気付くと周辺の魔素の量が増えていた。
気のせいではない。
明らかに増えていた。
魔素測定器でもあるのなら確と反応をする筈だ。
たぶん、穴から消えた土が魔素に変換された・・・のだろう。
そうとしか考えられない。
すると疑問に答えるかのように、
「周辺の魔素が急激に増えています」脳内モニターに文字。
鑑定君同様に探知君も精度が上がっていた。
穴にゴブリンの死骸が次々と投げ落とされた。
シビルの指示で枯れ草を切り取り、穴に束ねて投げ入れた。
死骸が見えなくなるまで枯れ草で覆った。
ルースの火の魔法の出番。着火。
「火を点けるから気を付けてね」
穴に大きな火種が落とされた。
点火するには充分過ぎた。
あっという間に枯れ草に火が走った。
炎に包まれて焼ける死骸。
時折、生きているかのように手足が炎から突き出た。
臭い。
焼き肉とは違う臭い。
吐き気をもたらす嫌な臭いが辺り一帯に漂った。
「なにこれ」
「うっ、臭い」
「吐き気がする」
女児達が逃げるように風上へ移動した。
ところが、熱気が臭いを四方へ拡散するので、逃げ切れない。
ついに女児達は音を上げた。
一人が嘔吐を始めると、釣られて他の二人も嘔吐。
家庭教師達は違った。
慣れているのか、ただ顔を顰め、鼻や口をハンカチで覆うだけ。
焼け具合を見たルースが大きく頷いた。
完全に焼けるのを待つ必要はないし、枯れ草もそこまでの量はない。
臭いを避けるように横を向いてシビルに言う。
「これくらいよね」
再度シビルの土の魔法。埋め戻し。
呪文を唱えた。
今度は魔方陣は現れない。
簡潔な呪文一つで穴が埋め戻されて行く。
同時に増えていた魔素が急激に減って行く。
この明らかな関連性・・・。
穴が整地の必要がないくらい平均的に埋め戻された。
ちょっとだけ盛り上がっているが、
誰もここに死骸が埋められている、とは気付かないだろう。
・・・なんて便利な魔法。土の魔法。
土木工事には最適だ。
「ねえダン君」
俺に声がかけられた。
シンシアだ。
「はい、何ですか」
「覚えておいて。
冒険者のランクがEに上がったらなんだけど、
ゴブリンの群と遭遇戦になったら必ず一体は逃がすようにするのよ。
尾行して集落を突き止め、それをギルドに報告すると報酬が出るわ。
かなりの大金よ」
「報告しないで集落を討伐したら」
「それは止めなさい。
ゴブリンの集落は堅固な造りになっているから無理攻めは禁物よ。
それに拉致された女の子達がいるかも知れないでしょう。
巻き添えにしちゃったら元も子もないわ。
だからギルドに報告するのが最善なの。
後の難しい事は大人の冒険者達に任せなさい」
拉致された女の子・・・、助けた後で生じるケア・・・、
確かに俺達では無理だ。
「分かりました。
難しそうな時はギルドに相談します。
・・・。
ところで話は変わりますが、
依頼を受けた警護は何時まで続くんですか」
「お邪魔かしら」
「いいえ。
できれば今みたいにアドバイスして頂ければ嬉しいんですが」
「そう、よかった。
依頼は三ヶ月よ。
その間に気付いた事があったら、その都度、声を掛けるようにするわ」
俺は頷き、女子全員に声を掛けた。
「みんな、付いて来て下さい」
ゴブリンの角や魔卵を纏めた風呂敷の方へ誘導した。
誰も疑問を挟まずに俺に付いて来た。
時間の経過と共に角や魔卵に付いていた血が固まりかけていた。
風呂敷自体も血でゴワゴワ感。
俺はそれを指差した。
「これからする事をよく見て」
初めて人に披露する魔法、ライトクリーン。
陽光の下でも光の魔法は存在を露わにした。
風呂敷全体が淡い光に覆われた。
ゆっくりと血汚れが消えて行く。
角や魔卵だけでなく風呂敷までも新品同様、綺麗になった。
女子達が俺を問い詰めた。
「魔法・・・」
「それも光の魔法じゃないの・・・」
「魔法が使えるなんて聞いてなかったわ・・・」
「無詠唱よね・・・」等々。
俺は質問に答えるつもりはなかった。
口を閉じたまま首を横に振り、みんなの様子を見た。
女児達は血と嘔吐で見苦しいくらいに汚れていた。
家庭教師達も多少だが血で汚れていた。
「みんな綺麗にするよ。動かないでね」
返事も待たずにライトクリーンを連発した。
ひとり一人が淡い光に包まれて行く。
事態に驚く顔、顔。
それでも抗議する者はいない。
自分で経験していても他人への行使は初めて。
なので、鑑定君で様子見しながら、
汚れの度合いに応じてEPを微調整。
ついでに、石鹸の香りをイメージし、おまけで付けた。
思いの外、余裕で出来た。
魔法が解けると辺りが牛乳石鹸の香りで包まれた。
事態の推移に付いて行けないのか、
みんなは固まったままで言葉がない。
しばらくしてシビルが口を開いた。
「これは光の魔法よね」
俺は冒険者にとっての決まり文句を口にした。
「冒険者にとってスキルは秘密です」
スキルは冒険者の命綱。
隠し技扱いにして危機を脱出した逸話は多い。
長年パーティを組んでいる仲間だけでなく、
ギルドに秘密にしていても問題はない。
武技スキルも同様の扱いになっていて、
多くの冒険者が何らかのスキルを隠していた。
「そうよね。悪かったわね」とシビルは言いながら、
「でも、この石鹸の香りは何なの」と聞いて来た。
「悪戯のようなもので、おまけです」
「おまけね。街で売ってる石鹸より高級な香りなんだけど」
「嫌いですか」
「嫌いじゃないわ。毎日でも掛けて欲しいわ。
・・・。
でも、魔法で香り付けが出来たの」
「出来ます。香りの付け方は秘密ですけど」
呆れ顔のシビル。
代わってキャロルが尋ねて来た。
「これからは採取の日は掛けてくれるのよね」
「・・・、汚れが酷かったらね。
でも、お願いだから、僕のスキルに関しては秘密にして。
学校では、けっして吹聴しちゃ駄目だよ」
「分かった。喋らない」
「約束を破ったら石鹸の香りじゃなく、ウンコの臭いを付けるからね」
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気のせいではない。
明らかに増えていた。
魔素測定器でもあるのなら確と反応をする筈だ。
たぶん、穴から消えた土が魔素に変換された・・・のだろう。
そうとしか考えられない。
すると疑問に答えるかのように、
「周辺の魔素が急激に増えています」脳内モニターに文字。
鑑定君同様に探知君も精度が上がっていた。
穴にゴブリンの死骸が次々と投げ落とされた。
シビルの指示で枯れ草を切り取り、穴に束ねて投げ入れた。
死骸が見えなくなるまで枯れ草で覆った。
ルースの火の魔法の出番。着火。
「火を点けるから気を付けてね」
穴に大きな火種が落とされた。
点火するには充分過ぎた。
あっという間に枯れ草に火が走った。
炎に包まれて焼ける死骸。
時折、生きているかのように手足が炎から突き出た。
臭い。
焼き肉とは違う臭い。
吐き気をもたらす嫌な臭いが辺り一帯に漂った。
「なにこれ」
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「吐き気がする」
女児達が逃げるように風上へ移動した。
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ついに女児達は音を上げた。
一人が嘔吐を始めると、釣られて他の二人も嘔吐。
家庭教師達は違った。
慣れているのか、ただ顔を顰め、鼻や口をハンカチで覆うだけ。
焼け具合を見たルースが大きく頷いた。
完全に焼けるのを待つ必要はないし、枯れ草もそこまでの量はない。
臭いを避けるように横を向いてシビルに言う。
「これくらいよね」
再度シビルの土の魔法。埋め戻し。
呪文を唱えた。
今度は魔方陣は現れない。
簡潔な呪文一つで穴が埋め戻されて行く。
同時に増えていた魔素が急激に減って行く。
この明らかな関連性・・・。
穴が整地の必要がないくらい平均的に埋め戻された。
ちょっとだけ盛り上がっているが、
誰もここに死骸が埋められている、とは気付かないだろう。
・・・なんて便利な魔法。土の魔法。
土木工事には最適だ。
「ねえダン君」
俺に声がかけられた。
シンシアだ。
「はい、何ですか」
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冒険者のランクがEに上がったらなんだけど、
ゴブリンの群と遭遇戦になったら必ず一体は逃がすようにするのよ。
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「報告しないで集落を討伐したら」
「それは止めなさい。
ゴブリンの集落は堅固な造りになっているから無理攻めは禁物よ。
それに拉致された女の子達がいるかも知れないでしょう。
巻き添えにしちゃったら元も子もないわ。
だからギルドに報告するのが最善なの。
後の難しい事は大人の冒険者達に任せなさい」
拉致された女の子・・・、助けた後で生じるケア・・・、
確かに俺達では無理だ。
「分かりました。
難しそうな時はギルドに相談します。
・・・。
ところで話は変わりますが、
依頼を受けた警護は何時まで続くんですか」
「お邪魔かしら」
「いいえ。
できれば今みたいにアドバイスして頂ければ嬉しいんですが」
「そう、よかった。
依頼は三ヶ月よ。
その間に気付いた事があったら、その都度、声を掛けるようにするわ」
俺は頷き、女子全員に声を掛けた。
「みんな、付いて来て下さい」
ゴブリンの角や魔卵を纏めた風呂敷の方へ誘導した。
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時間の経過と共に角や魔卵に付いていた血が固まりかけていた。
風呂敷自体も血でゴワゴワ感。
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陽光の下でも光の魔法は存在を露わにした。
風呂敷全体が淡い光に覆われた。
ゆっくりと血汚れが消えて行く。
角や魔卵だけでなく風呂敷までも新品同様、綺麗になった。
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「魔法・・・」
「それも光の魔法じゃないの・・・」
「魔法が使えるなんて聞いてなかったわ・・・」
「無詠唱よね・・・」等々。
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女児達は血と嘔吐で見苦しいくらいに汚れていた。
家庭教師達も多少だが血で汚れていた。
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それでも抗議する者はいない。
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ついでに、石鹸の香りをイメージし、おまけで付けた。
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魔法が解けると辺りが牛乳石鹸の香りで包まれた。
事態の推移に付いて行けないのか、
みんなは固まったままで言葉がない。
しばらくしてシビルが口を開いた。
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俺は冒険者にとっての決まり文句を口にした。
「冒険者にとってスキルは秘密です」
スキルは冒険者の命綱。
隠し技扱いにして危機を脱出した逸話は多い。
長年パーティを組んでいる仲間だけでなく、
ギルドに秘密にしていても問題はない。
武技スキルも同様の扱いになっていて、
多くの冒険者が何らかのスキルを隠していた。
「そうよね。悪かったわね」とシビルは言いながら、
「でも、この石鹸の香りは何なの」と聞いて来た。
「悪戯のようなもので、おまけです」
「おまけね。街で売ってる石鹸より高級な香りなんだけど」
「嫌いですか」
「嫌いじゃないわ。毎日でも掛けて欲しいわ。
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でも、魔法で香り付けが出来たの」
「出来ます。香りの付け方は秘密ですけど」
呆れ顔のシビル。
代わってキャロルが尋ねて来た。
「これからは採取の日は掛けてくれるのよね」
「・・・、汚れが酷かったらね。
でも、お願いだから、僕のスキルに関しては秘密にして。
学校では、けっして吹聴しちゃ駄目だよ」
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