ご苦労さん労務やっぱり

労務管理に関する基礎知識や情報など。 3日・13日・23日に更新する予定です。(タイトルは事務所電話番号の語呂合わせ)

70歳までの“就業”確保措置とは

2020-03-23 10:22:13 | 労務情報

 厚生労働大臣の諮問機関である労働政策審議会の職業安定分科会雇用対策基本問題部会は、昨年12月20日、『高年齢者の雇用・就業機会の確保及び中途採用に関する情報公表について(素案)』を取りまとめた。

 実は素案の後段「中途採用に関する情報公表」についても特に301人以上の大企業にとっては影響がある話なのだが、ここでは、より多くの企業に、より多大な負担を強いる可能性のある前段「高年齢者の雇用・就業機会の確保」について取り上げることとする。

 さて、この素案では、「高年齢者個々のニーズや状況に応じた活躍の場を整備することが求められている」とし、70歳までの就業機会を確保するための法的整備や民間企業が取り組むべき課題について提言している。
 中でも、従来から示されてきた定年延長や継続雇用制度など“自社での雇用”を継続する措置のほか、“自社での雇用によらない就業機会”の確保も選択肢に挙げていることは特筆に値するだろう。

 まず、自社での雇用を継続する措置に関しては、「定年延長」(もしくは「定年制度の廃止」)または「継続雇用制度」等、これまでの(65歳までの)雇用確保措置と同様の制度としているが、65歳以降は体力・健康状態や本人を取り巻く状況がより多様になることを踏まえ、「対象者の限定を可能とすることが適当」とし、「その基準について労使で合意が図られることが望ましい」ともしている。
 また、自社での雇用によらない就業機会の確保措置として、「他企業への再就職援助」、「フリーランス契約への資金提供・個人の起業支援(70歳まで継続的に業務委託契約を締結)」、「個人の社会貢献活動参加への資金提供」といった具体策を示している。
 そして、民間企業はこれらの措置を講じて70歳までの就業機会の確保を図るよう努めるべきとする。加えて、「多様で柔軟な働き方」という高年齢者以外の労働者一般にも用いられる概念により、複数の措置を組み合わせることも推奨している。

 なお、この素案ではこれらの措置を講じるべき期限については言及されていないが、現行、65歳までの雇用機会確保措置が労使協定(平成25年(2013年)3月31日までに締結されたものに限る)により猶予されている「令和7年(2025年)3月31日まで」と考えられよう。
 奇しくも同日、同分科会の雇用保険部会が「高年齢雇用継続給付(60歳から支給)」を令和7年度(2025年度)から段階的に引き下げる方向性を示したのは偶然ではなさそうだ。


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雇用調整助成金が非正規雇用者を対象に支給されるケースも

2020-03-13 18:30:11 | 労務情報

 雇用調整助成金(かつては中小企業向けには「中小企業緊急雇用安定助成金」と呼ばれていた)は、生産量の減少により従業員を休業させざるを得なくなった企業に対し、支払った休業手当等の一部を助成する制度だ。
 急激に業績が悪化した企業が、一時的に休業等を実施することにより、いきなり整理解雇を考えないで済むので、雇用の維持に一定の効果があるものとされている。

 さて、この助成金の対象となる「生産量の減少」とは、「直近3か月の生産量等が前年同時期と比べて10%以上減少したこと」であるところ、このたびの新型コロナウイルスの関連で、この期間が「3か月」から「1か月」に短縮されている。つまり、生産高や売上高等が前年より大きく下回った月が1回でもあれば対象となる、ということだ。
 しかも、本来、事前に「休業計画」を届け出ていなければならなかったものを事後に届けても可とし、「事業所設置後1年以上」・「最近3か月の雇用量が前年と比較して一定数以上増加していない」等々の支給要件も(暫定的に5月31日まで)外している。
 
 加えて、北海道(緊急特定地域)に限っては、次の要件緩和措置も講じられている。
  1.雇用保険被保険者以外の労働者も助成対象とする。
  2.助成率を引き上げる。(中小企業は4/5へ、大企業は2/3へ)
  3.生産指標要件を満たしたものとして扱う。
 他の項目はともかく、1つ目の被保険者以外を雇用保険制度で救済することについては賛否が分かれそうだが、この緊急事態にあたって他の妙案も無い現状では、受忍できる範囲内と言うべきだろう。

 今のところ(令和2年3月13日現在)厚生労働大臣が「緊急特定地域」に指定しているのは北海道のみだが、今後、新型コロナウイルスの感染状況と事業活動への影響度合いによっては、要件緩和の対象となる地域や業種が拡大していくことも考えられうる。
 また、小学校等の休校に関連して仕事を休んだ者に対して特別の有給休暇を与えた事業者への助成金(非正規雇用者を含め100%助成;ただし上限額あり)も、申請手続きの詳細は未定のようだが、これに準じた仕組みになるのではなかろうか。

 今、政府は数々のセイフティネット策を新設し、また日々改定・拡充している。
 これらは申請しないと受給できないものがほとんどであるので、常に最新情報を入手するよう心掛けておきたい。


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休職満了時における「治癒」の考え方

2020-03-03 17:59:37 | 労務情報

 労働契約は、「労働者が労務を提供し、これに対し使用者が賃金を支払う」という“双務契約”であるので、契約当事者の一方がその債務を履行できないなら、他方の当事者はその契約を解除することができる。
 ちなみに、現行民法第543条ただし書きは履行不能による契約解除に債務者の帰責を求めているためこの点がしばしば争いのタネとなっていたが、改正民法(2020年4月1日施行)第542条第1項では債務者の帰責の有無を問わずに履行不能を理由として契約解除できる旨を明文化している。

 したがって、労働者が労務を提供できない状態になったら、使用者は労働契約を解除(=解雇)できると解される。
 しかし、一定期間を経過すれば再び働けるようになる可能性があるなら、その一定期間、解雇を猶予するのも使用者の任意であって、これを制度化したのが「休職制度」だ。
 そして、休職制度を適用した場合は、所定の休職期間が満了しても治癒しなかったら、その時にこそ労働契約は解除(こういったケースでは「解雇」ではなく「自動退職」としているのが一般的)される。

 では、その「治癒」とは、どういう状態を言うのだろうか。
 古くは「原則として従前の職務を通常の程度に行える健康状態に復したとき」(千葉地判S60.5.31)など、完全回復が求められており、この判決の文面にならって休職期間満了後の復職条件を定めている会社も少なくなかったが、今日(その規定がまだ有効に現存しているとしても)、それを文言通りに適用するのはリスクが高い。
 というのも、(休職制度を争点とした事件ではなかったが)「現に就業を命じられた特定の業務について労務の提供が十全にはできないとしても、‥他の業務について労務の提供をすることができ、かつ、その提供を申し出ているならば、なお債務の本旨に従った履行の提供があると解する」(最一判H10.4.9)との判決が出されて以来、裁判所は、完治していなくても軽微な業務に就かせることの現実的可能性を検討するよう、会社に対して求めてきているからだ。
 これは、「完治」という概念の無い精神疾患の場合には特に顕著だ。

 また、行政府も、厚生労働省を中心として、現在、「病気治療と仕事の両立」を推進しているところでもある。

 なので、会社としては、休職満了時において「従前の職務ができない」からと言って安易に解雇(または退職)に走るのでなく、上述の「軽微な業務に就かせる」のほか、「時差勤務や短時間勤務を認める」、「通勤しやすい職場に配置転換させる」等、その人の健康状態に配慮した働き方を、まずは考えたい。
 確かに「休職」は「解雇の猶予」ではあるのだが、であればこそ「解雇回避義務も問われる」と認識しておくべきだろう。


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