俺はケイトともう一人を置き去りにして山に駆け込んだ。
探知スキルで二人の現在位置を確認した。
すると二人は揃って麓で動きを止めていた。
追跡を諦め、下山を待つつもりらしい。
鑑定スキルを連動させ、ケイトの連れを調べた。
「名前、カール。
種別、人間。
年齢、二十九才。
性別、雄。
住所、足利国山城地方国都住人。
職業、冒険者。
ランク、C。
HP、125。
MP、45。
スキル、剣士☆☆、水の魔法☆」
思わず足を止めた。
住所が足利国。ランクCの冒険者。
父から聞かされていた人物に違いない。
ただ、二つのスキルに関しては聞かされていない。
剣士☆☆、水の魔法☆。
咎めることではない。
鑑定する機会がなければ本人でさえも知らないのだ。
たとえ知っていてもスキルを告知する必要はなかった。
スキルは隠し武器扱いになるので、秘匿して当たり前。
それが普通であった。
HPは良いとして、気になるのがMPだ。
中途半端な数字、45。
村の神社の宮司はHPが85で、MPは115だった。
ランクはHPが優先されるのでD。
スキルは水の魔法☆。
職業柄、水の魔法系の治癒に特化していた。
そういう宮司も火の魔法は発動できても、
スキル獲得にまでは至っていない。
それに比べるとカールの、「MP45、水の魔法☆」は異質である。
50以下のMPでスキル持ちということは、魔法学園卒業ではなく、
個人的に学びながら魔素量を増やし、
MPを効率的に発動できる方法を身に付け、ということだろう
いわゆる、「先天的な魔法使い」というより、
「後天的な魔法使い」と呼ぶ方が相応しいかも知れない。
あるいは、「野良の魔法使い」か。
国都の幼年学校を卒業している、とも聞いていた。
国軍の大尉、退職してランクCの冒険者、今は半期雇用で事務員。
願ってもない経験豊富な人材が現れた。
視線の先、遠くの木陰に隠れている派手な鳥を見つけた。
それも二羽。
大吉のお告げなのか、と笑みが溢れた。
カールはケイトを宥め、ダンタルニャンの性格を聞いていた。
「私を置き去りにするけど、意地悪じゃないからね。
私を疲れさせたくないみたいなの。
守り役だからといって、そこまでする必要はないよって。
優しいのよ」
「どうして、そうまでして山の中を走り回っているんだ」
「冒険者の基本は足腰だって言ってるわ」
「冒険者・・・。
村長から聞いていたが、本気だったんだ」
「そうよ。本気も本気。
人に仕えるより冒険者になって旅をしたい、それが口々よ。
今も子供だけど、小さな頃から言っていたわ」
背後で草を踏み潰す小さな足音がした。
カールは直ぐに振り返り、短剣の柄に手を伸ばした。
隣でケイトも身構えた。
木立の向こうの藪から声がした。
「俺だよ、俺」
藪の脇からダンタルニャンが姿を現した。
左右の手に極楽鳥を下げ、ゆっくり歩み寄って来た。
美しい長羽で身を包む見目麗しい鳥だ。
長い羽がダンタルニャンの足首まで垂れ下がっていた。
思わずケイトが声を漏らした。
「綺麗・・・。
どうしたの、それ」
この辺りでは滅多に見掛けない渡り鳥だ。
「途中の枝に止まっていたから、狩ってきた。
羽を欲しがっていただろう」二羽をケイトに差し出す。
「私が貰って良いの」顔を綻ばせた。
「いつもいつも面倒かけてるから、そのお詫び。
遠慮せずに貰ってよ」
カールはケイトが受け取った二羽を見て、思わず首を捻った。
矢で射た疵がない。
血も流していない。
それ以前にダンタルニャンは弓を所持していない。
疑問が顔に出たのだろう。
ダンタルニャンが言う。
「これだよ、これ」腰の袋から何かを取り出して、放り投げた。
カールは親指より少し大きめの小石を受け取った。
加工して磨いた形跡があった。
「礫打ちか」
カールの言葉にダンタルニャンが頷いた。
カールは呆れながら、極楽鳥に視線を戻した。
確かに二羽の喉の羽毛に乱れがあった。
極楽鳥の価値はその美しい羽にある。
その美しい羽を損ねないように喉を狙ったのだろう。
どのくらい離れていたのかは知らないが、この細い喉を・・・。
腕に自信があっても、狙って当てられるものではない。
それも二羽・・・。
アンソニー佐藤は息子とカールの様子をそれとなく見ていた。
思いの外、上手くいっていた。
息子は山に入っても、以前よりも早く戻ってきて、
カールの指導を従順に受けていた。
それにケイトが連れ立っているのは計算外ではあったが、
咎めなかった。
そもそもが守り役なので、見て見ぬふりをした。
十日もした頃、カールを呼び出した。
「調子はどうだ」
「ご覧になっているように、何の問題もありません」
「組み稽古もやっているようだが」
村の子供の武芸稽古では、
十才以下の子供の組み稽古は禁止していた。
子供は熱中すると我を忘れ、乱暴になるからだ。
「すみません。
私の判断で、組み稽古を入れました」
「任せたから、それは良い。
それでどうなんだ」
「ダンタルニャン様は子供とは思えません。
熱くはなりますが、根っ子のところは冷静です。
私より大人な気がします」
アンソニーは苦笑いを浮かべた。
「そうなのか。
・・・。
そう言えば、怒ったところを見たことがないな」
「どうやら猫を被っていられるようですね」
「猫を・・・」
「本気になると相手を怪我させる、と思われ、
組み稽古は口にされないのでしょう」
「そこまでの腕前か・・・」首を捻った。
「攻める早さでは村一番ではないでしょうか。
私でも受け止めるので手一杯です。
あれに大人の力でも備われば、私でも受け止められません」
アンソニーは思わず机に両手を置いた。
「お主が手を抜いている、と見ていたが、本気だったのか」
「ええ、才能があります。
私なら幼年学校を卒業したら冒険者ではなく、騎士学校を勧めます」
「騎士学校か、入学試験は厳しいと聞いているが」
「確かに厳しいですが、ダンタルニャン様がこのまま真っ直ぐ育てば、
何の問題もないでしょう」
★
ランキングの入り口です。
(クリック詐欺ではありません。ランキング先に飛ぶだけです)
★
触れる必要はありません。
ただの飾りです。
探知スキルで二人の現在位置を確認した。
すると二人は揃って麓で動きを止めていた。
追跡を諦め、下山を待つつもりらしい。
鑑定スキルを連動させ、ケイトの連れを調べた。
「名前、カール。
種別、人間。
年齢、二十九才。
性別、雄。
住所、足利国山城地方国都住人。
職業、冒険者。
ランク、C。
HP、125。
MP、45。
スキル、剣士☆☆、水の魔法☆」
思わず足を止めた。
住所が足利国。ランクCの冒険者。
父から聞かされていた人物に違いない。
ただ、二つのスキルに関しては聞かされていない。
剣士☆☆、水の魔法☆。
咎めることではない。
鑑定する機会がなければ本人でさえも知らないのだ。
たとえ知っていてもスキルを告知する必要はなかった。
スキルは隠し武器扱いになるので、秘匿して当たり前。
それが普通であった。
HPは良いとして、気になるのがMPだ。
中途半端な数字、45。
村の神社の宮司はHPが85で、MPは115だった。
ランクはHPが優先されるのでD。
スキルは水の魔法☆。
職業柄、水の魔法系の治癒に特化していた。
そういう宮司も火の魔法は発動できても、
スキル獲得にまでは至っていない。
それに比べるとカールの、「MP45、水の魔法☆」は異質である。
50以下のMPでスキル持ちということは、魔法学園卒業ではなく、
個人的に学びながら魔素量を増やし、
MPを効率的に発動できる方法を身に付け、ということだろう
いわゆる、「先天的な魔法使い」というより、
「後天的な魔法使い」と呼ぶ方が相応しいかも知れない。
あるいは、「野良の魔法使い」か。
国都の幼年学校を卒業している、とも聞いていた。
国軍の大尉、退職してランクCの冒険者、今は半期雇用で事務員。
願ってもない経験豊富な人材が現れた。
視線の先、遠くの木陰に隠れている派手な鳥を見つけた。
それも二羽。
大吉のお告げなのか、と笑みが溢れた。
カールはケイトを宥め、ダンタルニャンの性格を聞いていた。
「私を置き去りにするけど、意地悪じゃないからね。
私を疲れさせたくないみたいなの。
守り役だからといって、そこまでする必要はないよって。
優しいのよ」
「どうして、そうまでして山の中を走り回っているんだ」
「冒険者の基本は足腰だって言ってるわ」
「冒険者・・・。
村長から聞いていたが、本気だったんだ」
「そうよ。本気も本気。
人に仕えるより冒険者になって旅をしたい、それが口々よ。
今も子供だけど、小さな頃から言っていたわ」
背後で草を踏み潰す小さな足音がした。
カールは直ぐに振り返り、短剣の柄に手を伸ばした。
隣でケイトも身構えた。
木立の向こうの藪から声がした。
「俺だよ、俺」
藪の脇からダンタルニャンが姿を現した。
左右の手に極楽鳥を下げ、ゆっくり歩み寄って来た。
美しい長羽で身を包む見目麗しい鳥だ。
長い羽がダンタルニャンの足首まで垂れ下がっていた。
思わずケイトが声を漏らした。
「綺麗・・・。
どうしたの、それ」
この辺りでは滅多に見掛けない渡り鳥だ。
「途中の枝に止まっていたから、狩ってきた。
羽を欲しがっていただろう」二羽をケイトに差し出す。
「私が貰って良いの」顔を綻ばせた。
「いつもいつも面倒かけてるから、そのお詫び。
遠慮せずに貰ってよ」
カールはケイトが受け取った二羽を見て、思わず首を捻った。
矢で射た疵がない。
血も流していない。
それ以前にダンタルニャンは弓を所持していない。
疑問が顔に出たのだろう。
ダンタルニャンが言う。
「これだよ、これ」腰の袋から何かを取り出して、放り投げた。
カールは親指より少し大きめの小石を受け取った。
加工して磨いた形跡があった。
「礫打ちか」
カールの言葉にダンタルニャンが頷いた。
カールは呆れながら、極楽鳥に視線を戻した。
確かに二羽の喉の羽毛に乱れがあった。
極楽鳥の価値はその美しい羽にある。
その美しい羽を損ねないように喉を狙ったのだろう。
どのくらい離れていたのかは知らないが、この細い喉を・・・。
腕に自信があっても、狙って当てられるものではない。
それも二羽・・・。
アンソニー佐藤は息子とカールの様子をそれとなく見ていた。
思いの外、上手くいっていた。
息子は山に入っても、以前よりも早く戻ってきて、
カールの指導を従順に受けていた。
それにケイトが連れ立っているのは計算外ではあったが、
咎めなかった。
そもそもが守り役なので、見て見ぬふりをした。
十日もした頃、カールを呼び出した。
「調子はどうだ」
「ご覧になっているように、何の問題もありません」
「組み稽古もやっているようだが」
村の子供の武芸稽古では、
十才以下の子供の組み稽古は禁止していた。
子供は熱中すると我を忘れ、乱暴になるからだ。
「すみません。
私の判断で、組み稽古を入れました」
「任せたから、それは良い。
それでどうなんだ」
「ダンタルニャン様は子供とは思えません。
熱くはなりますが、根っ子のところは冷静です。
私より大人な気がします」
アンソニーは苦笑いを浮かべた。
「そうなのか。
・・・。
そう言えば、怒ったところを見たことがないな」
「どうやら猫を被っていられるようですね」
「猫を・・・」
「本気になると相手を怪我させる、と思われ、
組み稽古は口にされないのでしょう」
「そこまでの腕前か・・・」首を捻った。
「攻める早さでは村一番ではないでしょうか。
私でも受け止めるので手一杯です。
あれに大人の力でも備われば、私でも受け止められません」
アンソニーは思わず机に両手を置いた。
「お主が手を抜いている、と見ていたが、本気だったのか」
「ええ、才能があります。
私なら幼年学校を卒業したら冒険者ではなく、騎士学校を勧めます」
「騎士学校か、入学試験は厳しいと聞いているが」
「確かに厳しいですが、ダンタルニャン様がこのまま真っ直ぐ育てば、
何の問題もないでしょう」
★
ランキングの入り口です。
(クリック詐欺ではありません。ランキング先に飛ぶだけです)
★
触れる必要はありません。
ただの飾りです。