金色銀色茜色

生煮えの文章でゴメンナサイ。

(注)文字サイズ変更が左下にあります。

昨日今日明日あさって。(大乱)265

2022-04-24 10:38:19 | Weblog
 敵の領都と神社は外壁一枚で隣り合わせ、完全に一体化していた。
共用の、外周の水堀は幅5メートル、水深5メートル。
外壁の高さも5メートル。
思いも寄らぬ堅固な鎧を纏っていた。
 アレックス斎藤伯爵は忸怩たる思いであった。
国軍駐屯地を落して、幸先良し。
それが躓いてしまった。
原因は分っていた。
水堀の完成を事前に知らなかった、それに尽きた。
分っていれば攻城戦用の兵器を牽いて来たものを・・・。

 主因は別にして、もう一つも彼を苛立たせた。
使番が次々に戻ってきて報告をした。
どの使番もが同様の言葉。
「拒否されました。
正面よりの攻撃に尽力するの一点張りです」
 領都も神社も、街道に面する西側に表門がある。
それを破るには橋を渡るしかない。
簡単だが、それが難しい。
敵が殆どの兵力を集め、的確に交替しながら、
外壁の上から強烈な反撃をして来るからだ。
それで伯爵はもう一つの門を探らせた。
 反対側の東に裏門がある。
橋も架けられている。
探らせると、そこが手薄であると判明した。
外壁上の兵が少ないのだ。
そこで寄子貴族を裏門に回そうとした。
が、命じた貴族達は拒否の回答。
頑として頷かない。

 拒否の理由は分っていた。
東門は大樹海に面していた。
つまり魔物との遭遇率が高い。
だから東門が一般人に開放されるとは思えない。
どう考えても、魔物の討伐に従事する冒険者専用だろう。
そこへの移動を命じられた貴族の拒否は正しい。
門を攻略するより先に、魔物によって背後を脅かされる。
下手すれば全滅の憂き目に遭う。
 さりとて手を拱いていられない。
公言していないが、今回の軍事行動の眼目は、
その大樹海の魔物にあった。
前の様な魔物の大移動などという生易しいものではなく、
魔物を狂暴化させて暴走させる事にあった。
要するに、スタンピード。
人の争いと血の臭いで誘い出し、西へ走らせる。
美濃から近江、そして山城へと絵図は描いた。
誘導する人員も配した。
その為の生贄が領都であり、神社であり、寄子貴族であるのだ。
既に自分の妻子は反対方向の紀伊地方の保養地へ送った。
後顧の憂いはない。

     ☆

 木曽の領都・ブルンムーンの街中は明かりで煌々としていた。
全ての建物が明かりを絶やさないのだ。
魔道具の灯りの消耗を恐れないどころか、
数を増やそうとして店に買いに走る者まで現れる始末。
外壁上で戦う者達の背中を支えようとする気概が見て取れた。
火矢が飛んで来てもそうで、街の者達が駆け寄って消すか、
小火の内に鎮火させた。

 敵の攻撃が止んだ頃合い、代官のカールは外壁に上がった。
連れは副官のイライザ一人。
二人で星明りを頼りに歩道部分を歩いた。
各所に防御用の兵の溜り場が設置してあり、
仮設の屋根も架けられていた。
寝床も用意されていた。
仮眠している兵は起こさず、張り番の兵に敵の様子を聞いて歩いた。
当方は小勢ではあるが、五分以上に渡り合っていた。
もっとも、これが長期戦になると、分が悪い。
こちらに兵の補充はない。

 カールは敵の様子を窺った。
街道沿いの各所に陣屋が見て取れた。
それらが何やら慌ただしい様子。
走り回っている者も散見された。
各所で火が焚かれ、その周りに大勢が集まっていた。
カールは目を凝らして観察した。
先に副官のイライザが報告した。
「敵は夜食の様ですが・・・、それともこの時刻になって夕食ですかね」
 炊事する者達と、出来上がりを待つ者達だ。
こちらの出撃を想定していない様で、皆が皆、武器を手放していた。
どうやら夕食の気配がぷんぷん。
夕食前にこの街を攻略するつもりだったのだろう。
それが遅れに遅れた。
今もって落していない。
橋すら奪っていない。
ついに諦めて夕食の配膳になったと。

 二人だけなのでイライザが気楽に言う。
「私が国都へ飛ぼうか」
 テイムした魔物・チョンボが長距離の飛行に慣れてきた。
国都までなら一回か二回の休憩を挟めば、問題なく飛べる筈だ。
「それでどうする。
子爵家の兵は少ない。
屋敷に残っているのは一個小隊だ」
「なのよねえ。
そこが問題なのよ。
どこかに加勢は頼めないの。
例えば王家とか」
「今の王妃様は殊の外、ダン様を優遇している。
それでも兵は割けないだろう。
ダン様も遠慮する。
王妃様は西にも東にも面倒を抱えているからな。
・・・。
うちの兄も子爵家だが、ここよりも兵が少ない。
養う地がないからな。
・・・。
とにかくダン様には知らせない。
知らせれば直ぐに飛んで来る気性だからな」
「普段は大人しいのに、そんな所があるわよね」
「だから代官を引き受けたんだ。
ここは我々だけで守り抜く」

 領都や神社に配備された正規兵は少ない。
領都の領軍は二個中隊、五百名。
これは大隊長のアドルフ宇佐美騎士爵が率いている。
神社の国軍は一個中隊二百五十名。
これでは籠城以外に選択肢はない。
 対する敵兵は万を超えていた。
欲目に見ても一万二千名から三千名。
これが前の伯爵であったなら優に二万を超えていたはず。
幸いだったのは人望のない現伯爵であったからだ。
纏まりも悪そう。
予想外の急襲であったが、そこまでだった。
運を使い果たしたのだろう。
そうカールは現状を弾いた。

 イライザが尋ねた。
「赤鬼やウォリアーを呼び寄せないの」
 傭兵団『赤鬼』。
冒険者クラン『ウォリアー』。
この二つには公表していない開拓村の警護を委ねていた。
ここと同じ様に水堀と外壁で守られた開拓村だ。
念を入れて魔物忌避の術式も施させた。
領都も大事だが、その開拓村も大事なのだ。
その付近でしか自生しない薬草があるのだ。
見逃すのが勿体ないので開拓村の運びになった。
だから守りから外せない。
「呼ばない」
「ではどうするの」
「各ギルドに依頼を出す。
戦闘の後方支援だ。
兵力を全て全面に出して、その後方で動いてもらう。
武器や防具の交換や修理、負傷した兵の搬送と治療、食事の用意。
とにかく思い付く限りの仕事を割り振る」
「お金が掛かるわよ」
「イライザ、お前だったら命か、お金か、どちらを選ぶ」
「どちらも選ばない。
貴方の隣だけよ」
 イライザの手がカールの背中に回された。
その時、咳が聞こえた。
「申し訳ありません」
 使番の兵が控えていた。
火急の用件らしい。

     ☆
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昨日今日明日あさって。(大乱)264

2022-04-17 10:23:28 | Weblog
 二人は競うように、我勝ちな説明に終始した。
これがテストの答案なら零点だ。
まあ、この二人だから・・・。
泡を喰う事態が出来した、そう理解した。
俺は二人の口から出た言葉から推測した。
『つまりアレックス斎藤伯爵が俺の領都を攻めてる、と』
 現在の美濃地方の寄親はアレックス斎藤伯爵。
前の寄親・バート斎藤伯爵の嫡男である。
木曽から発した魔物の大移動を阻止したバート斎藤は、
その功績でもって陞爵、侯爵にして評定衆の一員。
今は国都に居住しているので、
美濃の嫡男までは目が行き届いていない。
世評は、出来る親、比べて怠慢な嫡男。
怠慢伯爵が俺の領地を攻めているとは・・・、理解できない。

『そうなのよ。
木曽ダンジョンからここに戻ろうとしたら、
領都の方がやけに騒がしいじゃない。
それで立ち寄って見たら、そうなのよ』
『ピー、領都と神社が軍勢に攻められていたよ』
 神社は、佐藤家のご先祖様『白銀のジョナサン様』を祀るもの。
まだ完成していないが、ほぼ城。
名目は王家創建の神社であるが、
一角が国軍の駐屯地として活用される予定でもあった。
それが俺の領都・ブルンムーンと隣り合わせ。
大事な点を確認した。
『領都の水堀は出来てたかい』
 都合上、先に外壁を造り、次に街造りに着手、
外回りの水堀は後回しにされていた。
『完成していたわ』
 だとすると水堀は幅5メートル、水深5メートル。
外壁の高さも5メートル。
水堀完成後には外壁を10メートルにする予定であったが、
取り敢えず、現在の水堀と外壁で防御は出来ると信じたい。

『防御出来てるかい』俺は尋ねた。
『今のところはね』アリスが応じた。
 領地の兵力、領軍は二個中隊、五百名。
率いるのは大隊長のアドルフ宇佐美騎士爵。
神社にも兵力が置かれていた。
建設中ではあるが、国軍の一個中隊二百五十名が駐屯していた。
建設の進捗管理と魔物への対処が名目であった。
 他にも兵力と呼べる者達がいた。
冒険者、木曽の大樹海で稼いでいる者達だ。
平野での対人戦は拒むだろうが、外壁内での防御なら否はないだろう。
依頼料も代官のカールが弾む筈だ。
競って協力してくれる・・・と信じたい。
 それに、こちらに優位な点が一つ。
街造りの為に、お金に物を言わせて魔法使いを多数雇っていた。
主体は土魔法使い。
彼等なら外壁の補強はお手の物。
籠城戦では最大の武器になる・・・そう信じたい。

 これ以上の会話は不要。
木曽に駆け付けねばならない。
領地の者達を助ける為だ。
自分の手の届く範囲の者達は誰一人、死なせはしない。
例え、望んでも死なせはしない。
 俺は魔女魔法を起動した。
まず光学迷彩スキル、そして時空スキル。
部屋から直接、遥か上空へ。
国軍や近衛軍の魔法使いの認識範囲外に転移した。
そこにはコールビータイプのエビスゼロとエビス一号がいた。
『戦うのね』
『ペー、ぺちょんぺちょんにしてやるっペー』

 アリスとハッピーもやる気満々。
二人が先導した。
全力全開、今までにない速度で飛行して行く。
俺は転移転移を繰り返し、二人に遅れずに付いて行く。

 国都の夜景は何時もの美しさだったが、近江地方は違った。
琵琶湖の湖面が、星空と湖畔の町々の明かりで照り映え、
それはそれは恐ろしいまでの美しさ。
戦が近くであるとは、とても思えない。
 それが美濃地方の領都に来ると、一変した。
戦を知覚しているかの様で、街全体の明かりが少ない。
息を凝らして戦から遠ざかろうとしているのかも知れない。

 地方には国軍駐屯地があり、千名から二千名が駐屯していた。
ここ美濃もそう。
その駐屯地を探そうとしたが、探すまでもなかった。
領都から少し離れた地点が燃えていた。
あれがそうなんだろう。
 アリスとハッピーに声かけて、その上空に転移した。
視力を強化した。
壊された外壁、破られた表門と裏門、焼き討ちされた建物群。
至る所に死体が見えた。
まるで投げ散らされたかの様。
国軍の兵装だけではない。
伯爵軍と思える兵装の死体もあった。
生存者なし。
全員が息絶えていた。
伯爵は敵味方の戦死者を弔わず、急ぎ木曽に向かったのだろう。

 念の為に探知スキル。
思っていた通りだ。
闇夜に紛れて多数の魔物が接近していた。
それも急接近。
奴等の狙いは死体だろう。
死体が喰われるのを見過ごしには出来ない。
 俺は火魔法を起動した。
選択したのは範囲攻撃魔法・ファイアストーム。
駐屯地を中心とした一帯。
放った。

 一瞬で狙ったエリアが暴力的な熱さの炎で包まれた。
高度にまで微かな熱が伝わって来た。
それでも思っていたよりもMPの消費が少ない。

     ☆

 アレックス斎藤伯爵は本陣にいた。
苛立っていた。
全て己の手の内、そう思っていた。
なのに、この状況・・・。

 事前に寄子の貴族達に命じて置いた。
名目は王宮から下命とした。
「美濃駐屯の国軍と木曽領地の領主が関東代官に組した。
近いうちに反乱の兵を起こす。
よって、その討伐を美濃の寄親伯爵に命ず。
混乱を招かぬ様に、速やかに芽の内に摘み取れ」
 捏造だが、疑う者はいなかった。
伯爵が国都にずっと滞在していたので、一片たりとも考えなかった。

 伯爵は美濃に戻ると、反乱軍を想定した演習として、
美濃地方全体から兵を集めた。
そして国軍駐屯地を奇襲し、殲滅した。
初動は上手く行った。
次の木曽の兵力も把握していた。
国軍よりも少ない。
練度も国軍より低いと認識していた。
なのに、阻まれた。

 外壁があるのは分っていた。
しかし、水堀は違う。
聞いていない。
寄子の貴族達も知らなかった。
お陰で水堀越しでしか攻撃できない。
街道に面する表門に橋が架けられているが、一歩も踏み込めない。
弓や魔法で狙い撃ちされ、兵を失うばかり。
 それは神社側も同様。
領都よりも兵力に乏しい筈だが、手も足もでない。
魔法使いを全面に出して攻撃させたが、これも無駄だった。
外壁上の敵兵は盾の陰に隠れるばかり。
そこで外壁の破損に狙いを絞ったが、これも効果がなかった。
敵に土魔法使いが大勢いる様で、即座に補修してしまうのだ。
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昨日今日明日あさって。(大乱)263

2022-04-10 10:38:33 | Weblog
 兵集めに難渋したのか、伯爵当人が当家を訪れた。
アポ取りしてから来訪だったので、俺は面会に応じるしかなかった。
刻限近くになったので三階から下を見下ろした。
几帳面かどうかは知らないが、ちょうど馬車が入って来た。
護衛騎士は四騎。
同時に玄関前に当家の執事と手空きのメイド達が整列した。
 あちらの馬車が馬車寄せに止まると、
護衛の女性騎士がエスコート役に早変わり。
一人二人三人と降りて来た。
一人目はあちらの執事。
それらしい恰好をしていた。
二人目はあれが当主なのだろう。
ハウザー松平伯爵は貫禄があった。
腹が出ていた。
三人目は見知った顔。
娘のセリナ松平だ。
夫人はいない。
亡くなったのか、離縁したのか、病なのか、それは知らない。
知りたくもない。

 執事のダンカンが俺を呼びに来た。
「皆様を応接室に案内致しました」
「それで、伯爵の様子は」
「面倒臭そうな方です」
「なら少し待たせてみるか」
「良いのですか、伯爵様ですよ」
「いいんじゃないか。
僕の寄親でも、お世話になった方でもないだろう」
 前に、こちらが領地の木曽大樹海で娘・セリナ一行を保護した。
なのに、その後に、挨拶に来たのは執事のみ。
伯爵からの感謝の言葉を伝えられ、御礼の金銭を渡された。
それは、それは、心の籠っていない謝意と金銭だった。
あれが伯爵にとっての、セリナの価値なのだろう。

 俺が応接室に入ると、セリナと執事は立ち上がって迎えてくれた。
だが、肝心の伯爵はジロッと俺を一瞥したのみ。
目が濁っていた。
目が病ではなく、心が病んでいるのだろう。
俺はユニークスキル、演技☆を起動した。
慇懃無礼。
俺が、「お待たせ致しました」と口にすると、伯爵はようやく腰を上げた。
そして言う。
「随分、待たせたな」
 廊下でメイドに聞いた話しによると、伯爵は珈琲を三杯もお代わりし、
お茶菓子の盆を空にした。
それで満腹の筈なのに、伯爵からは、ささくれ立つ感しか窺えない。
待たされて怒っているのか。
ああ、そうか。
格下である筈の子爵に待たされたからか。
それは悪かったね。

「それではお話をお伺いしましょうか」
 俺は伯爵の正面に腰を下ろした。
こんな奴の相手はしたくないのだが、そこが浮世の辛さ。
同じ貴族なのだ。
逃げる訳には行かない。
 メイド達が優雅に動き回った。
まず俺に珈琲を差し出した。
次に伯爵達の珈琲も入れ替えた。
お茶菓子の盆も入れ替えた。

 メイド達が壁際に退くと伯爵が口を開いた。
「知っての通りだ。
兵を供与してくれんか」
 供与ときた。
前回の奴の使いは、兵を貸してくれ、そう言っていた。
貸与から供与に。
貸与と供与では、随分と意味が異なる。
俺は即座に拒否した。
「お断りします」
 伯爵が表情を変え、身動ぎした。
少し前屈みになり、俺を見据えて横柄な物言い。
「断るだと、子爵風情が。
美濃の者は話しが通じぬ奴ばかりだな」
 美濃の他の貴族達にも声をかけた。
それで、何れからも断られた。
そういう事なんだろう。

 地方在住の下級貴族はその地方を治める伯爵の差配下にある。
所謂、寄親と寄子という関係になる。
俺にしてもそう。
王宮から国都に屋敷を賜るという特例的な叙爵陞爵となったが、
形としては美濃伯爵家の下に置かれた。
そんな下級貴族へは、中央からの指示は寄親を通して来る。
もっとも、俺の場合は、幾度か、伯爵を素通りして来た。
が、それは伯爵を慮ってノーカン扱いなのだろう。
まあ、それはそれとして、三河の寄親伯爵が美濃の寄親伯爵を無視して、
その寄子へ兵力の貸与や供与を迫る事は有り得ない。
俺はダンカンに声をかけた。
「お客様のお帰りだ。
ご案内して差し上げろ」

 伯爵は腰を上げない。
珈琲に手を伸ばした。
一口、口にして言う。
「若い奴は物を知らぬ。
よく考えろ、手柄を立てる機会ではないか。
兵を伴って東進すれば、手柄は立て放題ではないか」
 俺から視線を外して、残りを飲み干した。
はて、手柄の立て放題・・・。
それは兵を率いた伯爵の物ではないか。
「木曽の大樹海は大兵力では通れません。
それはご存知ですよね」
「織田殿はゴーレムを率いた大兵力で三河に入ったではないか」
 その辺りの事情を聞かされていないのか。
もしかすると、説明する程の者ではない、王宮にそう判断されたのだろう。
たぶん、そうだ。
当初から、蚊帳の外。

「織田様は随分前から小刻みに兵力を三河に送っておられました。
早朝に五十から百、昼にも五十から百。
大兵力を一度に投入された訳では御座いません。
手間をかけて兵を送られ、何処かへ隠され、機を見て出撃された、
そう漏れ聞いております」
 俺は詳細な説明は省いた。
王宮が省いているので問題はないだろう。
正解が知りたければ三河に戻り、寄子の貴族に尋ねればいい。
伯爵が目を泳がした。
「そう・・・、そうか。
であれば織田殿が通った道筋を知りたい。
教えてくれんか」
 多少は知恵が回るようだ。
その道筋が肝要なのだ。
が、教えん。
教える義理がない。
「申し訳ない、私は王都に居りましたので、何も知りません。
織田伯爵家に尋ねられて如何ですか」

 その日は妙な疲れが残った。
奴のせいだ。
三河の何とかいう伯爵様・・・。
名は知ってるけど、忘れよう。
早目にベッドに入った。
 こんな日でも呼吸法は忘れない。
丹田に気を集めて精錬した。
それにイメージを上乗せした。
無病息災、無病息災、無病息災。
千吉万来、千吉万来、千吉万来。
これ以上、健康になって、大吉が訪れると、どうなるのだろう。

『てえへんだ、てえへんだ』
 念話が飛び込んで来た。
眷属妖精のアリスだ。
このところ脳筋から脱したと思っていたが、違ったらしい。
『パー、親分、てえへんだっぺー』
 こちらは眷属ダンジョンスライム。
探知すると二人は屋敷の上空にいた。
俺は呼吸法を中断した。
『どうした』
『木曽が攻められてるわよ』アリスが答えた。
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昨日今日明日あさって。(大乱)262

2022-04-03 10:50:38 | Weblog
 執事が丁寧に言う。
「皆様、当家の招きに応じて頂き、誠にありがとうございます。
深く御礼申し上げます。
これよりほんの少しですが、皆様のお目と、お耳をお貸し下さい。
当家の主がご挨拶いたします」
 言い終えた執事が階上を振り返った。
二階部分には、落ち着いた紺色に染め上げられた幕が張られていた。
当主の意向なのか、家風なのか、それは知らない。
その幕が、左右に引き開けられた。
中には主催者側の家族がいた。
玄関で顔を会わせた全員が揃っていた。

 俺の耳元に執事・ダンカンが囁いた。
「公爵様や侯爵様が数家、ご当人様の姿がございます」
 生憎、俺は区別がつかない。
公爵も侯爵も、伯爵も、子爵も男爵も、金銭で得られる爵位もだ。
誰が何爵やら。
しかし、先ごろ亡くなった国王の、実弟二人の公爵家は姿を消したが、
妹や叔父や叔母の公爵家は存続していた・・・のか。
夜会にのうのうと出席している場合か。
何とも・・・。

 階上の伯爵が一歩前に進み出た。
会場全体をゆっくり見回した。
嬉しそうに口を開く。
「ようこそお出で下さいました。
私も家族も、深く、深く、感謝いたします」
 伯爵が軽く頭を下げた。
それに合わせて後ろの家族も全員が頭を下げた。
んっ、会場にいるのは、多くが下位の貴族だ。
そんな有象無象に軽くとはいえ、頭を下げるのか。
・・・、二階の高い位置からだから、釣り合いが取れるのか。
んんんっ、分らん、貴族の常識は・・・。
心に留めておこう。

 伯爵は軽妙な語り口で笑いを誘い、聴衆を魅了した。
俺は感心する傍ら、ダンカンからの事前の説明を思い出した。
 この家の出自は商家であった。
それが金銭で爵位を買った。
下大夫爵。
次に上大夫爵。
その初代が一揆に巡り合わせた。
機を逃さなかった。
運が良かったと言えるかも知れない。
 畿内での勃発を知るや、国都に押し寄せた難民を保護し、
テントや食料を与えた。
一揆平定の任にある国軍にも伝手のある貴族を通して物資を提供した。
これが功を奏した。
伝手のある貴族の後押しもあったのだろうが、爵位を授かった。
男爵。
 今は五代目。
副業として分家に商いを行わせる家もあるが、この家は違う。
陞爵して伯爵になっても、商家の顔は捨てない。
屋敷の中に本店機能を持っていた。

 伯爵が乾杯で挨拶を終えた。
途端、八人編成の室内楽団が本気の演奏を開始した。
世相を打ち消すかの様な、派手派手な曲が投入された。
子供コーナーへ移動しようとしていた俺は思わず足を止め、聞き入った。
畿内は今の所、平穏だが、東西へは反乱平定の軍が発せられていた。
敵味方双方の血が大量に流されていた。
曲は、それを忘れ去ったかの様な感がした。
この曲は伯爵の意図なのだろう。
その想いは・・・。

 横合いから声をかけられた。
「佐藤子爵様」
 振り向くと久しぶりの方がいた。
ジャニス織田だ。
先代の織田伯爵の側室の娘で、
レオン織田伯爵にとっては腹違いの妹になる。
彼女は魔法学園の紫色のロープを着用していた。
フードを外し、眩しい笑顔を俺にくれた。
「ダンタルニャン様で宜しくて」
 俺は彼女の笑顔に魅了され、言葉を失っていた。
いかん、いかん、これは。
俺の二つ上だから十三才。
これでは俺、ロリコンではないか。

 俺は辛うじて一言を口にした。
「ジャニス殿、ダンとお気軽に」
「そう、ではダン様」
「様ではなく、ダンで」
 ジャニスが気難しそうな顔をした。
「昔ならダンでしたけど、今は子爵様でしょう。
それに対して私は伯爵家のただの家族、爵位など御座いません。
ですからダン様で」
 彼女の後ろの守役・エイミーともう一人が頷いた。
エイミーとは顔見知りだが、もう一人は知らない。
見た感じ執事見習いか。
俺は強要するのは止めた。
「ではそれで。
時にジャニス殿、お兄様はお元気ですか」
 鎌をかけてみた。
ジャニスは疑問のない表情で応じた。
「お兄様はお忙しそうです。
ゴーレムの材料が足りないとかで、
紀伊の方とか、丹後の方へ足を伸ばされています」
 どうやら機密は守られているようだ。
俺は話しを変えた。
「子供達は向こうみたいです。
一緒に参りませんか」

 それから二日後、王宮から東の戦況が報じられた。
レオン織田伯爵率いるゴーレム部隊が、
三河を占拠していた反乱軍を撃退したと。
投入された軍事用ゴーレムの数や、共に発した兵力は知らされないが、
国都の民にとっては朗報だった。
その夜は繁華街の灯りが消えることはなかった。

 翌日、俺の手元にカールからの手紙が届いた。
レオン織田伯爵軍についてだ。
軍事用ゴーレムは、レオンの性格か、きっちり百体。
使役する管理者百名。
その副官百名。
管理者と副官の護衛計六百名。
ゴーレムに従い戦線を構築する兵士計千名。
司令部隊と付隊、計千名。
これでもって三河に進撃したという。
 呆れた。
ゴーレムの数もだが、生身の兵力もだ。
よくここまで送り込めたものだ。

 レオン織田伯爵軍は短期間で三河を奪取すると、
休みも取らず遠江に進撃した。
今は反乱軍を撃退しながら真東に向かっているという。
駿河も目の前とか。
 王宮から、国都に逼塞を余儀なくされていた三河、遠江、駿河、
それぞれの寄親伯爵に告示がなされた。
直ちに軍を起こし、寄親としての役目を果たす様にと。
こうなると手元の兵が少ないからとは言い逃れできない。
縁戚の貴族から兵を借りるか、
傭兵ギルドに声をかけるかしか選択肢がなかった。
 だが、西の反乱が収まる気配がないので、兵集めには苦労した。
それで各寄親の周辺から不平不満が漏れ聞こえた。
「国軍を貸し出せ」
「冒険者で軍を編成しては駄目なのか」
「奴隷兵を許可しろ」等々。
 当家にも兵借用の使いが来た。
「近い誼で兵を貸して下され」
「当家は魔物の間引きで手一杯です」そう断った。
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