金色銀色茜色

生煮えの文章でゴメンナサイ。

(注)文字サイズ変更が左下にあります。

昨日今日明日あさって。(大乱)219

2021-05-31 20:02:22 | Weblog
 冬季休暇は短い。
十二月半ばから一月半ばまでの約一月。
領地が手頃な距離なので視察する事にした。
馬でも構わなかったのだが、初めて領地を訪れるのだからと、
大人達に馬車での移動を勧められた。

 箱馬車二輌と警護十騎で国都を出た。
先頭は騎馬五騎。
一輌目には俺とコリン、スチュアートの三名。
ダンカンは国都の屋敷の執事なので留守番。
二輌目には俺付メイドのドリスとジューン。
バーバラも国都の屋敷のメイド長なので留守番。
後尾に騎馬五騎兵。
ウィリアム、彼もまた国都の屋敷担当の小隊長なので留守番。
悲喜こもごもあり、選ばれた十四名を率いて木曽に向かった。

 馬車の屋根に乗っているアリスとハッピーからの念話。
『楽しませてよね』
『パー、楽しむ』
『期待が大きいようだけど、田舎町だからね』
『それを栄えさせるのが領主様の仕事でしょうに』
『プー、栄える』
『魔物が棲む大樹海ならあるけどね』
『そこにダンジョン造って、山城ダイジョンと連結させるのよ。
出来るんでしょう、ダンマス様』
『ペー、ダンマス様』

 急ぐ旅ではないので観光しながら進んだ。
琵琶湖周遊で一泊。
美濃地方の領都見物と買い物、寄親伯爵様への挨拶で一泊。
幸いと言うか、伯爵様は国葬の流れで社交に励んでいるそうで、お留守。
執事への挨拶だけで済んだ。

 木曽領の手前の大きな神社には驚かされた。
まるで城。
完成まで後二年だとか。
ここに佐藤家のご先祖様『白銀のジョナサン様』を祀ると言う。
 そして隣り合わせているのが俺の木曽領の領都。
隣と外壁を共用にしているので、だいぶ安く上がるそうだ。
その表門に皆が勢揃いしていた。
手空きの家来達だ。
馬車を降りると見知った顔を幾つも見つけた。

 久しぶりにカールやイライザの笑顔を見た。 
代官のカール細川男爵。
強引にその補佐をしているイライザ。
イライザの気持ちが伝わっているのか、いないのか、
二人の顔色だけでは読み取れない。
 領軍を率いるアドルフ宇佐美騎士爵。
彼の場合は軍を率いる中隊長なので、
俺が王宮から騎士爵を買い与えた。
この騎士爵は本人が買うのではなく、当主が栄誉として買い与えるもの。
他の爵位と重複叙爵させても問題はない。
多くの者は真っ先に騎士爵を口にし、それから本来の爵位を述べる。
武力の象徴なのだ。

 領都は思いの外、広かった。
と言うか、空地が多かった。
木曽大樹海が近いので安全策をとり、
先に外壁で町の予定地を囲ったのだ。
 表門から続くメインストリートは石畳続きで、
その左右には基本的な公共施設が建てられていた。
領兵詰め所、町役場、町民集会所、代官所、治療院、冒険者ギルド、
商人ギルド、魔法使いギルド、傭兵ギルド、錬金ギルド、駅馬車ギルド、
教会、学校、宿屋二軒 料理屋三軒。
そしてその周辺には町家が増えつつあった。

 隔離された感のある長屋が何棟も見えた。
「あれは」
「奴隷の町です」
 連座制が適用されて奴隷に落された者を収容していた。
刑期はほとんどが十年前後。
問題は連座なので家族連れであること。
女子供は当然として、老人もいた。
 俺はカールに、彼等が安心に暮らせるように指示しておいた。
治療院や学校にかかる費用に関してもだ。
刑期を終えた彼等が望むのなら領民として受け入れても良いとも思った。
刑罰は刑罰なのだが、一方で彼等は被害者でもあったからだ。
全ての元凶は彼等の主人、貴族にあったのだ。

 領主の屋敷は警備の観点から、神社沿いの外壁に接していた。
なにしろ神社には国軍の駐屯地も併設されると言うのだ。
これほど心強いことはない。
カールに案内されて屋敷に入った。
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昨日今日明日あさって。(大乱)218

2021-05-28 05:31:37 | Weblog
     ☆

 国王陛下の国葬が各地から駆け付けて来た貴族諸侯、
そして国都の平民多数に見送られ、滞りなく行われた。
式次第は三日間通して王家の威風を遍く示し、
権力のありどころを目に見える形で顕示した。
王妃様の思惑通りと言っても過言ではない。
 俺も在都貴族なので列席した。
お子様にして無職、そんな訳で席順は末席に近かった。
棺桶の中の陛下のご尊顔を配し奉る立場でもなかった。
王妃様の姿が見えない席だったけど、まあ、文句はない。

 暇だったけど退屈ではなかった。
俺の周りの貴族達がよく喋る、喋る。
近くに上級貴族の姿がないので油断したのだろう。
遠慮会釈のない会話がただ漏れ。
出世した貴族への妬みから始まり、話は自然、西方の情勢に傾いた。
「島津伯爵軍が善戦しているそうだ。
討伐軍を領外へ押し返しているらしい」
「尼子伯爵軍も討伐軍を領境から一歩も入れぬらしいな。
王家の軍は弱くなったのか」

 巷でもそんな噂を聞いた。
王家にとっては芳しくない話に聞こえるが、真相は違う。
王家は選別した上で、都合の悪い貴族等を西方へ送っているので、
彼等が磨り潰されるのは、かえって好都合。
島津や尼子に感謝したいくらいだろう。

 退出する際に驚く光景を目にした。
『プリン・プリン』パーティメンバーが王家の列にいた。
平民三名が葬儀に相応しい衣服を身に纏っていた。
周囲の王族一門衆と並んでも全く見劣りしない。
あれは実家が商家だからと言って用意できるものではない。
王妃様自らの口利きによるものだろう。
 女児四人の輪の中にイヴ様の空間。
その空間をパーティメンバー八名が囲んで移動していた。
シンシアが俺の視線に気付いた。
軽く微笑み、片手を上げて挨拶してきた。
流石、大人。

 幼年学校の一年次を終えて進級した。
このレベルでの脱落者がいる訳がない。
と言うのに、淡々とは進級しない。
国都の平民は一味違った。
商家の子が中心になって進級お祝いパーティを企画した。
下町の心意気と言うのだろうか。
子供のくせに衒いがない。
 学校近くの料理屋を借り切った。
酒がないだけ、ふんだんな料理と飲み物が並べられた。
集めた会費では足りるのか。
どうするんだ、会費の追加か。
そう思っていたら幹事が俺の方へ来た。
顔色が悪い。
「子爵様」小声で泣きついて来た。
 小さな子供に頼られた。
俺と変わらないけど。
「分かってる。
計算を間違えたんだろう」
「違うよ。
女の子達の追加注文だよ」
「断れなかったのか」
「大勢に囲まれたんだよ」
「分かった、任せろよ」貴族の矜持。

 近くで聞いていたキャロルが俺を手招きした。
「男の子って甘いんだよね」
「仕方ないよ。
口では敵わないんだから」
「ふっふ、ところで子爵様、冬休みはどうするの」
「まだ領地に行ったことがないから、そっちだね」
 同じテーブルのマーリンにも尋ねられた。
「木曽の大樹海だったっけ」
「そうだよ、来るかい」
「イヴ様の予定が入って私達も忙しいのよ」
 モニカも言う。
「ニャ~ンは来ないのって」
「後宮は入れないよ」
「だよね、後宮だものね」
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昨日今日明日あさって。(大乱)217

2021-05-23 05:02:50 | Weblog
 ウィル太田伯爵がアンドリュー熊谷伯爵に尋ねた、
「それで我等は予定通りでいいのかな」
「ええ、変更はありません。
予想では王家が軍を動かせるのは国葬を終えてから。
しかし春まで北陸道は雪で難所が多くなります。
これまでの経験からすると、
本格的な軍事行動は雪解けを待ってからになります。
もっとも、西国へ向けた討伐軍との兼ね合いもあり、
来るかどうか甚だしく不透明です。
まあ、それはそれとして、我等はこの地の足場を固めます。
感触が悪くて今回誘えなかった地方を占領します。
まず西を。
甲斐、駿河、遠江、三河、伊豆を平らげて頂きたい」

 ウィルが確認した。
「侵攻路も当初通りで良いのかな」
「ええ、甲斐に入って頂き、駿河、遠江、三河、そして最後に伊豆。
五地方の寄親伯爵家の家族を無傷で捕らえ、
その地に駐屯している国軍へ引き渡して頂きます」
 それら五つの地方の、伯爵の動向は把握済み。
彼等は今頃、中仙道を馬車道中のはず。
木曽大樹海の魔物さえ刺激せねば国葬には参列できるだろう。
「駐屯地の国軍との調整は」
「承諾を得ました。
味方はできないけど預かってくれるそうです」
「その連中が裏切らないと」
「大丈夫、篭絡ずみです。
積極的に味方はできないけど、消極的に協力してくれるそうです」
 国軍は本来、国軍総司令部の指揮下にあるが、
末端になると少し事情が違う。
人事に地方貴族が介入して来るのだ。
入隊した子弟を昇進させようと、地縁血縁に袖の下を絡める。
ウィルは肩を竦め、両手を小さく広げた。
「君は簡単に言うけど、連中の誰かが裏切らないと言う保証は。
駐屯地は五つ、その中の誰かが」
 アンドリューは最後まで言わせない。
彼の指揮下の関東軍は五地方の駐屯地とは交流があり、
それぞれの指揮官の人となりは解していた。
「質をとっても裏切る奴は裏切る。
そんな事を気にしては白髪が増えますよ。
裏切りがあっても皆さんなら乗り切ってくれると信じています」

 それまで黙っていたイドリス北条伯爵がアンドリューに尋ねた。
「五地方の内応者に関してだが、そちらも裏切る可能性は」
「ゼロとは申しません。
しかし、あの連中、今さら裏切りますか。
負債を抱えて、にっちもさっちも行かない筈です。
しかも借りた相手が悪かった。
国都の闇金業者です。
期日までに返済しないと大変な事になります。
あの連中は貴族が相手でも容赦なしですからね。
何人の貴族当主が被害に遭ったことか」
「あの連中か、噂は聞いた事がある」
「もしかして、借りてはいませんよね」
「ないない。
噂ではスラムの賭場絡みだよな」
「そうです。
鼻の下を伸ばしてスラムの娼館に通いうちに、
賭場にも入り浸りになったと言うありふれた話です」
「結局、いかさま賭博に引っ掛かったと言うわけか。
確かによく聞く話だ」

 アンセル千葉伯爵が問う。
「下野、常陸、上総、安房の四地方は」
「殊更急ぐ必要はありません。
我らが西の五地方を押さえたと知れば、自然こちらに靡きます。
・・・。
それでは方々、宜しくお願いします。
万一の際は急報して下さい。
関東軍を差し向けます」

     ☆
 このところ視点変更の要望が届くようになりました。
大いに反省し、梅干しを、いえ、☆を入れることしました。
・・・。
 毎日毎日、市役所の広報アナウンスがあります。
そうです。
行方不明者です。
特徴を事細かに教えてくれます。
でも・・・。
事後報告がありません。
特段、欲しい訳ではないのですが。
欲しい訳ではないのですが、こう毎日毎日だと、
アナウンスを聞くたびに気になります。
これまで何人発見されているのか。
う~ん・・・、消化不良。

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昨日今日明日あさって。(大乱)216

2021-05-16 06:39:03 | Weblog
 仕事に飽いたのか、トム上杉侯爵が手を止めた。
メイドに熱いコーヒーを要求し、ウィル太田に目を向けた。
「なあ兄弟、この書類の山を見てくれ。
この山を。
忙し過ぎて最近は子供の顔を見ていない。
夜遊びもできない。
これでは兵を挙げる暇なんてないぞう」
 コーヒーを飲んでいたウィルは咽た。
手慣れた感じで執事が後ろからハンカチを差し出した。
そのハンカチで口元を拭いてウィルは抗議した。
「まったく兄貴はもう、開始されてるんだよ。
関係各所に通達済みで引き返せないんだよ」
 ウィルはトムの実弟。
上杉侯爵家から男子のいない太田伯爵家へ養子入りしていた。
トムは手元に運ばれて来たコーヒーカップを持ち上げた。
「いい香りだ。
俺を王にすると言うが、王になったらこの書類の山から逃れられるのか。
なあ兄弟、教えてくれよ。
約束してくれよ」
「秘書の数を増やせばいいだろう。
宮廷貴族と言う文官もいるし、何とでもなるだろう」

 見兼ねたのか、侯爵の執事がウィルに言う。
「大丈夫でございます。
文官については心当たりがあります。
今回の騒ぎで潰された家の文官を雇えばよろしいかと」
 代わりにウィルの執事が応じた。
「ほほう、そういう手がありましたか。
勉強になります。
当家でも雇いますかな」
 トムが釘を刺した。
「俺の余りで我慢しろ。
必ず回してやるから」
「はい、楽しみにしています」

 ウィルが真顔になった。
「兄貴、俺を恨んでるか」
「今さらか。
お前には唆されたが、脅かされたわけじゃない。
考えて決断したのは俺だ。
もう始まってる。
余計な事は考えるんじゃない」
「王家への通告は誰が」
「やらん。
そこまで親切にする事はないだろう」
「分かった。
粛々と進める」
「おう兄弟、頼りにしてるぞ」

 相模地方を発した軍勢があった。
寄親・イドリス北条伯爵家軍二千、
常設の相模地方軍二千。
計四千を率いて伯爵は北上した。

 下総地方を発した軍勢もあった。
寄親・アンセル千葉伯爵家軍二千。
常設の下総地方軍二千。
計四千を率いて伯爵は西に向かった。

 二つの軍勢が到着したのは武蔵地方にある関東代官所。
代官所の係員に本館の隣の広大な草地へ案内された。
指定された箇所が野営地であった。
離れた箇所にもう一つの軍勢の姿も見られた。
地元、武蔵地方の太田伯爵家軍三千、武蔵地方軍三千、計六千。
彼等は既に設営を終えていた。

 三つの軍の首脳が代官所の門を潜った。
通されたのは大会議室。
ウィルが仕切った。
「名札の席に座ってくれ」
 伯爵三名にその執事三名。
各伯爵家軍司令官三名、副官三名、参謀三名。
各地方軍司令官三名、副官三名、参謀三名。
全員が腰を下ろした頃合いに続き部屋が開いた。
メイド達が出てきて、テキパキとお茶を配って行く。

 大会議室が和んでいると新たな入場者があった。
代官とその執事。
代官所管轄下の関東軍司令官と副官。
副司令官と副官。
参謀と副官。
彼等にもお茶が配られた。
 
 お茶を飲み終えたトム上杉侯爵が立ち上がった。
すると、合わせるように残りの者達も立ち上がった。
トムが口を開いた。
「同士諸君、王家の為にありがとう。
代々のご先祖様に成り代わって厚く感謝いたす。
本当にありがとう」
 ありがとうとは口にするが、頭は下げない。
全員を、それがさも当然のように見回しただけ。
満足げに頷くと、腰を下ろすように指示した。
 トムに代わり、関東軍司令官が立ち上がった。
アンドリュー熊谷伯爵。
元は武蔵地方の寄子・熊谷男爵家の三男。
平民に落とされるのを嫌い幼年学校に入学した。
士官学校を経て国軍に入隊。
その国軍で実績を重ねて順調に出世した。
そこをトムに見出された。
説かれて関東軍に転籍したのが五年前。
地元出身の強味である人脈を活かし、二年で司令官の座に収まった。
そのアンドリューが室内の全員を見回した。
「私は皆さんがご存知のように無駄が嫌いです。
言葉を飾る趣味は持っておりません。
単刀直入に申します。
まず、おはよう」
 
 一人を除いて全く受けなかった。
トムが声を殺して、「プッ、ククック」と笑っているだけ。
他は引いた。
彼の幕僚達ですらそう。
伴って室温も急激に下がった。
 現実に戻ったのはメイドの粗相のお陰。
お茶の入れ替えをしていたメイドが、
アンドリューの発言で持っていた湯呑を取り落したのだ。
「ガチャーン」
 
 当のアンドリューは澄ましたもの。
どこ吹く風と言ったような風情でメイドを見た。
「そこのメイドさん、いけませんね。
湯呑を落としちゃいましたね。
ちゃんと後始末を頼みますよ」優しい声音。
 メイドはペコペコ謝り、駆け付けた同僚達の手を借りて後始末した。
それを見送ったアンドリューは再び全員を見回した。
「兵は拙速と申します。
最前線になるであろうと思われる二つの地方では、既に動いております。
まず上野地方。
寄親のジェイソン宇都宮伯爵家軍が上野の掌握と、
道路閉鎖を開始しました。
ついで信濃地方。
こちらも寄親のテリー小笠原伯爵家軍が信濃掌握と、
道路閉鎖を開始しました」
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昨日今日明日あさって。(大乱)215

2021-05-09 06:38:26 | Weblog
 俺はサンチョが教えてくれた場所に赴いた。
同じ東区画スラムの中だが、サンチョのアジトからは少し離れていた。
目の前の古びた二階建て家屋がそれ。
窓と言う窓に真新しい修理跡。
 俺は隣の建物の陰に隠れて様子を窺った。
時刻柄か、場所柄か、どちらかは知らないが、行き交う者が少ない。
お陰で不審がる者もいない。
探知と鑑定を連携させて、じっくり内部を調べた。
一階に五名、二階に六名。
冒険者ではなかった。
スラムの悪党でもなかった。
指名手配もされていない。
全員が関東の武蔵地方の寄親・太田伯爵家に所属していた。
 寄親の伯爵家となると国都に屋敷を構えていた。
どこの区画に屋敷を構えているのか知らないが、
その家臣が複数、スラムに居住していた、有り得ない。
おかしい。
何があった、太田伯爵家。
公的活動は屋敷で行い、こちらでは裏活動の拠点なのか。
それなら理解できる。

 アリスが俺の鼻先を突っつく。
『殴り込んでいい』
『ピー、やるぞ~』
 暇人が二人。
拒否、断固拒否。
『駄目だ』
『つまんない、暴れたい』
『プー、プップー』
『ダンジョンは魔物が召喚し放題なんだろう。
とっととオープンして、そこで暴れたらいいだろう』
 アリスはダンジョンコアの子コアを妖精の里に設置し、
妖精達をダンジョンで鍛えると言っていた。
その設置も終えた。
ダンジョンも妖精用に魔改造した。
だったら、とっととオープンし、自分も一緒に訓練で汗々すれば、
気も紛れるのに。
『オープンしようと思ったんだけどさ~』
『パー、怒られちゃった』
『里の長老かい』
『そう、老害には困っちゃうよ』
『ペー、ペッペー』
 何のかんの言っているけど、長老には頭が上がらないらしい。
可愛いところがあるじゃないか、アリスくん。
どう解決するんだろう。
高みから見物だな。

 関東以北は畿内から遠いので特殊な政治状況にあった。
万一の際、畿内から大軍を送り込むことが難しいからだ。
東海道は三河大湿原により分断されていた。
中仙道は木曽大樹海の魔物により大軍の通過は不可能。
結局、近江から越前、加賀、越中、越後へ抜ける北陸道しかなかった。
為に関東、東北、北海道の三か所に代官所が設けられ、
王家の代理として大きな権限を持っていた。

 十月初頭、王家から国王陛下の崩御が発表された。
事前に容態が悪化の一途をたどっていると知らされていたので、
それほどの衝撃ではなかった。
ついにこの日がきたのか、皆そう思った。
 同時に国葬日時も発表された。
遠方からの参列に考慮して十二月十二日。
有力貴族は葬儀に参列する為、余裕を持って国都へ向かった。
葬儀は故人を送るだけではない。
社交の場でもある。
血縁地縁の者とより誼を深め、疎遠な者と積極的に交わる。
皆がそんな思惑で動いた。

 だが動きの鈍い者がいた。
関東代官所の代官・トム上杉侯爵。
もう一人は武蔵地方の寄親・ウィル太田伯爵。
 関東代官所は武蔵地方の江戸。
武蔵地方の領都は川越。
互いの距離が近いだけではなかった。
より近しい血縁にあった。
 上杉侯爵家は断続的に王家の王子を養子として、
あるいは婿養子として受け入れる役割が課されていた。
そして弾かれた上杉侯爵家の嫡男はこれまた太田伯爵家が、
養子ないしは婿養子として入れるのを慣例にしていた。
これは遠隔地の支配を盤石とする施策の一つ。
東北代官所も北海道代官所も同様であった。
 この施策下にある各家の立ち位置は微妙なもの。
まず貴族としての格付け。
侯爵家は公爵格。
伯爵家は侯爵格。
王家の血が断続的ではあるが色濃く流れているは確かなので、
王族に準じて扱われた。
格別のお家とも遇された。

 江戸の関東代官所を武蔵の寄親・ウィル太田伯爵が訪れた。
近距離なので供周りは少ない。
伯爵の馬車と護衛の騎兵が十騎。
事前に通告がなされていたので執事が直ぐに伯爵を案内した。
トム上杉侯爵は執務していたので、入室に気付いても顔は上げない。
何時もの事なのでウィルも気にしない。
同じく両者の執事も近習も何時もの事なので気にしない。
 代官の仕事は関東全域の司法立法行政。
多様な書類が代官所に届けられ、それらは窓口で振り分けられる。
代官が目を通す必要がある書類、署名する必要がある書類。
厳選された結果が室内にある。
四名の秘書がより厳選して仕分けても、これ。
代官の執務机は書類で溢れていた。

 ウィルは勝手にソファーに腰を下ろした。
すると見計ったかのように続き部屋からメイドが現れて、
淹れ立てのコーヒーを差し出した。
「いつもいつも気が利くね。
俺の嫁に来ない」
 メイドも慣れたもの。
「はて、閨は何番目でしょう」
「ん~、何番目かな」
「お代わりの際はお声をかけてくださいね」
「はい、は~い」
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昨日今日明日あさって。(大乱)214

2021-05-02 06:27:25 | Weblog
 幼年学校が再開された。
浮かれたらっ、らったた、らったた。
学校だ、学校だ、学校だ。
前世でも学校は大好きだった。
勉強がではない。
友達と遊べるし、図書館がある。
 気懸かりは子爵と言う身分。
貴族街に住んでいるから馬車での送迎になる。
でもそれは否。
窮屈な身分に縛られたくない。
事前に馬車での送迎を断固拒否した。
「歩いて風を感じたい」
 良いこと言った俺、詩人だな。
無論、激しく抗議された。
その五月蠅いこと、五月蠅いこと。
特に女性陣が大きな声を上げた。
そこで妥協した。
護衛を必ずつける事になった。
 
 さっそく平服の兵士三名がお供についた。
背の高い三名の壁を引き連れて登校した。
まあ、俺としては、絵面的にどうなんだと思うが、我慢した。
皆が心配してくれている訳だし、殊更だね。
 それなりに新鮮な朝だった。
が、途中で現実に目が覚めた。
騒がしい登校風景がないのだ。
仰々しい送迎馬車の列が消えた。
再開される前の正確な車輌数は知らないが、こうではなかった。
貴族は当然として、平民富裕層も送迎馬車を出していた。
門前が渋滞を来したと聞いて、一度、興味津々で見物した事があった。
実際、大渋滞していた。
今、目の前の風景は見知らぬもの。
送迎馬車が流れる様にスイスイと門を出入りしていた。

 門前で護衛と分かれて一人でクラスへ向かった。
再開初日にも関わらず、校内の空気が重い。
早足の者も見かけるが、多くは沈んだ足取り。
俯き加減の者もいた。
 これは三公爵家への処分が大人達だけでなく、
その子弟にも及んだのだろう。
三公爵家に連座した貴族や商家は処罰された。
積極的な関わりでなくても、
取り巻きとして利益を甘受していた者達も譴責性分を受けた。
 それらしい者達にかける言葉を俺は持ち合わせていない。
冷たいかも知れないが俺の手は短い。
差し伸べるにしても彼等にまでは届かない。

 幸いクラスだけは明るかった。
平民ばかりなので影響を受けていないのだろう。
あっ、俺、クラスでただ一人のお貴族様。
 席につくとキャロル達が寄って来た。
キャロルとマーリン、モニカの三人の実家は商家。
それなりに手広い商いをしているのだが、
公爵家に出入りする様な大商家ではないそうだ。
お陰様で今回は影響はないと言っていた。
 その三人だが今回の一件で立場がおかしなことに。
王宮から冒険者ギルドを通じて、
冒険者パーティ「プリン・プリン」に依頼が出された。
「期限なしで王女・イヴ様の遊び相手をして欲しい」と。
あっ、場所が後宮なので俺は入れない。
実質女性陣への依頼だ。
 シンシア達大人はパーティに加わっていないが、
王宮としては彼女等も含めての依頼だった。
そこで女性陣が集まり急遽協議した。
難航するかと思いきや、即決で後宮への興味から受注した。
 シンシア達は野良とは言え男爵。
シェリル京極は京極侯爵家の長女。
その守役のボニーも実家は男爵家。
問題は平民のキャロル達。
それを王妃のベティ様が解決した。
「パーティのリーダーはダンタルニャン佐藤子爵。
当人は男子だから後宮に入れないけど、これはパーティへの依頼なの。
どこに不備があるのかしら」

 俺は深夜の散歩に出かけた。
お供は助さん、格さん。
違った。
脳筋妖精とダンジョンスライム、アリスとハツピー。
 深夜の服装は悪党ファッション。
編み上げの長靴、細目のズボン、シャツ、フード付きローブ。
色はグレー系で揃えた。
手には魔法使いの杖。
覆面レスラーを真似た黒の仮面。
ステータスも偽装した。
 お供のアリスは赤の仮面、ハッピーは青の仮面。
訪れたのは外郭東区画のスラム。
アポなしでサンチョとクラークのアジトに突入した。
さしたる用件はないのだが、不意打ち訪問もたまにはねって。

 屋敷の屋根に転移、アジトの屋根に転移、ボス部屋にこれまた転移。
探知と鑑定の連携で、安全第一のショート転移を行っているので、
第三者とかち合うとか、何かに衝突するとかはない。
驚かそうと部屋の片隅の陰に転移した。
 二人は手下を入れないボス部屋で帳簿付けをしていた。
集中してペンを走らせていたので、全く気付かない。
そこで声をかけた。
「お邪魔してるよ」
 瞬間、二人が硬直した。
でもそこは正真正銘のスラムの悪党。
「こっちは呼んじゃいねえぞ」クラークが怒鳴る。
「妖精売買の情報はないよ」サンチョは溜息。
 二人の仕事は闇金。
外面はサンチョがボス、クラークは相談役。
手下もぼちぼち増やし、少数精鋭で稼いでいた。
二人が手練れなので舐められる事はない。
 元手になった資金の供給者は俺。
時折、追加供給もしている。
返済は求めていない。
闇金にとっては理想的だろう。
そんな俺の訪問を歓迎しないとは情けない。
実質、俺がボスなんだけど。
傷付くわ~。

 俺は取り敢えずの質問をした。
「商売に影響が出てないか」
 クラークは帳簿に戻る。
サンチョが仕方なさそうに相手してくれた。
「お取り潰しになった貴族や商家からの回収は難しい。
奉行所や近衛の目が光っているから近付けない」
「それはそうだ。
連中の一味と勘繰られたら、それでお終いだ。
それに二人は奉行所に指名手配されてたしな」
 俺は虚空から金貨入りの小袋を取り出した。
ダンジョン産の百枚入りだ。
それを帳簿付けのデスクに放り投げた。
重々しそうな音と金属音、ドドンッ、ジャンジャラジャラ。
「何か面白そうな話はないか」
 サンチョはチラ見すると、視線を天井に投げた。
クラークは忌々しいそうに俺を睨む。

 お供のアリスとハッピーは俺達にはお構いなし。
天井付近を浮遊しながら駆けっこをしていた。
楽しいそうな声が聞こえて来た。
サンチョが俺を見た。
「面白いかどうかは知らんが、最近、
スラムで妙な連中を見かける様になった。
なりは冒険者なんだが、依頼を受けてる様子がない。
スラムを根城にしてウロウロしてるんだが、
かと言ってスラムのファミリーと揉める様子もない。
結構な数いるんだが、・・・何したいんだか」
「お取り潰しになった貴族の関係者とかは」
「住むところを失ったからスラム住まい・・・、違うな。
連中の近くで女子供を見かけたことがない」
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