ご苦労さん労務やっぱり

労務管理に関する基礎知識や情報など。 3日・13日・23日に更新する予定です。(タイトルは事務所電話番号の語呂合わせ)

従業員を他社に出向させるには個別の同意が必要か

2017-03-23 15:29:31 | 労務情報

 「出向」とは、自社の従業員を他社の指揮命令下に移管させることであり、大きく、自社に籍を置いたまま他社で勤務してもらう「在籍出向」(単に「出向」とも言う)と、自社から他社に籍を移して勤務してもらう「移籍出向」(単に「移籍」あるいは「転籍」とも言う)とに分類される。
 どちらも、わが国の長期雇用慣行と相まって、「配置転換」(略して「配転」とも言う)の発展形として根付いている制度だが、この2つは同じ「出向」と称していても、性格が異なるので、注意が必要だ。今回は、特に労働契約面での性格の違い、そして、本人の個別同意が必要かどうかに着目して述べてみたい。

 まず、「在籍出向」については、労働契約(適正に制定・周知された就業規則を含む)に出向させることがある旨が明記されていれば、それをもって、会社は出向を命じる権利を有していることになる。
 したがって、個々の出向を命じる前に該当者から個別同意を取る必要はないし、出向命令に応じなかった従業員は懲戒の対象とすることができる(東京地判S45.6.29、新潟地高田支判S61.10.31等)。ただし、不当な動機によるものや従業員に過度な不利益を強いるものは、権利の濫用として無効になることは言うまでもない。

 ところが、「移籍出向」は、会社が一方的に命じることはできないものとされる。こちらは在籍出向とは異なり、自社との雇用関係を終了させたうえで移籍先との新たな雇用関係を結ぶことを意味しているからだ。
 そのため、企業再編の場合(労働契約承継法第3条)・整理解雇に準ずる場合(大阪地決H1.6.27)・実質的に企業内配転と同視されうる場合(千葉地判S56.5.25)等を除き、労働契約における包括規定のみをもって会社が移籍を命じることはできず、個々の出向を命じる前に該当者本人の個別同意を得る必要がある。
 もちろん移籍命令を拒んだことを理由に懲戒したり不利益に扱ったりすることも許されないし、「移籍命令に従わなければ不利益に扱う」と告げる行為すら「“退職”の強要」とみなされかねないので、気を付けたい。

 昨今は、働き方の多様化もあって、出向命令に応じない従業員も珍しくなく、労使間のトラブルに発展した事例も頻発している。
 在籍出向であれ移籍出向であれ、該当者本人にとっては使用者が変わるのだから大問題であることを理解し、その実施に際しては、労使それぞれのメリットとデメリットを長期的かつ広範的な視野を持って検討するべきだろう。


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年次有給休暇の取得義務づけに向けて今から準備を

2017-03-13 10:19:48 | 労務情報

 2年ほど前、労働基準法の改正案が国会に上程されて物議を醸したのは記憶に新しい。中でも、働き方を大きく変える制度として、「ホワイトカラー・エグゼンプション」と並んで賛否両論が交わされたのが、「年次有給休暇(以下、「年休」と略す)の取得義務づけ」だ。
 改正案によれば、会社は、年間10日以上の年休を与えるべき従業員に、
①本人が希望した時季に与える、
②労使協定に基づき計画的に付与する、
③個別に時季を指定する、
のいずれかにより、年間5日以上の年休を取得させなければならないものとされ、これに違反した場合の罰則(30万円以下の罰金)まで設けられている。
 結局この法案は継続審議となったが、そう遠くない将来には成立すると思って、各社で準備を進めておく必要があるだろう。

 さて、では、その年間5日をどうやって取らせるかであるが、会社にとっては、上に挙げた3つのうちでは、②の「計画的付与」が最も使いやすい制度と言えそうだ。
 現状年休消化率が低い職場で①を期待するのは無理であろうし、「取らせない」という選択肢が無い以上、③により現場任せ・成り行き次第にするくらいなら、予め業務に支障の無い時季を設定しておくのが賢明だからだ。加えて、年休の計画的付与には、「誰がいつ休むか分かっているので業務分担等の計画が立てやすい」、「(特に退職時など)年休をまとめて消化するのを防げる」、「部門単位・フロア単位などで導入することにより、省エネ効果も期待できる」などといった副次効果もある。
 この制度をこれから導入しようと考えている会社は、まず労使協定の締結が必要(労働時間等設定改善委員会の決議をもって代えることも可)なので、従業員の意見の集約に向けて今から準備に取り掛かっておくと良いだろう。

 ところで、皆さんの会社では、「年休管理簿」は整備されているだろうか。
 そもそも、各人ごとに「どれだけの年休があり(付与日数)、どれだけ使ったか(取得日数)」を記録しておかなければ勤怠の管理すらできないはずだが、それを備えていない会社も少なからず見受けられるところだ。それでは、「年休を取得させないことを前提としている」と誹られてもやむを得まい。
 今般の労働基準法改正案でも年休管理簿の作成・保管が義務づけられることになっているが、それ以前に、労務管理上の必須帳簿として整備しておくべきものとの認識が必要だ。


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昇格したために却って給料が減ってしまうのは許されるか

2017-03-03 12:09:13 | 労務情報

 この時期、従業員の昇降格を予定している会社は多いが、まれに、昇格したために却って賃金が下がってしまうケースが起こりうる。
 この現象は「昇格減給」と呼ばれ(※)、一般社員が管理監督職に昇格したことにより残業代が支払われなくなるために従来より給料が減ってしまうというのが典型例だ。
 ある意味、“制度設計上の不具合”とも言えるが、こういうことは法的に許されるのだろうか。
 ※用語的には、こういった賃金額の低下は、制裁としての「減給」と区別して「降給」と呼ぶべきだが、一般的に「昇格“減給”」と言い慣わされているので本稿でもそれに倣うこととする。

 基本的に、会社は、合理的な理由に基づいて社員を昇格させたり降格させたりすることができる。これは、人事権(会社が有する「経営権」に属する権限の一つ)の行使として、就業規則等に記載されていなくても(明文化しておくのが望ましいには違いないが)認められるところである。
 そして、昇降格とはすなわち職務の内容や責任の程度が変わることなのだから、それに連動して給料が多くなったり少なくなったりすることもあるし、それが労働契約(適正に制定された就業規則を含む)に則ったものであるならば裁判所も是認しているところだ。ちなみに、労働基準法第91条で「減給は10%を超えてはならない」旨を定めているが、これは制裁としての「減給」について制限を設けたものであって、このケースにこの論を持ち出すのは適切でない。

 結論として、「昇格減給は適法」ということになるが、そもそも、労働基準法に言う「管理監督者」に該当しなければ残業代を支払わなければならない(原則)ということには注意を要する。労働基準法第41条第2号の「管理監督者」は、経営者と一体的な立場にあり、賃金面でもその地位に相応しい待遇がなされていることが要件となっているところ、残業代が無くなったことで逆転してしまう程の賃金で「管理監督者」に相応しい待遇と呼べるのか、はなはだ疑問ではある。
 また、法的には問題が無いとしても、月々の収入が減少するのは社員の生活に直接影響する話なので、運用面での配慮は必要だろう。昇格に伴う基本給や役職手当の昇給額が残業代を上回るように制度設計しなおせればベストなのだが、それが難しければ、当分の間「調整手当」を支給する等の代償措置を考えたいところだ。


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