左文元はただ一騎で街道を、ゆっくり進んでいた。
人の行き来が多い。
特に何両もの荷馬車を率いる商人一行が目立つ。
年明けを控えて、荷動きが激しいのだろう。
目指す農場が前方に見えた。
広い敷地の中央に母屋があり、その周りを長屋が取り囲んでいた。
その外側には牧場や畑。
人々が忙しそうに立ち働いているのが遠目にも見て取れた。
領地の外れにあるが、働き手が多いので寂しくはなさそうだ。
左文元は農場への私道に馬を乗り入れた。
すると牧場から三騎が駆けて来た。
どうやら見張りを置いている様子。
その三騎が左文元の行く手を遮った。
何れも太刀を携えているが、似合っていない。
武人とも武人崩れとも違う。
腕に覚えのある農民に違いない。
一騎が前に進み出た。
「何用か」冷静に問う。
「ワシは左文元。
領地の主、袁術様の家来だ。
ここが趙雪殿の農場と聞き、是非とも挨拶したいと、まかり越した。
取り次いでは貰えまいか」
領地に戻ってより、不審がられぬように聞き回った。
迂闊な問い掛けを避け、相手を選び、慎重に一つずつ解き剥がした。
その結果、元女中の趙雪に行き着いた。
彼女は亭主を早くに亡くしたのに、女手一つで農場を切り回し、
富農に成り上がっていた。
大した才覚だ。
別の一騎が丁寧に尋ねた。
「左家の方か」
左家は袁家を支える武門として知られていた。
「如何にも」
三騎は納得し、丁重に左文元を農場に案内した。
母屋に近付くに従い、農場が防御に徹した造りであるのが分かった。
強固な木の柵、深い堀、湿地帯。
母屋を取り囲むような長屋はまるで外壁。
盗賊の襲撃を前提に構築されているとしか思えない。
傍の一騎に問う。
「まるで砦だな。
馬賊の襲撃はあったのか」
「二、三年に一度。
長屋まで侵入を許した事はない」得意げに言う。
「偉いものだな」
その言葉に三騎が嬉しそうに顔を綻ばせた。
母屋に案内され、小綺麗な客間に通された。
女中がお茶を運んで来た。
「主人は畑に出ております。
下男を呼びに走らせましたので、少々お待ち下さい」
暫くすると息せき切って中年女が現れた。
農場主にしては似つかわしくない粗末な衣服を身に纏っていた。
まるで小作人の女房。
額の汗を拭いながら左文元を見遣った。
「お待たせしました。
私が趙雪です。
こんな姿でご免なさい。
仕事の途中だったもので・・・。
貴方様が左文元様ですよね」愛想の良さそうな顔。
左文元は相手の愛想の良さそうな顔の裏に、疑問が渦巻いているのを見逃さない。
「ワシが左文元じゃが、既に隠居の身。
大事に扱う必要はないぞ」
愛想笑いの趙雪。
「ご隠居となりますと、公用では御座いませんよね」
「そうじゃ、公用ではなく、私用じゃ」言葉を切って趙雪に笑いかけ、
「暇になったから消息不明になったままの兄、左志丹を探そうかと思ってな」と続けた。
趙雪の表情が一変した。
愛想が消え、思慮深い色に。
これが本来の彼女なのかも知れない。
「ご隠居様、本音で話しませんか」
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ただの飾りです。
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年明けを控えて、荷動きが激しいのだろう。
目指す農場が前方に見えた。
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その外側には牧場や畑。
人々が忙しそうに立ち働いているのが遠目にも見て取れた。
領地の外れにあるが、働き手が多いので寂しくはなさそうだ。
左文元は農場への私道に馬を乗り入れた。
すると牧場から三騎が駆けて来た。
どうやら見張りを置いている様子。
その三騎が左文元の行く手を遮った。
何れも太刀を携えているが、似合っていない。
武人とも武人崩れとも違う。
腕に覚えのある農民に違いない。
一騎が前に進み出た。
「何用か」冷静に問う。
「ワシは左文元。
領地の主、袁術様の家来だ。
ここが趙雪殿の農場と聞き、是非とも挨拶したいと、まかり越した。
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彼女は亭主を早くに亡くしたのに、女手一つで農場を切り回し、
富農に成り上がっていた。
大した才覚だ。
別の一騎が丁寧に尋ねた。
「左家の方か」
左家は袁家を支える武門として知られていた。
「如何にも」
三騎は納得し、丁重に左文元を農場に案内した。
母屋に近付くに従い、農場が防御に徹した造りであるのが分かった。
強固な木の柵、深い堀、湿地帯。
母屋を取り囲むような長屋はまるで外壁。
盗賊の襲撃を前提に構築されているとしか思えない。
傍の一騎に問う。
「まるで砦だな。
馬賊の襲撃はあったのか」
「二、三年に一度。
長屋まで侵入を許した事はない」得意げに言う。
「偉いものだな」
その言葉に三騎が嬉しそうに顔を綻ばせた。
母屋に案内され、小綺麗な客間に通された。
女中がお茶を運んで来た。
「主人は畑に出ております。
下男を呼びに走らせましたので、少々お待ち下さい」
暫くすると息せき切って中年女が現れた。
農場主にしては似つかわしくない粗末な衣服を身に纏っていた。
まるで小作人の女房。
額の汗を拭いながら左文元を見遣った。
「お待たせしました。
私が趙雪です。
こんな姿でご免なさい。
仕事の途中だったもので・・・。
貴方様が左文元様ですよね」愛想の良さそうな顔。
左文元は相手の愛想の良さそうな顔の裏に、疑問が渦巻いているのを見逃さない。
「ワシが左文元じゃが、既に隠居の身。
大事に扱う必要はないぞ」
愛想笑いの趙雪。
「ご隠居となりますと、公用では御座いませんよね」
「そうじゃ、公用ではなく、私用じゃ」言葉を切って趙雪に笑いかけ、
「暇になったから消息不明になったままの兄、左志丹を探そうかと思ってな」と続けた。
趙雪の表情が一変した。
愛想が消え、思慮深い色に。
これが本来の彼女なのかも知れない。
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