光学迷彩のお陰で無駄な争いをせずに湖の南端に辿り着いた。
ひときわ大きな木を見つけた。
太くて高い。
離れているのに木の頂きが見えない。
まるで、この辺りの木々の親玉のよう。
駆け寄った。
一言で表せば、ぶっとい樹。
楕円形なので直径は確とはしない。
たぶん、歴史を見守って来た古代樹・・・。
横に張り出した側には雨宿りできそうな洞がある。
鱗の様な樹皮。
手を当てた。
荒い手触りなのに剥がれそうにはない。
じっとしていると、掌に生命の息吹が伝わって来た。
俺は風魔法を身に纏い、幹伝いに上に跳んだ。
頂きの途中に手頃な枝を見つけた。
そこに腰を下ろした。
湖越しに高山の方向を見た。
まだクイーンが裾の上空で警戒していた。
彼女だけではない。
配下のワイバーンも2翼。
クイーンに付き従って旋回していた。
俺はズームアップで営巣地を見た。
裾野は一面が岩場になっていて、
あちこちにワイバーンの姿が見え隠れした。
成体も幼体もいて、無防備に遊んでいた。
俺は岩場が気になった。
この岩場は・・・。
背後の高山を見た。
まだらに緑があるものの、山肌は土色。
吹き出物の様な塊を無数、確認した。
これは・・・火砕流の痕跡。
うっすらとした雲の上に山頂がある。
尖った山頂でも、こんもりした山頂でもない。
破壊されたような・・・、これは噴火の痕跡に違いない。
大噴火で吹き飛ばされたのだ。
今は噴煙がないから安心だが、先は分からない。
焦れたのか、アリスが荒い言葉を投げて来た。
『怖いの、尻込みしてるの、馬鹿じゃない。
観光に来たわけじゃないわよ、皆殺しよ、皆殺し』
ハッピーが尻馬に乗った。
『パー、皆殺し、皆殺しパー』
俺は困った。
怖いのでも、尻込みでもない。
ワイバーンの前にもう一つ、問題がある。
探知に引っかかる物があるのだ。
動きからして飛行体。
それが此方に急速に向かって来ていた。
俺はその方向に向きを変えた。
アリスもようやく気付いた。
そちらに目を遣った。
『これは・・・、』
向かって来る飛行体の魔波はアリスに似ていた。
小さいが強力な波動。
それが群れなして急速接近して来た。
「妖精の群れです。
一体はアリスより上位の存在です」脳内モニターに文字が走った。
光に近い全力の風魔法で飛んで来る。
敵意が感じ取れないので、ジッと待ち受けた。
追い付いた群れは瞬時に俺達を包囲した。
明らかにアリスと同種の妖精、数は12体。
上位の存在と思える個体が俺達の前に進み出た。
アリスは三対六枚羽根だが、
それは花弁のように羽根を全面展開していた。
まるで女神か、天使、見たことないけど。
ても、アリス並みにちっちゃい、可愛い。
それが俺に視線を向けて来た。
見えているのか。
無敵の光学迷彩の筈なんだけど。
俺はアリスを振り向いた。
『見えているみたいだけど・・・、見えるのかな』
『見えてるわよ。
うちの里の長老は、ダンマスと同格なのよ』
ペリローズの森の長老。
長老に念話で尋ねられた。
『人間の子よ、尋ねる。
ダンマスの気配があるが、同種とは考えられん。
その訳を聞かせてくれんか』
声は若いが、侵し難い威厳が感じ取れた。
俺は正直に答えた。
『俺自身、訳が分かりません。
気がついたらダンマスを討伐していました。
で、ダンマスの力を得ました。
それに・・・、今は魔女魔法の遣い手でもあります』
長老の小さな顔が強張った。
『むっ、魔女魔法。
得体が知れぬ奴だな。
・・・。
それは、今はいい。
ここで何をするつもりだ』
長老は俺だけでなく、アリス、ハッピーと、
値踏みする様に視線を巡らした。
俺は隠すものはない。
『二人は眷属です。
三人でワイバーンの営巣地を壊滅する為、ここに来ました』
長老はアリスを睨み付けた。
『まったくお前は育っておらぬな』と言い、俺に視線を転じた。
『里の者が世話になっているようだな』
俺は恐縮した。
『いいえ、いいえ。
眷属にしましたが、構わなかったのでしょうか』
『構わん、構わん。
眷属は一時の事。
先にお主の命が尽きるから何の問題もない』明け透けに言われた。
周りの妖精達が姦しい。
仲間同士で何のかのと論議していた。
それを尻目に長老が言う。
『お主ほどの力があれば営巣地の壊滅は可能かも知れん。
しかし止めてくれぬか』
途端、アリスが反論した。
『なに言ってるの、今日、ここで壊滅させるわよ』
長老が怒気を露わにした。
『馬鹿もん。
何も知らんくせに。
知らんもんは黙っとれ』
アリスが反論した。
『何を知らないと言うの』
長老はアリスを無視し、俺に言う。
『森には森の生態系がある。
互いが互いを必要悪と認識して、その生存を許している。
ワイバーンもその一つ。
増えては困るが、絶滅させれば、もっと困る。
・・・。
大が中を餌にし、中が小を餌にする。
小はもっと小さなものを餌にする。
そして最も小さきものである我らが大きなものを餌にする。
この理屈、分かるか』
『なんとなく・・・。
目に見えぬ小さきものは疫病のようなものですか』
『ふっふ・・・。
我らは疫病ではないが、似たようなもの。
成体のワイバーンは喰わぬが、卵や幼体に悪戯して、
全体数を減らしておる。
適正数にしておると言っても過言ではない』
『もしかして、最上位にあたるワイバーンを壊滅させると、
森の生態系が崩れるのですか』
『話が早い。
そうなんじゃよ。
ワイバーンは増えても問題は少ない。
飛んで餌場を探せるからな。
困るのは飛べない中くらいの魔物が増える事なんじゃよ。
餌を巡って至る所で争うことになるからな。
我等としては数が多過ぎて、手に余る。
結果として森が荒れ、終いには枯れる。
だから控えてくれぬか』
ひときわ大きな木を見つけた。
太くて高い。
離れているのに木の頂きが見えない。
まるで、この辺りの木々の親玉のよう。
駆け寄った。
一言で表せば、ぶっとい樹。
楕円形なので直径は確とはしない。
たぶん、歴史を見守って来た古代樹・・・。
横に張り出した側には雨宿りできそうな洞がある。
鱗の様な樹皮。
手を当てた。
荒い手触りなのに剥がれそうにはない。
じっとしていると、掌に生命の息吹が伝わって来た。
俺は風魔法を身に纏い、幹伝いに上に跳んだ。
頂きの途中に手頃な枝を見つけた。
そこに腰を下ろした。
湖越しに高山の方向を見た。
まだクイーンが裾の上空で警戒していた。
彼女だけではない。
配下のワイバーンも2翼。
クイーンに付き従って旋回していた。
俺はズームアップで営巣地を見た。
裾野は一面が岩場になっていて、
あちこちにワイバーンの姿が見え隠れした。
成体も幼体もいて、無防備に遊んでいた。
俺は岩場が気になった。
この岩場は・・・。
背後の高山を見た。
まだらに緑があるものの、山肌は土色。
吹き出物の様な塊を無数、確認した。
これは・・・火砕流の痕跡。
うっすらとした雲の上に山頂がある。
尖った山頂でも、こんもりした山頂でもない。
破壊されたような・・・、これは噴火の痕跡に違いない。
大噴火で吹き飛ばされたのだ。
今は噴煙がないから安心だが、先は分からない。
焦れたのか、アリスが荒い言葉を投げて来た。
『怖いの、尻込みしてるの、馬鹿じゃない。
観光に来たわけじゃないわよ、皆殺しよ、皆殺し』
ハッピーが尻馬に乗った。
『パー、皆殺し、皆殺しパー』
俺は困った。
怖いのでも、尻込みでもない。
ワイバーンの前にもう一つ、問題がある。
探知に引っかかる物があるのだ。
動きからして飛行体。
それが此方に急速に向かって来ていた。
俺はその方向に向きを変えた。
アリスもようやく気付いた。
そちらに目を遣った。
『これは・・・、』
向かって来る飛行体の魔波はアリスに似ていた。
小さいが強力な波動。
それが群れなして急速接近して来た。
「妖精の群れです。
一体はアリスより上位の存在です」脳内モニターに文字が走った。
光に近い全力の風魔法で飛んで来る。
敵意が感じ取れないので、ジッと待ち受けた。
追い付いた群れは瞬時に俺達を包囲した。
明らかにアリスと同種の妖精、数は12体。
上位の存在と思える個体が俺達の前に進み出た。
アリスは三対六枚羽根だが、
それは花弁のように羽根を全面展開していた。
まるで女神か、天使、見たことないけど。
ても、アリス並みにちっちゃい、可愛い。
それが俺に視線を向けて来た。
見えているのか。
無敵の光学迷彩の筈なんだけど。
俺はアリスを振り向いた。
『見えているみたいだけど・・・、見えるのかな』
『見えてるわよ。
うちの里の長老は、ダンマスと同格なのよ』
ペリローズの森の長老。
長老に念話で尋ねられた。
『人間の子よ、尋ねる。
ダンマスの気配があるが、同種とは考えられん。
その訳を聞かせてくれんか』
声は若いが、侵し難い威厳が感じ取れた。
俺は正直に答えた。
『俺自身、訳が分かりません。
気がついたらダンマスを討伐していました。
で、ダンマスの力を得ました。
それに・・・、今は魔女魔法の遣い手でもあります』
長老の小さな顔が強張った。
『むっ、魔女魔法。
得体が知れぬ奴だな。
・・・。
それは、今はいい。
ここで何をするつもりだ』
長老は俺だけでなく、アリス、ハッピーと、
値踏みする様に視線を巡らした。
俺は隠すものはない。
『二人は眷属です。
三人でワイバーンの営巣地を壊滅する為、ここに来ました』
長老はアリスを睨み付けた。
『まったくお前は育っておらぬな』と言い、俺に視線を転じた。
『里の者が世話になっているようだな』
俺は恐縮した。
『いいえ、いいえ。
眷属にしましたが、構わなかったのでしょうか』
『構わん、構わん。
眷属は一時の事。
先にお主の命が尽きるから何の問題もない』明け透けに言われた。
周りの妖精達が姦しい。
仲間同士で何のかのと論議していた。
それを尻目に長老が言う。
『お主ほどの力があれば営巣地の壊滅は可能かも知れん。
しかし止めてくれぬか』
途端、アリスが反論した。
『なに言ってるの、今日、ここで壊滅させるわよ』
長老が怒気を露わにした。
『馬鹿もん。
何も知らんくせに。
知らんもんは黙っとれ』
アリスが反論した。
『何を知らないと言うの』
長老はアリスを無視し、俺に言う。
『森には森の生態系がある。
互いが互いを必要悪と認識して、その生存を許している。
ワイバーンもその一つ。
増えては困るが、絶滅させれば、もっと困る。
・・・。
大が中を餌にし、中が小を餌にする。
小はもっと小さなものを餌にする。
そして最も小さきものである我らが大きなものを餌にする。
この理屈、分かるか』
『なんとなく・・・。
目に見えぬ小さきものは疫病のようなものですか』
『ふっふ・・・。
我らは疫病ではないが、似たようなもの。
成体のワイバーンは喰わぬが、卵や幼体に悪戯して、
全体数を減らしておる。
適正数にしておると言っても過言ではない』
『もしかして、最上位にあたるワイバーンを壊滅させると、
森の生態系が崩れるのですか』
『話が早い。
そうなんじゃよ。
ワイバーンは増えても問題は少ない。
飛んで餌場を探せるからな。
困るのは飛べない中くらいの魔物が増える事なんじゃよ。
餌を巡って至る所で争うことになるからな。
我等としては数が多過ぎて、手に余る。
結果として森が荒れ、終いには枯れる。
だから控えてくれぬか』