金色銀色茜色

生煮えの文章でゴメンナサイ。

(注)文字サイズ変更が左下にあります。

お知らせです。

2021-10-31 06:48:13 | Weblog
 体調を崩してしまいました。
本日の更新をお休みます。
ゴメン。
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昨日今日明日あさって。(大乱)240

2021-10-24 10:56:29 | Weblog
「子爵様のお言葉を受けて私共は奉行所に捜査を命じました。
それが深夜の大捕物に繋がりましたの」
 そう述べてカトリーヌが一から説明した。
それはアリスとハッピーの報告を補完するものであった。
俺は素知らぬ顔でフムフムと頷きながら聞いた。
素人演技は大変だ。
何しろ相手は王妃警護一筋の軍人。
人の顔色を読むのは職業柄、慣れている相手。
俺は不自然にならぬように細心の注意を払った。

「奉行所は適切な取り調べを行い、それを詳細な報告書にして、
上に報告いたしました」
 奉行所の上とは、もしかして大臣や長官・・・。
カトリーヌはそこの説明は省いた。
「問題が問題ですので、最終的には評定に上げられました」
 結果、評定衆はこれまで明らかにされなかった関東の独立を、
周知する事に決した。
ただし、真相を少々歪めて公表する運びになった。
関東の独立先行と言う話ではなく、関東側の独立を望む勢力が、
卑劣にも国都の焼き討ちを企てた。
それを事前に察知した奉行所が一味を一網打尽。
取り調べで関東の独立を画策する勢力の存在が明らかになった、
そういう筋書にされた。

 カトリーヌが一息ついた。
副官が素早くお茶を入れ替えた。
それをカトリーヌは一口で飲み干した。
俺を見て微笑む。
「子爵様は関東の一件はご存知でしたよね」
「はい」
「松平伯爵家のセリナ嬢に関わりましたので」
「でしたよね。
政は面倒臭いでしょう。
色々と段取りや根回しをしないと動かせないのです。
関東の一件も公表する時期が問題でしたが、これで決しました。
・・・。
奉行所が一味の逮捕を公表し、
評定衆が関わった貴族全員に出頭を命じます。
弁明したければ三か月後までに出頭するようにと」
 アリスとハッピーはそこまで調べていない。
奉行所だけで満足して戻って来た。
だからと言って𠮟れない。
そう指示しなかった俺が悪い。

「もしかして雪解けを考慮して・・・」
「そうよ。
でないと出頭できないでしょう」
「北陸道はそうですが、中仙道を使えば出頭・・・。
勘違いしました。
出頭する時期ではないのですね」
「あら、分かったのかしら」
 カトリーヌの微笑みの色が変わった。
大人の企みの色。
「誘導されました。
出頭どうのこうのより、出兵できる時期を目安にしての判断ですね。
すっかり勘違いしてしまいました」
「正解、そうですよ」

 関東側は雪解け後に王妃軍が討伐軍を送り出すと計算し、
事前に一味を潜入させたのだろう。
そして、たぶんだが、出兵後の国都を混乱に陥れようとしたのだろう。
それが俺のせいで瓦解した。
だとしても疑問がある。
「彼等も国都に屋敷を抱えているでしょう。
そちらはどうするのですか」
「出頭する気がない、そう評定衆が判断するまでは手をつけないわ。
それまでは無罪扱いよ。
期限切れまで辛抱して待つわ」
「でも期限切れと同時に出兵する。
それも積極的に。
よくそんな戦力がありますね。
西の反乱で手一杯なんじゃないですか」
「戦力は足りないけど、そこはそれ、大人の仕事よ」
 カトリーヌが俺を試す目色。
全て説明するつもりはないようだ。
だとしたら、こちらから水を向けなければならない。
全て説明したくなるように。

 俺は暫し考えた。
ダンカンが俺のお茶を入れ替えてくれた。
考え続けながら、ゆっくり飲む。
対面のカトリーヌがそんな俺に余裕の微笑みをくれた。
今気付いたが、彼女の訪問は奉行所絡みの説明だけでなく、
それとは別の目的もありそうだ。
思い付きで口を滑らした。
「北陸道から出兵すると勘違いさせる」
 微妙にカトリーヌの片頬が緩んだ。
「そう、それで・・・」
「中仙道経由・・・」
 カトリーヌが身を乗り出した。
「木曽の御領主ですから、ご存知でしょう。
大軍で木曽の大樹海を無事に通過した例はないですわ。
過去例からすると、大軍の軍気に誘われた魔物の群れにより、
何れも餌に終わっています。
そういう過去例から、集団は百名を超えるな、そう言われていますわ」
 そうなんだが絶対に中仙道だ。
何か手立てがある筈だ。
大軍を送り込む方法が。

 そうだ。
忘れていた。
戦力イコール兵数とは限らない。
人ではない戦力・・・、それは・・・。
近場にそれを可能とする人物がいた。
尾張の寄親・レオン織田伯爵。
彼は土魔法の使い手でゴーレム造りを得意とする。
「東に回す兵力がない、となればゴーレムですか」
 途端、カトリーヌが拍手した。
その背後に控えている副官が首を竦めた。
「よく出来ました」カトリーヌが嬉しそうに言う。
「正解ですか」
「ええ、そうよ。
足りなければ頭で補い、工夫する。
それが大人の仕事」
「ゴーレムで大樹海を抜けて関東に奇襲をかけるつもりですね」
「その前に試す必要があるわね。
それを許可して欲しいの、木曽の領主様」

 カトリーヌの目的の一つはゴーレムでの大樹海通過。
成功するかどうかを試し見るつもりなのだろう。
「そのゴーレムは何体いるのですか」
「最初は土木工事用のゴーレムを五体と兵士三十人です。
それを数回続けます。
失敗がなければ、それで決行です。
軍事用ゴーレムを投入します」
「真っ直ぐに信濃に抜けるのは拙くないかな」
 信濃地方の寄親伯爵は敵の一味だ。
「途中で往還道から三河に向かいます」
「三河の松平伯爵の許可は・・・」
「当然ですが、得ていません。
話を知る人が少なければ少ないほど、成功の確率が上がりますからね」
 せっかく土木工事用ゴーレムを投入したのだから、
その地の山間部に王妃軍の足場となる駐屯地を築くと笑う。
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昨日今日明日あさって。(大乱)239

2021-10-17 09:44:12 | Weblog
 朝になってみて気付いた。
奉行所が総力を上げた深夜の取り締まりだったが、
それに気付いた者は屋敷には皆無、一人としていない。
夜警の者ですら、そうだった。
従者やメイドの口から出ることは、ついぞなかった。
 登校のついでに探った。
街中に漂うのは何時ものような平和な空気感。
クラスに入っても、それらしい噂する者はいない。
教師も食堂も同じ。
誰の口からも上らなかった。
騒ぎにならぬように取り締まった奉行所が役者として一枚上手だった。

 俺はアリスとハッピーに期待した。
世情で噂にならぬなら二人に頼るしかない。
ランクBと自慢していたから、それなりの結果は持ち帰るだろう、たぶん。

 三日後だった。
『調べ終わったわよ』
『パー、簡単だった』
 二人が戻って来た。
自慢気に話してくれた。
『探知スキル持ちや鑑定スキル持ちもいたけど、見つからなかったわよ』
『ピー、見つからなかった』

 外郭の東西南北四つのスラムで取り締まりが行われた。
それにより大勢が逮捕された。
東のスラムでは太田伯爵の家臣、従者も含めて四十六名。
西のスラムでは北条伯爵の家臣、従者も含めて二十八名。
南のスラムでは千葉伯爵の家臣と小笠原伯爵の家臣、
従者も含めて三十五名。
そして最大だったのは北のスラム。
上杉侯爵と熊谷伯爵の家臣、従者も含めて五十七名が逮捕された。

 速やかに尋問が開始された。
ところが、彼等が持つ首のタグはよくできた偽物。
それを【真偽の魔物水晶】が見抜いた。
初手から躓いた。
これでは人名特定から始めなければならない。
そこで鑑定スキル持ちが尋問に加わった。
氏名や所属は分かったが、それでも尋問は遅々として進まない。
 逮捕されたのは主家に殉ずる意思を持つ者達ばかり。
従者にしてもそう。
彼等はタグの変名を押し通し、後は口を閉ざした。
皆が皆、示し合わせたかのように貝になった。
そこで上に、魔道具使用が申請された。

 【奴隷の首輪】が認められた。
逮捕された者全員が一時的に奴隷に落され、尋問が再開された。
この【奴隷の首輪】だけは誤魔化せない。
嘘をつくと首を絞める設定にしてあるので、傍目にもハッキリ分かる。
 頭の良い奴は言葉の使い分けで誤魔化そうとするが、
別の者が述べた話と整合性が取れない。
そこを取調官に突かれ、答えに窮した。
尋問の専門家にとって【奴隷の首輪】は旱天慈雨。

 彼等の目的は不明。
彼等の主人が関東を掌握する前にスラムへの潜入を命ぜられていた。
関東を掌握した今となっても、新たな命令は届いていない。
連絡系統は維持されているものの、待機命令が継続されたまま。
 奉行所は、彼等は武装蜂起要員であると断じた。
王妃軍が関東へ討伐軍を派遣すると決した場合、
決起して国都を争乱に陥れる。
それを証明するかのように武具を大量に保管していたので、
あながち間違いではないだろう。
内郭の王宮を攻略せずとも、
組織だった放火に成功すれば外郭の街中を全焼させられる。

 近衛のカトリーヌ明石少佐が私服で現れた。
「子爵様、こんな形での面会で申し訳ありません」
 軍の尉官経験者は男爵待遇で、退官後に正式に任じられる。
佐官以上ともなると子爵待遇で、これもまた退官後に正式に任じられる。
なので、カトリーヌが俺に低姿勢である必要はないのだが、
彼女は何時もこうなのだ。
固い、固い、固いよカトリーヌ。
 俺は屋敷の執務室に彼女を招いた。
「こちらが良かったのですよね」
 本当はテラスか、庭の四阿でも良かった。
彼女の私服姿はそちら向きなのだ。
でも非公式の訪問だと言う。
外見は私服だが、中身は公式と言うことなのだろう。
つまり内緒話。

 俺の後ろには執事・ダンカン。
カトリーヌの背後には、これも私服の副官。
この二人は役目柄の同席なので、数には入っていない。
数には入っていないが、耳にした事は後で記して残す。
私記の形で保管する。

 メイドのジューンが飲み物とお茶菓子を運んで来た。
共に紅茶とどら焼き。
甘いものの組み合わせ。
頭を使った後なので俺には丁度いい。
たぶん、カトリーヌにも。
一口食べたカトリーヌが言う。
「美味しいどら焼きですね」
「家のシェフが街のバティシエからレシピを買い上げました。
そのお陰で家の者は何時でも食べられます」
「家の者って、メイド達でしょう、羨ましいわ」
「貴女の実家も貴族でしょう。
貴族は皆そうしてるんじゃないですか」
「少なくても貴族は使用人の為のデザートは作らせないわね」
 俺は後ろを振り返った。
ダンカンがカトリーヌの言葉に首を縦にした。
俺はカトリーヌの背後の副官に視線を向けた。
彼女も首を縦にした。
俺は非常識らしい。
「でも僕も食べられますから。
美味しい物は皆で食べなくちゃ、ねっ」
 カトリーヌが含み笑い。
「ふっふっふ、これからは毎日来ましょうか」
「歓迎しますけど、そんなに暇じゃないでしょう」
「そうよね、残念よね」

 カトリーヌが用向きに入った。
「子爵様が名前を出す事はお嫌いなようなので、
今回の件は奉行所の手柄とします」
「それで結構ですよ」
「えっと、失礼、今回の件の説明はしてませんが・・・」
 カトリーヌが不審な顔をした。
失敗、失敗、早とちりした。
でも、あれだよね。
「深夜の捕物でしょう」
「気付かれましたか。
街の噂にもなっていないので、ご存じないものとばかり」
「あれだけ荒い気配がすれば、普通、気付きますよ」
 カトリーヌが俺の背後のダンカンに視線を向けた。
俺も振り返った。
ダンカンは首を横にした。
カトリーヌが嬉しそうに言う。
「何時も思うのですが、子爵様は普通とは違いますよね」
「それ褒めてますか」
「褒めてますよ。
羨ましいとも思っています」
「そうですか、いいでしょう。
聞かせてください、顛末を」
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昨日今日明日あさって。(大乱)238

2021-10-10 09:50:25 | Weblog
 ようやくアリスとハッピーが木曽から戻って来た。
『ねえダン、この階に魔法使いを住まわせたの』
『プー、子供の魔法使い』
 やはり真っ先にそれに気付いた。
もう少し、抜けてると思っていたのだが、認識を改めよう。
俺は経緯を説明した。
『ほうほう、実家の頼みか』
『ペー、うちの戦力にすれば』
 珍しくハッピーがまともな事を口にした。
『それはしない。
そう実家と約束したから』
『変な所でダンは頑固だものね』
『ポー、ポッポー』
 
 褒められているのか、貶されていめのか・・・。
俺は話題を変えた。
『ダンジョンを完成させたにしては、戻りが早くないか』
 木曽ダンジョン。
アリスの小さな顔が歪んだ。
『場所が悪いのよ』
『パー、冒険者が来れない』
 周囲の景観は最高であった。
特に瀑布は畿内では随一ではなかろうか。
畿内の瀑布は一つとして知らないけど、そう断言できた。
でも、冒険者が来れない場所と言う意見にも賛同できた。
あそこまで足を運んでくれる物好きはそうそういないだろう。
普通の者は途中の魔物を討伐するだけで精一杯。
着いた頃にはヘトヘト。
ダンジョンに挑む気概は残っていない。
『そう気付いたから途中で止めた』
『ピー、アリス頭わるい』
 仲間割れを始めた。
『えー、なんだって』
『アリス頭ある』
 ハッピーは訳の分からぬな物言いをして、アリスと距離を置いた。
『ええ、頭がなんだって』
『プー、頭ある、頭ある』
 頭あるある言って、けっして褒めない。

 部屋の中で騒がれても困る。
俺は窓を開けた。
『ハッピー』
『ペー、ペッペー』
 こういう時は飲み込みが良い。
ハッピーは素早く窓から外に逃げ出した。
それをアリスが追う。
『待ちやがれ』
 その言葉遣い、どこの生まれ何だか・・・。
二人が姿を消したまま、空中で追いかけっこを始めた。
『ハッピー、許さないからね』
『ポー、ポッポー』
 俺は二月の寒空のなか、窓を開けたまま寝る羽目になった。
ああ、寒い。

 西の反乱は収まる気配がない。
だが、その空気は国都の街中には波及しない。
西国にのみ留まり、国都の平民にとってはお貴族様の争い。
別世界の争い。
 復興がなった街中は以前の繁栄を取り戻した。
近隣地方との商取引で人々はその分け前に与った。
お零れが路地裏にも流れた。
が、全ての者が与った訳ではない。
乗れなかった者もいた。
それでも、大きな不利益を被った者は少ないので、
不満は口に上らない。

 そんな二月の半ばの頃、深夜、殺伐とした空気が俺を襲った。
思わず飛び起きた。
屋敷内は異常なし。
だとすると、俺はベツドから下りて、窓を少し開けた。
冷たい空気が侵入して来た。
同時に異な気配も侵入して来た。
 街中で何かが起きていた。
外敵ならまず国軍が動く。
王宮なら近衛軍が動く。
しかし、そうだとすると外壁内壁付近が騒然とするはず。
けれど、その気配は全くない。

 俺は探知と鑑定を連携して起動させた。
膨大な情報が流入して来て頭が痛い。
それでも慣れと言うものは怖いもの。
自然に取捨選択して行く。

 俺はまず真夜中の人の動きを調べた。
ほとんどが夢の中にいた。
起きているのは少数派。
その少数派の中の多数派を、不自然にも奉行所の者達が占めていた。
 彼等は東西南北四か所のスラムに向かっていた。
整然とした動きでスラムを包囲し、それぞれが目的の箇所に殴り込む。
いや、家宅捜査に着手した。
スラムなので家宅ではなく・・・、何だろう、放置家屋捜索。

 奉行所の半数近くが東区画のスラムに当てられていた。
それだけ大物が潜んでいるか、
多数の犯罪者がいると見込んでいるのだろう。
 現場の様子を精査した。
捕り手と犯罪者に分けた。
捕り手は当然、奉行所の者達だが、とある一角には国軍関係者や、
近衛軍関係者がいた。
双方は現場には踏み込まない。
後方で奉行所の動きを見守っていた。

 犯罪者として捕えられた者達は関東の貴族の関係者であった。
そのうちの多数は武蔵地方の寄親・太田伯爵の家臣。
他は北条伯爵、千葉伯爵、宇都宮伯爵、小笠原伯爵。
目玉は関東代官・上杉侯爵と関東軍司令官・熊谷伯爵ではなかろうか。

 結果を知って俺は自分の情報が活かされたと理解した。
王宮に齎した情報をカトリーヌ明石少佐が引き取った。
それがこんな解決に繋がったのだろう。

 冷たい外気の流入に気付いたのか、アリスとハッピーが目を覚ました。
『なにしてるの』
『パー、子供は寝てる時間だよ』
 二人とも寝なくて済む種族なのだが、
俺といる時は俺に合わせて寝入る。
何とも気遣いの二人。
『外で騒ぎが起きているんだ』
 俺は二人に経緯を説明した。
聞いた二人は目を輝かせた。
『調べて来る』
『ピー、ピッピー』
 嬉しいが、懸念があった。
『奉行所には探知とか鑑定のスキル持ちがいるから気付かれる。
侵入は無理じゃないか』
 アリスが胸の前で両手を組み、ふんぞり返った。
『忘れたの、私達もランクアップしたんだよ』
『プー、ランクB、ランクB』
 アリスが得意満面の笑みを浮かべた。
『それに気付かれても余裕で逃げられる』
『ペー、エビスゼロ、エビス一号』
 二人には錬金で造った飛行体を持たせていた。
飛ぶだけでなく、攻撃も出来る機体だ。
魔物・コールビーを模した物で、ちょっと大き目だが、性能は優れていた。
余程の事がない限り、内部にいれば被害を被る事はない。
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昨日今日明日あさって。(大乱)237

2021-10-03 10:38:09 | Weblog
 俺の子爵家に下宿人が来た。
実家の村から子供が二人。
ただの子供ではない。
村の神社が預かり、魔法教育をしていた二人だ。
その二人、この度、目出度く魔法が発現した。
 国都の魔法学園に入学するので、俺の子爵家で預かる事になった。
本来なら魔法学園の寮に入るのだが、卒業を見越して、
あちこちから勧誘の手が伸びて来ると言うので、
子爵家に下宿避難させる事になった。
 二人は村の子供なので、二人の実家としては村に戻ってきて欲しい。
村としても、人材として戻ってきて欲しい。
両者の思惑が一致した。
その結果、俺に押し付けられた。
「しっかり守るように」
 断れる訳がない。

 国都の子爵邸に通い慣れている村兵が箱馬車で二人を運んで来た。
その二人が馬車から飛び下りて来た。
小柄な男児がエズラ、十一才。
大柄な女児がゼンディヤー、十才。
二人は物珍しそうに辺りを見回した。

 エズラ。
「名前、エズラ。
種別、人間。
年齢、十一才。
性別、雄。
住所、足利国尾張地方住人。
職業、魔法学園生徒。
ランク、E。
HP、55。
MP、60。
スキル、水魔法☆」

 ゼンディヤー。
「名前、ゼンディヤー。
種別、人間。
年齢、十才。
性別、雌。
住所、足利国尾張地方住人。
職業、魔法学園生徒。
ランク、D。
HP、60。
MP、80。
スキル、火魔法☆」

 二人とも神社預かりで教育を施されていたとは言え、
小さなころからの友達だ。
神社預かりになっても、二人は暇になると遊びに来た。
山に入って鳥を獲り、川で魚を仕掛けに追い込み、焼いて食った。
あの頃の絆は切れていない、と思う。
 それでも二人は俺を見つけると、まず貴族相手の挨拶を優先させた。
環境が田舎育ちにしては手慣れていた。
宮司様の教育の賜物だろう。
俺もお貴族様として応じた。

 終えたエズラが笑顔で問う。
「ダンタルニャン様、これで良かったですか」
「合格だよ。
学園でもこの調子なら失敗しない」
 エズラとゼンディヤーが顔を見合わせて喜ぶ。

 二人に部屋を貸し与えた。
当然、一人一部屋。
俺と同じ階だ。
これに二人は恐縮したが、そこは譲れない。
「忘れちゃいけないよ。
二人は村の皆からの預かりものなんだ。
大事にしないと僕が怒られる、そこの所を分かって欲しい。
だから我慢して僕と同じ階に入ってくれないか」

 渋々頷いた二人に執事見習いのコリンを紹介した。
「二人にはこのコリンを付ける。
困ったことがあれば、まずコリンに相談してくれ。
大抵の事ならコリンが解決する」
 そう紹介するとコリンが苦笑い。
「私が子爵様の名前で解決します。
ダンタルニャン様は子爵位ですが、意外と力があるのですよ。
ですから、大船に乗ったつもりでいて下さい」
 傍で聞いていた執事・ダンカンと従者・スチュワートが顔を背けた。
肩が小刻みに震えていた。
どこに受ける要素があったのだろう。
反対側ではメイド長・バーバラも肩を震わせていた。
小隊長・ウィリアムは俺が視線を向けると、何故か目を逸らした。
解せぬ。

 二月になり俺は二年生になった。
二年用の隣の校舎に移動させられた。
初日の顔合わせで全員の無事進級を確認した。
担任も持ち上がりでテリー。
 そのテリーが話してくれた。
「耳聡い者なら聞いているだろう。
今年度の新入生は反乱等々の影響もあり、貴族の子弟が減った。
代わりに、諸君には喜ばしい事に、平民の合格者が増えた。
・・・。
ただしだ、在校生の方に問題がある。
欠員が多数出た。
このクラス以外だ。
授業によっては進め方に支障が出るので、
二クラス合同の授業と言うこともある。
このクラスは関係ないが、承知して置いて欲しい」

 反乱や政争で少なくない貴族が処分された。
反乱首謀者や加担者は爵位剥奪され、領地も没収された。
が、実際には何も為されていない。
処分が公表されたのみで、反乱した側が従う訳がない。
王妃軍が力で平定し、実行するしかないのが現実だ。
 政争で破れた者は領地が削られ、爵位が降格された。
領地への蟄居を申し渡された者もいた。
こちらは王妃軍の影響の及ぶ地方なので、実際に行われた。
 これらの子弟が学校や学園から姿を消した。
自主退学ではない。
先の見通しがつかない為、一時休学届けが提出された。
何れ子弟を復学させる気が満々であった。
反乱だろうが何だろうが、何れ落としどころを探って、
そこに落ち着くと見ているのだろう。
 何しろ王宮は伏魔殿。
今は王妃様の影響下にあるが、全ての者がそうであるのかと問われると、
疑問符を付けざるを得ない。
人は外面がどうあれ、内面までは分からない。
面従腹背の者の存在は歴史が証明していた。

 俺のクラス委員と言う立場も継続された。
「クラス委員の経歴があると上の学校に推薦で入れるよ」
 そう説得したのだが、誰も替わろうとしない。
他のクラスの貴族子弟との会合を回避しようと言う思惑が透けて見えた。
説得を諦めた。
諦めて学年の委員会に出席した。
各クラスの代表者の顔触れに大きな変更はない。
一組のパティー毛利。
二組のアシュリー吉良。
九組のボブ三好。
主要どころに変わりはない。
パティーが口火を切った。
「二学年の代表は子爵様にお願いしましょう」
 俺かい。
俺は速攻で拒否した。
「僕は未熟なので、ここは前年同様、パティー様にお願いしたいです。
如何ですか、アシュリー様」
 パティーのシンパ筆頭だ。
「はい、私もそれが宜しいかと」
 俺は他のシンパ諸氏を目で促した。
全員を墜とせた。
「私も」「僕も」と俺とアシュリーを加えると六名になった。
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