玄関には手空きの者達が出迎えていた。
メイドの一人が馬車のドアを開けてエスコート。
「おかえりなさいませ」
このエスコート役は人気で、メイド達が争奪戦を繰り広げるのだそうだ。
ジューンが悔しそうな顔で俺を見ていた。
えっ、争奪戦に負けたのは俺の責任なの、違うだろう。
そのジューンの隣で執事長・ダンカンが、苛立ちを隠し、俺を見ていた。
彼は皆の手前、余計な事は口にしない。
ルーティン通り、俺の後ろに従った。
着替えより先に、ダンカンの抱えている問題に対処した方が良さそうだ。
「執務室で聞こうか」
「はい」
エスコート役のメイドに頼んだ。
「二人分のお茶を頼む」
執務室で二人きりになった。
俺はダンカンにソファーを勧めた。
固辞するダンカン。
でもそれは許さない。
俺が先にソファーに腰を下ろして、ダンカンを見上げた。
「ねえダンカン、上からご主人様を見下ろしちゃ駄目だよね」
ダンカンは虚を突かれたかの様な顔をした。
結局、渋々感一杯の空気を醸し出して腰を下ろした。
そこへメイドがお茶を運んで来た。
俺には緑茶、ダンカンには珈琲。
お茶請けはマンゴーのショートケーキ。
「今街で人気なんですよ」とはメイド。
咽喉を潤してダンカンに尋ねた。
「それで話は」
「今お見せします」
ダンカンは内ポケットから一通の書状を取り出し、俺の前に置いた。
役所仕様の定型封筒で、表には召喚状の文字と俺の名前、
裏には見慣れぬ紋章。
「召喚状ね、誰から」
「ホアキン高山伯爵様からです」
「知らないな」
「和泉地方を治めていらっしゃる方です」
「会ったこともないと思う、それが」
「使いの者が申すには、召喚状だそうです」
「はあ、・・・召喚状」
俺宛の書状手紙の類は、
受け取った段階で鑑定スキル持ちが検査した。
安全か、否か。
安全と分かった物を、執事長が区分けした。
公的か、私的か。
公的と判断した場合は執事長が職権で開封し、中身を改めた。
今回の召喚状も既にダンカンが目を通していた。
俺は召喚状を読み進めた。
簡潔な文章なので一目で読めた。
要するに、「直ちに我の下に出頭せよ」とのこと。
召喚状は公的な書類。
宮廷が発する強制力のある物。
まあ、今回の様に寄親伯爵が発する場合もあるにはある。
が、それは例外的な措置。
範囲は、己に従う寄子貴族のみに限られた。
俺は召喚状をテーブルに置いた。
「ホアキンはアホなの」
「どうやらその様です」
ホアキンではなくてアホキンらしい。
「使いの者の身分は」
「執事の一人でした。
鑑定スキル持ちに確認させましたので、間違いありません」
ダンカンは怒りながらも最低限の仕事をしていた。
初手で敵の確認を怠らない。
流石は執事の家柄。
俺はケーキを一口、美味い。
さて、どう対処すべきか。
それも寄親伯爵として。
ダンカンが珈琲を飲み干して言う。
「召喚状とは失礼にも程があります。
同格の伯爵に対する態度では御座いません」
ダンカンの目色が怖い。
日頃の彼からは考えられぬ色。
許可すれば殴り込むだろう。
俺は火に油を注がぬ様にした。
「使いの執事の様子は」
「・・・慇懃無礼そのものでした。
まるでこちらを格下扱い。
・・・。
私が、同格の寄親伯爵相手に召喚状は失礼だろう、
そう申したのですが、聞く耳を持っておりませんでした。
主人が主人なら、家来も家来、どちらも屑です」
俺は尋ねた。
「それでも、何らかの調べはしたんだろう。
例えば召喚状に繋がる原因とか」
「適いませんね。
はい、そうです。
こちらが捕えた五名のうちの二名が、ホアキンの寄子貴族でした。
ですからその関係かと」
ダンカンはきちんと仕事をしていた。
難しい問題ではなくて単純な事だった。
それ以外にホアキンとの間に関係はない。
ホアキンのレベルは知れた。
これは即行で解決すべきだろう。
俺は執り行う方法をダンカンに詳細に説明した。
全てを聞き終えたダンカンが疑問を呈した。
「大丈夫ですか。
これが王宮へ知れた場合にお咎めは御座いませんか」
ホアキンへの怒りより、執事長としての職分が優先したようだ。
「だから誰も暴走せぬ様にダンカンを連れて行くんだろう」
ダンカンから解放された俺は自室に戻って風呂、着替え。
勿論、メイド達が世話してくれた。
俺に拒否権はなかった。
このところ、メイド達が世話を焼きたがるので、困った、困った。
着替え終えるをダンカンが待っていた。
彼も覚悟を決めたらしい。
顔色が良い。
「関係各所への書状の手配は」
「済みました。
書くのは書記スキル持ちに、届けるのは兵士に」
手短に答えた。
まるで軍隊調、気持ちが入っていた。
「ダンカンの役目は、後方からの俺の支援なんだから、
少し肩の力を抜こうか」
玄関先は大賑わい。
群れ成す兵士の一団。
その周囲には当家の使用人達が溢れていた。
私語が飛び交っていたのだが、メイド・ジューンがドアを開けた途端、
波が引く様に静まった。
「伯爵様のお成りです」
ジューンの甲高い声。
ウィリアム佐々木の声が続いた。
「整列」
兵士の一団が踵を合わせ、姿勢を正した。
見送りの使用人達は一斉に、その左右に割れた。
俺はウィリアムに尋ねた。
「抽出した兵力は」
「三十八名です。
うち、スキル持ち二十六名です。
スキルを持たない十二名は、木曽の魔物の討伐に慣れた者達なので、
何等ご心配は御座いません」
「つまり問題がない訳だ」
「作戦行動に支障は御座いません」
目立たぬ様にとのご指示でしたので、全員馬車にて輸送します」
俺は後ろを振り向いた。
「行くよ」
侍女長・バーバラが飛び切りの笑顔。
「程々にしてくださいませね」
メイドの一人が馬車のドアを開けてエスコート。
「おかえりなさいませ」
このエスコート役は人気で、メイド達が争奪戦を繰り広げるのだそうだ。
ジューンが悔しそうな顔で俺を見ていた。
えっ、争奪戦に負けたのは俺の責任なの、違うだろう。
そのジューンの隣で執事長・ダンカンが、苛立ちを隠し、俺を見ていた。
彼は皆の手前、余計な事は口にしない。
ルーティン通り、俺の後ろに従った。
着替えより先に、ダンカンの抱えている問題に対処した方が良さそうだ。
「執務室で聞こうか」
「はい」
エスコート役のメイドに頼んだ。
「二人分のお茶を頼む」
執務室で二人きりになった。
俺はダンカンにソファーを勧めた。
固辞するダンカン。
でもそれは許さない。
俺が先にソファーに腰を下ろして、ダンカンを見上げた。
「ねえダンカン、上からご主人様を見下ろしちゃ駄目だよね」
ダンカンは虚を突かれたかの様な顔をした。
結局、渋々感一杯の空気を醸し出して腰を下ろした。
そこへメイドがお茶を運んで来た。
俺には緑茶、ダンカンには珈琲。
お茶請けはマンゴーのショートケーキ。
「今街で人気なんですよ」とはメイド。
咽喉を潤してダンカンに尋ねた。
「それで話は」
「今お見せします」
ダンカンは内ポケットから一通の書状を取り出し、俺の前に置いた。
役所仕様の定型封筒で、表には召喚状の文字と俺の名前、
裏には見慣れぬ紋章。
「召喚状ね、誰から」
「ホアキン高山伯爵様からです」
「知らないな」
「和泉地方を治めていらっしゃる方です」
「会ったこともないと思う、それが」
「使いの者が申すには、召喚状だそうです」
「はあ、・・・召喚状」
俺宛の書状手紙の類は、
受け取った段階で鑑定スキル持ちが検査した。
安全か、否か。
安全と分かった物を、執事長が区分けした。
公的か、私的か。
公的と判断した場合は執事長が職権で開封し、中身を改めた。
今回の召喚状も既にダンカンが目を通していた。
俺は召喚状を読み進めた。
簡潔な文章なので一目で読めた。
要するに、「直ちに我の下に出頭せよ」とのこと。
召喚状は公的な書類。
宮廷が発する強制力のある物。
まあ、今回の様に寄親伯爵が発する場合もあるにはある。
が、それは例外的な措置。
範囲は、己に従う寄子貴族のみに限られた。
俺は召喚状をテーブルに置いた。
「ホアキンはアホなの」
「どうやらその様です」
ホアキンではなくてアホキンらしい。
「使いの者の身分は」
「執事の一人でした。
鑑定スキル持ちに確認させましたので、間違いありません」
ダンカンは怒りながらも最低限の仕事をしていた。
初手で敵の確認を怠らない。
流石は執事の家柄。
俺はケーキを一口、美味い。
さて、どう対処すべきか。
それも寄親伯爵として。
ダンカンが珈琲を飲み干して言う。
「召喚状とは失礼にも程があります。
同格の伯爵に対する態度では御座いません」
ダンカンの目色が怖い。
日頃の彼からは考えられぬ色。
許可すれば殴り込むだろう。
俺は火に油を注がぬ様にした。
「使いの執事の様子は」
「・・・慇懃無礼そのものでした。
まるでこちらを格下扱い。
・・・。
私が、同格の寄親伯爵相手に召喚状は失礼だろう、
そう申したのですが、聞く耳を持っておりませんでした。
主人が主人なら、家来も家来、どちらも屑です」
俺は尋ねた。
「それでも、何らかの調べはしたんだろう。
例えば召喚状に繋がる原因とか」
「適いませんね。
はい、そうです。
こちらが捕えた五名のうちの二名が、ホアキンの寄子貴族でした。
ですからその関係かと」
ダンカンはきちんと仕事をしていた。
難しい問題ではなくて単純な事だった。
それ以外にホアキンとの間に関係はない。
ホアキンのレベルは知れた。
これは即行で解決すべきだろう。
俺は執り行う方法をダンカンに詳細に説明した。
全てを聞き終えたダンカンが疑問を呈した。
「大丈夫ですか。
これが王宮へ知れた場合にお咎めは御座いませんか」
ホアキンへの怒りより、執事長としての職分が優先したようだ。
「だから誰も暴走せぬ様にダンカンを連れて行くんだろう」
ダンカンから解放された俺は自室に戻って風呂、着替え。
勿論、メイド達が世話してくれた。
俺に拒否権はなかった。
このところ、メイド達が世話を焼きたがるので、困った、困った。
着替え終えるをダンカンが待っていた。
彼も覚悟を決めたらしい。
顔色が良い。
「関係各所への書状の手配は」
「済みました。
書くのは書記スキル持ちに、届けるのは兵士に」
手短に答えた。
まるで軍隊調、気持ちが入っていた。
「ダンカンの役目は、後方からの俺の支援なんだから、
少し肩の力を抜こうか」
玄関先は大賑わい。
群れ成す兵士の一団。
その周囲には当家の使用人達が溢れていた。
私語が飛び交っていたのだが、メイド・ジューンがドアを開けた途端、
波が引く様に静まった。
「伯爵様のお成りです」
ジューンの甲高い声。
ウィリアム佐々木の声が続いた。
「整列」
兵士の一団が踵を合わせ、姿勢を正した。
見送りの使用人達は一斉に、その左右に割れた。
俺はウィリアムに尋ねた。
「抽出した兵力は」
「三十八名です。
うち、スキル持ち二十六名です。
スキルを持たない十二名は、木曽の魔物の討伐に慣れた者達なので、
何等ご心配は御座いません」
「つまり問題がない訳だ」
「作戦行動に支障は御座いません」
目立たぬ様にとのご指示でしたので、全員馬車にて輸送します」
俺は後ろを振り向いた。
「行くよ」
侍女長・バーバラが飛び切りの笑顔。
「程々にしてくださいませね」