金色銀色茜色

生煮えの文章でゴメンナサイ。

(注)文字サイズ変更が左下にあります。

昨日今日明日あさって。(大乱)224

2021-06-27 07:12:40 | Weblog
 馬車を警護していた騎士が一騎、こちらに向かって来た。
当然、口元は布で覆っていた。
嫌そうな目でパルスザウルスを見ながら、俺に声をかけた。
「そいつは死んでますよね」
「ええ、もう動きません。
通られても大丈夫ですよ」
 ダッチョウに視線を飛ばした。
「あれはテイムされてるのですか」
 テイム、従魔かと問われた。
「いいえ、違います。
あれは、とんでもない奴です。
このパルスザウルスから逃げて来て、
俺達のパーティに擦り付けをした奴です。
人だったら罰金ものです。
でも、お調子者のようで危害は加えないと思いますよ」
 騎士は納得したように頷いた。
「そうですか、そうですか。
お若いのに、お見事ですな」
「いいえ、たまたま、技がはまっただけです」
「ご謙遜を。
ところでお仲間の方々は」
「途中ではぐれたんですが、そろそろ到着するんじゃないですかね」

 話していたら皆が息せき切って現れた。
勿論、バックアップチームもいた。
近付くに従い、一人二人と口元を布切れで覆いだした。
最終的には全員が口元を覆った。
 到着して俺とパルスザウルスを見比べた。
口元を覆っているので目の動きで判断するしかないが、
それぞれの表情が険しい。
心配と怒り、五分五分かな。
当然ながらカールが代表した。
「ダイタルニャン、いや、子爵様、勝手な事はしないで下さい」
 ここは素直に謝るしかない。
「ゴメン」と言い、ダッチョウを指し示して、
「アレが思うように動いてくれなくて」罪を擦り付けた。
 カールも皆もダッチョウに視線をくれた。
「まあ、アレは・・・」
 当のダッチョウはパルスザウルスの死骸の上で、ポンポンヒラリヒラリ。
「グッチョ、グッチョ」と声を上げて、何やらダンスらしき怪しげな動き。
勝利を祝うダンス・・・、下手過ぎる。
センスの問題なのかも知れない。
俺は、ここぞとばかり、話題を変えた。
「この騎士の人達が、丁度、運悪く通りがかったんだ。
この臭いで迷惑をかけてしまった」

 騎士が俺を驚きの目で見た。
「子爵様でしたか。
これはご無礼いたしました」
「気にしないで。
こんな恰好だから、分かる筈がないよ」
「でも子爵様自ら魔物討伐ですか」
「そんな御大層なもんじゃないよ。
木曽大樹海を見学して回ろうとしたら、
運悪く、こんな大物に遭遇したって訳だよ」

 俺はパルスザウルスとダッチョウを振り向いた。
視線がダッチョウと合った。
するとダッチョウ、何を考えたのか、俺の方に小走りして来た。
攻撃する意思は感じ取れないが、それでも皆が俺の盾になり、
得意の武器を構えた。 
 意味するところが分かったのだろう。
ダッチョウが手前で足を止めた。
悲しそうな声で鳴く。
「グワッチョウ、グワッチョウ」
 羽根をバタバタさせ、皆を見回した。
その様子に危険性はなしと判断したのか、獣人のイライザが前に出た。
片手を腰に当て、片手でダッチョウを指し示した。
「アンタねえ、迷惑なんだよ。
いくら怖いからと言って、見ず知らずの私達に魔物を擦り付ける」
「グウ~ル~、グールグール」首を左右に振った。
「あん、何言ってんの」
「グッ、グアッバー、グアッバー」羽根を小さく動かした。
「羽根をバタバタさせんじゃないわよ」
「グワッ、グーグルグーグル」胸を大きく張った。

 一人と一羽が言い合いを始めた。
俺は疑問を感じた。
会話として成立してるのか。
人生経験が俺より長いカールに尋ねた。
「イライザは魔物と話させるのか」
「そんな特技はない筈です。
でも、まさかね、通じてるみたいだし、あるのかな」
「通じてる感じがするよな」
 側の騎士が言う。
「お嬢さんは怒っているけど、ダッチョウは嬉しそうですね」
 あっ、たしかな。
怒っているイライザに、構われて嬉しそうなダッチョウの図。

 溜まり兼ねたのか、イライザが爆発した。
「ああーん、アンタ、何言ってのか分かんないのよ。
アンタ、今度見かけたらダッチョウじゃなくて、チョンボと呼ぶわよ」
 途端、一人と一羽の間の空気が変化した。
それぞれの持つ魔力が交差した。
一人の魔力が一羽に受け入れられ、
お返しとばかりに、一羽の魔力が一人に受け入れられた。
当の一人と一羽が気付いているかどうかは知らない。
居合わせた者達にも見えたかどうかは知らない。
俺の場合は見えた。
それも鮮明に見えた。
油断して鑑定も探知もしていなかったにも関わらずにだ。
もしかして俺・・・。
脳内モニターに文字が走り、疑問に答えてくれた。
「探知と鑑定がスキルアップしました。
発動しなくて常時稼働します」

 変化はダッチョウに現れた。
狂喜乱舞。
「グッチョー、グワッチョー、グワグワ」
 その場でドタバタと激しく回転した。
羽根を全開にしてだから、危なっかしい。
触れると切れるかも知れない。
 イライザも含めて全員が退いた。
「なにっ」
「なんで踊ってんだ」
「訳わからん」
 全員が頭を捻った。

 俺はイライザを鑑定した。
「名前、イライザ。
種別、獣人。
年齢、十四才。
性別、雌。
住所、足利国美濃地方木曽住人。
職業、佐藤子爵家の家臣。
ランク、D。
HP、95。
MP、75。
スキル、テイマー☆。
テイム、チョンボ」

 やはりテイマーが生えていた。
俺はイライザに残念なお知らせをした。
「イライザ、そのダッチョウをテイムしたみたいだよ」
 イライザは口を半開きにして俺を見返した。
「はあ、今なんて」
「ダッチョウをテイムしたんだよ、イライザが。
本当に心から、おめでとう」
「まさか・・・」
 全員が俺を見た。
「本当に」
「テイマーか」
「だとしたら・・・」
 皆がイライザとチョンボを見比べた。
イライザが抵抗した。
「冗談でしょう」
「正式には、帰ってから鑑定持ちに調べてもらおうか。
でも、目の前の現実もね」

 チョンボが踊りを止めてイライザに歩み寄って来た。
「グワッチョー」嘴で優しくイライザを突いた。
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昨日今日明日あさって。(大乱)223

2021-06-20 06:59:03 | Weblog
 奴が口を開けないのならM字型の複合弓の出番はない。
この弓矢では厚い皮には通じない。
【ツインの複合弓】と取り替える暇もない。
俺は意を決した。
弓を肩掛けバッグ経由で虚空に収納し、そして一か八か。
身体強化のまま、強引にダッチョウに飛び乗った。
 慌てて振り落そうとするダッチョウ。
そんなことは許さない俺。
必死の攻防。
長く太い首にしがみ付いた俺の勝ち。
「グワッチョー」

 乗ったはいいが、タクシーじゃない。
行き先を告げても、行くとは限らないし、安全も保障されていない。
かと言って、今さら降りられない。
そこでものは試し。
ダッチョウは乗り物、ダッチョウは乗り物、ダッチョウは乗り物、
背中はコクピット、背中はコクピット、背中はコクピット、
首は操縦桿、首は操縦桿、首は操縦桿、そう念じて、念じた。
ダッチョウの温かさが感じられ取れた。
どうやら、通じたのか・・・。
 首を右へ倒して念じた、右に曲がれ、右に曲がれ。
ダッチョウも右へ曲がった。
首を少し前に倒して念じた、速度を上げろ、速度を上げろ。
ダッチョウの速度が上がった。
嫌がる気配もちょっとはするが、まあ、いいか。
強引に操縦した。
俺はカールに片手を振って余裕を見せた。
 ダッチョウを街道へ戻し、大樹海に逃げ込む。
パルスザウルスが執拗に追って来た。
まだ怒りが収まらない様子。
本当に何をしたんだ、ダッチョウ~っ。
 
 速度はダッチョウが上。
パルスザウルスとの距離を広げて行く。
少し走らせると前方に人間の塊を見つけた。
馬車と警護の騎馬数騎。
先頭の騎兵が慌てて、一行の足を止めた。
その気持ちは分かる。
 これでは彼等を巻き込んでしまう。
俺はダッチョウの首を後ろに思い切り引いた。
止まれ、止まれ。
止まった。
俺は飛び降りてパルスザウルスを振り返った。
間に合う距離。
 俺はここでも人目を気にした。
肩掛けバッグ経由で虚空から【ツインの複合弓】を取り出した。
世界樹で造られた魔法杖を土台にした逸品だ。
魔法杖には魔水晶が付いていたが、この際と、魔卵も付け加えた。
付与した術式は魔水晶には速さの光魔法。
魔卵には力技の重力魔法。
周辺の魔素を取り込み、魔力に変換する機能も併せた。
弦は蜘蛛の糸と蓑虫の糸を練り合わせた物。
矢は鉄矢。

 轟音を響かせて奴が迫って来た。
力技で俺達を弾き飛ばす気が満々ムンムン。
怖い、怖い、怖いよ~、鼻息がかかりそう。
 鉄矢は三本。
狙いは奴の両目。
外皮が厚くても、そこは柔らかいだろう。
異世界の生物学的には、どうかは知らんけど、
一般常識としては柔らかい筈だ。
 集中。
ロックオン、ホーミング。
射た、
右目に一射。
左目に一射。
三本目は番えたまま、待機。

 有り得ぬ速さで飛び、有り得ぬ力で突き刺さった。
一射目が右目に。
二射目が左目に、深々と突き刺さった。
奴が悲鳴らしき叫声を上げ、前のめりに倒れ転がった。
 俺は【ツインの複合弓】と余った矢を収納し、
替えて虚空の肥しにになっていた逸品を取り出した。
ダマスカス鋼にオリハルコンとミスリルを併せた合金の槍。
ダンジョンスライムが宝箱用に作り置いた奴だ。
 身体強化を最大にした。
それでもって駆けた。
パルスザウルスは七転八倒。
街道脇の樹木をも押し倒し、激しく藻掻き苦しみ、悲鳴を上げていた。
 原因はダッチョウなんだろうけど、ごめんよ。
直ぐに苦しみから開放して上げるよ。
鑑定で奴の急所を探した。
見つけた。
まず顎の下の窪み。
続けて背骨の一角。
手応え十分。
双方が壊れるのが分かった。
 奴が断末魔・・・と言うのだろうか。
嫌な悲鳴を上げて全身を身震いさせた。
鮮血が飛び、尿が飛び散り、糞が・・・。
最後の抵抗とばかりに四肢と尾を激しく動かす。
そして、止む。
スイッチが切れたかのよう。
 身動き一つしない。
鑑定でも死亡と確認した。
が、近付きたくない。
糞尿の臭いが、きつい。
涙が出そう。

 俺は槍を収納し、長い布を取り出した。
鼻と口を覆った。
目は・・・、無理。
それでも少しは楽になった。
 と、ダッチョウの奴、
平気でパルスザウルスの側に、トットットと早足で寄って行く。
糞尿の影響を受けぬ体質なのだろうか。
側に寄ると、まず嘴で尾を突っついた。
抵抗しないと見るや、次に足を、腹を、胸を、そして最後に顔。
顔に片足を乗せ、羽根を大きく広げ、甲高く鳴いた。
「グッチョー、グッチョー」

 呆れた奴だ。
逃げ回っていた時とは態度が違う。
臆病の塊だったような奴に、ここまで態度を一変されるとは・・・。
すまん、パルスザウルスよ。
 俺は記憶をまさぐった。
パルスザウルスの怒号。
たしか、あれは・・・、難しい重低音。
臭いし、目に滲みるが、パルスザウルスの為に口元の布を取り外した。
怒号を思いっきり真似てみた。
「ブッフォーーーン」喉が痛い。

 途端、ダッチョウがこけた。
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昨日今日明日あさって。(大乱)222

2021-06-13 06:41:29 | Weblog
 ダッチョウは俺達とバックアップチームの存在に気付いた。
慌てて足の回転を止めた。
コテンとこけた。
制動力が上滑りしたかのような、こけ方。
無様過ぎた。
「グッチョー」
 二転三転。
不格好ながら立ち上がると、両の羽根をパサパサ、埃を払った。
何事もなかったかのような顔で俺達とバックアップチームを見た。
理由は分からないが、どうやら見比べているらしい。
そして結論を出したのか、俺達の方へ回って来た。
 殺意は微塵も感じられない。
無自覚に、俺達の後ろに回り込んで、隠れるように足を折り曲げた。

 俺はダッチョウに気を取られていたが、大事な事を見落としていた。
何故、こいつが逃げて来たのか。
慌てて大樹海を探知した。
見つけた。

 鑑定した。
パルスザウルス。
陸竜の種から枝分かれした魔物。
通常は四つ足で移動する。
武器は脚力と牙、尾。
皮が厚い。
成長すると体長は5メートル。
土魔法、アースボールが得意。

 面倒臭い奴に目を付けられたものだ。
何をしたか知らないが、それから逃げて来て、
よりにもよって俺達にそいつを擦り付けるとは・・・。
この糞ダッチョウ、やってくれたな。

 対策を練るより早く、奴が姿を現した。
大樹海から駆け出て来ると、全体を見回した。
直ぐにダッチョウを見つけた。
視線を固定した。
熱いには熱いのだろうが、相当な怒り込みの視線だと思う。
 どんな怒らせ方をすれば、こうも鋭く睨まれるのか想像が付かない。
怒らせ上手な糞ダッチョウ君、余所へ行ってくれないかな。
あっ、キョロキョロするばかり。
次の逃げ方でも考えているのか。
俺達を囮にして、どうやって逃げようかと・・・。

 パルスザウルスは俺達をダッチョウの同類と看做している気配。
ブレス態勢、大きく口を開けた。
俺は皆に指示した。
「ブレスの射線から逃げろ」
 土玉・アースボールが散弾のように複数、放たれた。
それでも間に合った。
間一髪で避けられた。

 パルスザウルスの視線が俺達を追って来た。
変だと思った俺は後ろを振り向いた。
ダッチョウも付いて来ていた。
この野郎っ。
 ここまで図々しい魔物は初めてだ。
他の皆も気付いた。
互いに視線で遣り取りした。
ばらける、決定。

 各自、思い思いの方向へ逃げた。
最終的な合流先はバックアップチーム。
言葉はなくとも意思疎通に怠りなし。
 とっ、嫌な気配。
パルスザウルスの視線が俺の方へ。
もしかして・・・。
逃げながら振り返るとダッチョウが俺に付いて来ていた。
あっ、ダッチョウにもてる俺・・・。
身体強化して振り切ろうとした、が、駄目だった。
執拗に付いて来る。

 人間、諦めが肝心。
俺は足を止めた。
M字型の複合弓を構えた。
奴のブレスに合わせて開けた口の中に三連射だ。
そう考えていたが、奴は違った。
まっしぐらに突っ込んで来た。
俺ごとダッチョウを弾き飛ばすつもりらしい。
激しい地響き。
トラックに換算すると・・・。
答えが出る前に奴が最接近した。
 俺は身体強化したまま、左に飛び退った。
風の動きでダッチョウも俺を真似たのが分かった。
これだと奴の第二撃が・・・。
考えろ考えろ、俺。
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昨日今日明日あさって。(大乱)221

2021-06-06 16:18:14 | Weblog
 俺は足を止めてイライザを見た。
彼女も同時に足を止めた。
俺を一瞥して平然と言う。
「囲まれたようですね」周囲に目を配る。
 流石は獣人の勘働き。
私もイライザも動き回れる事を優先した革の防具。
主武器は共にM字型の複合弓。
剣帯には短剣と矢筒。
素早く矢を抜き取り応戦態勢。
 残った四人が距離を詰めて来た。
カールが俺に問う。
「囲まれたのですか」
「問題ない。
正面からヘルハウンド三頭。
右からパイア五匹。
左からモモンキー二匹。
バックアップチームには手出し無用の合図を出してくれ」

 イライザが複合弓で三連射。
ヘルハウンドがブレスフレイムの距離に入る前に三頭に命中させた。
けど、それで三頭に致命傷を与えた訳ではない。
来る速度を落としただけ。
 俺も遅れて複合弓で三連射。
同じくヘルハウンドに命中させた。
二本も喰らうと魔物でも深手。
三頭の動きが目に見えて落ちた。
 イライザが仕留めにかかった。
三頭の動きを見ながら、右目を、喉を、耳を、確実に射貫いた。
俺は手出しせず、それを見せてもらった。
こんな感じでカールも射貫いたのだろう。
怖いわ。

 カールはコリンとスチュワートを従えて右のパイア五匹に向かった。
三人は軍の防具を身に纏い、左手に丸い盾、右手に長剣。
それでもってパイアの相手をした。
 カールは手慣れているので即座に二匹を斬り捨てた。
コリンとスチュワートは慣れていない。
四苦八苦。
事前の注意が利いているのか、盾を使っての防御主体なので、
怪我だけは避けられた。
そこへカールが加勢した。
また槍でモモンキー二匹を屠ったアドルフも加わった。

 かなり離れた地点からバックアップチームが見守っていた。
俺もイライザと一緒になって見守った。
皆が見守る中でコリンとスチュワートが奮闘した。
カールとアドルフは加勢はするが、仕留めない。
的確な指示を飛ばして年若い二人を走らせた。
 ようようの事で終わらせると二人はぐったりした。
崩れ落ちるように腰を下ろし、汗を拭った。
呼吸が荒い。
「終わった」コリン。
「怪我してないか」スチュワート。
 二人は顔を見合わせて苦笑い。

 俺は二人に告げた。
「魔卵や売れる部位を切り取らないと終わらないよ」
 俺とイライザはヘルハウンドに足を向けた。
アドルフはモモンキーに向かった。
コリンとスチュワートはカールに呼ばれた。
「おい、早くしないと生き返るぞ」
 そんな事はないが、カールはナイフを手にした。
呼ばれた二人は急いで長剣の血糊を拭い取った。
「今行きます」

 と、先の大樹海から悲鳴がした。
「グッキャー、グッチャー」妙な悲鳴もあったもんだ。
 一頭が駆けて来た。
二本足を目にも止まらぬ速さで回転させていた。
長く太く伸びた首、
鈍そうな嘴。
両側に羽根があった。
高さ2メートルほどの鳥が逃げ出て来た。
大樹海を抜け出たと言うのに、飛んで逃げる様子を見せない。

 鑑定した。
ダッチョウ。
鳥の種から枝分かれした魔物。
武器は蹴り足、鈍器のよえな嘴。
大きくなれば高さ2メートルにまで育つ。
風魔法が使えるようになれば空を飛べる。

 育ち切ったダッチョウが何故か悲鳴を上げて逃げて来た。
何に追われているのだろう。
俺達は解体を中止して一ヵ所に集まった、
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昨日今日明日あさって。(大乱)220

2021-06-04 17:48:19 | Weblog
 思っていた以上に屋敷は広かった。
カールが笑って言う。
「子爵様ですから夫人三名、子供十名を想定しています」
 どんな基準だっ。 
でも相変わらずで嬉しい。
「僕の前にカールだよね」
 するとカールは微妙な顔をした。
そこで俺はカールの補佐のイライザを見た。
得意満面の女の顔で見返された。
どうやらイライザが強引に押し倒したのか。
たぶん、押し倒したな。
それ以上は突っ込まないことにした。
「僕の予定は」
 代官だから組んでいる筈だ。
詳しく説明された。
子爵様の初のお国入りと言うことで、五日間拘束された。
領内全域の案内と、主要な領民や業者との面談、近隣の貴族様訪問、
そして最大のものは俺主催の披露パーティ。
もう一つ、領都の名付け。

 俺が疲労している間に我が眷属は遊びを満喫していた。
『ねえダン、ここから見える月は綺麗ね。
宝石のように青く輝いているわ』
『プー、青い青い』
『それは良かった、喜んでくれて』
『それはそうと、この領地の魔物、国都とは少し毛色が違うわね』
『ペー、面白いよ』
『強いと言うことかい』
 木曽大樹海の最大の特徴はヘルハウンドだ。
何故か湧くように増える。
増え過ぎると大樹海から出て大移動を開始する。
それが半年ほど前に起きて木曽一帯を地獄に落とし、
勢いに任せて美濃地方の領都へ押し寄せた。
その大騒動を知らぬ者はいないだろう。
『強さとはちょっ違うわね。
個性的かな、そう個性よね。
手足の長さや太さ、牙、それらが違うのよね』
『ポー、飛べない鳥いる』
『飛べなくても鳥と言うのかい』
『あれは立派な羽根があったわ。
でもポーンと跳び上がるけど、それだけ。
風に乗れないみたい』
『パー、飛べない』
鶏の仲間かな。

 拘束の五日間が過ぎた。
領都の名前は、『ブルンムーン』と名付けた。
さっそく大樹海だ。
兵士に守られて行くのじゃなく、冒険者パーティ風を望んだ。
皆が苦言を呈して反対したが、カールが俺の味方をしてくれた。
「私は小さな頃から子爵様を見守って来た。
今も小さいけど。
・・・。
こんな子供にしか見えないが、本気になれば私より強い。
それは実家のお父様もご存知だ。
だから冒険者になる事を了承された。
ここは一つ、私を信じてくれないか」

 俺達は皆に心配そうに見送られた。
気持ちは分かるが、信用ないな。
前衛は俺とイライザ。
中衛にコリンとスチュワート。
後衛にカールと中隊長・アドルフ。 
中衛以外は計算が立てられる面子だ。
これで十分じゃないか。
 それでも心配と言う皆に配慮して、バックアップチームが組まれた。
当家の二個中隊から選抜した六名が護衛についた。
こちらが救助を望むまで手を出さないと言う条件で受け入れた。

 木曽大樹海まで迷う者はいない。
中仙道を東に進むだけ。
中仙道が大樹海の中を切り開いたものか、
逆に大樹海が中仙道を覆ったのか、
その真相は今もって判明していない。
たぶんだが、昔からの獣道を広げただけと言う説が正しい気もするが、
それは領主としては黙っておこう。
大切なのはロマンなのだ。
もっと色々な何故や、謎を提供するのが領主の仕事だと思う。
 
 俺は手前から探知を起動した。
大樹海の外にも魔物はいた。
丈の高い草地の中とか、藪の陰から俺達を見ていた。
見ているだけで、むやみやたらに襲って来ない。
もしやと思い、鑑定してみた。
連中は鑑定も探知も持っていない。
だとすると、野生の勘だけで行動している事になる。
 国都郊外の魔物は遭遇するや襲って来た。
それに比べて、ここの魔物は慎重、いや、計算高いのか。
それが連携にまで及ぶとしたら要注意だな。
 ヘルハウンドが三頭。
バイアが五匹。
モモンキーが二匹。
それぞれの居場所は違うが、ジワジワ寄せて来る。
互いに反目する間柄だが、人間相手だと共闘するのか。
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