ご苦労さん労務やっぱり

労務管理に関する基礎知識や情報など。 3日・13日・23日に更新する予定です。(タイトルは事務所電話番号の語呂合わせ)

支給日に在籍しない者に賞与を支給しないのは許されるか

2021-11-23 11:59:15 | 労務情報

 「賞与」は、一般的に、①賃金の後払い、②功労への褒賞、③成果の配分、④将来への期待、の4つの性格を併せ持つと言われる。
 この論に従えば、これらのうち「将来への期待」以外の意味では、支給日前に退職した者にも受け取る権利があるとも解釈されうるが、現実には、支給日に在籍しない者には賞与を支給しないこととしている会社が多い。
 この運用は違法ではないのだろうか。

 結論から言えば、そのような明文規定または労使慣行があれば、問題ない。
 そもそも、賞与は、月例給与とは性格が異なり、基本的には、支給対象者や支給額を会社が決定することができるものだ。 したがって、「賞与は支給日に在籍している者に支払う」と就業規則や個別の雇用契約書に定めを置くことは許され(最一小判S60.3.12など)、そのような労使慣行が存在すればそれに従うこととなる(民法第92条、最一小判S57.10.7)。

 しかし、そのような明文規定も労使慣行も存在しない場合や、逆に積極的に「支給日に在籍しなくても賞与を支払う」旨が労働契約や労働協約に定められているなら、退職者にも賞与を支給しなければならないこととなる。
 ちなみに、労働協約は、少数組合(昨今では企業外の合同労組等も目立つ)と交わしたものも該当するので、見落とさないようにしたい。

 また、年俸制の者や会社都合で退職した者に関しては注意を要する。
 年俸制の契約では、年額を便宜上「12か月+夏冬各2か月分」のように取り決めているケースが見られるが、その場合は、在籍期間に応じた金額を支払う義務がある。
 インターネット等で入手したモデル契約書をそのまま用いている場合は再チェックしておきたい。

 会社都合(解雇や定年)により退職したケースでは、当該退職者自らの意思で退職日を選んだわけではないので、在籍していることを賞与支給の要件にするのは不合理とも考えられる。
 もっとも、懲戒解雇であればその者の責めに帰するものであり、一方、整理解雇は経営側の責めに帰するものであるが賞与を支給できる状況にないだろうから、いずれもトラブルとはなりにくいだろう。
 定年退職者に関しては、「退職者に不測の損害を与えるものとはいえない」等の理由で賞与不支給を是認する裁判例(東京地判H8.10.29)があるものの、これが“判例”として確立しているとはまだ言えない状況だ。

 以上をまとめると、賞与は、「支給日に在籍しない者にも支給する」のが原則であり、「特約のある場合に限り支給しないことが許される」と認識しておくべきと言える。
 加えて言うなら、退職者にも賞与を支給することが必ずしも会社にとってマイナスに働くわけではないので、それをインセンティブ的に活用するのも悪くないだろう。


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突然の団体交渉に驚かないで

2021-11-13 17:59:34 | 労務情報

 昨今は労働組合の組織率が低下し、自社に組合を持たない会社が多い。
 しかし、個人で加入できる組合もあるので、突然、労働組合から団体交渉を申し入れて来られる可能性は、すべての会社にあると言える。

 そんな時、最もいけない対応が、その団体交渉を拒否することだ。
 特に中小企業では、経営者に法的知識が無いためか、あるいは組合活動に過剰反応してか、団体交渉の申入れ自体を無視する例もしばしば見られる。
 また、形式的には交渉に応じても、何ら裁量権を与えられていない人事部長や弁護士等が経営者側の回答を伝えるだけに終始するケースもありがちだが、それは誠実な交渉とは認められない…‥


※この続きは、『実務に即した人事トラブル防止の秘訣集』でお読みください。

  

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賃金の「○○ペイ」払いに関する議論が加速

2021-11-03 18:36:54 | 労務情報

 現行法令では、賃金をデジタルマネー(「〇〇ペイ」と称するものが多い)で支払うことは許されていない。 労働基準法第24条は「賃金は‥通貨で‥支払わなければならない」と「現金払い」を原則としており、労働者の同意を得た場合の「銀行・証券会社等の本人口座への振り込み」・「退職手当に限り小切手等での支払い」が認められている(同法施行規則第7条の2)だけである。
 しかし、近年デジタルマネーが普及していることを踏まえ、厚生労働省の労働政策審議会(労働条件分科会)では、現在、資金移動業者の口座への賃金支払いについて議論を重ねている。 もっとも、昨年7月に閣議決定された『成長戦略フォローアップ』では、「2020年度できるだけ早期の制度化を図る」としていたので、スケジュール的には遅れている状態だ。

 労政審が慎重になっているのは、賃金のデジタルマネー払いを可能とすることに、主に労働者保護の観点から、次のような懸念が出てきたからだ。
  (1) 即日、1円単位での引き出しが可能か
  (2) 資金移動業者が破綻した場合の補償が充分か
  (3) 事実上、使用者が特定の業者を指定することにならないか
  (4) 入出金記録や使途に関する情報が第三者へ漏洩しないか

 ちなみに、この5月1日から、資金決済法が改正施行され、資金移動業者(為替取引を業として営む金融機関でない者)が、「第一種資金移動業(高額類型)」・「第二種資金移動業(現行類型)」・「第三種資金移動業(少額類型)」に区分されることとなった。
 このうち「第一種資金移動業(高額類型)」は、金融庁の認可(他の類型は登録制)を要する一方、100万円(従来の上限額)を超える為替取引(海外送金を含む)が可能となり、銀行の行う業務に大きく近づいたと言える。
 厚生労働省は、上述の懸念に関して、資金決済法の改正と相俟って、金融庁と連携しながら規制する仕組みを設けることで解消しようとしているのだ。

 このような観点で、労政審の議論を注視し、近々公布されるであろう厚生労働省令を解釈するようにしたい。
 そして、経営者や人事担当者は、自社において賃金のデジタルマネー払いを導入することのメリット・デメリットを、今のうちから整理・検討しておきたい。

 なお、議論されている「デジタルマネー」とは、「〇〇ペイ」等による“日本円”の電子マネーのことである。 まれに、“外国通貨”や“仮想通貨”での支払いも可能となるかのようにとらえる向きもあるが、それは誤解であることを強調しておく。


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