金色銀色茜色

生煮えの文章でゴメンナサイ。

(注)文字サイズ変更が左下にあります。

昨日今日明日あさって。(戸倉村)21

2017-12-31 07:14:28 | Weblog
 俺はケイトともう一人を置き去りにして山に駆け込んだ。
探知スキルで二人の現在位置を確認した。
すると二人は揃って麓で動きを止めていた。
追跡を諦め、下山を待つつもりらしい。
 鑑定スキルを連動させ、ケイトの連れを調べた。
「名前、カール。
種別、人間。
年齢、二十九才。
性別、雄。
住所、足利国山城地方国都住人。
職業、冒険者。
ランク、C。
HP、125。
MP、45。
スキル、剣士☆☆、水の魔法☆」
 思わず足を止めた。
住所が足利国。ランクCの冒険者。
父から聞かされていた人物に違いない。
ただ、二つのスキルに関しては聞かされていない。
剣士☆☆、水の魔法☆。
咎めることではない。
鑑定する機会がなければ本人でさえも知らないのだ。
たとえ知っていてもスキルを告知する必要はなかった。
スキルは隠し武器扱いになるので、秘匿して当たり前。
それが普通であった。
HPは良いとして、気になるのがMPだ。
中途半端な数字、45。
 村の神社の宮司はHPが85で、MPは115だった。
ランクはHPが優先されるのでD。
スキルは水の魔法☆。
職業柄、水の魔法系の治癒に特化していた。
そういう宮司も火の魔法は発動できても、
スキル獲得にまでは至っていない。
それに比べるとカールの、「MP45、水の魔法☆」は異質である。
50以下のMPでスキル持ちということは、魔法学園卒業ではなく、
個人的に学びながら魔素量を増やし、
MPを効率的に発動できる方法を身に付け、ということだろう
いわゆる、「先天的な魔法使い」というより、
「後天的な魔法使い」と呼ぶ方が相応しいかも知れない。
あるいは、「野良の魔法使い」か。
 国都の幼年学校を卒業している、とも聞いていた。
国軍の大尉、退職してランクCの冒険者、今は半期雇用で事務員。
願ってもない経験豊富な人材が現れた。
 視線の先、遠くの木陰に隠れている派手な鳥を見つけた。
それも二羽。
大吉のお告げなのか、と笑みが溢れた。

 カールはケイトを宥め、ダンタルニャンの性格を聞いていた。
「私を置き去りにするけど、意地悪じゃないからね。
私を疲れさせたくないみたいなの。
守り役だからといって、そこまでする必要はないよって。
優しいのよ」
「どうして、そうまでして山の中を走り回っているんだ」
「冒険者の基本は足腰だって言ってるわ」
「冒険者・・・。
村長から聞いていたが、本気だったんだ」
「そうよ。本気も本気。
人に仕えるより冒険者になって旅をしたい、それが口々よ。
今も子供だけど、小さな頃から言っていたわ」
 背後で草を踏み潰す小さな足音がした。
カールは直ぐに振り返り、短剣の柄に手を伸ばした。
隣でケイトも身構えた。
 木立の向こうの藪から声がした。
「俺だよ、俺」
 藪の脇からダンタルニャンが姿を現した。
左右の手に極楽鳥を下げ、ゆっくり歩み寄って来た。
美しい長羽で身を包む見目麗しい鳥だ。
長い羽がダンタルニャンの足首まで垂れ下がっていた。
 思わずケイトが声を漏らした。
「綺麗・・・。
どうしたの、それ」
 この辺りでは滅多に見掛けない渡り鳥だ。
「途中の枝に止まっていたから、狩ってきた。
羽を欲しがっていただろう」二羽をケイトに差し出す。
「私が貰って良いの」顔を綻ばせた。
「いつもいつも面倒かけてるから、そのお詫び。
遠慮せずに貰ってよ」
 カールはケイトが受け取った二羽を見て、思わず首を捻った。
矢で射た疵がない。
血も流していない。
それ以前にダンタルニャンは弓を所持していない。
 疑問が顔に出たのだろう。
ダンタルニャンが言う。
「これだよ、これ」腰の袋から何かを取り出して、放り投げた。
 カールは親指より少し大きめの小石を受け取った。
加工して磨いた形跡があった。
「礫打ちか」
 カールの言葉にダンタルニャンが頷いた。
カールは呆れながら、極楽鳥に視線を戻した。
確かに二羽の喉の羽毛に乱れがあった。
極楽鳥の価値はその美しい羽にある。
その美しい羽を損ねないように喉を狙ったのだろう。
どのくらい離れていたのかは知らないが、この細い喉を・・・。
腕に自信があっても、狙って当てられるものではない。
それも二羽・・・。

 アンソニー佐藤は息子とカールの様子をそれとなく見ていた。
思いの外、上手くいっていた。
息子は山に入っても、以前よりも早く戻ってきて、
カールの指導を従順に受けていた。
それにケイトが連れ立っているのは計算外ではあったが、
咎めなかった。
そもそもが守り役なので、見て見ぬふりをした。
 十日もした頃、カールを呼び出した。
「調子はどうだ」
「ご覧になっているように、何の問題もありません」
「組み稽古もやっているようだが」
 村の子供の武芸稽古では、
十才以下の子供の組み稽古は禁止していた。
子供は熱中すると我を忘れ、乱暴になるからだ。
「すみません。
私の判断で、組み稽古を入れました」
「任せたから、それは良い。
それでどうなんだ」
「ダンタルニャン様は子供とは思えません。
熱くはなりますが、根っ子のところは冷静です。
私より大人な気がします」
 アンソニーは苦笑いを浮かべた。
「そうなのか。
・・・。
そう言えば、怒ったところを見たことがないな」
「どうやら猫を被っていられるようですね」
「猫を・・・」
「本気になると相手を怪我させる、と思われ、
組み稽古は口にされないのでしょう」
「そこまでの腕前か・・・」首を捻った。
「攻める早さでは村一番ではないでしょうか。
私でも受け止めるので手一杯です。
あれに大人の力でも備われば、私でも受け止められません」
 アンソニーは思わず机に両手を置いた。
「お主が手を抜いている、と見ていたが、本気だったのか」
「ええ、才能があります。
私なら幼年学校を卒業したら冒険者ではなく、騎士学校を勧めます」
「騎士学校か、入学試験は厳しいと聞いているが」
「確かに厳しいですが、ダンタルニャン様がこのまま真っ直ぐ育てば、
何の問題もないでしょう」




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昨日今日明日あさって。(戸倉村)20

2017-12-24 08:04:36 | Weblog
 遠くで雄鶏が夜明けを告げた。
それを合図に村全体の鶏が鳴き騒ぐ。
毎朝のことだが慣れない。喧しい。
 人が動き回る気配。
長屋に住む者達だ。
カールも起き上がると身支度を調えて井戸端に急いだ。
長屋住まいの男達が顔を揃えていた。
挨拶を交わし、順番で手早く水を汲み上げて顔を洗い、口を濯いだ。
 長屋は佐藤家の敷地の一角にあった。
井戸の右に所帯持ちの長屋。左に独り者の長屋。
大勢の男女が佐藤家に仕えているので、朝から井戸端は忙しない。
男達から始まり、女達、最後には幼い子供達が出て来る。
 カールは屋敷の中央の広場に向かった。
当番に槍を手渡された。
長屋の男達は雑兵も兼ねているので、槍の稽古を日課にしていた。
全員が揃うと、正面に立つアンソニー佐藤の掛け声で稽古が始まった。
当初、カールは甘く見ていた。
軽く身体を動かすだけ、と。
ところが違った。
本格的に身体を練っていた。
同僚の話では、領都にある屋敷の足軽達と同じ稽古らしい。
日中の仕事に差し障ると思うが、当主は手加減しない。
少しでも手を抜こうものなら、怒号が飛んで来る。
 カールにとっては願ってもない稽古であった。
かつては国軍の大尉、今は冒険者。
これで賃金が貰えるとは嬉しい限り。
 一汗かいたところで視線を件のダンタルニャンに目を転じた。
いつものように彼は児童組の一人として最前列にいた。
白銀の頭髪だけでなく、九才にしては身体が大きいので目立つ。
横に太くはないが、縦に伸びていて、児童というよりは少年。
後ろからだと十四、五才に見えなくもないが、手にする槍だけは短い。
年相応に短槍を持たされていた。
 カールはダンタルニャンの槍捌きに当初から瞠目していた。
経験豊かな大人達を尻目に、目にも留まらぬ早さで槍を繰り出す。
横に払う。
上から振り下ろす。
槍の短さを手足の長さで補い、自在に動かす様は、
まるで舞踊みたいで見惚れてしまった。
足りないのは力強さだけなのだが、
それを今の段階で児童に求めるのは酷というもの。
カールは頭が痛い。
そういう子供を今日の午後から指導することになったからだ。
 カールは午前中の事務仕事を終えると、
ダンタルニャンが学ぶ塾へ向かった。
授業は基本、午前中だけで、昼食を終えると下校するそうだ。
長屋に住む子供達から彼の行動パターンを仕入れていた。
守り役のケイトの目を盗み、抜け出しては、何が楽しいのか、
山や原っぱを駆け回っているらしい。
 塾の傍にケイトの姿があった。
本来なら十一才なので塾に通う必要はないのだが、
守り役ということで留年を余儀なくされていた。
その彼女がパンを片手に、こそこそ動き回っていた。
最後に塾の裏に回り、木立に隠れた。
どうやら待ち伏せ。
 カールは反対に表の民家の陰に隠れた。
しばらくするとダンタルニャンが表に現れた。
こちらも片手にパン。
左右を見回す。
ケイトを警戒しているのだろう。
やはり子供。
ホッとしながら駆け出した。
東に向かう。
分村の漁村の方向だ。
漁村だとすると子供の足では遠すぎる。
たぶん、手前の山だろう。
 カールは、相手は子供と甘くみた。
大人の余裕で少し距離を空けて追いかけた。
ところが一向に距離が縮まらない。
ダンタルニャンに気付かれた様子はない。
一度も振り返らない。
真っ直ぐ前だけ向いて駆けて行く。
 疲れたと思った時、別の足音が聞こえてきた。
ヒタヒタと背後から迫って来た。
軽快な足音。
誰だか予想がついた。
次第に差が縮められた。
並ばれた。
やはりケイト。
彼女に一瞬、睨まれた。
そのまま何も言わずに追い越して行く。
ぐいぐいダンタルニャンの背中に迫るが、森に逃げ込まれてしまった。
それでもケイトは足を緩めない。
追いかけて行く。
 カールは森の入り口で諦めた。
手頃な切り株に、ドッと腰を落とした。
今にも足が痙攣しそう。
慌てて脹ら脛を揉みほぐす。
額から汗が垂れ落ちてくるが、拭う余力はない。
 呼吸が落ち着いたころケイトが戻って来た。
悔しそうな顔で歩み寄って来た。
「もしかして、カールさんね」
「もしかしなくても、カールだけど」
 ケイトは両手を腰に当て、カールを睨むように見た。
「どうして捕まえなかったの」
「分けを知っているのかい」
「聞いているわ。
どうして捕まえなかったの。
表で見張っていたのなら、捕まえられたでしょうよ。
役立たずね」
 十一才の子供に怒られてしまった。




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昨日今日明日あさって。(戸倉村)19

2017-12-17 07:41:51 | Weblog
 アンソニー佐藤は執務室で書類の山と格闘していた。
相変わらずの人材不足で、
全ての案件書類が最後には彼の机に山積みされていた。
中古漁船の買い付け価格、石材の売却価格、干し肉の売却価格、
今期製造する馬車の台数から新たな開拓者募集の件等々。
これでは領都で武家の椅子を温めている暇がない。
 ドアをノックしてカールが入って来た。
領都の冒険者ギルドを通じて雇った冒険者だ。
商人ギルドから事務仕事に慣れた人材を雇おうとしたが、
戸倉村が僻地であることから応募して来る者がなかった。
しかたなく妥協して事務仕事が出来る冒険者に切り替えた。
その一人が彼だ。
「お呼びと聞きました」
 事務仕事は、まあまあだが、人柄が良い。
屋敷の者達の受けも良い。
あとは仕事に慣れてくれれば文句はない。
 顔を上げてカールにソファーを指し示した。
「立っていては話し難い。腰を下ろしてくれ」
 カールがソファーに腰を下ろしたタイミングで、
メイドがトレイに珈琲二人分を乗せて入って来た。
屋敷一番の若手で背がスラッと伸びていて、所作が美しい。
メイドはニコリともせず、珈琲を二人の前に置くと余計な口は利かず、
軽く頭を下げて退出した。
それをカールは眩しそうに見送った。
彼はもうじき三十路なのだが、まだ独り者。
婚約者もいないそうだ。
 アンソニーは珈琲にはミルクは入れない。
砂糖だけを足した。
掻き混ぜてカールの手元を見た。
彼は砂糖もミルクもタップリ入れていた。
 ダンタルニャンの進路に悩んでいたら、
カールが国都の幼年学校卒業生である事を思い出した。
水が合わないからと国軍武官を辞めて冒険者に転じた男だ。
武官としての最終階級は大尉で現在はCランクの冒険者。
当然だが冒険者なので日当は高い。
事務仕事だけだと色んな意味でもったいない。
半期だけの契約なので目を瞑っていたが、
降って湧いたようにダンタルニャンの問題が発生した。
そこでカールを思い出し、相談することにした。
 領都と違い、国都の幼年学校は狭い門。
全国から大勢の優秀な子弟が、
国軍の武官、省庁の文官を目指して受験しに来る。
受験するのは貴族の子弟だけとは限らない。
謳い文句が、津々浦々から人材を求める。
優秀なら庶民、獣人も受け入れていた。
だが実情は違う。
羽振りのいい大貴族や大商人に有利であった。
金に糸目をつけずに受験対策が出来るからだ。
 アンソニーはカールに事情を説明した。
息子が国都の幼年学校に入りたい、と言う。
それも言うに事欠いて、冒険者になるため、だと。
盆地にある学校で学びながら、周囲の山で魔物を狩りたい、とも。
そして問題点も。
「村でも子供達を教育している。
読み書き算盤は言うに及ばず、
主立った家の子には武芸の稽古も付けている。
短剣、短槍、短弓、格闘術。それに馬術。
ただ指導する時間が限られているので、
貴族の子等に比べると見劣りするかも知れない。
それを承知で聞く。
受かる可能性があるだろうか」
 カールは考えてから口を開いた。
「私の時代の経験から言わせてもらいます。
試験成績だけで入学させた、とは限らないようです。
同期生を振り返ってみると、極端に座学に弱い者達がいました。
実技に弱い者達もいました。
性格の悪い奴も。
当時は、あんな奴が合格したのか、こんな奴も合格したのか、
と不思議でよく頭を捻ったものです。
それでも連中がしぶとく耐えて卒業すると、
当然のように武官や文官に任命されました。
・・・。
どうやら合格枠に、一芸に秀でた者とか、伸びしろの有る者とか、
色々とあったようですね」
 アンソニーは彼の言葉を吟味した。
国として人材を雇用するのであれば、それも有りかも知れない。
考えてみれば単純に武官文官の二つで割り切れるものではない。
武官一つにしても職種は多岐に渡っているので、
それぞれに専門性が求められても不思議ではない。
「受かる可能性があるようだね。
・・・。
なら頼みたい。
午後の仕事は息子の面倒をみてくれ」
「私は構いませんが、失礼を承知で言わせてもらいます。
かなりの腕白と聞いています。
あの息子さんが私の指導に従いますかね」
 アンソニーは苦笑い。
「そこはそれ。
君は本来は冒険者なんだろう。
あれを小さな魔物と思えば造作ないだろう」
「あの方は逃げ足が速いそうです。
私で追いつけますかね」
「君はここを終えたら冒険者に戻るのだろう。
だったら今の内に足腰を鍛えておいても損にはならない。
そうだろう、違うかね」
「つまり捕まえる事から始めろ、と」
「あれは注意すると、その場では素直に謝るが、朝になると忘れてる。
計算してるようにも見えるが、・・・。
末っ子だから大目に見て、一種の病気と思って許してる。
・・・。
頼むよ」




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昨日今日明日あさって。(戸倉村)18

2017-12-10 06:03:59 | Weblog
 先祖返り、という言葉が気になった。
もしかすると、そうなのかも知れない。
ダンマスとの戦いの後遺症、と考えていたが、
先祖返りの方が、しっくりきた。
連綿と伝わってきた遺伝子の中の眠っていた箇所が、
ダンマスとの戦いで強引に揺り起こされ、覚醒し、
このような頭髪となって現れたのかも、・・・たぶん。
でも、髪の毛だけの覚醒って、・・・どうなんだろう。
どんな意味が。
 夕食もそこそこに俺はベッドに潜り込んだ。
心身共に疲れていたので、直ぐに寝入った。
・・・。
「カンカンカン、カンカンカン」
どのくらい眠っていたのかは知らない。
突然、警報音が鳴り響いた。頭の中で警報音。
俺が目覚めると同時に脳内モニターが起動した。
 就寝前に探知☆スキルと鑑定☆スキルを設定しておいた。
夜中に屋敷に接近して来る不審者の発見と、
自分の身体の異常を知らせる機能、
その二つを並行して働かせていた。
原因はそれだ。
 モニターに文字が現れた。
「HP・EPともに回復中です。
HP(222)残量、195。
EP(222)残量、190。
人間の体内に蓄積できるのは、共に200までです。
ですが、ダンマスの恩恵、虚空があります。
超過分は虚空に仮置きします。
これより虚空への回路を開きます」
 ダンマスの恩恵、虚空ときた。
ダンマスは分かる。
たまたま遭遇して討伐した。
それが虚空、・・・となると。
馴染みのない文字。
普通の者には全く縁のない文字。
しかし俺は少しだけ囓っていた。
虚空は何もない、時間も空間もない世界、と理解していた。
文字の意味だけで実際に目にしたことはない。
あるとも思っていなかったが、それが・・・あるらしい。
 スキルを得た際の事を思い返した。
「憑依は人間には使用不可能です。消去します」との報告。
あの時は俺に可否を問わなかった。
不要だからと勝手に消去した。
今回も可否を問わない。
簡単に、虚空への回路を開く、という。
出来るらしい。
だったら起こすなよ、勝手に作業してくれよ、と言いたい。
・・・。
単純に、グレードアップしての文字化、で納得していたが、違う。
判断し、作業し、進展具合を報告してくれる。
ここまで便利な機能は、まるで「AI、人工知能」。
まさかね。
とにかく二十四時間働いてくれる何かに感謝、感謝。
・・・。
心穏やかに過ごすには、警報音に工夫する必要がありそうだ。
今度は、「癒してくれるオルゴール音」にでもしよう。
 俺を無視して新たな文字が現れた。
「回路を連結します」
「連結終了。HP仮置き場を設置します」
「設置終了。EP仮置き場を設置します」
「設置終了。収納庫を設置します」
 収納庫・・・って。
ゲームでお馴染みの、あれっ・・・。
時空に設置されたアイテム収納BOX。
だとしたら、グッ、グッジョブ。
「収納庫設置終了」
「ユニークスキルとして虚空☆を得ました」
 作業が終了したらしい。
モニターが勝手に消えた。
俺は慌ててモニターを再稼働させ、自分のランクを確認した。
「名前、ダンタルニャン佐藤。
種別、人間。
年齢、九才。
性別、雄。
住所、足利国尾張地方戸倉村住人。
職業、なし。
ランク、B。
HP(222)残量、199。
EP(222)残量、195。
スキル、光学迷彩☆☆、探知☆、鑑定☆。
ユニークスキル、無双☆☆☆☆☆(ダンジョン内限定)、
ダンジョンマスター☆、虚空☆」
 虚空☆のアプリをクリックした。
「HP仮置き場。EP仮置き場。収納庫」三項目。
収納庫をクリックし、プロパティを開いて読む。
事細かに書かれていた。
やはりアイテム収納庫だった。
・・・。
時間とは無縁。
錆びない、腐らない。
生きた物の収納は不可。
当人が持ち上げられる物のみを収納する。
個数は222個。
重量は無制限。

 朝一番、母に抱き寄せられ、
髪の毛をぐちゃぐちゃに揉みほぐされた。
「綺麗な髪の毛。
ここまでの白銀は初めてよ。
それに艶もある。
他の銀髪が霞んでしまうわね。
嫉妬されるわね。
なんて羨ましいの」
 祖母も揉みほぐしに加わった。
「この手触り。
なんて良いの。
サラサラね。
このまま伸ばしなさい。
筆にするから、長く伸ばすのよ。いいわね」
 笑顔で俺を脅す。
「お祖母様、こんなに艶があったら墨を弾きませんか」と母。
「そうね。
・・・。
でも少し寝かせれば艶も取れるのじゃなくて」
「それじゃぁ、私も一本」




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昨日今日明日あさって。(戸倉村)17

2017-12-03 07:12:08 | Weblog
 俺達が屋敷の門を潜るより先に、
母・グレースと祖母・エマが駆け出て来た。
事情を知った誰かが先に、ご注進に及んだのであろう。
血相を変えた二人が俺を出迎えた。
血は繋がっていないが、長年ともに暮らしているせいか、
二人は似たような表情をした。
口あんぐり。
 俺は先に二人に言った。
「ケイトは責めないで。
俺がケイトの目を盗んで山に入って、こんなになった。
俺一人の責任だから、ケイトは責めないで」
 俺の脇に立つケイトが深々と頭を下げた。
五郎も空気を読んだのか、「ク~ン」と悲しげに鳴いた。
 二人は頷くと、俺を両脇から抱えるようにして、井戸端に連行した。
近くにいた使用人に水を汲み上げさせ、桶に溜めた。
それで俺の頭を洗い流す。
グレースとエマが交替して、
力一杯洗うので今にも髪の毛が抜けそうで痛い。
でも、何度洗っても色が全く落ちない。
 遅れて現れた祖父・ニコライが二人を止めた。
「もういいだろう」
 三人揃って溜め息をついた。
代表して祖父が問う。
「どうした、何があった」
 ダンジョンマスターと戦った、とは言えない。
信じないだろうし、信じたとしたら余計に面倒になる。
「眠くなったので寝ていたら、こんなことに」
 三人は視線を交わした。
どう対処していいのか、苦慮しているらしい。
 使用人の一人がタオルで俺の頭を拭く。
 夕方になると仕事から戻った父・アンソニーも加わり、
散々説教された。
滅多にどころか、聞いた事もないような出来事なので、
大人達が言葉選びに呻吟しているのが手に取るように分かった。
その様に、原因が自分にも関わらず、思わず気の毒になった。
大人達の言葉が中断したところを狙い、話題を変えることにした。
「お願いがあります」
 アンソニーが渋い顔をした。
「なんだ」
「もうすぐ十才になります。
十才になったら国都の幼年学校に入学させて下さい」
「唐突に・・・、何を言うかと思えば。
家の子は十一才になったら領都の幼年学校に入れるのが習わしだ」
「そこを何とか」
 ニコライが問う。
「どうして国都なんだ」
「成人したら家名が名乗れなくなります。
跡取りではないので庶民に落とされ、ただのダンタルニャンになります。
戸倉村生まれのダンタルニャンです。
成人の祝いに多大な祝い金を貰えますが、
それから先は自分一人の力で生きて行かねばならなくなります。
将来を見据えて国都の幼年学校に進みたいのです。
あそこは盆地なので周りの山々には魔物が沢山いると聞きます。
学びながら、狩って腕試しが出来ます。
比べて領都は平野なので魔物が少なく、腕試しが出来ません」
「腕試し・・・。お前は何になるつもりなんだ」
「冒険者です」
 家族一同が驚いて固まった。
「えっ」
「そんな」
 母や祖母の嫌そうな声が聞こえるが、俺は無視をした。
「手っ取り早く稼げるのが冒険者です。
腕さえ有ればですが」
 商人という道もあるが、前世でのサラリーマン生活を振り返れば、
なりたくない。
目指すはフリーランス。
「それで何時も山を駆け回っていたのか」とニコライ。
「はい、まず足腰です」
 ニコライが朗らかに笑う。
 グレースに尋ねられた。
「武士とか騎士になれば家名を名乗れます。
もっと上なら貴族。そちらを目指さないのですか」
「我が家は、目立たない出世しない、が家訓です。
それをお忘れですか」
 佐藤家の本家は藤氏であった。
この国は千年ほど前まで小国家が乱立していた。
それらを攻め滅ぼして統一王朝を建てたのが藤氏。
初代は始皇帝。
山陽道・山陰道・東海道・中山道・北陸道等の街道を整備し、
九州・四国・中国・近畿・中部・関東・東北・北海道まで支配した。
藤氏王朝の治世は五百年もの長きに渡った。
 藤氏の後期に平氏と源氏という新勢力が現れた。
西から伸張して来たのが平氏。
東からは源氏。
百年にも及ぶ戦乱で藤氏は衰退し倒された。
藤氏の本家血筋は平氏と源氏によって完全に断たれた。
藤氏五百年の功績を恐れたのだ。
 佐藤家は分家であるので許された。
他の分家、伊藤・加藤・斉藤・後藤等も同じに扱われた。
平氏・源氏双方が藤氏残存勢力を取り込もうと図った。
取り込んで畿内を掌握しようとしたのだ。
佐藤家は戦乱で多大な血を流して滅亡の寸前であった為、
平氏からも源氏からも誘われなかった。
これ幸いと、佐藤家は戦乱から隔絶した僻地の開拓に専念した。
それがここ、戸倉村。
以来、貴族の身分存続には頓着せず、旧家として家名だけを守った。
 代々当主は、「目立たない、出世しない」を口癖に、
世間との交わりを絞った結果、それが自然、家訓ともなった。
貴族復帰どころか、武家になるのでさえ避け、
土豪兼村長で村に引き籠もってきた。
 久しぶりに家族で長々と話し合った。
結果は出なかったが、当初の問題は忘れ去られていた。
と思っていたら、最後にアンソニーに、
「髪の毛だけなら良いが、身体に何かあっては困る。
もし夜中に痛みがあったら直ぐに大声を出すんだ。いいな」
と釘を刺された。
 ニコライがポツリと漏らした。
「そうそう、思い出した。
当家のご先祖様も髪の毛が白銀であったそうだ」
 エマが問う。
「どなたが」
「ジョナサン様だ。
始皇帝の従者で、度重なる遠征で勲功を上げられ、
女婿となって佐藤の姓を与えられた方だ」
 グレースが声を上げた。
「白銀のジョナサン様ですね」
 俺以外の家族四人が顔を見合わた。
それから俺をジッと見た。
「先祖返りなのか」アンソニーが呟いた。




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