尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

朝鮮高級学校の場合-高校授業料問題を考える②

2011年08月20日 23時50分34秒 |  〃 (教育行政)
 ものすごく暑かったのが突然涼しくなり、高校野球も終わり、夏も去っていきつつあるのかな…というと来週はまた暑くなるみたいですけど。涼しいうちに高校授業料無償化問題を考えてみます。この措置が現在朝鮮高級学校へ通う生徒に対して止められているという事実があります。手順を踏んで朝鮮学校にも適用する方向で進んでいるかに見えていましたが、昨秋に突然菅首相の直接指示で止まってしまいました。そのきっかけは2010年11月の「北朝鮮」(=朝鮮民主主義人民共和国=DPRK)による韓国支配地域への無法な攻撃。この暴挙を批判することと、朝鮮学校への無償化措置は関係ありません。そのような論理を民主党政権は取ってきました。従って、自分で作った原則を自分で破っていくという菅首相にいくつも見られた無原則ぶりがここでも明らかです。

 それまで文科省は何と言っていたかというと、当初に出された文部科学大臣談話にはっきりしています。ちょっと長くなるけど、大事なところを引用。
 (高等学校等就学支援金制度の趣旨
 高等学校等就学支援金制度は、全ての意志ある後期中等教育段階にある生徒の学びを保障し、家庭の状況にかかわらず、安心して勉学に打ち込める社会をつくるため、公立高等学校の授業料無償制とともに実施することとしたものです。このため、私立高等学校等に学ぶ生徒のみならず、専修学校及び各種学校のう「高等学校の課程に類する課程」に学ぶ生徒も広くその対象としています。
 もとより、就学支援金は学校に支給されるものではなく、生徒個人個人に対して支給されるものです。また、国籍を問わず、我が国において後期中等教育段階の学びに励んでいる生徒を等しく支援することは、教育についてのすべての者の権利を謳っている国際人権A規約の精神にも沿うものと考えます。

 つまり現状は国際人権規約違反です。(と自分で言ったんだから認めるはず。)朝鮮学校の教育内容をめぐる批判もあるけど、(もちろん批判自体はあってしかるべきだけど)、学校に支給されるのではなく生徒個人個人に支給されるもの、と文科省自身が言ってるのだから見当はずれの議論です。

 自民党が「4K」と批判する政策はすべて、企業等への補助金などを通して結果的に家計への波及を及ぼすのではなく、家計そのものを直接支援するという発想に立っています。「こども手当」「農家の戸別所得補償」が典型ですが、高速道路無料化の発想も同じ。だから、単に高校の授業料をなくすだけでなく、同世代の学びを支援していくという発想になります。この発想そのものの是非は議論すべきだと思います。しかし、とりあえずそのような発想で高校無償化は始まりました。では、なぜ実際の支出は学校単位で行うのか。それは誰が高校や専門学校に行っているか自治体は把握していないので新たな確認手段を作らないと支出できないし、個人に支出しても「給食の補助金を学校に払わない」というようなことが続出するのが目に見えているからです。(もちろん少数でしょうが、高校授業料を親が使い込むケースが起こるのは間違いありません。)学校は「学校基本調査」で5月1日付の在籍人数を報告する義務があるので、その数字を利用して学校単位で支出する方がはるかに簡単です。そういう心配を避け、事務作業を簡素化するために学校に支出しているのですが、その精神としては「生徒個人の学びを支援している」のです。

 それなのに「朝鮮高級学校」に通学する生徒のみ、その支援を受けられないのは明らかな差別です。朝鮮高級学校は、他の多くの専修学校と同じく、大学入学資格を多くの大学が与えています。従って、文科省が作った基準に適合します。

 ところで、朝鮮高級学校に通学する生徒はどこの「国籍」を持っているのでしょうか?日本は「北朝鮮」を国家承認していませんから、「北朝鮮国民」というものは一人もいるはずがありません。戦前の植民地支配時代に、日本の制度が強制的に導入され本籍が「朝鮮」(国籍はもちろん「大日本帝国」)となり、占領下に今度は強制的に日本国籍を離脱させられた人々が多くいるわけです。その人々が「朝鮮籍の外国人」扱いをされたわけです。(多くの「帝国」では植民地の独立時に独立国か本国か国籍を選択できました。)1965年の日韓国交以後に韓国籍に切り替える人が多くなりましたが、その意味では事実上「北朝鮮支持者(朝鮮総連傘下)の家族」が多いかとも思われますが、「朝鮮」籍というのは、日本の植民地支配が作り出した「記号」に過ぎません。また、少数だと思いますが日本や韓国の国籍を持っている生徒も通っていると思います。むろん「朝鮮籍」であっても日本の公立高校へ通っていれば、授業料はないわけですから、全くわけがわからない差別としか思えません。

 韓国籍であれ、朝鮮籍であれ、あるいは戦前の台湾出身者であれ、「特別永住権」を持っていますから、基本的に日本社会の構成メンバーです。所得税も消費税も同様に払っているのに、朝鮮学校に通っている子供だけが授業料がかかる。これを日本国民(日本の政治に責任がある20歳以上の有権者)はどう思うかということです。これから朝鮮学校生は裁判に訴えるという動きが進んでいます。裁判になれば決着が長引いてしまうことが予想されます。できうれば菅首相が自分で道筋をたてて退陣すべきです。

 朝鮮半島の植民地支配の歴史に深入りしていくとさらに長くなるので、もうやめることにします。当然ながら「朝鮮」籍の人々は独自の民族教育を行う権利を持っています。その民族教育をすすめる学校と友好を深めるのも大切だと思います。しかし、批判するべきことを批判しないことが友好ではありません。戦前の日本の学校の「御真影」みたいに指導者の写真を掲示してあるようなのは、現代の日本では受け入れられません。しかし、そのような朝鮮学校への批判があったとしても、「個人個人に出す」システムなのだから、朝鮮学校通学生だけ除外するのは「差別」にあたるわけです。
 ただし、この問題を別のシステムに変更するならば話はまた別で、そういう点は今後また書きたいと思います。
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