ご苦労さん労務やっぱり

労務管理に関する基礎知識や情報など。 3日・13日・23日に更新する予定です。(タイトルは事務所電話番号の語呂合わせ)

「守る」と「支える」の視点 ~「新しい時代の働き方に関する研究会」報告書~

2023-12-23 08:30:23 | 労務情報

 厚生労働省に設置されている「新しい時代の働き方に関する研究会」は、新しい時代を見据えた労働基準法制度の課題を整理することを目的として今年3月から15回にわたって開催されてきたが、10月20日、その検討内容を「報告書」に取りまとめて公表した。
【参照】厚生労働省 > 「新しい時代の働き方に関する研究会」の報告書を公表します

 その内容は、「変化する環境下でも変わらない考え方」として、(1)「労働憲章的な規定や基本原則」、(2)「封建的な労働慣行を排除するための規定等」、(3)「すべての働く人の心身の健康を維持しながら働き続けることのできる社会」を堅持する一方で、「『今』の現実と『新しい時代』の変化を捉え時代に合った必要な見直し」を講じることとしている。
 そして、特筆すべきなのは、企業にも、働く人(注1)にも、注文を付けていることだ。
【企業に期待すること】
  (1) 「ビジネスと人権」の視点
  (2) 人的資本投資への取り組み
  (3) 働き方・キャリア形成への労使の価値観の共有(注2)
【働く人に期待すること】
  (1) 積極的な自己啓発・自己管理
  (2) 企業の目的・事業への積極的なエンゲージメント
 全体的に、従来からの「守る」に加え、労使の主体性を尊重し、それを「支える」施策を提言したという印象だ。

 この報告書では、企業も、そこで働く人も、「自らがどう在るべきか」を主体的に決め、それを労使がコミュニケーションを取りながら実現していくことが求められている。
 これは、自由なように見えて、会社の体質によっては厳しい課題かも知れない。 しかし、社会も働き方も多様化する中、会社ごとに異なる最適解を自ら導き出さなければならない時代になっていることを理解すべきだろう。

(注1)「働く人」には、雇用契約の当事者である労働者(非正規を含む)のほか、フリーランスや兼業・副業など多様な働き方の人を含む。
(注2)「価値観の共有」のために、企業にはパーパス(存在意義、社会的使命)を明確にし、エンゲージメントを高めることが有効としている。

※「エンゲージメント」に関しては、当ブログの記事『モラールからモチベーションへ、ロイヤルティからエンゲージメントへ。』もご参照ください。


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大企業でも週44時間労働が許されるケースが

2023-12-13 11:59:10 | 労務情報

 労働基準法第32条は、労働時間を原則として週40時間以内と定めているが、これには特例措置が設けられており、事業によっては週44時間とすることも許されている。
 その事業とは、「卸売業、小売業、理美容業、倉庫業、その他の商業」、「映画の映写、演劇、その他興業の事業(映画の製作の事業を除く)」、「病院、診療所、社会福祉施設、浴場業、その他の保健衛生業」、「旅館、飲食店、ゴルフ場、公園・遊園地、その他の接客娯楽業」の4種類であり、いずれも、常時使用労働者が10人未満であることが要件となっている(同法第40条、労働基準法施行規則第25条の2)。
 「10人未満」と聞いて大企業には無縁の話と思う人も多いだろうが、労働基準法は基本的には事業場(主として同一の場所で事業が行われているかどうかによって決定される)単位で適用されるので、例えば小売店舗を多数有する企業などは店舗ごとに特例措置の対象となる可能性がある。 ただし、場所的に分散していても規模が非常に小さく事業の組織的関連や事務能力などの点から一の事業といえないほど独立性のないものについては、そのすぐ上位の機構と一括して一の事業として取り扱われることには要注意だ。

 もし自社にこの特例措置に該当する事業場があるなら、その事業場では、所定労働時間を週44時間とすることが可能であり、時間外労働に関する労使協定(いわゆる三六協定)や時間外労働に係る割増賃金は週44時間を超える分が対象となる。 もちろん、その場合の三六協定は、当該事業場が独立して管轄労働基準監督署へ届け出なければならない。

 社内あるいは第三者による労務監査等においては、以上の点を踏まえて労働基準法に違反していないかどうかをチェックする必要がある。

 ただ、誤解していただきたくないのは、本稿は、長時間労働を是とするものではないし、特例措置の適用を推奨するつもりもない。
 まして、現行の所定労働時間が週40時間であるものを週44時間にするのは、労働条件の不利益変更に他ならず、また、労働基準法第1条第2項の趣旨にも反する行為であるので、厳に慎みたい。

 なお、厚生労働省に設置された労働政策審議会が平成27年2月、働き方改革に関連して『今後の労働時間法制等の在り方について』と題する報告書の中で「特例措置対象事業場の範囲の縮小を図る方向で‥所要の省令改正を行うことが適当である」と建議していることも付言しておく。
 【参考URL】 https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000073981.html


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配転命令拒否を理由に従業員を懲戒できるか

2023-12-03 12:59:12 | 労務情報

 会社は、業務上の都合や人材育成の一環として、従業員に配置転換を命じることがある。
 ところで、この配置転換命令に従わない従業員がいた場合、会社はその従業員を懲戒できるのだろうか。

 会社は、従業員を配属し配置転換できるという「人事権」を有している。 これは、就業規則等に明文規定が無かったとしても、「経営権」の一環として一般的に認められている権利だ。
 しかし、権利を有していても、その濫用は許されない(民法第1条第3項)。
 具体的には、以下のような配転命令が「人事権の濫用」になると考えられる。
  (1) 不当な動機・目的によるもの
    (行政機関への通報や正当な労働組合活動への報復措置、嫌がらせ・見せしめ等)
  (2) 当該従業員に著しい不利益を負わせるもの
    (収入の大幅減、遠方への通勤、未習熟業務への適応、育児や家族介護への支障等)
  (3) 経営上の必要性が無いもの
    (人選に正当性が無いもの、経営者の“思いつき”等)
 そして、もちろん職種限定や勤務地限定等の特約に反する配置転換が無効なのは言うまでもない。

 一方で、会社は社内秩序を維持するために従業員を懲戒する権利(懲戒権)を有するとされる。
 しかし、これに関しても、次のような観点で注意を要する。
  (1) 就業規則等に懲戒の根拠規定を置いているか
  (2) 客観的に合理的な理由を欠く懲戒ではないか
  (3) 規律違反の種類・程度等に照らして社会通念上相当な懲戒内容であるか
  (4) 同様の規律違反に対する懲戒処分と平等性が保たれているか
  (5) 懲戒に到る手続き(懲戒委員会の開催、弁明機会の付与等)は適正か

 この「人事権の濫用」と「懲戒権の濫用」の2面から見て問題なければ、そのときに初めて、配転命令拒否者を懲戒することができる。
 というより、むしろ、そうした場合は懲戒するべきとすら言えよう。 一人の“わがまま”を許して、それが前例となってしまうことは会社として避けたいからだ。

 なお、配置転換を不服として本人自らの意思で退職したいと申し出てきた場合にそれを承認するのは差し支えない。 ただし、それも、配転命令自体にそもそも「退職させたい」という不当な動機が無かったことが前提の話ではある。


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