金色銀色茜色

生煮えの文章でゴメンナサイ。

(注)文字サイズ変更が左下にあります。

昨日今日明日あさって。(大乱)196

2020-12-27 07:10:16 | Weblog
 国王・ブルーノ足利は騎士団が傭兵団を捕縛したのを見届けると、
風魔法使いの助けで地上に舞い上がった。
不自然に空いた穴の隣に着地すると王妃・ベティが駆け寄って来た。
「お怪我はありませんか」勢いのまま抱きつく。
 もうちょっと力が強ければ二人して穴に落ちるところであった。
「おおっ・・・、大丈夫だ」
「よかった。
・・・。
敵の頭目は如何しました」
「生かして捕えた。
治癒魔法のお陰で口も利ける。
きっちりと喋らせてやろう」

 二人の周りに国の首脳陣が集まって来た。
代表して菅領のボルビン佐々木が自分の胸に手を当て、
片膝ついて朗らかに言う。
「ようござました。
この老骨、寿命が縮みましたぞ」
「心配かけたな」ブルーノは歩み寄って老人の肩に手を置いた。
「ええ、心配しましたとも」
「相変わらずのようで安心した」ブルーノは言いながら、全員を見回した。
 評定衆に、王族の当主達、そして側近の者達。
顔が見えぬのは今回の件で怪我して伏せているか、亡くなったか。
そして、あいつ。
王弟・バーナード今川公爵がいた。

 ブルーノはバーナードを一番怪しんだ。
国王の脱出経路に詳しいと思える人物で、
琉球オアシスと台湾オアシスの間で新たに見つかったオアシス、
その所有権を左右できる人物と繋がっているのは彼しかいない。
薩摩地方と大隅地方、そして薩南諸島、
これらの寄親に何代にもわたって任じられている貴族、島津伯爵家。
爵位こそ伯爵だが、西部方面の重鎮である。
だからして彼の家の長女が王弟・バーナードの正室に迎え入れられた。
 そのバーナードと視線が絡み合った。
他の者達同様に片膝ついてはいるが、挑む目色。
この期に及んで、何かを企んでいる気配。
ブルーノは彼に真正面から尋ねようと思った。

「ご無事でようございました」
 そう声がかけられた。
左近くに兄のカーティス北畠公爵の顔があった。
長子ではあるが側室の子である為、王位継承権はブルーノの下、
今も下位にあるが、それでも一切文句を漏らさない人物で、
王族内での評判はすこぶるいい。
 カーティスの従者が一つの長物を背後から主人に手渡した。
袋に入れられてはいるが、明らかに長剣と分かった。
受け取ったカーティスが両手で大事そうに持って、進み出て差し出した。
「これを瓦礫の中から見つけました。
鑑定させたところ、陛下の物ではないかと」

 ブルーノは受け取り、袋からそれを取り出した。
見事な長剣が現れた。
鞘といい、鍔といい、拵えだけで価値が見て取れた。
しかし身に覚えはない。
「私のではないな」
「そうですか、それは残念」
 ブルーノは長剣を袋にしまい、戻そうとした。
カーティスがそれを受取ろうと、両手を差し出した。
 魔力の発動。
ブルーノは唖然とした。
目の前の空気が揺らいだ。

 カーティスはこの時を待っていた。
逃さない。
弟が無防備な今しかない。
密かに習い覚えた無詠唱で、攻撃魔法を放った。
 火魔法、ファイアボール。
最短距離で弟を直撃した。
破裂すると自分も巻き込まれるので、それはない。
代わりに貫通する様にした。
 
 ブルーノは時が止まった様に思えた。
最短距離で放たれた火球がゆっくり自分に迫る。
身動きできぬ自分。
胸元に走る衝撃。

 誰もが我が目を疑った。
目撃者が大勢いる中での、この突然の出来事。
皆が皆、思考が停止した。
声はブルーノが上げた悲鳴だけ。
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昨日今日明日あさって。(王宮の地下)195

2020-12-20 07:31:18 | Weblog
 俺は穴の出入りの邪魔にならぬように、少し離れた所に腰を移した。
大きな瓦礫に腰を下ろし、流れを他人事の様に眺めた。
貴族とは言えまだ成人前の児童。
子供が出しゃばる場ではない。
 ローブの裾がクイクイと引っ張られた。
弱々しい引きだ。
ゆっくり首を回した。
俺を見てニコリと笑う幼女。
「あそぼう」

 初対面だが、自己紹介がなくても誰かは分かった。
王女のイヴ様だ。
さきほどまでは王妃の腕の中にいたはずなのに。
「あそぼう、・・・だめなの」
 イヴの後ろの侍女が苦笑いで俺に軽く会釈した。
遊び相手をしろと言う顔。
俺は王妃を探した。
彼女は穴の出入りをジッと見守っていて、
とても声がかけられる雰囲気ではない。
 俺はイヴ様に臣下としての礼を省略し、両膝を地につけて、
視線を同じ高さにした。
「これはこれはイヴ様。
どのような遊びをいたしましょうか」

 パッとイヴの顔が輝いた。
俺の両肩に手を置いて言う。
「まかせましゅ」
「お任せを」
 俺は立ち上がると、まず身体強化した。
相手が王女なので、万一に備え、念を入れたのだ。
それからイヴの腰を両手で優しく掴み、持ち上げ、
空中でクルリと反転させて肩車した。
途端、イヴ様の声が爆発した。
「キャー、ハッハッハ」大喜び。
 俺の頭を平手でバンバン叩き、髪をワシャワシャとかきむしる。
王女様のお相手の仕方は知らなかったが、これが大正解なのだろう。
たぶん。

 侍女が尋ねた。
「イヴ様、どうですか」
「おもしろい、おもしろいでしゅ」
「良かったですわね」
 侍女が俺に目礼した。
俺は頷き返し、イヴに尋ねた。
「どちらに向かいましょうか」
「わいばーんがみたいでしゅ」
「今までに見た事は」
「みたことないの。
だからみたいでしゅ」

 穴の出入りを見ていた王妃だが、
一方では娘にも気を配っていたらしい。
離れていた所から俺を声をかけて来た。
「佐藤子爵、すまないが、娘を頼む」
 俺は肩車しているので、下手な動きは出来ない。
その姿勢のまま、踵を合わせて返事した。
「お任せを」
 これが正解かどうかは知らない。

 俺と王妃の遣り取りを聞いていた女性騎士が歩み寄って来た。
「護衛につきます」
「有難うございます。
それではお尋ねします。
王女様がワイバーンをご覧なさりたいそうです。
どちらに行けば見られますか」
 女性騎士はイヴと侍女を見た。
「そういう事なら、先導しましょう」

 髪をクイクイと引っ張られた。
「わたしはイヴ。
あなたのなまえは」
 引っ張り続けられると禿げちゃう。
「ダンタルニャン佐藤子爵です」
「だんたる、にゃん、さとう、ししゃく。
だんたる、にゃん、さとう、ししゃく」
 一気に言えない。
名前が長いのか。
俺が悪いのか、
俺の責任なのか。
「だんたる、にゃん、さとう、ししゃく。
だんたにゃーん、さとうしゃく。
・・・。
にゃんでいいでしゅね」
 一番言い易い、にゃんに落ち着いた。
「はい、にゃんで」
 好きにさせよう。
幼児なんだから、こんなものだろう。
「にゃん、はしる」

 俺は馬の様に走らされた。
騎手は幼児。
髪を手綱のように引っ張られて、走らされた。
幼児の力とは言え、痛い、痛い。
でも幼児相手に弱音は吐けない。
先導の女性騎士を追い越した。
 女性騎士が状況を読んだ。
慌てて、俺を追い抜いた。
「私について来て下さい」笑いが籠っていた。
「落とさないで下さいね」侍女も笑っている。

 ワイバーンが集められた一角に到着した。
王宮区画の庭園だ。
ここも瓦礫が散見されるが、それは周辺だけ。
中心部になると緑で一杯。
その芝地で騎士達がワイバーンの解体を行っていた。
 騎士と言うより、これは料理人だな。
騎士の装いの男達が大きな包丁を片手に、肉片に取り組んでいた。
巧みに切り分け、内臓を取り除き、部位を選り分けていた。
食用、衣服用、薬用、鍛冶用等。
中でも特に丁寧に処理されたのが外皮。
傷付けぬ様に慎重に、慎重に包丁を滑らせて行く。

 もう三日目なので完全体のワイバーンの残りは少ない。
白骨ですら残っていない。
イヴが喜びの声を上げた。
「きゃー。
にゃん、おそってこないでしゅか」
 それは日陰にあった。
腐らない様に氷漬けされたワイバーンが三体。
こちらを睨んでいるかの様。
生きているみたいで迫力満点。
「イヴ様がお利巧様なら襲っては来ません」
「イヴはおりこう、だよね。
ちかくでみたい」
「はい、それでは参りましょう」
 
 氷漬けされたワイバーンの前に立った。
イヴ様に尋ねた。
「下りて触りますか」
「いやでしゅ。
にゃん、ちかづいて」
 言われて、俺は氷漬けの前に歩み寄った。
「もっとまえ」
 イヴ様が小さな手を伸ばした。
触れない。
「もっとまえ」
 顔面スレスレまで最接近した。
「ちゅべたい」喜んだ。
 俺って・・・。
肩車しているイヴ様は氷をペチペチして大喜び。
そのペチペチの度に、俺の顔に水滴が飛んで来る。
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昨日今日明日あさって。(王宮の地下)194

2020-12-06 08:21:34 | Weblog
 このままでは数の暴力で国王陛下は殺される。
そうとしか思えない。
困った。
これまで俺は傍観者でいた。
でも、目の前で人が殺されるのは別だ。
いや、足の下か。
 全ての瓦礫を除去するMPはある。
十分すぎる。
いや、いや、手柄の独り占めは良くない。
恨まれる元凶だ。
恨まれずに助ける、それは・・・。

 俺は3D表示を活用し、人に被害が出ぬ辺りを探した。
地上の者は当然、下の者にも被害が及ばぬ地点。
そこを見つけると、特定してマーキング。
土魔法を起動し、足の裏から地中を走らせた。
 マーキングした地点の、地下にいる者からしたら天井部分、
俺からしたら地表部分、そこを土魔法で劣化させた。
綺麗な切り口ではなく、経年劣化に見える様に工夫した。
鑑定で下の安全に配慮しながら、ランクAのMPで強引に、ゴリ押し。
瓦礫を落とすと怪我の元なので、全て細かく砂にした。
 時間にすると一分もしない。 
粉塵を巻き上げて穴が空いた。
人が三人ほどなら余裕で落ちれる大きさ。

 評定衆の一人が真っ先に声を上げた。
穴を指差した。
「地面に穴が空いた」
 一名の騎士が駆け寄って下を覗き見た。
粉塵などは気にしない。
下を確認して、顔を上げた。
「地下室のようです」
 答えは下、地下室から。
「助けて」女性の声がした。

 ポール殿が指示をした。
「風魔法の使い手が下に降りるんだ。
可能なら陛下御夫妻を抱き上げて、上に帰還して欲しい」
 風魔法の使い手が風を身に纏い、次々に下降して行く。
真っ先に救出されたのはベティ王妃。
そのベティ王妃、埃に塗れた顔で皆を見回し、声を上げた。
「地下水路から傭兵ギルド所属の『夜烏』が侵入してきました。
地下二階で陛下が騎士達を率いて戦っていますが、数が足りません。
直ちに増援を行って下さい」
 
 命令系統もなにもない。
騎士達が穴の周りに殺到した。
それぞれの従士にフルアーマーを脱ぐのを手伝わせ、軽装になるや、
得意の武器を手に次々に穴に跳び込んで行く。
高さがあるのに躊躇う者は一人としていない。
時折、悲鳴が上がる。
着地に失敗して足を挫いたのだろう。
「治癒の得意な魔法使いを呼び集めなさい」ベティ様の声。

「ガキン」
「ガシャーン」
 響き渡る金属音。
地下二階ではブルーノが足掻いていた。
口でこそ一騎討ちを所望したものの、押される一方であった。
初手を譲られたが簡単にいなされた。
相手の団長に嘲笑われた。
「口は達者だが、腕はソコソコだな」
「ぬかせ」
 ブルーノは隙と見て、突いた。
団長は軽快な足捌き。
右へ躱して、緩い反撃。
まるで子猫を弄ぶドブネズミ。
 ブルーノは基本で築かれた強さ。
対する団長は経験を積み重ねた強さ。
そもそも強さの質が違った。
団長に一日の長があった。
そしてその一日が長かった。
 
 団長がブルーノの長剣を弾き飛ばした。
「これで決着だな」
 繰り出される団長の剣先。
そこに影。
見守っていた騎士の一人が身を投げ出した。
団長とブルーノの間に割って入り、剣先を受けた。
「ガキン」
 堅いアーマーで剣先が折れた。
団長は剣を投げ捨て、代わりを配下から受け取った。
ブルーノとその騎士を睨み付けた。
「お遊びもここまでだな」
 団長は配下を見渡した。
「お前達、やれるな」
「へい」一斉に返事が返って来た。
ゾロゾロと前に踏み出す。
応じて騎士達がブルーノを守る様に取り囲む。

 階上でこれまでにない物音がした。
途端、空気が変わった。
階下へ通じる階段を駆け下る複数の足音。
「バタン」と扉が大きく開かれた。
 いかにも魔法使いでござい、そんな格好の連中が飛び込んで来た。
最初に降下した風魔法の使い手達だ。
国王陛下が置かれた状況を聞き知るや、素手で救援に現れた。
躊躇いなく魔法を放つ。
余裕のある一人が代表して国王に言う。
「我らが時間を稼ぎますので、その間に退避を願います」

 団長は思わぬ連中の出現に慌てるものの、目的は見失わない。
「接近戦だ、飛び込めば魔法は怖くない。
陛下は俺がやる。
お前たちは周りの連中を片付けろ」
 配下を叱咤激励し、風魔法が飛び交う中、陛下を目指して駆けた。
自分に向けられた攻撃魔法は長剣に魔力を込めて一閃、切り裂く。

 扉から新手が現れた。
軽装の騎士達だ。
武器を振り回して敵を排除し、陛下を目指した。
まずは陛下の安全確保、それが彼等の至上命題なのだ。
 これには団長も顔色を変えた。
負けた。
逆転の目はない。
即断するや、真っ先に身を翻した。
逃げた。

 ブルーノは団長からは目を離さない。
奴が問題解決の鍵なのだ。
現れた新手の騎士に命じた。
「あの者が敵の首謀者だ。
生かして捕えろ。
多少の傷なら治癒で治せる。
けっして殺すな」
「承知いたしました」命じられた騎士を同僚を連れ、追跡に転じた。

 狭い地下室は争乱の場。
残された団員達が必死で抵抗した。
国王陛下暗殺未遂、現行犯、言い訳はきかない。
捕まれば死刑。
それも単なる死刑ではない。
虐殺に近いものになる、そう思って死に物狂いで抵抗した。
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