金色銀色茜色

生煮えの文章でゴメンナサイ。

(注)文字サイズ変更が左下にあります。

昨日今日明日あさって。(営巣地)184

2020-09-27 07:51:38 | Weblog
 光学迷彩のお陰で無駄な争いをせずに湖の南端に辿り着いた。
ひときわ大きな木を見つけた。
太くて高い。
離れているのに木の頂きが見えない。
まるで、この辺りの木々の親玉のよう。
駆け寄った。
 一言で表せば、ぶっとい樹。
楕円形なので直径は確とはしない。
たぶん、歴史を見守って来た古代樹・・・。
横に張り出した側には雨宿りできそうな洞がある。
 鱗の様な樹皮。
手を当てた。
荒い手触りなのに剥がれそうにはない。
じっとしていると、掌に生命の息吹が伝わって来た。
 俺は風魔法を身に纏い、幹伝いに上に跳んだ。
頂きの途中に手頃な枝を見つけた。
そこに腰を下ろした。

 湖越しに高山の方向を見た。
まだクイーンが裾の上空で警戒していた。
彼女だけではない。
配下のワイバーンも2翼。
クイーンに付き従って旋回していた。
 俺はズームアップで営巣地を見た。
裾野は一面が岩場になっていて、
あちこちにワイバーンの姿が見え隠れした。
成体も幼体もいて、無防備に遊んでいた。
 俺は岩場が気になった。
この岩場は・・・。
背後の高山を見た。
まだらに緑があるものの、山肌は土色。
吹き出物の様な塊を無数、確認した。
これは・・・火砕流の痕跡。
 うっすらとした雲の上に山頂がある。
尖った山頂でも、こんもりした山頂でもない。
破壊されたような・・・、これは噴火の痕跡に違いない。
大噴火で吹き飛ばされたのだ。
今は噴煙がないから安心だが、先は分からない。

 焦れたのか、アリスが荒い言葉を投げて来た。
『怖いの、尻込みしてるの、馬鹿じゃない。
観光に来たわけじゃないわよ、皆殺しよ、皆殺し』
 ハッピーが尻馬に乗った。
『パー、皆殺し、皆殺しパー』
 俺は困った。
怖いのでも、尻込みでもない。
ワイバーンの前にもう一つ、問題がある。
探知に引っかかる物があるのだ。
動きからして飛行体。
それが此方に急速に向かって来ていた。
 俺はその方向に向きを変えた。
アリスもようやく気付いた。
そちらに目を遣った。
『これは・・・、』
 向かって来る飛行体の魔波はアリスに似ていた。
小さいが強力な波動。
それが群れなして急速接近して来た。
「妖精の群れです。
一体はアリスより上位の存在です」脳内モニターに文字が走った。

 光に近い全力の風魔法で飛んで来る。  
敵意が感じ取れないので、ジッと待ち受けた。
追い付いた群れは瞬時に俺達を包囲した。
明らかにアリスと同種の妖精、数は12体。
 上位の存在と思える個体が俺達の前に進み出た。
アリスは三対六枚羽根だが、
それは花弁のように羽根を全面展開していた。
まるで女神か、天使、見たことないけど。
ても、アリス並みにちっちゃい、可愛い。
 それが俺に視線を向けて来た。
見えているのか。
無敵の光学迷彩の筈なんだけど。
俺はアリスを振り向いた。
『見えているみたいだけど・・・、見えるのかな』
『見えてるわよ。
うちの里の長老は、ダンマスと同格なのよ』
 ペリローズの森の長老。

 長老に念話で尋ねられた。
『人間の子よ、尋ねる。
ダンマスの気配があるが、同種とは考えられん。
その訳を聞かせてくれんか』
 声は若いが、侵し難い威厳が感じ取れた。
俺は正直に答えた。
『俺自身、訳が分かりません。
気がついたらダンマスを討伐していました。
で、ダンマスの力を得ました。
それに・・・、今は魔女魔法の遣い手でもあります』
 長老の小さな顔が強張った。
『むっ、魔女魔法。
得体が知れぬ奴だな。
・・・。
それは、今はいい。
ここで何をするつもりだ』
 長老は俺だけでなく、アリス、ハッピーと、
値踏みする様に視線を巡らした。
俺は隠すものはない。
『二人は眷属です。
三人でワイバーンの営巣地を壊滅する為、ここに来ました』
 長老はアリスを睨み付けた。
『まったくお前は育っておらぬな』と言い、俺に視線を転じた。
『里の者が世話になっているようだな』
 俺は恐縮した。
『いいえ、いいえ。
眷属にしましたが、構わなかったのでしょうか』
『構わん、構わん。
眷属は一時の事。
先にお主の命が尽きるから何の問題もない』明け透けに言われた。

 周りの妖精達が姦しい。
仲間同士で何のかのと論議していた。
それを尻目に長老が言う。
『お主ほどの力があれば営巣地の壊滅は可能かも知れん。
しかし止めてくれぬか』
 途端、アリスが反論した。
『なに言ってるの、今日、ここで壊滅させるわよ』
 長老が怒気を露わにした。
『馬鹿もん。
何も知らんくせに。
知らんもんは黙っとれ』
 アリスが反論した。
『何を知らないと言うの』
 長老はアリスを無視し、俺に言う。
『森には森の生態系がある。
互いが互いを必要悪と認識して、その生存を許している。
ワイバーンもその一つ。
増えては困るが、絶滅させれば、もっと困る。
・・・。
大が中を餌にし、中が小を餌にする。
小はもっと小さなものを餌にする。
そして最も小さきものである我らが大きなものを餌にする。
この理屈、分かるか』
『なんとなく・・・。
目に見えぬ小さきものは疫病のようなものですか』
『ふっふ・・・。
我らは疫病ではないが、似たようなもの。
成体のワイバーンは喰わぬが、卵や幼体に悪戯して、
全体数を減らしておる。
適正数にしておると言っても過言ではない』
『もしかして、最上位にあたるワイバーンを壊滅させると、
森の生態系が崩れるのですか』
『話が早い。
そうなんじゃよ。
ワイバーンは増えても問題は少ない。
飛んで餌場を探せるからな。
困るのは飛べない中くらいの魔物が増える事なんじゃよ。
餌を巡って至る所で争うことになるからな。
我等としては数が多過ぎて、手に余る。
結果として森が荒れ、終いには枯れる。
だから控えてくれぬか』
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昨日今日明日あさって。(襲来)183

2020-09-20 08:02:47 | Weblog
 俺は探知で二人の居場所を探した。
大胆にも王宮区画が見下ろせる高々度にいた。
まあ、暇人でもなければ、そこまで調べる魔法使いはいないだろう。
 俺は公園の中の死角に移動した。
鬱蒼とした木立が遮蔽物になっていた。
さっそく悪党ファッションに着替えた。
続いて光体を身に纏い、光学迷彩。
そして風魔法で高々度へ。
 この高さなら魔波の痕跡は辿れない。
本気が出せる。
重力魔法で二人の傍に飛んだ。
エビスゼロとエビス一号が仲良く並んでいた。
『お待たせ』
『急ぐわよ』
『せっかくだから、下の様子を見るよ』

 被害が甚大なのは王宮区画であった。
ほとんどの建物の上層階が壊れていた。
大きな原因は二つ。
雷魔法による落雷、あるいは墜落したワイバーンの圧し潰し。
 外郭区画も被害を受けていた。
その多くはワイバーンのウィンドスビアによるもの。
穴が開けられた建物がそれだ。
それでも被害総額にすれば王宮区画の一割にも達しないだろう。
 酷い状況なのは外堀も負けてはいない。
溺死している魔物が全面に浮かんでいる。
このままでは疫病の発生源になる。
早急に取り除く必要があるだろう。

 人命が多く失われたのは王都の外。
軍駐屯地、各種ギルドや商人の施設。
魔物の混成群により西北東にあるのは全て壊滅していた。
辛うじて原型を留めているのは南側の施設のみ。

 被災地では魔法が飛び交っていた。
大勢の魔法使いが駆り出され、瓦礫の撤去、ワイバーンの移動、
建物の修復に努めていた。
風魔法で撤去や移動。
土魔法で修復。
 それでも人手は足りない。
それを補っているのが魔道具。
あちこちの現場で風魔法や土魔法に特化した魔道具がフル稼働し、
国都復旧の一端を担っていた。

 王宮区画の四つの門は閉じられているのに外郭の門は全て開放され、
何事もなかったかのように大勢の旅人やキャラバンが出入りしていた。
昨夜は緊急事態であったが、夜が明けたら一転して平常運転。
あれほどの被害を受けたと言うのに、実に逞しい。
これは政務を司る者の意地なのかも知れない。

 焦れた様にアリスが言う。
『そろそろ行くわよ』
『分かった』
『プー、転移、転移プー』
 エビス一号が真っ直ぐ北へ転移。
ズームアップで追跡。
随分と遠いが、何も遮る物がないので視界は良好。
『卑怯者』アリスが慌てて転移した。
 エビスゼロとエビス一号が先を競って転移する。
それを追う俺。
気付くと山城を過ぎ、丹波か丹後か、あるいは若狭か、
知らぬ景色の上空にいた。
 稲穂の海を見下ろした。
風に揺れる黄金色の波。
見下ろしていると今にも波音が聞こえそう。
『何してんの、急ぐわよ』アリスに注意された。

 予想通り北の国境を越え、
北域諸国との境となる山岳地帯上空に達した。
ここは奥行きの深い山岳が連なっている上に、
多種多様の魔物が棲みついているので、
どこの国も領有権を主張しないし、できない。
 過去に主張した国があった。
すると他の国々に街道を造れ、宿場を置け等々と要求された。
領有権を主張した手前、できませんとは言えない。
着手した。
結果、激甚な被害を受けた。
山に入った大勢の工夫や護衛の軍が魔物の餌になってしまった。
加え、勢い余って山岳から押し出して来た魔物の群れに、
最寄りの街も潰された。
それ以来、領有権を主張する国はない。
お陰で足利国は対外的には安泰でいられた。
 
 下に大きな河が見えた。
水量が多く、ゆったり流れている。
西へ流れているところから、たぶん、
九州方向へ流れて行くのだろうと見当をつけた。
アリスが言う。
『この河に沿って上るわよ』
『河の名前は』
『大きな河よ』
『ペー、大きな河、大きな河ペー』  

 ここへ来るまで空で遭遇したのは、ただの鳥ばかり。
ところが、この辺りから少し違ってきた。
如何にも空飛ぶ魔物と言える奴らが増えて来た。
鳥系の魔物、昆虫系の魔物、判断に苦しむ魔物。
何れも羽か翼の持ち主。
 奴らは俺達を見つけると襲って来た。
見つかるのは転移したエビスゼロとエビス一号だ。
幸いは俺は光学迷彩なので、気付かれもしない。
でもエビス系は転移し終える度に姿が露わになるので、見つかる。
 生憎、俺達は暇ではないし、無用な争いは好まない。
逃げる様に転移、否、先を急いで転移した。

 大きな河の先に一際高い山が見えてきた。
その中腹には雲が漂っている。
『あの山の裾に湖があるの。
その湖の周辺が営巣地よ』
 急に暴力的な魔力を感じた。
まだ湖は見えないが、
その辺りと思える樹海から魔力の塊が飛び上がって来た。
ズームアップ。
大型のワイバーン。
姿形がキングに似ていた。
 俺達は次の転移を思い止まった。
ハッピーが悲鳴を上げた。
『パー、ピー、クイーン、クイーンプー』
『魔波からするとワイバーンクイーン』アリス。
『このまま転移するとクイーンと衝突しそうだ。
取り敢えず下に降りて姿を隠そう』
 ワイバーンクイーンは探知で俺達の接近に気付いた訳ではなさそう。
小さく旋回しながら周辺を警戒する。
おそらく勘働きだろう。

 伐採されていない樹海だが、魔物の往来があるので、
所謂、獣道と言うものが無数、無軌道に走っていた。
その一つに降り立った。
『エビスだと見つかる、光体で向かおう』
 二人は渋々、エビスを収納し、俺の光体に入って来た。
『一人だと寂しいの、しようがないわね』
『ペー、寂しい、寂しい』
 二人とも俺の肩に腰を下ろした。
アリスが右肩に乗ったので、ハッピーは左肩。
全く遠慮と言うものを知らない。
 俺達はワイバーンクイーンの勘を警戒し、獣道を走った。
これなら気付いても、四つ足の魔物と勘違いするだろう。
途中でその四つ足の魔物に遭遇するが、
こちらは光学迷彩を施しているので、全く気付かれない。
ジャンプしてクリア。
『プー、ジャンプ、ジャンプップー』
 血を流すことなく、湖へ向かう。
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昨日今日明日あさって。(襲来)182

2020-09-13 08:19:05 | Weblog
 解体は前段階で躓いた。
血抜きしようにも、大き過ぎるので逆さに吊り下げが出来ないのだ。
風魔法を会得している魔法使いがいれば対処できるのだが、
当家に魔法使いはいない。
俺が出しゃばるのも、アレだし。
そこで思い付いた。
土魔法のシビル。
パーティ仲間の彼女にお願いした。
 ワイバーンの頭部が下になるように、
土魔法で滑り台クラスの傾斜地を造ってもらった。
流石は魔法学園出身にして国軍士官。
注文通りに仕上げてくれた。
シビルが得意満面に俺を見た。
「これで良いのよね」
 俺は素直に評価した。
「吊り下げが出来ない現状だと、これで満点でしょう」
 隣のシンシアが俺に問う。
「ねえダン、私に出番はないのかしら」
 彼女は水魔法。
「あるよ。
この大きさだから、大量の水が必要だよ」
 ワイバーン自体を洗う。
流れる血を下水に流す。
等々。
「そうよね、私の出番もあるのよね」
 聞いていたルースが不満気に言う。
「私は・・・」
 火魔法に出番はない。
「たぶん、焼肉にする時かな」
 
 血を全て抜くまで時間がかかる。
大きいので抜け切るまでの時間も読めない。
暇を持て余したのか、キャロルが傍に来た。
篝火を背に、俺の顔を覗き込む。
「屋根から見た事を話してよ」
 俺は注文に応じた。
俺が為した事はさて置き、探知と鑑定で知った事もさてさて置き、
目にした一切を語った。
部屋で固まっていた者達は情報に飢えていた。
何時の間にか手の空いた者達に取り囲まれていた。
パーティ仲間だけでなく、兵士もいれば、メイドもいる。
悪い気はしない。
 話し終えるとパーティ仲間のマーリンが言う。
「ワイバーンキングは広域攻撃魔法を砕いて逃げたのかしら」
「心配ですわね。
大魔導師様はご無事なんですか」メイドの一人。
 広域攻撃魔法が途中で解けたのに疑問を抱いたらしい。
俺は鑑定でその大魔導師が亡くなったのを知っているが、
面倒になるので、それは伝えていない。
気休めを口にした。
「大魔導師ともなると並行してシールドも張れる筈だし、たぶん、
大丈夫じゃないかな」

 血抜きを終えた頃には朝日が顔を覗かせていた。
徹夜明けの割に皆、顔色がすこぶる良い。
ワイバーンを撃退した形になったのが原因だろう。
一休みもせずに、元気に解体に取り掛かった。
堅い外皮に切り口を入れ、削いで行く。
「丁寧にやれよ。
皮や爪は売りもんだ」
「肉は」
「焼肉だ」
「口より手を動かせ。
ただし怪我するな」小隊長のウィリアム。
 料理長のハミルドンが俺の傍に来た。
「ダンタルニャン様、お食事をお持ちしました」
 厨房のスタッフが全員、数台のワゴン車を押して現れた。
軽くつまめるサンドイッチやドリンクを載せていた。
「おう、気が利くね、ありがとう、ハミルトン。
働いている皆に最初に配って。
手が離せない者には、口に入れてやって」
「承知しました」

 パーティ仲間全員に包んだ肉を手渡した。
「今日の予定が流れたので、これは皆にお土産です。
家に戻ってから食べ下さい」
 皆の顔が綻ぶ。
「これがワイバーンの肉か、嬉しいわ」キャロルが言う。
「商家だから珍しくもないだろう。
何度か食べてるだろう」
「触ったのでさえ初めてよ。
売り物だから指一本、触れさせてくれないの」
 モニカがキャロルに同意した。
「そうよ。
高価な物の売り先は決まっているので、見せても貰えないわ。
家で食べる物は売れ残りか、安く仕入れた物よ。
ワイバーンなんて、とてもとても」
「そうか、それが商人の道か」
「綺麗に纏めないでよ」マーリンが抗議。
 大人達を代表してシンシアが言う。
「状況が状況だから、今日のパーティ活動は無論、
ここ暫くは見合わせね」
 ルースが言葉を重ねた。
「山や周囲の魔物の活動を観察する必要があるわね」
 シェリルが貴族の娘らしい発言。
「王宮区画や王家の皆様のご様子が気懸かりね」
 守り役のボニーが言う。
「本当に・・・。
それはそれとして、皆に心配されてると思うから、
急いで屋敷に戻りましょう」

 俺は屋敷の主要なスタッフを集めた。
大人の経験を頼る事にした。
「僕は各区画の友達の様子を見てから寮に戻る。
後は皆に任せたよ」
 執事のダンカンに尋ねられた。
「領地やご実家は如何しますか。
この一件は噂で直ぐに届くと思われます」
「だよね、心配されるよね。
まず早馬で一報を届けて。
ある程度の事が分かったら、それもね」
 料理長のハミルトンに尋ねられた。
「肉料理にしても限度があります。
余った肉は干し肉にしても構いませんか」
 ワイバーンから大量の肉が取れた。
「干し肉にして領地に送ろうか」
「分かりました、そう手配します」
 今度はウィリアムだ。
「売り物になる部位はどうしますか」
 皮、爪、目玉、歯、内臓等々。
「それはダンカンと話し合ってね。
大人に任せるよ。
そうそう、細川子爵邸の様子も気になる。
被害を受けていたら、瓦礫撤去を手伝ってね」

 俺は屋敷を出た。
各区画の友達の様子を見るとは言ったが、そんな友達はいない。
今以上に友達を作る余裕はない。
俺が目論んだのはフリータイム。
屋敷から離れた平民が住む街の公園のベンチに腰を下ろした。
ステータスを再検討しようとした。
そこに念話が入って来た。
『ダン、生き残ってるー』アリスらしい最初の一言。
『なんとかね。
そっちはどうだい、ワイバーンの営巣地を見つけたかい』
『見つけた』
『ピー、見つけたピー』ハッピーが割り込んで来た。
『数は』
『幼体をいれて100翼近いわね。
クイーンもいたわ』
『プー、ワイバーンクイーン、ワイバーンクイーン』
 ワイバーンキングにワイバーンクイーンか。
相手にとって不足なし。
でもなあ・・・。
キングとクイーンを同時に相手するのは・・・、考えもんだ。
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昨日今日明日あさって。(襲来)181

2020-09-06 07:19:15 | Weblog
 鉄矢が額に突き刺さったと言うのに、即死には至らなかった。
ワイバーンは落下する途中、翼を広げ、飛行体勢に戻ろうと足掻いた。
足掻きに足掻いた。
無駄だった。
そのまま真下の建物の屋根に頭から突っ込んだ。
鈍い衝突音。
貴族邸の最上階の一角を壊し、身動きしなくなった。
 探知と鑑定で調べた。
生体反応が消えていた。
これでEP数値の正解が見えた。
ちょっと足りなかった。
一射にEP15を充てよう。
MP換算すると、たぶん、30から40だろう。
 
 あっ、あれは・・・。
ワイバーンが一角を壊した建物から、わらわらと人々が飛び出して来た。
顔見知りのお貴族様当人もいた。
顔色が悪い。
ワイバーンに襲われたとでも勘違いしているのだろう。
 でも、まあ、いいか。
俺がそのワイバーンを討伐したんだけど、
誰も見てないから内緒にしとこう。
所有権も主張しない。
お貴族様に譲りましょう。
例え本館そのものが壊れたとしても、
ワイバーンから魔卵を取り出し、それを売れば釣り合うはず。
さらに解体すれば部位も高価で売れる。
最終的には大幅な黒字。
問題解決だね、たぶん・・・。
さぁ、次のワイバーンは何処・・・。

 2翼目が仲間が討伐された事に気付いた。
怒ったかのような仕草をし、右から接近して来た。
俺を獲物として視認する目付き。
かえって好都合。
射程300に入った奴の額を射た。
 これまた躱せる訳がない。
命中、矢羽まで完全に、めり込んだ。
スイッチが切れたかのように、力を失うワイバーン。
悪足掻き一つもせずに貴族街の路上に落下した。

 3翼目は左から襲って来た。
これを、飛んで火にいるワイバーンとでも言うのだろうか。
射程300、まだまだ、200、まだまだ、100を切った。
顔が大きい、大きい、怖い、怖い。
速度を落とさない所を見ると、俺を屋根から弾き飛ばすつもりのようだ。
ワイバーン君、さて、思い通りに行くかな。
 最接近、50。
射た。
命中、額から貫通し、後頭部から鉄矢が飛び出した。
へえー、やったね、俺。
 感心している場合ではない。
風魔法、風魔法。
風魔法で奴を捉え、屋敷に被害が出ない様に落下させないと。
 捉えた。
制御して馬場の、ど真ん中に下ろした。
商品が痛まぬように、そっと下ろした。
すると下から歓声とも悲鳴ともつかぬ声が上がった。
敷地内でワイバーンに備えていた兵士達だろう。

 南区画に向かって来たのは4翼だから残りは1翼。
はて、いないな。
探知と鑑定で探した。
あっ、いたいた。
少し離れた場所で騎兵隊と戦っていた。
ワイバーンは旗色が悪い。
直に討伐されるだろう。
 国都全体を調べてみた。
予想通り、ワイバーンは数を減らしていた。
どうやら、こちらに向かって来る個体はなさそうだ。
 外の魔物達はどうなんだろう。
驚いた事に一匹もいない。
遺骸が残して、全て姿を消していた。
ワイバーンの威圧が消えたので、通常モードに戻り、
それぞれの営巣地に引き返したのだろう。

「新たなスキルを獲得しました。雷魔法☆」脳内モニターに文字。
 やったね俺。
「新たなスキルを獲得しました。
雷魔法の広域攻撃魔法、サンダープリズン」

 風魔法で屋根から飛び下り、部屋に戻った。
バーティ仲間達は部屋の片隅に集まり、お茶していた。
緊張感が欠片もない。
真っ先に俺に気付いたシンシアが口を開いた。
「外の様子はどうなってるの」
「話は後で。
それよりも外に出よう」
「どうしたの」
「ワイバーンの1翼が家の馬場に落ちた」
「落ちた・・・」
「誰かが討伐したみたい」
「誰かが・・・」
 皆の目が俺に問うていた。
アンタ、なにしたのって。
えっ、内緒、説明するのが面倒臭い。

 俺は仲間達に加え、一階にいた執事のダンカン達を引き連れ、
馬場に急いだ。
外はまだ暗いが、要所には篝火が焚かれているので、転ぶことはない。
 途中、上空を警戒している兵士達が俺達に気付いて、
直立不動の敬礼をした。
面映ゆい。
まだ子爵様に慣れない自分。
それでも歩きながら答礼した。
「ごくろうさん」
 こちらに駆けて来る足音。
急いているようだ。
暗がりから兵士が飛び出して来た。
俺に気付いて急ブレーキ。
「報告します。
馬場にワイバーンが落ちました。
調べたところ、誰かに討伐されたようで、死んでいました」
 誰かって、俺なんだけど、それは言わない。
すると、背中を仲間の誰かが突っつく。
アンタじゃないのと言わんばかりの強さ。
振り返らない、振り返らない。
俺が相手するのは目の前の兵士だけ。
「分かった、案内して」

 馬場ではワイバーンを取り囲むように、盛大に篝火が焚かれていた。
主役はワイバーン。
それを見て仲間のキャロル達、女児が悲鳴を上げた。
「イヤー」
「キャー」
「コワイ」騒ぎながら手前で足を止めた。
 少しだけ年上のシェリルは違った。
「すっ、凄いわね。
本当に死んでるの」守り役・ボニーの手を引きながら歩み寄る。
 大人のシンシア達は元国軍士官だけあり、平然と歩み寄り、
手を伸ばして外皮の手触りを確かめた。
「死んでも、染み込んだ魔力は抜けないのね」
「良い防具になるわね」
「私ならフード付きの長いローブと、手袋、ブーツかな」
 空を飛ぶワイバーンには恐怖するが、こうなると、ただの原材料。
どうやって解体するかな。
ワイバーンは初めてなので分からないんだけど。
そんな俺の前に小隊長のウィリアムが来た。
村時代からの仲なので気安い。
「このワイバーン、如何いたしますか」
「如何とは」
「討伐者が所有権を主張なされると、少々、面倒なことに」
「討伐者が主張するにして、その根拠となるものが有るのかい。
見たところ、槍も矢も刺さってないようだけど」
「そうなんですよ。
それで扱いに困っています」
「腐る前に解体するしかないだろう」
「それもそうですよね。
それでは解体します」
「聞くけど、ワイバーン解体の経験は」
 ウィリアムが笑みを漏らした。
「魔物で慣れてます。
ワイバーンはちょっと大きいだけです。
任せて下さい」
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