金色銀色茜色

生煮えの文章でゴメンナサイ。

(注)文字サイズ変更が左下にあります。

昨日今日明日あさって。(アリス)105

2019-04-28 07:29:43 | Weblog
 ザッカリーファミリーのアジトは直ぐに判明した。
奉行所の手の者と覚しき者達が遠巻きに、
厳重な監視下に置いているのでソレと分かった。
歴史を感じさせる、と言うよりも廃棄された建物だ。
 ファミリー側も気付いているようで、一触即発の気配がした。
危ない危ない。
巻き込まれたら俺まで火傷する。
他日を期したいが、アリスが承知しない。
『邪魔する奴等は蹴散らすのみよ』と意気盛ん。
 俺は誰の注意も引かぬように、周辺をそれとなく歩いた。
ついでに新しいスキル、透視を起動した。
これなら内部まで見通せるはず。
「スキルレベルが足りません」脳内モニターに残念なお知らせ。
思わず自分で、ガ~ンと呟いてしまった。
『真面目にやれよ』アリスから突っ込み。
そこで探知君をフル稼働。
アジト内の人数を把握。
人間の位置に細心の注意を払い、3D表示。
初見の建物なので内部には詳しくないが、
彼等の位置から大雑把に読み取った。
 二階建て。
一階部分には十二人。
二階部分には七人。
建物の外回りにも、それらしき人間は大勢見かけたが、
何れも目付きの悪い者達ばかりなので、
奉行所側かファミリー側か見分けが付かない。
 俺はアジトから遠ざかった。
『逃げるつもりなの』アリスがフードの中で叫ぶ。
『信用がないな。まあ、任せてよ』
 俺は二つ向こうの辻を曲がった。
幸い人影はない。
即座に身体強化、その場でジャンプ。
それを風魔法でサポート。
 傍の建物の屋根に飛び乗った。
そこからは一本調子。
慎重も躊躇もない。
勢いに任せて屋根から屋根を移動し、目的の屋根に飛び移った。

 アリスに注意した。
『尋問するから無闇に殺さないこと』
 探知君で確認した。
建物内部で騒ぐ者はいない。
外側も同じ。
誰にも気付かれてない。
 3D表示を頼りに屋根の上を歩いた。
ボスらしき男は周辺の連中の動きで、それとなく分かった。
守られてるポジションの男は一人だけ。
 ボスの部屋の上に来た。
まず屋根に闇魔法、ダークボール。
下の天井部分にもダークボール。
空いた穴から飛び降りた。
 物音一つ立てずに現れた俺に室内に居た三人は唖然。
理解が追い付かないのだろう。
 アリスがフードから飛び出した。
大方の目に触れぬ妖精の姿ではなく、愛着のある子猫の姿。
変身スキルだと姿が露見するのだが、隠れるつもりは更々ないらしい。
その姿でもって攻撃した。
風魔法、ウィンドボールを放って三人を気絶させた。
それでも不満なのか、ご機嫌斜めな様子。
 俺は三人を鑑定した。
二人は護衛で、デスクに突っ伏しているのがボスと判明した。
「名前、ザッカリー。
種別、人間。
年齢、四十二才。
性別、雄。
住所、足利国山城地方国都住人。
職業、ザッカリーファミリーのボス。
ランク、B。
HP、140。
MP、45。
スキル、槍士☆☆、剣士☆☆、盾士☆☆」
 オークのような異様にでっかい身体。
加えてランクがB。
スキルも侮れない。
正面切って戦わなくて正解だったのかも知れない。
 俺はザッカリー目掛けて鍛冶スキルを発動した。
こういう使い方が適切かどうかは知らないが、まあ・・・、相手は悪党。
失敗しても問題はない。
 イメージは首輪。
太くて重い鉄製の首輪。
無限に漂う魔素を集め、首輪に変換するだけ。
 意外に簡単に、相手の首に傷一つ付けずに出来た。
黒光りする鉄の首輪。
取り外し可能な魔道具の奴隷の首輪等とは別物に仕上げた。

 一人も起きないので練習の一環として、
ついでに護衛の二人にも首輪を付けた。
 それを見ていたアリスに尋ねられた。
『鍛冶スキル持ちに頼めば簡単に外せるの・・・』
『たぶん無理かな。
術式を施した首輪なら道具だから簡単に施錠解錠できるけど、
この手の単純な首輪だと逆に難しいと思う。
外すことを前提に作ってないから、手こずるんじゃないかな』
 鍛冶スキルは、そもそもが素材を揃えることから始まる。
俺のはそれを省いた規格外のスキル。
余人に一朝一夕に超えられるとは思えない。
『このまま付けて置いても構わないわよね』
『話し合いの結果次第・・・かな』

 最初にザッカリーが気が付いた。
寝惚けたように起き上がり、自分が置かれた状況に悪足掻き。
首輪を外そうと必死になった。
狭い隙間に指を差し込んで藻掻く、藻掻く。
ついには俺を睨み付けた。
「何の真似だ」怒鳴った。
 ボス部屋の声は外に漏れない厚い造作のようで、
廊下の護衛に動きはない。
 俺は風魔法で声音を変えた。
「質問がある」
「何様のつもりだ」
「俺様か、王様」
「巫山戯るな、これを外せ。
直ぐに外せば許してやる」
 アリスが攻撃した。
ウィンドカッターでザッカリーの頬を浅く削いだ。
「うっ、痛っ」
 頬に手をやり、血を確認するザッカリー。
憎しみを込めた目でアリスを見遣った。
「貴様、従魔か」
 ようやく存在に気付いたらしい。
俺とアリスを交互に見遣る。
 従魔、と言われたアリスが怒った。
もう一発、ウィンドカッターを放とうとした。
それを俺は慌てて止めた。
『これ以上、傷物にしたら答えが得られない』
 俺を睨むアリス。
『私は眷属よ。従魔なんかと一緒にされたら怒りたくもなるでしょう』
 俺達が答えないのでザッカリーが顔を強張らせた。
「お前達は何者なんだ」
「見たまんまだ」
 護衛の一人がモゾモゾと動き出した。
途端、アリスが無造作にウィンドカッターを放った。
立ち上がろうとする相手の額を縦に切り裂いた。
「あー」
 たぶん、致命傷ではないと思う。
髪と血が派手に飛び散り、男は膝から崩れ落ちた。
大量に流れ出る血。
次いで肉片らしき物も。
もしかして頭部の奥にまで届いたのか。
 ザッカリーは状況をしっかり理解したらしい。
「これは何のつもりだ」
「質問がある。
正直に答えれば見逃す。
そこは約束しよう」
 ザッカリーは少し考えた。
「奉行所の者には見えないが・・・」
「奉行所とは別口だ。
さあて、質問はいいかね」
「内容による。
知らないことは答えられない」
「心配するな。
お前が知っていることしか聞かない」
 ザッカリーならアリスの一件からして、妖精の売買に絡んでいる筈だ。
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昨日今日明日あさって。(アリス)104

2019-04-21 08:05:43 | Weblog
 奉行所に正式配備されてる携行灯だが、価格ゆえに数は少ない。
今回は同僚や番所の者達が駆け付けて来たので、幸いにも三つ。
その三つの携行灯が床の二人に集中した。
捕り手も殺到した。
先頭の同心が叫んだ。
「二人とも怪我してる」
 先任の同心が問う。
「怪我の程度は」
「重症だ」
 番所から来た同心が二人の傍に寄った。
「これは酷いな。
・・・。
こいつらの顔に見覚えがある。
一人はザッカリーファミリーの金庫番で、もう一人は客人待遇の老人だ。
この様子からするとリンチに遭ったようだな」
 ザッカリーファミリーの金庫番とは大物だ。
理由は分からないが、それが客人と共にリンチに遭った。
居合わせた者達が大事件の予感に身震いした。

 二人は口が利けないほどに怪我していた。
尋問よりも治療が優先されるが、ここにはスキル持ちがいない。
そこで番所から治癒ポーションを取り寄せ、二人の傷口にかけた。
公用のポーションなので効能は保証付き。
ただ二人とも重症なので何本も空にした。
目に見える範囲の傷口は塞がり、出血だけは止んだ。
が、骨折だけは、どうにもならない。
これ以上は現場では無理。
これから先はスキル持ちに頼るしかないだろう。
 担架が持って来られ、二人は警護付きで奉行所に搬送された。
それでも問題は残っていた。
加害者はどこに。
 奉行所側が突入するまで、倉庫内は明かりが点いていた。
あれは光魔法、ライト系。
それまで加害者が現場に居合わせた筈だ。
捕り手の人数は十分じゃないが倉庫全体は監視下にあった。
その目から逃れるは不可能。
さっそく倉庫内部の捜索が開始された。
空き箱も次々に改められた。
携行灯で丹念に調べられた。
ところが陰も形も・・・。

 捕り手の一人が天井を指し示した。
「あれは・・・」
 みんなが上を見上げた。
屋根の丸い穴から三日月が顔を覗かせていた。
老朽化で壊れた、と言うよりも、そこだけを切り抜いたような・・・。
 真下には残骸一つ落ちていない。
それを確かめて先任の同心が同僚に言う。
「闇魔法なら可能だな」
「この高さを飛んで、屋根に逃げたと」
「身体強化スキルのレベルが高ければ出来る筈だ」
「それじぁ今頃は・・・」
「屋根伝いになら誰の目に触れずに逃れられる」
 番所から来た同心が感心したように言う。
「リンチされた二人も魔法使いだ。
噂では、なかなかの使い手だったようだ。
そんな悪党の魔法使い二人を同時にリンチするからには、
犯人は高位の使い手だろうな。
我々の手には負えない、そう思わないか」

 担架で奉行所に運ばれた二人は重症で口は利けないが、
悪党とは思われぬような歓待をされた。
当番の治癒スキル持ちだけでなく非番の者達も招集され、
治癒ポーションと重ね掛けで入念に治療された。
 帰宅直前であった奉行は足を止めて吉報に心を躍らせた。
担当区のスラムの悪党が重症で運び込まれて来たのだ。
一人はザッカリーファミリーの金庫番。
指名手配されてはいないが悪党には違いない。
其奴の身柄を手に入れた。
 治療室から当番の与力が報告に来た。
「治療の経過は順調です」
「HPとMPは」
「血を失ったので低いままです。
完全回復するには五日ほどかかるそうです
そこで、回復する前に【魔法封じの首輪】を付けることを、
強くお勧めします」
 魔法使いを捕らえた際は、魔法での抵抗を封じる為に、
【魔法封じの首輪】を着用させるのが一般的であった。
 奉行は悪い笑みを浮かべた。
「二人は犯罪者として捕らえた分けじゃない。
そこのところは・・・」
「片方が逃げたようなので現行犯としては、ちょっと弱いですな。
しかし世間では悪党と言われている奴です。
このまま野放しには・・・。
治療の傍ら、話しを聞いてみるのも一興かと。
治療代の代わりに・・・」
「回復が長引けば良いな」
「はい、たぶん長引きます。
ついでに箝口令も敷きましょうか」
「理由は・・・」
「リンチした側が逃げています。
このままだと、また狙う可能性も考慮せねばなりません。
一般人に被害が及ばぬようにするのが我等の役目かと」
 与力がふてぶてしい笑みで頭を下げた。

 俺は次の日の夕刻、南区のスラムに出掛けた。
ソロ用のフード付きのローブで正体を隠し、何気なさそうに歩き回った。
予想通りだった。
奉行所の手の者、と覚しき連中が目に付いた。
当人達は偽装しているつもりなんだろうが、仕草からして怪しかった。
人の物をくすねる目付きではなく、誰かを探す目付き。
役人臭プンプン。
スラムの住人達が掛かり合わぬようにしているのには気付かぬ様子。
 俺は辻の陰に身を寄せた。
奉行所のせいで獲物が姿を現さない。
穴倉にジッと身を潜めているようだ。
 アリスが言う。
『これじゃね、困ったわね。
面倒だからファミリーのアジトに殴り込む』
『殴り込みか。
甘い誘惑だな』
『もたもたしていると、夜になるわよ』
 クラークやサンチョに聞けないとなれば、
その上のボスしか思い付かない。
ファミリーのボス、ザッカリーなら把握してる可能性がある。
アジトの近辺に居れば、そのうちに出掛けるだろう、
と安易に考えていた。
 殴り込むのは容易い。
アリスと二人なら制圧する自信はある。
口を割らせるのは別だが・・・。
 問題は奉行所の目。
連中の関心が何処に有るのかは知らないが、
騒ぎ持ち上がれば役目柄、駆け付けるだろう
今回も夜に紛れて逃走すればすむ事なんだが、
奉行所まで巻き込むつもりはない。
彼等に恨みは一切ないのだ。
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昨日今日明日あさって。(アリス)103

2019-04-14 07:48:39 | Weblog
 俺は現場をアリスに任せて傍観していた。
酷い有様だが、肝心なのは二人を殺さぬこと。
まだまだ使い道が残されていた。
たとえ虫の息でも構わない。
生きてさえいれば・・・。
そこまで腹を括っていた。
 アリスの動きが止まった。
顔に疲れは見えない。
『どうした』
『これじぁ私はまるで弱い者虐めね』
『報復だろう』
『そうなんだけど、釈然としないのよ』
 彼女には同情した。
脳筋妖精だが我が儘なだけで、人懐っこい性分。
残虐な思考までは兼ね備えていないので、
一方的な今の状況が耐えられないのだろう。
 俺は宥めた。
『アリスが悪い分けじゃないよ』
『みっともないのよ、今の私』
『・・・』言葉が思い浮かばない。
『・・・』アリスが俺を振り返った。
『聖人君子なんて、どこを探してもいないよ』慰めになっていない。
 アリスが空中で仁王立ちして俺を睨む仕草。
『慰めてるつもりなんでしょうけど・・・、下手ね』
『そこはほら、俺ってお子様だから』
 話を続けようとするアリスを俺は片手で制した。
『待って、周りの様子がおかしい』
 脳内モニターに目を遣った。
探知君。
無数の緑色の点滅がこの倉庫の周りに集まって来るではないか。
人、人、人・・・。
そして遠巻きに包囲するかのような動き。
ザッカリーファミリーが助けに駆け付けたかな、
とも思ったが来た方向からすると、そうとも思えない。
規則正しい動き・・・、これはたぶん、官憲・・・。
そうそう、忘れていた。
街中の治安維持は町奉行所の管轄。
俺は悪党が職業ではないので、すっかり頭から抜け落ちていた。
俺達は遣り過ぎたのだ。
魔法を連発し過ぎて目を付けられたのだろう。

 俺は周りの状況をアリスに説明した。
するとアリスの目に生気が戻った。
『簡単じゃないの。
邪魔する連中を追い払えば良いんだろう。
私がウィンドカッターで追い払ってやるわよ』
 空元気ではなさそう。
まだまだ余裕があるのだろう。
『そうは言うけど、俺は無関係な連中は巻き込みたくないんだよ』
『お子様は優しいのね。
でも私は違うわよ。
まだ全部終わってないから、当然、排除するわよ』
 そうなんだ。
まだ終わってない。
段取りでは、これからだ。
 俺が相手を挑発して魔法を使わせ、そのMPを削る。
続けてアリスが私憤を晴らしながら、相手を痛めつけてHPを削る。
そして最後に、弱った相手を尋問する。
他の妖精を捕らえていないかどうか。
捕らえていたとしたら、どこに閉じ込めているのか。
売ったとしたら、どこに売ったのか。
 俺的には、クラークのスキルにも興味があった。
幸い闇魔法は得たが、残り二つも滅多に見かけないもの。
契約と獣化。
是非とも欲しい。
特に契約スキル。
相手を強制的に契約下に置けば、
尋問しなくても容易に何でも聞き出せる。

 時間はさほど残されていなかった。
外で青色の点滅。
踏み込むに足る人員が集まったので、
斥候役が魔法を発動したのだろう。
でも魔力が弱い。
まあ、正規の魔法使いは少ない。
その少ない魔法使いが、
町奉行所の街廻り如きに配備される分けがない。
そうなると斥候役は野良の魔法使い。
魔道具を駆使して現場を探知しているのだろう。
 俺は決断した。
欲張っちゃいけない。
闇魔法一つで満足すべきだ。
契約スキルはまた別の機会に。
 天井を見上げた。
それほど高くはない。
その一角に闇魔法、ダークボールを撃ち込んだ。
 予想通りだった。
当たった一角が闇に飲み込まれるようにして、瞬時にして消えた。
何一つ、瓦礫の欠片すら落ちてこない。
 代わりに落ちて来たのは月明かり。
三日月が俺を見下ろしていた。
 理解したのか、アリスが言う。
『アンタはお人好しよね』小馬鹿にした笑みを浮かべて飛翔した。
 俺は身体強化スキルに風魔法を重ね掛け、屋根に飛び上がった。
アリスのような飛翔は無理だが、人間離れしたジャンプは可能だ。
それを駆使して逃走するしかない。
 下で聞き慣れぬ笛の音。
合図。
一斉に表口と裏口、双方から大勢が飛び込んで来た。
「町奉行所の捕り方である。神妙にして縛に付け」
 俺は単なるお人好しではない。
性格にちょっと難がある。
光魔法で設置した四つの照明を消した。
ついでに展開したままのシールドも。
俺やアリスの痕跡、全てを雲散霧消するイメージ。
眷属なので難しくはない。
 下は大騒ぎ。
倉庫内の明かりを前提に踏み込んで来たので混乱を来した。
放置してある木箱に躓く者。
味方同士でぶつかる者。
何もないのに転がる者。
「止まれ。誰か、明かりを持つ者は急いで点けろ」
 俺はクラークとサンチョを探した。
夜目が利くので直ぐに見つけた。
二人は立ち上がることすら出来ないが、
何とかして捕り方から逃れようと最後の足掻き。
毛虫のような動きで出口に移動していた。
そこを捕り方の魔道具の明かりが捉えた。
「お前達、動くな」
 携行灯。
片手で持ち運び出来る筒型の照明。
個人のMPを明かりに変換する術式が施されているので、
便利に使えるが問題は価格。
庶民には高い。

 俺は懸念した。
二人の口から妖精の存在がばれるのではないか、と。
それを読んだのか、アリスが言う。
『私の為に殺すつもり』
『存在がばれちゃ困るだろう』
『問題ないわ。
ランク次第なの。
妖精よりランクが下だと見えないの。
今の私はBランク。
私が存在を誇示しない限り、誰にも見つけられないわ。
まあ、探知とか、気配察知には困るけどね』
 でも実際に捕まった奴が言うことか・・・。
クラークの話術と酒に嵌り、簡単に捕まっておいて、その言い草。
反省はないのだろうか。
ないのだろう。
脳筋妖精だから。
 俺は逃走を開始した。
隣の屋根に飛び移った。
風魔法が利いて、物音一つ立たない。
勢いのまま、屋根から屋根。
まるで忍者の気分。
 アリスはと見ると、何時の間にか俺のローブの端に取り付いていた。
『私、疲れているの。何か文句ある』
『・・・ありません』
『尋問できなかったけど、次の手は考えてあるんでしょうね』
『任せて。代案はあるよ。
この騒ぎが収まったら、その手の業界の連中を探し出し、
捕らえて尋問しよう』
『分かった。それじゃ、急いで』
 俺が屋根から屋根へ飛び移るスピードを上げると、
『わあー、面白い、キャキャキャ』アリスが叫声。
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昨日今日明日あさって。(アリス)102

2019-04-07 07:21:02 | Weblog
 クラークのランクはサンチョよりも一つ上。
俺と同じBランク。
それでも数値は俺の方が段違いに多い。
135に対して俺は222。
でも油断はしない。
残数三枚のウォーシールドでは不安なので、枚数を増やした。
ついでにEPの数値も上げた。
硬度3、弾力性2を割り振った。
 クラークが闇魔法を連発した。
一撃で一枚、合わせて十枚を撃ち消した。
それでも俺には届かない。
苦々しそうな表情で俺を睨む。
 そこに朗報が飛び込んだ。
「闇魔法の分析が終わりました。EPで再現可能です」脳内モニター。
 持ち直したサンチョが戦線に復帰した。
ウォーターカッターを連発してきた。
こちらはランクの違いを改めて鮮明にした。
 俺は自分なりに闇魔法をイメージした。
それはブラックホールに似たもの。
壮大なブラックホールそのものだと俺のランクでは届かないだろう。
そこで簡易な、お手軽な、なんちゃってブラックホールを目指した。
そして全ての攻撃魔法を吸収し、魔素に変換するイメージ。
ダークシールドとして最前列に置いた。
 すると連発されたウォーターカッターを狙い通り全て飲み込んだ。
ウォーターシールドのように弾き返すのではなく、
広い懐で何事も無いように受け入れた。
様子が最前とは違ったことに気付いたのだろう。
愕然とするサンチョ。
 再び朗報が届けられた。
「新たなスキルを獲得しました。闇魔法☆」脳内モニター。
 表情だけでなく全身を凍り付かせたクラーク。
視覚で捉えられない魔法だが、
同じスキルだけに現象が理解できたのだろう。
棒立ち、隙だらけ。
 何しろ闇魔法の使い手は少ない。
利用範囲が狭いと酷評されているので、適性のある者でさえ敬遠し、
他の属性に鞍替えする始末。
お陰で指導する者も減る一方。
これでは絶滅危惧種。
そこで出会ったのが俺。
同属の魔法を見て戦慄、もしくわ感動しているとしか思えない。
たぶん・・・。

 俺はアリスに念話した。
『出番だよ。でも殺しちゃ駄目だよ、使い道が残っているからね』
 途端、俺の陰にいたアリスが喜び勇んで飛び出した。
『分かっているわよ』
 風魔法で空中に舞い上がり、俺と二人の間に割って入った。
当然、白い子猫の姿のままだ。
四つ足で二人を威嚇した。
「ミャー」可愛くて、とても威嚇の効果は望めない。
 それでも二人を驚かせるには充分だった。
当初は目を疑った二人だが、ジワジワと状況が飲み込めて来たらしい。
次第に顔色が変化して行く。
狼狽とも、困惑とも・・・。
 最初にサンチョが誰にともなく問うた。
「これは、そうだよな」
 クラークが応じた。
「そうだ、俺が売った奴だ」
 アリスは恨み言は吐かない。
無言のまま、その場でバク宙した。
鮮やかなハレーション。
本来の姿に戻った。
三対六枚羽根の妖精。
金髪で金色の瞳
 アリスは時間が無制限でない事を理解しているので、
さっそく報復に取りかかった。
ウィンドカッターの連発。

 慌てた二人だが、そこは魔法使い。
防御魔法を速攻で繰り出した。
サンチョはウォーターシールド。
ランク違い。簡単に一撃で破壊された。
 クラークはダークシールド。
ランクは同じでも、スキルレベルが違う。
これは二撃目で破壊された。
 それでも二人は最後まで抗った。
MP切れになるまでシールドを張り続けようとした。

 アリスは筋脳妖精だけに単細胞。
面倒臭いとばかりに切り替えた。
両手を握り締めて、矢のように飛ぶ。
 HPもMP同様に150。
小さな身体だが侮れない、と言うか、身体能力もBランク。
剛力の部類。
それが勢いのまま、シールドをぶち破り、クラークの胴体に突っ込んだ。
 悲鳴を上げ、身体をくの字に折り曲げたクラーク。
鳩尾を押さえて激しく嘔吐し、その場に崩れた。
 次はサンチョ。
巧みな宙返りをして舞い上がり、降下、両足で背中に飛び蹴り。
前のめりに倒れたままでは終わらせない。
髪をむんずと掴み、風魔法でもって空中に持ち上げ、
正面の壁に投げ飛ばした。
 再びクラーク。
これまた同様に壁に投げ飛ばした。
 そんなこんなを三度四度。
死なぬように手加減はしているが、
どう見ても骨の何本かは折れていそう。
 俺は注意した。
『このままじゃ殺しちゃうよ』
『分かってるわよ』
 アリスは投げるのを止めた。
代わりにウィンドカッター。
身動きの取れない二人の手足に撃ち込む。
殺さぬように狙いは一つとして過たない。

 国都の防御力は大方だが完成の域に近い。
王宮区画は魔法陣が施され、許可のない者の侵入を許さない。
ただ、外郭区画はそうも言えない。
広すぎるので魔方陣で覆いきれないのだ。
完璧を目指すとすれば大勢の魔導師と、
それに見合う費用を毎年、計上しなければならない。
その代替案として城壁と水堀が設置され、外周は国軍騎馬隊、
門は門衛、城壁の上の歩廊は国軍歩兵が巡回、と割り振られた。
 そして街中は国軍の見回りもあるが、
主体になるのは東西南北に設置された奉行所であった。
長官である四人の奉行と、配下の与力・同心に任されていた。
 殊に同心は街中に平民として紛れ込んでいた。
兵士のような制服ではなく、どこにでも溶け込めるような服装を心掛け、
街の顔役と繋がり、治安維持に努めていた。
 その一人が南区のスラム街近くを巡回していた。
長年の経験で培った勘が彼に囁いた。
事件だ、と。
 空気から魔法の発動が伝わって来た。
明らかに生活に必要な量を超えていた。
これは異常事態。
暴力沙汰、犯罪としか思えない。
彼は周辺に居た配下の小者四人を呼び集めた。
そして直ぐさま現場と覚しき方向へ急いだ。
 巡回で辺りの地理には詳しい。
迷いもなく、真っ直ぐに目的地に到達した。
倉庫。
空き倉庫。
昼間は近所の子供、夜は近所の不良共が屯している場所だ。
 今も魔法が発動されていたが、彼は内部は除かない。
これだけ強力な魔法から推測すると、
気配察知スキルを持つ可能性が高い。
そこで少し離れて配下に指示を下した。
一人は南町奉行所に、一人は近くの番所に、
一人は近くを巡回している仲間の同心に、応援要請に走らせた。
残った一人には倉庫の反対側の見張りを命じた。
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