ご苦労さん労務やっぱり

労務管理に関する基礎知識や情報など。 3日・13日・23日に更新する予定です。(タイトルは事務所電話番号の語呂合わせ)

昇給していないのに社会保険料が変わる?

2019-12-23 08:59:07 | 労務情報

 社会保険料を算出するための標準報酬月額は、固定的賃金の変動に伴って標準報酬月額が2等級以上増減した場合に変動(随時改定)することになっている。一般的には「昇給したら3か月間の賃金総額の平均を見て、この条件に当てはまるなら『月額変更届』を提出する」と認識されているところだ。
 ところが、この12月(もしくは来年1月)は、“昇給”していなくても、これの対象となるケースが頻出しそうだ。

 と言うのも、今年は10月に、消費税引き上げに伴って通勤手当を改定した会社も多いと思われるが、通勤手当は一般的に“固定的賃金”であるので、時間外手当等の多寡によっては随時改定に該当する可能性があるからだ。
 何年も昇給を見送っていた(固定的賃金が変動しなかった)会社は、定時決定(毎年7月)の時には、どれだけ賃金額が変動しようと『算定基礎届』だけ提出すれば良かったわけだが、今般は『月額変更届』を提出しなければならないかも知れないので、各被保険者ごとに標準報酬月額が2等級以上増減するかどうかを計算してみて、随時改定の対象となるかを、一人一人見極めていかなければならない。
 これは労務担当者にとっては基礎的な事項であるはずだが、今般は“うっかり忘れ”も出そうなので、正しい手続きを再確認しておきたい。

 もっとも、この仕組みを知っている経営者や労務担当者は、社会保険料(本人・会社双方の負担)が増えないように、この時期の残業は極力控えさせる等の対処を予め講じていたようではあるが。


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外注化のメリットと落とし穴

2019-12-13 15:25:37 | 労務情報

 労働基準法や労働安全衛生法が改正され、最低賃金も引き上げられ、従業員が事故を起こせば使用者責任を問われ、セクハラ・パワハラへの対処も求められ、人を雇うのが煩わしくなってきた経営者もいるのではなかろうか。そんな昨今、「雇用契約から業務委託契約への切り替え」(いわゆる「外注化」)を進める(もしくは検討している)会社が目立ってきた。

 業務委託契約に切り替えると、会社にとって次のようなメリットがあるとされる。
  1.身分保障の義務(解雇制限等)を課されない
  2.社会保険料・残業代・有給休暇等の人件費が発生しない
  3.給与計算(年末調整を含む)や社会保険手続き等の事務作業が不要になる
  4.採用や教育に掛けるコスト・労力も不要
  5.本則課税の場合は、消費税の節税効果を得られる

 その一方で、次のようなデメリットも挙げられる。
  1.会社への帰属意識が希薄になる
  2.ノウハウが社内に蓄積されない(社外に流出する危険性すら有る)
  3.後継者が育成できない
 もっとも、これらは、このご時世、雇用契約のままであっても期待できなくなりつつあるので、「デメリット」というより「リスク」程度の認識でいる会社も少なくないかも知れない。

 さて、こうした動きが、「外注化(アウトソーシング)」という意味合いで検討されているなら、法的に特段の問題は無い。しかし、もし従業員各人の業務内容を変えないまま「個人事業者」に切り替えて「業務委託契約」を締結するのだとしたら、仮に本人が同意していたとしても、グレーな部分が大きいと言わざるを得ない。
 というのも、契約上は「個人事業者」とされていても、実態として“使用従属関係”に在る場合は「労働者」として扱うべきだからだ。

 具体的に「使用従属関係にない」ことは、次のような観点で判断される。
  1.業務指示に対し諾否の自由があるか
  2.他の者が代わりに業務を行うことができるか
  3.報酬が「時間」を単位として計算されていないか
  4.作業の具体的な内容について指揮監督を受けていないか
  5.設備・機器・材料等を作業者本人が負担しているか
   (ただし、高度な技術・専門性をもってこれらを使用している場合を除く)
 これらは例示だが、つまりは「“業務の委託”であって“労務の提供”ではない」という概念で一貫している。
 逆に、これらに当てはまらないなら、「偽装請負」ということになる。

 意図的であるか否かを問わず、偽装請負の状態を作らないよう、正しい知識を身につけておきたい。


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人事考課における心理傾向とその補正方法の例

2019-12-03 13:29:15 | 労務情報

 賞与支給に際して人事考課を実施した会社も多いだろう。
 ところで、人事考課にあたって考課者(一般には直属の上司)が陥りやすい心理傾向として、以下のようなものがある。

(1) 寛大化傾向
 部下をひいき目に見て、全体的に評価が甘くなる。
 [例] 「自分の部下だから優秀なはずだ」

(2) 厳格化傾向
 部下が頼りなく見え(または自身の若い頃と比較して)厳しく評価。
 [例] 「自分の若い頃はこのくらいやって当然だった」

(3) 中心化傾向
 部下を観察できていないため(または反感を恐れて)無難な評価に。
 [例] 「みんな真面目にやっている」

(4) 対比誤差
 考課者自身との対比によって評価してしまう。
 [例] 「数字が苦手な上司が数字に強い部下を高評価」

(5) ハロー効果
 特定の要素から形成される先入観によって全体を評価してしまう。
 [例] 「企画書が体裁よく作られているから内容もしっかりしているように見える」

(6) 論理的誤謬
 事実を見ずに考課者自ら作った論理によって評価してしまう。
 [例] 「サラ金から多額の借金をしているから仕事もずさんだ」

(7) 期末効果(近時点効果)
 直近の行動や成果をもって評価期間全体を評価。
 [例] 「最近の大失敗により以前の成功事例も台無し」

※なお、「逆算化傾向」(評価に基づく賞与支給額や昇格等を念頭においた評価をしがち)を挙げる識者もいるが、従業員の処遇を決める材料たることも人事考課の目的であることを鑑みれば、むしろ考慮されるべき事項と言えるので、ここでは除外しておく。

 以下、これらの心理傾向を補正するための方策について、例示してみたい。

 まず、(1)~(3)に関しては、「相対評価」を導入すれば容易に解決する。すなわち、部下全員を“順位付け”するという方法だ。
 ただ、相対評価には、「“甘辛”を補正しやすい」というメリットがある一方、「被考課者の能力開発(これも人事考課の目的の一つ)に活用しにくい」などのデメリットもあることは承知しておかなければならない。

 (4)~(6)に関しては、「考課表」を評価項目ごとに記入するようにすることで一定程度は改善されよう。
 (7)に関しても、「考課表」を工夫して、例えば月別に評価したものを集計するような形式にすれば、考課者の負担は重くなるものの、効果を薄めることは可能だ。

 しかし、これらの方策を講じたとしても、やはり考課者の癖は出てしまう。そもそも、「人が人を評価する」のだから、いくら補正しようとしても、自ずと限界はある。
 とは言え、少なくとも考課者自身はこういった心理傾向を自覚したうえで人事考課に取り組む必要があり、そのためにも、事前に考課者教育を実施しておきたいところだ。


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