ご苦労さん労務やっぱり

労務管理に関する基礎知識や情報など。 3日・13日・23日に更新する予定です。(タイトルは事務所電話番号の語呂合わせ)

育児休業の対象となる「養子縁組里親」と「特別養子縁組」について

2018-07-23 10:59:45 | 労務情報

 育児休業は、その名の通り子を養育するための休業であるが、昨年1月から改正施行された育児介護休業法により、その「子」の範囲は、従来の「実子および養子」に加え、「特別養子縁組の監護期間中の子」・「養子縁組里親に委託されている子」・「その他これらに準じる者」まで拡大されている。

 まず、2つめの「養子縁組里親」について概要を説明すると、里親制度は原則的には法律上の親子関係が生じないところ、児童を養育する者(里親)が養子縁組を希望し、それに実父母が同意している場合に、「養子縁組里親」となるものだ。また、3つめの「その他これらに準じる者」は、それと類似のケースであるが、実父母が同意しないため養子縁組里親として委託できない場合の里子とされている(同法施行規則第1条第1項)。
 もっとも、養子縁組里親となるには都道府県知事が実施する研修を修了し、養子縁組里親名簿に登録しなければならず(児童福祉法第6条の4第2号)、また、養子縁組里親制度により委託されている児童自体、全国で200人ほど(平成28年度末;18歳未満の全年齢合計)しかいない。したがって、会社の人事担当者としては、予めこれに備えておくよりも、自社の従業員でこれに該当する者が現れた時に、行政機関と相談しながら対処していくのが、実務上、効率的と言えそうだ。

 さて、今般の法改正で追加された3項目のうち、自社で発生する可能性があるとしたら、1つめの「特別養子縁組の監護期間中の子」だろう。
 「特別養子縁組」は、「普通養子縁組」と異なり、実父母との親子関係が終了し、戸籍上も、実子と同様に記載される。これは、養親からの請求に基づき、家庭裁判所が決定するもので、その決定にあたっては、6か月以上の監護期間を考慮することとなっている。この監護期間中は、寝食を共にしていても未入籍であるため“子”ではないが、実質的に“育児”を行っているのだから、育児休業等の対象とすることとされたものだ。
 特別養子縁組は、現状、年間600例ほど成立している(平成28年度司法統計より)が、今年4月から施行された「特別養子縁組あっせん法(民間あっせん機関による養子縁組のあっせんに係る児童の保護等に関する法律)」により、今後の増加が見込まれている。厚生労働省によれば要保護児童(実親からの虐待等により保護の対象となっている児童)は平成25年時点で30000人近く(全年齢合計)に上っているので、民間あっせんによる児童保護への期待が高まっているところだ。
 実際これで特別養子縁組がどのくらい増えていくかは不透明だが、従業員の中には、この制度を利用しようと考える者がいるかも知れない。その場合、突然(妊娠期間を経ずに)育児休業や育児短時間制度を請求することになり、しかも、年配の従業員も利用する可能性があることを、経営者や人事担当者は想定しておく必要がある。


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「自営型テレワーク」は企業にとって使いやすいか?

2018-07-13 14:59:36 | 労務情報


 厚生労働省の有識者会議「柔軟な働き方に関する検討会」(座長:松村茂 東北芸術工科大学教授)は、平成29年3月の『働き方改革実行計画』において「テレワーク(ICT(情報通信技術)を活用した、場所や時間にとらわれない働き方)の一形態」という位置づけであった「非雇用型テレワーク」を、「自営型テレワーク」と名付け直し、「雇用型」とは一線を画した“別物”として柱建てした。

 自営型テレワークは、会社との間に雇用関係が無いことから、(法文上は)労働時間規制が無く、身分保障(解雇制限等)の義務も課されず、社会保険料の負担も無い。また、通勤費も支払わなくてよく、年末調整や住民税徴収等の事務負担も無い。
 そのため、会社にとっては使い勝手が良いと考えられる向きが多いかも知れない。

 しかし、類似のケースでは、フリーランスカメラマンの死亡を業務上災害と認めた事例(東京高判H14.7.11)や住宅設備機器の修理補修を請け負っていたカスタマーエンジニアを労働組合法上の労働者であると断じた事例(最三判H23.4.12)など、裁判所が実態を見て「労働者性がある」と判断する可能性はあるので要注意だ。
 また、雇用関係が無いがゆえ、
(1)会社への帰属意識が希薄になる、
(2)ノウハウが社内に蓄積されない(社外に流出する危険性すら有る)、
(3)後継が育成できない、
といったデメリットがあることも認識しておかなければならない。

 そうした点を踏まえたうえでメリットの方が大きいと感じられるなら、自営型テレワークを上手に活用するべきだろう。
 通勤に係る社会的なコスト(一企業が支払う通勤費だけの問題ではない)の削減やワークライフバランスの実現等の観点からも、社会的に望まれていることではある。

 なお、同じ厚生労働省の「雇用類似の働き方に関する検討会」(座長:鎌田耕一 東洋大学法学部教授)では、「労働者がその多様な事情に応じた就業ができるようにする」ことについて、雇用対策法の改正(法律名の変更を含む)も視野に入れつつ議論されている。こちらの進捗状況も注視しておきたい。


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労働債権に関しても短期消滅時効の廃止を検討中

2018-07-03 22:49:03 | 労務情報

 平成29年5月、民法(債権法)改正案が成立し、公布の日から3年以内に施行されることとなった。今般の改正事項のうち、短期消滅時効の廃止については、労働法にも影響する可能性がある。

 改正民法第166条は次のように定め、これ以外の短期消滅時効の定めを削除した。

 債権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。
  1 債権者が権利を行使することができることを知った時から五年間行使しないとき。
  2 権利を行使することができる時から十年間行使しないとき。
 (第2項・第3項は省略)

 これは、現代では合理性に乏しい短期消滅時効の規定を廃止し、時効期間を「10年」に統一・簡素化を図り、その一方で、単純に消滅時効期間を10年とすると弁済の証拠保存のための費用が増加するとの懸念等を踏まえ、「主観的起算点から5年」という新たな消滅時効期間を設けたものだ。

 これを受けて厚生労働省は、昨年12月26日に有識者会議「賃金等請求権の消滅時効の在り方に関する検討会」を立ち上げ、労働基準法の改正も視野に入れた検討を始めた。
 現行の労働基準法第115条は、退職手当以外の賃金・災害補償等の請求権に関する消滅時効を「2年間」としているところ、これを「5年間」とすべきか否か、その在り方について、今年の夏を目途に(まもなくか?)論点整理を行うとのことだ。

 検討会における論点中、経営者にとって問題となりそうなのは、「未払いの時間外手当」と「未消化の年次有給休暇」の2点だろう。
 時間外手当については、現に就労した分の賃金を支払わないのは庇うに値しないが、会社が「就労していなかった」として支払わなかった賃金に関して、その当否を争われるリスクを負う期間が延びるということを意味する。これは会社にとって大きな負担となろう。
 また、年次有給休暇については、最大100日間(年20日×5年間)、給料を払いながら休ませなければならなくなる可能性がある。会社としては、計画的付与(過半数労組または過半数代表者との労使協定が必要)や時季変更権の行使等により、そのインパクトを軽減する方策も考えられるが、これらは労使関係が正常な場合にしか機能しない。労使トラブルによって出勤しなくなったケースでの訴訟案件においては、これを丸々請求されると思っておかなければならないだろう。

 現実的に労働基準法を改正することにはなるとは限らないが、これからの議論の行方を見守っていく必要はありそうだ。


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