尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

大森直樹著「大震災でわかった学校の大問題」

2011年09月14日 23時01分35秒 |  〃 (教育問題一般)
 大森直樹著「大震災でわかった学校の大問題(小学館101新書)。震災後の学校について簡潔にまとめた新書。今後もっといろいろな事実がわかり、様々な事例が研究されるだろうけど、この本はその前に今緊急にすべての教師が読んでおく必要があると思う。大森さんは東京学芸大学教育実践研究支援センター准教授で、これは「直接知ってる人が書いた本の紹介」第2弾。

 この本は8月に出てるけど、すぐには読めなかった。宮城県石巻市立大川小学校のあまりにも大きな悲劇の犠牲者のことを思い、もし自分がその場にいたらどのような行動が取れていただろう、と考えなかった教師はいないだろう。ここではまだ行方不明の児童がいる。教師のほとんども犠牲になった。地震直後のことではない。数十分たっていた。ちょうど今日(9.14)の「クローズアップ現代」で取り上げていたが、この言葉を失う悲劇や、あるいは原発事故で学校ごと避難せざるを得なくなっている多くの児童・生徒、避難地域外で低線量被曝の不安にさらされている学校の子どもたち。

 そのような大きな問題が今も継続しているときに、重い課題を突き付けるこの本は買ったままなかなか読み進めなかった。大森さん自身も、大川小や福島を訪ねているが、やはり訪ねる前にはためらいもあったように書かれている。今、震災半年がたち、ようやくこの本を手に取った。

 まず書かれているのが東北3県を中心に、多くの学校で教師、生徒の自発的な奮闘により、避難所の運営、安否の確認などが進んで行った事例だ。大森さんの目は最近増えている「非正規教員」にも注がれている。避難所でも働いているような非正規教員は正規採用すべきだと訴えている。どの地域でも、学校は地域の中心として被災時は避難所になることが想定されているだろう。しかし、その避難所で教師はどのように活動すべきなのか。この本を読むと、「平時」ではない「緊急時」に果たしてきちんと行動できるような、柔軟な発想を持つ教師を行政は育成してきたか。そして、そのような子どもたちを教師は育ててきたか?強い疑問を押さえることができない。

 注目されているのが、9.14朝日新聞や昨日読んだ児玉龍彦「内部被曝の真実」にも出ていた釜石市の事例である。釜石では学校にいた3千人の子どもたちは無事だった。群馬大大学院の片田敏孝教授によれば、「想定は信じるな」「そのときの状況下で最善をつくせ」「みずから率先して逃げろ」の3つを強調してきたという。これは防災教育だけでなく、進路指導や生活指導にも生かせる教えだろう。

 要するに、自分の頭で考え、自分の心で感じ、自分の足で歩く教師。そのような教師によって「一人の人間もきりすてない学校づくり」を進めようというのが大森さんの考えだ。そうすると、今までの教育行政は全面的に見直さざるを得なくなる
 だから「教育現場に不要なこと」リストが掲げられている。(156~158頁)列挙して見れば、勤務評定、主任制、初任者研修、10年経験者研修、新勤務評定、副校長・主幹教諭・指導教諭制、教員免許更新制、教職実践演習、指導要録の指導に関する記録、学習指導要領の法的拘束力、観点別絶対評価、ティームティーチング、習熟度別指導、愛国心教育、教育サービス規定、学校選択制、教員の非正規化、株式会社参入、国立大学法人化、全国一斉学力テスト。

 ここまで行くと戦後教育すべての見直しになるが、とりあえず「教育現場に不急・不要」なことは止めるということだ。その最大のものが「教員免許更新制」だと明記されている。(152頁)「この制度は震災直後にまず凍結するべきだった。」それができていたら、僕はまだ学校現場にいたかもしれない。教員免許更新制度は次の手順で廃止できるという
①国の謝罪②暫定措置としての制度凍結③廃止法の制定④国と当事者の協議を通じて損害を補償。
 きちんと謝罪や損害補償が書かれていることに感動する。まさにこれこそ僕の求めているものだ。

 僕は震災の日に何をしていたか。今初めて書くけれど、学校近くでアルバイトをしていて帰れなくなっていた生徒を「救出」に行った。店の奥で疲れ切っていた生徒を学校に連れてきて食べさせて学校で休ませた。学校には100人ほどの生徒が帰れずに残っていた。学校にいた生徒だけ対応すればいいのかもしれないが、担任している生徒が近くで働いているのなら探しに行くのが当然だと思う。

 顧みて、大川小にいたとして自分なら何ができたかはわからないけれど、少なくとも大森さんのあげている施策を推進する側にはたたず、教師として自分の頭で考えることは続けてきたと思う。そう思って、震災・原発事故後の日本社会を考え続けていきたい。

 大森さん、一緒に教員免許更新制度を廃止しましょう!
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