カールは私的な事情は話してくれない。
渋い表情をしただけ。
でも、それは一瞬で消えた。
表情を改めて口を開いた。
「私の領地は美濃地方の領都近くが望ましいですね」
良かった。
現実を受け入れてくれた。
「その辺りの塩梅は寄親伯爵代理に任せます。
カールの方で適当に見繕って下さい」
苦笑いで頷いた。
「承知しました。
これまで同様に、ダン様に付き合います。
寄親代理はお任せ下さい」
美濃地方の領都は岐阜、人口20万余の城郭都市であった。
寄親代理としてその岐阜を切り回しながら、美濃地方全体を取り纏める。
気難しい仕事だと思うのだが、カールなら熟せるだろう。
「カールには寄親代理に専念して欲しい。
勿論、僕が新しく拝領する岐阜とその周辺の代官も兼任で。
そうなると当然、木曽代官が欠員になる。
誰か心当たりは」
従来であれば木曽を取り上げて、岐阜への領地替えになるのだが、
今回は違った。
木曽はそのまま残された。
だから木曽にも代官を置く必要があった。
ちょっと考えてからカールが俺を見た。
「マリオはどうですか」
カールの下で働いていた文官だ。
勿論、彼とは面識がある。
印象は、若いが目端が利く。
俺はアドルフ宇佐美に視線を転じた。
意を察したのか、彼が深く頷いた。
「若いですが仕事は出来ます」
「分った、カールの後任はマリオにしよう。
もう一人、アドルフの後任となる木曽領軍の指揮官は」
アドルフもちょっと考えた。
「ハンスを推薦します」
アドルフの片腕とも言える武官だ。
「良いのか、岐阜に連れて行かなくて」
「木曽の重要性から考えるとハンスしかおりません」
大樹海に棲むの魔物の監視と間引き。
それを考慮すると、熟知した武官が望ましい。
俺はカールに視線を転じた。
これまた意を察してくれた。
「賛成です」
「決まりだね」
俺は改めてアドルフ宇佐美を見た。
「君には岐阜の領軍と岐阜地方軍の指揮権を委ねる。
同時に、寄子貴族軍や、駐屯している国軍との連絡調整もだ。
分ってるよね」
子爵軍の場合、兵力は中隊250名なので中隊長・中尉となる。
当家の場合は特殊事情が考慮された。
表向きは、木曽の大樹海の魔物に備えて。
内実は宮廷貴族の余剰子弟の救済であった。
結果、アドルフは大隊500名を預けられ、
大隊長・大尉として木曽に赴いた。
今回、彼は伯爵軍、旅団2500名を率いる事になる。
もっとも、それは平時の兵員数。
非常時は倍の5000揃える必要がある。
これとは別に地方軍2500名も指揮下に置かれる。
軍ではあるが主に地方全体の治安を担う。
所謂、警察。
二つだけでも大変なのに、寄子貴族軍や国軍駐屯地との折衝も。
木曽に比べると激務になる、そう言い切れる。
重責であるが、アドルフは胸を張った。
「承知しています」
前の伯爵がやらかしたので、美濃全体がグタグタになった。
それを直後に派遣された国軍と近衛が、一先ず落ち着かせた。
行政機能を立て直し、民心を安定させた。
カールが言葉を添えた。
「我々二人にお任せ下さい。
幸いと言うか、反乱のお陰で優秀な者達が在野に解き放たれています。
それらを搔き集め、文官武官として酷使します」
カールがアドルフと視線を交わしてニヤリと笑った。
目処があるのだろう。
「酷使はどうかと思うけど、宜しく頼む」
俺は話題を変えた。
「ところでアドルフ、希望する領地は」
「特には・・・、あっ、豊かな土地を」
「カール、任せていいかな」
「はい、お任せを」
「すっかり忘れていた。
二人の実家は貴族だから、
自分の領地に一族を呼んで代官にするんだろう」
二人が同じ答え。
「呼ばないでも来るでしょうね。
一族やその家来筋のプー太郎が」
人材には事欠かないと理解する事にした。
百人も来れば一人か二人、才ある者が居れば充分なのだ。
それが上に立ち、他を歯車として機能させれば、大抵は回る、はず。
俺はイライザに視線をくれた。
テイムしたチョンボが隣にいないと彼女が小さく見えた。
勘付いたのか、イライザが言う。
「あいつはテニスコートよ」
日中、屋敷内の二面のテニスコートには常に誰かが居る。
非番か休憩中の使用人が球を追い掛けている。
笑い声とボールが弾ける音が絶えない。
コートの外に出たボールを拾うのがチョンボ。
嘴や翼で器用にキャッチしたり、足で蹴り返す。
それも得意顔で。
それはそれとして、俺はイライザに尋ねた。
「男爵になるんだ。
領地があるから家来が必要になる」
俺の言葉をイライザが遮った。
「私、そんな面倒臭いのは要らない。
駄目かしら」
カールを含めた皆がギョットした顔になってイライザを振り返った。
俺は説明の仕方を変えた。
「爵位を得るとお得な事がある」
途端にイライザの瞳が光を放った。
「聞きたい、聞かせて、お得な情報」
「男爵子爵の爵位は継がせることが出来る。
つまりカールとイライザの子供二人は爵位を受け継ぐことが出来る。
一人が子爵でもう一人が男爵だ。
他の子供達はどちらかの領地で雇用すれば良いし、
子爵領の分割も申請すれば、大抵は通る」
「あっ、そうだった。
平民だったからすっかり忘れていたわ」
イライザの表情が緩む。
そんなイライザを皆が生暖かい眼差しで見つめる。
俺は容赦なく追撃した。
「チョンボも大喜びする」
「どうして」
「チョンボはああ見えて雌だ、何れ出産する。
その為にテイマーとして、友達として、
安心して子育て出来る環境を前以って作って置いたらどうだろう」
「友達はどうかな。
でもテイマーとしては是非とも必要ね。
そうなると木曽の近くが良いわよね」
チョンボはイライザにテイムされてはいるが、
暇を見つけては勝手に里帰りする。
ダッチョウ種の縄張りがある木曽の大樹海にだ。
そこで気儘に種付けを迫る性格と見ても差し支えないだろう。
俺だけでなく、イライザもそう理解しているのか、何度も深く頷いた。
渋い表情をしただけ。
でも、それは一瞬で消えた。
表情を改めて口を開いた。
「私の領地は美濃地方の領都近くが望ましいですね」
良かった。
現実を受け入れてくれた。
「その辺りの塩梅は寄親伯爵代理に任せます。
カールの方で適当に見繕って下さい」
苦笑いで頷いた。
「承知しました。
これまで同様に、ダン様に付き合います。
寄親代理はお任せ下さい」
美濃地方の領都は岐阜、人口20万余の城郭都市であった。
寄親代理としてその岐阜を切り回しながら、美濃地方全体を取り纏める。
気難しい仕事だと思うのだが、カールなら熟せるだろう。
「カールには寄親代理に専念して欲しい。
勿論、僕が新しく拝領する岐阜とその周辺の代官も兼任で。
そうなると当然、木曽代官が欠員になる。
誰か心当たりは」
従来であれば木曽を取り上げて、岐阜への領地替えになるのだが、
今回は違った。
木曽はそのまま残された。
だから木曽にも代官を置く必要があった。
ちょっと考えてからカールが俺を見た。
「マリオはどうですか」
カールの下で働いていた文官だ。
勿論、彼とは面識がある。
印象は、若いが目端が利く。
俺はアドルフ宇佐美に視線を転じた。
意を察したのか、彼が深く頷いた。
「若いですが仕事は出来ます」
「分った、カールの後任はマリオにしよう。
もう一人、アドルフの後任となる木曽領軍の指揮官は」
アドルフもちょっと考えた。
「ハンスを推薦します」
アドルフの片腕とも言える武官だ。
「良いのか、岐阜に連れて行かなくて」
「木曽の重要性から考えるとハンスしかおりません」
大樹海に棲むの魔物の監視と間引き。
それを考慮すると、熟知した武官が望ましい。
俺はカールに視線を転じた。
これまた意を察してくれた。
「賛成です」
「決まりだね」
俺は改めてアドルフ宇佐美を見た。
「君には岐阜の領軍と岐阜地方軍の指揮権を委ねる。
同時に、寄子貴族軍や、駐屯している国軍との連絡調整もだ。
分ってるよね」
子爵軍の場合、兵力は中隊250名なので中隊長・中尉となる。
当家の場合は特殊事情が考慮された。
表向きは、木曽の大樹海の魔物に備えて。
内実は宮廷貴族の余剰子弟の救済であった。
結果、アドルフは大隊500名を預けられ、
大隊長・大尉として木曽に赴いた。
今回、彼は伯爵軍、旅団2500名を率いる事になる。
もっとも、それは平時の兵員数。
非常時は倍の5000揃える必要がある。
これとは別に地方軍2500名も指揮下に置かれる。
軍ではあるが主に地方全体の治安を担う。
所謂、警察。
二つだけでも大変なのに、寄子貴族軍や国軍駐屯地との折衝も。
木曽に比べると激務になる、そう言い切れる。
重責であるが、アドルフは胸を張った。
「承知しています」
前の伯爵がやらかしたので、美濃全体がグタグタになった。
それを直後に派遣された国軍と近衛が、一先ず落ち着かせた。
行政機能を立て直し、民心を安定させた。
カールが言葉を添えた。
「我々二人にお任せ下さい。
幸いと言うか、反乱のお陰で優秀な者達が在野に解き放たれています。
それらを搔き集め、文官武官として酷使します」
カールがアドルフと視線を交わしてニヤリと笑った。
目処があるのだろう。
「酷使はどうかと思うけど、宜しく頼む」
俺は話題を変えた。
「ところでアドルフ、希望する領地は」
「特には・・・、あっ、豊かな土地を」
「カール、任せていいかな」
「はい、お任せを」
「すっかり忘れていた。
二人の実家は貴族だから、
自分の領地に一族を呼んで代官にするんだろう」
二人が同じ答え。
「呼ばないでも来るでしょうね。
一族やその家来筋のプー太郎が」
人材には事欠かないと理解する事にした。
百人も来れば一人か二人、才ある者が居れば充分なのだ。
それが上に立ち、他を歯車として機能させれば、大抵は回る、はず。
俺はイライザに視線をくれた。
テイムしたチョンボが隣にいないと彼女が小さく見えた。
勘付いたのか、イライザが言う。
「あいつはテニスコートよ」
日中、屋敷内の二面のテニスコートには常に誰かが居る。
非番か休憩中の使用人が球を追い掛けている。
笑い声とボールが弾ける音が絶えない。
コートの外に出たボールを拾うのがチョンボ。
嘴や翼で器用にキャッチしたり、足で蹴り返す。
それも得意顔で。
それはそれとして、俺はイライザに尋ねた。
「男爵になるんだ。
領地があるから家来が必要になる」
俺の言葉をイライザが遮った。
「私、そんな面倒臭いのは要らない。
駄目かしら」
カールを含めた皆がギョットした顔になってイライザを振り返った。
俺は説明の仕方を変えた。
「爵位を得るとお得な事がある」
途端にイライザの瞳が光を放った。
「聞きたい、聞かせて、お得な情報」
「男爵子爵の爵位は継がせることが出来る。
つまりカールとイライザの子供二人は爵位を受け継ぐことが出来る。
一人が子爵でもう一人が男爵だ。
他の子供達はどちらかの領地で雇用すれば良いし、
子爵領の分割も申請すれば、大抵は通る」
「あっ、そうだった。
平民だったからすっかり忘れていたわ」
イライザの表情が緩む。
そんなイライザを皆が生暖かい眼差しで見つめる。
俺は容赦なく追撃した。
「チョンボも大喜びする」
「どうして」
「チョンボはああ見えて雌だ、何れ出産する。
その為にテイマーとして、友達として、
安心して子育て出来る環境を前以って作って置いたらどうだろう」
「友達はどうかな。
でもテイマーとしては是非とも必要ね。
そうなると木曽の近くが良いわよね」
チョンボはイライザにテイムされてはいるが、
暇を見つけては勝手に里帰りする。
ダッチョウ種の縄張りがある木曽の大樹海にだ。
そこで気儘に種付けを迫る性格と見ても差し支えないだろう。
俺だけでなく、イライザもそう理解しているのか、何度も深く頷いた。