだ。

 これに関し、厚生労働省に設置された労使関係法研究会はその報告書で、労働組合法上の労働者性については以下の要素を用いて総合的に判断すべきである旨をとりまとめた。
  ① 事業組織への組み入れ
  ② 契約内容の一方的・定型的決定
  ③ 報酬の労務対価性
  ④ 業務の依頼に応ずべき関係
  ⑤ 労働力の処分権を契約の相手方に委ねているかどうか
  ⑥ 顕著な事業性
※①・②・③:基本的判断要素、④・⑤:補充的判断要素、⑥:消極的判断要素
【参照URL】https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000001juuf.html

 さて、企業経営者にとってこれが問題となるのは、自社の従業員でない者(上に挙げた「子会社の従業員」や「取引先である個人事業主」など)に係る労働条件について労働組合から団体交渉を要求された時だ。
 こうした場合は、まず、当社が団体交渉の相手先たる理由をその労働組合に尋ねるべきだ。 その回答を上述①~⑥に照らして自社に“使用者性”があるかどうかを見極めたうえで、会社としての対処を考えなければならないことになる。


※この記事はお役に立ちましたでしょうか。
 よろしかったら「人気ブログランキング」への投票をお願いいたします。
 (クリックしていただくと、当ブログにポイントが入り、ランキングページが開きます。)
  ↓

 

  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

研究開発業務は来年4月以降も残業規制なし

2023-10-03 08:59:56 | 労務情報

 法定労働時間(基本的には週40時間)を超える労働(以下、「時間外労働」と呼ぶ)を命じるには、「時間外労働・休日労働に関する労使協定」(労働基準法第36条に基づくため「三六協定(サブロク協定)」と呼ばれる)を締結しておかなければならない。
 そして、三六協定で定める時間外労働時間数は、平成31年(令和元年)4月から(中小企業は令和2年4月から)、原則として「月45時間(1年変形では月42時間)、年360時間(1年変形では年320時間)」が限度とされた(労働基準法第36条第4項、H30.9.7基発0907第1号)。 ただし、この上限規制は次の事業(または業務)には適用されない。
  1.工作物の建設の事業(同法第139条)
  2.自動車運転の業務(同法第140条)
  3.医業に従事する医師(同法第141条)
  4.鹿児島県及び沖縄県における砂糖製造業(同法第142条)
  5.新技術・新商品等の研究開発業務(同法第36条第11項)

 これらのうち1~4については、令和6年3月31日までの猶予措置であり、猶予期間経過後は、新たな基準が設けられ、または上限規制がすべて適用されることになる一方、5については、来年4月1日以降も適用除外のままとされる。

 しかし、だからと言って、研究開発業務は三六協定さえ締結しておけば無制限に残業させられる、と考えるべきではない。
 研究開発業務に従事する者であっても時間外労働が月100時間を超えたら医師の面談を受けさせなければならず(労働安全衛生法第66条の8の2、労働安全衛生規則第52条の7の2)、加えて、直近2~6カ月間の時間外労働が月あたり80時間を超えた者の脳・心臓疾患の発症は業務との関連性が強いと認められることから、労災事故防止の観点から行政当局の指導対象となるのは他の業務と同様だ。
 また、(これも他の業務と同様)月60時間を超える時間外労働に対しては150%以上の割増賃金を支払わなければならない(同法第37条第1項ただし書き;中小企業も今年4月から適用)ことは、間接的に時間外労働の抑制材料になるだろう。

 なお、研究開発業務が専門業務型裁量労働制(労働基準法第38条の3)の適用対象となっているケースにおいても、「みなし労働時間」に時間外労働時間数が含まれていることがあるので、裁量労働だからと言って必ずしも本件に無関係とは限らない。

 いずれにせよ、長時間労働は、コストアップに直結し、生産効率の低下や労災事故の要因ともなりうる。
 労使どちらの立場からも、長時間労働は極力避けるのが賢明と言えよう。


※この記事はお役に立ちましたでしょうか。
 よろしかったら「人気ブログランキング」への投票をお願いいたします。
 (クリックしていただくと、当ブログにポイントが入り、ランキングページが開きます。)
  ↓

 

  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする