馬車を警護していた騎士が一騎、こちらに向かって来た。
当然、口元は布で覆っていた。
嫌そうな目でパルスザウルスを見ながら、俺に声をかけた。
「そいつは死んでますよね」
「ええ、もう動きません。
通られても大丈夫ですよ」
ダッチョウに視線を飛ばした。
「あれはテイムされてるのですか」
テイム、従魔かと問われた。
「いいえ、違います。
あれは、とんでもない奴です。
このパルスザウルスから逃げて来て、
俺達のパーティに擦り付けをした奴です。
人だったら罰金ものです。
でも、お調子者のようで危害は加えないと思いますよ」
騎士は納得したように頷いた。
「そうですか、そうですか。
お若いのに、お見事ですな」
「いいえ、たまたま、技がはまっただけです」
「ご謙遜を。
ところでお仲間の方々は」
「途中ではぐれたんですが、そろそろ到着するんじゃないですかね」
話していたら皆が息せき切って現れた。
勿論、バックアップチームもいた。
近付くに従い、一人二人と口元を布切れで覆いだした。
最終的には全員が口元を覆った。
到着して俺とパルスザウルスを見比べた。
口元を覆っているので目の動きで判断するしかないが、
それぞれの表情が険しい。
心配と怒り、五分五分かな。
当然ながらカールが代表した。
「ダイタルニャン、いや、子爵様、勝手な事はしないで下さい」
ここは素直に謝るしかない。
「ゴメン」と言い、ダッチョウを指し示して、
「アレが思うように動いてくれなくて」罪を擦り付けた。
カールも皆もダッチョウに視線をくれた。
「まあ、アレは・・・」
当のダッチョウはパルスザウルスの死骸の上で、ポンポンヒラリヒラリ。
「グッチョ、グッチョ」と声を上げて、何やらダンスらしき怪しげな動き。
勝利を祝うダンス・・・、下手過ぎる。
センスの問題なのかも知れない。
俺は、ここぞとばかり、話題を変えた。
「この騎士の人達が、丁度、運悪く通りがかったんだ。
この臭いで迷惑をかけてしまった」
騎士が俺を驚きの目で見た。
「子爵様でしたか。
これはご無礼いたしました」
「気にしないで。
こんな恰好だから、分かる筈がないよ」
「でも子爵様自ら魔物討伐ですか」
「そんな御大層なもんじゃないよ。
木曽大樹海を見学して回ろうとしたら、
運悪く、こんな大物に遭遇したって訳だよ」
俺はパルスザウルスとダッチョウを振り向いた。
視線がダッチョウと合った。
するとダッチョウ、何を考えたのか、俺の方に小走りして来た。
攻撃する意思は感じ取れないが、それでも皆が俺の盾になり、
得意の武器を構えた。
意味するところが分かったのだろう。
ダッチョウが手前で足を止めた。
悲しそうな声で鳴く。
「グワッチョウ、グワッチョウ」
羽根をバタバタさせ、皆を見回した。
その様子に危険性はなしと判断したのか、獣人のイライザが前に出た。
片手を腰に当て、片手でダッチョウを指し示した。
「アンタねえ、迷惑なんだよ。
いくら怖いからと言って、見ず知らずの私達に魔物を擦り付ける」
「グウ~ル~、グールグール」首を左右に振った。
「あん、何言ってんの」
「グッ、グアッバー、グアッバー」羽根を小さく動かした。
「羽根をバタバタさせんじゃないわよ」
「グワッ、グーグルグーグル」胸を大きく張った。
一人と一羽が言い合いを始めた。
俺は疑問を感じた。
会話として成立してるのか。
人生経験が俺より長いカールに尋ねた。
「イライザは魔物と話させるのか」
「そんな特技はない筈です。
でも、まさかね、通じてるみたいだし、あるのかな」
「通じてる感じがするよな」
側の騎士が言う。
「お嬢さんは怒っているけど、ダッチョウは嬉しそうですね」
あっ、たしかな。
怒っているイライザに、構われて嬉しそうなダッチョウの図。
溜まり兼ねたのか、イライザが爆発した。
「ああーん、アンタ、何言ってのか分かんないのよ。
アンタ、今度見かけたらダッチョウじゃなくて、チョンボと呼ぶわよ」
途端、一人と一羽の間の空気が変化した。
それぞれの持つ魔力が交差した。
一人の魔力が一羽に受け入れられ、
お返しとばかりに、一羽の魔力が一人に受け入れられた。
当の一人と一羽が気付いているかどうかは知らない。
居合わせた者達にも見えたかどうかは知らない。
俺の場合は見えた。
それも鮮明に見えた。
油断して鑑定も探知もしていなかったにも関わらずにだ。
もしかして俺・・・。
脳内モニターに文字が走り、疑問に答えてくれた。
「探知と鑑定がスキルアップしました。
発動しなくて常時稼働します」
変化はダッチョウに現れた。
狂喜乱舞。
「グッチョー、グワッチョー、グワグワ」
その場でドタバタと激しく回転した。
羽根を全開にしてだから、危なっかしい。
触れると切れるかも知れない。
イライザも含めて全員が退いた。
「なにっ」
「なんで踊ってんだ」
「訳わからん」
全員が頭を捻った。
俺はイライザを鑑定した。
「名前、イライザ。
種別、獣人。
年齢、十四才。
性別、雌。
住所、足利国美濃地方木曽住人。
職業、佐藤子爵家の家臣。
ランク、D。
HP、95。
MP、75。
スキル、テイマー☆。
テイム、チョンボ」
やはりテイマーが生えていた。
俺はイライザに残念なお知らせをした。
「イライザ、そのダッチョウをテイムしたみたいだよ」
イライザは口を半開きにして俺を見返した。
「はあ、今なんて」
「ダッチョウをテイムしたんだよ、イライザが。
本当に心から、おめでとう」
「まさか・・・」
全員が俺を見た。
「本当に」
「テイマーか」
「だとしたら・・・」
皆がイライザとチョンボを見比べた。
イライザが抵抗した。
「冗談でしょう」
「正式には、帰ってから鑑定持ちに調べてもらおうか。
でも、目の前の現実もね」
チョンボが踊りを止めてイライザに歩み寄って来た。
「グワッチョー」嘴で優しくイライザを突いた。
当然、口元は布で覆っていた。
嫌そうな目でパルスザウルスを見ながら、俺に声をかけた。
「そいつは死んでますよね」
「ええ、もう動きません。
通られても大丈夫ですよ」
ダッチョウに視線を飛ばした。
「あれはテイムされてるのですか」
テイム、従魔かと問われた。
「いいえ、違います。
あれは、とんでもない奴です。
このパルスザウルスから逃げて来て、
俺達のパーティに擦り付けをした奴です。
人だったら罰金ものです。
でも、お調子者のようで危害は加えないと思いますよ」
騎士は納得したように頷いた。
「そうですか、そうですか。
お若いのに、お見事ですな」
「いいえ、たまたま、技がはまっただけです」
「ご謙遜を。
ところでお仲間の方々は」
「途中ではぐれたんですが、そろそろ到着するんじゃないですかね」
話していたら皆が息せき切って現れた。
勿論、バックアップチームもいた。
近付くに従い、一人二人と口元を布切れで覆いだした。
最終的には全員が口元を覆った。
到着して俺とパルスザウルスを見比べた。
口元を覆っているので目の動きで判断するしかないが、
それぞれの表情が険しい。
心配と怒り、五分五分かな。
当然ながらカールが代表した。
「ダイタルニャン、いや、子爵様、勝手な事はしないで下さい」
ここは素直に謝るしかない。
「ゴメン」と言い、ダッチョウを指し示して、
「アレが思うように動いてくれなくて」罪を擦り付けた。
カールも皆もダッチョウに視線をくれた。
「まあ、アレは・・・」
当のダッチョウはパルスザウルスの死骸の上で、ポンポンヒラリヒラリ。
「グッチョ、グッチョ」と声を上げて、何やらダンスらしき怪しげな動き。
勝利を祝うダンス・・・、下手過ぎる。
センスの問題なのかも知れない。
俺は、ここぞとばかり、話題を変えた。
「この騎士の人達が、丁度、運悪く通りがかったんだ。
この臭いで迷惑をかけてしまった」
騎士が俺を驚きの目で見た。
「子爵様でしたか。
これはご無礼いたしました」
「気にしないで。
こんな恰好だから、分かる筈がないよ」
「でも子爵様自ら魔物討伐ですか」
「そんな御大層なもんじゃないよ。
木曽大樹海を見学して回ろうとしたら、
運悪く、こんな大物に遭遇したって訳だよ」
俺はパルスザウルスとダッチョウを振り向いた。
視線がダッチョウと合った。
するとダッチョウ、何を考えたのか、俺の方に小走りして来た。
攻撃する意思は感じ取れないが、それでも皆が俺の盾になり、
得意の武器を構えた。
意味するところが分かったのだろう。
ダッチョウが手前で足を止めた。
悲しそうな声で鳴く。
「グワッチョウ、グワッチョウ」
羽根をバタバタさせ、皆を見回した。
その様子に危険性はなしと判断したのか、獣人のイライザが前に出た。
片手を腰に当て、片手でダッチョウを指し示した。
「アンタねえ、迷惑なんだよ。
いくら怖いからと言って、見ず知らずの私達に魔物を擦り付ける」
「グウ~ル~、グールグール」首を左右に振った。
「あん、何言ってんの」
「グッ、グアッバー、グアッバー」羽根を小さく動かした。
「羽根をバタバタさせんじゃないわよ」
「グワッ、グーグルグーグル」胸を大きく張った。
一人と一羽が言い合いを始めた。
俺は疑問を感じた。
会話として成立してるのか。
人生経験が俺より長いカールに尋ねた。
「イライザは魔物と話させるのか」
「そんな特技はない筈です。
でも、まさかね、通じてるみたいだし、あるのかな」
「通じてる感じがするよな」
側の騎士が言う。
「お嬢さんは怒っているけど、ダッチョウは嬉しそうですね」
あっ、たしかな。
怒っているイライザに、構われて嬉しそうなダッチョウの図。
溜まり兼ねたのか、イライザが爆発した。
「ああーん、アンタ、何言ってのか分かんないのよ。
アンタ、今度見かけたらダッチョウじゃなくて、チョンボと呼ぶわよ」
途端、一人と一羽の間の空気が変化した。
それぞれの持つ魔力が交差した。
一人の魔力が一羽に受け入れられ、
お返しとばかりに、一羽の魔力が一人に受け入れられた。
当の一人と一羽が気付いているかどうかは知らない。
居合わせた者達にも見えたかどうかは知らない。
俺の場合は見えた。
それも鮮明に見えた。
油断して鑑定も探知もしていなかったにも関わらずにだ。
もしかして俺・・・。
脳内モニターに文字が走り、疑問に答えてくれた。
「探知と鑑定がスキルアップしました。
発動しなくて常時稼働します」
変化はダッチョウに現れた。
狂喜乱舞。
「グッチョー、グワッチョー、グワグワ」
その場でドタバタと激しく回転した。
羽根を全開にしてだから、危なっかしい。
触れると切れるかも知れない。
イライザも含めて全員が退いた。
「なにっ」
「なんで踊ってんだ」
「訳わからん」
全員が頭を捻った。
俺はイライザを鑑定した。
「名前、イライザ。
種別、獣人。
年齢、十四才。
性別、雌。
住所、足利国美濃地方木曽住人。
職業、佐藤子爵家の家臣。
ランク、D。
HP、95。
MP、75。
スキル、テイマー☆。
テイム、チョンボ」
やはりテイマーが生えていた。
俺はイライザに残念なお知らせをした。
「イライザ、そのダッチョウをテイムしたみたいだよ」
イライザは口を半開きにして俺を見返した。
「はあ、今なんて」
「ダッチョウをテイムしたんだよ、イライザが。
本当に心から、おめでとう」
「まさか・・・」
全員が俺を見た。
「本当に」
「テイマーか」
「だとしたら・・・」
皆がイライザとチョンボを見比べた。
イライザが抵抗した。
「冗談でしょう」
「正式には、帰ってから鑑定持ちに調べてもらおうか。
でも、目の前の現実もね」
チョンボが踊りを止めてイライザに歩み寄って来た。
「グワッチョー」嘴で優しくイライザを突いた。