金色銀色茜色

生煮えの文章でゴメンナサイ。

(注)文字サイズ変更が左下にあります。

昨日今日明日あさって。(どうしてこうなった)23

2024-04-28 11:27:21 | Weblog
 ベティ王妃は更に追加した。
「反乱終息は、族滅でもって終わりにして欲しいの」
 これにはバートも驚いた。
「族滅とは穏やかではありませんな。
ここ暫くは耳にせぬ言葉です」
「平時なら連座制の適用かしら。
王兄、王弟、関東代官、それらの悪い血を完全に取り除きたいの」
 バートは座り直す仕草。
「悪い血と言い切りますか。
お気持ちは分かりますが、古くからの貴族はどう思うのでしょうな」
 ベティとしては反乱首謀者三名の濃い血筋の族滅を持って、
反乱の終息宣言を行いたかった。
「古い貴族とか、・・・、もうそういう時代ではないわ。
このところ商人の跋扈が激しいのは知っているでしょう」
「ええ、爵位を買い求める輩が増えているそうですな。
騎士爵、上大夫爵、下大夫爵が大いに売れている、
貴族院の知人からそう聞いております」

 上大夫爵、下大夫爵はまだしも、騎士爵はそうではない。
売買の対象ではなく、上の者が功績のあった武人に授ける物であった。
それまでが売れていると。
ベティもそれは知っていた。
が、今はそれを超えていた。
「男爵家や子爵家もそうよ。
懐具合が厳しい家は、爵位や領地を借金の担保に入れてるそうよ。
伯爵家や侯爵家の場合は、寝かせている爵位をそうしてるわ」
 複数の爵位を持つ貴族は、寝かせている爵位の切り売りで凌げる。
切り売りする爵位がない貴族は、爵位を売るか、領地を売るか、・・・。
バートは長い溜息をつき、力ない言葉を吐いた。
「そうなのですか、今巷ではそうなのですか。
分かりました、時代がそうなっているのでは仕方ありませんな。
・・・。
この老骨に鞭打ち、励むとしましょう」

 帰路の車中、ベティが開口一番、カトリーヌ明石中佐に問う。
「どう思った」
 カトリーヌは、同じ車中に女官と侍女が居るのだが、
居ないものとして振舞う。
「ケーキはモンブランも苺も美味しく頂きました。
しかし、あのご老人は喰えませんね。
口や表情はベティ様に従うように見せていましたが、
腹の内は隠したままでした。
それで宜しいので」
 ベティはその言葉に喜んだ。
「ふっふっふ、構わないわ。
年の功けっこう、腹黒けっこう、仕事が出来れば良いのよ」
「ベティ様、男の趣味が悪い方へ走ってらっしゃいますね」
「周りを見回してご覧なさい。
性格が良くて仕事も出来る、そんな奴が居るかしら」
「んー、難ありが多いですね」
「世の中、そんなものよ。
結局は使い潰すのだから、贅沢は言わないの」

 翌日、ベティ王妃は国都郊外の近衛軍駐屯地を訪れた。
公式の視察なので、それは仰々しいものになった。
側仕えや秘書団、文武官等が乗る車輌が長蛇の列を成した。
そのせいで国軍と奉行所が交通整理に駆り出される騒ぎ。
 保管しているゴーレムを視察するのを名目とした。
駐屯地にはレオン織田伯爵に献上された物ばかり。
計十五体。
それを起動させて現状を把握する、表向きは。
 視察の陰に三好侯爵と毛利侯爵との会合があった。
そもそもは二人との会見が目的であった。
馬車から降りたベティに、駐屯地を預かる司令官が小声で報じた。
「三好侯爵と毛利侯爵がお待ちです」
「随分と速いわね」
「朝一番に連れ立って入られ、ゴーレムを検分なされておりました」
「熱心ね」
「あのお二方、そもそも武人気質ですから無理からぬ事かと」

 視察は影武者に任せ、ベティは会合場所に入った。
馬場が見下ろせるフロアだ。
既に三好侯爵と毛利侯爵が居た。
二人は珈琲を飲んで待っていた。
ベティに気付くと、サッと立ち上がった。
臣下としての礼で迎えた。
ベティはカトリーヌが案内した席に着いた。
「お二方もどうぞ」

 メイドにより二人の珈琲が淹れ替えられ、
ベティの手元には冷たいジュースが置かれた。
メイドが下がり、侯爵二人以外はベティの側仕えのみ。
ベティは二人に微笑んだ。
「お忙しいお二人を無理にお越し頂きました。
ありがとうございます。
早速、本題に入りましょうか」
 ロバート三好がにこやかに応じた。
「いやいや、暇しておりました。
お気遣いは無用です」
 モビエール毛利は無表情。
「聞くのが怖いですな」
「それでもお聞き願います。
・・・。
速やかに乱を終息させて頂きたい」
 モビエールが即反応した。
「あのお子様の具申でしたな。
侍従や秘書等の後押しでも有りましたかな」
 ベティはモビエールと視線を絡めた。
「島津が雇った外国からの傭兵団というのが気になりませんか」

 モビエールがロバートを見遣った。
「聞いていないぞ」
「話してないからな」
「ふん、それで手古摺っているのか」
「当初の方針通りだ」
 王妃や三好、毛利に反感を持つ貴族文武官を潰す、消耗させる、
それが当初の方針であった。
ベティが割ってはいた。
「先に小早川侯爵、そして今回は管領と問題が生じました。
そこで私も、そろそろ手仕舞いする頃合いと判断いたしました。
如何ですか、お二人は」
 モビエールが不満を仕草で現し、口を開いた。
「小早川の件はこちらの落ち度だ、何も言い返せん」
 ロバートが鼻で笑い、モビエーメから視線をベティに転じた。
「それで落とし所は」
「首謀者の族滅。
そして島津の領地には当分の間ですが、三好から代官を出して欲しい」
「要するに面倒臭い事は三好が担当しろと」
「いいえ、毛利も同様です。
族滅の後、尼子の領地には毛利の代官を、これも当分の間ですが、
代官を出して頂きます」 

 族滅は受け入れてくれた。
ただ、代官の件で揉めた。
互いに面倒臭いと言う。
それはそうだろう。
戦後復興を担えと同義語だ。
結局、国で受け持つ事になった。

 別れ際、ロバートがベティに問う。
「あのお子様をイヴ様の王配にするおつもりか」
 これにモビエールが関心を示した。
「ほう、それはそれは。
うちにも孫はいるのだが、それでは駄目かな」
 ベティは正直困った。
「伯爵はまだ子供だ。
・・・。
それに、この先どう育つか分からない」





子供時代はここまで。
子供時代、カ~ンです。
・・・。
長い間、お付き合い下さり、誠にありがとうございました。
それでは。
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昨日今日明日あさって。(どうしてこうなった)22

2024-04-21 12:31:56 | Weblog
 ベティ王妃はケーキを味わいながら考えた。
バート斎藤侯爵は元々が美濃の寄親伯爵。
歴史ある一族の生まれ。
それも、嫡男の不祥事で美濃での影響力は一掃された。
ところが伝手が残っていると言う。
おそらく一掃されたのは、斎藤伯爵家由来の貴族だけで、
平民クラスが残っているのだろう。
現在の美濃代官とも接触があるとも言う。
これまでの経緯から、親密度までは期待していないが、
それでも無いよりは良い。
「その代官はカールかしら。
ポール細川子爵の弟の」
 珈琲を飲んでいたバートが上目づかいで頷いた。
「はい、そうです。
弟のカール細川子爵殿です。
兄弟揃って爵位が同じで面倒臭いですな。
そろそろポール殿の爵位を上げてはどうですかな」
 バートの言葉に棘はない。
「そうね、・・・。
今回の騒ぎで深手を負わせてしまったわ。
お詫びも上乗せね。
ところで、貴方はカールとは親しいの」

 バートはカップはテーブルに下ろした。
「ええ、伝手の者達が代官所やギルトに転職しておりまして、・・・、
お陰で助かってます」
 伝手とは、かつて彼に仕えていた平民の文武官に違いない。
助かってますとは言うものの、忸怩たるものがあるのか、言葉に力がない。
「カールとは親しいの」
「まあまあですな」
 ベティは突っ込んだ。
「寄親伯爵とは」
 ダンタルニャン佐藤伯爵だ。
バートは頭を傾けながら応じた。
「そうですな、親しいのかと問われると、・・・。
顔を合わせる機会があれば、挨拶する程度です。
何しろ相手は子供ですからな」
 確かにそうだ。
相手は子供。
共通の話題などないだろう。
この言葉にも棘はない。
「その佐藤伯爵だけど、レオン織田伯爵とは親しいそうね」
 彼の娘婿、レオン織田伯爵。
バートは胡乱な目色。
「ああ、あれですか。
三河の一件ですな。
忙しそうなので詳しくは聞けておりませんが、支援を受けたそうで、
それに大いに感謝している、そう申しておりました」

 これ幸いだ。
彼に頼んでおこう。
「貴方に内緒でお願いがあるの」
「何でしょう」
「なるべくで良いから、佐藤伯爵との接触を増やして欲しいの。
相手が子供だから大変なのは分かるわ。
それでも、彼の為人を、第三者の目で調べて欲しいのよ」
 バートは苦笑い。
「ええ、努力しましょう。
・・・。
本気で王配にとお考えなのですか」
 王宮に出仕している者達は、佐藤伯爵を将来の王配、そう噂していた。
それはベティも彼女の周辺も聞いていた。 
ので、ベティは笑顔で応じた。
「まだそこまではね。
・・・。
今は好ましい子供だけど、先は分からないわ。
人はちょっとした事で変わるだしょう」
 バートの嫡男もそうだった。
子供時代は利発だった。
それで油断していた。

 黙ってしまったバートを無視してベティは続けた。
「取り敢えず、近い将来、織田伯爵と佐藤伯爵を私の両輪とするつもりよ。
走らせて走らせて、イヴの時代の礎を築いてもらうわ」
 酷使するとまでは言わない。
「承知しました。
佐藤伯爵との接触を増やします」
「ええ、お願い。
その代わりと言っては何だけど、貴方の孫世代には配慮するわ」
 言外に侯爵家の、現在の後継者候補は頼りなし、
つまり、一世代飛ばして孫世代を考えなさい、そう匂わせた。
これにバートも困った表情。
他人に言われると腹が立つのだろう。
されど言葉の主は王妃。
溜息を漏らすので精一杯、渋々頷いた。
「何卒良しなに」

 遠慮はしない。
ベティは珈琲とケーキをお替りした。
モンブランではなく苺が運ばれて来た。
苺ショートを一口、これも美味い。
珈琲で口を潤した。
「苺も良いわね。
これも瓶詰かしら」
「ええ、卸す程の量はありませんが」
「モンブランにしても苺にしても、
卸せるようになったら真っ先に後宮に入れて欲しいわね」
「承りました。
・・・。
それで本日の御用向きは」
 ベティは笑いで誤魔化した。
「ふっふっふ、そうだったわね」

 ベティは本題を切り出した。
「今月の評定衆の月番は侯爵殿ですわよね」
「はい、不肖某が」
「貴方に頼みがあるの」
 彼に否はない。
「なんなりと」
「そろそろ反乱を終息させる時期が来たと思わない」
 王弟を旗頭にした島津家の乱、王兄を旗頭にした尼子家の乱、
そして関東代官の乱。
「思います、そろそろかと。
そういえばですな、噂ではあの子供伯爵殿が三好侯爵と毛利伯爵に、
似たような意見を具申されたとか聞き及んでおりますが」
「そうなのよ、あの子が申すように時期が来たのでしょうね。
それで貴方には評定衆をその方向で動かして欲しいの」
 パートは苺を口にした。
味見するようにゆっくり味わう。
「三好侯爵と毛利侯爵には」
「明日、二人と合う予定を組んでるわ。
あの二人に同意させる、心配しないで」
「そうですか」
「最新の島津方面の情報よ。
実はね、島津が外国の傭兵団が雇っているそうなの」
「まさか」
「事実よ。実際に戦場で傭兵団が目撃されてるの。
これは砂漠の向こうからの進軍ルートが確立された証よ。
このままでは拙いわ」
「確かに」
「急いで乱を終息させる必要があると理解してくれた」
「ええ、理解しましとも。
早速中間派を集めて意志の統一を図ります」
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昨日今日明日あさって。(どうしてこうなった)21

2024-04-14 11:23:10 | Weblog
 ベティ王妃とカトリーヌ明石中佐は亡き国王陛下の執務室にいた。
当然、二人だけではない。
室内に並べられたデスクで、側仕えの者達が書類仕事に勤しんでいた。
今回の件と、留守してる間に溜まった書類が山積みなのだ。
それぞれが担当の書類を取り上げ、一人格闘していた。
二人は皆の忙しそうな様子を横目に、同時に溜息をついた。
肝心の疑問点が解消しないのだ。
 首謀者の管領とその取り巻きが行方不明。
管領と繋がっていたと思われる庭師達も行方不明。
そのせいで解明の糸口に辿り着けない。

 カトリーヌの副官が言う。
「噂では伯爵殿が魔法を駆使し、遠くへ吹き飛ばしたと」
 それはカトリーヌも耳にしていた。
「噂でしょう」
「ええ、噂です。
でも全員が行方不明になる前に相手してたのは伯爵殿です。
行方不明になる直前ですよ。
おかしいと思いませんか」
 ベティが口を挟んだ。
「おかしいわよね。
でもね、鑑定で伯爵のスキルは調べ済みなの。
近衛の魔導師に密かに調べ上げさせたの。
優秀な子だけど、そこまでのスキルはないわ」

名前、ダンタルニャン佐藤。
種別、人間。
年齢、十一才。
性別、雄。
住所、足利国尾張地方戸倉村生まれ、国都在住、美濃地方寄親伯爵。
職業、伯爵、岐阜と木曽の領主、冒険者、幼年学校生徒。
ランク、C。
HP、115。
MP、75。
スキル、弓士☆☆、探知☆、鑑定☆、光魔法☆、身体強化☆」

 それはカトリーヌも承知のこと。
「私も近くにいた近衛兵に確認したわ。
あの時、伯爵が詠唱したかどうか。
誰も聞いてないそうよ。
素振りもなかったって」
 しかし副官は納得しない。
「あの方、『白銀のジョナサン』の直系ですよ」
「ああ、それね。
直系だけど、それだけで疑うのはね、・・・」
 
 埒が明かない。
ベティは近くにいた侍従に尋ねた。
「貴方はどう思うの」
 彼はペンを走らせながら、一方では遣り取りに耳を傾けていた。
困ったように顔を上げた。
渋々感を漂わせながら口を開いた。
「あの方は年齢の割に、優秀であると同時に決断の出来る方です。
疑いを捨て、お味方である事を喜ぶべきではないでしょうか」
「疑っている訳ではないのよ。
彼ではなく、管領達の行方不明が気になって仕方ないの」
 ベティは彼の同僚に視線を転じた。
その者が目を逸らそうとした。
ベティは逃さない。
「貴方は」
「行方不明の者達の事は忘れて次に進むべきではないか、
臣はそう申し上げる言葉しか持ち合わせおりません」 

 最高権力者は国王であるが、政は国王のみでは円滑に進められない。
決定事項でも、古よりの血縁地縁、忠誠心、利権、猜疑心等により、
複雑な歪みを生じ、時として長期の停滞を齎すからだ。
これを解決するのが侯爵家にて構成される評定衆。
彼等が所属する派閥の力学を通して物事を進めのが最も手早いのだ。
 ベティは国王亡き今、身分は元王妃、そして嫡子の保護者、所謂代人。
イヴが成人していないので、その代人として権力を掌握していた。
その権限で今回も、評定衆の月番の侯爵に面会を求めた。
国王ですら評定衆の会合には臨席がせいぜいで、発言権もなければ、
議決に参加する事も求められていない。
もっとも、その程度ではベティは臆しない。
わざと厚顔無恥を装い、何度も臨席し、無言の圧力を加えた。
人事権を握っているのが大きい。
加えて中間派閥を率いていた。
管領を失っても彼等の支持までは失っていない。

 今月の月番はバート斎藤侯爵。
元は美濃の寄親伯爵。
彼は木曽大樹海の魔物の大移動、
所謂スタンピードを阻止した功績で陞爵した。
嫡男に寄親伯爵位を譲り、彼は住まいを国都に移した。
その嫡男が失墜した。
ところが余波は彼には及ばなかった。
スタンピードを共に阻止したレオン織田を抱えている事が影響した。
彼の娘婿でゴーレム製造の第一人者。
レオンが実父より彼を慕っている事情から、
嫡男と共に断罪する声は上がらなかった。

 ベティはバートの屋敷を訪れた。
勿論非公式なので、無印の箱馬車だ。
ただ、近衛の女性騎士の多さでそれとなく分からせた。
大切なのは非公式でも、権力のありか明示すること。
その一点にベティは拘った。
ただ、襲撃が予想される場合は別だが。
 ベティはカトリーヌ明石中佐のエスコートでベティが下車した。
バート自らが出迎え、如才のない挨拶をした。
「ようこそお出で下さいました。
家人一同うち揃って歓迎いたします」
「ありがとう、お邪魔するわね」

 屋敷奥の応接室に案内された。
内密の会合に用いる部屋だ。
魔道具で遮断されているので、会話が外に漏れるおそれはない。
それでも念を入れて屋敷の各所に近衛が配された。
 バートがベティを上座に案内した。
自らは下座に腰を下ろした。
メイド達がワゴンを押して入室して来た。
主役二人の前にモンブランと珈琲が置かれた。
砂糖とミルクが添えられた。
 ベティの場合は毒見はいらない。
自身も鑑定スキル持ちだが、お付きの近衛も鑑定スキル持ち。
ダブルで鑑定。
互いに顔を見合わせ、頷いた。
無害。

 バートがモンブランを勧めた。
「ケーキもどうぞ」
 自信があるのだろう。
珈琲で口を潤したベティは応じた。
「この時期、モンブランは季節外れよね」
「瓶詰ですよ。
味は季節物と変わらぬ筈です」
「そう」
 モンブランを口にして驚いた。
「後宮の厨房で季節に出す物と変わらぬ味ね。
美味しいわ。
どこの瓶詰かしら」
 バートが嬉しそうに微笑む。
「美濃に伝手が残っておりますので、そこで作らせております」
 これにベティが驚いた。
「聞いてないわよ」
 後ろに控えているカトリーヌを振り返った。
すると彼女は首を横にした。
「私も初耳です」
 これにバートがますます喜ぶ。
「驚いて頂いて嬉しいですね。
全量買い取りです。
これは美濃のお代官様の耳には入れております。
ですから、何の問題も御座いません」
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昨日今日明日あさって。(どうしてこうなった)20

2024-04-07 09:27:20 | Weblog
 ここ軍幕内にて俺を補佐している者達は王妃様派閥、
ないしは亡き国王陛下に今もって忠誠を誓う者達。
それを承知だからか、モビエール毛利侯爵も、ロバート三好侯爵も、
面白い小僧だ、とばかりの表情で俺を見遣った。
俺は俺で、演技スキル全開の鉄壁の微笑み返し。
突っ込みが入らないので、俺は言葉を重ねた。
「今回の管領様の件、そして前のテックス小早川侯爵様の件、
それは長期の内乱騒ぎに倦んで来ている兆しではないか、
臣はそう推測します」
 君達の支持基盤に罅が入っているのではないか、言外にそう伝えた。
これに対し、批判も質問も返って来ない。
書記役の者が手を動かしたのをきっかけに、侍従秘書女官等もそう。
それぞれが仕事を再開した。
何も聞かなかったかのような空気感。
これは何なのだろう。
同意か、それとも無視か。

 ロバートが俺に言う。
「今の意見を王妃様に直接申し上げてはどうかな」
 モビエールがそれに重ねた。
「そうだな、それが良い。
臣等は王妃様の意向で動いている。
王妃様から新たな指示があれば、それに従う」
 この返しには困った。
王妃様には言い難い。
正直苦手なのだ。
未亡人の色香が。
何事も見通していると言う目色が。
そして何度も俺を鑑定しようとする。
偽装しているので無駄なのに。
それでも隙あらば、と諦めずに挑む。
どうする俺。

 困っていると隣の侍従が俺を見た。
「今の伯爵様のご意見、王妃様に提出する報告書に、
管領の謀反の原因として書き入れます」
 俺はそれを聞いて、侍従や他の補佐してくれる者達を見回した。
皆は仕事を再開して、俺に目もくれないが、
その姿勢から暖かいものを感じ取った。
もしかして、それぞれに思うところが有るのかも知れない。
心強く思い、モビエールとロバートに視線を転じた。
おお、二人の視線が揺らいでいた。
軍幕内に生じた新たな空気に気付いたらしい。
俺は二人に追撃。
「他にもお待ちの方々がおられます。
お二人はそろそろ・・・」
 邪魔だから出て行けよ。

 二日後にカトリーヌ中佐が戻って来た。
案内の近衛兵を追い越して軍幕内に突入する騒ぎ。
「イヴ様はご無事か、イヴ様は」
 俺を目敏く見つけると、テーブルに駆け寄って両手を着き、
前屈みになって言葉を重ねた。
「イウ様はどこですか」
 唾が飛んで来た。
ご褒美か、・・・。
気持ちが分かるので、我慢してカトリーヌ中佐を見上げた。
わざと両手を上げた。
「落ち着いて、どうどう」
「私は馬じゃない」
 憤慨した表情。
軍隊生活が長いとユーモアを解せないのだろう。
反対に、テーブルを囲む面々の肩が小刻みに揺れていた。
良かった。
受けていた。

 カトリーヌ中佐の表情が変わった。
「すまない、無事なのは聞いていたのだが、・・・、
一目お会いしたくて焦っていたようね」
 俺は軍幕入り口を指し示した。
「エリス中尉がお迎えに来てますよ」
 現在、イヴ様の警護はエリス。
俺に頷き返し、上司であるカトリーヌ中佐に敬礼した。
「イヴ様はこちらです」

 王妃様一行も二日遅れで戻って来た。
真っ先にイヴ様にお会いしたいだろうに、軍幕内に居座られた。
報告書を読まれ、分からぬところを俺や侍従秘書女官等に質問された。
長きに渡り国王陛下の片腕となって働いた者達。
全てに澱みなく答えてくれたので俺の出番はない。
 俺の出番は最後に来た。
王妃様に問われた。
「何か忘れた事は」
「そうですね、・・・。
ああ、これですね」
 俺はテーブル片隅に置かれて書類を取り上げた。
「これは」
「初日にここに駆け付け、手伝ってくれた者達の名簿です。
一番最初に褒めて上げて下さい」
 意味深げに王妃様を見た。
複雑そうな目色の王妃様。
それでも理解されたようだ。
苦笑いを浮かべながら俺に言われた。
「そなたは褒美は望まない、そう理解して良いのですか」
 正解です。
「ええ、これ以上は困ります」
 元々は辺鄙な村の子、それが今や最年少の伯爵様、
陰口を叩かれる存在。
これ以上は妬みや怨嗟を生むだけ。
心安らかに生きるにはこれが最善手だろう。

 王妃様の復帰により俺はお役御免。
引継ぎしが完了したので、別館に滞在中のイヴ様にご挨拶。
「屋敷に戻りますね」
「にゃ~ん」
 イヴ様恒例の飛び込み。
何時もより勢いがあった。
これは・・・、身体強化するしかない。
弾力性のある身体強化をイメージ。
それで持って受け止め、高い高い、からの肩車。
「あっはっはっは」
 喜んで貰えて嬉しい。

     ☆

 ベティ足利は王宮本館の窓から外を見下ろした。
別館前の様子がよく見えた。
佐藤伯爵家の馬車が横付けされ、使用人等が乗り込むところであった。
その脇でダンタルニャンがイヴの相手をしていた。
兄妹のようで微笑ましい。
おりよくカトリーヌ明石中佐が報告に来た。
「王妃様、宜しいですか」
 顔色が悪い。
「良いけど、貴女疲れているようね」
「ご心配をおかけします。
けれど大丈夫です。
・・・。
ボルビン佐々木侯爵の消息が全く掴めません。
侯爵家の家人も、縁戚もその家人にも聞き取りましたが、誰も知りません。
友人知人もです」
 ベティはそれを予期していた。
問い詰めない。

 ベティはもう一つの関心事を口にした。
「例の庭師達は」
「あちらもです。
あの日、宮廷に出仕していた全員が行方不明になっています」
「あの連中は何なのだ」
「身分は宮廷の庭師です。
宮廷庁の所属になっていますが、それは形ばかりのようで、
どこの部局にも所属していません」
 ベティは一つ閃いた。
「給地給金は」
「給地と同時に給金も支払われております。
不思議な事に、各地に給地を与えられ、
各人が持つ商人ギルド口座に給金が支払われております」
「んー、・・・。
それぞれの家に給地が与えられ、
ギルド口座には訳有りの給金が降り込まれる。
そういう理解で良いのよね」
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