金色銀色茜色

生煮えの文章でゴメンナサイ。

(注)文字サイズ変更が左下にあります。

白銀の翼(動乱)464

2015-07-29 19:48:12 | Weblog
 左文元はただ一騎で街道を、ゆっくり進んでいた。
人の行き来が多い。
特に何両もの荷馬車を率いる商人一行が目立つ。
年明けを控えて、荷動きが激しいのだろう。
 目指す農場が前方に見えた。
広い敷地の中央に母屋があり、その周りを長屋が取り囲んでいた。
その外側には牧場や畑。
人々が忙しそうに立ち働いているのが遠目にも見て取れた。
領地の外れにあるが、働き手が多いので寂しくはなさそうだ。
左文元は農場への私道に馬を乗り入れた。
 すると牧場から三騎が駆けて来た。
どうやら見張りを置いている様子。
その三騎が左文元の行く手を遮った。
何れも太刀を携えているが、似合っていない。
武人とも武人崩れとも違う。
腕に覚えのある農民に違いない。
 一騎が前に進み出た。
「何用か」冷静に問う。
「ワシは左文元。
領地の主、袁術様の家来だ。
ここが趙雪殿の農場と聞き、是非とも挨拶したいと、まかり越した。
取り次いでは貰えまいか」
 領地に戻ってより、不審がられぬように聞き回った。
迂闊な問い掛けを避け、相手を選び、慎重に一つずつ解き剥がした。
その結果、元女中の趙雪に行き着いた。
彼女は亭主を早くに亡くしたのに、女手一つで農場を切り回し、
富農に成り上がっていた。
大した才覚だ。
 別の一騎が丁寧に尋ねた。
「左家の方か」
 左家は袁家を支える武門として知られていた。
「如何にも」
 三騎は納得し、丁重に左文元を農場に案内した。
 母屋に近付くに従い、農場が防御に徹した造りであるのが分かった。
強固な木の柵、深い堀、湿地帯。
母屋を取り囲むような長屋はまるで外壁。
盗賊の襲撃を前提に構築されているとしか思えない。
 傍の一騎に問う。
「まるで砦だな。
馬賊の襲撃はあったのか」
「二、三年に一度。
長屋まで侵入を許した事はない」得意げに言う。
「偉いものだな」
 その言葉に三騎が嬉しそうに顔を綻ばせた。
 母屋に案内され、小綺麗な客間に通された。
女中がお茶を運んで来た。
「主人は畑に出ております。
下男を呼びに走らせましたので、少々お待ち下さい」
 暫くすると息せき切って中年女が現れた。
農場主にしては似つかわしくない粗末な衣服を身に纏っていた。
まるで小作人の女房。
額の汗を拭いながら左文元を見遣った。
「お待たせしました。
私が趙雪です。
こんな姿でご免なさい。
仕事の途中だったもので・・・。
貴方様が左文元様ですよね」愛想の良さそうな顔。
 左文元は相手の愛想の良さそうな顔の裏に、疑問が渦巻いているのを見逃さない。
「ワシが左文元じゃが、既に隠居の身。
大事に扱う必要はないぞ」
 愛想笑いの趙雪。
「ご隠居となりますと、公用では御座いませんよね」
「そうじゃ、公用ではなく、私用じゃ」言葉を切って趙雪に笑いかけ、
「暇になったから消息不明になったままの兄、左志丹を探そうかと思ってな」と続けた。
 趙雪の表情が一変した。
愛想が消え、思慮深い色に。
これが本来の彼女なのかも知れない。
「ご隠居様、本音で話しませんか」




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白銀の翼(動乱)463

2015-07-26 07:43:06 | Weblog
 何美雨は後宮の奥の空き地を歩いた。
後宮祖廟の跡地である。
建物は半壊したままであるが、瓦礫は一つも転がっていない。
鮮卑の騒ぎの際、瓦礫を投石用として運び出したのだ。
ここに後宮祖廟を再建する話しも出ているが、肝心の棺がない。
棺に悪霊怨霊を封じる力量を持つ方術師もいない。
それに後宮祖廟儀式の意味に通じた者もいない。
となれば実現は不可能。
完全に取り壊し、庭園に取って代わるだけだろう。
 中央辺りで足を止めた。
壁越しに王宮の偉容が見えた。
さっきから首から下げている銅鏡が跡地に感応していた。
流石に魔鏡。
全ての悪霊怨霊が逃げ去ったものの、その残滓を感じ取ったのだろう。
次第に熱を帯びてきた。
どうやら喜んでいるらしい。
 背後に足音。
振り返らなくても侍女の黄小芳と分かった。
「勝手に出歩いてはなりません」叱責された。
 何美雨は振り返って、相変わらず口喧しい老女を見た。
「私は王女ではないのよ。
ただの小娘。気儘にさせてよ」
 老女は無視した。
「皆様方が続々と登城なされております。
そろそろ着替えませんと」
「肝心の二人は」
 劉焉と劉表の出方にしか興味がない。
「未だ知らせはありません。
そうそう、別の知らせがありました。
赤劉家は登城せぬそうです」
「赤劉家、・・・知らないけど、劉姓なの」
「お珍しい。
私ら年寄りよりも物知りなのに、知らぬ事があったのですね」
「そりゃあるでしょう。
何でも知っている分けじゃないわよ。
木簡、竹簡全てを頭に入れたいけど、生憎この頭は小さいの。
入りきれぬ物の方が多いくらい。
それでも、ぼんくらな貴方達より、少しマシよね。
さあ、教えなさい」
 老女が心底から嬉しそうな表情をした。
「いいでしょう。教えましょう。
代々の当主が女であることから、その家柄は通称、赤劉家と呼ばれています。
後漢を建てた時、功績大であるとして、徐州に広い領地を与えられました。
勿論、この洛陽にも屋敷を賜っています。
それとは別に無位無官を許され、登城も認められています」
「随分な特別待遇ね」
「建国に際して赤劉家の兵、家財全てが供出されたと聞いています。その為でしょう」
 何美雨は顎先を指でなぞった。
「無位無官での登城が許されているのに、今回は遠慮する分け。
どういうつもりなのかしら」
 老女の双眼が光を放った。
「今回の騒ぎを政争と断じたのでしょう。
さきの鮮卑の騒ぎの際は、董卓将軍の元に加勢の兵を送り、
獅子奮迅の働きで手柄を立てました。
それは外敵が相手であったから。
しかし今回は動かない。
おそらく身内の争いと断じ、関わらぬと決めたのでしょうね」
「帝が暗殺されたと知った上での判断なのよね」
「正確に知っていると思われます。
あの家が無位無官でここまで生き長らえたのは、
朝廷の奥深くに耳や目を養っているからです」
「厄介な家柄みたいね」
「代々の女当主は方術修行を積む家柄です。
触らぬ神に祟りなしです。
敵に回さなければ良いのです」
 当主が方術修行を積むと聞けば、遠ざけるに限る。
朝廷のお抱えの方術師なら力量不足なので、身近に置いても安心していられるが、
在野の方術士となれば油断は禁物。
どんな業師がいるものか見当がつかない。
まさに触らぬ神に祟りなし。
 侍女の劉春燕と劉茉莉が小走りで駆けて来た。
元が女武者だったせいか走るにしても姿勢が良い。
何美雨の前で足を止め、同時に片膝ついて拱手をした。
「劉焉が屋敷を引き払いました。
先頭は武装した騎馬隊。
一族郎党が口々に荊州に戻ると息巻いています」劉春燕が報告した。
「劉表も示し合わせたように屋敷を引き払いました。
こちらも先頭は騎馬隊。
こちらは兗州に戻ると息巻いています」劉茉莉が報告した。
 二人の伝手で劉家血縁の女武者を動員し、劉焉と劉表の屋敷を見張らせていた。
「女武者からの脱退は」
 劉家血縁の女武者であるので、劉焉や劉表に近い者が居ても不思議ではない。
その者には脱退を勧めるように指示して置いた。
女武者は一党としての行動規律は厳しいものの、脱退に関しては比較的緩く、
嫁入りとか自己都合での脱退も許されていた。
たとえ敵味方に分かれても仲間という意識を持つように工夫されていた。
「我らは女武者として後宮に送られた時点で捨てられたも同然。
誰一人として脱退はありません」劉春燕が言い放てば、劉茉莉も同意の頷き。
 宦官の宋典が現れた。
配下を一人も引き連れていない。
「ここに居たのか。
小娘様は余裕だな」口は悪いが、最近は温かみを感じるようになった。
「三公九卿の仕事でしょう。
太后皇后も同席するのだから私は不要でしょう」
「枯れ木も山の賑わい」宋典が言えば、
「さあ参りましょう」と黄小芳。
 事前に明かしてないが、帝の崩御を伝える為に劉姓の者達に登城を命じた。
その席で国葬の日取りや規模を決めると同時に、
喪主となる後継者や後見人も定めねばならない。
全てを決めてから、一般に公表される段取りになっていた。




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白銀の翼(動乱)462

2015-07-22 20:38:28 | Weblog
 袁紹と曹操は顔を見合わせた。
二人は常日頃、宦官の排斥、横暴な官吏の更迭を口にしていた。
悪賢い奴ほど私利私欲に走り、露見するや保身を図る。
その行為が余りにも目に余るので糾弾した。
それでも劉姓の家柄には遠慮していた。
確かに劉焉、劉表の二人は帝を暗殺したので討伐しなければならない。
一族郎党をも討ち取り、野に晒す必要がある。
しかし他の劉姓の者達にまで累を及ぼすつもりはない。
敵に回す気も更々ない。
王朝の基盤が劉姓の血統にあるので、そうせざるを得ない。
 袁紹と曹操は呆れた顔で何美雨を見遣った。
大将軍の娘であることは別にして、十二、三才にしては聡明な小娘と好意を持っていた。
それが裏切られた。
劉姓の者達に完全な非があるにしても、口にすべきではなかった。
たとえ太后皇后、大将軍が許しても、内輪の話に留めるべき性質のもの。
この発言が外に漏れると噂が噂を呼び、人々を疑心暗鬼に追い込む。
打つ手を間違えれば同族で相争うだけでは済まない。
劉姓という分厚い基盤が割れ、王朝の行く末が危ぶまれる。
 とても何美雨が一人で考えたとは思えない。
必ずや入れ知恵している者がいるはず。
そう考えた袁紹と曹操は居合わせた者達を見回した。
太后皇后、大将軍は浅知恵の持ち合わせしかない。
怪しいのは董卓将軍、取り巻きの副官や侍従。
だが一癖も二癖もあるような者達ばかりで誰とは絞りきれない。
 何美雨が皮肉っぽい表情をした。
「妙な心配は止めなさい。
私は馬鹿ばかりとは言ったけど、討ち滅ぼせとは言っていないのよ。
愚痴を漏らしているだけ。
・・・。
先の鮮卑の騒ぎを思い出してみなさい。
出兵要請に応じて精一杯の動員をしたのは家臣筋の家々ばかり。
袁紹殿も曹操殿も屋敷中の男共を動員したでしょう。
袁術殿などは気の毒に戦死したわ。
ところが劉姓の家々ときたら、どの家も適当に兵を出しただけ。
半数も出していないし、多くの当主は屋敷に籠もったまま。
ほとんどは家宰に率いらせていたわ。そうでしょう。
何様のつもりか知らないけど、劉姓に胡座をかいているのは確かね」
 袁紹も曹操も返す言葉がなかった。
口にはしないが、全て事実と知っていた。
腹立たしいが、文句を言う先もないので我慢するしかなかった。
 見透かした何美雨の目色。
「劉焉と劉表の屋敷を見張らせているでしょう。
その者共を引き揚げて。いいわね。
劉焉と劉表には安心して逃げて欲しいの」
「都から外に逃げだしたところを、郊外で捕らえるつもりです」曹操の大きな声。
 見張りを引き揚げたら、行方を見失ってしまう。
劉焉、劉表が自領に向かうと分かっていても、表街道だけでなく脇街道、裏街道もある。
それに網の目のように張り巡らされた水路もあり、特定せぬ事には追尾が難しい。
「逃げるのに目を瞑りなさい。いいわね。
・・・。
三日後に劉姓の者共を集めて、三公九卿同席で、帝が崩御された事を伝えるわ。
そうなれば暫く戦は出来ない。分かるでしょう」
 崩御となれば、全国規模の盛大な国葬となり、人も財貨も湯水のように投入され、
戦どころではなくなる。
「逃げるのを許せば、連中は仲間を糾合し、備えを堅くします」袁紹が抵抗した。
 劉焉は荊州江夏郡の人。
劉表は兗州山陽郡の人。
それぞれ領地に古くからの家臣団、領民を抱えている。
その人脈は周辺にも及んでいるので侮れない。
幸いなのは二人の領地が洛陽を挟んで東西に離れていること。
一つになっての攻防だけは出来ない。
別の見方をすれば洛陽を東西から挟み撃ち出来る。
守りを堅くするのか、それとも進撃して来るのか、それは分からない。
 何美雨が事も無げに言う。
「連中が仲間を糾合し、膨れ上がるのを待つとしたら」
 帝を補佐する三公九卿が同席せぬせいか、あからさまな物言い。
糾合するとすれば、血の繋がりから劉姓の者が多いはず。
劉姓の家々を潰したいという本音が、はっきり見えた。
居合わせた者達は口を閉じ、暖かい目で何美雨を見守っていた。
おそらく周到に打ち合わせていたに違いない。
三公九卿抜きで物事を進めて行くつもりなのだろう。
 曹操が熱く言う。
「余裕は油断につながります」
「相手が無勢では貴男達に出番はないわよ。
州の官吏で充分でしょう。違う」
 敵勢が膨れ上がれば袁紹、曹操に任せると言っているに等しい。
思わず袁紹が尋ねた。
「我らに任せていただけるので」
「約束しないわよ。
どれくらい膨れ上がるか分からないもの」




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白銀の翼(動乱)461

2015-07-19 07:47:52 | Weblog
 王宮の外れの一棟を陣所として宛がわれていた袁紹と曹操の軍は、
暗殺者と内通者の拘束と取り調べを行っていた。
戦ではないので、それほどの兵力は必要としない。
余分な兵は屋敷に戻した。
手元に残したのは双方合わせて千余。
 拘束は曹操軍が担い、取り調べは袁紹軍が行った。
取り調べに熟れた人材が袁紹軍に居たので当然の役割分担であった。
拘束している暗殺者は五人。
内通者は宦官六人、女官四人。
拘束や取り調べの過程での行き過ぎを防ぐという意味合いで、
双方から立会人を出したのだが、既に暗殺者二人、宦官二人を死亡させていた。
その原因は取り調べが過酷というより、呑ませた薬によるものであった。
色々と配合を試しつ、ついでに効果があるという酒も飲ませた。
取り調べに素人の立会人には何一つ口を差し挟ませなかった。
その甲斐あってか死亡者を出したが、一方で有益な自供をも幾つか引き出した。
 自供を信じるとすれば劉焉が首謀者で、劉表は共犯者。
これに商人、華炎が手を貸し、内通者達との間を取り持っていた、
という構図が浮かび上がる。
そう分かっていても今すぐには手が出せない。
他にも共犯者が居る可能性が高いので、慎重に三人の周辺を調べさせていた。
ことに華炎の場合は資金力があるので、宦官女官だけでなく、
高位の官吏にも食い込んでいる、と見られた。
 手を拱いているだけの袁紹、曹操に呼び出しがかかった。
太后皇后連名であった。
従者を連れて駆け付けると待ち受けていた宦官に、太后皇后が待つ広間に案内された。
他にも同席者はいた。
何進大将軍と董卓将軍が副官達を従えて席についていた。
 珍しいことに何美雨もいた。
屈託のない笑顔で袁紹、曹操を見遣る。
父、何進とは距離を置いて腰掛けていた。
今もって親子の仲は修復されていないらしい。
何美雨の背後には当然のように黄小芳が控えていた。
この中では最高齢なのに、背筋がビシッと伸びていて老いを感じさせない。
 袁紹と曹操は両膝ついて、太后皇后に深々と拱手をした。
大様に頷く太后。
皇后が何美雨に無言で促した。
 何美雨が袁紹、曹操二人に問う。
「貴男方は色々と噂を流したそうね。
でも誰一人逃げ出さない。どう思う」
 洛陽での戦闘を回避する為に、劉焉側が慌てて逃げるような噂をばらまいた。
手を変え品を変えて、劉焉側に届くように図った。
「申し訳御座いません」二人が頭を下げた。
「塩漬けも限界よ。
お上のご遺体が腐ってくるわ。
そろそろ亡くなったと発表しなくてはね」
 時間は限られていた。
しかし妙案が浮かばない。
 それを見越したように何美雨が言う。
「都に居住する劉姓の主立った連中に軍装の使者を出しなさい。
談合したき事があるので、三日後に王宮に集まるようにと。いいですね」
 袁紹と曹操はビクッとして、みんなを見回した。
軍装の使者とは。
何やら悪辣な企ての気配。
居合わせた者達は承知らしい。
「使者を出すと同時に、太后皇后様方が劉姓の主立った者達の粛清を決断なされたと、
官吏達が噂するように手立てをなさい。
それらしく見せるために、広間の周りに伏兵の準備もね。
分かりましたね」何美雨は平然としていた。
 曹操は疑問を口にした。
「それで劉焉や劉表が逃げ出せば宜しいのですが・・・。
もし二人して現れたらどうしますか」
 何美雨は表情を和らげた。
「捕らえて取り調べるまでよ。
手に余れば斬り捨てても構わないわ。
・・・。
全ては劉姓の多さが原因ね。
劉姓であれば皇位に就く資格があると勘違いする馬鹿ばかり。
今後は、王朝の正当な血統は二人の皇子だけにするわ。
二人の血統で王朝を繁栄させるのよ」
 太后皇后だけでなく、居合わせた者達全てが大いに頷いた。
袁紹や曹操の知らぬ所で、何やら大事な事が決められたらしい。
おそらくは後継者ではなかろうか。
資格があるのは太后の皇子と皇后の皇子の二人。
普通に考えれば太后の庇護する皇子は幼すぎて後継の数には入らない。
だとすると皇后の皇子一人しかいない。
後継者に定まったと考えるべきだろう。
大将軍と董卓将軍の後ろ盾があれば誰も逆らえない。




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白銀の翼(動乱)460

2015-07-15 21:01:11 | Weblog
 三日の期限を過ぎると王宮に駐屯していた貴族豪族軍が退去を開始した。
それでも捕らえた暗殺者達や内通者達の取り調べが続いているので、
袁紹と曹操の軍は残ることを許され、王宮の外れの一棟が陣所として宛がわれた。
 軍と入れ替わりに足止めを食っていた官吏達が続々と登庁を開始した。
目端の利く者は仕事どころではなかった。
本来の業務が滞っているにも関わらず、仕事よりも王宮の状況を調べ始めた。
顔馴染みの宦官女官に接触して三日間に起こった出来事を聞き出した。
そして直ぐさま、それを縁者や友人知人、恩を売りたい者に知らせるべく、
部下や従者達を走らせた。
 帝が暗殺されたという事実は伏せられていた。
厳重な箝口令が末端まで行く届き、真実を口にする者はいない。
漏らした者は、「八つ裂きの刑」と申し渡されていた。
それで誰もが、「暗殺は未遂に終わった」としか口にしない。
 市中には様々な噂が流布した。
退去した貴族豪族軍の将兵が、あるいは宦官女官、官吏が、
まことしやかな噂の出所であった。
その真偽は疑わしい物が多かったが、王宮関係者であるので誰もが耳を傾けた。
それに尾鰭が付くのは当然のこと。
小が大となり、緑が赤となった。
回り回って噂の出所となった者が耳にし、それを信じてしまうことも。
 なかでも、
「帝と二人の皇子を同時に殺して玉座につこうとしたのは、
劉家血縁の有力者であるそうだ」
という噂が人々に衝撃を与えた。
それが事実だとすると、近々市街戦が勃発するのは必至。
外郭には劉家血縁を含め、多くの貴族豪族が屋敷を構えていた。
誰が暗殺の首謀者であるのかが不明の状況では、敵味方が同居しているも同然。
一旦火を噴けば、市街地に燃え広がり、あらゆる物を焼き尽くす。
それを恐れて家財を売り払い、洛陽から退去する者が出始めた。
 赤劉邑への引き揚げを決めた赤劉家洛陽屋敷の者達は、
人目を引かぬように少人数に分かれて洛陽郊外の牧場に次々と集まった。
ここで準備を整えてから出立する予定でいた。
 その差配を任された胡璋が頭を悩ませていた。
一行には女子供が多く含まれているので、彼女等の疲労を軽減する為に、
出来るだけ沢山の幌付き馬車を掻き集めようとした。
ところが思ったように行かない。
同じ様な立場の者達が戦を見越して、幌付き馬車を手に入れようと躍起になっていた。
足下を見透かすように急激に値が上がった。
富裕の赤劉家といえど、気軽に手を出せる値ではなくなってきた。
 そこで女武者の朱郁が提案した。
「贅沢言ってられないわ。
この際だから馬車なら荷馬車でも何でも買い入れて、
自分達で幌付きに手直ししましょう。
出立つが遅れるかも知れないけど、旅を快適にする方が良いでしょう」
 家臣達が駆け回り、商家だけでなく民家からも買い上げた。
壊れた場合に備えて車輪も単体で、予備として多く手に入れた。
一方で布、革を買い集めて女達が幌に仕立てた。
最後に男達が総掛かりで幌付き馬車に仕立て直した。
多少不具合の馬車もあるが、急ぐ旅でもないので目を瞑ることにした。
予定は大きく狂ったが、出立つ出来る態勢となった。
 その出立つ前日。
許褚と華雄、華雪梅親子が旅支度で現れた。
許褚が代表して、「色々考えたが、我らも同道する」と言うではないか。
 申し訳なさそうな許褚にマリリンが問う。
「立身出世は諦めるの」
「仕えるに値する奴がいない」両肩を落とした。
 マリリンは華雄を振り向いた。
何か言おうとするより早く、華雪梅が華雄の手を振り解いて走り出した。
朱郁を見つけて嬉しそう。
声を上げて朱郁に抱きついた。
 マリリンは華雪梅と朱郁の様子を横目で見ながら、華雄に問う。
「あれで良いの」
「泣く子には勝てない」諦め顔。
 朱郁が華雪梅を軽々と持ち上げて肩車した。
キャッキャッと喜ぶ声。
これではまるで親子。
「ところで市中の様子はどう」
「劉姓の家柄の兵が何やらピリピリしていて笑える。
他姓の家柄の兵に遭えば今にも掴み掛からんばかり。
一触即発というのかな」
「自分達が疑われていると疑心暗鬼を生じているのね」
「取り調べで首謀者の名前は分かっている筈なんだ。
どうして早く捕らえないんだ」
「首謀者が分かっても、他にも仲間がいるかも知れない。
それで慎重になっているんでしょう。
それに戦になれば洛陽が荒れるだけで、官軍側にとっては何の益もないわ。
建て直しに膨大な金がかかるだけ。
おそらく逃げるのを待っているのじゃないかしら」
「けっ、我慢比べか」吐き捨てた。




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白銀の翼(動乱)459

2015-07-12 08:04:42 | Weblog
 劉芽衣は皇室に連なる縁者のうちから、主立った者の名を列挙した。
名声の高い者、ないしは勢力を誇る者。
それほど多くはない。
その中で特に秀でた人物となると、これが皆無。
「残念な者ばかり。
でもね、帝は普通でいいの、普通で。
人心の掌握に務めれば、それで充分。
足りないところは三公九卿が補えば事足りるわ」みんなを見回し、椅子に腰を下ろした。
 再び入れ替わるように韓秀が立ち上がった。
「現在の状況は以上だ。
これからは、みんなの意見を聞かせて欲しい。
当家は如何にすべきか、忌憚なく言ってくれ」
 ところが誰も口を開かない。
みんな困ったように隣の者と顔を見合わせた。
思い余った末、視線を一斉に走らせた。
家宰に視線を集中させた。
みんなの期待を一身に受けると、康は満足そうに頷いて立ち上がった。
「当家は無位無官の家柄。
政争には距離を置くべきです」当然のことを口にした。
 家宰の模範解答に韓秀の表情が歪む。
あからさまに不満げではあるが、言葉にはしない。
赤劉家の当主は義理の母で、この洛陽屋敷は妻の劉芽衣が差配していた。
彼は単なる種付けの夫であって、妻の許可がなければ馬一頭も動かせない。
おそらく彼は時勢に乗じる為に、赤劉家の兵を動かしたかったのであろう。
それもこれも自分の利益の為ではなく、息子二人の行く末を案じてのこと。
「息子二人に手柄を立てさせ、官職に就く機会を与える」
先の鮮卑の迎撃戦で久々に家名を上げた筈であるが、それでは足りないらしい。
その息子二人は劉姓ではなく韓姓。
冠礼が過ぎれば何れ独立せねばならぬ身であった。
それが分かっているので誰も彼を非難しない。
 韓秀は表情を改めた。
「確かに政争とは距離を置くべきだろうな。
・・・。
今の状況からすると何れ戦いになる。
戦わねば決着の付けようがない。
そこで当家は二つに分ける。
先に赤劉邑に戻る組と、土壇場まで踏み留まる組に分ける。
女子供達を優先して戻す。
姫五人も先に戻す。
その一行の差配は胡璋に任せる」
 胡璋が韓秀の視線を受け止めて頷いた。
姫五人は頷きながらマリリンに視線を向けた。
韓秀の視線もマリリンに向けられた。
 マリリンも馬鹿ではない。
流れから自分に何が求められているのかが分かった。
姫五人を見返しながら、韓秀に言う。
「私も戻る組に入れて下さい。
ですが私一人です。
他の三人は屋敷に残ります。
呂布は妹二人の近くにいた方が良い。
許褚と華雄は争乱こそが主選びの好機、これを逃すと次が何時になるか分かりません。
赤劉邑に戻るのは私一人です」念を押した。
 呂布に異存はないが、許褚と華雄は顔を見合わせて小声で何事か話し合う。
マリリンがそれよりも気になったのは韓秀の目色。
なにやら喜色ばんで見えた。
もしかすると三人の武勇を利用する心積もりかも知れない。
呂布は、その性格から、簡単に利用はされぬだろう。
それよりも問題は許褚と華雄。
言葉巧みに誘導されるかも知れない。
後で三人に一言注意しておく必要がある。
 そこに家臣の一人が息せき切って駆け込んで来た。
王宮の様子を窺わせていた一人だ。
門前に張り付き、門衛の近衛兵と懇意になり、内部情報を買い入れていた。
「袁紹と曹操の軍勢が後宮に押し入り、抵抗する者共を撫で斬りし、
内通者として宦官六人と女官四人を捕らえました。
表の王宮に連行し、取り調べするそうです」
 いくら袁紹や曹操が乱暴者でも勝手に後宮には入れない。
それが撫で斬り、逮捕連行とは。
おそらく大将軍を通じて太后皇后の裁可を得ているのだろう。
この一事で内郭に駐留している貴族豪族軍の信頼度が測れる。
「暗殺の黒幕の名は知れぬか」
「それは厳重に秘されているようで、外に漏れ出て来ません」
「名は取り調べで出てると考えていいのだな」
「はい、そう思われます。
公表してから兵を動かすか、その前に兵を先行させるか、
どちらにするか決めかねているのでしょう」
 マリリンは思わず尋ねた。
「黒幕と思しき者達の屋敷も見張っているのですよね」
 心当たりは五人。
劉虞。
劉岱、劉繇の兄弟。
それに劉焉と劉表。
 それぞれに事情を抱えていた。
領地も家臣も無いに等しい為、評判のみが武器の劉虞、劉岱、劉繇。
絶えず三人の周辺からは、見苦しいくらいに、良い噂が流されていた。
広い領地と古くからの家臣を大勢抱える劉焉と劉表は、
門閥を維持する為に清濁併せ呑む。
官職を利用して自家の蔵を増やすのは当たり前のこと。
目配りに優れ、有力者との婚姻にも怠りがない。
政敵からは頻りに悪い噂を流されるが、平然と笑い飛ばしていた。
 韓秀が答えた。
「何れにも見張りを置いているが、今のところ気になる動きはない」




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白銀の翼(動乱)458

2015-07-08 21:43:54 | Weblog
 マリリンはウンザリしてきた。
袁術に続いて帝までもが亡くなった。
自分が習った歴史から、だんだん逸れて行く。
 マリリンの中のヒイラギが笑う。
「ここは何なんだっはっはっはっ」
 アンタは楽しいの。
「ワクワクしないか。
別の過去との遭遇。
スリルとサスペンスの予感。
それを楽しめないとは・・・。
全てが教科書通りでは詰まらないだろう。違うか」
 大広間には様々な感情が生じていた。
戸惑いと驚き、怒り、恐れ、それらが複雑に入り混じり漂っていた。
 韓秀が長男の質問に答えた。
「激しく抵抗した一人が斬り殺された。
今のところ、生きて捕らえられたのは五人。
うちの二人が手傷を負い、手当を受けている」
「すると取り調べで黒幕が判明する分けですな」胡璋が目を輝かせた。
 家宰の康が胡璋の方に顔を向けた。
「残念なことに、そう簡単には行かぬ。
腐敗した輩が多いから、取り調べの過程でどう改竄されるか分かったものではない」
 韓秀が割り込んだ。
「今回はそうではない。
袁紹殿や曹操殿が自分達で取り調べを行うと押し切った」
「本当で」康が声を呑む。
「あの二人、日頃は宦官の排斥を訴えているが、
それだけではなく官吏も信用していないらしい」
「あの二人らしいですな」
「袁紹家に寄食している客人の一人が取り調べに慣れているとかで、
今頃はその者が任に当たっている筈だ」
 康が首を傾げた
「しかし、それだと私的な取り調べで、
たとえ真相を聞き出しても公的な処分に持ち込めない筈ですが」
「それはそうなんだが・・・、
あの二人、何もかも無視して私的制裁を強行するかも知れん」
 女武者の朱郁が当然の疑問を口にした。
「帝を暗殺するほどの者達が簡単に口を割りますか」
 韓秀が隣の劉芽衣に視線を向けた。
応じて劉芽衣が立ち上がり、入れ替わるように韓秀が椅子に腰を下ろした。
 劉芽衣は朱郁をチラリと見、それから大広間の全員を見渡した。
「袁紹家の客人は薬師崩れでね、
薬草の調合次第で人を操れると吹聴している輩よ。
私も方術修行の一つとして薬草の調合は習ったわ。
人の病を治す為の調合をね。
人を操るなんてのは試した事はないけど、理屈としては可能なのよね。
薬が効けばだけど、取り調べに有効かも知れないわね。
でも絶対に安全だとは言い切れない。
何らかの後遺症が残るはずよ。
あるには服用させた量によっては死に至る。
薬師の腕次第というところね」
 劉芽衣はみんなが納得したのを確認して、続けた。
「これまで劉家内部で問題が生じると、取り調べ内容が公表される事はなかったの。
たいていは政治的な手心が加えられ、伏せられた。
何皇后が帝の愛妾、王美人を毒殺した時でさえ罰せられなかった。
どうしても見過ごせぬ時は首謀者が密かに斬首され、病死とされた。
大事にせぬ力が働くのよ。
ところが今回は違う。
袁紹と曹操は取り調べで自供を得れば、それ全てを公表すると思うの。
内通していた者共が捕らえられ、暗殺の黒幕の元には捕縛する軍が送られる。
正しいだけに誰にも止められない。
下手すると劉家が割れる」
「黒幕は同じ劉姓の者ですか」朱郁が当然の疑問を口にした。
「それ以外は考えられないわ。
みんなもそう考えていると思う。
だから何進大将軍も董卓将軍も、劉姓の軍勢の入城を許さなかった。
みんなして劉姓の誰かが黒幕と信じているわ。
帝を暗殺し、その血筋を絶やして取って代わるつもりと。
正しいかも知れないけど・・・」
「その者を捕らえるのは間違いと聞こえますが」朱郁。
「そうよ。
帝位を奪取する分けだから、相手は周到に下準備をしていると思うの。
密かに同士も募っていることでしょうね。
思わぬ人物を仲間に引き入れているかも知れない。
そういう相手に無為無策で正面から当たるのは下策よ。
どこでどう火の手が上がり、どこまで延焼するか分からないでしょう。
政治を執り行う者は細小の手間で、最大の効果を上げるべきなのよ。
しかるべき手順を踏み、内々に首二つ、三つで済まし、
下々には何事も無かったかのように振る舞う。
そうやって体面を保ち、帝政を延命させる。
それに本格的な討伐戦にはお金がかかるわ。
その肝心のお金が朝廷には無いの。
ここは帝国全体の為にも是が非でも倹約して欲しいわね」
 語り疲れか、劉芽衣はお茶で口を湿らせた。
 劉姓の者は多いが、取って代わるだけの力量がある者は少ない。
筆頭は人望ある劉虞。
次は劉岱、劉繇の兄弟。
ある程度の領地家臣を抱えているのは劉焉と劉表。




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白銀の翼(動乱)457

2015-07-05 07:48:14 | Weblog
 王宮の騒ぎは瞬く間に知れ渡った。
真夜中、密かに動いた筈の軍勢だったが、
軍装の擦れる物音が気付かれぬ分けがない。
通り沿いに住む人々が跳ね起きた。
窓を開けた。
玄関を開けた。
門も開けた。
怖々と外の様子を覗き見た。
度胸のある者は路地陰に立って、軍勢を見送った。
 何進大将軍の軍勢。
董卓将軍の軍勢。
貴族豪族の軍勢。
それらの軍勢が王宮に向かい、開けられていた内郭四門に消えた。
 招聘された分けでもないのに、それとは別に他の軍勢も慌てて次々と駆け付けた。
こちらは明らかに、どたばたしていた。
中に劉姓血縁の軍勢や三公九卿の軍勢もあった。
慣れぬ押っ取り刀で駆け付けた文人達もいた。
彼等は分けも知らず、ただ忠義心から行動した。
それが悉く門前で止められた。
そして内郭四門を守る近衛軍に丁重に引き上げさせられた。
当然ながら理由は一切明かされない。
一様に、「大将軍の命である」と。
 朝の開門になって、入城を許されたのは三公九卿の本人のみ。
随行の家臣は断られた。
他の官吏達は、「三日間は立ち入り禁止」と申し渡された。
 赤劉家も軍勢を送り出した。
洛陽屋敷を預かる劉芽衣の夫、韓秀が手勢二百を率いて王宮に駆け付けた。
「無位無官ではあるが、劉家の家臣である」との心意気。
なのに無情に、これもまた他の軍勢同様に近衛軍に止められ、
丁重に引き上げさせられた。
 だからといって赤劉家もそうだが、他の家々も温和しく引き下がりはしない。
王宮の只ならぬ様子に、情報を求めて家臣達を四方に走らせた。
伝手を頼りに、高官の元に。
あるいは劉家血縁の屋敷に。
当然ではあるが、四門前に平服の張り番も置いた。
門前に集まり始めた物見高い野次馬に紛れ込ませた。
 王宮への出入りを許されたのは三公九卿本人だけであるが、実は他にもあった。
官吏ではなく、員数外の者達である。
宦官や女官が王宮で暮らしているので、彼等彼女等が必要とする食料は当然として、
日用品等を商う御用商人達が出入りしていた。
招聘された軍勢も糧食を必要とするので、それぞれの屋敷から搬入がなされた。
交替勤務の近衛軍も大半が午前中で入れ替わった。
これらの者達に情報を求める人々が殺到した。
近衛兵の口は重い。
が、他の者達は口が軽い。
指定された通路しか使ってないのに、全てを見たかのように話す。
「盗賊を捕縛する為に兵士達が走り回っている」なんてのは可愛い方。
無責任な様々な噂が流布した。
 王宮閉鎖の三日が瞬く間に過ぎようとした。
噂は噂を呼び、「玉璽が盗まれ、その盗賊が王宮内を逃げ回っている」と。
そんな外の騒ぎをよそに、赤劉家のマリリン達は練武に励んでいた。
呂布と許褚の無口な者同士が槍と槍で対峙。
槍の穂先が夕陽を浴びて怪しく輝いた。
呂布が攻め手。
許褚が受け手。
交互に攻守が入り替わった。
一定の約束事はあるが、時として、呂布が悪戯のような手管を繰り出す。
それを許褚が平然と受け流す。
 二人が疲れを見せるとマリリンと華雄に替わった。
マリリンは何時ものように棍。
右手一本で大上段に構えた。
華雄は最近入手した真新しい大太刀。
こちらは中段に構えた。
マリリンが攻め手で、華雄は受け手。
 そこに方術修行を終えた姫達五人が現れた。
彼女達は憂さ晴らしするかのように毎日、練武に合流するのに今日は違った。
先頭の劉麗華が二人の間に割って入った。
「話があるそうよ。四人とも付いて来て」
 相手は劉芽衣しか考えられない。
 屋敷の大広間に、みんなが顔を揃えた。
劉芽衣、韓秀の夫妻。
その長男、韓寿。
長女、劉麗華。
次男、韓厳。
劉林杏、劉紅花、劉深緑、劉水晶の姫四人。
家宰、康と篤の親子。
劉麗華の守り役にして、赤劉邑家宰の娘、朱郁。
胡璋を含む古参の家臣五人。
同じく古参の女中三人。
そして居候のマリリン、許褚、呂布、華雄の四人。
 劉芽衣が険しい表情で挨拶に立った。
「ゆゆしき事態になりました。
これから話す事は他に漏らしてはなりません。いいですね」
 みんなを見回して、説明を夫に譲った。
 韓秀が勢い良く立ち上がった。
「王宮の異常事態は聞いているだろう。
三日が過ぎようとしているのに、何の説明もない。
実に馬鹿げてる。
我ら長年の忠臣を除け者にしている」憤りを見せ、
「が、ようやく分かった。
中に居る董卓将軍配下の部将に連絡がついた」無表情になり、
「まことに残念な事に、お上が暗殺された」卓を激しく叩いた。
 突然の悲報に誰もが言葉をなくした。
有り得ない事だ。
決して有ってはならない事だ。
 暫くして古参の家臣の一人が口を開いた。
「あの厳重に守られた後宮で殺されたのですか」
 韓秀の視線がその者に向けられた。
「外周りは近衛が厳重に守っているが、中に居る宦官女官の帯刀は禁止されている。
空っぽも同然。
お上の身近に仕える分けだから当然なんだが・・・。
だから敵が内部に侵入すれば戦う術がない。
近習の者達は密かに隠し持っていた短剣で応戦したようだが、如何せん、
敵は槍や太刀で武装した、おそらくは手練の者達。
敵うわけがない」
「王宮内部を捜索しているという噂は」と劉麗華。
「刻限は夜中の閉門の時間帯。
近衛軍が四門を守っていて、暗殺者達は後宮から逃れても、
王宮自体からは逃れようがない。
それで軍勢を動員して探し回っている」
「何人か捕らえたのですか」長男の韓寿が尋ねた。




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白銀の翼(動乱)456

2015-07-01 21:35:49 | Weblog
 無視出来ない。
宋典は階段の上から憎々しげに見下ろした。
袁紹と曹操の視線をしっかり受け止めた。
二人して良家のお坊ちゃま育ちであるが、けっして軟弱ではなかった。
短期間ではあったが官職に登用されるや、二人とも確とした結果を残した。
その仕事振りは今でも官吏の間では評判が良い。
なのに二人は示し合わせたかのように、官職に拘泥することなく辞した。
噂では宦官の驕慢な態度を間近にして嫌気が差したらしい。
 在野の人となった袁紹は堂々と宦官排斥を訴え始めた。
口を極めて宦官を罵った。
それが若手の貴族豪族に受け入れられて一定の支持を得た。
支持層の急激な広がりはないが、強持ての武人肌の者達が多く、
在野の声だからと言って侮れない。
 曹操の場合は宦官の家系なので、目立つ発言は控えていた。
発言がどのように捉えられるか分からないので、用心しているのかも知れない。
それでも心は宦官排斥にあるようで、常に袁紹の側にいた。
 幸いというか、今は事態が切迫していた。
何にも増して暗殺者共を捕らえることが優先するはず。
ここで宦官排斥の演説はないだろう。
宋典は安心して問うた。
「問い質したいとは如何に」
 袁紹が声高に応じた。
「無傷で暗殺者共を捕らえたとして、その取り調べは誰が行う」
 そこまでは考えていなかった。
「それは我らが」適当に言葉を濁した。
「我らとは誰だ」執拗な問い。
 宋典は言葉に詰まった。
念頭にあったのは暗殺者共を捕らえ、黒幕の名を聞き出すことのみ。
よく考えて見ると、それが許される筈はない。
ここは後漢の官僚機構の本拠。
全てには決まり事があり、それに従わねばならない。
大将軍の権威を利用しても、それは一時的な便宜に過ぎない。
捕らえた時点で宋典の仕事が終わる。
それから先には取り調べの役目の者がおり、裁く役目の者がいる。
通常の犯罪であったなら何の懸念もないが、今回の一件は根が深い。
どこから横槍が入るかも知れない。
真実が曲げられるかも知れない。
なにしろ官吏の世界は情実で成り立っていると言っても過言ではない。
血縁であるか、同郷であるか、誰の子弟筋であるかが優先される。
公正公平は二の次、三の次。
 帝暗殺の黒幕が宮廷に深く根を張っていれば、
捕らえた暗殺者共が無事で済むわけがない。
確実に密殺されるか、毒殺される。
あるいは偽りの自供をさせて別の誰かに濡れ衣を着せる。
帝暗殺のついでに政敵を葬る可能性もある。
 何も始まってないのに宋典はうんざりした。
帝暗殺への怒りに駆られて行動している自分が小さな存在に見えた。
仕方なく下の二人に問う。
「お前達はどうしたいのだ。何をしたいのだ」
 袁紹が応じた。
「暗殺者共を無傷で捕らえるので、処置は我らに任せて欲しい」
 どうやら宦官だけなく、官僚機構そのものを信用してないらしい。
「自分達で自供させたいという気持ちは分かる。
しかし、それだと私的な取り調べということで、公的には認められなくなる」
「一向に構わない。
我らは無役の者ばかり。
後漢の臣下ではあるが朝廷官吏の臣下ではない。
お上以外の者には何の制約も受けない。
お上の仇討ちは我らが私的に行う」堂々と口にした。
 宋典は思わず自分の左右に並ぶ武将達を見回した。
それぞれに目顔で問う。
だが誰も応じない。
仕える将軍が官僚機構の一員なので、迂闊な事は口に出来ないのだろう。
 宋典は天を仰ぐが既に答えは決まっていた。
階段下の二人を見下ろして、勿体振った口調で言う。
「目を潰れるのは一晩だけだ」
「けっこう」袁紹が頷いた。
「殺すことなく自供が取れるか」
「当家に寄食している客人の中に、その手の事に慣れた者がいる」




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