金色銀色茜色

生煮えの文章でゴメンナサイ。

(注)文字サイズ変更が左下にあります。

昨日今日明日あさって。(幼年学校)72

2018-09-30 06:33:15 | Weblog
 気付くと周辺の魔素の量が増えていた。
気のせいではない。
明らかに増えていた。
魔素測定器でもあるのなら確と反応をする筈だ。
たぶん、穴から消えた土が魔素に変換された・・・のだろう。
そうとしか考えられない。
すると疑問に答えるかのように、
「周辺の魔素が急激に増えています」脳内モニターに文字。
鑑定君同様に探知君も精度が上がっていた。
 穴にゴブリンの死骸が次々と投げ落とされた。
シビルの指示で枯れ草を切り取り、穴に束ねて投げ入れた。
死骸が見えなくなるまで枯れ草で覆った。
 ルースの火の魔法の出番。着火。
「火を点けるから気を付けてね」
 穴に大きな火種が落とされた。
点火するには充分過ぎた。
あっという間に枯れ草に火が走った。
炎に包まれて焼ける死骸。
時折、生きているかのように手足が炎から突き出た。
臭い。
焼き肉とは違う臭い。
吐き気をもたらす嫌な臭いが辺り一帯に漂った。
「なにこれ」
「うっ、臭い」
「吐き気がする」
 女児達が逃げるように風上へ移動した。
ところが、熱気が臭いを四方へ拡散するので、逃げ切れない。
ついに女児達は音を上げた。
一人が嘔吐を始めると、釣られて他の二人も嘔吐。
家庭教師達は違った。
慣れているのか、ただ顔を顰め、鼻や口をハンカチで覆うだけ。
 焼け具合を見たルースが大きく頷いた。
完全に焼けるのを待つ必要はないし、枯れ草もそこまでの量はない。
臭いを避けるように横を向いてシビルに言う。
「これくらいよね」
 再度シビルの土の魔法。埋め戻し。
呪文を唱えた。
今度は魔方陣は現れない。
簡潔な呪文一つで穴が埋め戻されて行く。
同時に増えていた魔素が急激に減って行く。
この明らかな関連性・・・。
 穴が整地の必要がないくらい平均的に埋め戻された。
ちょっとだけ盛り上がっているが、
誰もここに死骸が埋められている、とは気付かないだろう。
・・・なんて便利な魔法。土の魔法。
土木工事には最適だ。
「ねえダン君」
 俺に声がかけられた。
シンシアだ。
「はい、何ですか」
「覚えておいて。
冒険者のランクがEに上がったらなんだけど、
ゴブリンの群と遭遇戦になったら必ず一体は逃がすようにするのよ。
尾行して集落を突き止め、それをギルドに報告すると報酬が出るわ。
かなりの大金よ」
「報告しないで集落を討伐したら」
「それは止めなさい。
ゴブリンの集落は堅固な造りになっているから無理攻めは禁物よ。
それに拉致された女の子達がいるかも知れないでしょう。
巻き添えにしちゃったら元も子もないわ。
だからギルドに報告するのが最善なの。
後の難しい事は大人の冒険者達に任せなさい」
 拉致された女の子・・・、助けた後で生じるケア・・・、
確かに俺達では無理だ。
「分かりました。
難しそうな時はギルドに相談します。
・・・。
ところで話は変わりますが、
依頼を受けた警護は何時まで続くんですか」
「お邪魔かしら」
「いいえ。
できれば今みたいにアドバイスして頂ければ嬉しいんですが」
「そう、よかった。
依頼は三ヶ月よ。
その間に気付いた事があったら、その都度、声を掛けるようにするわ」
 俺は頷き、女子全員に声を掛けた。
「みんな、付いて来て下さい」
 ゴブリンの角や魔卵を纏めた風呂敷の方へ誘導した。
誰も疑問を挟まずに俺に付いて来た。
 時間の経過と共に角や魔卵に付いていた血が固まりかけていた。
風呂敷自体も血でゴワゴワ感。
俺はそれを指差した。
「これからする事をよく見て」
 初めて人に披露する魔法、ライトクリーン。
陽光の下でも光の魔法は存在を露わにした。
風呂敷全体が淡い光に覆われた。
ゆっくりと血汚れが消えて行く。
角や魔卵だけでなく風呂敷までも新品同様、綺麗になった。
 女子達が俺を問い詰めた。
「魔法・・・」
「それも光の魔法じゃないの・・・」
「魔法が使えるなんて聞いてなかったわ・・・」
「無詠唱よね・・・」等々。
 俺は質問に答えるつもりはなかった。
口を閉じたまま首を横に振り、みんなの様子を見た。
女児達は血と嘔吐で見苦しいくらいに汚れていた。
家庭教師達も多少だが血で汚れていた。
「みんな綺麗にするよ。動かないでね」
 返事も待たずにライトクリーンを連発した。
ひとり一人が淡い光に包まれて行く。
事態に驚く顔、顔。
それでも抗議する者はいない。
 自分で経験していても他人への行使は初めて。
なので、鑑定君で様子見しながら、
汚れの度合いに応じてEPを微調整。
ついでに、石鹸の香りをイメージし、おまけで付けた。
思いの外、余裕で出来た。
 魔法が解けると辺りが牛乳石鹸の香りで包まれた。
事態の推移に付いて行けないのか、
みんなは固まったままで言葉がない。
 しばらくしてシビルが口を開いた。
「これは光の魔法よね」
 俺は冒険者にとっての決まり文句を口にした。
「冒険者にとってスキルは秘密です」
 スキルは冒険者の命綱。
隠し技扱いにして危機を脱出した逸話は多い。
長年パーティを組んでいる仲間だけでなく、
ギルドに秘密にしていても問題はない。
武技スキルも同様の扱いになっていて、
多くの冒険者が何らかのスキルを隠していた。
「そうよね。悪かったわね」とシビルは言いながら、
「でも、この石鹸の香りは何なの」と聞いて来た。
「悪戯のようなもので、おまけです」
「おまけね。街で売ってる石鹸より高級な香りなんだけど」
「嫌いですか」
「嫌いじゃないわ。毎日でも掛けて欲しいわ。
・・・。
でも、魔法で香り付けが出来たの」
「出来ます。香りの付け方は秘密ですけど」
 呆れ顔のシビル。
代わってキャロルが尋ねて来た。
「これからは採取の日は掛けてくれるのよね」
「・・・、汚れが酷かったらね。
でも、お願いだから、僕のスキルに関しては秘密にして。
学校では、けっして吹聴しちゃ駄目だよ」
「分かった。喋らない」
「約束を破ったら石鹸の香りじゃなく、ウンコの臭いを付けるからね」



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昨日今日明日あさって。(幼年学校)71

2018-09-23 07:47:12 | Weblog
 女児三人が落ち着いた頃を見計らい、代表してシンシアが俺に言う。
「ごめんなさいね、駆け付けるのが遅くなってしまって」
「謝られても困るよ。
まず、謝られる理由からして分からない」
「そうよね。
・・・。
私達三人はそれぞれのお店の御主人に、
お嬢さま方の警護を依頼されていたの。
なのに、駆け付けるのが遅くなってしまった。失敗ね」
 彼女達は冒険者として冒険者ギルドに所属していた。
ただし魔物討伐系の仕事は行わず、
ひたすら街中の仕事に従事する冒険者であった。
家庭教師や商店の帳簿整理、国に提出する書類の仕上げ等々、
仕事には事欠かなかった。
「魔物の討伐は苦手と聞いていました。
それでも引き受けたんですか」
 シンシアに代わってルースが答えた。
「苦手なんだけど、戦えない分けじゃないのよ。
これでも魔法学園の歴とした卒業生。
卒業試験の魔物討伐は立派に遣り遂げたわ。
ただ、野営が嫌いなだけ。
どう、ご希望なら私のファイアボールをお見舞いしてして上げようか」
 彼女達は魔法学園の同期生であった。
魔物討伐を終えて卒業すると三人揃って国の招聘に応じた。
当然、魔法使いとして国軍に配属された。
当初から士官待遇なので文句はなかった。
が、年を経るに従い、様々な不満が溜まってきた。
その最大なのは人事面。
足利氏の長期支配の弊害か、依怙贔屓・汚職が跋扈していた。
貴族の子弟だと昇進が早い、金銭で階級が売買されている等々。
我慢の末、三人は一緒に退役し、現在に至っていた。
「せっかくですけど、ファイアボールはご遠慮申し上げます」
 するとシビルが笑って言う。
「あらルース、振られちゃったのね。
それじゃダン君、私のアースボールなんてどうかしら」
「それも結構です。
ねえ、仕事しませんか」みんなを見回した。
「仕事・・・。終わっているわよね」シンシアが応じた。
「まだ息してる奴がいます。
虫の息ですから危険はないでしょう。
それを二人一組で回って仕留めて下さい。
ついでに討伐証明部位を刈り取って下さい。
角は二本で一組扱いですよ。
・・・。
俺は周辺の警戒を続けます」
 ようく見ると、のた打ちまわるゴブリンが見受けられた。
これは俺の弓の命中精度の問題点だろう。
「そういうことか。ゴブリンは常時討伐扱いだったわね。
分かった」シンシア。
 話し合って、組み合わせは師弟コンビ、と言うことになった。
勿論、家庭教師と担当する教え子だ。
三組が散開してゴブリンを仕留めて回る。
結構な数、悲鳴が上がった。
ついでに討伐証明部位の刈り取りの声。
こちらでは女児達の悲鳴が上がった。
ゴブリンの討伐部位は角なので、頭部から切り取る際、
手際が悪いと皮膚も一緒に削り取る事になるので悲惨なことに・・・。
 俺は警戒しながらゴブリンを見下ろした。
他よりも一回り大きい固体だ。
たぶん、ゴブリンリーダーだろう。
こいつの角は俺が切り取らないと立場上、拙いだろう。
弓を虚空に仕舞い、換わりに短剣を取り出した。
女児達が知れば卑怯呼ばわりされるかもしれないが、
俺はEPを付与することにした。
身体強化。
他人の魔法を分析して取得したものではなく、
田舎で行っていた気の精錬を応用したものだ。
剛と柔を意識して全身にEPを巡らした。
実感、全身の筋肉にピリッと痛みが走った。
「新たなスキルを獲得しました。身体強化☆」脳内モニターに文字。
ついでに短剣にも、ちょっとだけEPを付与。
そして短剣を振り下ろした。
サクッサクッ。
「魔卵を持ってます」脳内モニターに文字。
鑑定君の精度が上がった。
ゴブリンをスキャンした画面に切り替わった。
内臓の端にくっついていた。
切り開いて取り出すしかない。
腹部に刃先を突っ込んだ。
ズブッ。
 俺は張ったままの水の盾に気付いた。
ウォーターシールドを頭の高さに張ったままだった。
意外と長持ちするではないか。
魔法使い三人の指摘がないことから、
俺のEPの方が高位にある、と理解した。
慌てる事でもないが解除。
途端、消える手応え。
 疲れたような表情で女児達が戻ってきた。
両手で持ちきれないのか、討伐部位の角を胸元に抱えていた。
手袋や胴当てが血で汚れているが、慰めの言葉は掛けない。
これが冒険者の仕事なんだから・・・。
俺は虚空から風呂敷を取り出し、それに刈り取った角を置かせた。
17匹だから角は34本。
魔卵が三個。
小さなゴブリンにしては、これは大収穫と言うべきだろう。
なにしろゴブリンは肉質が悪く、他の部位も低評価。まさしくFランク。
売れるのは角と魔卵の二つだけときた。
ところが、その二つが調剤の素材として高評価、
高値で買い取って貰えるのだ。
「さあ、最後の仕事だよ。頑張ろう」
 俺の言葉に家庭教師の三人が頷くが、女児三人は不審そうな顔。
それを見て取ったシビルが説明した。
「平地で魔物を討伐したら穴に埋める決まりなの。
血の臭いに誘われて大量に魔物が集まる懸念があるからね。
ただし、山や森で討伐したら、そのまま置き捨てにしても問題ないわ。
穴掘りしている最中に魔物に襲われちゃ、元も子もないでしょう」
 土の魔法スキルのあるシビルは残って、近くで穴掘り。
俺は警戒続行。
他の五人でゴブリン運搬と分かれた。
 俺は不満そうなキャロルに約束した。
「これが終われば今日は、じゃがバターだ。残ってればだが」
 茹でたジャガイモにバターを乗せたものだが、
バターは入手困難な一品。
平民には贅沢品。
それでも常に入手しているスイーツ店があった。
途端に女児達の動きが良くなった。
 少し離れた所でシビルが呪文を唱え始めた。
土の魔法。穴掘り。
17体もあるので、それ相応の大きさの穴が必要と考えてのことだろう。
丁寧な仕事ぶり。
小さいが魔方陣まで足下に現れた。
次の瞬間、地面の雑草ごと土が除去され、広くて深い穴が出現した。
「土の魔法の分析が終わりました。
EPで再現可能です」脳内モニターに文字。




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昨日今日明日あさって。(幼年学校)70

2018-09-16 07:42:01 | Weblog
 俺の左手は愛用のM字型の複合弓を掴んでいたが、
右手に矢はなかった。
慌てて取り出しても、完全に手遅れ。
半拍遅れで斬られてしまう。
となると、打つ手は限られた。
取り敢えずは防御。
水の魔法。
風呂で散々練習した水の盾、ウォーターシールドを発動した。
初めての実戦投入だが、造るのには自信があった。
問題は強度のみ。
万一に備えて盾一枚につきEPから3を投入。
強度に2、弾力性に1。
それを三枚重ねして、9を消費した。
 前はイメージに加えて掌の所作でEPを操作していたが、
今は掌を省いてイメージのみ。
探知君や鑑定君と同じ様に自在に操作できた。
 ゴブリンとの間に瞬時にウォーターシールドを置いた。
水の盾だからと言っても物は魔法、その姿形は人の目には見えない。
勿論、ゴブリンにも。
空間が微かに歪む程度。
手応えは当人にしか伝わらない。
 長剣が迫って来た。
俺との中間で、「パコーン」と乾いた軽い音。
長剣が大きく弾き返された。
 ウォーターシールド一枚目を鑑定した。
激しい打撃を受けた筈なのに、疵一つとしてない。
 ゴブリンが想定外の出来事にバランスを崩して着地に失敗。
転倒して長剣を手放した。
それでも起き上がると、直ぐに態勢を立て直した。
歯を剥いて威嚇しながら長剣を拾い上げた。
 ゴブリンには俺しか見えていないらしい。
生憎、馬止めの盾に囲まれた内側には女児三人もいた。
その三人が黙って見ている分けがない。
反撃。
最初に槍が突き出された。
「ウッシャア」モニカだ。
背中から入った穂先が腹から顔を覗かせた。
驚愕の表情でゴブリンが穂先を掴む。
 短剣が叩き込まれた。
「エイヤッ」マーリンだ。
問答無用で首を斬り落とそうとした。
一撃目は失敗した。
マーリンは諦めない。
二度三度と斬り付けた。
四散する血飛沫。
すでにゴブリンは意識を手放していた。
鬼の如き表情のマーリン、四撃目で首を落とした。
 出番のなくなったキャロルは新たな敵影を求めた。
盾と盾の隙間から外を警戒した。
見つけた。
最後の一匹。
こちらに背を向け、50メートルほど先を逃げて行く。
さらに先の藪を目指している気配。
キャロルは弓を構えた。
ジッと構えていては、藪に飛び込まれてしまう。
矢を番えたと思いきや、簡単に放った。
無造作に放たれた矢が緩い放物線を描きながら、
物の見事に相手の背中に喰い込む。
藪に首だけ突っ込むゴブリン。
 女児三人は精神的にも肉体的にも疲れている筈なのに、
弱音は一切吐かない。
無駄口も利かない。
黙ってそれぞれの持ち場に戻り、警戒を維持し続けた。
 俺は改めて三人に感心した。
意識が高い。
とても平民の子とは思えない。
 俺は探知君で周辺を探った。
境目辺りに魔物や獣はいるが、こちらに向かって来る奴はいない。
と、俺達の後方に緑色の点滅、人。
一人、二人、三人。
しばらく人の気配が途絶えていたのだが、ここにきて人とは有り難い。
人の気配が増えれば魔物も接近自体を控えるだろう。
その三人なんだが、何だか・・・走って来る様子。
何かに追われている気配はない。
何を急いでいるのだろう。
遠目にだが、三人の様子が見て取れた。
魔法使いの杖を肩に担ぎ、血相を変え、此方に駆けて来る。
俺は脳内モニターにズームアップした。
お揃いの灰色のローブを着用した成人女性が三人。
見覚えがある顔ばかり。
シンシアにルース、シビル。
キャロル達の家庭教師三人ではないか。
それも杖から分かるように、魔法を教える家庭教師。
 都合良く近くに居合わせ、
此方の様子が分かって助けに駆け付けたのか・・・。
そんなに都合の良い話しはないだろう。
 俺は女児三人に尋ねた。
「後ろを見て。
ようく見て。
此方に駆け付けて来るのは三人に付けられた家庭教師だ。
どうしてこの辺りにいるんだろう」
 三人からの答えは返ってこない。
それでも、それぞれが喜んでいるのは分かった。
家庭教師三人が近付いて来るのに従い、
女児三人の身体から力が抜けて行くのが丸分かり。
「迎えに出ても良いよ」
 俺の言葉で女児三人が武器を手放し、
馬止めの盾の防御陣から抜け出した。
それぞれが自分の家庭教師の元に駆けて行く。
キャロルはシンシア。
モニカはルース。
マーリンはシビル。
それぞれの胸元に飛び込む。
 シンシア達は魔法使い。
シンシアが持つスキルは水の魔法。
ルースは火の魔法。
シビルは土の魔法。
 キャロル達三人が上の学校に進むには魔法のスキルが有利とか。
そこで魔力の少ない三人が取ったのは魔道具で魔力を掻き集め、
スキルを得る方法。
彼女等は生まれながらの先天的な魔法使いではないので、
後天的な、所謂、野良の魔法使いに成る道を選んだ。
 幼年学校に進むには一芸試験が有利として、
道場に通って武芸に励んだ三人。
その上に進むには魔法スキルが有利と判断しての家庭教師。
実に計算高い。
何時までも彼女達とは仲間でありたいもの。
それぞれの家庭教師の胸元からすすり泣きが聞こえるが、
聞こえなかったことにしよう。




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昨日今日明日あさって。(幼年学校)69

2018-09-09 07:29:10 | Weblog
 冒険者パーティの根底にあるのは信頼。
信頼なくしては何も成り立たない。
俺は右手で方向を指し示し、
「ゴブリン襲来。数は十七匹」小声で状況を伝えた。
そんな俺の回りに仲間達が無言で集まって来た。
顔色こそ悪いが誰一人逃げようとはしない。
無駄口も利かない。
顔を上げて俺の次の指示を待つ。
「僕が正面を受け持つ。マーリンは右警戒。モニカは左警戒。
キャロルは背後に回り込んで来た奴を頼む」
 俺はマジックアイテムから取り出すと見せ掛け、
虚空スキル・収納庫から大型の盾を矢継ぎ早に取り出した。
八つ。
裏側の支柱二本でもって地面に縦置きするタイプ。
通常は、馬止めの盾、と呼ばれている頑丈な物。
それで俺達の周囲を囲った。
盾と盾の間に隙間はあるが、
ゴブリンの侵入を許すほどの広さではない。
それは弓や槍で迎撃する為のスペースで何の問題もない。
 今の俺は弓士スキルに加えて念力付加で射程は200メートルほど。
人を相手の念力付与には忸怩たるものがあるが、
ゴブリンであれば何の問題もないだろう。
彼女達の安全の為にもEPをフル活用するつもりでいた。
M字型の複合弓を左手に持ってゴブリンの襲来を待ち受けた。
 俺達の周囲の雑草の丈は低い。
足首が隠れるほど。
薬草の自生地なので、手入れが行き届いているのだろう。
けれどゴブリンが来る方向は違う。
前方の山の麓から手前の100メートル辺りまでは、
人の手が入っていないようで、雑草の丈が伸び放題。
蔦も絡み放題。
こんもりした藪も点在し、それらが視界を遮っていた。
 枯れ草の隙間から鳥達が一斉に飛び立った。
400。
300。
200を過ぎた辺りだった。
草陰に隠れながら足音を消して忍び寄って来た群の動きが豹変した。
一斉に駆け出した。
丈の高い草を掻き分けながら猛進して来た。
真っ直ぐに突っ込んで来る、と思いきや違った。
途中で変化した。
左右に大きく展開しながら、こちらを囲む態勢をとった。
武官タイプの個体が率いているらしい。
 半数が人間から奪った武器を持っていた。
槍、斧、長剣、短剣。
弓はいない。
残りは長い棒。
気勢を上げようと何匹かが雄叫び。
自分達の方が多勢と分かっているのか、動きに余裕が見られた。
 俺は女児三人を見渡した。
相変わらず顔色は悪いが、頑張って持ち場に付いていた。
彼女達は魔物との戦いは初めてではない。
カールの指導下で二度ほど遭遇していた。
今回が三度目。
カール抜きの初めて遭遇戦になっただけ。
俺は迎撃の前に三人に声を掛けた。
「僕達は一人じゃない、四人だ。大丈夫、勝つ。
キャロル」
「おう、私も大丈夫」得手の弓を掲げるが、声は上擦っていた。
「マーリン」
「おう、任せて」小刻みに足を振るわせながら、短剣を振り上げた。
「モニカ」
「おう、ぐさっと突き殺すわ」乾いた声、頭上で槍を振り回した。
 俺は探知君を活用した。
最接近している敵から順番に脳内モニターにズームアップして行く。
そして虚空スキル・収納庫から間断なく矢を取り出すイメージ。
的確に矢を矢継ぎ早に、右に左に放った。
硬い外皮と剛毛に覆われている、と聞いていたが、所詮はゴブリン。
念力付与の効果もあり、深々と射貫いて行く。
 その気になれば十七匹全部の個体を射殺せるが、手を抜いた。
仲間の仕事を奪う気はない。
この先、学校に通う五年間、パーティを組み続けるので、
彼女達には経験を積み上げてランクアップして貰う必要があるのだ。
万一に備えて、探知君で周辺を警戒しながら、仕事振りを見守った。
 キャロルは後方に回り込んだゴブリンを見逃さない。
盾と盾の隙間からジッと見張る。
待ち受け時間は長いようで短い。
あっという間に彼女の射程。
手にしていた二本の矢を手早く放った。
ゴブリンの身体の正面に二本とも当たった。
威力は女児なりにだが、動きを封じることには成功した。
矢筒から次の二本を掴み取り、動けない奴を容赦なく射る。
 一匹が別の隙間から忍び込もうとしていた。
それにマーリンが気付いた。
声を上げるより早く、跳ぶようにして駆けた。
短剣を振り上げ、内側に伸ばされた腕を叩くように切り落とした。
噴き出す血飛沫。
マーリンも容赦しない。
血飛沫を浴びながら、隙間から短剣を突きだして仕留めた。
 別の箇所では一匹が盾に体当たりして来た。
馬止めの盾なので、ゴブリン程度で倒せる筈がない。
それでも諦めない。
二度目の体当たり。
盾と盾の隙間から槍がスルリと突き出された。
「ウッシャア」モニカの雄叫び。
穂先がゴブリンの首を貫いた。
 残ったゴブリンは二匹。
そのうちの一匹は他とは違い防具を身に着けていた。
古びた革の兜に胴巻き。
奴は手前で足を止めた。
俺と視線が絡んだ。
憎々しげに睨み付けて来るゴブリン。
その姿形に違和感・・・。
他のゴブリンに比べて一回り大きい。
どうやら別の種の魔物の血を濃く受け継いでいるのだろう。
群を率いている個体のようだ。
 奴が不意を突いて来た。
俺の前の盾を蹴るようにして駆け上がって来た。
頑丈な盾なので壊れることも、倒れることもなかった。
俺を見下ろして邪悪な笑み。
次の瞬間、長剣を両手で大きく振り上げた。
こちら側に飛び降りながら、勢いに任せて振り下ろす。





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昨日今日明日あさって。(幼年学校)68

2018-09-02 07:46:39 | Weblog
 国都は東方・北方・西方を鬱蒼とした深い山々、
南は巨椋湖を中心にした湿地帯、自然の要害で塞がれていた。
だからと言って孤立している分けではない。
幾つもの街道が整備され、諸方に繋がっていた。
東方は北海道から西方は九州の先のオアシス都市・琉球まで。
 国都と要害の間には広大な平地が広がり、
農村や各種の施設等が点在していた。
俺達が選んだ枝道の先には冒険者ギルドの施設があった。
馬の放牧地だ。
掘り割りと外壁で囲われているので内部は窺いようがないが、
馬の嘶きが頻りに聞こえて来るので、それと分かった。
 俺達は目立つ。
お揃いのカーキ色のローブ姿の四人組。
どう見ても魔法使い気取りの児童だ。
擦れ違う大人達に心配された。
「山に入ってはいけないよ」
「魔物を見たら、急いで逃げるんだよ」等々。
その度に俺達は、「平地で薬草採取するだけだよ」と弁解した。
 人の気配が切れたので俺達は木立の陰に入った。
それぞれが手早くローブを脱ぐ。
俺がローブの下に袈裟掛けしている草臥れたズタ袋は目立たないが、
キャロル達のマジックアイテムのズタ袋は目立つ。
真新しいのだ。高価な品とも分かる。
分不相応。新人冒険者には相応しくない。
稼ぎからすれば、ランク的にはDクラスから持てる装備品だ。
三人揃って裕福な商家の子なので致し方ないのだろうが、
とにかく悪目立ちする。
奪ってくれ、と言っているかのようだ。
 俺達はマジックアイテムから装備する物を取り出した。
児童にとって金属の防具では動きにくいので、全て革製品であった。
帽子、手袋、胴当て、肘当て、膝当て、長靴。
剣帯には短剣、採取用のナイフ。
 俺は虚空スキル・収納庫の使用に慣れてきた。
手にするイメージだけ。
左手にM字型の複合弓、とイメージすればそれが左手に。
右手に矢、とイメージすればそれは右手に。
瞬時に取り出せた。
 装備を終えた俺達は行動を開始した。
勘働きに優れているから、と言う理由付けで俺が斥候。
次は薬草探索が役目のキャロル。
三番手は盾役のマーリン。
最後尾は後方の安全確認が任務のモニカ、槍役。
これはカールが考えたパーティ編成でもあった。
 冒険者パーティ「プリン・プリン」の初めてのお仕事が始まった。
薬草の採取。
Fクラスの冒険者にとっては常時依頼の美味しいお仕事。
これでポイントを稼げば、
通常は成人から一年の経験と実績ポイントが必要なのだが、
成人と同時にEクラスに昇格も出来た。
 俺はスキルの探知君と鑑定君をフル稼働させた。
脳内モニターを俯瞰の地形図に切り替えた。
多数の茶色い点滅。
方向から冒険者ギルトの放牧場の馬、と分かった。
緑色の点滅。
これは街道・脇街道・間道・枝道等を行き交っている者達。
怪しい点滅はなし。
 風に乗って遠くで争っている声が聞こえて来た。
風の吹く方向から斜め前方の山中。
暇なので、そちらに探知君を伸ばして見た。
すると入り乱れる緑色と茶色い点滅があった。
冒険者パーティと魔物の群が戦っている様子。
青色の点滅。
一人が魔法を発動した。
茶色の点滅が一つ消えた。
間を置いて緑色の点滅が一つ動きを止めた。
そして消えた。
 冒険者は基本、自己責任。
魔物との戦いに限らず、宝物探しも、護衛も・・・事故も自己責任。
俺はみんなには黙っていることにし、探知君を元に戻した。
 しばらく行くとキャロルが自生している薬草を見つけた。
広範囲に広がっていた。
俺が警戒に立ち、他の三人が採取に専念した。
採取した物を竹のバッグに入れ、マジックアイテムに収納。
これを何カ所かで繰り返した。
 思いの外、大量に薬草の採取が終わった。
帰ろうかな、と思った時だった。
こちらに向かって来る茶色の点滅の群を発見した。
密かに接近して来るではないか。
明らかに俺達を狙っていた。
奇襲の気配。
 同時に脳内モニターに文字が走った。
「魔物が接近して来ます。
ゴブリンの群です」
 鬼の種から枝分かれした魔物で、単体だとFクラスの魔物。
身長も児童か、と見間違えるほど小さいが腕力は大人を優に凌ぐ。
硬い外皮と剛毛に覆われ、額の左右には鋭い角を持っていた。
単純なゴブリン語を使うが、長命なゴブリンは人の言葉も理解する。
人から奪った武器を器用に扱うので群れなすと侮れない。
群を率いる個体にもよるが、
群による狩りではD・Cクラスの力量を示すこともある、と言う。
 ゴブリンの集落に雌はいない。
雌が全く産まれないのだ。
それで雌は外から強奪拉致し、腹を借りて集落を維持していた。
雑食だからでもないだろうが、雌の種にも拘らなかった。
人でも他の魔物の雌でも構わなかった。
獣姦が習性で、毛色こそ違うが常に雄のみが産まれてきた。
これが原因でゴブリンは他の魔物にも嫌われ、
発見され次第、襲撃される側に立たされていた。
常在戦場、ゴブリンを現すに相応しい言葉だ。
 俺は緊張した。
傍には女児三人がいた。
俺が守るべき対象だ。




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