金色銀色茜色

生煮えの文章でゴメンナサイ。

(注)文字サイズ変更が左下にあります。

昨日今日明日あさって。(西部戦線は異状ばかり)4

2023-09-24 08:48:57 | Weblog
 アリスは高みの見物、野次馬気分でいた。
そこへハッピーからの知らせ。
興が冷めた。
矮小な人間共が地域の覇権の為に、
魔物共を巻き込んでまでして戦っているというのに、
そこへ空から介入しようだなんて、とんでもない。
許せない。
ハッピーに確認した。
『キングやクイーンはどうなの』
『プー、この群れにはいないっペー』
 キングやクイーンは生まれていないようで、一安心。
『直ぐに戻って頂戴、迎え撃つわよ』 

 ワイバーンの成体の体長は5メートルから10メートルほど。
翼を広げれば10メートルから20メートル。
武器は体力と鉤爪、尻尾、風魔法。
ブレスの形でウィンドスピアを放つ。
群れとしては、広範囲攻撃のウィンドストームがあるので、そこは要注意。

 対してエビスは頭部、胸部、腹部を合わせて全長が70センチ。
胴回りは50センチ。
これに羽根と足。
二対四枚羽根、三対六本足。
 材質は竜の鱗とミスリルを混ぜたセラミック。
頭部にコクピット、後尾にカーゴドア。
動力源は二つ、ワイバーンのキングとクイーンの魔卵を錬金で精錬し、
仕上げた魔水晶。
口の両端から覗く二つの牙が魔法の放出口、
所謂ところの搭載された航空機関砲。
攻撃魔法、防御魔法を自在に放つ。

 エビスは機体が小さいので侮られるかも知れないが、MPは200。
冒険者ならSランク。
そしてなによりも回復が早い。
加えて、搭乗員たるアリス達妖精は種独自の妖精魔法を使う。
ハッピーに至っては滅多に見られないスライムダンジョン魔法。
これらが初見殺しとなり、多くの戦いに打ち勝って来た。
当然、航空戦力としてだ。
ダンタルニャン佐藤が主戦力であったが邪龍を討伐した。
ワイバーンの巣も壊滅せしめ、キングとクイーンも討ち取った。
誇るべき戦果を上げて来た。

 エビス飛行隊は十五機編成。
ハッピーが戻ると横隊になった。
大きなワイバーン群が相手なので、左右に広がった。
戻ったハッピーがアリスに言った。
『ペー、駄目駄目、だっめー。
正面からだと硬い外皮ばかりだっペー』
 妖精の一人がそれに応じた。
『着弾面が狭いわね。
狙うとしたら下からね、腹部を狙いましょう』
 正面から見えるのはワイバーンの硬い頭と、線にしか見えない翼。
狙おうとすれば狙えるが、弾かれるのは確か。
アリスは二人の意見を取り入れた。
『直ちに降下。
森に逃げ込む恰好でね』

 ワイバーンの群れは前方にエビス飛行隊を発見していた。
しかし、蜂の種から枝分かれした魔物・コールビーの群れ、そう認識した。
ちょっと大きいが、翼の一振りで払い落せるとも。
それが急降下し、森に逃げ込んだ。
その時点で関心を失った。
荒ぶる戦気の地へと急いだ。

 アリスの森の中から上を見上げていた。
散開した仲間達もだ。
念話で確認しなくても、やる気で満ちていた。
バイオレンス~♪ バイオレンス~♪ ゲバゲバ。
燃える燃える・・・ルンルン。
 ワイバーンの群れが警戒する事もなく、腹部を晒して飛んで来た。
『成体を狙うわ。
攻撃箇所は腹部に限定、良いわね』
『『『ラジャー』』』
『使う魔法は光。
ワイバーンは風魔法を無自覚に纏っているから、光で突き破るわ』
『『『ラジャー』』』
『攻撃方法は一撃離脱、それを繰り返して撃墜する、これも良いわね』
『『『ラジャー』』』
『ただし、各自一頭撃墜したら、次は好きにして』
 ワイバーンは成体二十四頭、子供七頭、計三十一頭。
こちらは十五機。
それぞれがノルマをこせば、後は甚振るだけ。
『出撃』
『『『ラジャー』』』

 アリスは機体を急上昇させた。
標的は群れの先頭を飛ぶ成体。
狙う箇所は腹部。
最接近し、妖精魔法を起動した。
人間に例えれば股間、ロックオン。
光槍・ライトスピアを放った。
そして成果を見る暇がないので離脱。
速度のまま、擦れ違う様に航空路を斜め上に取った。
 擦れ違う際、成体の周囲の空気が揺れるのを感じ取った。
身体を覆っている風魔法のシールドは、本来は攻撃を逸らすのだが、
失敗したようだ。
シールドが弾け飛んだ。

 好機。
アリスは機体を急転回した。
標的を見下ろし、急降下。
擦れ違う際、標的の様子を見た。
シールドの再生が成っていないようで、慌ててる感じを受けた。
 アリスは梢の手前で再び転回した。
手は緩めない。
再急上昇。
標的がこちらの意図を理解した。
脅しの様な咆哮を上げ、航空路からの離脱を図った。
遅い。
さっきより離れてはいるが射程距離。
股間をロックオン、三連射。

 標的の悲鳴。
股間が弾け、血肉が飛び散った。
三連射なので悲惨の一言。
きっ、汚い。
アリスは逃げる様に標的への航空路から逸れた。
 とっ、大きな黒い影。
別のワイバーンが最接近していた。
相手を見るに、衝突を厭わない様子。
この近距離では反撃は難しい。
アリスの選択は逃げの一手。
相手の来るルートから離脱を図った。

 エビスに施された術式が起動した。
【自動回避】で直撃から逃れた。
それでも相手の風圧に晒された。
機体の軽さの弊害が出た。
風に巻き込まれて制御を失った。
アリス自身もコクピットから振り落された。
幸い畿内は【光体】で満たされているので、怪我はない。
光体の中で浮遊を余儀なくされただけで済んだ。

 ハッピーからの念話が届いた。
『パー、アリスアリス、怪我したの』
 アリスは泳ぐ様にしてコクピットに戻った。
操縦席に腰掛けた。
『ええ、心配かけたわね。
でも怪我はないわ。
直ぐに戻るわ』
 アリスは各種機器を見た。
全て正常に機能していた。
異常なのは自分のみ。
自分で自分に活を入れた。
それから辺りを見回した。
墜落ではなかった。
愛機は地上付近を漂っていた。
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昨日今日明日あさって。(西部戦線は異状ばかり)3

2023-09-17 11:07:46 | Weblog
 キャメンソルの群れは傭兵団であるが、
途中で居合わせた魔物達にとっては脅威そのもの。
遭遇した弱者はたちどころに逃走を開始した。
追い立てられる様に先頭を切って走った。
弱者でない者達はその尻馬に乗った。
遊び感覚でキャメンソルの群れに加わった。
これは、傍目には魔物のスタンピードにしか見えない。

 河沿いに展開した国軍が膨れ上がる魔力の南下に気付いた。
魔物のスタンピード、・・・か。
直ちに偵察部隊が発せられた。
その中の魔法使いが探知スキルを駆使し、全体像把握に務めた。
程なく解明した。
「魔物のスタンピードです。
その中核はキャメンソル傭兵団です。
魔物を追い立てながら、こちらに向かって来ています」

 国軍の、北側の部隊が迎撃態勢に入った。
キャメンソル傭兵団対策として、前以って用意していた荷馬車五十輌を、
前面に広く並べ、次々に横倒しして防御陣を構築した。
そして、その後方に槍部隊、弓部隊、魔法部隊を置いた。
更には騎馬隊。
万全の態勢。
 弓の射程に入るや、スタンピードの群れに一斉射。
それを抜けて来た魔物には攻撃魔法。
荷馬車に辿り着いた魔物を槍衾がお出迎え。
キャメンソル傭兵団を見つけると騎馬隊が投入された。
迂回して傭兵団に突っ込む。

 キュメンソル傭兵団は、先頭を走る魔物の崩壊は予想の範囲内。
止まる気配はなし。
速度を緩めず、方向を変えもしないでただ真っ直ぐ突き進む。
それは傭兵団の先鋒が弓の射程に入ってもお構いなし。
 キャメンソルの背中には瘤が二つ。
一つは水魔法のタンク。
一つは風魔法のタンク。
タンクには魔力が溜められていた。
それは本来、キャメンソル自身が使用する物だが、
使役する立場の者もある程度であれば利用できた。
であるので傭兵団内では、風魔法で防御できぬ奴が悪い、との認識。

 傭兵団は、魔物や仲間の死体を踏み潰して遮二無二攻撃一辺倒。
真っ正直に敵本陣を目指した。
かと言って、彼等に自殺願望がある訳ではない。
島津軍と共に滅亡の道を歩む趣味もない。
傭兵団指揮官は、消耗を抑える為、的確に隊列の入れ替えを行った。
負傷者は後方へ下がらせて治療を受けさせた。
 それは国軍も同じ。
防御陣を維持する方向で、巧みに補充と入れ替えを行った。
そんな戦場に変化が訪れた。
西からであった。
早朝、南北からの朝駆けを受けた島津軍が、遂に逆襲に転じた。
敗走する国軍を追って来たのだ。

 高みの見物のアリスであったが、油断はなかった。
新たな魔力の塊の接近を感じ取った。
東と北の二つ。
『私が東に向かう。
ハッピーは北を頼むわよ』

 東へ飛んで直ぐに見つけた。
アピスの群れ、二百余。
牛の種から枝分かれした魔物の種だ。
こちらに騎乗していたのは国軍、全員が三好兵で編成されていた。
【潜伏】を装着している事から、彼等も伏兵であると判明した。
数は二百余と少ないが、それでも組織された魔物の群れ。
今の状況であるなら国軍の力になる事は確か。
 こちらもスタンピードを発生させていた。
先頭には魔物が百余。
その真後ろにアピスの隊列。
更に後ろに四百余の魔物を引き連れていた。

 ハッピーから連絡が入った。
『パー、霧島山地上空にワイバーンを見つけたっピー』
 日向地方との境に跨る山塊だ。
大樹海の一つでもあったので、境は定められていない。
『その数は』
『プー、上空に八頭ペー。
ホバリングしてる様子から、仲間が揃うのを待ってるのかも』
『こちらに来るかも知れないわね』
『ポー、まず間違いなく』
『了解、引き続き見張って頂戴』
『ポー、こちらも了解』

 アリスは引き返して仲間達に事情を説明し、取るべき方策を示した。
『ワイバーンが来る前に移動するわよ。
奴等の好む高度ではなく、その上よ』
『ワイバーンか、討伐したいわね』
『私も』
『私も、私もよ、アリス』
 アリスは一刀両断した。
『ワイバーン如き、私達の敵じゃないわ。
ただ、少し我慢してね。
全体の流れを見たいの』

 傭兵団はアピスのスタンピードに気付かない。
ただ真正面の突破に拘り、視野狭窄に陥っていた。
それが悪いと言う訳ではない。
効果が出始めていた。
今にも敵防御陣の一部を突き崩す勢い。
攻撃魔法を繰り出す者続出で、遂に一角に穴を開けた。
「あそこに飛び込め」
 小さな穴を押し広げ、後方の仲間達を呼び込む。

 キャメンソルのスタンピード群の後尾に、
アピスのスタンピード群が勢い良く喰い付いた。
魔物と魔物だが、種も雑多、スタンピードとしての群れも違った。
単純に敵認識した。
当然だが、誰何もなければ、遠慮会釈もなし。
一方がドッと当たれば、もう一方がやり返す。

 国軍本陣に傭兵団の穂先が届いた。
彼等の目的は敵指揮官の捕縛でも、本陣掃討でもない。
敵陣中央を突っ切ること。
混乱に陥らせる事が主目的であった。
序に敵指揮官を捕縛すれば、ボーナス、だがそれは無理な相談。
傭兵団の壊滅に繋がる道。
選択肢には入れない。
「団を二つに分ける。
後尾は負傷者を守って右方へ離脱、都城へ入れ。
我等はこのまま突っ切る。
手近の負傷者を真ん中に入れて突っ切り、山中に伏せる」

 国軍本陣が二つに切り裂かれた。
それを見て取った島津軍が鬨の声を上げながら渡河を開始した。
国軍本陣は混乱に陥ったが、他の部隊は違った。
個々に対処した。
多くが島津軍の迎撃に向かった。
本陣の立て直しに奔走し、その混乱に巻き込まれる事を嫌った。

 それら下々の争いはアリス達にとってどうでも良いこと。
彼女達の視線は、キャルンソル単体とアピス単体の争いに向けられた、
足の早いアピスが後尾に居たキャメンソルに襲い掛かったのだ。
魔物としての意地か、乗り手に攻撃魔法を放つ暇を与えなかった。
共に体躯は2tサイズ。
それがドドンと当たった。
 勢いに乗った低重心のアピス。
対して腰高のキャメンソルだが、闘争慣れしていた。
グッと腰を落として、受けて立った。
右肩と左肩、余りの衝撃に二頭の乗り手が振り落された。

 これからって時にハッピーから悪い知らせが届いた。
『ピー、ワイバーンが編成を終了。
大人二十四頭、子供七頭。
仕草からそちらへ向かう可能性大。
僕も急ぎ戻るっペー』
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昨日今日明日あさって。(西部戦線は異状ばかり)2

2023-09-10 11:31:09 | Weblog
 別の妖精がアリスを止めた。
『アリス、いい加減にして、道草し過ぎよ』
 これにはアリスも心当たりがあった。
『ごめんごめん、悪かったわ。
でもね、下の気配がね、何か潜んでいるみたいなの』
『それが何か、・・・。
敢えて探す必要があるの。
それを起こして、住民達に迷惑は掛からないの』
『ないか、・・・』
『そうよ、ないのよ』

 飛行隊は湾の奥の城塞都市に向かった。
鹿児島。
薩摩地方と大隅地方、そして薩南諸島を治める島津伯爵家の本拠地だ。
高々度から市内の様子を窺った。
桜島の噴火には慣れている様で、混乱は見られない。
港から漕ぎ出す船もあり、至って正常。
駐屯地にしてもそう。
馬場で騎馬隊が調練に勤しんでいるが、乱れはない。
アリスは皆に同意を求めた。
『戦塵の気配がないわ。
たぶん、戦場は東ね』
『夕暮れ前には見つけたいわね』

 飛行隊は東へ飛んだ。
すると、島津家は日向地方で王国軍と対峙していた。
正確には、大隅へ侵攻して来た王国軍を日向まで押し返し、
都城盆地にて争っていた。
 盆地の城塞都市・都城を島津軍が占領したのに対し、
それを王国軍が奪還せんと、盆地の北東部に陣地を構築していた。
その兵力は十万余。
大淀川の対岸の丘に本陣を構え、都城を睨んでいた。
押し返された割には意気は軒昂、とても敗軍には見えない。
 島津軍は一部を都城に残し、王国軍を壊滅せしめんと、
大淀川へと前線を押し上げていた。
兵力は五万余。
王国軍の半分ではあるが、それは致し方ないこと。
王国軍が肥後地方から薩摩地方へ侵攻すべく、機を窺っていたので、
これ以上、兵力を割けなかったのだ。

 上空より手分けして偵察していた飛行隊が、
刻限と共に集合地点に集まった。
彼女達は戦に介入する為に来た訳ではない。
目的は魔物・キャメンソルにあった。
砂漠に棲むという駱駝の種から枝分かれした魔物を討伐せんと、
遥々、関東より飛行して来た。
相手はキャメンソルに騎乗した傭兵団なので、
直ぐに見つけられると高を括っていた。
ところが島津軍の野営地には影も形もなかった。
『どこに隠れているのか知らね』
 アリスの問にハッピーが応じた。
『千近い数の傭兵団なんだよね。
それなら飼葉や給水の観点から探して見ようか』

 夕暮れが迫っていた。
そんな中、飛行隊は分散して懸命に捜索を行った。
見つけられない。
現在の野営地から明日の展開を推測し、傭兵団の在り処を探し回った。
それでも見つけられない。
更に範囲を広げても空振り。
妖精の多くが疑問に思った。
『明日の戦闘に参加させないつもりなのか知らね』
 妖精の一人が口にした。
『もしかして、潜伏スキル持ちなの』
 キャメンソル自体が潜伏スキル持ちなのか、
傭兵団がそれらの魔道具を所持しているのか、詳しくは知らない。
知っているのはキャメンソル自体が臭い唾を吐くということ。
アリスは隊長として断を下した。
『今日はここまで。
夜襲に備えて国軍の後方に宿営するわよ』
 夜襲される国軍に味方する訳ではない。
夜襲するなら傭兵団の仕事と判断しただけ。

 国軍を見下ろせる山の峰で一夜を明かした。
その明かした早朝、広がる朝靄を縫って国軍が出撃した。
北へ迂回して浅瀬を渡河、島津軍の北側面への朝駆け。
一気に前線を抜いた。
 島津軍はもたつくも、適切に対応した。
遅滞戦術に切り替え、前線の再構築に着手した。

 数に勝る国軍が打った手は一つではなかった。
敵の耳目が北に向けられた瞬間を狙い澄ました一撃。
南からも大軍による攻勢に出た。
 島津軍はそちらへの対応は早かった。
北からの朝駆けを受け、そう読んでいたのだろう。
素早く前線を放棄し、第二列まで下がった。
そしてそこで隊列を厚くしての徹底抗戦。

 丘の上の国軍本陣も動いた。
何しろ敵勢は国軍の半分。
北と南に人員を割いているので、対岸には一万余しかいない。
チャンス到来とばかり、丘から本陣を前進させた。
川を挟んで圧力を加えるつもりでいた。

 観戦していたアリスは魔力の起こりを感じ取った。
なかなかに強烈な物。
複数の魔力が寄り集まり、一つの群れを形成していた。
それが四つ。
北で起こって、こちらへ向かって来ていた。
駆けて来る感じ。
『初めての感じる魔波ね』
 ハッピーが応じた。
『キャメンソルかも知れないな』
 群れは四つ。
魔物であり、同種である事は確か。
アリスはそちらに偵察を飛ばした。

 偵察に飛ばした四組が早々に戻って来た。
『キャメンソルと確認したわ。
体長6メートルほど、高さ4メートルほど、背中に瘤2つよ』
『十頭につき一頭が魔道具の【潜伏】を装着してるわ。
それを周囲に配すれば、一つの結界になるかもね』
『分散して野営してた様ね』
『背中の瘤と瘤の間に乗り手がいるわ。
まるで馭者みたいな感じよね』

 アリス達は全員総出で出迎えた。
勿論、高々度から。
今回、手出しするつもりはない。
途中介入は宜しくないので国軍に任せた。
打ち漏らしがあるだろうから、それで済まそうと簡単に考えた。
余裕で上からジッと下を観察した。
 群れの速度が早い。
ああ、あれか、砂漠より草地の方が走り易い。
その四つに分かれていた群れが徐々に一つに纏まって来た。
驚いた事に統率された動き。
前後左右、互いの距離を保って駆けて来た。
これは普通ではない。
快速か、準急か、急行か。
 この群れで、速度に乗った走り、これはスタンピードそのものだ。
キャメンソルのスタンピード。
6メートル4メートルサイズの魔物が千頭余。
河川にするとそれは大氾濫、山にすると大土石流。
その流れの先に居る者達に助かる術はあるのだろうか。

 妖精の一人がアリスに尋ねた。
『どうするの、国軍が飲み込まれちゃうよ』
『人と人の争いによ。
どちらが正しいとか、正しくないとか、訳の分からない理屈で争う連中よ。
ニャンの指示があれば別だけど、今は関与したくないわ』
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昨日今日明日あさって。(西部戦線は異状ばかり)1

2023-09-03 06:58:08 | Weblog
 俺はカトリーヌの顔を二度見した。
彼女が言外に言わんとする事は分かった。
ぼったくり。
たが、敢えて尋ねない。
じゃがね、じゃがじゃが。
藪を突っついて蛇を出したくない。

「伯爵様、当官は兼任の仕事が増えて忙しくなります。
そこで、伯爵様専用の連絡役を置きます」
 カトリーヌが意外な事を言う。
俺専用の連絡役、・・・なのか。
彼女の背後から副官が前に進み出た。
「エリス野田中尉です」
 疑問顔の俺にカトリーヌが言葉を継ぎ足した。
「調整局の局長兼任を申し渡されたの。
だから急ぎの用がある時はこの野田中尉にね」
 近衛軍調整局は、近衛と国軍、宮廷、三者の調整を担う役職。
アルバート中川中将がその局長だったのだが、
テックス小早川侯爵の一件に加担したのが露見し、
密かに逮捕隔離された。
対外的には病気療養という名目で休職。
実際には【奴隷の首輪】を装着の上、近衛軍内で尋問を受けていた。
おそらく、自白の内容を確認、余罪を調べた後に病死させられるだろう。

 局長が中将だから、カトリーヌも直ぐに中将とは言わないまでも、
何れは中将に昇進か。 
しかし、部外者が大勢いる場所なので、この場で話題にすべきではない。
カトリーヌから視線を外し、エリスに視線を向けた。
顔馴染みだが、改めて挨拶した。
「野田中尉、宜しくお願いします」

     ☆

 アリスとハッピーのエビス飛行隊は西へ向かった。
ただ、真っ直ぐにではない。
途中、寄り道をした。
まず、縁のある妖精の里に立ち寄った。
石鎚大樹海の中にそれはあった。
アリスの里と、こちらの里の長同士が姉妹なので大歓迎された。
 次に鳥形山麓のダンジョンに立ち寄った。
ハッピーがダンジョンスライムなので、
こちらのダンマスが立ち入りを許可してくれた。
こちらは地上に展開された平地ダンジョンで、中々面白かった。
湿地帯と岩山半々のダンジョンで、様々な魔物が生息していた。
所謂、地域限定の魔物も見られた。
勿論、討伐して魔卵や有為な部位を切り取った。
 三つ目は足摺岬の先の先にある大海洋。
そこで海棲の魔物を探した。
エビスの機体の完全耐水を信頼しつつ、
妖精魔法のウォータシールドで機体を覆い、
万全を期して魔物に戦いを挑んだ。
当然、ここでも切り取りを忘れない。

 予定より随分遅くなったが、大海洋からでもそれは見えた。
噴煙を吐く桜島。
山容は関東の富士山に似ていた。
故に西の富士山と呼ばれていた。
そこが寄親伯爵の島津家が治める地だ。
薩摩地方と大隅地方、そして薩南諸島。
王弟の前公爵・バーナード今川が匿われている地でもあった。
 エビス飛行隊の目的はバーナード今川ではない。
砂漠を渡って来たキャメンソルの傭兵団だ。
駱駝の種から枝分かれした魔物・キャメンソルの討伐をせんと、
遥々国都より飛んで来た訳だ。
キャメンソル、別名、唾かける魔物。
それも臭い唾を。

 アリス達は高々度より桜島を眺めた。
それは錦江湾の真ん中にあり、薩摩半島と陸続きであった。
御岳が五つ、綺麗に並んでいた。
真ん中に一際高い中岳、それを囲む様に北岳、東岳、南岳、西岳。
その五岳は今も営業中、噴煙を上げながら、時折、小爆発を起こし、
噴石を飛ばしていた。
『危ない』
 妖精の一人が南岳のくしゃみの予兆を先取りした。
ハッピーが指示した。
『ウィンドシールド展開』
 現在のエビス飛行隊は新隊員が増えて十五機。
うち新顔の妖精は四人。
妖精搭乗の十四機が妖精魔法を起動した。
これまでの訓練の成果か、互いの邪魔はせず、
熟れた順次でウィンドシールドを周囲に張り巡らして行く。

 エビス自体は小さい。
魔物・コールビーを模し、ちょっとだけ大きくしただけ。
大雑把に言えば、大き目のラグビーボール。
頭部、胸部、腹部を合わせて全長が70センチ。
胴回りは50センチ。
これに羽根と足が付いていた。
 材質は竜の鱗とミスリルを混ぜたセラミック。
二対四枚羽根、三対六本足。
頭部にコクピット、後尾にカーゴドア。
動力源は二つ、ワイバーンのキングとクイーンの魔卵を錬金で精錬し、
仕上げた魔水晶。

 エビスの口の両端の牙から妖精魔法が放たれた。
妖精十四人が連携してウィンドシールド層で飛行隊全体を包む。
当然、これにハッピーは参加しない。
ダンジョンスライム魔法が阻害因子になる懸念を考慮した。
飛行隊長・アリスが口にした。
『来るわ、衝撃に備えて』
 
 噴火音の大津波がシールド十四層を揺らした。
機体が揺れた。
『『『キャー』』』
 ほんの少し遅れて噴石が当たった。
速度があるだけに厄介だ、
人の頭ほどの物が一つ、二つ、三つ。
 シールド一枚目が壊れた。
二枚目も壊れた。
三枚目も壊れた。
大海洋の深海でもこんな事はなかった。
大きな魚体の突撃には耐えたのだ。

 それでも妖精達は編隊を崩さない。
誰一人として諦めない。
アリスが檄を飛ばした。
『これくらいで私達は負けない。
最後まで踏ん張るわよ』
 冷静な妖精が指示した。
『壊れた者は内側に新たに張り直すのよ。
絶対に諦めちゃ駄目、自信を持ちなさい』 
 遅れて来た噴煙がシールドを包んだ。
アリスが言う。
『ハッピー、火山の兆候を鑑定して』
『高過ぎて鑑定は無理だよ。
でも、様子から、そろそろ収まるみたいだよ』

 収まって来た。
アリスが言う。
『私とハッピーで下に向かう』
 妖精の一人が尋ねた。
『危ないわよ』
『下の大樹海を調べるだけよ』
 富士山の大樹海も調べた。
棲むのに適した環境ではなかったが、
それでも活火山に耐性のある魔物は存在した。
例えばドラゴン、フェニックスの類。
火山の一角に堅固な巣を構え、悠々と過ごしていた。
 妖精も少しは耐性があったが、好き好んで棲む環境ではなかった。
暑いのは平気でも、熱過ぎるのは、・・・。
そこへ向かうと言う。
ハッピーが拒否した。
『僕はやだよ。
僕はか弱いスライムなんだ。
焼肉への道連れは止めてよ』
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