金色銀色茜色

生煮えの文章でゴメンナサイ。

(注)文字サイズ変更が左下にあります。

白銀の翼(バンパイア)42

2011-05-31 22:20:09 | Weblog
 篠沢と森永の会話を無視して田原が『風神の剣』を木箱に仕舞い、
持ち帰るべく小脇に抱えた。
説明せずとも小箱が置かれた理由を知っているらしい。
『風神の剣』といい木箱といい、篠沢の方が後手に回ってしまった。
慌てて田原を止めた。
「まだ返却するとは申していません」
 田原は小憎らしいくらいに動じない。
「そうですか。それは、それは」
 それでも小脇から離さない。
ここが警察署内である事を忘れているような振る舞いだ。
だからとはいえ、腕尽くで取り戻せば騒ぎになる。
手立てを思いつかないので、森永に助けを求める視線を送った。
 森永が呆れ顔で篠沢を見返した。
「無駄な抵抗はせずに引き渡してください」
 篠沢は田原と森永を見比べた。
二人はどこから来る自信なのか、幾人もの刑事が居合わせているにも関わらず、
堂々たる態度であった。
要求が拒否されるとは微塵も考えていないのだろう。
 いつ入って来たのか徳岡管理官が口を差し挟んだ。
「篠沢警部、宜しいか」
 上司の言葉を断れるわけがない。
「どうぞ」
「持ち帰って頂きましょう」
 その一言は命令だった。
承伏し難いが、ここで管理官の顔は潰せない。
不満を飲み込んで首肯した。
 篠沢は引き渡しの手続きを部下に任せ、加藤と池辺の二人を連れ、
部屋の外に出た。
 池辺が言い訳のように口を開いた。
「あの田原という男、剣道界には名前がありません」
「しかし、雰囲気は手練れだ」
「確実に手練れでしょう。
おそらくは古流の剣術ではないでしょうか。
彼等は竹刀を重視していないので、剣道界の表には出て来ません」
「古流、・・・。古流の剣術は竹刀を使わないのか」
「竹刀は稽古で使いますが、竹刀での試合はしないのです」
「しない、洒落か」
 池辺が生真面目な顔で応じた。
「いいえ。
防具をつけて竹刀で試合をすると、緊張感がなくなり、悪い癖がつくと言って、
古流では木刀での組太刀を重視しているのです。
だから学生剣道や社会人剣道とは疎遠です」
 篠沢は思わず溜息をついた。
「平成の世に、未だ表街道を歩かない者達がいたとは」
 加藤が問う。
「その手の道場は多いのか」
「少ないですね。探すとすれば昔の藩の藩庁所在地、
後は江戸、大坂、京都といったところでしょうか」
「ある程度は絞り込みたい」
 池辺が一呼吸置いて答えた。
「大分の土地絡みで、元は京都のお公家さんがいましたね」
「そうか、京都か。奈良に並ぶ坊主の産地でもあるしな」
 篠沢は首を傾げた。
「そう言えば、お公家さんの子孫は何の役割なんだ。
土地を所有しているだけで、何にも関わっていないと言っているが、
それを単純に信じて良いのか」
「電話で済ませないで、実際に会う必要がありますね。
それに、警察庁に圧力をかけた人間が誰かを知る必要もあるし」
 三人で捜査の進め方を話していると、
捜査本部の部屋から田原と森永の二人が出て来た。
田原が小脇に木箱を抱えているところから、引き渡しの手続きを終えたらしい。
二人は篠沢に会釈して、通り過ぎようとした。
 それを加藤が呼び止めた。
第一の被害者が殺された日のアリバイを、低姿勢で問う。
田原が戸惑っていると、続けて第二の被害者が殺された日付、
さらには野上家の事件の日付。
立て続けに都合三日のアリバイを問う。
 田原の戸惑っている表情は嘘くさい。
「そう聞かれても、・・・困りましたね」
 警察にアリバイを聞かれた普通の人間は、必死でアリバイを主張するか、
顔を強張らせて怒るか、あるいは逃げ出すか、大抵は分かり易い反応をした。
ところが田原は違った。
困ったポーズを取るだけで、ソワソワともしない。
まるで加藤の質問を楽しんでいるかのよう。
 傍の森永が田原を庇うように前に出た。
「どうやら事件当日のアリバイですね。
証明は警察の仕事でしょう。
当日事件現場に田原が居たと証明しなさい。話しはそれからです」
 加藤は相手が弁護士でも、めげない。
「我々の手間を省いてください。
アリバイを我々が確認すれば、それで一件終了です」
「いいでしょう」と田原が森永の肩をポンポン叩いて、交替した。
「私は半年前に森永さんから、住職内定の連絡をいただきました。
それからは京都郊外の一軒家を借りて、そこを基地に峰入りです。
峰入り、分かりますか。
山伏のように山々の峰を踏破する回峰修行です。
短くて一週間、長くて二週間、郊外の山々を山伏のように巡るのです。
疲れては下山し、回復すれば峰入りの繰り返し。
それを先週まで続けていました。
ですから、自慢じゃないけどアリバイを証明してくれる人間は一人もいません」
 平然としている田原。
警察に疑われる事を恐れていないようだ。
「仕様がない、そこを手配したのは私なので、住所をメモしましょう」と森永。
内ポケットから手帳を取りだしながら続けた。
「隣近所とは離れているので、誰も何の証明も出てこないと思いますよ」




朝、目覚めると招かざる客が居ました。
蜘蛛です。
部屋の片隅で網を張っているのです。
おそらく昨日の風雨を避けるため、部屋に入ってきたのでしょう。
でも、この部屋に網を張っても、獲物なんて居ません。
このままでは飢え死には必至。
さて、どうしますかね。




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白銀の翼(バンパイア)41

2011-05-29 10:13:27 | Weblog
 捜査は難航していた。
当初は怨恨とみて、第一の被害者、第二の被害者の身辺を洗わせた。
仕事上の、あるいは私生活の利害関係・・・。
それとも二人に共通する何らかの絡み。
 洗うと二人に怨みを持つ者数人が浮上した。
しかし、だからと言って首を刈りそうな者までは見つからなかった。
 流れが変わったのは大分に捜査員を派遣してから。
過去に、試し斬りされたと思われる犬二匹の存在が報告されたのだ。
そこで、現地に捜査員を派遣した。
その検証をさせる過程で新たな事が分かった。
近くの寺から物が盗まれ、取り戻そうとした住職が行方不明になっていた。
 そして野上家の一件が発生。
小野田老人が第三の被害者になる筈だったと知れ、事件の全容が分かった。
寺から盗まれた『風神の剣』と、
行方不明になった住職に関わった者達だけが命を狙われていた。
 篠沢警部は、
「牟礼寺の報復以外にない」と判断し、関係者を調べようとした。
ところが牟礼寺の正体が不明であった。
戦後のドサクサに占領軍の後押しで起ち上げられた宗教法人だそうだが、
地元警察によると、「活動している様子が見受けられない」とか。
当時の法人に名を連ねた者達は全員が故人となっており、
今や、まったく宗教組織としての体を成していない状況。
 判明しているのは、真言系「両子山派牟礼寺」と名乗っている事くらい。
なにしろ管理する墓地もなければ、檀家も持たない。
おまけに寺の住職は事件に巻き込まれて行方不明ときた。
なので詳細を知る人間がいなかった。
 土地の所有者が北海道の酪農家、毬谷家と判明しているので、
電話で事情を聞くと、「占領軍の依頼を守っているだけ」との返事。
賃貸しではなく、無料で提供しているのだそうだ。
詳しい事情を知りたかったのだが、
「当時を知る人間は全員故人となりました。私は遺言に従っているだけです」
との返事。何も得ることができなかった。
 そこにこの二人の来訪。
警察庁からの口利きでは無下に断るわけにもいかず、
「とりあえず会おう」という事にした。
『風神の剣』は原因となった刀だが、
盗まれただけで犯行に使われた訳ではない。
それでも圧力とあれば、すんなりと返却する訳にはいかない。
現場の主体性というものがあるからだ。
今日のところは、「適当にあしらおう」と考えていた。
 目論見は田原龍一を見た瞬間に崩れた。
「この男を直ぐに帰してはならない」と判断した。
時間を稼いでその人物を観察せねばならない。
そこで篠沢警部は念の為にと用意させて置いた白鞘の日本刀三振りを、
部下に持って来させた。
 意を汲んで動いたのは加藤と池辺のコンビ。
二人は溜まった報告書類があり、書き上げの為に本部に残っていたのだ。
 長テーブルの上に白鞘三振りと、ついでに例の木箱も並べると、
何の指示も出さないが、加藤と池辺の二人は篠沢の背後に控えた。
田原に何か感じるところがあったのだろう。
 白鞘二振りの柄にラベルが貼られていた。
「ニュースでご存じのように、
事情を知る小野寺さんが口を利けない状況なので、
私共にはどれが『風神の剣』なのかは分かりません。
ですので事件現場に置かれていた日本刀を、この状態で預かっております。
茎の部分に銘がある物は、その名を柄のラベルに記しておきました」と篠沢。
 実際は倒れる前の小野寺から、どれが『風神の剣』なのかは聞いていたが、
こういう不本意な状況での返却要求なので聞いていない事にした。
「どうする」と言う視線を田原と森永に向けた。
 森永が困ったような表情で田原を見るが、田原は平然としていた。
目に感情がない。
 その田原が無表情でテーブルに歩み寄り、ラベルのない白鞘を掴み上げた。
手慣れた動作で白刃を抜き、鞘をテーブルに戻した。
まず刃紋を見定めた。
そして両手で刀を構え、ゆっくり上段から二度、三度と振り下ろした。
続けて左右に振る。
刀身のバランスを見ているのだろう。
彼の剣道歴は知らないが、様になっていた。
 篠沢は池辺に目で問う。
「遣い手なのか」と。
 池辺は大きく頷いた。
 田原は満足したのか、刀を鞘に戻した。
他の二本には触れもせずに断言した。
「これですね」
「間違いないのですか」
「無銘で、刃紋は『備後風の乱れ』と書類に記されています」
「貴男が実際に触った事は」
「一度もありません。存在を知ったのも住職に任命されてからです」
 無表情なので嘘か本当か、全く読めない。
それでも篠沢は問う。
「どこの誰が貴男を住職に任命したのですか」
 すると意外な事に森永が口を開いた。
「うちの事務所が寺の維持管理の代理人を引き受けています。
ですので、うちの事務所が彼に新住職を依頼しました」
「お寺は宗教法人として体を成していないようですが」
「構いません。営利が目的ではありませんから」
「ですが維持管理には費用が掛かりますよね。
例えば電気、水等の諸費用に住職の給料」
 面白い物でも見るような顔付きで森永が篠沢を見た。
「私共の財布を心配していただけるのですか」
 言外に、「俺達に関心を持っているのか」と聞えた。
「管理職をやっていると刑事の仕事より金銭の出入りが気になるのですよ。
捜査費用には限りがありますからね」
 森永が肩を竦めた。
「まあ、中間管理職には収支の一致が大切ですからね」
「でも、お宅は出る一方。・・・。依頼人は誰なんですか」
「職業上、依頼人の名は喋れないでしょう」
 篠沢は森永から受け取った名刺を見直した。
所属しているのは「坂東弁護士事務所」。
あまり聞かない事務所だ。




自民公明両党は菅首相への不信任案提出に舵を切りました。
当然でしょう。
国民の多数も菅サンの言動には不信感を持っています。
やること、なすこと、その全てが己の権力維持優先にしか見えません。
 ただ、不信任案が成立した場合、解散総選挙が筋です。
良いのでしょうか。この局面で権力の空白・・・。
そこまで覚悟して提出するのでしょうか。
もし、不成立を見越しての提出だとすると、それは単なる政局。
ゲームでしかありません。
 国民は、議会に現存するのは無能な政治家ばかりと承知しているので、
「暫くは、菅サン続投でやむを得ない」と諦めています。
まことに残念な事態です。
・・・。
そんな政治家ばかりを選んだのは誰でしょう。
・・・。
私もでした。
ごめんなさい。
責任を取って次の選挙は謹慎します。
・・・。
 とにかく、今許されている選挙はAKB48の総選挙だけです。
彼女等に清き一票を。




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白銀の翼(バンパイア)40

2011-05-27 21:45:13 | Weblog
 田原は驚いたように毬子の顔を見た。
そして仕方なさそうに口を開いた。
「あの時は刀を振り回すのに手一杯と見えたんだけどな」
「後で気付いたの。やけに簡単にあしらわれていると。
私が後手後手に回ったのは同門だったからなのね」
「同門だった事が原因じゃない。
君より長生きしている分だけ、重ねた練習量も違う。そう思わないか」
「それもそうね。同じ練習量なら私が勝ってる」
 断言する毬子に田原は呆れた。
「負けず嫌いか。
・・・。
まあいい。同門の誼で刀を預かってくれ、頼む」
 毬子は頷かない。
「表だって判官流を名乗る道場は少ないわ。
京都に幾つか残っているだけ。
たいていは京都の榊家関係、貴男もそうなの」
 亡き祖父の話では、京都の榊家本家に連なる血縁の者達は、
江戸時代の頃より榊の名ではなく住む地名を名乗るようになったそうだ。
衣笠山の麓に住居を構えた者は、衣笠。
山科に住居を構えた者は、山科という風に。
だから田原は、・・・。
 田原は、
「さあ、どうなんだろう」と榊家の血縁であるかどうかは曖昧にした。
 毬子は相手が答えたくなさそうなので、婉曲な言い回しをした。
「見ず知らずの、・・・それも殺人犯から私は物を預かるわけなのね」
「名刺を渡したじゃないか。身元はハッキリさせた」
 考えてみれば変な殺人犯がいたものだ。
ただの女子高生に身元を明かすとは。
その理由が、「判官流の同門」とは信じられない。
他に何かある筈だ。
 毬子は背筋を伸ばして相手を見た。
「理由如何です。納得させてください」
 殺人犯を相手に一人で相対しているわけだが、何故か怖くはなかった。
会話を続けているうちに親近感すら抱くようになっていた。
 田原も背筋を伸ばした。
「『風神の剣』は世に出せない刀だから、寺の奥に隠していたそうだ。
ところが今回の件で表に出てしまった。
・・・。
だから、もう一度隠さなくてはならない。
近いうちに警察から寺に返還されるので、
寺に持ち帰る途中で行方不明にしてしまおうかと思っている。
頼む、協力してくれ」
「どうして表に出せない刀なの」
「あれは本来、人を斬る刀ではないんだ」
「というと」
「魔を祓う刀。
それ関係のマニアに知れると垂涎の的になるだろう。
だから騒ぎになる前に先手を打って隠す」
 「魔を祓う刀」と言われれば他の者なら首を傾げるだろうが、
毬子は疑わなかった。
あれを持って辻斬りと立ち合ったからだ。
確かにあれには不気味としか言えぬ力があった。
奇妙にまで冷たい霊的なモノ。
ヒイラギの存在が無ければ、それに取り憑かれていた筈。
しかし簡単に頷くわけにはゆかない。
「魔を祓うと言うけど、確かめたの」
「住職を引き受けるにあたって、説明を受けただけだ」
「それを信じているの」
「私を住職に抜擢してくれた人を信頼している。それで充分だろう」
「でも、どうして私なの。お仲間がいるんでしょう」
「私と無関係で、信頼できる外部の人物は君だけだ。
誰も私と君を関連付けない。良い考えだと思わないか」
 随分な信頼のされようだ。
毬子なら警察に通報せぬと思っているらしい。
「また盗まれると考えているの」
「念には念を入れよ、と言うだろう」
「わかった。でもね、貴男と立ち合った事でお婆様が神経質になっているの。
できればお婆様の目に真剣を触れさせたくないのだけど」
「任せてくれ。内密に手渡せるように段取りする」
 思い通りに運び安堵したのか、田原の表情が緩む。
 毬子は田原の言を全面的に信用したわけではない。
「他に別の思惑があるのでは」と疑いを持っていた。
ここで断っても、相手は手を替え品を替え、毬子への接近を図る筈。
何に巻き込まれようとしているのか、・・・。
それでも、じっくりと考える時間だけはある。
なにしろ女子高生という職業は暇を持て余す。
暫くは様子見だ。
 毬子は最後の質問をした。
「あの小野田老人はどうするの」
「運の良い事に回復の見込みなし。首を取る必要はないだろう」

 新宿署の辻斬り捜査本部。
野上家の一件より一週間過ぎたわけだが、たいした進展はなかった。
しいて成果と言えば第一の被害者、
第二の被害者の住居より盗聴器が発見された事くらい。
第三の被害者となる筈だった小野田の顧問室から発見されたものと合せれば、
八つにもなった。
 辻斬りは単独犯ではなく、仲間がいる事が推測される。
それも盗聴器を仕掛ける事に慣れた者達。
辻斬りの逃走が容易だったのも彼等の存在あっての事だろう。
 辻斬りが狙ったのは盗品売買に直接関与した者達だけのようだ。
四人の用心棒は無関係とみて、身動きの取れぬように手傷を負わせているが、
仕留めてはいない。
その行為、冷静にして、躊躇いがない。
まるでマシン。
殺し損ねた小野田老人はどうするのだろう。
他に関与した人間はいるのだろうか。
 篠沢警部は捜査の先行きに頭を抱えていた。
あまりにも見通しが暗い。
「いらっしゃいました」と声。
 頭を上げると、婦警が民間人二人を捜査本部に案内して来た。
彼等は、『風神の剣』の所有者である牟礼寺の関係者。
何故か警察庁から口利きがあり、彼等の今日の来訪となった。
 小柄な中年男が、「お忙しいところに押しかけて来て、すみませんな」と。
人当たりの良さそうな笑顔で名刺を差し出した。
「弁護士、森永功」とある。
 何やら場慣れした感。
 後ろにいた坊主頭の男が、無愛想な顔で名刺を差し出した。
「牟礼寺住職、田原龍一」
 年の頃なら三十代といったところ。
長身で、醸し出す空気は僧職とは場違いなもの。
明らかに剣呑と分かる空気を身に纏っていた。
ヤクザ者と勘違いする者もいるだろう。
 二人の来訪は、『風神の剣』の引き取りにあった。
所有権がどうあれ、今は事件の大事な証拠物件である。
こんなに早く引き渡した例はない。
なのに、牟礼寺の新住職が弁護士を通じて、早期の返還を申し入れたのだ。
だけではない。警察庁上層部の口利きもある。
「犯行に用いられた訳ではなかろう」と。
 篠沢は田原を一目見た瞬間、「こいつ、辻斬り」と直感が働いた。
数少ない目撃者達は辻斬りの覆面姿しか見ていないが、
彼等の話したイメージが田原を指していた。
田原に覆面姿をさせればピッタリかも知れない。




話題は原発の海水注入一時中断問題ですね。
政府発表に原子力安全委員会の斑目委員長が異を唱え、
自信の発言部分を、「再臨界の可能性はゼロではない」と訂正させました。
そして後日、
訂正した部分の意味を「再臨界の可能性はゼロだ」と説明しました。
 てっきり、
「ゼロではない」は「1、2パーセントはある」かと思っていましたが、
「ゼロではない」は「ゼロだ」なんだそうです。
原子力村の言語は難しい。
 ところが、それで終わりませんでした。
東電が、「一時中断した事実がなかった」と訂正したのです。
 まあ、何はともあれ、無能な政府や東電本社が会議室で判断するより、
現場の所長判断の方が合理的でしょう。
「事故は会議室で起きているんじゃない。現場で起きてるんだ」
「原発を封鎖せよ」ですね。




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白銀の翼(バンパイア)39

2011-05-24 22:30:16 | Weblog
 暴力団と一緒にされて田原は気を悪くしたらしい。
眉間に皺を寄せながらミラーボールを見上げた。
だからといって毬子に危害を加える恐れはない。
 ヒイラギがサクラに問う。
「奴の考えが読めたのか」
「読もうと思えば読めるけど、そこまで深く読むつもりはないのよ。
下手すると雑念に囚われるかも知れないからね」
「ほう、雑念に囚われるか」
「そうよ。
人体の強弱は分かり易いけど、心だけは別物なの。
人ほど複雑なモノはないから、
雑念に囚われると底なし沼に引き摺り混まれたも同然なのよ」
「そうか、難しいものだな」
「だから必要以外には人の中に深く入り込まない。
下手すると自分が壊れるか、相手が壊れる。あるいは両方。
だから出来るだけ表層から全てを読み取る。分かった」
 サクラはヒイラギに教えると、続けて毬子を相手とした。
「この男の心底は分からないけど、今のところは爆発する危険性はないわ。
妙に脈拍が安定している。だからアンタもリラックスして」
「分かった、ありがとう。
ところでヒイラギの触手はどうなったの。指くらいは出来た」
「んー、悔しいけど、これが意外と器用なのよ。
十日はかかると思っていたら、もう小指らしきモノが出来たわ」
 田原が表情を引き締めて毬子を見た。
「事情を話そう。事の発端は一年ほど前だ。
私が赴任する予定の大分の牟礼寺から所有物が盗まれた。
その時の住職は、盗んだ相手に心当たりがあったので、警察沙汰にせず、
内々に返還して貰おうと東京へ交渉に向かった。
そして、それっきり。行方不明になった」
 田原は毬子が理解していると顔色で判断し、続けた。
「そこで我々の出番になった。
行方不明になった住職から事情を粗方知らされていたので、
我々は相手方の住居や事務所に盗聴器を仕掛け、事実関係を調べた」
「そんなに簡単に盗聴器を仕掛けられるものなの」
「簡単も簡単、慣れれば君でも出来る。忍び込む覚悟さえあればね。
試しに遣ってみるかい」
「結構です」
 田原が鼻で笑う。
「ふっ。
・・・。
時間はかかったけど真相が分かった。
盗んだのは一番目に殺した西木正夫。
その仲間が二番目に殺した北尾茂。
勿論、その二人だけじゃない。
盗品を買ってくれる相手がいなければ商売にならないからな。
盗む前に買ってくれる相手を探す。それが失敗しない盗品商売の鉄則。
話しを持ちかけられたのが、三番目に狙った小野田晃一郎。
盗品と知って購入を承知した。
と言うわけ。
後は新聞やテレビのニュースで知ってのとおりだ」
「我々と言ったけど何人か仲間がいるのね」
「勿論。誰々とか、何人とかは秘密だけどね。
とにかく我々は慎重に裏付けをとって、100%の確証を得た上で行動した」
「さっきも聞いたけど、どうして警察に届けないの」
「私達は僧侶だから、密告のような真似はしない。犯罪者も作らない」
「何を、・・・でも結果として殺したじゃない」
 田原が鋭い目で毬子を見た。
「人を殺したわけじゃない。罪を裁いただけ。罪を憎んで人を憎まず。
罪の前には、人の生き死になんてのは二の次なんだよ」
 目に狂気の色はない。
心底から至極当然と思っているらしい。
どこでどういう教育を受けたのか。
本当に僧職にあるのだろうか。
とにかく、まともに相手は出来ない。
「それで、私には何の用なの。
人を殺した自慢話をする為に声掛けたわけじゃないでしょう」
「自慢話ときたか」と田原。傷付いたような表情で一呼吸置く。
「それなら思い出してもらおうかな。
野上邸で君は私を迎え撃った。
その時の太刀筋を私はしっかりと覚えている。
あれは本気で私を斬る太刀筋だった。斬る事に何の迷いもなかった。違うかな」
「あれは、・・・みんなを守る為だったのよ」
 田原が余裕のある顔をした。
「君は、みんなを守る為に私を斬るつもりだった。
私は会ったことのない住職の無念を晴らす為に二人を斬った。
そこに何の違いがある。
私は実際に二人を斬り、四人に手傷を負わせた。
君は運の良い事に、腕が未熟だった為に私を斬る事が出来なかった。
殺せなかったというだけで、行なった行為は私と何の違いもない」
 返す言葉がなかった。
毬子は田原の挑むような視線を正面から受け止められず、
唇を噛んで、悔しそうに顔を逸らした。
 あの時は辻斬りの技に魅せられた。
庭先で用心棒二人の腕を斬り落とした太刀筋を見て、
「立ち合いたい」という欲求が湧き上がった。
気持を抑えられるほど大人ではなかった。
気付いたら、反射的に『風神の剣』を掴んで庭先に飛び出していた。
「みんなを守ろう」という気持が本当にあったのかどうかは今でも分からない。
ただ、ただ、立ち合いたかっただけなのかもしれない。
 田原は毬子をそれ以上は追い詰めない。
何事も無かったかのように話しを変えた。
「頼みがあるんだ」
「・・・私に」
「そう。寺から盗まれた物を預かって欲しいんだ。
『風神の剣』というんだけどね」
 いきなり、「風神の剣を預かってくれ」とは。
予想だにせぬ話しの展開ではないか。
 それに、もう一つ。
『風神の剣』でそれを思い出した。
辻斬りの太刀筋が「判官流」であった事だ。
上方の古武術、判官流。京八流の系統と謂われる。
「その前に確かめたいのだけど。貴男の修行した流派は判官流なの」




東電が福島原発の二号機、三号機のメルトダウンを認めました。
これで一号機から始まってワンツースリーフィニッシュ ! ! !
メルトスルーが起こる可能性も・・・。
格納容器から床に漏れ落ちると、次は地中しか残ってないけど・・・。
 素人のような後手後手の公表。
東電に原発の玄人はいないんですかね。




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白銀の翼(バンパイア)38

2011-05-22 10:10:39 | Weblog
  牟礼寺の住職だという田原龍一の射抜くような鋭い目を、
毬子は正面から受け止めた。
何の魂胆があって現れたのだろう。
丸腰なので、ここで斬られる恐れこそないが、不気味なのには代わりがない。
どうすればいいのか対処の仕様が分からない。
 ヒイラギが言う。
「油断だけは怠るな」
 サクラが、「ヒイラギも私のように触手が使えればいいのにね」と。
 毬子はサクラの触手が動くのを感じた。
目には見えないが、今まで自分に無数に絡み付いていたものの一本が、
風に煽られたかのように田原へと向かって行く。
どうやら毬子を足場とし、田原に触手の橋を架けるつもりのようだ。
 毬子は田原との空間に微妙な空気の振動を感じ取った。
サクラが相手の脳内を覗いているらしい。
 そのサクラがヒイラギを誘う。
「ヒイラギ、私の触手を捉えられるのなら、それを伝わっておいで」
 躊躇するヒイラギ。
それをサクラが笑う。
「生きる武神であったにしては臆病だね」 
 挑発されたヒイラギの怒りが伝わる。
言い訳もせずにサクラの触手を捉えた。
が、それからが難しい。
己の触手を生み出せない。
 そもそもがヒイラギとサクラは別物。
神社の清浄な空間で育まれたサクラ。
みんなの願いが集まって言霊と化し、精霊サクラとなった。
 対してヒイラギは、本人曰わく、
「幼き頃より武人として育てられ、餓鬼時分は喧嘩三昧。
馬を与えられてからは戦三昧。
どれだけ人を殺めたことか。
気付いたら自分も戦場で死んでいた。
まことに血塗られた人生であった」。
 この世に怨みを残した者が怨霊と化し、現世に踏み留まり人に悪さをする。
それらは悪霊の類として一括りにされるのだが、
サクラによるとヒイラギは奇妙な霊なのだそうだ。
「怨霊とは一味違うわね。まるで招魂された霊のよう」とか。
 あの時、毬子は疑問に思い尋ねた。
「招魂と言えば、霊の呼び戻しよね。誰かが呼び戻したというの」
「そうとしか考えられない。
でも招魂術を使った者が未熟だったのか、別の場所に呼び戻されたみたい」
「それで私の中」
「たぶん、だけどね」
「この先、ヒイラギはどうなるの」
「私は術者じゃないから分からない。
でも毬子、アンタはヒイラギの同居は嫌なの、それとも好きなの」
「そんなの分からないわよ。気付いたら居たのだから。
今では居るのが当たり前に成ってるわ」
「そうよね。成るようにしか成らない。それで良いかもね」
 黙って二人の話を聞いていたヒイラギは、己の感情が動いたにも関わらず、
何の感想も言わなかった。
 今もヒイラギは何も言わない。
怒りながら、
己が内からサクラの触手に似たものを生み出そうと四苦八苦していた。
 サクラが助け船。
「一点に集中するの。
私の触手が分かるのなら、それを両手で掴むイメージ」
「イメージか」
「そうよ。
私達は両手両足がないから、それがあるイメージで触手を作り出すの。
イメージで手を足を、ついでに翼も。イメージを具現化するのよ」
「翼か、それは良い」
「アンタには百年早いわよ。まずは指から初めて。指が揃えば手になるわ」
 会う度に憎まれ口を叩く二人だが、心底から嫌ってはいない。
サクラが助言すれば、それをヒイラギは不器用に受け入れる。
これが大人というものなのかも知れない。
 鋭い田原の両目が泳ぐ。
二人の傍を通り過ぎる生徒達の関心を引いているのに気付いたからだ。
別の学校の生徒でも、毬子を見知っている者は多い。
挨拶をする者。会釈して過ぎる者。
そのほとんどは女生徒。
 そんな田原を毬子は笑う。
「女生徒は苦手なの」
「一人や二人なら平気だが、群れともなると怖いものがある」
「怖いなんて酷い言い方ね」
 田原が頭を搔き、苦笑い。
辻斬りにしては人懐っこい表情をするではないか。
「・・・群れると苦手かも」
「そう。
大事な話なの。長くなるなら場所を変えてもいいけど」
「そうしてくれると助かる」
「駅前のカラオケはどう」
 サクラの、「こいつは見かけと違い無害よね」という言葉を信じて、
毬子はさっさと駅に向かう。
 慌てて田原が隣に並ぶ。
「俺に背中を向けて大丈夫なのか」
「私はゴルゴ13とは違うわよ」と毬子。
 漫画の主人公、ゴルゴ13は依頼人との商談では、
けっして依頼人に背中は見せない。
 その返答が気に入ったのか田原が吹き出す。
「そうだった。太刀筋は鋭いが、町中では普通の女生徒だった」
 こうして肩を並べると、改めて相手の高さを認識した。
自分よりも頭一つほど高い。
加えて威圧感が伴い、只者でない事が推し量れた。
とても僧侶とは思えない。
 野上家で何年か振りに遭った刑事、池辺康平も同じ位の身長だが、
身体から醸し出す空気が違う。
陰陽に例えれば、田原が陰なら池辺は陽。
田原が辻斬りを続けるのなら、きっといつか両者は立ち合うだろう。
 駅前ロータリーの十二階建て。
二、三階部分がカラオケ店になっていた。
 二階の白い内装の個室を選んだで入った。
天井で小さなミラーボールが回転し、ブルーのライトを反射していた。
ガラステーブルを挟んで二人は腰掛けた。
「お坊さんもカラオケに行くの」
「行くよ、キャバクラ、ソープ。何でもどこでも。
普通の暮らしを知らなくては信者に説教が出来ないからね」
 毬子は言葉を改めた。
「どうして辻斬りしたの」
「直球だね」と田原が目を見張った。
それでも話題を嫌がる様子はない。
「色々あってね。それで罰した」と簡単に答えた。
「理由は言えないの」
「彼等に罪があったからだ」
「だからと言って」
「最初に殺されたのは、こちら側の人間だ。
死体は見つかっていないが、仕掛けた盗聴器で海に沈めたのは分かっている」
「警察に届ければ良かったでしょう」
 田原が毬子を見直した。
「警察・・・。そんなものに頼る必要はない」
「殺されたから殺し返す。何だか暴力団みたいな話しよね」




日中韓首脳会談に先立ち、中韓首脳が被災地入りしました。
素直に見れば良いのでしょうか。
それとも中韓に借りが出来たとでも・・・。
でもまあ、菅サンの被災地入りよりは素直に見られます。
何故なんでしょう。
 その中国首相がSMAPと面会したとか。
だからだったんですね。
昨日、中国大使館や韓国大使館とは反対方向の神田で、
妙な警備態勢が取られていました。
それも滅多に見られない場所で。
たぶん、SMAPとの面会場所の都合だったんですね。

 それにつけても、与党内反主流派の「菅下ろし」、
野党の「菅下ろし」、参院議長の「菅下ろし」。
そして菅サンの延命工作にしか見れられない言葉のパフォーマンス。
淡水魚も放射能汚染しているというのに、政治のこの体たらく。
生活に困らないから政治遊戯が出来るのですね。
なんてこったい。
どうやら日本政治は、外国のみならず自国民とも離れて、
「ガラパゴス化」しているようです。

国会の
またの地名は
ガラパゴス

政界の
メルトダウンを
望みます
えっ しているって
そうか そうなのか




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白銀の翼(バンパイア)37

2011-05-20 23:07:53 | Weblog
 野上家の事件の翌日であったが、榊毬子は学校で騒がれる事もなかった。
警察によって、辻斬りとの立ち合いがマスコミに伏せられたからだ。
百合子と二人して、「母屋にいたから見ていない」と示し合わせ、
みんなの好奇心を遮った。
 ところが自宅に戻った瞬間に雷が落ちた。
「この馬鹿娘、隠し事なんかして。仏間にいらっしゃい」と祖母の紀子。
初めて見る険しい表情。
悲しみと怒りが入り混じった複雑な色をしていた。
 祖母だけではなかった。
通いのお手伝いの重子さんまでもが目を怒らせていた。
 学校は切り抜けたのだが、祖母の耳までは欺けなかったらしい。
現場で鉢合わせした池辺康平が告げ口したとは思えない。
祖母が聞けば、血圧が上がり体調を崩す事を知っているから、
そういう無謀はしない筈だ。
それに彼は告げ口とは対極の性格をしていた。
おそらく噂を耳にした所轄の親しい警官からであろう。
 二人に連行されるようにして仏間に入った。
「ご仏壇のみんなに謝りなさい」と祖母。
 毬子は言われるまま、正座をして合掌をした。
仏壇には大勢のご先祖様方が祀られていた。
榊家は由緒のある家系だが、実際に顔をしっかりと覚えているのは祖父一人。
自分の両親と二人の兄は家族集合写真で身覚えているだけ。
他は一人も知らない。
 祖母が両目を吊り上げた。
「お爺さまが貴女に剣道を教えたのは、強い心を持つ人間に育てるため。
人と争う為ではないのよ。
それなのに毬子、貴女ときたら、よりによって殺人犯を迎え撃つなんて。
どういうつもりなの」
 毬子に戦意はない。平身低頭した。
「ごめんなさい、お婆様。あの時はそうするしかなかったの。
辻斬りが私達の方に迫ってきたから」
「逃げるという選択肢もあった筈でしょう」
「みんなが居たから」
「みんなを先に逃がして、貴女が殿に付けば良かった。違うの」
 毬子のこれまでの短い人生には、「逃げる」という選択肢がなかった。
「相手に背を向けて逃げる」などとは想像すらした事がなかった。
 祖母の両の目から涙が零れ落ちた。
「貴女は女の子なのよ。
これから先、きっと何時か、子供を授かるわ。
命の宿る身体を持つ者が、相手が犯罪者とはいえ、その命を絶とうとするとは。
お爺さまに、いいえ、貴女のお母様に申し訳ない。
そうは思わない」
 返す言葉がない。
神妙に項垂れ、祖母の怒りの収まるのを待つ。
 が、祖母はそれ以上の事は言わない。
毬子と同じように項垂れ、肩を震わせて涙を流す。
今の毬子にとってはただ一人の大事な存在。
それをこんなに悲しませるとは・・・。
 いつもは毬子の中で存在感を顕わにしているヒイラギが、
知らぬ顔を決め込み、そそくさと気配を消すではないか。
のみではない。
さっきまで触手を伸ばし、何やかやと干渉していたサクラが、
毬子ではなく祖母に、「馬鹿な孫娘を持ったものね」と同情し、
触手を断ち切った。
 祖母の怒りを収めるのに数日を要した。
「二度と真剣は取りません。触れもしません」と約束させられた。
 それで全てが終わったと思っていたら、予想だにせぬ人物が現れた。
 金曜の午後。
百合子が部活動で忙しいので毬子は一人で下校した。
表通りも、裏通りも、いつものように人通りは多い。
六義園から出て来る団体客。
女子中、高校から下校する女生徒の群れ。
そして自校の生徒達。
雑多な人波を避け、路地から路地に抜けて帰宅を急ぐ。
 別の路地に入ろうとする毬子の目の前に一台の乗用車が停まり、
後部座席から一人の男を降ろすや、さっと立ち去った。
 降り立ったのは紺のスーツ姿の男。
長身で、剃り上げられた頭がやけに眩しい。
年齢は三十過ぎであろうか。
そいつが毬子に笑いかけた。
知り合いではないが、何やら見覚えがあった。
 野上家に辻斬りが押し入った日、駅から野上家へ向かう途中で擦れ違った、
あのジョギングウェアーの男だ。
顔は笑っていても、獣を思わせる鋭い眼光だけは、あの日と同じ。
毬子は誰にも話していないが、この男こそが辻斬りと確信していた。
 のんびりしていたヒイラギが跳ね起きた。
即座に、「辻斬りだ」と断定。警戒を強めた。
 いつものように触手を伸ばして毬子に干渉しているサクラも興味津々。
「ほう、これが話題の辻斬りね」
 辻斬りが毬子に語り掛けた。
「榊毬子君だよね」
 毬子の通学コースと名前を調べ上げたようだ。
「そういう貴男は」
 辻斬りは、「これは失礼」と胸の内ポケットから名刺入れを取りだし、
一枚を毬子に差し出した。
 相手は丸腰だが、用心の為にいつでも攻撃出来るように半身となり、
怖いもの見たさで名刺を受け取った。
「牟礼寺住職、田原龍一」とあった。
寺の住所と電話番号も。
 確かに僧侶らしい頭だが、名前は僧侶らしくなかった。
「お坊様なのに本名のような名前よね」
 意外にも辻斬りは柔らかい喋り方をした。
「うちの宗派は親の付けてくれた名前を大事にするんだ。それも縁と言ってね。
だから本名なんだよ」
 それでも毬子は警戒を怠らない。
「お坊様が私に何の用ですか」
「つれないね。私が何者なのか分かってるんだろう」




オバマ大統領がイスラエルに対し、パレスチナとの領土問題を、
「1967年の国境線に基づくべきだ」と提言しました。
アメリカの大統領にしては珍しく常識的な発言です。
何があったのでしょう。
 今、中東各地では民主化運動が激化しています。
チュニジア、エジプトで独裁政権が倒れ、
リビア、シリア、イエメン、バーレーン等が大きく動揺。
多くの市民が街頭に出てデモを繰り返しています。
下手するとサウジアラビアにも波及しそうな勢いです。
ダブルスタンダート好きのアメリカとしては、
親米独裁政権の崩壊は困る事態です。
 一方でアルカイダのウサマ・ビンラディンが殺害されました。
それでもイラク、アフガンのテロは止みそうもありません。
どころか、逆にパキスタンでのテロが激増の勢いです。
 中東はアメリカの思惑とは無関係に揺れ動いています。
そこで、アラブ民衆の反米感情を和らげるためのオバマ発言なのでしょうか。




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白銀の翼(バンパイア)36

2011-05-17 22:27:59 | Weblog
 身元が辿れたのは十六人の内の七人だけ。
日本人三人。中国人二人。韓国人二人。
他は名前だけ。
 七人に共通するのは異教ではあるが、知られた教団組織に属する事。
信じる神、御本尊は違っても、同じような位階にいた。
所謂、カトリック教会で言うところのエクソシストであった。
祓魔士、陰陽師、調伏僧、呪術師。
おそらく身元不明の者達は彼等の弟子なのであろう。
 ピンクのイルカが目を輝かせて言う。
「マモンの六芒星があって、そこに各教団のエキソシスト達が集まっていた。
誰を、何を相手にしていたのか、興味深いと思わない」
 加藤は辻斬り事件捜査よりも興味をそそられた。
が、口には出来ない。
過去の事より現在進行形の事件。
「知りたくても関係者は生存していないだろうな」
「お寺の名前や所在地は分かっているけど、
石碑の建てられた時期が分からない。
いつなの」
「戦後だったから、大雑把に計算しても六十年は経過してる」
「すると当時、二十歳だった者でも今は八十歳か。
まともに喋れるかどうか、怪しいものね」
「ああ、そうだな。
十六人の名前が記してあるのは、バンパイア退治の記念というわけじゃない。
おそらくバンパイア相手に討ち死だろう。
と言う事は、大きな事件だ。
いくら占領下の事と言っても、某かの資料くらい残っているだろう」
 和代の目がますます輝いた。
「私の話を信じてくれたの」
「たとえばと仮定してだ。話しの流れに遺漏がない。
それでも信じるべきか、・・・どうか、迷う」
 またまた池辺が割って入った。
「現地の資料なら松沢さんに頼んだらどうですか」
 宇佐市で世話になった駐在の名前だ。
「考えてみよう」
 加藤に脈有りと見た和代は満足したのか、立ち上がった。
「お代わりの紅茶とケーキを持ってくる」
 池辺が慌てた。
「俺達は充分だよ」
「そう言わないの。遠慮深い男は嫌われるわよ」
 加藤は次の紙に手を伸ばした。
やけに分厚い。八つに折り畳まれていた。
広げてみると新聞紙大のコピーした地図であった。
中心には赤マジックで縁取りされた敷地があり、牟礼寺と記されていた。
住職が行方不明になった宇佐市の寺だ。
 先に和代が、「一目瞭然」と言った意味が分かった。
牟礼寺の敷地に似た形状の土地が近くにあったのだ。
まるで十数倍に拡大したかのよう。
そこは「メイド・イン・ウサ」の跡地。
 隣で覗いていた池辺も遅ればせながら気付いた。
「そういう訳か、地図代わりに寺を置いたんですね」
「紙の地図だと保管するのに気を遣うが、これなら何の心配もない。
売却さえしなければ良いんだからな」
「お金持ちの発想ですよね」
 寺の敷地を拡大して「メイド・イン・ウサ」跡地に重ね合せれば、
石碑の有る場所が、確かに一目瞭然。
果たして十六人の死体が埋められているのだろうか。
そしてバンパイアは。
 キッチンから和代が紅茶とケーキを持ってきて、それぞれの前に置いた。
「糖分が多そうだから紅茶は砂糖抜きね」
 ケーキを見て露骨に嫌そうな顔をする池辺を無視して、和代は加藤に尋ねた。
「その跡地は何ですか」
 加藤は返答に困った。
どこまで話して良いものか。
和代の視線を避けるようにケーキに目を転じた。
 抹茶のロールケーキ。
抹茶のスポンジで、中味はホイップクリームと小豆。
朝から続けて二個もケーキを食う羽目になるとは。
それでも加藤は和代に謝意を表してスプーンを動かした。
 ケーキをスプーンで口に運びながら考えた。
辻斬りは「風神の剣」と関連性が有りそうだが、石碑との関係が分からない。
同じ敷地にあっただけで、全くの別件なのか。
 疑問はあるものの自然に、「わかった」と口にした。
そして跡地の歴史と、寺との関係を大雑把に説明した。
部外秘ではないが辻斬りとの関連性が見出せないので、
捜査本部はマスコミには一切公表していない。
が、いずれ漏れるだろう。
ここで喋っても大局に影響はない。
当局発表よりも少し早いだけだ。
 そんな加藤を池辺が驚いて見ていた。
「先輩、一体どうしたの」と言わんばかりの顔。
 対照的に和代はニコニコ。目がさらに輝いた。
「そうか、そうか、そうなんだ」と言う目の色。
 喋ると加藤は満足した。
口に入れたケーキの小豆が旨い。
煮潰れていないので歯ごたえが有り、しかも上品な甘さ。
抹茶にも、ホイップクリームにも合っていた。
「敷地を掘り返すのは何時頃になるの」と和代。
「それは警視庁の仕事じゃない。
俺達がこの資料は捜査本部に渡せば、
中味を確認したうえで大分県警に送られる。
それから先は県警の判断になる。
管轄が違うから何とも約束できないな」
「そうなのか」と和代。しかし意気消沈した分けではない。
「どうしたらいいの」と諦めない。
「十六人の死体が埋めてあるという確証がないから、何とも。
そもそもが私有地だからな。
・・・。
漫画家だからホームページとかブログは持ってるよな」
「ええ」
「それで話題にしたらどうだい。
『あそこに死体が埋められているかもしれない』となれば、
跡地の隣近所の者達が薄気味悪くなって騒ぎ出す」
 和代は頬を緩めた。
「なるほど、そういう手か。使えるわね」
「ただし、俺達の名は出さないように」
「わかった、約束するわ」
 加藤は顔面笑みを浮かべている和代と、
蚊帳の外のような顔の池辺を見比べた。
「ところで、和代さんは池辺の高校時代の後輩だったよね。たしか剣道部」
「ええ、そうですよ」
「後輩にしては和代さんの方が上に見えるんだけど。
外見じゃないよ、二人の関係がね。気のせいかな」
 得たりとばかりの和代。
「先輩後輩と言っても、私が高一の時にコウちゃんは高三。
実質的には一年にも満たない先輩後輩の関係ですよ」
 何か言いたそうな池辺。それを無視して和代は続けた。
「大学に入ると、どういうわけかコウちゃんも同じピカピカの一年生」
「参ったな」という顔で頭を搔く池辺。
 和代はアッケラカンと続けた。
「卒業するまでの四年間、一緒に剣道部で汗を流しました。
あっ、漫画が優先でしたけどね」
「高校時代より大学の四年間の方が長いんですよ」と池辺が笑い飛ばした。
 釣られて和代も笑う。




パネルクイズ・アタック25の司会をしていた児玉清さんが亡くなりました。
3月末から療養をされていましたが、・・・帰らぬ人に。
彼を見たのは随分昔でした。
ドラマ現場。キムタク主演の「HERO」。
丸の内の古いビル玄関を借りて撮影していました。
表階段に並ぶキムタクと児玉さん。
テレビ写りより実物の方が良かったです。
長身でロマンスグレー。
私などは、とてもとても足下にも及びません。
ただ、ただ、合掌。




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白銀の翼(バンパイア)35

2011-05-15 09:41:35 | Weblog
 加藤はピンクのイルカに感心した。
売れっ子漫画家として多忙でありながら、碑文の解読のみならず、
ネットやニュースにまで、きちんと目配りをしているではないか。
愛くるしいが、ただの天然ではない。
油断していると足下を掬われてしまう。
 和代が加藤に、目の前に置いた紙束を手に取るように促した。
「一枚目から五枚目までが、碑文の文字に似通ったものよ」
 和代は加藤が学校で習った覚えのない古代文字の名を次々と挙げてゆく。
親切にも、それぞれに古代文字名が記入され、
古代文字の字形が碑文と対比されていた。
どう説明されても加藤には理解し難い。
自然、右の耳から左の耳へと抜けて行く。
隣の池辺を横目で見ると、真剣な顔で聞いていた。
本当に理解しているのだろうか。
 五枚の説明を終えた和代が、「でも」と。
「場所が大分県宇佐市と分かった今は六枚目が正解のようね」
 加藤は、「それを先に言え」と思うが顔には表わさない。
「大分県なら、
中世のヨーロッパで異端として糾弾された『マモン』の可能性、
大いにあり得るわね」
「その『マモン』って何だい」
「一般的には教会に献金しない者達を指すの。
献金せぬ彼等を差別用語で迫害したのね。
でも本来の意味は別にあるの。
ローマ教会成立時に、教義の違いから分派結成された地下教会の事よ。
どちらもキリスト教なんだけど、近親増悪でローマは彼等に悪魔の名前の一つ、
『マモン』と命名したの。
その『マモン』側がローマ側に連絡文書を読まれぬように使用したのが、
セム語系のフェニキア語。
勿論、フェニキア語をそのまま使ったわけではないわ。
変形させ、年代と共に磨き抜いた。
それが中世に独自に花開いた文字文化、『マモン語』となり、
ローマ呼ぶところの『マモン教』の『マモン語』になったというわけよね。
当然ながら、彼等自身は自分達の事を『マモン』とは呼んではいないわ。
正しくは『マウリン』と言うの。
キリスト教が迫害されていた時代のローマ帝国治世下で、
磔とされた聖人の一人の名前なの。
マウリンに指導された信徒達は、彼が死んでも尚、彼を慕って勉強会を開いた。
それが『マウリン』の始まりのようね。
でも一般的には『マモン』の方が通りが良いの。残念にもね」
「マモン・・・、デーモンと言う事か。それがどうして大分に」
「ローマからの迫害が激しくなった頃、
ヨーロッパでは大航海時代が始まったの。
アフリカからインド、そしてアジア。
それで『マモン』を初めとして異端視されていた各宗派は、
海外の新天地に夢を求めた。
その終着点が日本。
ローマの影響を最も受けにくい遠方、極東にある国」
「そうか、大分、豊後の大友宗麟」
 戦国時代を代表するキリシタン大名であった。
「そうよ、碑文が『マモン』上陸の証拠ね」と和代。
 気付いたら池辺同様、ため口で扱われていた。
「彼女にとっては仲間と言う事なのだろう」と加藤は理解した。
 六枚目を見ると、例の碑文の文字がマモン語と言うモノと比べられていた。
確かに、それまで見せられていたモノとは違い、明らかに似ていた。
そして七枚目には幾つかの解読文が書かれていた。
事細かく、懇切丁寧な説明文もつけられていた。
「どれだい」
「三行目が最も近いわね」
 それには、「ここにバンプを封じる」とある。
「何だい、『バンプ』って」
「簡潔に表現すればマモン語でバンパイア、吸血鬼の類。
おそらくバンパイアを石碑のある下に埋めたのね」
 加藤は池辺と顔を見合わせた。
大分県警も住職失踪の時点で石碑に気付き、興味を覚え、
その碑文の解読を専門家に依頼した。
しかし、解答は得られなかったと聞く。
それを和代は事も無げに答えを出した。
信じていいのだろうか。
それにしてもバンパイアとは・・・。
 二人の疑問を読み取ったように和代が言う。
「専門家は冒険をしない。
信用ある古文書のみから答えを見出そうとして、とても手間取るの。
答えが出るのが依頼者の死後というのも珍しくはないわね。
その点、私達素人は自由よ。
多少なりとも信憑性がある古文書なら用いるわ。
ただし、異なる古文書での確認作業は怠らないけどね。
専門家がAクラスの古文書なら、私達はBクラスの古文書の山で勝負よ」
 どうやらピンクのイルカは海だけでなく、
古文書の山でも自由に飛び跳ねるらしい。
 加藤は、「次ぎに進もう」と紙の束に手を伸ばした。
和代の話を判断するのは、全て聞き終えてからでもいい。
 八枚目は石碑と周辺に転がされていた十六個の自然石の配置図。
まるで測量したみたいにな図面になっていた。
おそらくは造園業者の手によるものだろう。
部外秘としたわけではないので、ネットに流出しても咎めるわけにもゆかない。
「九枚目も見て」と和代。
 九枚目では点在する自然石が線で結ばれていた。
二つの図形。
外側の十個の自然石が円を描き、内側の六個が六芒星を現わしていた。
「これは」
「エクソシストを知ってる」
「映画の話しだろう」
 和代が悪戯っぽい目で加藤を見た。
「きちんとした職業よ。悪魔祓い。
カトリックの位階の一つでもあるわね。
どういう訳か五芒星と六芒星は魔除け、魔祓いの記号なの。
実用的かどうかは経験がないから知らないけど。
『マモン』の場合は外側の円で結界を張り、
六芒星、いわゆる籠目で魔を封じる。
オカルチックな古文書には、そう記してる。
話しに付いてこれる」
「こうなれば地獄までも付いて行きましょう。
そうなると中心の石碑が魔を埋めた場所という事になるな」
「そうよ」
 池辺がようやく口を開いた。
「すると、あそこを掘れば良いんだな」
「いいえ、あれは後世の者に教えるための地図よ。本物は別の場所にあるわ」
「まるで知っているような口振りだな」
 和代が愛おしそうな目付きで池辺を見返した。
「一目瞭然なんだもの」
「・・・」
「その前に十枚目、十一枚目に目を通して。話しには順序があるから」
 二枚には人名が羅列してあった。
日本名、中国名、韓国名。
あの自然石の裏に残されていた十六名に違いない。




警備を専門にする「日月警備保障」の立川営業所が襲われ、
現金六億円余が奪われました。
どうやら日月警備保障は、自社警備を他社に依頼せねばならぬ事態のようです。

福島第一原発一号機のメルトダウンが、ようやく発覚しました。
現場での原発の専門家である筈の東京電力とか、
内閣府の原子力安全委員会、経産省の原子力安全・保安院、
彼等専門家はこれまで何をしていたのでしょう。
えっ、「何も、せんもん」って。

何よりも悲しいのは貧乏を売りにしたアイドル、上原美優さんの自殺。
私は彼女のトークが好きでした。
あっけらかんとした感じで、まるで潮風を運ぶ少女。
気丈な印象で、自殺とは無縁と思っていました。
それが自殺するとは・・・。
ただ、ただ、合掌・・・。




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白銀の翼(辻斬り)34

2011-05-13 22:06:19 | Weblog
 突然だった。
「コウちゃん」と叫び声。
向かう先の三叉路からだった。
派手なピンク色のスカートに、
お揃い色のポンチョシャツを組み合わせた女がいた。
顔も胴体も丸い。
その彼女がスカートの裾を翻して駆けて来た。
 それを見て、加藤に肩を並べていた池辺の全身が固まった。
「コウちゃん」は池辺康平らしい。
 ここは広尾。
地下鉄日比谷線の広尾駅で降りた加藤と池辺のコンビは、地上に上がり、
広尾橋交差点から有栖川公園方向に向かった。
通りの左右にはブティックやカフェーが軒を連ね、半数ほどの店の店員達が、
「間もなく開店です」とばかりに忙しなく立ち働いていた。
 先導する池辺に加藤は愚痴を零した。
「本当に俺も行く必要があるのか」
 池辺が宥めた。
「何言ってるんです。相棒でしょう」
 今日の捜査本部は、昨日の野上家の事件を受けて大忙し。
大半が盗聴器の有無を確かめるべく、第一の被害者、第二の被害者、
そして小野田老人の身辺を調べる為に出動していた。
これに、本筋とは関係ないが、辻斬りを待ち伏せていた桐生会の者達を、
武器の不法所持で逮捕したことから、
桐生会本部への家宅捜索にも着手していた。
 当初、加藤と池辺の二人は小野田老人の会社へ出向く予定であった。
「小野田精密の顧問室に盗聴器が仕掛けられている」というのだ。
その出発間際、一通のメールが池辺に届いた。
「碑文の解析、無事に終了です」と。
 宇佐市に出張した折り、寺内で見つけた石碑の碑文を携帯で撮り、
メールに添付して『不思議ちゃん』に送り、解析を個人的に依頼していた。
その返事であった。
 そのことを篠沢警部に説明すると、彼は興味を覚えたらしい。
「直ぐに会ってこい。直接、辻斬りに関係するかどうかは分からないが、
あの碑文は気になっていた。報告書に盛る必要があるかもしれん」
 そういう訳で家宅捜索から外され、『不思議ちゃん』に会う事になり、
ここ広尾に出向いた。
 駆けて来る女はスニーカーまでがピンク色。
どうやらこれが話しに聞いていたピンク好きの『不思議ちゃん』らしい。
太っているにしては軽快な動き。
無邪気な笑みを浮かべて駆けて来る。
その瞳は、まるでイルカを思わせる。
 歩道を海に例えれば、行き交う人は波。
そこをピンクのイルカが飛び跳ね、こちらに向かって来た。
そして人目も憚らず、何の躊躇いもなく池辺に抱きついた。
「コウちゃん、時間ぴったりね」と。
 池辺の事前の説明では本名は柴田和代。職業は漫画家。
中学三年で漫画雑誌の投稿募集で新人賞を獲り、
高校二年から「寺脇サツキ」のペンネームでの連載が始まった。
代表作は、『輝く』という中世の伝奇物。
年齢は三十五才と聞いたが、衣服も見た目も若々しい。まるで二十代後半。
池辺にとっては高校の後輩であるそうだが、それにしては親密過ぎる。
「和代、離れろ」と池辺が強引に和代の身体を押し遣る。
 邪険にされても和代はニコヤカ。
「恥ずかしがる事ないでしょう」
 仕様がないといった顔で池辺が二人を引き合わせた。
 挨拶もそこそこに和代は、「待っててね」と傍の路地に入って行く。
勝手知ったる仕草で開店準備もしていない洋菓子の裏口に姿を消した。
程無くして現れた時には、両手で大きな箱を抱えていた。
「加藤さんもモーニング・ケーキは好きでしょう」
「朝からケーキですか」
「朝一番には糖分が必要だって言うじゃない」
「まあ、そうですね。でも、開店前ですが、売ってくれたのですか」
「いつものことだから」
 常連の我が儘という事なのだろう。
 池辺が慣れた様子で前を歩き、
なだらかな坂道の途中にある小綺麗なマンション前で足を止めた。
ここの3LDKをキャッシュで購入したとか。
陽当たりの良い五階の角部屋に案内された。
仕事部屋をも兼ねており、いつもだと常雇いのアシスタントが三人いる。
その三人の今日の出勤時間は午後に変更してあるそうだ。
 和代は二人をダイニングキッチンに招き入れると、
てきぱきとコーヒーを淹れ、ショートケーキを分けた。
「どうぞ」とテーブルに置く。
 色艶の良い大粒の苺が載っていた。
加藤はその苺を摘んで口に放り込む。
瑞々しい。
 和代が嬉しそうに言う。
「加藤さんは一番好きな物を最初に口にするんですね」
「そうですよ。
我が家は大家族で、兄妹が五人いたんです。
ちょっとでも油断すると他の兄妹に食べられてしまうので、
そんな癖がついたのかも知れませんね」
「へえー、五人ですか、羨ましい」
 コーヒーをガブ飲みした池辺が話しの腰を折る。
「それよりも本題」
「仕様がないわね、コウちゃんは」
 用意してあったとみえ、キッチンカウンターの上から紙の束を取り上げ、
加藤の前に置いた。
「説明する前に確認する事があるの。いいかしら」
「どうぞ」
「この碑文の出所は大分県宇佐市なのよね」
 池辺からは、「事情は説明していない」と聞いた。
嘘をつく男ではない。
実際、自分の耳を疑う顔で後輩を見ていた。
 加藤も現在進行形の事件なので詳しい事情は話せない。
「それは・・・」
「二人が秘密を守っていても、周辺の人達はそうではないみたいよ」
「どういう事ですか」
「ネットで出回っているのよ、この碑文。
おそらく県警か市警あたりから漏れているのでしょうね」
 あの時はユニックを貸し出してくれた造園業者もいた。
「そういう事でしたか。それでネットでは、どういう扱いですか」
「どうやって読むか、クイズ感覚の謎解きね。
誰も辻斬り事件とは結びつけていないわ」
 加藤は言葉に詰まった。それは池辺も同様らしい。
互いに顔を見合わせた。
辻斬り事件の事は臭わせてもいない。
 和代が愛くるしい瞳で二人を交互に見た。
「貴方達、ニュースを見ていないの。
常盤台の野上家から出て来る捜査員の一人に、よく知っている顔があったわ。
ねえ、コウちゃん」
 昨日、野上家周辺はマスコミに囲まれ、
捜査員達が引き揚げるのに四苦八苦した。
「何があったの」と必死でコメントを求めてくるのだ。
上空では数機のヘリがホバリング。
よく衝突しなかったものだ。




突然の雨で久々に洗濯物が全滅です。
今日の天気予報では、降る予定でなかったので干したのに。
 足柄山のお茶から放射線セシウム検出のニュース・・・。
たぶん、私の濡れた洗濯物からも検出されるのでしょうね。




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白銀の翼(辻斬り)33

2011-05-10 21:58:37 | Weblog
 顔を怒りの色に染めた野上邦男が片足を踏み出した。
慌てた息子の裕也と夫人の綾子が血相を変えて立ち上がり、
左右から押し留めようとした。
それくらいで止められるものではなかった。
二人を引き摺りそうな勢いの邦男。
 近くにいた刑事二人が息子と夫人に加勢した。
正面から身体を張って阻止線を築いた。
大の大人二人の力でようやく邦男の足を止めた。
「退いてくれ」と悔しがる邦男、地団駄を踏む。
 周到に辻斬りを返り討ちしようと図った老人であったが、
野上の怒りまでは計算していなかったらしい。
言葉のみならず、顔色までも失う。
 なにしろ小野田精密にとってノガミは大事な大事な取引先。
原材料はノガミ経由で輸入し、完成した製品はノガミ経由で輸出する。
今回の件が商取引に影響したら、小野田精密は計り知れないダメージを受ける。
 加藤はもっけの幸いとばかりに老人を攻めた。
「貴方は『風神の剣』を大分の寺から盗むのに一役買ったのですか」
 大分の件は捜査本部内だけの話しで、外部には一切漏らしていない。
マスコミは無論、新宿署の他部門の者達すら知らない。
それを行き成り直球勝負でぶつけた。
 言葉が老人の頭に染み渡るのに時間を要した。
惚けたような白い顔が余計に白くなった。
まるで死人。
答えを得られなくとも自白したも同然。
 ようようの事で老人が口を開いた。
蚊の鳴くような声。
「何のことやら。・・・。
盗みとは、疑うにもほどがある」
「盗みに関与していないと。でも事情を知っていたのですよね。
もしかすると、『善意の第三者』で切り抜けるつもりとか」
「・・・」
「『善意の第三者』の要件を満たすには二年の経過が必要ですが、
ご存じですよね」
 不意に老人が、「ぎゃー」と絶叫を上げ、両手で頭を抱え持つ格好になった。
そして、横倒しとなって転げ回る。
言い逃れできないと判断しての仮病かと思いきや、心底から痛がっていた。
 加藤は庭先に目を向け、救急隊員の姿を探した。
片腕を落とされた二人の応急手当をしていた筈だ。
だが見えない。
担架で運んでしまったらしい。
 隣でメモ取りをしていた池辺が携帯を取りだし、
冷静に救急車の手配を始めた。

 篠沢警部にとって小野田老人が救急車で搬送された事は痛いが、
必要な事は粗方聞きだした。
加藤が老人を怒らせたお蔭で、その様子から言外に察する事もあった。
本音を言えば、倒れようが心臓が止まろうが、どうでもいい。
 おまけではあるが、辻斬りを返り討ちにしようとして、
野上邸近くに車で待機していた桐生会の者達を、武器不法所持で逮捕できた。
本筋ではないが、これで桐生会を家宅捜索出来る。
点数にすると満点に近いのではないだろうか。
 不満なのは辻斬りに逃走された事だけだ。
もっともその責は板橋署にそれとなく押し付けてやった。
なにしろ野上家での一件が、正式に「辻斬り」合同捜査本部扱いとなったのは
この夕方から。
夕方以前のマイナスは全て板橋署に回しても問題はない。
至極当然の事。
「取り敢えずは順風満帆かな」と含み笑い。
 新宿署に置かれた捜査本部の一角を簡易間仕切りし、
そこには篠沢専用のスペースが設けられていた。
人気が消えた深夜、篠沢はデスクについた。
PC端末のスイッチを入れ、認証を済ませてメール・チェック。
班の捜査員達から報告が上がっていた。
目新しい報告はない。
 ただ一つだけ、「ほう」と思ったのがあった。
救急車で運ばれた小野田老人について行った刑事から、
「脳溢血による昏睡が続いています」と。
 気の毒には思わない。
昏睡が死ぬまで続けば、二度と事情聴取される事もないだろう。
そうなると個人の名誉を守れるし、会社、遺族にも迷惑がかからない。
 曙橋分室資料班が監修をしている裏データーに接続した。
頼んでおいた分析が終了したのだろう。
新しいファイルが置いてあった。
 失踪した住職、水谷武国。
第一の被害者、西木正夫。
第二の被害者、北尾茂。
三人の携帯電話の、この二年間の位置情報だ。
 携帯は常に位置情報を五分置きに発信している。
そしてそれは位置情報契約とは無関係に通信会社のサーバーに記録される。
携帯電話の五分刻みの足跡がだ。
それをシステムの裏口から侵入し、入手に成功したらしい。
曙橋分室資料班は膨大で複雑なデーターから必要な情報だけを取りだし、
きちんと整理分析していた。
 それによると、
寺から、間違いなく『風神の剣』だろうが、盗まれたと思える頃に、
西木と北尾の二人が寺を数度訪れていた事が記録として残っていた。
 北尾と水谷の足跡が同時間同地点で交差していたのは、
『風神の剣』の商談と判断していいだろう。
それが三度あった。
 その後で、周辺に居ただけの西木が、深夜の寺内に足跡を残していた。
おそらく北尾が水谷に商談を断られたので、
最後の手段として西木が寺に侵入し、『風神の剣』を盗んだのであろう。
 一方の住職、水谷は盗難が発覚した後、上京していた。
都内のホテルを足場に移動していたのだが、ほどなくして、
行くはずのない房総沖での足跡を最後に、消息を絶っていた。
「殺されて沈められた」としか理解出来ない。
 表には出せないファイルだが、事件の流れが分かる。
気になるのは、長い事消息不明であった『風神の剣』の隠し場所を、
どうやって北尾、西木の二人が突き止めたのか。




「O111」のユッケに続いて、今度は山形の団子店での「O157」。
幸い山形は死亡者が出ていません。
よかったですね。
 季節柄、食中毒は避けられないようで・・・。
私もありました。
都内だと昼食を摂る場所が少ないので、店が満杯という時は、
道路で出張販売をしている弁当を買う事があります。
ある日、遅く買った弁当が痛んでいたようで、その夜、吐き続けました。
一晩中、嘔吐、嘔吐の世界・・・あっあぁー。
気付くと朝、喉を酷使したので声が出ませんでした。
なっ、情けない。




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