俺はパティ毛利と近況も話し合った。
「ボブとは最近どうなの」遠慮がないパティ。
ボブ三好。
三好侯爵家の分家筋の男子で、
僕だけでなく平民には辛辣な対応に終始していた。
「ポブ三好殿は僕と目も合わせてくれなくなりましたよ」
「あの子は昔からそうなのよね。
身分に拘り過ぎて、逆に自分を不自由にしているわね。
もっとも、貴男が相手の場合は嫉妬ね。
見下していた人物が自分より上になったものだから、
どうしていいのか、分からないのでしょう。
今さら、友達面もできないし」
「ええ、今さらですね。
僕しても、友達面されると怖いです」
後ろのアシュリー吉良の表情が険しくなってきた。
焦れている様子。
ついには口を出してきた。
「パティ様、そろそろ行きましょうか」
パティの顔が微妙に変化した。
僕とアシュリーを見比べる視線。
でも口にはしない。
言葉を飲み込み、どちらにともなく言う。
「難しいものね。
まあ、いいわ」アシュリーに頷き、僕に視線を戻し、
「ところでダンタルニャン佐藤子爵様、
貴方の御家来衆に魔法使いはいますか」意外な質問をくれた。
彼女が僕を子爵様呼ばわりする時は、何かある。
「いませんが、それが何か」
「王宮区画の惨状はご存知かしら」
「遠目にですが、瓦礫でかなり酷い状態に見えます。
でも王宮区画ですから、近衛軍の魔法使い達が対処するのでしょう」
「普通ならそうです。
・・・。
子爵様のお耳に入れて置きますね。
管領のボルビン佐々木様より評定衆にお触れが回りました。
風魔法や土魔法の使い手を揃えて王宮区画へ参るようにと」
管領職、ルビン佐々木公爵。
現国王が未成年時、その後見をしていたこともあり、絆は強い。
そんなボルビンが管領職として、
異例なお触れを出すからには只事ではない。
俺は尋ねた。
「管領職と評定衆ではどちらが上なんですか」
「古来よりは評定衆が上。
管領職が定席になったのは、つい最近ですから、
どう考えても管領職は下でしょう」
「世間では管領は国王の右腕と言われていますけど」
するとアシュリー吉良が割り込んできた。
「それは無責任な世間の戯言。
国王を真下で支えるのが評定衆。
管領に指図される覚えはないわ」
パティが苦笑いで言う。
「お父様から聞きました。
管領が評定衆にお触れを回すのは越権行為だそうです。
・・・。
つまり、それだけ管領様は追い詰められている」
「何に・・・。
そうか、風魔法や土魔法は瓦礫の除去。
王宮区画の除去は近衛軍の魔法使いだけでは足りない。
さりとて街中を受け持っている国軍は動かせない。
そこで評定衆が持つ魔法使いと言う訳か」
「評定衆限定ではなく、その影響下にある血縁貴族家も含めるそうよ」
「大掛かりですね。
もしかして、国王陛下の御一家に関わる事態ですか」
「たぶん・・・、地下に避難されてるとは思うけど・・・。
それ以外には考えられないわ」
国王ブルーノは家族と共に地下室に避難していた。
堅固な造りなので上の階が潰れ落ちても、何の影響も出ていない。
時間の経過から頃合いとみて、ブルーノは外に出ようと、
警護の近衛兵に命じた。
「そろそろ外の空気が吸いたい。
直ちに扉を開けよ」
警護の五人が扉に駆け寄った。
ところが外に繋がる扉は微動だにしない。
ガタともしない。
隊長が振り返った。
「瓦礫が邪魔しているみたいです」
「瓦礫か・・・、何とかならぬか」
侍従長が宥めた。
「外の者達を信じましょう。
必ず来てくれます」
王妃のベティが愛娘・イヴを抱いて歩み寄って来た。
「階下の貯蔵庫に非常食がありました。
これで当分は食い繋げます。
辛抱しましょう、この子の為にも」
ブルーノは全員を見回した。
妻と子で二人、侍従長を含む侍従が四人、侍女が三人に女官が二人、
そして近衛兵が五人。
みんなの命をブルーノが預かっていた。
迂闊な言動は慎まなければならない。
「分かった。
ところで、ここの空気穴はどこに繋がっているんだ」鼻をムフムフさせた。
近衛の隊長が答えた。
「地下水路です。
ちょっと臭いますが、ご辛抱下さい」
国都の下を地下水路が縦横無尽に走っていた。
地上が計画的に造られたのに対し、
地下水路は魔物の侵入を防ぐ工夫もあり、複雑怪奇になっていた。
地図なしでは点検にも修理にも入れない、そんな有様だった。
水路の端の通路を進む一団があった。
地図と魔道具の【携行灯】を先頭にして、
水路に落ちぬように慎重に進んでいた。
全員が武装していた。
まちまちの装備だが、良質の物ばかり。
とても個人で購える物ではない。
先頭の男が足を止めた。
「先で交差しています。
右でよろしいのですね」確認を怠らない。
真後ろの男が傍に寄り、地図と交差している地点を見比べた。
「地図を信用するなら、ここで右だな」
「万一はないですよね」
「俺達を騙して何とする。
奴等はそこまで馬鹿じゃない」
男は後ろを振り返った。
「獲物までもう少しだ」
「ボブとは最近どうなの」遠慮がないパティ。
ボブ三好。
三好侯爵家の分家筋の男子で、
僕だけでなく平民には辛辣な対応に終始していた。
「ポブ三好殿は僕と目も合わせてくれなくなりましたよ」
「あの子は昔からそうなのよね。
身分に拘り過ぎて、逆に自分を不自由にしているわね。
もっとも、貴男が相手の場合は嫉妬ね。
見下していた人物が自分より上になったものだから、
どうしていいのか、分からないのでしょう。
今さら、友達面もできないし」
「ええ、今さらですね。
僕しても、友達面されると怖いです」
後ろのアシュリー吉良の表情が険しくなってきた。
焦れている様子。
ついには口を出してきた。
「パティ様、そろそろ行きましょうか」
パティの顔が微妙に変化した。
僕とアシュリーを見比べる視線。
でも口にはしない。
言葉を飲み込み、どちらにともなく言う。
「難しいものね。
まあ、いいわ」アシュリーに頷き、僕に視線を戻し、
「ところでダンタルニャン佐藤子爵様、
貴方の御家来衆に魔法使いはいますか」意外な質問をくれた。
彼女が僕を子爵様呼ばわりする時は、何かある。
「いませんが、それが何か」
「王宮区画の惨状はご存知かしら」
「遠目にですが、瓦礫でかなり酷い状態に見えます。
でも王宮区画ですから、近衛軍の魔法使い達が対処するのでしょう」
「普通ならそうです。
・・・。
子爵様のお耳に入れて置きますね。
管領のボルビン佐々木様より評定衆にお触れが回りました。
風魔法や土魔法の使い手を揃えて王宮区画へ参るようにと」
管領職、ルビン佐々木公爵。
現国王が未成年時、その後見をしていたこともあり、絆は強い。
そんなボルビンが管領職として、
異例なお触れを出すからには只事ではない。
俺は尋ねた。
「管領職と評定衆ではどちらが上なんですか」
「古来よりは評定衆が上。
管領職が定席になったのは、つい最近ですから、
どう考えても管領職は下でしょう」
「世間では管領は国王の右腕と言われていますけど」
するとアシュリー吉良が割り込んできた。
「それは無責任な世間の戯言。
国王を真下で支えるのが評定衆。
管領に指図される覚えはないわ」
パティが苦笑いで言う。
「お父様から聞きました。
管領が評定衆にお触れを回すのは越権行為だそうです。
・・・。
つまり、それだけ管領様は追い詰められている」
「何に・・・。
そうか、風魔法や土魔法は瓦礫の除去。
王宮区画の除去は近衛軍の魔法使いだけでは足りない。
さりとて街中を受け持っている国軍は動かせない。
そこで評定衆が持つ魔法使いと言う訳か」
「評定衆限定ではなく、その影響下にある血縁貴族家も含めるそうよ」
「大掛かりですね。
もしかして、国王陛下の御一家に関わる事態ですか」
「たぶん・・・、地下に避難されてるとは思うけど・・・。
それ以外には考えられないわ」
国王ブルーノは家族と共に地下室に避難していた。
堅固な造りなので上の階が潰れ落ちても、何の影響も出ていない。
時間の経過から頃合いとみて、ブルーノは外に出ようと、
警護の近衛兵に命じた。
「そろそろ外の空気が吸いたい。
直ちに扉を開けよ」
警護の五人が扉に駆け寄った。
ところが外に繋がる扉は微動だにしない。
ガタともしない。
隊長が振り返った。
「瓦礫が邪魔しているみたいです」
「瓦礫か・・・、何とかならぬか」
侍従長が宥めた。
「外の者達を信じましょう。
必ず来てくれます」
王妃のベティが愛娘・イヴを抱いて歩み寄って来た。
「階下の貯蔵庫に非常食がありました。
これで当分は食い繋げます。
辛抱しましょう、この子の為にも」
ブルーノは全員を見回した。
妻と子で二人、侍従長を含む侍従が四人、侍女が三人に女官が二人、
そして近衛兵が五人。
みんなの命をブルーノが預かっていた。
迂闊な言動は慎まなければならない。
「分かった。
ところで、ここの空気穴はどこに繋がっているんだ」鼻をムフムフさせた。
近衛の隊長が答えた。
「地下水路です。
ちょっと臭いますが、ご辛抱下さい」
国都の下を地下水路が縦横無尽に走っていた。
地上が計画的に造られたのに対し、
地下水路は魔物の侵入を防ぐ工夫もあり、複雑怪奇になっていた。
地図なしでは点検にも修理にも入れない、そんな有様だった。
水路の端の通路を進む一団があった。
地図と魔道具の【携行灯】を先頭にして、
水路に落ちぬように慎重に進んでいた。
全員が武装していた。
まちまちの装備だが、良質の物ばかり。
とても個人で購える物ではない。
先頭の男が足を止めた。
「先で交差しています。
右でよろしいのですね」確認を怠らない。
真後ろの男が傍に寄り、地図と交差している地点を見比べた。
「地図を信用するなら、ここで右だな」
「万一はないですよね」
「俺達を騙して何とする。
奴等はそこまで馬鹿じゃない」
男は後ろを振り返った。
「獲物までもう少しだ」