金色銀色茜色

生煮えの文章でゴメンナサイ。

(注)文字サイズ変更が左下にあります。

昨日今日明日あさって。(どうしてこうなった)19

2024-03-31 10:45:04 | Weblog
 俺はモビエール毛利侯爵をテーブルに案内した。
心得たメイドが直ぐにお茶を運んで来た。
俺には緑茶、モビエールには紅茶。
お茶菓子も後宮厨房から届けられたビスケット盛り合わせ。 
モビエールが紅茶を口にして一言。
「この紅茶はどこのだ」
 お気に召したらしい。
産地名を知りたいのだろう。
生憎、メイドは下がってしまった。
俺は知らない。
そこで、・・・。
「後宮の厨房です。
お茶菓子もそうです」
「そう・・・か」
 噴き出しそうな顔を引き締めた。
モビエールの執事と護衛が顔を伏せた。
両者の肩が小刻みに震えていた。

 入り口が騒がしくなった。
立哨していた近衛兵が俺の方へ来た。
困惑の色で耳打ちした。
「ロバート三好侯爵がいらっしゃいました。
責任者への面会を望まれています」
 小声だったのだが聞こえたのだろう。
モビエールが表情を緩めた。
「ここへ招いても構わん。
異存ないだろう、伯爵殿」
 もしかして示し合わせたのか。
時間差攻撃で俺のメンタルを削る算段か。
周りの大人達の表情から、それが正解だと分かった。
 
 ロバート三好侯爵が執事と護衛を従えて入って来た。
三好侯爵家派閥を率いるに相応しい貫禄だ。
モビエールに視線を送り、軽く頷いた。
そして俺を目をくれた。
モビエール同様に顔馴染みなのだが、今日は冷え冷えとしていた。
俺は立って出迎えた。
「ようこそ、ロバート三好侯爵様」
「ご苦労様だな、佐藤伯爵殿」

 右にモビエール、左にロバート。
流石は派閥を率いる両者、威圧感が半端ない。
その二人が肩を並べて腰を下ろしている図は、まるで子供虐め。
俺がまさにその子供。
ここがセンターテーブルであると示唆していた。
二人は俺を無視し、顔馴染みの侍従や秘書、女官と話を進めて行く。
まあ、その方が俺にとっても楽なんだが。

 俺への質問も相談もなく、事態収拾への詰めが纏められて行く。
文字通り、神は細部に宿る、ではないが、詳細に煮詰められた。
俺は蚊帳の外だが、彼等彼女等の様子を見聞きして、
本来の日常業務の大変さを理解した。
ああ、宮廷には入りたくない、そんな思いをロバートに見抜かれた。
「佐藤伯爵殿、王妃様との連絡は」
 行き成りだな。
関心があって聞くのか。
それとも俺を試すのか」
「こちらからの使番を山陽道、山陰道の両経由で走らせました。
たぶん、王妃様もこちらへ使番を発せられていると思います。
その両者の接触は今日か明日でしょう。
それによってですが、おそらくカトリーヌ殿が真っ先に動かれるでしょう。
少数にて、最速で国都に戻られると思います」
「なるほどなるほど、最側近のカトリーヌ中佐が戻ると」
「使番は使番として遇し、万一を想定して王妃様には安全策かと」

 モビエールの視線も俺に戻された。
「王妃様が戻るまでは佐藤伯爵殿が内郭の差配を行う、
そういう理解で良いのかな」
 ロバートが含み笑い。
「ふっ、そのようだな」
 俺の隣の侍従が言う。
「佐藤伯爵殿には色が付いてませんので」
 秘書の一人が同調した」
「その通りです」
 それに力を得たのか、別の侍従が言う。
「王妃様からイヴ様を託されたのも佐藤伯爵殿です。
管領殿を追い払ったのも伯爵殿です」
 モビエールが白い目で俺を見た。
「どうやって管領殿を追い払ったのかな。
是非とも聞かせて欲しいな」
 これにロバートが口を合わせた。
「だな、儂も知りたい」
 困った。
手口を公開するつもりはない。
公開したら、完全に化け物扱いされるだろう。

 俺が言葉を選んでいると、先に女官が言う。
「佐藤伯爵は王妃様から信任されています。
王妃様の代人として、今回の件を治めるに相応しいと思えてなりません。
違いましょうや、ご両所様」
 今や俺の右腕の侍従も言う。
「忘れてならないのが、近衛を掌握されたのも佐藤伯爵殿です。
それともう一つ、これは口にし難いのですが、
申しても宜しいかなご両所」
 モビエールとロバートが顔を見合わせ、頷いた。
想像は付くのだろう。
渋い表情。
侍従が続けた。
「ここで三好家や毛利家の色を出すのは好ましくないのです。
無派閥や日和見、保守派を悪戯に刺激します。
その点、佐藤伯爵は無色です。
それに子供という安心材料もあります。
王妃様が戻るまで我等も補佐します。
暖かく見守っては頂けませんか」
 安心材料というのが、どのような視点からなのか・・・。

 モビエールが仕方なさそうに言う。
「ああ、分かった、その様にな」
 ロバートは頷くだけ。
この際なので俺は子供の利点を活かし、二人に爆弾を投下した。
「お二人にお願いがあります。
討伐に本腰を入れて頂きたいのですが、如何ですか」
 世評では、王妃様と侯爵二家が相謀って長期化させている、
そう噂されていた。
実際、その三者に批判的な貴族や文武官が召集され、
前線で塗炭の苦しみに遭っているのも事実。
ロバートが俺を睨み付けた。
「ほほう、儂等が本気でないと」
 モビエールも面白げな色を見せ、加わった。
「王妃様を含めての我等への批判か」

 軍幕内での全ての会話が消えた。
書記も手を止めた。
来客のみならず、侍従秘書女官等全員の視線がこちらに向けられた。
蛇の尾を踏んだのだろうか。
まあ、ジャマイカ。
 俺は、演技スキルを起動した。
全ての視線を子供らしい微笑みで受け止めた。
「ご存知のように僕は商会を営んでおります。
その関係で色々な所と付き合いがあります。
敵とか味方ではなく、銭の関係です。
・・・。
うちのスタッフが商品開発の為に、あちこちに足を伸ばします。
その際に、市井に流布する噂も仕入れます。
噂というのは兎角、大事なのです。
その中に真実も含まれていますからね」
 最後までは言わず、濁して、軍幕内を見回した。
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昨日今日明日あさって。(どうしてこうなった)18

2024-03-24 11:55:42 | Weblog
 軽くジャンプすれば済むものを、アリスは猫を貫き通す。
俺の肩に乗る仕草も堂に入っていた。
『どうするんだよ』
「ふにゃ~ん」
 尻尾で俺の鼻を打った。
駄目だこりゃ。
この様子をうちの者達が生暖かい目で見守っているではないか。
ほんとに、こりゃ駄目だ。
お手上げだ。
好きにさせる事にした。
そのうちに飽きるだろう。

 アリスから念話が来た。
『イライザとチョンボが来てるわよ』
 言うや否や、俺の肩からポーンと飛んだ。
庭木の枝に飛び移り、枝から枝へ次々と、そして姿を消した。
探知を起動すれば見つけられるが、それは無粋というもの。
念話を飛ばした。
『程々にな』

 別館の目の前の庭園敷地内に一張りの大型軍幕が見えて来た。
厚い警護態勢の向こうから煩い声。
「グッチョー、グッチョー、グッチョー」
 チョンボだ。
当然、イライザも居るのだろう。
そしてイヴ様も。
笑い声が聞こえて来た。
「チョンボ、あんた煩いわよ」
「ふっふっふ、ちょんぼおこられた」
「ゲッチュ、ゲッチュ、ゲッチュ」
 案内の侍女が説明した。
「チョンボは室内が嫌いなようなので、ここに居てもらいます。
イライザ殿もチョンボと一緒なされるようです」

 軍幕内に入った。
チョンボとの久々の再会を喜んでいるイヴ様は俺に気付かない。
チョンボごときに・・・・。
嫉妬ではないが、負けた気がした。
それでも邪魔はしない。
片隅のソファーに腰を下ろすと、気付いたイライザが寄って来た。
「ごめんなさいね、イヴ様を取り上げたようで」
「なんか、言い方がむかつく」
 イライザが笑って俺に手紙を差し出した。
夫君のカールからだ。
実兄のポール細川子爵を案じていた。
「ポール殿は持ち直した。
命に別条はないそうだ。
執事のブライアンもそう、同じく回復待ちだ。
この一件が終えたら、屋敷でゆっくり休んでくれ。
長期の有給休暇だ。
実家にも顔を出したらどうだい。
美濃では忙しくしてるんだろう」
「ええ、忙しいですね。
どなたかの商会のせいですね」

 イヴ様とチョンボがこちらに歩み寄って来た。
「バルンバルンバルン」
 チョンボのくせして語彙を増やしていた。
生意気だ。
イヴ様はイヴ様、自由だ。
何時もの様に俺に飛び込んで来た。
俺に怠りはない。
腰を落として両膝を地に着け、両手で優しくキャッチ。
そのまま一気に立ち上がり、イヴ様を肩車した。
「お昼にしましょう」

 メイド達がチョンボの餌を搬入始めた。
イライザが俺に言う。
「私はチョンボの世話をしてる」
「ああ、チョンボに宜しく」
 無視して軍幕から出ようとすると、
チョンボが片方の羽根で俺の尻を叩いた。
「グワッチグワッチグワッチ」
 痛い。
子供に優しい魔物、プリーズ。
まあ、イヴ様が笑っているから良いか。

 お昼は別館で頂いた。
イヴ様は盛り合わせのお子様ランチ。
ハンバーグ、海老フライ、プチトマト、グリンピースの煎り卵。
スープとパン付き。
俺もそれに合わせて、ちょいと大盛。
ハンバーグに人参のグラッセと、ブロッコリーが添えられていた。
傍目には兄用としか見えない。
だが、俺は知っている。
イヴ様は人参とブロッコリーが嫌いなのだ。
だから俺に増量されている、・・・と。
 気の毒そうに俺を見るイヴ様に、見せ付けるようにして、
まず人参のグラッセ。
バターと砂糖の味がした。
次にブロッコリー。
茹で上がりのブロッコリーは、塩とマヨネーズ。
茹でてあるとは言え、味わう物ではない、たぶん。
一気に噛み砕いた。
はあ、今日も大人の階段を上ってしまった、なあ。

 俺はブロッコリーの一つを摘み、イヴ様を揶揄した。
「イヴ様はお子様ですから、これはまだ無理ですよね」
「ふーんだ、おこさまでいいもん」
 思い切り顔を逸らされた。

 楽しい食事を終えて軍幕に戻ると、
その手前で近衛の長官が目に入った。
庭木に縛り付けられたままの人。
いかんいかん、
変なのを見てしまった。
長時間の拘束と疲れで憔悴仕切っていたのだ。
このままだと自然死しないか。
見張っている近衛兵が俺に敬礼した。
「時折、ポーションをかけているので、まだまだ大丈夫です」
 俺の心配を見抜いたようだ。

 俺は足を進めた。
そして、軍幕の入り口を見て引き返したくなった。
高価そうな衣服の者達が屯していたのだ。
どう見てもお貴族様の供回りの者達に違いない。
中に居る主人に、遠慮するように言われたのだろう。
 一旦足を止めたが、気を取り直して再び進めた。
お昼のデザートだと思い直した。
連中は俺を見て、道を開けた。
どうやら俺を見知っている様子。

 入り口の近衛兵が俺に耳打ちした。
「モビエール毛利侯爵様がいらしてます」
 おお、評定衆の大物。
モビエールは毛利派閥を率いて、その権勢を誇っている人物だ。
長身痩躯で、鋭い眼光で相手を見据え、理屈攻めで説く、
始末に困る性格なのだが、それほど嫌われてはいない。
政敵である筈の三好侯爵とも酒を酌み交わす間柄。
俺とは、王妃様との関係で顔馴染み。
何度か話した事もある。
 いたいた。
待合のテーブルで珈琲を飲んでいる後ろ姿、彼だ。
執事らしいのが耳打ちした。
ゆるりと振り返った。
俺を見て、笑顔を浮かべ、そっと珈琲カップを置いた。
「待ち兼ねたぞ」
 圧迫すべく、わざとこの時間帯にしたのだろう。
喰えないな。
俺は表情を変えずに歩み寄った。
「お話はあちらのテーブルで」
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昨日今日明日あさって。(どうしてこうなった)17

2024-03-17 12:05:57 | Weblog
 近衛の制服の一団が案内されて来た。
隣の侍従が俺に教えてくれた。
「元帥と副官、そして護衛の者達ですね」
 真ん中の恰幅の良い男の肩章襟章がそれを物語っていた。
元帥の鋭い視線がこちらに向けられた。
何かを探る様子。
それは俺で止まった。
どうやら俺を見知っている様子。
俺は知らないけど。
副官が前に出た。
肩章は少佐。
「君が佐藤伯爵だね。
聞かせてくれるか。
表で縛られているのは、うちの長官なんだろう」
「ええ、そうですね」
「あの様な仕置きの理由は」
「謹慎の沙汰を聞き入れてもらえず・・・。
結果、あのような処理に相成りました。
まあ、ダイエットにはなる筈です」
 元帥も長官同様に恰幅が良い。
割腹ダイエットにでもするか。
が、そこまでは口にしない。

 少佐は納得できぬ色。
ところが後ろの元帥は違った。
噴き出してしまった。
人目がなけれは腹を抱えて笑ったかも知れない。
一頻り笑ってから俺に尋ねた。
「儂も謹慎かな」
「ええ、そうですね。
誰が敵で、誰が味方か分からぬ状況です。
そこでお偉い方には静養して頂こう、そう考えています。
これはお互いの為です」
「確かに、それが最も手っ取り早い。
近衛はそれで良いかも知れんな。
ところで、国軍や奉行所はどうする」

 秘密裏に事を運ぶには、まず、全容を知る関係者を絞る。
情報統制を徹底して優先する。
今回の作戦区域は王宮区画と限られていた。
狭い範囲なので、近衛高官と一部関係者の抱き込みだけで済む。
費用対効果からすると、最低の費用で最大の効果を得られる。
コスパが良い。
成功すればだが・・・。
「国軍と奉行所は外郭が担当なので、管領は声掛けしていない筈です」
 試し見るような目色の元帥。
「ほう、自信たっぷりだな、もし違っていたら」
 俺は無表情で言い切った。
「ごめんなさい、そう謝ります」

 元帥は鼻で笑った。
「ふっ、子供だからそれで許されるか」
 元帥は俺の隣の侍従を見た。
そして彼に言う。
「分かった。
だが、謹慎は断る。
儂は王妃様の呼び出しがあるまでは有給休暇だ。
後は任せて良いか」
 侍従が深く頷いた。
「万事お任せを」

 元帥が一団を連れて引き揚げて行く。
それを侍従が見送りに出た。
俺にとっては、やれやれだ。
別の侍従が俺に囁いた。
「元帥だけあって巧妙ですな」
「えっ、そうなんだ・・・」
「ええ、そうですよ。
管領との間に密約があったのか、なかったのか、
当の管領が姿を消したので確かめようが有りません。
おそらく永遠に分からないでしょう。
それを元帥は逆手に取って戦術的撤退をしたんでしょうな」
 なるほど、王妃様の呼び出しを持つ姿勢をアピール。
呼び出しを受けたら、忠臣の顔をして御前に跪く 。
「ああ・・・、なるほど」
「ご心配なく。
こちらはその逆手を利用させて貰います。
元帥代理も含め、要所をこちらで固めます」

 俺は、大人の汚い作法を一つ学んだ。
ダンタルニャン、一つお利口になっちゃった・・・なっ。
それはそれとして、この後、国軍や奉行所の長官や元帥も現れた。
まるで近衛の元帥が無事に帰ったのを見たかのように・・・。
意外とそうなのかも知れない。
それが高官諸氏の処世術なのだろう。
批判するつもりはない。
王宮権力の仕組みを理解していれば、それも仕方ない。
 俺は彼等の相手をした。
そこで感嘆させられた。
彼等は子供の言葉を真摯に受け取り、唯々諾々と従うのからだ。
委細の説明を求めるものの、反論や拒否はない。
おそらく近衛元帥の周辺からレクチャーを受けたのだろう。
この状況から無難に抜け出すつもりらしい。
まあ、それで良いか。
俺も早く普通の日常に戻りたい。

 イヴ様付きの侍女が顔を出した。
「そろそろお昼ですよ」
 そんな時間か。
難儀な諸氏がこちらのテーブルに回されて来るので、
すっかり脳味噌が疲弊してしまった。
俺は背伸びしながら返事した。
「はい、参ります」
 背後に控えていたうちの者達も同様らしい。
大きく欠伸する者もいた。

「あっ・・・」
 メイド、ジューンの声が上がった。
庭木から飛び立った大きな鳥を見掛けてのこと。
濡れたような黒い羽根。
育ちの良い魔鴉。
健康優良児なのかな。
 魔鴉は俺を一瞥して、大空に駆け上がった。
それから魔波が感じ取れた。
うちの妖精の一人だ。

 アリスとハッピーの執拗な要求に負け、条件付きで許可した。
妖精魔法の透明化でも魔導師には見破られる公算大。
そこで、スキル【変身】を条件とした。
形ある物ならば見過ごすとの思惑からだ。
もし疑われたら、高々度へ逃れるだけのこと。
人であれば追っては来れない。
たぶん、間違ってない、よね。

 黒猫が前を横切った。
俺を横目で見て、「にゃ~ん」と。
笑われてる気がした。
魔波はハッピー。
王宮には普通に、野良猫や鴉が営巣していた。
それに魔猫や魔鴉が紛れていても不思議ではない。
危険性が皆無なので誰も気にしない。
警備の近衛も気にしない。
 とっ、お尻から背中にかけて軽く温い感触。
それは、ポテポテポテ。
何かが俺の身体を駆け上がって来た。
それが俺の肩で止まった。
「にゃ~ん」
 白い子猫。
紛れもなくアリスだ。
『何してんだよ』
「にゃ~ん」
『ほんとに何してんだよ』
「にゃにゃ~ん」
 猫である事を強調していた。
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昨日今日明日あさって。(どうしてこうなった)16

2024-03-10 12:31:50 | Weblog
 俺の説明にアリスとハッピーが喰い付いた。
『面白そう』
『パー、イヴが可哀想だっぺ』
『私達が手を貸そうか』
『ピー、だっぺだっぺ』
『よし、手を貸す』
『プー、貸す貸す』

 煩い、煩い、煩いんだよ。
俺は妖精達を人間の争いに関わらせたくない。
人類特有の醜い、終わりのない争いに。
しかし、それも今更か。
 うちの妖精達は、関東代官の反乱で暴れ、南九州の反乱でも暴れ、
ついでにコラーソン王国にまで足を伸ばしてしまった。
そして王都とその周辺に甚大な被害を与えた。
たぶん、彼の地は魔物が跋扈する地になったのだろう。
 王国の被害者の皆様、誠に相すまん。
遥か遠くの地から、謹んで哀悼の意を表する。
届かないと思うけど、この気持ちを理解して欲しい。

 俺は白旗を揚げた。
『分かった分かった。
でも一つ約束して欲しい』
『やっと分かったのね、私達のこの力。
敵に、思う存分に味わせて遣ろうじゃないの』
『ペー、やっちゃうぺー。
ペッペッペーのペッペッペー』
 おい、聞けよ最後まで。

 その夜、アリスとハッピーは別にして騒ぎは起こらなかった。
俺はイヴ様とのモーニングを終えると安堵して本営に向かった。
外に、殺気も殺伐とした空気もなかった。
警備陣の動きにもそう。
立哨も巡回からも、何の違和感も感じ取れなかった。
 とっ、軍幕近くの庭木に不審な者がいた。
何者、・・・。
その者は立ったまま庭木に縛り付けられていた。
太いロープでぐるぐると。
首には【魔法封じの首輪】。
思い出した。
「あっ」
 執事、スチュアートが口にした。
「私もすっかり忘れていました。
これ、生きていますかね」
 急いで鑑定した。
瀕死と表示された。
それはそうだろう。
一晩放置されたのだ。

 軍幕から近衛が一人出て来た。
俺に気付いて慌てて敬礼した。
「おはようございます」
 俺を見てびくついていた。
俺は恐怖の対象か。
苦々しく思いながら、子供らしく答礼した。
「その手にあるのはポーションかい」
「はい、HP回復のポーションです」
「あれに」
「はい、あれにです」
 現職の近衛長官なんだが、あれ扱いされていた。
「まあ、死なない程度にね。
・・・。
そうそう、夕食や朝食は」
「摂っています」
「君じゃなく、あれ」
「あれですか。
しっかり夕食は与えています。
これは朝食です」
 夕食と朝食は高価なポーションだった。

 本営の軍幕に入って驚いた。
顔触れが・・・、だ。
俺は思わず尋ねた。
「皆、交替してないのか」
 ちらほら新顔もあるが、多くは昨日の顔触れだ。
一人が渋い顔で応じた。
「大丈夫です、慣れてます」
「食事や風呂は」
「非常時なので交替で取ってます」
「倒れない、平気なの」
「まだ二日目、始まったばかりです」
「終わったんじゃないの」
「後片付けから補修、事情聴取やらと色々、そして最後は報告書提出、
後始末が一番大変なんですよ、特に文官は。
・・・。
伯爵様、卒業したら上の学校へ進むんでしょう。
文官コースにしませんか」
「そのつもりはないよ。
知ってると思うけど、事業が拡大してるんだ。
そちらで王家に貢献するよ」
 聞いていた侍従や秘書の皆が揃って苦笑いした。

 俺は勧誘話を打ち切る為に、昨夜の報告書を手にした。
各官庁や各貴族からの問い合わせやが記されていた。
彼等の関心は概して最高権力の有り所だ。
実に分かり易い。
生き残りに必死と言うべきか、日和見と言うべきか、生き汚い。
それに対して本営に居残った者達が明確に答えていた。
 王妃様から権力を奪取しようとしたボルビン佐々木管領は、
イヴ様拉致を試み、その警護の者達と争いになった。
結果、管領とその一派は敗走し、現在行方不明。
だからして権力は移行しておらず、権力は王妃様にある。
従い、この本営が王妃様帰還までその権限を代行する。
本営にての責任者はダンタルニャン佐藤伯爵である。
異論があれば来られたし。
佐藤伯爵がお相手します。
そう説明し、それぞれに持ち帰らせたそうだ。

「ねえ、徹底してるよね」
 俺がそう言うと、軍幕内者達が小首を傾げた。
「「「何がですか」」」
「徹底して、僕を前面に押し出しているよね」
「「「まさか」」」
 答えた皆が視線を逸らした。
「そうとしか思えないんだけど」
 右隣の侍従が言う。
「ここでの爵位は伯爵様が最上位です」
「えっ」
「多くの者達は貴族の次男三男四男か、女性達です。
一部に平民も居りますがね。
そして、自分で言うのも何ですが、仕事は出来るのですが、
爵位が足りない者ばかりです。
ですから、佐藤伯爵様、諦めて下さい」

 あれこれ雑談していると本営が、
官庁の始業時間に合わせて再稼働した。
入り口の係官が訪問者を三つに分かれたテーブルに案内し始めた。
右のテーブルは官庁を担当。左のテーブルは死傷者を担当、
そして真ん中のテーブルは小難しい者を受け持った。
俺は真ん中のテーブル。
 左右のテーブルはそれなりに訪れる者がいた。
生憎、俺のテーブルは閑古鳥、ヒマ~、ヒマ~。
俺の顔色を見てか、右隣の侍従が言う。
「これからですよ。
長官や元帥は遅い出勤ですからね。
まず役所へ顔を出し、部下から報告を受けて、
それからこちらだと思います」
「それを聞いて嫌になった。
帰っても良いかな」
「諦めて下さい。
あっ、そうそう。
評定衆のお歴々も来られると思います。
昨日は一人も来られなかったので」
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昨日今日明日あさって。(どうしてこうなった)15

2024-03-03 13:28:29 | Weblog
 イヴ様から良い香りがした。
石鹸。
隣の軍幕にお風呂が設置されていた。
「ニャ~ン、どうしたの」
「いいえ、さあ、食事にしましょう」
「わたしが、あんないする」
 イヴ様が俺の手を引かれた。
テーブルに案内された。
侍女二人が椅子を引いて待っていた。
「お二人様、こちらへ」
 二人で並んで席に着くと、それが合図になった。
次々と料理が運ばれて来た。
育ち盛りの俺には大盛ばかり。
流石にイヴ様に大盛はない。
バランスを考えてか、小鉢が並べられた。
ところがイヴ様、嫌いな物を俺の方へ寄越す。
「ニャ~ン、いっぱいたべるのよ」
 断れない。

 頃合いを見ていたのか、エリス野田中尉が側に寄って来た。
彼女に耳打ちされた。
「別館の掃除完了しました」
 掃除には色んな意味合いがあった。
「増員できたんだね」
「はい、それも」
 俺はイヴ様の後ろに控えている侍女を見た。
察した彼女が頷いた。
あちらも完了か。
男達の多くが管領の威圧に屈したのに比べ、彼女達は忠実で、且つ、
仕事も出来る。
もっとも、管領の膝下に入った女達がいたのも事実だが、・・・。
まあ、人生色々・・・。
個人としての思惑もあれば、家としての意向もある。

 食事を終えると俺はイヴ様の手を引いた。
「さあ、参りましょう」
「どこへ」
「お部屋へ」
 別館へ案内した。
イヴ様と俺を侍女とメイドが囲む。
さらにその周りを、エリスと女性騎士の一団が固めた。
少し遅れて、うちのメンバーが付いて来た。
執事のスチュアート、メイド長のドリス、メイドのジューン。
護衛のユアン、ジュード、オーランドの三名。

 庭園の側に別館があるのだが、増員された近衛の男性騎士の隊が、
隊伍を組んで立哨と巡回を受け持っていた。
別館と男性騎士の安全性は、エリスが掃除完了として保障していた。
その言葉を鵜呑みにはしないが、頼りにはしよう。

 二階の部屋の一つがイヴ様の寝室になるのだが、念の為、
トラップとしての寝室も二つ用意された。
なので寝室は計三つ。
正解の寝室は・・・、イヴ様に自分の寝室を選んで貰う。
だから、事前に知る者はいない。

 イヴ様を侍女とメイドに任せ、俺は階下のホールに入った。
ここを警護指揮所とした。
早速、エリスに新たな提案をした。
「イヴ様の警護として、イライザとチョンボを国都へ呼び寄せた。
たぶん、今頃は屋敷に入って待機してると思う。
どう、ここへ来てもらうかい」
 美濃の代官、カールに宛てた手紙でそう要請した。
その手紙はエリスが軍事郵便扱いにしてくれたので、
翌日には配達済みのはず。
イライザはカールの妻だが、同時に領地持ちの男爵。
女男爵。
チョンボは彼女にテイムされた魔物、ダッチョウ。
一人と一頭はイヴ様のお気に入り。
それはカールも承知のこと。
返事は貰ってないが、既に国都に入っている頃合いだろう。
なにせチョンボが飛べるので、国都まではほんの一っ飛び。

 エリスが諸手を挙げて歓迎した。
「勿論、大歓迎ですよ」
 非常の際、イライザが大型のベビーキャリアを胸元に装着し、
それにイヴ様を入れ、チョンボに乗って大空に飛び立つ。
こんな安全策は二つとない。
「それじゃあ、それで決まりと。
うちからの案内はオーランドを出す。
明日の朝一、屋敷へ近衛を差し向けてくれ」

 俺はようやく一人になれた。
用意された部屋で横になった。
当然、イヴ様の向かいの部屋だ。
光魔法を小さく起動した。
まず、心身の疲労を取り除く、ライトリフレッシユ。
それから、入浴と洗濯の合わせ技、ライトクリーン。
香り付き。
 横になったままステータスを確認した。
本来のHPとEPに異状はない。
さっきまでの疲れは、ただの気疲れだったようだ。
ああ、責任を負うって、なんて難しい・・・。
こんなんなら、大人になりたくないな。

 脳内モニターを起動した。
ます、地図機能に識別を重ねた。
そして、探知魔法を起動した。
頭上高くへ魔力の塊を打ち上げた。
無音で破裂させた。
大輪の花火のように、八方へ薄く広げて行く。
これに気付く魔法使いはいない筈だ。

 おおっ、見つけた見つけた。
花の蜜に吸い寄せられるように、それらが飛んで来た。
アリスとそのエビス飛行隊、計十五機だ。
こちらの合図に気付いての進発らしい。

 飛行隊が国都の上空に達してホバリングを開始した。
うちの二機が下降した。
俺は窓を少し開けた。
アリスとハッピーが機体を収納し、窓から飛び込んで来た。
『おひさ~』
『パー、元気だったぺか』
 俺は二人を眺めた。
変わらぬ笑顔、旅を満喫したらしい。
『遅いじゃないか』
『わりい、わりい、里のお婆に長居されられちゃった』
『ピー、お婆、怖い怖い』

 そんなこんなで二人は旅の話に入った。
聞かされた俺は、目を点にした。
当初は反乱の地、島津伯爵領へ赴き、
魔物、キャメルソンを駆使する傭兵団と遊ぶのが目的だったはず。
当然、キャメルソンとの力比べが前提であったが。
なのにコラーソン王国まで足を運んだ・・・、とは。
俺はそこまで頼んだ覚えはないんだけど。
『誰か怪我した人は』
『エビスが頑丈だから怪我人はいなわよ』
『プー、そんな間抜けはいないっぺ』
 だよね。
俺はそれでも確認する必要があった。
『コラーソン王国軍は』
 反乱に乗じて薩摩か大隅に拠点を築く恐れがあった。
『たぶん、引き返したと思うわよ』
『ペー、王都と周辺がねえ』
 二人の話を吟味するに、話通りなら王国の母体そのものが潰れた・・・。
エビス十五機の全力なら、それも可能かも知れないが・・・。
いいのだろうか。
その王国の民は・・・。
魔物が跋扈する地になって、果たして人が生きて行けるものだろうか。
 俺は逃げた。
話題を変えた。
今、俺とイヴ様が置かれた状況を説明した。
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