執事長が書き上げた文書に高山伯爵が署名した。
それをダンカンが受け取り、中身を改め、俺に差し出した。
「問題はございません」
俺も一読した。
良し良し。
では賠償金を頂こう。
俺は兵士達に壁の絵画を外す様に指示した。
途端、伯爵が声を荒げた。
「何をする」
「ご心配なく、絵ではありませんから」
執事長も声を上げたそうな様子。
でも、途中で止めた。
伯爵の執務デスクの背後に風景画が飾られていた。
どこかは知らぬが、夕暮れ時に丘から湖を眺めていた。
湖面を進むボート、飛び立つ鳥の群れ、対岸に一頭のオーク。
意味も価値も分からない。
既に室内は鑑定済み。
そこでお宝を見つけた。
ふっふっふ。
お宝お宝なんです。
伯爵が、絵画を外そうとする兵士達の前に立ち塞がった。
邪魔臭い。
俺は兵士達に明確に命じた。
「殺すな、部屋の隅に転がして置け」
「「はい」」
兵士達は素早く伯爵を拘束した。
空樽でも有るかの様に部屋の片隅に転がした。
絵画が外された。
絵画跡の壁に、隠し金庫の扉があった。
サイズからすると小物入れ、現金か貴金属。
既に現金で一杯なのも確認済み。
床から伯爵が立ち上がった。
「開けるな」
執事長は目を閉じた。
諦めの心境に至ったらしい
お利口さん。
兵士達が伯爵を取り押さえた。
それを横目に俺は金庫の扉に手を当てた。
流石は伯爵家、通常の鍵だけではなかった。
術式も施され、煩わしい事この上なし。
並みの泥棒が手に負える代物ではない。
俺は、錬金魔法に契約魔法を重ね掛け。
干渉して鍵と術式を無効化した。
とっとと解錠。
「おう、鍵が開いてた」驚いて見せた。
ダンカンの目が疑惑一色。
それでも迂闊な事は口にしない。
じっと俺を見た。
「それで、・・・どうします」
「現金が有る様だから、賠償金として頂こう」
「もしかして全額ですか」
「おお、良いこと言った。
そうだね、全額だね。
残したら伯爵に失礼だよね。
・・・。
それから、賠償金の領収書は明石少佐に渡してくれ。
今回の件の書類に添付する必要があると思う」
何故か、カトリーヌ明石少佐の溜息が聞こえた。
呆れている様な、・・・。
ダンカンが兵士に手伝わせ、執務デスクに積み上げて行く。
最初は小金貨の山。
次に中金貨の山。
そして大金貨の山。
更には見た事のない金貨の山。
おそらくは古銭。
「これで全部です」
「へえ、金塊がないんだね、それは残念。
賠償金は大中小の金貨だけにしようか。
古銭は換金が面倒だから残して」
ダンカンと兵士が金貨を数え始めた。
カトリーヌが俺の隣に来て、小さな声で囁いた。
「古銭を除外したのは良い判断よ」
「そうですか、それは良かった」
「もし貴方が金庫の中を総浚いしたら、伯爵に同情したわね。
私も、他の方々も、・・・分かるでしょう」
「程々にして置けって事ですね」
「その通り、塩梅が大切なのよ」
「良かった、皆さんを敵に回さずに済みました」
カトリーヌが続けて言う。
「問題は義勇兵旅団の行方よね。
何か手掛かりがあったのかしら」
俺としては通告がなかった件だから、どうでも良いこと。
このまま行方不明でも構わない。
所詮は他家の問題。
責められる謂れはない。
だけど世間的なものが、・・・あるよな。
「彼等は、理由は知りませんが、尾張から入り、三河大湿原沿いを進み、
途中から木曽大樹海を抜ける街道に入る予定だったそうです。
ところがその街道に彼等が通行した形跡がない。
遺体は勿論、武具や小荷駄と思わしき物が一つも見つからない。
・・・。
大樹海でも、少人数のキャラバンや冒険者パーティなら、
警戒さえすれば無事に通過できるのです。
大軍であれば魔物の関心を惹きますが、
少人数であれば然程でもありません。
時間との勝負、襲撃される前に通り抜ければ良いのです。
まあ、時たま、魔物の小さな群れとの遭遇はあるでしょうが、
粗方は撃退できます」
カトリーヌは暫くして口を開いた。
「旅団単位の消失ですものね。
この件にうちの参謀本部も関心を寄せているわ。
・・・。
ところで佐藤伯爵、貴方は大湿原にも大樹海にも詳しいのよね。
そんな貴方の見立ては」
ああ、彼女もそこに気付いた様子。
でも、もう少し情報が欲しい。
「義勇兵旅団の質は、・・・将校の練度という意味になりますが」
「将校といっても、一口で言うなら素人。
国軍、近衛軍の将校経験者はいない、そういう意味よ」
「だとしても領軍の将校くらいはいますよね」
「それは少ないわ。
領地の留守を任せる者に事欠くもの。
だから多くは貴族の子弟、・・・分かるでしょう」
経験に乏しい。
そんな連中が難解な土地に挑んだ。
旅団編成で大湿原から大樹海へ至るという。
素人に率いられた大冒険だ。
兵卒の未来は絶望しかない。
「三河大湿原に迷い込んだ、或いは、追い込まれた、そう想定して、
幾つかの捜索隊を派遣しました。
たぶん、何かが見つかります」
「うちの参謀本部も同様の見立てよ。
うちは人手が足りないから派遣はしない。
佐藤伯爵様だけが頼りよ」
ダンカンがカトリーヌの傍に寄った。
一枚の紙を差し出した。
それを見てカトリーヌが口笛を吹いた。
カトリーヌの背後から副官の一人が覗き込む。
これまた表情を変えた。
カトリーヌが副官を無視して俺に言う。
「賠償金の領収書、確かにお預かりしました」
それをダンカンが受け取り、中身を改め、俺に差し出した。
「問題はございません」
俺も一読した。
良し良し。
では賠償金を頂こう。
俺は兵士達に壁の絵画を外す様に指示した。
途端、伯爵が声を荒げた。
「何をする」
「ご心配なく、絵ではありませんから」
執事長も声を上げたそうな様子。
でも、途中で止めた。
伯爵の執務デスクの背後に風景画が飾られていた。
どこかは知らぬが、夕暮れ時に丘から湖を眺めていた。
湖面を進むボート、飛び立つ鳥の群れ、対岸に一頭のオーク。
意味も価値も分からない。
既に室内は鑑定済み。
そこでお宝を見つけた。
ふっふっふ。
お宝お宝なんです。
伯爵が、絵画を外そうとする兵士達の前に立ち塞がった。
邪魔臭い。
俺は兵士達に明確に命じた。
「殺すな、部屋の隅に転がして置け」
「「はい」」
兵士達は素早く伯爵を拘束した。
空樽でも有るかの様に部屋の片隅に転がした。
絵画が外された。
絵画跡の壁に、隠し金庫の扉があった。
サイズからすると小物入れ、現金か貴金属。
既に現金で一杯なのも確認済み。
床から伯爵が立ち上がった。
「開けるな」
執事長は目を閉じた。
諦めの心境に至ったらしい
お利口さん。
兵士達が伯爵を取り押さえた。
それを横目に俺は金庫の扉に手を当てた。
流石は伯爵家、通常の鍵だけではなかった。
術式も施され、煩わしい事この上なし。
並みの泥棒が手に負える代物ではない。
俺は、錬金魔法に契約魔法を重ね掛け。
干渉して鍵と術式を無効化した。
とっとと解錠。
「おう、鍵が開いてた」驚いて見せた。
ダンカンの目が疑惑一色。
それでも迂闊な事は口にしない。
じっと俺を見た。
「それで、・・・どうします」
「現金が有る様だから、賠償金として頂こう」
「もしかして全額ですか」
「おお、良いこと言った。
そうだね、全額だね。
残したら伯爵に失礼だよね。
・・・。
それから、賠償金の領収書は明石少佐に渡してくれ。
今回の件の書類に添付する必要があると思う」
何故か、カトリーヌ明石少佐の溜息が聞こえた。
呆れている様な、・・・。
ダンカンが兵士に手伝わせ、執務デスクに積み上げて行く。
最初は小金貨の山。
次に中金貨の山。
そして大金貨の山。
更には見た事のない金貨の山。
おそらくは古銭。
「これで全部です」
「へえ、金塊がないんだね、それは残念。
賠償金は大中小の金貨だけにしようか。
古銭は換金が面倒だから残して」
ダンカンと兵士が金貨を数え始めた。
カトリーヌが俺の隣に来て、小さな声で囁いた。
「古銭を除外したのは良い判断よ」
「そうですか、それは良かった」
「もし貴方が金庫の中を総浚いしたら、伯爵に同情したわね。
私も、他の方々も、・・・分かるでしょう」
「程々にして置けって事ですね」
「その通り、塩梅が大切なのよ」
「良かった、皆さんを敵に回さずに済みました」
カトリーヌが続けて言う。
「問題は義勇兵旅団の行方よね。
何か手掛かりがあったのかしら」
俺としては通告がなかった件だから、どうでも良いこと。
このまま行方不明でも構わない。
所詮は他家の問題。
責められる謂れはない。
だけど世間的なものが、・・・あるよな。
「彼等は、理由は知りませんが、尾張から入り、三河大湿原沿いを進み、
途中から木曽大樹海を抜ける街道に入る予定だったそうです。
ところがその街道に彼等が通行した形跡がない。
遺体は勿論、武具や小荷駄と思わしき物が一つも見つからない。
・・・。
大樹海でも、少人数のキャラバンや冒険者パーティなら、
警戒さえすれば無事に通過できるのです。
大軍であれば魔物の関心を惹きますが、
少人数であれば然程でもありません。
時間との勝負、襲撃される前に通り抜ければ良いのです。
まあ、時たま、魔物の小さな群れとの遭遇はあるでしょうが、
粗方は撃退できます」
カトリーヌは暫くして口を開いた。
「旅団単位の消失ですものね。
この件にうちの参謀本部も関心を寄せているわ。
・・・。
ところで佐藤伯爵、貴方は大湿原にも大樹海にも詳しいのよね。
そんな貴方の見立ては」
ああ、彼女もそこに気付いた様子。
でも、もう少し情報が欲しい。
「義勇兵旅団の質は、・・・将校の練度という意味になりますが」
「将校といっても、一口で言うなら素人。
国軍、近衛軍の将校経験者はいない、そういう意味よ」
「だとしても領軍の将校くらいはいますよね」
「それは少ないわ。
領地の留守を任せる者に事欠くもの。
だから多くは貴族の子弟、・・・分かるでしょう」
経験に乏しい。
そんな連中が難解な土地に挑んだ。
旅団編成で大湿原から大樹海へ至るという。
素人に率いられた大冒険だ。
兵卒の未来は絶望しかない。
「三河大湿原に迷い込んだ、或いは、追い込まれた、そう想定して、
幾つかの捜索隊を派遣しました。
たぶん、何かが見つかります」
「うちの参謀本部も同様の見立てよ。
うちは人手が足りないから派遣はしない。
佐藤伯爵様だけが頼りよ」
ダンカンがカトリーヌの傍に寄った。
一枚の紙を差し出した。
それを見てカトリーヌが口笛を吹いた。
カトリーヌの背後から副官の一人が覗き込む。
これまた表情を変えた。
カトリーヌが副官を無視して俺に言う。
「賠償金の領収書、確かにお預かりしました」