ベティ様はほんの一瞬だけ表情を歪められた。
けれど、それをイヴ様に向けられる事はなかった、
ポール細川子爵から目を離されると、
女性騎士から差し出されたハンカチを受け取り、
作り笑顔でイヴ様の涙にあてられた。
「ねえイヴ、お母さまの仕事はもう少しかかるの。
全部終わらせないと、皆が困るの」
イヴ様は何の疑問も抱かず、尋ねられた。
「みんながこまるの」
「そうです、皆が困るの。
後ろのポールも、王宮の皆も。
だからもう少し、ダンタルニャン佐藤子爵の屋敷で待っててくださいね。
・・・。
良い子にして待ってるのですよ。
わかりましたか」
イヴ様のつぶらな瞳が俺に向けられた。
「にゃ~ん、いいですか」
「はい、もちろんですとも」
ベティ様は愛娘を先の侍女に預けられた。
「頼みますね」
「お任せくださいませ」
ベティ様は直ちに騎乗なされた。
手綱をとり、俺を見下ろされた。
表情は冷静沈着そのもの。
「ダンタルニャン佐藤子爵、もう少しお願いするわね」
「はい、お任せください」
ベティ様の視線がカトリーヌ明石大尉に向けられた。
「カトリーヌ、頼りにしてるわよ」
「はい、お任せください」
ベティ様は改めて愛娘を預ける者達を見渡された。
侍女三人。
女性騎士四人。
そして、その後ろを見て、はてと首を傾げられた。
俺は説明した。
「後ろの者達は私の仲間です。
幼年学校や元国軍尉官の者達です。
イヴ様の遊び相手と警護をしています」
「そうなの・・・」
「一人は京極公爵家の長女、シェリル。
そしてその守役のボニー。
商家の娘が三人。
キャロル、マーリン、モニカ。
元国軍尉官がシンシア、ルース、シビル」
何故かベティ様の目色が変わった。
遠くを見る様な・・・。
「国軍のシンシアにルース、そしてシビル・・・。
どこかで聞いた覚えがあるわね」
カトリーヌ明石大尉が応じた。
「国軍でならしたお三方です」
何をしでかしたんだろう、あの三人。
公式に爵位を与えられているから、問題はないと思うけど、
初耳、詳しく知りたい。
ベティ様は深く頷くと、三人に視線を転じた。
「シンシア、ルース、シビル、お顔を見せてくださいな」
三人が顔を上げた。
ちょっと堅い。
ベティ様がそんな三人を繁々と見た。
納得したかの様な表情。
「退役していたのですね。
イヴを頼みましたよ」
「承知いたしました」三人が声を揃えた。
ベティ様が尋ねられた。
「京極家の者は」
即座にシェリルが応じた。
「これに」
「貴方のお名前は」
「シェリル京極です」
「顔をお上げなさい」
「はい」まん丸な顔を強張らせた。
ベティ様が柔らかい笑みを浮かべられた。
「確かに京極家の血ね。
・・・。
いいわ、イヴをお願いね」
「承知いたしました」
ベティ様は終わらない。
「守役の者、顔をお上げなさい」
「はい」
「名は」
「ボニーと申します」顔も身体も固い。
「シェリル共々、イヴを頼みますよ」
「お任せ下さい」
ベティ様は残った三人も見逃さない。
「商家の娘の三人、顔を上げなさい」
カチンコチンの塊が恐る恐る顔を上げた。
「はっ、はい」
「ひっ、はい」
「ふぇっ、はい」
ベティ様が頭をかかれた。
「怖がらせましたね。
大丈夫ですよ。
取って食べたりしませんから。
・・・。
名前を聞かせてくださいね」
「商家の娘でキャロルと申します」
「同じく、マーリンと申します」
「同じく、モニカと申します」
ベティ様は玩具でも見つけたかの様な顔で頷かれた。
「キャロル、マーリン、モニカですね。
分かりました。
それでは三人もイヴをよろしくお願いしますよ」
「はい」
「はっ、はい」
「お任せください」
ベティ様が俺を見た。
「警護の兵が必要でしょう」
「ご配慮には感謝いたします。
ですが、不要です」
「足りるのですか」
「指揮系統の乱れの元になりかねません。
屋敷内は今のままで」
ベティ様が呆れた様に言う。
「分かったわ。
でも貴方、本当に子供なの」
「はい」
「ん・・・、いいわ、屋敷の内は任せる。
けれど、外を巡回する兵は必要ね。
不定期で近衛分隊を貴族街に向かわせるわ」
「承知しました」
ベティ様は即座に馬の首を叩かれた。
「行くわよ」
馬が返事代わりに嘶いた。
「ヒッヒ~ン」パカパカと足を進めた。
女性騎士達が押し包む様にして周囲を固めた。
侍女に抱きかかえられたイヴ様が見送る。
「おかあさま」
カトリーヌ明石大尉がその脇に立つ。
けれど何も言わない。
気安い言葉はかけられないのだろう。
俺も何も言えない。
片膝ついたままの姿勢で王妃様を見送った。
俺に何ができるのだろう。
・・・。
・・・。
ただ守るしかないのだろう。
けれど、それをイヴ様に向けられる事はなかった、
ポール細川子爵から目を離されると、
女性騎士から差し出されたハンカチを受け取り、
作り笑顔でイヴ様の涙にあてられた。
「ねえイヴ、お母さまの仕事はもう少しかかるの。
全部終わらせないと、皆が困るの」
イヴ様は何の疑問も抱かず、尋ねられた。
「みんながこまるの」
「そうです、皆が困るの。
後ろのポールも、王宮の皆も。
だからもう少し、ダンタルニャン佐藤子爵の屋敷で待っててくださいね。
・・・。
良い子にして待ってるのですよ。
わかりましたか」
イヴ様のつぶらな瞳が俺に向けられた。
「にゃ~ん、いいですか」
「はい、もちろんですとも」
ベティ様は愛娘を先の侍女に預けられた。
「頼みますね」
「お任せくださいませ」
ベティ様は直ちに騎乗なされた。
手綱をとり、俺を見下ろされた。
表情は冷静沈着そのもの。
「ダンタルニャン佐藤子爵、もう少しお願いするわね」
「はい、お任せください」
ベティ様の視線がカトリーヌ明石大尉に向けられた。
「カトリーヌ、頼りにしてるわよ」
「はい、お任せください」
ベティ様は改めて愛娘を預ける者達を見渡された。
侍女三人。
女性騎士四人。
そして、その後ろを見て、はてと首を傾げられた。
俺は説明した。
「後ろの者達は私の仲間です。
幼年学校や元国軍尉官の者達です。
イヴ様の遊び相手と警護をしています」
「そうなの・・・」
「一人は京極公爵家の長女、シェリル。
そしてその守役のボニー。
商家の娘が三人。
キャロル、マーリン、モニカ。
元国軍尉官がシンシア、ルース、シビル」
何故かベティ様の目色が変わった。
遠くを見る様な・・・。
「国軍のシンシアにルース、そしてシビル・・・。
どこかで聞いた覚えがあるわね」
カトリーヌ明石大尉が応じた。
「国軍でならしたお三方です」
何をしでかしたんだろう、あの三人。
公式に爵位を与えられているから、問題はないと思うけど、
初耳、詳しく知りたい。
ベティ様は深く頷くと、三人に視線を転じた。
「シンシア、ルース、シビル、お顔を見せてくださいな」
三人が顔を上げた。
ちょっと堅い。
ベティ様がそんな三人を繁々と見た。
納得したかの様な表情。
「退役していたのですね。
イヴを頼みましたよ」
「承知いたしました」三人が声を揃えた。
ベティ様が尋ねられた。
「京極家の者は」
即座にシェリルが応じた。
「これに」
「貴方のお名前は」
「シェリル京極です」
「顔をお上げなさい」
「はい」まん丸な顔を強張らせた。
ベティ様が柔らかい笑みを浮かべられた。
「確かに京極家の血ね。
・・・。
いいわ、イヴをお願いね」
「承知いたしました」
ベティ様は終わらない。
「守役の者、顔をお上げなさい」
「はい」
「名は」
「ボニーと申します」顔も身体も固い。
「シェリル共々、イヴを頼みますよ」
「お任せ下さい」
ベティ様は残った三人も見逃さない。
「商家の娘の三人、顔を上げなさい」
カチンコチンの塊が恐る恐る顔を上げた。
「はっ、はい」
「ひっ、はい」
「ふぇっ、はい」
ベティ様が頭をかかれた。
「怖がらせましたね。
大丈夫ですよ。
取って食べたりしませんから。
・・・。
名前を聞かせてくださいね」
「商家の娘でキャロルと申します」
「同じく、マーリンと申します」
「同じく、モニカと申します」
ベティ様は玩具でも見つけたかの様な顔で頷かれた。
「キャロル、マーリン、モニカですね。
分かりました。
それでは三人もイヴをよろしくお願いしますよ」
「はい」
「はっ、はい」
「お任せください」
ベティ様が俺を見た。
「警護の兵が必要でしょう」
「ご配慮には感謝いたします。
ですが、不要です」
「足りるのですか」
「指揮系統の乱れの元になりかねません。
屋敷内は今のままで」
ベティ様が呆れた様に言う。
「分かったわ。
でも貴方、本当に子供なの」
「はい」
「ん・・・、いいわ、屋敷の内は任せる。
けれど、外を巡回する兵は必要ね。
不定期で近衛分隊を貴族街に向かわせるわ」
「承知しました」
ベティ様は即座に馬の首を叩かれた。
「行くわよ」
馬が返事代わりに嘶いた。
「ヒッヒ~ン」パカパカと足を進めた。
女性騎士達が押し包む様にして周囲を固めた。
侍女に抱きかかえられたイヴ様が見送る。
「おかあさま」
カトリーヌ明石大尉がその脇に立つ。
けれど何も言わない。
気安い言葉はかけられないのだろう。
俺も何も言えない。
片膝ついたままの姿勢で王妃様を見送った。
俺に何ができるのだろう。
・・・。
・・・。
ただ守るしかないのだろう。