ご苦労さん労務やっぱり

労務管理に関する基礎知識や情報など。 3日・13日・23日に更新する予定です。(タイトルは事務所電話番号の語呂合わせ)

働き方改革のためにコンプライアンス違反?

2019-11-23 11:59:03 | 労務情報

 働き方改革は、「“働き方”の“改革”」なのだから、本来は、業務プロセスの見直しと効率化を目指すものだ。
 しかし、現状を見ると、「時間外労働の上限規制」等への対応のため、「労働時間を短縮すること」だけに主眼を置かれてしまっている感は否めない。さらには、「(労働時間規制の適用を受ける)非管理職の労働時間短縮」にまで目的が矮小化される傾向(「二重の矮小化」と呼ばれる)まで見られる。

 もっとも、企業経営者にしてみれば労働基準法に違反して罰則を科されたくはないだろうから、こうした傾向も理解できないではないが、もしや、自社の従業員の労働時間を短縮することばかりに頓着して、いわゆる「下請けイジメ」の状態を作っていないだろうか。
 政府(厚生労働省・中小企業庁・公正取引委員会)では、これを「働き方改革に伴う『しわ寄せ』」と称し、この11月を「しわ寄せ防止キャンペーン月間」と銘打って、大企業や親事業者へ向けての啓発に取り組んでいる。

 具体的に問題となるのは、次のようなケースで、これらは下請法や独占禁止法で定める禁止行為に該当する可能性があるとされる。

(1) 買いたたき
[具体例] 短納期発注により人件費等のコストが大幅に増加したにもかかわらず、発注者は通常の単価と同一の単価を一方的に定めた。

(2) 減額
[具体例] 予め設定されていた「特急料金」について、発注者は「予算が足りない」等の理由により、通常の代金しか支払わなかった。

(3) 不当な給付内容の変更・やり直し
[具体例] 毎週特定曜日に数台のトラックを待機させておく契約であったところ、当日になって「今日の配送は取りやめになった」と一方的にキャンセルし、その分の対価を支払わなかった。

(4) 受領拒否
[具体例] 発注後、一方的に納期を短く変更し、変更後の納期に間に合わなかったことを理由に商品の受領を拒否した。

(5) 不当な経済上の利益提供要請
[具体例] 発注者自ら行うべき発注データの自社システムへの入力業務を受注者に無償で行わせた。

 ご存じのように下請法や独占禁止法にも罰則はある。
 「働き方改革」の大義を振りかざしながら思わぬコンプライアンス違反を問われることのないよう気を引き締めたい。そもそも、働き方改革は、下請業者や取引先等と協力し合いながら進めていくテーマであることを、経営者は認識すべきだろう。


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出張先への移動中は就労として扱う義務は無いものの…

2019-11-13 20:59:01 | 労務情報

 従業員を出張させた場合、その用務先への往復時間は、(道中に為すべき業務を命じている場合を除き)基本的に労働時間ではない。
 もちろん就労として扱うのも差し支えないが、それが労働協約・就業規則・労使慣行等によりルール化されていない限りは、会社がそうしなければならない義務は無い。
 なお、出張の性格等によっては“みなし労働時間”を適用することが可能な場合も有るが、ここでは考えないこととする。

 さて、理屈ではそういうことになるが、これを厳格に適用すると、現実の勤怠管理では問題が生じてしまう。
 というのは、自宅から用務先への移動時間を“不就労”として扱うならば、所定始業時刻までに用務先に到着していなければ“遅刻”扱いとすることになるからだ。
 会社が勤務地の変更を命じておきながらその扱いでは、従業員は納得できないだろう。

 そこで、就業規則には次のように書いておくのも一案だ。

 「出張にあっては最初の勤務地に到着した時から最後の勤務地を出発した時までを就労時間として扱う。ただし、所定始終業時刻において現に移動途上に在る場合には、遅刻または早退の扱いをしないものとする。」

 つまり、「出張先との往復時間は原則として不就労扱いとするが、遅刻や早退の扱いに際しては配慮する」ということだ。
 これが現実的な解釈に最も近く、実務上も使いやすいのではないだろうか。


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パラレルワークは雇用主にとってメリットがあるか

2019-11-03 17:59:09 | 労務情報

 「パラレルワーク」(※)とは、本業の他に仕事を持つことをいう。古くから、副収入を得るために「副業」に就くことは珍しくなかったが、近年は、主副を区別せず、また、雇用か非雇用(フリーランス)かも問わない、「複業」と呼ばれることも(さらには「幅業」・「伏業」といった“造語”が用いられることも)増えてきた。
 ※)P・F・ドラッカーが著書『プロフェッショナルの条件』の中で提唱した「パラレル・キャリア(第二の仕事)」と似た概念ではあるが、ドラッカーは、本業が退屈になったり、本業で挫折したりした人の選択肢の一つとして挙げているので、少し意味合いが異なる。

 さて、パラレルワークは、本人にとっては、「副収入を得られる」ことのほか、「自分の好きな事を仕事にできる」、「経験やスキルが高まる」、「人脈を広げられる」、「一つの会社に頼りきらなくてよい」といったメリットがある。

 一方で、パラレルワークを認める(または推進する)ことで、雇用主には、次のようなメリットがあると言われる。
  (1) 従業員が自らスキルを高めてくれる(自己啓発と同じ効果)
  (2) 離職率が低下する(転職とは異なるので)
  (3) 企業イメージの向上に寄与する
  (4) ワークシェアリング等の受け皿になる(いささか後ろ向きな話ではあるが)

 では、パラレルワークは、雇用主にとってデメリットが無いかと言うとそうでもない。懸念されるのは主に次の5つだろう。
  (1) 自社の業務に専念できなくなる
  (2) 過重労働になりがちになる
  (3) 営業秘密や個人情報等が漏洩するリスクがある
  (4) 企業ロイヤリティが低下する
  (5) 時間外労働の割増賃金支払い等の事務処理が煩雑になる
 しかし、5つめはともかく、それ以外は、必ずしもそうなるとは限らないし、また、趣味やサークル活動に勤しんでいても同じリスクはありそうだ。
 そう考えると、パラレルワークを禁止する理由は無いとすら言えそうだ。
 もちろん、自社の業務に支障が出ないよう、本人に“釘を刺しておく”必要はあろう。そのためにも、会社への届け出は徹底させたいところだ。

 今年8月8日に、厚生労働省が昨年7月に立ち上げた有識者会議「副業・兼業の場合の労働時間管理の在り方に関する研究会」は報告書をとりまとめ、今後解決しなければならない課題を洗い出した。
 行政が「柔軟な働き方」の一つとして(「テレワーク」や「多様な正社員」とともに)「副業・兼業」を推進していこうとする姿勢を示した以上、民間企業も、これを踏まえた対応を検討していかなければならないだろう。


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